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うみねこのなく頃に 考察 境界より視やる

PCゲーム「うみねこのなく頃に」の個人的な考察ブログ。「キコニアのなく頃に」についてもガッツリやっている。


EP8の序盤を再読

 咲の画像を見ると、新キャラ、ウィッチ・オブ・ザ・ピースは、カケラではなく駒の魔女らしい。
 それだけでも察するが、ゲームで問うのは私はだぁれ? のみらしいので、まあ確定だな。
 駒とは言え、ご本人が直接現れるのか。
 我らの告白の次の物語で、ラストノートという題から、3つ目の物語についてが主題であるのはわかってはいたが、実に直截的だ。

 さて、EP8の再読をしよう。



 礼拝堂の縁寿と戦人。

「すぐに思い出すさ。…そして、縁寿にとっては12年ぶりの再会でも。……俺たちにとっては、しばらくぶりでしかないんだ。……みんな歓迎する。12年の、遠い未来からようやく帰ってきた縁寿を、みんな歓迎してくれる。」

 これは、黄金郷に迎え入れられる19人目の真里亞に重なる。
 12年を経ての帰郷。





 六軒島へ。

「おぉ、そして戦人か。……よく戻ってきたな、右代宮家に。……寂しかったぞ、この6年間…。」

「良いのだ……、良いのだ、戦人よ……。言いたいこともあろう、聞きたいこともあろう。……だが今はそれはなしだ。」

「よく、………右代宮家に戻ってきてくれたな……。……私は、……嬉しいぞ……。」

 どう解釈すべきだろうね。
 この金蔵を、この世界の主と見ると、それは19人目のこと。
 この戦人は、ヤスを認めて黄金郷に迎え入れたメタ戦人となるのかな。
 つまり、ゲームを開催した主と、そのために使われた駒の関係。
 戦人は何を知らされずに魔女のゲームに強制参加させられていたわけで、言いたいことは色々あるだろう。
 基本、主の頭の中の住人だから、その外には出られないし。
 出られるのは誰かに共有された時だけで、しかもそれはその誰かの頭の中に生まれる別人でしかないのだけど。

 あるいは、この戦人はヤスに重ね合わせているのかもしれない。
 蘇らせたヤスは、12年ぶりなのだから。


「……都会はうるさい。私の家族だけしかいない、静かな島が一番だ。私はここを気に入っている。」
「……私はもう、老いた。家族だけに囲まれて、静かに暮らしたい。……そして私は幸せ者だ。それを実現できる、この島があるのだから。」

 老いた、というのを八城の「老いた」という台詞と重ね合わせれば、これは八城の台詞と解釈可能。
 家族=自分の世界だけあればいいみないな心境なのかな。
 いや、あるいは、八城の中の右代宮真里亞が、なのかもしれないが。





 6歳の縁寿。

“いとこたちは、波打ち際を散歩しながら、色々と遊んだ。”
“波で研磨された、宝石のようなガラス石を探したり。それぞれの近況を語り合ったり、茶化したり。”
“砂に文字を書いてみたり。返す波を追ってみたり、寄せる波から逃げてみたり。”
“いとこだけの、楽しい時間が過ぎていった。”

 波打ち際に書くのは、夢。
 夢を消す波を追ったり逃げたりは、ゲームのこと。
 ガラス石は、カケラのこと。
 波で研磨は、世間で揉まれること。
 波で研磨された宝石のようなガラス石は、幾たびものゲームを潜り抜けてきた真実のこと。
 じゃないだろうか。
 つまり、カケラを集める遊びという比喩。


「このガラス石、早くママに見せてあげるの! 真里亞が優勝したってママに教えるの!」
「いっひっひ。俺が見つけたヤツを譲ったんだけどなー。」
「うー! 真里亞がもらったから、真里亞のものなの! だから真里亞が優勝なの! うーうーうー!!」

 戦人が集めたカケラを真里亞に譲ったことで、真里亞が優勝した。
 魔女のゲームの結果の比喩。


“金蔵の右代宮家復興を巡る剛腕の物語は、彼を厳格で恐ろしい人物であると修飾するには、充分なものだった。”
“それに、金蔵は投資家でもある。彼をより神秘的に見せる数々の伝説や武勇伝は、そのビジネスに有利に働いただろう。”
“……金蔵も、自分の存在感をより高めるため、望んで彼らの期待する人物像を演じたところも、あったかもしれない。”
“だから、世間が右代宮金蔵を語る時、それは厳格で短期で怒りっぽく。そうして気紛れで豪胆で理解し難い奇人であるかのように語られた…。”
「でもそれは、……祖父さまの外の顔だ。右代宮家で、親戚一同、水入らずで過ごす時の顔じゃない。」

 私は外の顔は金蔵(偽)で、内が嘉音(真)だと思っているが。
 まぁ、それは置いといて。
 世間が作り出した勝手なイメージを鵜呑みにするな、ということ。
 世間が決めたものが真実であるなら、自分の頭で考える必要なんてない。
 自分の信じる真実なんて、自分で決めればいい。
 それを全て自己の責任とできるなら。
 そう、自分のルールに従いながら、自分で勝手に、真実を生み出してしまえばいい。
 それこそが自分自身が生み出した、自分ための、自分だけのゲーム。


「だって、これはお兄ちゃんのゲーム、いえ、ゲーム盤じゃない!」
「…………………。」
「ベアトだのベルンだの! 何人もの魔女が、私の運命を嘲笑い、そのゲームで屈服させようとしてきたわ。でも、私は真実を求めている! 魔女たちのまやかしなんか通用しない! ……なるほどね、魔女たちめ。最後の刺客に、お兄ちゃんを送り込んできたってわけだわ。」
「……そうだな。……これは、俺のゲームだ。だから確かに、これは俺の物語であり、俺が紡いでいる。だからこそ、もしもお前が島に来ることが出来たならという、IFを混ぜることが出来る。」

 つまり、縁寿もまた自分のゲームをすればいいのだ。
 物語は自分で紡ぎ、生み出す。
 真実なんて探したって見つからない。
 誰も絶対の保証なんて与えられない。
 だから、自分が信じる真実は、自分で生み出していくしかない。
 自分で、自分の真実を紡ぎ出すゲーム。
 それを皆、自覚の有無にかかわらず、やっているのだ。
 魔女のゲームは、そのレクチャーだったと言ってもいい。







 黄金の返還。

「そなたも元気そうで何よりだ。余命幾ばくとは片腹痛いわ。」
「そなたに元気をわけてもらってるだけだ。書斎に戻れば、枯れ果てた年寄りが窓辺で呆けているだけよ。」
「そなたの死ぬ死ぬ詐欺にはもううんざりしている! もう諦め、百まで元気に生きると誓ってしまえぃ。」
「俺も、祖父さまには6年ぶりにあったけど、全然変わってねぇんで、驚いたもんな。」
「わはははは、戦人め。この6年で世辞まで学んだか! 残念だが、それは節穴というものよ。しっかりかっきり老いぼれておるわ。」
「金蔵が百歳になってピンピンしているのに、千円賭けるぞ。」
「あぁ、俺も。百歳になっても祖父さまは今と変わらないさ。」
「わっははっはっは! これ以上褒めても何も出ぬというのに!」


「ん? そりゃそうだな。何しろ10tもの黄金を、ぽんっと祖父さまに貸し出したんだからな。」
「そうだ。必ず返すと約束し、もう数十年も借りている。その恩は、もはや返しきれないほどだ。」



「無論だとも。三代にわたりベアトリーチェさんたちが気前よく貸してくれなかったら。右代宮家はとうに滅んでいましたとも。辣腕のお父さんとて、軍資金がなければ何も出来なかったのですから。」
「もはや、カネがカネを呼び、黄金の軍資金は静かに眠るのみだ。………蔵臼。私が何を話そうとしているか、わかるか。」
“その言葉の意味するところを、蔵臼は呼び出された時から、予感していた。”
“借りたものはいつか返す。その日が訪れたのだ。”

“かつて、鷲のように雄大に空を支配した右代宮家は、関東大震災をきっかけに滅びかけた。”
“鷲は片翼をもがれて地に這い、死にかけたのだ。”
“それを、黄金の魔女が黄金の奇跡によって救った。”
“黄金の魔女に守られながら、鷲は長い時間を経て傷を癒し。”
“ようやく、魔女のもとから巣立つ日が来た、ということなのだ……。”
「そなたの祖母より借り受けた黄金を全て。そなたに返還する。………蔵臼、異論はないな? 元より、あの黄金は右代宮家のものではないのだ。」

 傷付いた片翼の鷲とは、19人目のこと。
 借りた黄金とは、黄金の魔法のこと。
 19人目は黄金の魔法の力を借りて物語を紡ぎ、自身の謎を共に出し、その結果、ひとりの人間として認められた。
 つまり、自立できたのだ。

 そして、自立したからには、一人で歩いて行かねばならない。
 絡まり合った物語は、解けてそれぞれの物語を紡いでいく。


「主人は仮にも次期当主。お父様が一代にて当家を復興させたように。主人も一代で当家を反映させるでしょう。そしてそれは、主人と私で成し遂げることです。」
「うむぅ。よくぞ言った。その意気であるぞ。」
「……10tの黄金に未練はないというか。やれやれ、大したものよ。黄金の魔法が効かぬ相手には、魔女も形無しであるな。」

 次期当主夫妻は、19人目の子である19人目の物語と、それを共に生み出している読み手のことだろう。
 つまり、後は読み手がその物語を引き継ぎ紡いでいくのだ。


「そなたに黄金を返還する。だが、黄金の魔女ベアトリーチェが、右代宮家にとって最大の恩人であることは未来永劫変わらぬぞ。」
“黄金の魔女より貸し与えられた黄金を返還する。単純にして明快な話だった。”
“しかし、当の黄金の魔女は、少しだけ寂しげな表情を浮かべる。”

 ヤスのお陰で、19人目の真里亞の今がある。
 それは消えることのない永遠の絆だ。
 しかし、人がいつか死ぬように、物語にも終わりがある。
 19人目の物語には、19人目の物語の終わりが。
 ヤスの物語には、ヤスの物語の終わりが。
 それぞれにある。
 だから絡み合った物語を解き、ヤスの物語に終わりを。
 それが物語の書き手としての責務なのだろう。
 だからヤスという人生を書き切るのだ。


「妾の魔法で、右代宮家は蘇り、そして六軒島は生まれた。……その右代宮家が、もう妾の黄金の力には頼らぬという。妾の魔法から、巣立つということだ。」
「そうだな。……そういうことになるな。」
「妾は六軒島を、魔女の島と、妾の島と呼んできた。」
「そうだったな。」
「その六軒島が、妾に黄金を、魔法を返すという。………六軒島が、魔法から目覚める日が、来たということだ。」
「………………………。……そうだな。」

 六軒島という“世界”。
 その世界は満たされ、今巣立ち、羽ばたこうとしている。
 ヤスの虚偽の世界は、19人目の世界という卵を温める巣であったのだ。
 あるいは、その2つの物語が共に過ごす揺籃の世界だった。
 2つの物語は今目覚め、それぞれの世界に羽ばたいていく。

 魔法より目覚め、真実の姿を取り戻す。
 それは12時の鐘を聞いたシンデレラのように。
 19人目がヤスとなっていた時間は終わり。
 19人目に魔法を掛けたヤスこそ、真の魔女だったのだろう。


「最後のゲームと、わかってはいたさ。……しかし、こういう形ではあっても、それを切り出されると、………意外と堪えるものよ。」
「お前って、結構サッパリしてそうに見えて、未練タラタラなタイプなのな。」
「残忍で執拗なタイプは、大抵は寂しがり屋で未練がましいものよ。」
「そうだな。お前はそういうヤツだもんな。」
「…………妾と、そなたのためのゲームだった。」
「楽しかったぜ。お前が6年の間に、練りに練った、愉快なゲームだった…。」
「かつて妾はそれを、互いを苛む永遠の拷問と称したっけな。」
「……永遠が、永遠であると信じられる内が一番幸せなのさ。物事には、全て終わりがある。そしてそれを自覚しなければならない。」
「目を背けずに、な。」
「昇らぬ日はないように、沈まぬ日もねぇってことさ。」

 そう、何事にも終わりはある。
 永遠と信じた二人の物語にも。
 魔法は解かれ、黄金は返却され、玩具は玩具箱に仕舞われる。
 そして、真実は猫箱の中に。
 猫箱は無限を内包する。
 その中で、二人の真実は永遠となるのだ。


「……お館様は、人生を終えるという最後の仕事の準備を、お始めになったということでございます。」
「自分が死んだ後のことなんて、人は普通、考えないぜ…。……はー。やっぱ祖父さまはスケールがひとつ違うぜ。」
「今日は、右代宮家が黄金の魔女の庇護から飛び立つ、新しい飛翔の日なのでございます。」

「むしろ、大きな責任に奮い立たれるでよう。……留弗夫さまは島を出られ、大成し見事な成功を収められました。しかしそれは、お館様の財産によって支えられたものです。」
「……それが、唐突に遺産をドンと出され、これからはお前の力だけで頑張るのだぞとなるわけか。………へへ、かえってプレッシャーがあるかもなぁ。」
「ご兄弟の皆様は、お館様というあまりに偉大すぎる父親に、もう何十年も苦しんできました。……偉大すぎる親は、ただ存在するだけで、子には重石になるものなのです。」
「それが今夜。……本当の意味で、一人前になって巣立つってわけだ。」

 書き手が物語を書き終えた後の準備をしているということ。
 読み手が生み出した物語の飛翔の時。
 読み手を得て、一人前の物語となるのだ。


「銃を与えられ、復讐の仕方を習った少年兵は、それを生きる目的とします。いや、少し違う。それを、銃を撃つ理由にします。………しかし、復讐ってのは、終わりがない。いつしか、銃を撃つのに、理由がなくなってくるんです。」
「……どういう意味?」
「復讐のために、銃を撃っていた。それがやがて、理由もなく、銃を撃つようになるんです。」
「復讐を忘れてしまうということ?」
「出来もしない復讐に、やがて疲れ果て、その目的を忘れてしまうんです。そして、手元には銃しかない。やがてメシを食うために、銃を撃つようになる。」
「……復讐のために銃を取った少年兵は、やがて野盗か何かに成り果てるってこと?」
「何しろ、学校にも通わず、職も学ばせてもらわなかった連中です。」
“習ったのは、銃の撃ち方だけ。そして褒められたのは、相手を殺した時だけ。”
「やがて、自分の生きる目的は、復讐のためでなく、その手段のためだけに成り果てていく。……気の毒なことです。」

 生きるために物語を紡いできた。
 それが、物語を紡ぐために生きることになった。
 生み出した真実のためなら、自分の真実を殺すことも躊躇わない。
 なんて本末転倒。





 ハロウィンパーティ。

「戦人がデカく張る時は、役なしのことが多いと思ってたんだがなぁ…!」
「そう思わせるために、ここまで負けてきたんだぜぇ? 最後に勝つ為に負けを布石する男、右代宮戦人! いっひっひ!」

 EP4~7まで負けたふりをして、最後に勝つ布石をしていた。
 でもまあ、それを明かしてしまうと、ヤスの物語が台無し。
 書き手の目的は、生まれた物語たちが羽ばたいていくこと。
 そして、読み手の目的もある意味、自分が生み出した物語を羽ばたかせたいのだ。
 そこからすると、真相を明かすというのは、無粋の極みというもの。
 ということだろう。


「うー!! 真里亞知ってる! ハロウィンパーティー!」
「……ハロウィンパーティー?」
「きっひひひひひ! 真里亞だけ知ってて、縁寿は知らない。きっひひひひひ。」

 知っている者と、知らない者に分かれているよ、という示唆。


「やれやれ。セレモニーとは、金蔵も形式にこだわる男よ。」
「例の、黄金の返還式云々ってことなんだろ。右代宮家にとっては、一つの大きな節目なんだ。付き合ってやれよ。」
「ちと寂しい気持ちもあるがな。」
「右代宮家顧問錬金術師であることは、これからも変わらないさ。」

 この物語が終わっても、ヤスは19人目の真里亞と共に、色々な物語を紡いでいくのだろう。


「黄金の魔女ベアトリーチェは、名を受け継ぐことで、千年を永らえる魔女である。よって、彼女の子々孫々に至るまで、その全てがベアトリーチェであり、その全てが当家の顧問錬金術師なのである。」
「右代宮家子孫一同は、ベアトリーチェの恩義を永遠に讃え、子々孫々に永遠にそれを伝えるのだ。………ベアトリーチェは、未来永劫、右代宮家の恩人であり、尊い絆で結ばれた家族なのである。」
「………ご承認いただける方々は、拍手をもって承認をお願い致します。」
「ありがとう、諸君。………ベアトリーチェよ。そなたは右代宮家の一員だ。それは血より尊き絆によるものだ。」

 EP3で示された、黄金郷に黄金の魔女を迎える儀式。
 ヤスがいなければ、19人目の真里亞の物語はあんなにも豊かなものにはならなかったことだろう。
 まさしく恩人であり、尊い絆で結ばれた家族なのである。


「私はお前たちを厳しくも、常に見守ってきた。しかし今をもって、お前たちの父はそれをやめるのだ。………私は雲上から見守るかの如く、お前たちが飛翔するのを眺めているだろう。もはや、何の口出しもせぬ。……そなたたちの生きたいように生きるが良い。」

“……親族兄弟たちは、遺産を巡って、ギスギスといがみ合って来たのだ。”
“しかし今宵。……遺産は綺麗に分配され、彼ら全員の金策は解決された。”
“そうなればもう、兄弟同士、何もいがみ合う理由はないのだ。”
“むしろ、手を取り合い、ますますに互いを繁栄させていくべきなのだ。”

 4兄弟は、4つの物語。
 3つの物語、魔法説、ヤス、19人目。
 それから、それらが絡まる一なる執筆者の物語。
 これまでは、どの物語が認められるかで争ってきた。
 だが、それぞれが独立して読み手に認められてことで、争う必要がなくなった。
 それぞころか、それぞれの物語が絡み合うことで、物語は深みを増し、味わい深くなる。


“六軒島という、魔女の魔法で編まれた巣から、右代宮家の鷲たちが今宵、それぞれに旅立っていくのだ。……力強く、己の力で。
“金蔵は思う。”
“初めからこうしていればよかったのだ。”
“……遺産問題を、自らがもっと早くに解決していたなら、子供たちはいがみ合う必要はなかったのだ。”
“それを、不機嫌を装うことで、彼らに全て任せきりにし、兄弟たちの関係を冷めたものにしてしまった。”
“そう。全ては自分の責任だったのだ。”
“今や、絡まった縄は解かれた。”
“それはまるで、金蔵の体を締め付ける、目に見えぬ縄のようでもあった。”
“それが今や解かれ、彼は久しく開放感を覚えるのだった…。”

 絡み合った物語を紡ぐ執筆者の葛藤。
 そして、それよりの解放。


“兄弟4人は前に歩み出て、新しい当主、蔵臼をみんなで支え、ますますの繁栄を金蔵の前で誓い合う。”
“彼らの顔は、不思議な若々しさに溢れていた。”
“当然だ。彼ら4人が、こんなにも自然な気持ちで結束したことなんて、………子供の頃以来なのだから。
“子供の頃の瑞々しい気持ちに戻り、彼ら兄弟は再び、結束するのだ。”

 物語の生まれた当初は、それぞれの物語を豊かにするために、協力して紡ぎ合って来た。
 その関係がやがて壊れかけ、そして今、修復されたのだ。


“ベアトは魔法と称して、色々な手品を見せてくれた。”
“真里亞はそれを魔法だと主張し、縁寿はそれを手品だと主張し、ますますに盛り上がった。”
“幼い二人があまりに盛り上がるので、大人たちも、自分が知る手品を披露しては、二人を大いに驚かせた。”
“やがて、互いが互いに、こんな手品知ってる? と見せ合うようになり、ハロウィンに相応しいマジックパーティーになった。”
“手品に限らず、クイズやなぞなぞ、様々な遊びが、彼らの子供時代の思い出を刺激する。”
“給仕をしている使用人たちも、その輪に引き摺り込まれ、ホールは今や、大賑わいだった。”
“幼い縁寿にとって、どの手品もクイズもなぞなぞも、知らないものばかり。”
“彼女の知的好奇心が刺激されて、わくわくが止まらなかった。”
“その上、美味しい食事にジュースが、よりどりみどりなのだからまるで夢の中だ。”
“縁寿はふわふわと、まるで雲の上を歩いているような気持だった……。”

 19人目が幼い頃にしていた遊びがこんな感じだったのだろう。


「……………ふむ。ならば我等も、この千秋楽祝いを楽しませてもらうとしよう。これほどの長きゲームにて皆、それぞれの役を見事、演じきってきたのだから。」

 駒たちは皆、見事に役を演じきったよな。
 今回の再読でホント驚いたもの。


“これで本当にいいのかと念を押されると、ちょっとだけ不安にある。”
“でも、そういう時は初心を貫徹した方がいい。”

 他人に言われて意見を翻して、それで間違っていたら、その他人のせいにするんじゃないのか。
 だったら、自分の意見を貫き、その結果玉砕した方が清々しいというもの。
 意見を翻すなら、全て自分の決断ですべきなのだろうな。


「ケチ臭いことを言うでない。2つのアーモンドが現れ、女王と姫が選び出されただけの話ではないか。」
「そういうことだ。2人が当りということで良いではないか。」

 出てきた真実は2つ。


「いいのよ、縁寿ちゃんの付き人になれたもの。さぁ、お姫様。あなたが叶えて欲しい願いはなぁに…? 考えてちょうだいな。」

 2つの真実は、主と駒。
 当主と顧問錬金術師。
 そんな関係。
 駒は主の願いを叶えるために生み出された。


「さ、……さっきまでの楽しいが、ずっと続いて欲しいのっ」
“少しニュアンスが変わってしまった気がする。それでも、それが私の偽らざる願いだった。”
「さっきまでのって。……あぁ、手品とかクイズとか?」
「うんっ。」
「じゃあこうしましょう。みんな聞いて。お姫様の命令よ。ついさっきまでみんなが盛り上がっていたように。手品やクイズなどで、縁寿ちゃんを楽しませてあげてちょうだい。」

“みんなが私を囲み、微笑みながら、どんな問題を出そうか思案している。”
“私と遊ぶために、私のことだけを考えてくれる。”
“それを独り占めできるだけで、お姫様になれた喜びははちきれんばかりだった。”

 駒たちに謎を朗読させる幼い主。
 これがやがて八城になる。





 クイズ大会(前半)
 金蔵のクイズ。

「ふっ……。忘れても良い。ただ一時、私に向けて微笑んでくれただけで、私には何よりもの冥土の土産になるのだ。これが、無償の愛の境地である。」

 金蔵が執筆者なら、子である兄弟たちは執筆者の生み出したそれぞれの物語。
 その兄弟の伴侶は、それらの物語を読んだ読者。
 なら孫は、その読者が読んだ物語から解釈した新しい物語。
 要は、読者の真実。

 孫は祖父の笑顔を思い出すことは難しい。
 基本、後世になればなるほど、真実は掛け離れていく。
 執筆者の思いを知るということは、それほどに難しい。
 特にうみねこでは。
 つまり、執筆者はそれには覚悟をしていたわけである。
 それよりも子々孫々、物語を生み出し、執筆者の生み出した世界を繁栄させてくれるのが嬉しいのだろう。
 どのような形で結実したのであろうとも、それは執筆者へ向けられた愛なのだろうから。





 秀吉と絵羽のクイズ。

「私は、何て罪を……。………悲しいのは私もあの子もまったく同じだった…! なのに私は自分の方が悲しいと決め付けて、……あの子の気持ちをまったく受け止めなくて……。………私は母失格なんだわ…。あの子の母になって、………あげられなかった………。」

 物語の系譜として読み解いてみる。
 絵羽は二番目の物語。
 縁寿は三番目の物語の子供にあたる物語。
 蔵臼、一番目の物語が当主を引き継いだのだから、これが真相である19人目とヤスの二人の物語。
 唯一生き残った二番目の物語は、ヤスの物語。
 なら死んだ三番めの物語は、19人目の物語。
 その子供の物語は、ベアトなるプレイヤーが生み出した物語。

 ゲームがヤスの物語の勝利に終わり、19人目の物語は日の目を見ずに死に、それを推理したプレイヤーも表向きは死んだことになった。
 残されたのは、ヤスの物語と、19人目の物語の子供の物語。
 そのヤスの物語が、19人目の子供の物語を育てようという話。


“絵羽は縁寿の新しい親として、最後の唯一の肉親として愛情を注ごうと努力したのだ。自身の悲しみを懸命に堪えて。”
“しかし縁寿はそれを受け容れなかった。唯一生還した絵羽を、自分の親を奪ったと罵ったのだ。”
“……6歳の幼子の傷心を理解し、絵羽はそれでも耐えた。歯を食いしばって、報われぬ愛情を縁寿に注いだのだ。”
“しかし、………絵羽だって、深く深く傷付いていた。”

 19人目の子供の物語にとって、ヤスの物語は、親である19人目の物語を殺し、そのプレイヤーも殺した存在。
 不倶戴天の敵。

 私も19人目だけを推理していた頃、その動機は復讐が主であると見ていた。
 でもヤスって19人目が生み出したわけで、それって愛なわけで。
 そうすると、見る目も変わっていくわけで。

 つまり、19人目の子供の物語は、ヤスの物語をどう解釈し接していくべきなのかという課題があるわけだ。
 そして、ヤスの物語も親であり、それを認めることで、19人目の子供の物語は、19人目とヤスの子供の物語となる。
 即ち、当主である19人目とヤスの二人の物語。
 それを受け継ぐ物語となるということだろう。


「あなたは縁寿に、譲治君に注いだのと同じ愛情を、与えようとしてくれたわ。」

 ヤスの物語の子である物語を育てるように、19人目の物語の子である物語にも同じだけの愛情を注ぎ育てようとしていた。


「…………良かったな、絵羽……。……お前のがんばりは、……ちゃんと、……認められとんのやで……。」

 そうだな。
 ヤスの物語もまた、私の紡ぐ物語の親と言える。
 ありがとう。





 郷田と熊沢のクイズ。

“残酷な運命は、……縁寿という雛に、ひとりぼっちの未来を強いる。”
“卵は温めなければ、孵らない。彼女という卵は、誰にも温められず、孵ることもなく…。”
「縁寿さまは冷え切った卵のまま、孤独な未来を迎える他ないのでしょうか…。」

 卵は宇宙の喩え。
 二人で生み出すもの。
 書き手が生みだした物語を、読み手が孵す。
 その読み手が現れない限り、物語は孵らない。
 だが軸足を物語に移せば、物語は読み手の世界の中で卵から自ら孵ろうとしていると見做すこともできる。
 読み手の心の世界を冒険し、幾多の試練を潜り抜け、立派に成長するものなのかもしれない。


「……卵の殻は、いつだって内側から破られるもの。……冷え切った殻は、とてもとても硬いでしょうが、それでも破れぬものではありません。」
「縁寿さまに、その強さがあるでようか。」
「それを、得ることが出来るか否か。それがこの最後のゲームと聞いています。」
「私たちはもっと、メッセージを送るべきではないでしょうか。……せめて温められぬ卵なら、殻が割りやすいよう、少しでも外から叩くとか。」
「自らの殻を割る力もない雛を、無理に卵の外へ出せば、寒風に耐えることは出来ないでしょうね。縁寿 さまは、その力とたくましさを、自ら得なければならないのです。」

 物語が殻を破る。
 誰の力も借りずに。
 でなければ、たくましい物語にはならない。
 真実のたくましさとは、それを信じる力による。
 自力で謎を解くからこそ、達成感を得られ、それを掴む力を得られるのだ。


「……ですから、その力とたくましさを、私たちは何とか得ることは出来ないんでしょうか。」
「言葉とは、与えられるものでなく、受け止めるものです。……私たちが何を与えようとも、縁寿さまが受け止めなければ、何の意味もない。」
「…………そうですね。私たちが何を伝えても、縁寿さまが耳を貸さなければ、意味がない。」
「ほほほほ……。見守るしかないんですよ、私たちには。馬を水場に連れて行くことは出来ても、飲ませることは出来ないのですから。」
「縁寿さまが、より良い未来を自ら選択してくれることを、……祈るしかありませんな。」

 言葉は、受け取り方しだい。
 一つの言葉に、二重三重の意味を持たせているなら尚のこと。
 何を喰らい、どう咀嚼し、自らの糧とするのか。
 選ぶのは物語自身。
 だから、同じ言葉を受け取っても、別の物語に成長することもありえるのだ。


「縁寿さまが、諦めと悲しみを紛らわせるためだけの怒りに身を任せず。……本当に縁寿さまが求めておられる、たったひとつの願いに純粋であってさえくれれば。彼女は絶対に、自分の一番の願いを叶えることが出来るでしょう。」
「皮肉なものです。……その一番の願いを、自ら一番最初に、否定されているのですから。」

 19人目の物語の子である物語にとって、一番の願いは真相に至ること。
 その最初にしたのは、魔女を否定すること。
 黄金の魔女であるヤスの物語を否定することで、19人目の物語の子である物語は生まれた。
 だが真相に至るためには、ヤスの物語を認めなくてはならない。
 その上で、一つ上のステージに辿り着かなくてはならない。


「笑う門に福来る。泣きっ面に蜂。信ずる者は救われる。……人の思いが、その強さが、自分の未来を自ら生み出すのです。」
「せめて、その言葉だけでも掛けてあげたいものですが……。」
「戦人さまも厳しい。……そのような言葉さえも許さず、縁寿さまが自分の力だけで気付いてくれることを願っている。」
「………私たちには、見守ることしか出来ないのですね。」
「だから、せめて祈りましょう。彼女が、最も望む未来を、その手に掴めるように。」

 うん、最も望む未来を掴めたと思う。





 蔵臼と夏妃のクイズ。

「私が、あなたを拒絶してしまったから、……あなたはいくつもの世界で、辛い目に…。……それは全て、私の責任です…。」

 母である19人目と、娘であるヤスとして読み解く。
 19人目がヤスを殺して島を出てしまったから、その真実を塗り替えるために、ヤスは猫箱の中でいくつもの世界で酷い目にあった。
 それは、19人目の責任である。


「……だからといって、……あなたを崖より突き落としても良いという理由にはなりません。」
「そうであるな。それは、そなたが生涯、背負うべき十字架であろう。」
「……はい。その覚悟です…。」
「ならば、そなたを苛む役は、その十字架だ。妾ではない。」
「私を、……恨まないというのですか…。」
「そう、しょげた顔をするなって。……いやいや、むしろだなぁ。お前がそのしょげた顔をする限り、妾はそなたを咎めようとは思わぬ。そなたがその十字架を背負い続ける限り。妾はそなたを恨もうとは思わぬ。」
「この私を、……恨まないというのですか……。」
「ホントは恨んでたぜェ? チョオ恨んでたっ。お前の抱き枕を吊るしてサンドバッグにするくらい恨んださァ!」
「でも、お前を見ている内に、その気もなくなった。……お前は悔やみ、後悔している。そしてその気持ちをきっと、お前は生涯忘れない。」
「忘れるものですか……。……私は、人殺しなのですから……。」
「重い十字架、背負っちまったなァ。今じゃあんたに同情してる。ホントだぜ? だって、全部、金蔵が悪いんじゃないか。」

「もはや、恨みはない。それでも、そなたの十字架は軽くならぬか。」
「はい。……あなたにどうすれば償えるか、未だにわからないのですから。」
「んじゃ、こうしよう。両腕を広げよ。」
「え、……え? こ、……こうですか……?」
“おずおずと夏妃が両手を広げると、そこへベアトが飛び込み、夏妃をぎゅっと、抱き締める。”
「……あ、あの、……こ、これは………。」
「二度と言わねぇから、一度くらい言わせろよ。……妾はよ、自分の母親に会ったことさえねぇんだからよ。」
“ベアトは夏妃を抱きしめながら、小さな声で言う。”
“もう二度と、絶対に口にしないその言葉を、夏妃に言う…。”
「妾のことで悔やんでくれてありがとよ。……でもよ、妾はもう恨んでねぇからな? それだけは信じてくれよ。………カアサン。」
「……べ、………ベアトリーチェ……………。」

 良かったなぁ。母と呼んでもらえて。
 うんうん。
 万感の思いだ。





 クイズ大会(後半)。
 紗音と嘉音のクイズ。

「………これで、長かったゲームも、おしまいなんだね…。」
「清々するよ。……ようやく僕たちは、誰の玩具にもならなくて済む。……静かに忘れ去られて、埃に埋もれて消え去りたいね。」

 執筆者が生み出した物語たち。
 読む者がいなければ、忘れられて埃に埋もれて消え去るのみ。


「違うよ。私たちは、埃に埋もれて消えるんじゃない。」
「…………………。」
「閉じられる猫箱の世界で、誰にも知られることのない、私たちの未来を続けていくんだよ。」
「………そうだね。……ごめん。それは僕たちにも知ることの出来ない世界だから、……忘れてたよ。」
「私たちは、猫箱の世界で、どんな未来を紡がれるんだろうね。」
「それがわからないから、猫箱って言うんじゃないか。」
「…………そうだね。」

 読み手がそれぞれの物語の未来を紡ぐ。
 その物語は、元の物語とは別物だけど同一の物語。


「私が譲治さまとの婚約を破棄して、島を出て行っていなくなる未来だって、ありえるんだよ。その世界では、嘉音くんはもう、私のことなんか何も気兼ねしなくていい。……お嬢様と、青春を謳歌することが出来るんだよ。」

 これはヤスの真実が消え、19人目の真実のみが残る世界。


「……姉さんが譲治さまとの婚約を諦められるなら、そういう世界もあるかもね。」

 最後の魔法と手品の選択を考えれば、19人目とヤスの真実が共にある世界と、ヤスが消えて19人目だけが残る世界の対立のことかな。


「だから。……私が譲治さまと結ばれる世界と。あなたがお嬢様と結ばれる世界が、同時に存在できるのが、猫箱の中じゃない。」
「…………どんな矛盾した夢も、全てが同時に存在できる世界。」
「それが、私たちという駒がしまわれる世界なの。……だから、寂しくなんかないし、悲しくもない。……今ここにいる私は、譲治さまに指輪をもらうところまでしか、観測できないけれど。」
“猫箱の中の、私には観測できない世界にいる私は、その後の、幸せな未来をきっと紡いでいるんだよ…。”
“猫箱は、どんな駒も玩具も夢もしまえる、不思議な箱なの。”
“それは、私たちを閉じ込める檻なんかじゃない。”
“むしろ、猫箱の中こそが、全てから解放される、無限の世界なんだよ……。”
「全てから解放され、全てが同時に叶う世界。……でも、その世界の僕は、今ここにいる僕じゃない。……それが何だか、悔しくて。」

 そう読む読者がいれば、その物語が猫箱の中で紡がれる。
 たとえその読者がいなくとも、その可能性は残すことができる。
 そしていつか誰かが読んでくれるかもしれない。
 だけどそれは、その読者が紡ぐ物語であり、厳密には執筆者の紡いだ物語ではない。
 だからそれは自分のことではないし、自分が知ることはできない。
 しかし、夢を見ることはできる。
 猫箱の中にはたくさんの夢をしまえるのだ。


「決闘。」
「…………………いいの?」
「私たちは、もっと早くに決着をつけるべきだった。なのに、こうしてゲームが終わる最後の瞬間まで、それを先送りにしてる。」
「……いいよ。……どうせ終わるゲームさ。最後の最後くらい。………僕らは自分たちの決着を、しっかりとこの手でつけるべきなんだ。」
「そうすれば、猫箱にしまう前に、私たちは未来を見ることが出来るもんね。」

 これは最後の手品と魔法の選択のこと。





 楼座と真里亞のクイズ。

「うりゅー。意地悪な問題で虐めすぎだよ……。」
「だって、縁寿といっぱい遊びたかったんだもん。簡単な問題だったら、すぐ解かれちゃうよ?」
「真里亞は縁寿のこと、大好きだもんね。」
「嫌いだよ? さくたろのこと、ぬいぐるみだって馬鹿にしたもん。」
“真里亞はそう言って口を尖らせるが、その表情は決して言う通りではなかった。”

 ベアトのゲームのこと。
 難しい謎にしたのは、いっぱい遊ぶため。
 遊んでくれたプレイヤーたちが大好きだから。


「正しい結末に辿り着けないとしても。……せめて今夜を君が楽しんでくれることを。心より祈っているよ……。」
“楽しんでね、縁寿。”
“さようなら。”
“君との日々は、長かったような、短かったような。”
“それでも私には、永遠の思い出だよ………。”

 正しい結末は、執筆者本人の物語にまで至ることだろう。
 プレイヤーと魔女のゲームで遊んだ日々。
 それが永遠の思い出であると。

 私にとっても、忘れられない永遠の思い出だな。
 こんなにも考えて物語を読んだことなどない。





 留弗夫と霧江のクイズ。

「いい、縁寿。人生には、これからもたくさんの問題が訪れるわ。……今は絵羽伯母さんが助けてくれるから、頼ってもいい。でもね、人生の問題のほとんどは、あなた一人で解かなくちゃならないの。その時に、それまで助けてくれた人の助言や恩を、必ず思い出すようにしてね。」

 縁寿を、読み手が孵した物語と解釈すれば。
 その物語が生きていく上で現れる問題。
 例えば、その後のベルンのゲームとか。
 それを一人でクリアしていなかくてはならない。
 その時に、それまで助けてくれた人の助言や恩を、思い出すように。
 つまり、書き手の物語たちのことだな。
 書き手と読み手の二人で生み出した物語なわけだし。
 後は参考にさせて頂いた他のプレイヤーの皆さんにも。





 譲治と朱志香のクイズ。

 これについては、前にやったしいいよな。
 自分の手の中にある真実。
 それに外の人たちが干渉してくるが、それを決めるのは自分であり、それを守るのも自分である。
 この後の山羊たちの侵攻は、その他者の干渉にも重ね合わされているだろう。





 お開き。

「縁寿ちゃん。お元気で。……幸せは見つけるものでなく、作るものです。思い出も、実は同じなんですよ。」

「縁寿……。忘れるんじゃないぜ。自分も、幸せも、運命も、作るのは自分なんだ。自分だけが決められる。それは誰かに与えられるものでも、そして誰かに隠されて探すものでもない。……それを、忘れるんじゃないぜ。」
「きっと、伝わったと信じます。」
「……だといいけど。」
「僕とお嬢様の物語は、絶対に縁寿さまにそれを伝えています。」

 つまり、自らにとっての真実も物語も、読み手自身が作り、決めるもの。
 あと、嘉音と朱志香の物語とは、19人目とヤスの物語のこと。
 うん、実に伝わった。


「……幼さゆえに、やさしき思い出を記憶に留められなかったそなたを、誰も責めはせぬ。しかしそれでも、思い出してやれ。……忘れることが罪ではない。……思い出さぬことが、罪なのだ。」

 物語は、思い出さなくなったら死ぬ。
 思い出す限り、何らかの形で生きるのだ。


「……悲しい運命により、二人が傷つけ合う未来があったことを、俺たちは知ってる。……それは縁寿にとっても悲しいことだし、……絵羽伯母さんにとっても悲しいことだった。………お前に心を開けと頼むのも酷な話だった。そして、絵羽伯母さんに、それでもなお縁寿のために自分の悲しみに堪えて欲しいと頼むのも酷な話だった。」
「……そなたも、絵羽も。どちらも悪くない。」
「だからといって、……お前に何かを許せと、俺たちには頼めた義理もない。……だからせめて、許せとは言わない。………ただ、わかってやってくれ。時間が掛かってもいい、どれだけ未来でもいい。……絵羽伯母さんのことを、わかってやってくれ。そしてたまには俺たちのことを、………思い出してくれ。」

「………伯母さんを許してくれなくてもいい。……でも、伯母さんは、あなたを憎んでなんかいないの。……せめてそれだけは、わかってね……。」

 19人目の真実とヤスの真実。
 それは一見否定し合っているように見える。
 しかし、そんなことはないのだ。
 恋の決闘がなければ、仲良しなのである。
 だから、19人目の子である物語のことも憎んでいない。
 むしろ、執筆者の真実に至らせようと協力してくれている。





 人間と魔女の宴。

「ベルンが連れてきて駒にしたのよ。……用済みにされて潰されかけたところを、私が預かったの。後味が悪いのは嫌だって、アウアウに言われてね。」

 あの時のウィルと理御は、奇跡を目指す19人目とヤスに重ね合わされている。
 フェザリーヌがそれを潰すことはできないだろう。


「開けて…! 開けてー!!」
“私は窓をばんばんと叩くのだが、それは誰の耳にも届かない。”
“……よほど窓が厚いのか、中が賑やかなのか。……あるいは、こちらが闇夜だから、私の姿も闇に溶け込んでしまっていて見えないのか。”
“とにかく、いくら叩いても、誰も気付いてくれる様子はなかった。”
“ここまで来ると、寂しいという気持ちより、どうして私に気付いてくれないのか、どうして私だけをひとりぼっちにして、あんな部屋に閉じ込めていたのかと、怒りの感情の方が強くなってくる。”

“猫が窓を叩くことに諦めたと悟ると、猫は再び鈴を鳴らして先導をする。”

 縁寿は皆がいる世界へ行きたい19人目に、猫はそれを先導するヤスに重ね合わされている。


「そういうこった。ルールの外での働き方を覚えて、ようやく一人前なんだぜ? ルールに縛られてる内は、まだまだ半人前だな。」

 ルールがこうだから、こうじゃなければならない。
 ルールがこうならば、こうしたっていいんじゃないか。
 白と黒に分ける時、絶対に白の中に留まろうとすか、グレーゾーンに踏み出すかだな。
 この違いだろう。
 なんだろうとグレーゾーンで潜り抜ければいい、というのではない。
 何を潜り抜けさせなければならないのか、だ。

 これは、ベルンのゲームのヒントかな。
 それだけじゃなく、ベアトのゲーム全体になのだろうけど。


“戦人とベアトの物語が終わり、全てが猫箱にしまわれる前に。”
“ベルンカステルは初めて観客席から舞台に上がった。”
“舞台の上の明るさを嫌い、舞台袖に隠れていた魔女が、……舞台中央へ歩み出る勇気を見せたのだ。”

「………嬉しいわ。やっと私たちは戦えるのね。」
「いずれ、お前とは戦うことになると予感していた。」
「いつから?」
「………………………。……わからない。ひょっとしたら、お前の名を知るよりも、もっと前からかもしれない。」
“戦人は、思い出せぬ無意識の世界のどこかで、彼女に語りかけられたことがあったのを、おぼろげに覚えている。”
“当時、それは、ベアトとの戦いを助言するもののように聞こえた。”
“しかし、今にして思うと違う。”
“……眩しい日向に出ることの出来ぬ、臆病な猫の、舞台袖からの参戦だったのかもしれない。”
“だから、いつかやがて、ゲーム盤の上で何かの形で対峙する日が来ることを、おぼろげに予感していた……。

 言うなればベルンは、ベアトと戦人のゲームの一層上でのゲームのプレイヤー。
 それが一層下に降りてきてゲームを行う。
 あるいは、プレイヤーの方が一層昇ってか。
 とは言え、やるゲームの規模はベアトと戦人のゲームと同じ。
 どちらにせよ、読み手であるプレイヤーと、書き手側のプレイヤーの直接対決。

 我々プレイヤーはゲームの対戦席に座る“誰か”を想定してきた。
 その“誰か”はつまり執筆者なわけだけど、ベルンはその執筆者の一角。
 隠れていたと言えば、ずっと隠れていた。


「……朗読の巫女は、自分の口を通して、物語を脚色することも歪めることも出来る。……たとえ私のゲームに小細工がなくとも、朗読の術で、いくらでもそれをすることが出来る。」
「そうであるな。……それもまた、ゲームマスターの権利の一つだ。」
「あんたたちとしたい決闘は、シンプルでありたいの。……だから、朗読者はいらない。あなたたちが自らの目と耳で、物語を読みなさい。」

 つまり、今回の朗読者は読み手自身である。
 と言えるかもしれない。
 つまり、読み手が自分の真実を紡ぎ、物語として朗読できるのかが問われている。





 ベルンの出題。


“……これは、私とあなたの、本当のゲーム。”
“紙と筆記用具を用意することをお奨めするわ。”
“私と、本当に戦う気があるのならね。”
“もしどうしても行き詰まるなら、戦人とベアトの推理に耳を傾けるのもいいかもね。”
“それが、あなたがどうしても困った時の、“ヒント”。”
“でも、私はあなたと一騎打ちが楽しみたいの。”
“あなたも、私との一騎打ちを楽しんでくれるなら。”
“ヒントなんて頼らずに、あなたの力だけで私に打ち勝ってみて。”
“さぁ、……楽しみましょう?”
“あなたのためだけに、生み出した私のゲームを……。”

 相手は戦人とベアトではないことがわかる。
 つまり、“あなた”とは読み手であるプレイヤーのこと。
 その“あなた”のためだけに生み出したゲーム。
 EP7の最後を鑑みれば、奇跡を起こす資格があるかどうかを問われるものだろう。

 これまでのゲームでは、互いの真実を主張し合うものだった。
 それを繰り返して、互いの真実を、物語を成長させていくものだった。
 しかし今回のゲームは、ただひとつの解だけだという。
 それはつまり、“誰かが隠した真実を探す”ということではないか。
 それは“半人前”の仕事だ。
 真実とは“作り出すもの”。
 それができてやっと“一人前”の魔女だろうさ。

 ゲームマスターが自身の主張を信じさせようとした時、朗々と主張するより、それを隠して相手に見つけさせた方が信じさせやすい。
 だってその“主張”は、ゲームマスターのものではなく、相手プレイヤーの“主張”になるのだから。
 それはつまり、その“真実”は押し付けられたものということ。
 それをただ受け取って、そのまま退場するとか、子供のおつかいか。

 ここまで物語を再読してきたら、このゲームで求められているのは、もはや明白だろう。
 二人で物語を紡ぎ合うことだ。
 自分の紡いできた物語を生き延びさせ、真実を並び立たせるのだ。
 それがこのゲームの主旨なのだから。

 私は19人目と金蔵を犯人とした物語を作るために、紫発言で誰も嘘を吐いていない事件を再構築し、行間の出来事を想像した。
 なぜ食堂に犠牲者が集まっていたのか、そこに蔵臼夫妻がいないのはどうしてか。
 鍵を壊す指示を出したのは誰か。
 ガムテープの封印の指示を出したのは誰か。
 紗音と嘉音がゲストハウスから出た理由は。
 南條が玄関に向かった理由は。
 そんな感じで、朗読するのは読み手自身だ。





 遅れてきた来訪者。

“同じ世界にいるように見えて、………私と彼らは異なる世界にいるのだ。”
“例えるならテレビ。いや、亡霊…?”
“私にはありありと見えているが、……彼らにとって私は、いないのだ。”
“……だから、ほら。”
“私がお兄ちゃんたちの目の前に立っても、……彼らの目に、私は映っていない。”

 並行世界の向こう側を見た時、そんな感じなのだろう。
 そちらの世界では、自分はいないもの、即ち亡霊である。
 19人目にとっての、ヤスのいる虚偽の世界。
 ヤスにとっての、19人目がいる真実の世界。
 見えてしまうがゆえに、疎外感が募る。


『………留弗夫、霧江、戦人が犯人……。……留弗夫と霧江が死んだフリで戦人が嘘の検死……。そして、親の片方が第二の晩までの殺人を実行して夏妃の部屋のベッドの下に隠れる。……紗音は戦人が殺し、その後のゲストハウスでの殺人を幇助。……ゲストハウスでの殺人の実行犯は、親のもう片方……。これが、……真相………。』
「反論。……留弗夫一家犯人説以外でも、ロジックの構築が可能です。」

 そう、縁寿がベルンのゲームの解に対抗するなら、別のロジックを構築すればいい。
 でなければゲームにもならない。


「……留弗夫一家犯人説しか思いつかない、石ころ頭どもはどうぞお引き取りをッ! あるいは、私を論破できるおつもりでいる皆さんは、どうか歓迎を! 無論、私も歓迎して差し上げます!!」

 留弗夫一家で納得した読者は、もうゲームから退場した。
 退場していないのは、異なるロジックを構築した人か、異なるロジックが構築できないことを検証している人だけ。
 その人たちのとっては、これはまだゲームなのだ。


「…………真実は、いつだって残酷よ。時にそれは、自分の希望を刈り取りさえする。………多くの場合、ニンゲンは真実を得ることに対する対価に気付いていない。……私はあなたに、その覚悟があるのかどうか、問い掛けただけ。」
“私は、矛盾した2つの願いのどちらかを、選ばなければならない。”
“真実を得て、……家族が帰ってくるかもしれないという、都合の良い希望を捨て去るか。”
“それとも真実を諦め、……実際には永遠に帰って来ない家族の帰りを待ち、…………兄に与えてもらった、子供騙しの幻想で、凍える自分を騙し続けるのか。”

 第三の選択肢は、両方とも諦めずに叶えること。
 真実を知ったことで刈り取られた希望は、自分の手で蘇らせるのだ。
 不屈の精神で、絶対の意思で。


「……主に説明をさせようというのか?」
「たまには、その程度の舞台参加もしなさいよ。ボケ防止にいいわよ。」
「やれやれ……。縁寿の朗読の時に、久々の舞台を堪能したので、もう数百年は充分だと思っていたのだがな。」

 黒幕で、ある意味真主人公なのに、舞台に上がらな過ぎ。


「……仲良しこよしで煙に巻いて、……私を真実から遠ざけようとしている。………お兄ちゃんは、卑怯だわ…。」
「確かに、そなたから見れば卑怯とも呼べよう。しかし、思い出すが良い。そなたはこのゲームのプレイヤーであり、戦人がゲームマスターだというなら、……それは何を意味するというのか。」
「かつて戦人はプレイヤーで、ベアトはゲームマスターだったわ。そして二人はそれぞれの真実のために戦ったわ。………そして今度は?」
「……私がプレイヤーで、……ゲームマスターはお兄ちゃんだわ。」

 ゲームマスターの主張を、鵜呑みにする。
 ゲームマスターの主張を、認めない。
 これは初歩の選択肢。
 ゲームマスターの主張を、並び立つ真実だと認める。
 一挙両得の欲張りセットが強欲で良いんじゃないかな。


“そしてようやく、……このゲームにおいて、自分が何を為すべきなのかを理解する。”
“私はずっと受け身だった。”
“お兄ちゃんが真実を教えてくれるに違いないから、それを信じればいいなんて、……甘えてた…。”

 真実とは与えられるものではなく、能動的に生み出すもの。


「あるいは、すでにそなたには一度、目にする機会が与えられているのかも知れぬ。……詐欺師が一番最初に見せる契約書に、極小の字にて、すでに悪辣なる罠が記してあるかのように。」
「……戦人がゲームマスターとして、ミステリーの作法とやらに則るなら。………“手掛かりは必ず提示され”、“戦人が負ける選択肢も、必ず提示されている”。」

 EP1で事件の最後に真犯人は姿を現わし、メッセージボトルに名前も記した。
 ゲームとしてはフェア。


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  1. 2019/07/27(土) 21:58:14|
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フラット・ホームズ

Author:フラット・ホームズ
「うみねこのなく頃に」の某公式サイトで推理を投稿していた。
その時使っていた名前は察してください。
スタイルは、アンチミステリーをチェス盤で引っ繰り返す、というもの。
キコニアでは、世界を箱庭に見立て、そこにどんな駒を置いたのか、それらを動かして最終的にどういう形に持って行くのか、的な感じのを主にやっている。

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