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うみねこのなく頃に 考察 境界より視やる

PCゲーム「うみねこのなく頃に」の個人的な考察ブログ。「キコニアのなく頃に」についてもガッツリやっている。


続・EP7を再読

 新しき生活。

 ヤスの話は、どこに軸足を置くかで、全然別の話になる。
 EP5での夏妃とベアトのお茶会のように。
 あれは、現実では夏妃ひとりっきりのお茶会だったわけだが。
 “夏妃が”ベアトとのお茶会を妄想していたのか。
 それとも“ベアトが”夏妃とお茶会をしているという妄想をしていたのか。
 前者なら、それは夏妃の妄想。
 後者から、夏妃ひとりっきりのお茶会を見て、そこにベアトとの会話を妄想した“誰か”がいたことになる。
 つまり、観測者は誰か、という問題。

 ヤスについても同じ。
 ヤスが何を見て何を想像したのか、ではない。
 “誰が”ヤスを見ているのか、だ。


「………聞け。我こそは我にして我等なり。我が語るは我らの物語。されど此処は聞く者なき硝子とコルクに封ぜられし小さな世界。それは誰の目にも触れることなく、我が物語の全てを封じて、我が心の海を揺蕩いて海の藻屑と消えていく……。」

 自分は自分であり、同時に、異なる運命を辿った別の自分でもある。
 自分が語るのは、異なる運命を辿った自分たちの物語。
 しかし、聞く者も見る者も誰もいない。
 その物語はただ自分の心の中に生まれては消えていく。


「あぁ、ここは何処なの?! そして私は誰なの?!」
「ならば聞こう! どこがいい? 誰がいい?」
「私をやさしく包んでくれる場所ならば何処だっていいわ! やさしくしてくれるなら、自分が誰だっていいわ!」
「そうさ、僕たちには!」
「私たちには!」
「「何処で誰かなんて、些細なことなのだから!!」」

 異なる運命を辿る別の自分を生み出す時、それだけが決まっていて、どこの誰になるかはまだ決まっていない。
 想像の数だけ生み出せる。
 だから、何処で誰かなんて、些細なこと。

 テーブルトークRPGで例えると分かり易いかな。
 プレイヤー(PL)が居て、自分のプレイヤー・キャラクター(PC)を作り、その駒をゲーム盤に置いて、ゲームスタート。
 それの、ゲームをすることは決まっているけれど、まだPCが決まっていない時点。

 ついでに言うと、ゲームマスター(GM)はPLが兼任。
 ゲーム盤は、現実の六軒島とリンクした並行世界の六軒島。


「そう。我等にとってそれは、とてもとても些細なこと。少なくとも、その日を迎えるまでは。なぜに我等は新しき運命に投ぜられねばならぬのか? それは突然にして唐突なる運命の宣告。」
「それは僕が望んだ運命じゃない。」
「でも躍らせたわ、自分の胸を…!」
「新しい運命は僕を何処へ誘うのか?!」
「何処へだって構わないわ!」
「「其処が、僕たちに、私たちにとって、やさしい場所であるならば…!!」」

 駒は主が決めた運命に投ぜられる。
 駒が辿る運命や如何に。
 新しい物語が始まる。


「親を持たぬ悲しき子供たちが集いし仮の住処にもたらされるは、神の救いの報せか、新しき運命にて弄ぶ悪魔のゲームへの誘いなのか。我等にはそれを知る由もなし。」
「されど我等は信じたい。それが、神の救いが差し伸べられたという、福音の報せであると、信じたい。」
「でも、どうしてそれが私に? 私には信仰も何もない!」
「ならこれは福音じゃない、悪魔の誘いさ!」
「されど我等、運命に逆らえる由もなし。あぁ、我は我にして我等なり。願わくば、新しき運命が我等を祝福せんことを。時は西暦1976年4月。春を語るにはあまりに寒き頃のこと。新しき異郷は何ら変わることなく、朽ちた空気と隙間風で我等を苛むのである……。」

 魔女のゲーム盤に新しい駒が置かれる。
 崖から落とされた後、福音の家で育てられ、使用人として六軒島へやって来たというイフの自分という駒。
 その駒は現実に存在しないのだけど、魔女はそれを主張して平行世界を生み出して遊ぶ。


「大丈夫よ。私も一緒だから。二人でがんばろ。ね。」
“紗音はそう言って、そっと微笑んでくれた…。”

 平行世界でヤスがいる立ち位置は、現実では紗音がいる立ち位置。
 ヤスは現実の紗音を真似て使用人の仕事を学んでいる。
 だから並行世界の紗音は、ヤスが目指すべき使用人の姿となっている。
 そして、ヤスの分、平行世界の人数は現実より一人多い。

 現実の紗音がヤスの依り代だから、現実の紗音の行動がヤスに反映される。
 それがゲームのルールの一つだろう。


「くすくす、面白いじゃない。使用人なのに、実は当主の血を引く隠し子なんて……。まるで、童話のようにロマンチックな話よ?」

 物語は面白い方が魅力的。
 物語の主人公の設定としては、その方がロマンチックである。
 だからそれを採用した。


「かくして、この奇妙な物語は1976年より、ゆっくりと幕を開けるのである。あぁ、我こそは我にして我等なり。なぜに運命はかくにも、我等を捨て置いて自由気まま身勝手に進むのか……。」

 観測し、それを別解釈し、平行世界という物語を生み出している。
 つまり受動的。
 運命は人間が自分の意思で切り開くもの。
 つまり能動的。
 他の人間たちによって運命は作られ、それを観測しているだけの人間は捨て置かれどんどん進んでいくのだ。

 そして、観測者は自分の好きなように解釈して、ヤスの物語を綴る。
 その物語の中では、その解釈に沿って、各人の設定も変更されている。
 例えば源治や熊沢が、ヤスの血筋が云々~で見守っている云々~という設定とか。
 現実ではヤスは存在しないのだから、その設定も現実には存在しない。





 初めての友人。

「思春期の想像力たくましき少年少女たちにとって、怪談は恐ろしいながらも魅力的なおとぎ話であった。一つの物語を共有し共感することで連帯感が生まれる。すると共感が義務となり、それを受け容れることが、共同体に加わる通過儀礼のようになる。ずっと昔から、それは繰り返され、受け継がれてきたのだ。」

 世間におけるヤスの物語も同様のプロセスで成り立っている。
 ヤスの物語を育んでいるのは読者たち。
 その物語を共有し共感することで連帯感が生まれ、やがてそれが義務となり、それを受け容れることが共同体に加わる通過儀礼のようになる。

 今のうみねこ界隈でヤス以外の物語を語ることを、許される雰囲気はどれほどあるのだろうか。
 私の自説も、公式掲示板の皆集の中でずっとやってきたから、その中で許容されていたのであって、その外では受け入れられるのかと言われれば、疑問なんだよな。
 色々な意見が入り交じって存在していた当時の雰囲気を知る古参ほど、許容できる気がする。
 でも、一つしかない時しか知らない新参ほど、許容できないんじゃないかなぁ、と思ったり。
 まぁあれだ。
 自分も一つの物語を強要されたのだから、次の新人にもそれを強要する。
 なんて悪しき伝統が作られていくのかもしれないな。
 そして、それを全部伝統のせいにするんだよ。


「誰にも姿を見られず、そして声も聞いてもらえない悲しき魔女。……ニンゲンの気を引きたくて、いつもこんな悪戯を…?」
「妾の貧弱なる魔力を尽くし、ニンゲンどもの隙に介入するが、何をしてもヤツらは魔法とは思わぬ。……ほんのちょっとした勘違いと決めつけ、妾の存在を、ケーキの蝋燭でも吹き消すかのように簡単に、消し去ってしまう。」
「なら、あなたは私に救われました。私はあなたの存在を理解し、こうして、捕らえたのですから。」
「……救うだァ? くっくくくくくく! 妾にとってそなたとの出会いなど、新しい暇潰し以上でも以下でもないわ。」

 これは、ヤスの物語を読んでいるだけでは退屈になったのだろうな。
 だから物語に介入したくなったのだろう。
 現実で、19人目が紗音の物を隠した。
 それに対して紗音は、それを魔女の仕業であると解釈する。
 すると、現実を反映して、ヤスの物語の中でも、ヤスの物が隠される。
 そして、ヤスも魔女の仕業であると解釈する。

 そんな手順を踏んで、物語の中のヤスに自分を魔女だと認めさせた。
 そうすることで、自分を“魔女”として物語に登場できるようにした。


「そなたを、妾は気に入ったぞ。……妾を捕らえた、とな? くっくっくっく! それは同じであるわ。妾がそなたを、捕らえたのと同じことであるぞ。」

 うん、どちらに軸足を取るかの違いでしかない。


「その通り。そなたが妾を認めたお陰で、妾はそなたとの縁を得た。……日々に退屈していた妾にとって、そなた如き幼子であっても、話し相手が生まれるのは良いことだ。」

 誰かと縁を結び、誰かと対話する。
 それは19人目にとって確かな救いであったことだろう。





 虜になる日々。

“熊沢さんは流しの下の、包丁入れに包丁を戻す。”
“ただそれだけのことなのに、大冒険をして迷子になった包丁が、やっと家に帰りついたような小さな感動を覚えた。”
“彼の納まるべきスペースに、ストンとしまわれると、……包丁一家は無事に勢揃いして一家団欒が始まった…。”
“後は家族仲良く水入らず。熊沢さんは、そっと戸を閉める…。”

 迷子になった子が大冒険の果てに家に帰り、家族が揃って一家団欒。
 それを助けるのが読者の役割。


「熊沢さんに習った、蜘蛛の糸のおまじないです。どうやら、しっかり効き目はあったようですね。」
「うむ。悔しいが効き目はあるぞ。とても触れたいとは思えぬ。そなたも、剃刀の刃に指を当て、横に滑らせたくはあるまい?」

 魔女は蜘蛛の糸に触れられない。
 新たに追加されたルール。
 対戦者が成長することで、ゲームの難易度は上がる。


「とにかく。今回は私の勝ちですね。さ、もう仕事に行かなくちゃ。」
「良かろうとも、我が友よ。今回は勝ちを許そうぞ。」
「されど妾は諦めが悪い。その負けを取り返すべく、以降さらにますますにッ、そなたのミスを探そうと窺い続けるであろうぞ。心せよ。そそっかしいそなたが置き忘れる小道具など、いくらでもある。それら全てに凧糸を縛るわけにも行くまい。くっくくくく…!」

「弱点は、克服することで強みとなり、自信となって人をたくましくしてくれるのです。……あの子のそんな、日々の小さな成長が、それはもう、実の孫のように可愛らしかったですとも。」

「我は誇らしく頷き、満面の笑みを浮かべるのだ。この日、この時、この瞬間の誇らしげな体験は、我rの幼少の記憶に、忘れがたい1ページを刻むこととなる……。」

 そうして成長し合うのもいいものだ。
 全部一人遊びなんだけど。
 でもそれは紛れもない成長。
 日々なにかを達成していく楽しさ。
 それが灰色の世界を彩っていく。





 新しき日々。

「くっくくくくく。推理小説とやらは、やはり面白い。これは実に愉快な思考のゲームであるぞ。」
「そうです。これは思考のゲーム。作品と戦い、推理を得て、同じ本を読んだ仲間たちと議論で戦う。」
「いいや、魔女と人間の戦いでもあるぞ。妾の密室殺人という名の魔法を許すか、否定するかの、ミステリーという名のチェスである!」
「…………………。……これは私の読書ではなく、あなたとのゲームだと?」

“小説の中の、単なるジャンルに過ぎないと思っていた、ミステリー。”
“それが、紙一重で、魔女と人間が、幻想と真実を争うゲームに様変わりするなんて。”
“私は、この新しい“ゲーム”に、瞬く間に虜になっていく。”

 19人目とヤスの新しいゲーム。


「自分も同じようなことが何度もあったけど、誰に相談しても信じてくれなかったって…! 第一、先輩とかはヤスのこと馬鹿にしてたけど、ヤスは言われるほどドジでも馬鹿でもなかった。」
「年下に仕切られるのはムカつくから、いつも反抗してたけど、仕事は割とそつなくこなしてた。そんなヤスが、そこまで馬鹿にされるほど、物をなくすなんてことあるのかなぁって不思議に思ってた…!」
「だから確信したの。“い”る! このお屋敷には、人間とは異なる、何かおかしなものが“い”るって!」

 うん、いるな。
 物を隠して悪戯をするヤツが。


「物がね、……消えたらそれは、魔女がすぐ近くにいて私たちを見てるって合図なんだよ…。悪戯だとか、魔女なんかいるわけないとか! そんなことを言ったら、もっともっと祟られてしまう…!! 私もヤスもそう! 鍵が消えたら、……それは魔女が現れた徴…!!」

 だいたいベッドの下にいるんじゃないかな。
 物を隠すのが得意とか、人ってなんでも熟練するんだなぁ。


「それにしても、我が友が親切に忠告しているというのに、耳を貸さぬとは不愉快なヤツらよ。我が友を蔑む言動の数々、妾に対するものと受け取らせてもらおうぞ…!」

 異なる運命を辿った自分。
 それは成りたい自分。
 だからそれは、“自分たち”に対するものとして受け取る。


「我が魔法を見せてやるッ!! 愚かなる鐘音とやら! 我が友の忠告に耳を貸さなかったこと、後悔させてくれるッ! この希薄な体では物足りぬ! 借りるぞ、そなたの体ッ!! 久々に本当の魔法を見せてやりたくなったぞ! わずかのひと時、再び、我が身を現世にッ!」
「え? あ、………………ッ、」
“足元から霜柱が上がるような悪寒が、感電するかのように全身に広がる。”
“その瞬間から、……私の体の全てが、自分の意思で動かせなくなった。”
“突然の停電に、何も出来ず呆然とするしかないように、私は、自分の体の支配を失うということを、呆然と受け容れるしかない……。”
“私の体の全ての細胞が、泡立つようなぞくぞくした感じ。……それは、肉体が、私でない誰かのものに瞬時に作りかえられている感触。”
“……私の肉体を依り代に、……魔女ベアトリーチェは、束の間の復活を果たすのがわかる…。”

 19人目視点ではと言うと。
 プレイヤーとして、ゲーム盤上のヤスの駒を掴み動かした、となる。

 それが駒であるヤスからすれば、体が勝手に動かされる。
 または、自信の肉体を依り代として魔女が顕現している。
 となる。
 後の描写は、演出、脚色、修飾、観劇に過ぎない。

 これは本格的な物語への介入。
 普段なら、ヤスが紡ぐ物語を読んでいるだけ。
 たまに悪戯をして介入し、それを“対話している”と解釈して読み解いていた。
 つまり、駒自体の動きには介入したことはなかった。
 それを“直接”駒を動かした。
 実際には、現実で19人目がした犯行を、ゲーム盤ではヤスの仕業として過程を修飾することで、ヤスの駒を動かした、となるが。

 これはゲーム。
 ヤスが観測した物語を、19人目が観測するというゲーム。
 19人目がヤスを観測し、ヤスが“19人目が物を隠す介入”を魔女の仕業であると観測する。
 そう相互で観測し合うことで、相互を認め合い対話をしていた。
 それが今回のことで、ヤスは“上位世界からの直接介入”を観測してしまった。
 つまり、“プレイヤー”の存在を知覚したのだ。
 そして、自分がその“駒”であると自覚したのだ。
 まぁ、物語上ね。
 そう物語に刻まれたのだから、それに合わせて新しい物語は綴られる。
 つまり……。


「……………。……私、使用人、やめる。」
「……え?」
「使用人より、……魔女の方が、面白そう。」
「ま、魔女って…。……何の話…?」
「みんなに愛されて頼りにされる使用人って、……うん、今ももちろん憧れるけど。……でも、今の私には……、………魔女の方が、憧れるの。」

 使用人に憧れて、使用人となる自分を生み出した。
 自分が生み出された。
 でも今は、魔女の方に憧れる。
 運命に身を委ねるだけのニンゲンよりも、運命に介入する魔女の方が楽しい。
 プレイヤーに動かされる駒よりも、駒を動かすプレイヤーの方に回りたい。
 その方がより能動的なのだから。


「知らなかった世界を初めて知ったような、……まるで、暗闇の世界だけに住んでて世界を全て知っているようなつもりになっていた私が、初めて光を知って、世界を目にするような。そんな、喜び。……興奮。」

 異なる世界を知って、世界が広がる、視界が広がる。
 世界の外、ゲーム盤の外を知った。
 ゲーム盤を用いて遊ぶ、魔女の世界を知った。
 自分が“プレイヤー”であることを自覚した。


“蝶という分身を通しての、私の空中散歩。”
“小さな部屋の闇を黄金の輝きで切り裂き、自在に宙を舞う、喜び。……恍惚とした、悦楽。”

「うん。魔法。……私の指に、まだ少しだけ魔法が残っているから仕えた。……でも、本当の魔女になれば、もっともっと自由自在に、……何でも出来る。もう、私はこの楽しみを覚えてしまったの。もう、ニンゲンには戻りたくない。使用人なんて退屈なの、……耐えられない。だから、魔女に、……なるよ。」

 自分の分身を生み出し、それを操り、それに成り切り、その視点から世界を観測する。
 肉体という檻より魂を解放し、観測できない魔女の闇の中で、想像の限りを自由に振る舞える。


“漆黒の星空の海に、私だけ。ここには私と私たちだけ。”

 ヤスがプレイヤーに昇格し、カケラまたはゲーム盤の外、カケラの海にはヤスと19人目だけ。
 これはプレイヤーが二人になったのか、それともPLをヤスに譲り19人目はGMに留まったのか。
 あるいは、19人目は造物主としてさらに上層の世界にいるのか。


“……よくよく考えれば。そんな設定などなくとも、私は鏡が苦手。”
“私が誰になろうとも、憧れようとも、……鏡に映るのは、いつも無残なくらいに情けなく現実的な、ヤスの顔。”
“みすぼらしい自分の現実を、無理やり突きつける鏡は、いつだって、私の苦手なもの。”
“うん。……鏡は、嫌い。”
“……みすぼらしい自分なんか、見たく、ない。”

 ヤスの現実。
 それは虚偽の世界。
 これは全てヤスから見た物語。


「さらばだ、紗音。……ニンゲンとして、そなたを目標に、そなたと友情を育みながらの日々も、楽しいものであったぞ。…もし妾が、魔法の悦楽を知ることなく、魔女に開眼することがなかったなら、それはこれからも変わらなかったであろうな。」
“……そなたにとっても、妾が唯一の親友であったな。その親友が、忽然と消え去ることをどうか許してほしい。”
“そなたへの置き土産として、……そなたの世界より、妾そのものを消し去る。”
“今より、その部屋は二人部屋ではない。”
“そなただけの、一人部屋である。”
“そなたは、優しく、誰にも愛され、頼りにされる使用人を目指し、これからもそなたの理想の姿を体現していくが良い。”
“もう、ヤスという、物をなくしてばかりの、愚かでドジな使用人は、存在しない。”
“さらばだ、紗音。”
“妾が魔女ベアトリーチェとして成熟し、夜の屋敷を自在に闊歩するようになれば。……夜の屋敷を見回るそなたと、やがては出会うこともあるだろう。”
“しかし、そなたと再び出会う時。それは再会ではない。それは、初めての出会いとなるのだ。”
“何しろ、そなたは魔女ベアトリーチェの噂話は聞けど、会ったことなど、一度もないのだから……。”

 19人目は、ゲーム盤上での自分の分身として、誰にでも成れる駒である“ヤス”を生み出した。
 そして、これまで“使用人”になっていた。
 現実では紗音一人だけど、ゲーム盤では紗音とヤスの二人。
 現実の紗音を依り代として、ヤスの物語を読んでいた。
 が、飽きたわけだ。

 そこでヤスを“魔女”に昇格させた。
 ゲーム盤上から“ヤス”の駒を取り除き、一階層上の世界に“ヤス”の駒を置き、下層のゲーム盤で遊ぶ“魔女”のプレイヤーにした。

 つまり、19人目は最上層でヤスの駒を動かして遊ぶゲームをし、そのゲーム内でヤスは魔女のゲーム盤で遊んでいるという形。
 言うなれば、神のゲームと魔女のゲーム、ってところか。
 ……なんて手間のかかるゲームなのか。

 で、虚偽の世界は設定変更で上書きされ、使用人だったヤスはいなかったことになった。
 だからその世界で紗音と出会っても、それは初対面。
 でも、ゲーム盤上の駒はそのゲーム盤の設定に沿うが、そのゲームで遊んでいるプレイヤーは記憶を保持している。
 って、感じ。


“さらばだ、紗音。”
“いずれ出会い、何か面白い物語を紡ぎ合おうぞ………。”

 19人目は現実を反映させて物語を作っているから、他の人の解釈などを取り入れての合作であると思っているふしがあるのではなかろうか。
 ここが陥穽かな。
 実際は、自分一人で作った物語で、その物語は誰も知らないのだ。


「あぁ、我こそは我にして我等なり。」
「もう使用人ごっこは飽きた。ニンゲンごっこは飽きた!」

 使用人はごっこだった。
 遊び、ままごとだった。
 ここからそもそも使用人ですらなかったことがわかる。
 さらに、ニンゲンもごっこだったことから、使用人になる前からニンゲン以下の家具だったこともわかる。


「讃えよ使用人ども。怯えよ、夜回りに選ばれたることを! 夜の島は屋敷は、全て妾のもの、妾の時間…!」
「あぁ、我こそは我にして我等なり!」
「さぁ、我等の世界にて全てを飲み込もう。それはまるで波濤のように!」

「魔女の世界は、想像力の限りの全てを遊べる!」
「妾の想像力こそが、我が魔力の源なのだ!」
「ならばよかろう、面白い! それを無限大に広げようぞ。そしてそれで、島を全て飲み込んでやろうぞ。島の夜は全て妾のものなり!!」

 物語を作り、それを見せる。
 謎を作り、それを解かせる。
 真実を作り、それを信じさせる。
 そうして、自分の生み出した世界に全てを飲み込む。
 即ち、己の世界に組み込む。
 それは、世界の底辺だった存在が、世界の頂点に登り詰めることを意味する。
 まさに有頂天となっていた時期だろう。





 新しき元素。

“神秘的な美しさの、黄金の薔薇庭園。”
“その東屋の椅子に、紗音はいつの間にか座っていたのだ。まるでそこで居眠りをしていて、夢から覚めたかのように。”
“……しかし、それは不思議な感覚。”
“この黄金の薔薇庭園が、夢なのか。”
“今までの使用人としての生活が夢で、今、ここでこうして目覚めたのか、……その程度のことにさえ混乱してしまう、不思議な感覚…。”

 この紗音は、虚偽の世界の紗音。
 虚偽の世界自体が19人目の夢なので、その虚偽の世界の下層だろうと上層だろうと夢であることに違いはない。
 下層のゲーム盤で使用人をしているのも夢。
 上層の黄金の薔薇庭園で魔女の客人をしているのも夢。
 夢の中の住人は夢から出られない。
 よって、そこがどこだろうと夢の中。
 魔女が夢の下層から上層へ魂だけを移動させただけ。


「別れの時、そなたの記憶を奪った。しかし、妾はそなたのルームメイトだったことを忘れぬ。……そして、そなたとの友情を、妾の方から一方的に破棄し、立ち去ったことも忘れはせぬ。」
「だからこそ、一人残すそなたに悲しみを与えぬために、妾との日々の記憶も世界も、全てを消し去ったのだ。」
「……………………。」
「わかろうとしないで良い…。ただ、これだけは信じよ。妾はそなたに危害を加えるために、ここに呼んだのではない。」
「こ、ここは私の夢の中、ではないのですか…?」
「夢の中と思って良い。厳密には、眠ったそなたの魂を、我が庭園に招いたのだ。そなたを、この世界の住人に招くために。」

 どれだけ夢を紡ぎ、物語の中に登場させても、現実の紗音には何の影響もない。
 物語は生み出しただけでは何の意味もない。
 誰かに読まれなければ、世界を共有することは不可能。
 誰も知らない物語など、誰が読もうと思うものか。
 つまりはそういうこと。
 皆は他の物語に夢中なのである。


「……この黄金の薔薇庭園を完成させた今、妾は至ったのだ。此処こそが、理想郷。そう、ここを黄金の理想郷と名付けよう。その完成に至ったからこそ、そなたを迎えに来たのだ。もう、何の不自由も、忍耐も努力も必要ない。ここでそなたと妾は永遠に、いつまでも楽しく過ごすのだ。そして、終わりのないおとぎ話のようにな……。」

 無限の魔法で、無限に物語を紡ぐ。
 この時点でそれが完成していたのだろう。
 足りないのは、それを読む読者だけ。


「ここは、私の世界ではありませんので。」
「それは認める。これまではそなたの世界ではなかった。だから妾が招くのだ!」
「これより、ここは妾とそなたの世界となる。そなたはもう客人ではない。この世界の、もう一人の主となるのだ。妾にも何の遠慮も無用。この無限の世界で、かつてのルームメイトだった時のように過ごすだけの話……。」

 人は皆、自分だけの世界を持っている。
 物語を読み他の世界で遊んでも、いずれ自分の世界に帰る。
 ベアトが求めたのは、自分の世界のもう一人の主になってくれること。
 それはつまり、共に物語を紡ぎ、一緒に世界を生み出し、両目で真実を視ること。
 魔女のゲームの対戦相手。
 あるいは、ミステリーの書き手と読み手の関係。


「…………わからぬ、わからぬっ。……妾は全てを無限に手に入れられる、偉大なる黄金の魔女っ。その妾に、そなたは手に入れられぬものがあると、そう申すのか。」
「………はい。」
「知りたいっ。全てを手に入れたと信じる妾が、未だ手に入れておらぬものとは何なのか、教えよ…!」
「多分、……あなたはもう、それをご存知と思います。だから、私をここへ招いてくれたのではないですか…?」

 自分以外の誰かを必要とする。
 他の誰かに認められることで満たされる。
 愛によって世界は満たされる。
 愛されない物語に意味はあるのか。


「これは、………何だと言うのか。」
“紗音。……これが、ニンゲンの世界の、楽しいことだというのか。”
“この訳のわからぬはしゃぎ合いが、そなたの見つけたものだというのか。”
「子供同士が群れて、馬鹿馬鹿しい遊びに熱中し、下らぬ話題で盛り上がる。……これが、そなたの見つけた、魔女の悦楽にも勝る、ニンゲンの悦楽だというのか。」
「………はい。あなたには、これが楽しくは見えませんか?」
「退屈とは言わぬ。だが、この低俗なはしゃぎ合いが、全ての望みを叶えられる妾の理想郷よりも勝るとは、……解せぬ。」
「人と触れ合うことは、……とても楽しいことなんです。もちろん、あなたの世界も楽しいものだと思います。それでも、……私はこちらを選びます。」

 他者との触れ合い。交流。
 新しい物語はそこから生まれる。
 出会いこそが、物語の始まりなのだから。
 どんなに高尚な物語だろうと、誰にも共有・共感されなければ、そこからは何も生まれない。
 低俗であろと、それを共感・共有してくれる人がたくさんいれば、そこから色々なものがたくさん生まれるのだ。


「……教えよ。………そなたは、このような低俗なはしゃぎ合いの中に、何を見つけたというのか。」
「………………………。知りたいですか…?」
「知りたいっ。」
「恋です。」
「こ、…………い……………?」


「それを、犯人が自白する前に推理できるようになってなきゃ駄目なんだ。動機がないと思われていた人物が、推理不能な動機により事件に及ぶってのは、俺は個人的にはアンフェアだと思ってる。」

「ホワイダニットを大切にしない推理小説ってのは、何だか一味足りないように思う。……いや、つまらないって言ってんじゃない。……何て言うのか、……一番大切な物が足りないような気がするんだ。」
「一番大切なものが、足りない……?」
「心だよ。心が、足りない。」


 ベアトの悪戯の謎は、フーとハウが主だったと思う。
 ホワイは言葉や表情、人間関係、過去の経歴など、そんなところから類するもの。
 19人目やヤスにはそんなものは提示できない、していない。
 自分が生み出した物語には、心が足りない。
 それを自覚した。


「人の心ってのは、すごく重要だと思うんだ。人間が、殺人を決意し、計画し準備し、実行に踏み切るには、ものすごく大きな心の力が必要なはずなんだ。人は、心で動いているんだぜ。」
“……即ち。人を殺せるのは心だけなんだ。”
“殺したいほどの感情の高ぶりの挙句に、起こるのが殺人という悲劇なんだ。”
“裏を返せば、殺人という悲劇に至らしめた心を探ることこそ、事件に迫るってことじゃねぇのかな。”
“心だけが、人を殺せる。”
“そして、人が殺されたなら、心を探らなければならないんだと。”
“彼はそう言った。”

 現実で19人目が殺したのは、ベアトリーチェだけ。
 つまり、それに至るまでの心を探って欲しいということ。

 さらに言おう、“心だけが、人を殺せる”のならば、その心に殺されたベアトリーチェは人だということ。
 人ならば心があり、その心によってゲーム盤のニンゲンたちは殺された。
 その心を推理して欲しい。
 推理可能であるというのなら、心はあるのだ。
 心は与えられるのだ。

 あぁ、ならばなぜ、心を与え人として生み出した者を殺したのか。
 推理可能か、不可能か。
 可能ならば心は存在し、不可能ならば心など存在しないのだ。


「………殺すに値する、充分な心の動きを描いた作品が、お好きだと?」
「そうさ。そしてそれを推理させてくれる作品が、俺は本当は一番、好きなんだ。」

 好きな作品。好きな物語。
 そう言ってもらえる物語に、したい、なりたい、生み出したい。


「心ってやつを、俺は蔑ろにしたくない。………人は、心で動いてるんだからな。」
「……そうですね。仰る通りだと思います……。」
“ミステリーだけに、限らない。人は誰だって、何にだって、心で動いている。”
“それを察することが、人との交流、……いや、心の交流なのだ。”
“私たち人間は、誰もひとりでは生きられない。なのに、相手の心を覗く術を持たない。”
“だから、人との出会いの数だけ、…………心のミステリーがある。”
“それに触れ、推理し、理解し合うことで、人は心は、交流できるのだ。”

 心を蔑ろにしないと言った男にこそ、心を推理して欲しい。
 これは恋なのかもしれない。
 男女の恋ではないかもしれないが、書き手と読み手との恋に違いない。
 自分たちの心を全て託した物語を読んで解いて欲しい。
 そのためにも人の心を推理し、心の交流をし、物語を紡ごう。

 ここから人の心の動きに重点を置いた物語が作られていったんだろうな。


“これは、ベアトリーチェを演じる者の、仮の姿。”
“ベアトリーチェの正体に未だ至れぬ者へのまやかし……。”

 ベアトを演じる者とは、ベアトの正体を演じる者という意味。
 なので前者と後者は別物。
 だから仮の姿がまやかしになる。


「あぁ、そうだろうな。……誰にも、理解は出来ねぇだろうよ。……こいつも、もはや誰にも理解してもらえるとは思ってねェ。だからお前なんだ。……だからベルンカステルは、お前とこいつ、出会うはずのない自分同士を、こうして出合わせたんだ。」

 自分同士にしか解らない動機。
 出会うはずのない自分同士を出合わせる。
 すっごいヒントだよな、これ。


「誰にも理解できない動機だから、理御。せめてお前だけは理解しろ。この物語の主役は俺じゃない。お前だ。………俺は、お前の理解を助けるための、介助役に過ぎねェ。」





 試される日。

「…………明日夢さんは気の毒だったが、……生まれてくる子を考えれば、これは偶然のタイミングだったかもしれんね。」
「まるで明日夢が、……それを知って、自分から舞台を降りたかのようだ。………俺が明日夢を殺したのか…? ………だとしたら俺は、……いつから殺してたんだろうな…。」
「明日夢さんを大事に思う気持ちがまだあるなら。……何年かけてでも、戦人くんと復縁したまえ。」
「………あぁ。……わかってる。」
「そして、霧江さんと、生まれてくる子にも、等しい愛情を注ぎなさい。……明日夢さんの十字架を、背負いながらね。」

 読み手の立場から見ると、ヤスとその間に生まれる真実のために、19人目が舞台を降りたと解釈できる。
 そして、いつから19人目を殺していたんだろうな、ということになる。

 だが、書き手の立場から見ると、十字架というのをEP8の入水と繋げて、ヤスが舞台から降りた話に見える。
 ベアトを殺して島を出る八城は、ではいつからベアトを殺すつもりだったのかと言われれば、まさに“いつから殺してたんだろうな”になる。
 そして、戦人との復縁は、ヤスとの間で生み出した真実との復縁と見ることができる。


“それは、……新しい人生を踏み出すための決意。”
“しかし、こうしてしっかりと私の選ぼうとする未来を想像して、初めて私は理解する。”
“私は、この未来に踏み出そうという決意を、自覚しなければならなかったのだ。”

 それを物語で描いているのだから、作者もまたそれについて考えているのだろう。
 19人目が作家となり、ヤスと共に物語を紡ぎ合う未来。
 その新しい物語を紡ぎ合うために、今の物語に結末を与える決意。
 そのための道筋と準備を始めたのだろう。





 恋の芽、恋の根。

“……日中はまったく覚えていないのに、夢の世界では、これが再会だと不思議に理解できた。”
“魔女たちは気の毒そうな顔をしていた。”
“きっと今日、戦人が来てくれると励ましたのに、彼が来なくて、結果として嘘を吐くことになってしまったのを、悔やんでいるように見えた。”

 ベアトが励ましの声を掛けていたのは虚偽の世界のこと。
 よって、その相手は虚偽の世界の紗音である。
 つまり、現実の紗音は関係ない。

 要は、ヤスが勝手にそう解釈して、そういう物語を紡いでいるだけであるということ。
 自分に都合の良い物語を作っているということを忘れてはならない。
 励ました妾が悪いから恋の芽を妾に移せばいい、とかな。
 都合よすぎだぞ、その設定。


「私たち、恋人作るのは一緒だからね?! 絶対ッ、絶対だぜ?! 嘘吐いたら、針千本飲ーます!!」

 19人目とヤスの、二人同時に真実に成ること成就させるという願いは、例えるならそんな感じのもの。


“眩い光が少しずつ収まると、紗音とベアトリーチェは向かい合ったまま、プラネタリウムのような、広大な星空の球体に飲み込まれていた。”
“漆黒の星空の海に、二人だけ。”
“………紗音は、この光景をどこかで一度、見たことがある気がするが、思い出せなかった。”
“そして、我は再び宣言する。”

 紗音とベアトの二人だけの世界に、第三者である“我”が出てくる。
 まあつまりは、世界の外側にいる造物主、19人目なのだが。


「世界を、変更。……恋の芽を、紗音からベアトリーチェに。」
“これで、紗音は恋の根に、もう苛まれずに済む。”
“そしてさらに、新しい宇宙を築くために、……弟を与える。”
“弟の設定は、福音の家で仲の良かった、年下の男の子。”
“名前は、……………福音の家のルールに従い、音の一字を与えよう。”
“………うん、決めた。……紗音と相性のいい、ぴったりの名前だ。”
“彼は、……寡黙で無口な男の子。右代宮家には、新しい使用人としてやって来た。”
“そして、紗音とすぐに打ち解ける。”
“紗音を姉と慕う義理堅い彼は、いつも紗音の味方になってくれる……。”
“源治と同じように、金蔵に直接仕えることが許されている、特別な使用人と言うことにしよう。”
“……うん。何だか、かっこいい。”
“そして、ベアトリーチェ。これからはあなたが、恋の芽を受け継ぐ。”
“それはつまり、……戦人に恋焦がれ、彼を待つという役目が、あなたになったということ。”
“あなたは、六軒島の夜に君臨する魔女であると同時に。右代宮戦人を、3年前のあの日から、ずっと待ち続けているのです。”
“その姿も、設定の変更に伴い、新しいものに変えましょう…。
“彼は、どんな容姿の女性が好きか、話していたことがありましたね。”
“……それは、外国のモデルのような、金髪で髪が長くて、スタイルの良い女性。”
“金髪で。髪が長くて。スタイルが良くて。”
“……そう。そんな感じ。それが、新しいベアトリーチェの姿です。”

 紗音からベアトに恋の芽を移したから、嘉音を作り与えた。
 そんな感じの物語にしているが、現実では逆だろう。
 嘉音がやってきたから、それに合わせて物語の設定を変更したと考えるのが自然。

 紗音に寄り添う嘉音は、19人目に寄り添うヤスの重ね合わせ。
 動機を推理してもらうための設定づくりの一環だろう。
 恋の芽を移すのもそう。


“さぁ、胸には、戦人を待ち続ける、恋の芽を。”
“……これであなたはようやく、痛みと引き換えに、恋を知ります。”
“さぁ、これが、新しい世界の設定。”
“紗音には、弟のような新しい使用人がやって来る。彼は、寡黙で無口な男の子。紗音を姉と慕う義理堅い子。”
“そして紗音を苛んだ恋の芽は、……魔女、ベアトリーチェに。”
“恋の芽は預かっているだけ。”
“でも、預かっている間は、あなたは戦人に恋い焦がれる、一人の乙女になる。”
“その間、あなたは恋を知ることが出来る……。”
“さぁ、世界を変更。”
“あぁ、我は我にして我等なり。”
“目覚めなさい、我等たち。”
“そして新しい世界に羽ばたきなさい……。”

 心を得る、それは即ち、動機を得るということ。
 それは一人の人間としてあるために必要なもの。
 19人目は、ヤスの物語を完結させるために、全力を尽くして物語を作っているのだ。
 そう、物語には、相応しい結末、相応しい死に方がある。
 それを迎えるために。





 黄金郷への旅立ち。

「………これが、………ベアト…リーチェ…。」
“妾は、その巨大な肖像画に描かれた貴婦人に魂を奪われる。それは、まさにその通りだったかもしれない。”
“魂が奪われるというより、……魂が、より相応しい、在るべき場所へ戻るというべきか。”

 物語の中では、肖像画より姿を得た。
 しかし、現実では19人目が魔女の装いをして絵を描かせた。
 つまり、現実19人目(魔女Ver) → 肖像画 → 物語でベアトが姿を得る、という感じ。


“彼の人生は、あの日のベアトリーチェとの出会いで、初めて幕を開けた。”
“そして彼女らが去ってからも、金蔵は真っ暗になった舞台の上で、たったひとり、待ち続けているのだ。”
“全てを手に入れ、全てを成し遂げた老王が、最後の最後まで手に入れようと足掻き、そして指の間をすり抜けるように逃がしてきた、たった一つの元素。”
“その元素さえ得られれば、……もはや彼の人生には、何もいらなかった。”
“結局、彼の人生は。……たった一つの元素こそが、人間を構成する唯一の元素であることを知るためのものだったのかもしれない。”

 ベアトも同様の経緯で奇跡を願う。
 19人目の真里亞と出会うことで幕を開け。
 19人目の真里亞が去った舞台の上で、たったひとり待ち続ける。
 愛こそが人間を構成する唯一の元素であると知ったがゆえに。


「真里亞が生み、妾が育てる、か。……ふむ。これぞ、マリアージュ・ソルシエールであるな!」

 19人目の真里亞が生み、ヤスが育てる。


“存在を生み出し、名前を与え、姿を与える。”
“それは、新しい生命を生み出すことと、何も変わらない。”
“ニンゲンは子を生むことで姿を与え、名を与えることで認識し、世界を育むことで、その存在を深めていく。”
“まったく同じことを、マリアージュ・ソルシエールはしている。”
“我等の世界では、思い描いた存在が自由に生み出せ、それは姿を得て、名前を得て、我等の共通の友人となるのだ。”
“我等はこの、マリアージュ・ソルシエールという世界の遊びに、夢中だった。”

 一人目が、魔法でニンゲンを生み出す。
 二人目が、そのニンゲンを愛し育てる。


“宇宙を生み出すには、二人いる。今の妾には、その二人目がいるからこそ、満たされているのだ。”
“……………。”
“……満ちては、いると思う。”
“しかし、ほんのわずかに、……満たない。”
“それは本当にほんのわずか。”
“だって、こうして真里亞と一緒に遊んでいる時は、時が経つのも忘れるほどに楽しい。”
“しかし、なのに、……ふと空を仰ぐ時、……その、わずかな隙間に、何とも言えない空虚な気持ちを感じるのだ…。”
“わかっている…。”
“妾の宇宙は、満たされてはいないのだ。”
“それは、………真里亞には本当に申し訳ないが。……妾が求める、宇宙を生み出す二人目が、真里亞ではないからだ。”
“……真里亞とどれほど宇宙を育もうとも、……胸の中の、恋の根が、その隙間を開ける。”

 19人目の真里亞とヤスで二人揃っている。
 しかし、19人目は一人目であり、ヤスはその被造物であるのだ。
 故に、不完全。
 満たされそうで、満たない。
 だから、本当の二人目が必要で、それを戦人と定めている。


“……この不完全な宇宙さえも、今の妾には、永らえるために重要なもの。”
“妾は、完全な宇宙を得るその日まで、永らえねばならぬ。”
“その日まで、……妾は完全には、満たないのだ。姿を持ち、名前を持ち、……どれほどに世界を深めても、……妾は満たないのだ。”

 姿を持ち、名前を持ち、どれほど世界を深めても、ニンゲンには満たない。
 二人目の愛によってのみ満たされる。


「それは、魔力が足りないからだよ。」
“真里亞が即答する。”
“ベアトリーチェは、魔力を失っていて、往年の力が取り戻せずにいる。”
“そういうことになっていた。だから、真里亞の返答は、まさにその通りなのだ。”
“………そうだな。”
“妾は、魔力を失っているから、満たないのかも知れぬな。”
“ならば、魔力が満ち、……真の意味で復活を遂げたならその時。……妾の世界は満ちるのか。”
“それはつまり、………妾の望む、宇宙を育むもう一人の相手が、帰って来てくれるということなのか。”
“……もし、妾が本当に、自らがそう名乗るように、かつて、奇跡を自在に操る魔法を思いのままにしたならば。”
“復活を遂げたなら、必ずや、その奇跡を起こすだろう。”
“それが出来るなら、………妾は復活のため、本当の魔力を手に入れたい。”
「……そうだな。魔力が、足りないからであるな。」
「可哀想に。……ベアトはまだ魔力が弱いから、色々と不自由なんだね。」
「早く、……取り戻したいものだな。……かつての魔力を。」
「やっぱり、………あれをやらなくちゃいけないんだよ。」
「……あれとは、何か…?」
「復活の儀式。………肖像画の碑文の儀式だよ。」

「……あの碑文の謎を解けば、かつて妾が金蔵に与えた、莫大な黄金の隠し場所が知れよう。」
「ベアトが魔法で生み出した黄金だよね?」
「そうだ。魔力に満ち溢れし日の、魔力の結晶である。」
「じゃあ、……その黄金を取り戻せば、ベアトの魔力は、元に戻るんだね。」
「………そう、なるかも知れぬな。」

 事件において、魔法説のベアトは魔法でどうにかなる。
 19人目にはアリバイは不要。共犯は金蔵のみで十分。
 ヤスだけがアリバイに縛られる。
 つまり、ヤスには共犯が必要だということ。
 そのために、ヤスに碑文を解かせる必要がある。
 ので、そういう物語を紡いでいるのだろう。

 碑文の黄金は。
 魔法説では、真里亞が言う通りの解釈で。
 ヤスでは、共犯者システムで。
 19人目では、黄金の真実で。
 表裏を合わせることができる。





 魔女の蘇る日。

“碑文の謎を解けば、自分は復活を遂げる。”
“……そういうことにしたのは、自分のはず。”
“なのに、……これは本当に、………ベアトリーチェが復活する、儀式だったのだ…。”
“自分は魔法で、運命を作り出せると信じていた。”
“その魔法を自在に操れる私が、……運命に導かれて、ここへやって来たなんて…。”
“私は今こそ、本当の意味での、運命という言葉を信じざるを得なかった…。”

 ゲーム盤上の駒であるヤスがそう決めた。
 だから、その上層のプレイヤーであるヤスがそう物語を紡いだ。
 あるいは、さらに上層の神たる真里亞が、かもしれない。


“金蔵は半生をかけて求めた贖罪の時を、今、ようやく得たのだ。”
“……人の生は、罪に塗れている。”
“だから人は、生ある内に、許しを得たいと思っている。しかし多くの場合、許しを与えられる人は、この世にいない。”
“彼の場合も、そうだった。すでにこの世に、いなかった。……それが、奇跡によって紡がれて、今、それを得たのだ…。”
「おぉおおぉぉ、ベアトリーチェ…。……ベアトリーチェ……。…たとえ許してくれなくてもいい、何も言わなくてもいい…! 私はッ、……お前にただ一言ッ、謝れればそれでよかった……! ぉぉぉおぉぉおぉ………。」
“金蔵はいつまでも、ドレスの裾を握り締めて、泣き続けた。”
“人の罪は、許しで許されるのではない。悔いることで、許されるのだ。”
“……彼の何かの罪が、咎が、……私の姿を通して許されたと、信じたい…。”

 19人目の右代宮真里亞もそう。
 物語を終わらせることができずに亡くなったヤスに、贖罪するために生きてきた。
 だからこそ今、ヤスの物語を終わらせる。
 そしてただ一言、謝りたかったのだ。


“では、……今日という日は、いつかやがて必ず訪れる、約束の日だったというのだろうか……?”
“私にはもう、何もわからない。”
“全ては、神様の奇跡。”
“約束された運命が、私をあるべき日へ誘ったのだ。”

 この世界の神が起こした奇跡。
 約束された運命。
 まさしく、その通り。
 約束を果たしたから、この物語は綴られたのだ。


「………我が子、理御よ………。……今日までお前の運命を弄んだのは全て私の罪のせいだ。……許しておくれ…。……そなたは今や、我が指輪を受け継ぎ、正しく新しい、右代宮家の当主である。」

 駒であるヤスの運命を弄んだのは、上層の魔女であり、神である。
 即ち、19人目の真里亞の罪。
 当主の引継ぎは、カケラの領主の引継ぎ。
 つまり、ヤスが真実と成り、19人目の真実はなくなる。


「私を、…………お父様と、………呼んでくれぬか。」
「…………………………、」
「……呼べぬ気持ちはわかる…。……私はそなたに何も父らしいことをしなかった。そしてそなたもまた、父など知らずに育った。……とても口に出来る言葉ではないとわかっている。そして、それを求める資格が、私にないこともわかっている。………だが、それを承知で、……頼む……。……それさえ聞けたなら、……もう私に、何の未練もない……。」

 お母様と呼んでくれないか、だな。
 別の運命を辿った自分ではあるが、自分が生み出した娘である。
 母としての想いを遂げたいという願い。


「ありがとう、……理御。我が子よ……。………そしてベアトリーチェ。最後に、許しを請う機会を与えてくれて、……ありがとう………。」
「……もちろん、これしきで許されたとは思いはせぬ。……続きは地獄の業火で焼かれながらとしようではないか。………右代宮金蔵ッ、我が生に一切の未練なしッ!! もはや何もなし! 心残りも遣り残しも何もなし!! わはは、……わっははははっはっはっはッ!! わあっはっはっはっはっはっはっはっはッ!!!」
“金蔵は天を見上げながら、喝采する客席に向かって両手を上げて応えるかのような仕草をしながら、……大きな声で笑い続ける。”
“それは、この世の一切の未練から解放された者だけが知る、最期の、愉悦。

 娘への感謝。
 想いを遂げたことを、私も祝福の拍手を送ろう。


「お館様は、……あるいはもう、ずっと以前にお亡くなりになっていたのです。……それを、お館様の魔法と執念で、……今日までを永らえていたに過ぎないのです。……そして、………ベアトリーチェさまに謝罪する機会をようやく得て、………全てを、終えられたのでしょう…。」

 恋の決闘で19人目の真里亞が負けることは、前から決まっていた。
 だから、恋の決闘をするまでを執念で永らえてきた。


「この島で、………これまでと同じように、待っていたいだけなのです。これまでと同じに、……何も変わらずに。………それだけが、私の望みです。」

“あぁ、我こそは我にして我等なり。”
“我は、黄金の魔女ベアトリーチェ。”
“この六軒島の真の支配者にして、………無限の黄金の所有者。”
“でも何も満たされず。”
“……たった一人の想い人が帰って来てくれる日を、待っています……。”

 何も変わらずに待つ。
 猫箱に閉じ込められた後も。
 奇跡が起こり、物語に結末が与えられるまで。





 魔女幻想、散る。

“ルーレットに、身を委ねたといった方が、正しいかもしれない。”
“私は、私たちは、……自分たちの運命さえ決められなくて。全てを運命に託したのです。”
“誰かが、報われるかもしれない。”
“あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない。”
“さもなくば誰かがこの愚行を、止めてくれるかもしれない。”

 19人目かヤス、どちらかが報われるかもしれない。
 両方結ばれれば、解放される。
 二人で一人だから、両方結ばれないと、解放にならないのだろう。

 さもなくば誰かがそれを止める。
 止めるのは、ルーレットに委ねる前に、ならば、島の連中が止める必要があった。
 委ねている最中なら、EP6で恋の決闘が描かれる前に、読者が真相に至ることで、なのか。


「そんな顔をしないで。そして、あなたが私でなかったことを、どうか喜んで。私もまた、あなたが私でないことを、喜んでいるのですから。」
「………生きます。……あなたの、分まで…。」

 これは19人目とヤスのやりとりと解釈すべきだろう。


「ミステリーは、探偵が引導を渡さなきゃ、死ねないのよ。」

 物語は、結末が描かれなければ、終わらない。
 ミステリーでは、謎が解かれること。


「………わかった。……土より生まれた者は、土に帰る。……お前の全てを、土に帰そう。」
「土は土に。灰は灰に、塵は塵に。幻は幻に。そして、夢は夢に。」
「………………あぁ。」

 土より生まれたのは人間。
 幻は魔女幻想。
 夢は冒頭でもあるように、ヤスの物語。

 夢は夢に。
 然れども、土より人は生まれ、人より夢は生まれ、ならば覚めぬ夢は土に帰そう。
 やっぱウィルは、真相を理解していて態とヤスの方の謎を解いていたとしてもおかしくはないな。


「………綺麗だ………。」
「散り際くらい、そうありたいと誰だって願うわ。」
“金の雪はまるで、舞台のフィナーレを飾る、紙吹雪のよう。彼女という舞台は今、……幕を閉じようとしていた。”

 綺麗に物語に幕を下ろす。
 そのために彼女は生きてきた。
 そして、それは果たされたのだ。


“そこには、物語を終えたクレルが立っていた。”
“そして、ゆっくりと、……やわらかに、………観客席へ向けて、会釈をした。”
“拍手が、広がる。”
“彼女の、語り終えた長い長い物語に、労いの盛大な拍手が送られた。”
“いつまでも。………いつまでも。”
“ゆっくりと舞台は、忘却の闇で暗転していく。”
“深々と会釈を続けるクレルは、……終わらない拍手を浴びながら、闇と幕の向こうに、……消えていった。”

 長い長いヤスの物語を終えた彼女は、即ち19人目の真里亞。
 ヤスの物語が真実と成ったがゆえ、彼女の物語は忘却の闇へと消える。
 それを覚悟で、ヤスの物語を語り終えた。
 それが彼女という駒に与えられた役割だから。
 ゆえに拍手を送ろう。


“……人は、罪と生まれ、誰かに許してもらうために、生きていく。”
“あるいは、謎と生まれ、誰かに解いてもらうために、生きていく。”

 前者は主に19人目、後者は主にヤス。
 今回の物語ではそんな感じの配分で描かれていた。


“彼女の謎は、未練なく、………全てがここに、解き明かされる。”
“人は、謎なのだ。”
“誰かに、自分の謎を、解いてもらいたいのだ。”
“自分という、世界でもっとも難解な謎を、誰かに解いてもらいたいと思いながら、生きている。”
“自分という謎に、誰か向かい合って欲しい。そして、それを解いて欲しい。”
“彼女のそれは今、叶えられた……。”
“………もう、彼女の魂は、迷わない。”
“猫箱の棺で、永遠に安らかに眠れ………。”

 ヤスは依り代の紗音ごと死んでいたのだが、謎を解かれなかったから死にきれずに迷い出た。
 それがつまり、メッセージボトルであり偽書。
 それが解かれたことで、ヤスは猫箱の中で安らかに眠ることができた。
 これでヤスの物語は終わり。

 なのに、まだ物語は続く。
 それはまだ物語が残っているから。
 まだ謎が残っているから。
 まだ罪が残っているから。
 亡霊の物語を執筆している人物についてが、まだ。


「いいわよ、改めないで。………私は退屈しのぎのために、あの子のゲームに乗った。……そして、負けはしたけれど、楽しく遊ばせてもらった。」
「……あの子はそのゲーム盤を、畳まずに逝ってしまった。………私は遊ばせてもらった礼と、敗者の務めとして、最期の片付けを引き受けただけよ。」

 ベルンは魔女のゲームのプレイヤーであるヤスの成れの果て。
 ベアトのゲームで遊び、駒のヤスの物語を紡いだ。
 駒であるヤスは1986年に死に、しかし解かれなかったために物語として死にきれなかった。
 後年、その物語を八城が執筆。
 その巫女であるベルンがヤスの物語の結末を紡いだ。
 という感じ。


「この、絡まった恋の物語を、絶対の意思で、終わられる。……その絶対の意思に、絶対の魔女が微笑んで、あの子を二日間だけの魔女にした。」
「……私はその二日間という限られた時間の中だけで、無限に広がる万華鏡を楽しませてもらった。……私は祝福しないから、奇跡は起きない。………でも、その結末さえも、あの子が望んだものよ。」

 19人目とヤスの絡まった恋の物語。
 それを絶対の意思で終わらせるために、無限に物語は紡がれた。
 そして、ヤスが勝ち、19人目が負けて終わった。
 二つの物語はそれで終わり。
 それはそれでいい。
 だが、その終わりは、ベルンの望む奇跡ではない。
 100:100で二つの物語が並び立ち、それらの物語を紡いだ執筆者の真実へと至る奇跡。
 それがまだ残っている。


「……無限の物語は、一体、どの真実で、本当は終わったんでしょう。」
「さぁな。……それを決め付けないのが、猫箱ってもんだ。」
「開けば、屋敷は跡形も残らず、絵羽を除いて誰も生き残れない物語。……絵羽は何も語らず死んだ以上、全ては猫箱の中。………有限の箱の中に仕舞われる、無限の可能性。」
「……こうして思うと。彼女が生きて、そして死んだ島そのものが、黄金郷だったのかもしれませんね。」
「猫箱を黄金郷と呼ぶならね。……そして、その猫箱の中で考え得る、もっとも楽しい物語を、戦人は書いたわ。」
「……ベアトリーチェの棺に収められた、その本か。」
「そうよ。………彼が思い描いた、彼女がもっとも幸せな物語。」
「とても楽しくて、愛に満ちた、……幸せな物語でした。……私も、あの物語が、……棺には一番、相応しいと思います。」

 戦人が紡いだ物語はEP6のこと。
 そこで黄金の魔女は復活を果たした。
 つまり、ヤスの新しい物語が紡がれ、それを紡ぐプレイヤーが復活したことを意味する。
 EP7では、その新しいヤスの物語と、古いヤスの物語を重ね、古い物語を終わらせるもの。
 復活したヤスのプレイヤーは、ヤスの新しい物語で、ヤス亡き後のヤスの魔法を引き継いだ戦人=十八の未来を描くわけである。


「今、来るぜ。今日はさんざんだったな。親父の葬式ごっこに付き合うのも疲れるぜ。」
「そんなこと言っちゃ駄目よ。大事なセレモニーだったわ。」
「そうね。お父様にとって、大切な儀式だったと思うわ。」

 物語を終わらせるための、大事なセレモニー。
 ひとつの区切りだったと思う。


“雲の隙間からの木漏れ日が神秘的で、……まるで天国への階段のように見えた。”

 二つの物語を終わらせて、それらの執筆者の真実がある天国へ。
 クレルを鍵としてその扉を開く。
 物語は終わり、現実が顔を表す。
 って感じか。





 お茶会。客席。

“この物語が始まる前。確かに舞台の上には、クレルが姿を現した。”
“彼女こそは異なる運命の世界の、自分の分身であり、ベアトリーチェのゲームという物語の語り部だ。”
“しかし、彼女はその全てをウィルに託し、謎の全てを解かれたはず。”
“その彼女にはもはや、新しい謎掛けをする必要などないはずなんだ……。”

 うん、謎は解かれ、物語は終わりを迎えた。
 でも、クレルは物語の語り部であって、物語そのものではない。
 だからこれは、物語ではなく、現実の謎。
 現実の人間である、ベアトを演じた者の謎。


“……では、この物語は、ベルンカステルが私を試している…?”
“私は、少なくともウィルと一緒に物語の深部に触れ、犯人の心まで理解した。”
“その自分からすれば、たとえ未知なる物語であったとしても、謎は見破れるだろう。”

 ヤスの物語の謎ならば、そう。
 だが、これは違う。
 そして、だからこその試しだろう。
 物語の背後にいる、物語を綴る執筆者の存在に至っているかどうかの。





 お茶会。黄金を見つける前。

「そうね。あの怪しげな手紙は、私たちの結束を乱すのが狙いでしょうね。踊らされれば踊らされるほど、ベアトリーチェなる差出人の思う壷だわ。」

 真犯人の思惑に踊らなかったから、物語から外れた、みたいな感じだろうか。


「君を生涯、愛することを誓う。……若い今だけじゃない。老いて、お墓に入るまでの全てを愛し、君を幸せにすることを誓うよ。」

 いつも通り、19人目とヤスについてとして解釈する。
 ヤスの謎のことなら、まさに墓までだったな。
 蘇ったヤスのプレイヤーのことなら、そのために蘇らせたのだろうしな。


「………僕は本当にみっともないね。今日、君に指輪を渡す時、断られるかもしれないと怯えた。」
「どうしてですか。……私が譲治さんの指輪を、どうして拒むと?」
「戦人くんが、帰ってきたからさ。君は本当は、いまでも戦人くんのことが好きで……。……彼が帰ってきた今、僕は用済みなんじゃないかなって、………怯えたんだ。」

 物語内で戦人はヤスの謎を解き、ヤスと結ばれた。
 つまり、事件の12年後に、謎を解くはずの戦人は帰ってきたことになる。

 19人目の真里亞である八城は、ヤスを蘇らせ、結ばれたわけだが。
 そもそもヤスの物語は戦人に解かれるために生み出された。
 つまり、八城は物語の中の戦人に嫉妬しているわけだ。


「…………譲治さん? これをご覧下さい。私の薬指に輝く、この銀色の輝きです。これは何ですか?」
「……そうだよね。ごめん。僕は、何を動揺しているんだろうね。……6年ぶりの再会で、さらにカッコよくなった彼に、また嫉妬していたんだろうね。……情けないよ。」
「うぅん、いいんです。その気持ちは即ち、……私を誰にも渡したくないという、譲治さんの強い気持ちの表れなんですから。……もし、私の気持ちが戦人さまに移るのではないかと怯えるなら。そんなことを絶対に思わせないくらいに、強く愛して下さい。……私が、あなた以外の男性のことを考える暇なんかないくらいに、愛して下さい。」

 新しいヤスの物語を愛す。
 若しくは、ヤスの物語を紡ぎ出すプレイヤーを愛する。
 生涯そういう作家として生きていくのだろう。


「私だって、怖いんです。私より魅力的な女性なんて、これからもいくらでも現れるでしょう。あるいは、至らぬ私に愛想を尽かすこともあるかもしれない。生涯、あなたの気持ちを私だけに繋ぎ止めていられるか、怖いんです。」
「それを君が怯える必要はないよ。僕は君を生涯、愛し抜くことを誓う。」
「私もそれを誓ったのに、戦人さまが帰ってきたら、信じられなくなりましたね。」
“紗音がくすりと笑うと、譲治もようやく、自分の気弱な言葉が彼女を傷つけていたことに気付く…。”

 他の魅力的な物語を作っても、ベアトの無限の物語よりも魅力のある物語というのはそうはないだろう。
 さらに本人は、そのゲームで永遠に遊べるだろうし。


「……私は、右代宮譲治さんという素敵な方を射止めました。そして、生涯、私を愛すると誓わせ、それを誓う指輪をこうして贈らせました。その指輪を、こうして薬指に通した上で、正直に告白します。」
「うん。」
「私は、確かに仰る通り。……6年前、戦人さまのことが、好きでした。多分、譲治さんより、好きだったと思います。」
「でも。それは6年前の話です。今の話では、ありません。戦人さまへのその気持ちは、この6年間で整理され、思い出と一緒に過去へ、決別したのです。今の私は、あなたを愛するためだけに存在します。」
“紗音はきっぱりと、そう言い切る…。”
“譲治は一度だけ頼りなく笑う。多分、それは6年前の譲治が浮かべた笑いだ。”
“そして背筋を毅然と伸ばし、無言で紗音を抱く。それは彼にとって、6年前の自分と決別した瞬間だった……。

 まぁ、戦人に解かれるために生み出された物語だし、当時はそうなのだろう。
 でも12年もの間、ヤスと一緒になるために、約束を守るために頑張っているのを見てきたのだろうしな。うん。
 でも、このヤスってベルンでいいのだろうか?
 デレたんかな。





 お茶会。黄金発見時。

“碑文の謎が解かれた時、……ベアトアリーチェの魔女幻想は、終わったのだ。”
“彼女の悲壮なその決意は、恐らく、その場にいる誰にも理解では出来ないだろう。”
“……恐らく、理解できるのは、自分だけ。”
“自分の中にいる自分たちにだけでも、せめてわかってもらえれば、それでいい。”
“……我は我にして我等なり。”
“無限の結果を紡ぎ出す魔法のルーレットに身を任せた。”
“その結果の答えが、これなのだ。”
“碑文の儀式という名のタロットカードが示したもの。”
“……もはや、ベアトリーチェは死んでいる。”
“彼らが殺したのではない。”
“運命に従い、……私が私で、殺したのだ。”
“彼らには、わかるまい………、永遠に。”

 誰にも理解できない動機だから、せめて別の自分には。
 その別の自分たちは自分の中にいる。

 まぁ、普通の人間には理解できないだろうな。
 別の運命を辿った自分という駒を生み出し遊ぶ魔女のゲームなど。
 そして、その別の自分と絆を深め、励まし合いながら生きてきたなど。
 挙句の果てには、その別の自分を殺し、後で蘇らせようなんて。
 理解できようはずもない。
 理解できるようなら、こんなことにはならなかっただろうから。

 そもそもだ。
 黄金の分配の話なんかよりも、自分たちを殺そうとした女の動機の方が気になんねーのか、と。
 どこの誰で、何でここにいて、いつからここにいて、いつから殺そうとしていて、何で殺そうとしたのか。
 心を蔑ろにするなと。
 まずやるべきことは、全員を集めて黄金を発見したことを報告し、魔女の扱いについて全員で相談することだろう。
 そうすれば、事情を知っているヤツ数人と、心を蔑ろにしない戦人がいるからどうにかなったかも。
 あと起爆装置だけは壊しとけ。
 安心して眠れやしねー。


「騙す気もありませんが、信じろとも言いません。……私は全てを差し出し、全てを明かしています。何を信じ、どうしようと、それはもう、新しい黄金の主である皆さんが決めることです。私の言うことを何も信じず、この場を立ち去ることさえ、皆さんの自由です。」

 これは読者にも向けて言っているんだろうな。
 信じる信じないは自分で決めること。
 どう信じるかさえ読者の勝手。

 全てを明らかにはした。
 ただし抑揚はつけたけど。
 騙す気はないけれど、読者が勝手に騙されることはあると。


「何でそうだってわかるのよ?! こいつの余裕が気に入らないのよ! まるで、もう全てに勝利したかのようだわ?! ……私、今ふと思ったの!! 爆弾のスイッチとかいうの、オンとオフが逆じゃないの?!」

 ルーレットとしては実はこれが勝利の目。
 物語、ゲームとしては、これ以上紡げなくなったので負け。
 でもこの負けこそが、物語を蘇らせようという奮起に繋がる。
 負けによって絶対の意思が宿り、約束された絶対の奇跡に至らせるだろう。
 故に、これは勝利なのだ。


“絵羽にとって、今日まで積み上げてきた生活と会社、そして信用は、一度失えばお金では買い戻せないものだ。”
“だから、47億ごと全てを吹き飛ばしてでも、蔵臼たちの死をなかったことにしたい…!”

 19人目にとっても同様かな。
 ここまでゲームを積み重ね、延々と物語を紡いできた。
 一度失えば、金で買い戻せない。
 だから、ベアトの死をなかったことにしたい。
 その死を誤魔化している間、どうにか物語を紡ぐことができるから。





 お茶会。霧江と留弗夫の殺人劇。

「じゃあ、うまいこと言い含める言い訳を考えてね。私は縁寿のことを考える。あなたは戦人くんのことを考える。公平でしょ?」
「ん、………あぁ。」
「私、自分の子供にはやさしいけれど。……明日夢さんの子供にまでやさしくするの、結構、大変なの、わかってるでしょ?」
「………………………。」
“霧江の声が、一際、冷たく刺さる。”
“霧江が戦人に温かく接するのは、無論、大人としての対応だ。”
“留弗夫にとっての子供でもあるから、邪険にしないだけのこと。”
“一皮を剥けば、死してなお憎い明日夢の子供なのだ。”
“縁寿を産み、新しい家族をようやく築けた彼女にとって、……戦人が帰ってきたのは、本当に喜ばしいことだったのだろうか……。”

 これは、あれかな。
 作者と読者の間の子、即ち、真実あるいは物語のことかな。
 確かに私は、19人目の真実は私の子として愛しているが、ヤスの真実は19人目の子だろうと見ている。
 そして真実同士は互いを否定し合う性質があるがゆえに、敵視する気持ちがないと言ったら嘘になるかもしれない。

 でも今は、私のものかそうではないかということより、2つ寄り添っていることこそが重要であると思えるようになった。
 ヤスの真実それ単体であれば愛でられない。
 しかし、2つ揃ってなら愛でられる。
 2つで1つなのだと、今なら思える。


“留弗夫の覚悟を、量る為だった。”
“手を汚すのが全て自分で、留弗夫はただ見ているだけでは、彼の心に覚悟が宿らない。”
“彼自身に自らの手を汚させることで、彼に本当の覚悟をさせることが出来るのだ。”
“……霧江は、そういう心の駆け引きを、誰よりも深く理解していた。”

 この魔女のゲームもそう。
 真実同士は否定し合うもので、自分の世界の中において、他の真実を殺す覚悟がないと100%の真実にはならない。
 その真実と共にする覚悟。
 プレイヤーのその覚悟を量るための試練が、プレイヤーにとっての恋の決闘であった。
 つまり、八城であり右代宮真里亞でもあるGMは、そういう心の駆け引きを、誰よりも理解しているのだろう。


「これで日当が10億出るなら、ちょろい仕事じゃねぇか。……親父がよく言ってたぜ。男は人生で一度、人を殺す覚悟を以って臨む日が訪れるってな。」
「常に、相手を殺してでも生き残る覚悟を持て、よね。……お父様の言葉の中で、一番好きな言葉よ。」

 ヤスを殺す覚悟。
 ヤスを殺して生き延びる覚悟。


“ゲームは、メッセージと同じなのだ。”
“それはある意味、遠回しな恋文にも似る。伝えたいたった一つのことを、いくつものゲームを重ねて語る。”
“しかしもう、私たちは理解している。閉ざされた二日間の猫箱からは、無限の物語が湧き出すことを、知っている。”
“そしてさらに、私は犯人も動機も知っている。その上、それはすでに解明され、このゲームには関わってさえいない。”
「猫箱の物語という解を、私たちは二人とも得ているんです…! だから、これ以上、このようなゲームを繰り返す必要はないはずです…!! もしこれがあなたと私たちのゲームだというなら、私たちはすでに答えを得ている…!! ゲームは終了していいはずです!!」

 この物語は、ヤスに向けた恋文。
 そして、共に2つの物語を生み出すための読み手を探すためのもの。

 しかし、それは果たされ、そして、ここでは物語が紡がれる前に殺された。
 つまりは、物語に上塗りされなかった現実の出来事。
 だけどまだ終わらない。
 物語の続きを紡ぐために。
 当時はできなかったが、今ならできる。
 この“現実”を“物語”で上書きすることが。

 まぁ、それがEP8というわけだ。


「………そういうことなの。ここでこうしていると、いとこ部屋での大はしゃぎが聞こえてくるようだわ。………………くす。」
“霧江が何を言っているのか、猫箱の外の人間たちには、永遠にわかるまい。”
“爆発事故という猫箱で閉ざす彼女だけが、その真の意味を理解している……。”

 猫箱の中では、真実を上塗りすることができる。
 何度も何度も。
 その上塗りのし合いでゲームができるほどに。


「…………………。……そう。……目立ちたがり屋なのに、ここ一番で頼りない人ね。……やっぱり、あの人は私がいないと駄目なのね。」

 これを読み手を失った書き手として読み解いていく。
 読み手を誘導し、やる気を引き出したり、成長させたり。
 それはこのゲームの書き手の力量によると言えるからなぁ。


「……私にはわからないわ。あなたも、自分のお腹を痛めて子を産んだ経験を持つ、母のはず。命の尊さを、知らないわけがない…! そのあなたがどうして、これだけのことが出来るの…!」
「子供なんて。勝手に出来るわ。」

 書き手にとって、子とは物語。
 物語なんて勝手にできあがるものなのかもしれない。
 まぁ、ある意味では、だけど。


「子はかすがい、って言うわよね。」
「それが何?!」
「子は、夫を繋ぎ止めておくための、かすがいなのよ。……留弗夫さんに、私のことを認めさせ、あの女から彼を取り戻すための、かすがいだった。」
「でも、留弗夫さんはあなたが殺したわ。だったら、………わかるでしょう?」
「わかるって、……どういう意味!」
「私はもう。誰かの妻でもないし、母のつもりもない、ということよ。……私は私。霧江。留弗夫さんが死んだ今、右代宮でさえないわ。私は私の、得になるように生きる。」

 書き手にとって、子とは物語。
 ならば、夫とは読み手のこと。
 読み手に自分のことを認めさせること、物語はそのためのかすがいだった。
 だが、読み手として選ばれた戦人は死んだ。
 ならばもう、戦人のための書き手である必要はない。
 自分だけのために、自由に物語を書くことができるのだ。


「そうね、留弗夫は死んで、あんたは妻ではなくなったかもしれない。でも、縁寿ちゃんがいるでしょう…?! あんたはまだ、母であり続けるはずよ…!」
「言ったでしょ、かすがい、って。留弗夫さんがいなくなった今、縁寿は私にとって、必要なものじゃないわ。」
「……あ、……あんた……、それが、母親が子に対して言うことなのッ?!」
「絵羽姉さん。やめましょうよ。綺麗事は。」
「綺麗事…?!」
「私たちって、子供が欲しくて結婚したの? 違うでしょ? 好きな男と一緒に暮らしたいから、結婚したんでしょ? そして、結婚したんなら、その男を一生、手放したくないと思うでしょ? 子供は、そのための武器じゃない。」
「そんなこと考えて、子供作ったりなんかしないわよ…!!」
「そんなこと考えて、子供を作ることも出来るのよ。」

 特定の読み手のために生み出した物語は、その読み手がいなくなった時点で意味をなくす。
 読み手と一緒に楽しむために、物語が必要だった。
 ならば、読み手がいない今、必要ないのだ。
 物語は、読み手を繋ぎとめるための武器。
 そんなことを考えて、物語を作ることもできる。


「縁寿なんて、留弗夫さんを縛り付けるための、ただの鎖。……あるいは、家族ごっこをするための、子供の役という名の駒。……私にとって縁寿は、留弗夫さんの前で良い母を演じる時に必要な駒なだけよ。」

 プレイヤーを対戦席に縛り付けるための鎖。
 ゲームで遊ぶための、犯人という役。
 魔女を演じる時に必要な駒なだけ。


「…あんたッ、……それを縁寿ちゃんの前で言える?!」
「さすがに気の毒だから、本人には言わないわ。悪いお母さんを許してね、とでも書いて、姿を眩ますつもり。楼座さんと真里亞ちゃんを見ればわかるでしょ? 留弗夫さんがいない今、縁寿なんて私を縛る鎖なだけ。」
「……私は元の、たった一人の霧江に戻り、のんびりと余生を楽しむつもりよ。新しい挑戦、新しい人生。ひょっとしたら、新しい恋もあるかもね? くすくす…………。」

 ヤスに縛られない新しい物語。
 そんな作家としての人生。


「……それでも人間なの……。……それでも縁寿ちゃんの母なの?!」
「くすくすくす。縁寿なんか知ったことじゃないわよ。あんな、クソガキ。可愛いと思ったことなんて、一度だってないわよ。」
「……あ、……あんたって人は……。」
「あなただって、もう、家族ごっこから解放されたでしょう? 謳歌しましょうよ、女の自由を。感謝してほしいわ、譲治くんも、殺してあげたんだから。」
「こっ、……この、………人でなしがぁああぁああぁあぁ!!」
「あっはっはははハっはヒャっはハぁあぁあああああああぁああぁあッ!!!」

 19人目の負の側面。
 あるいはそれに支配されたイフの19人目。
 ニンゲンだと認められたいという願いすらを捨てた、人でなし。


「…………縁寿ちゃんのためにも、……そこで死になさい。………あんたは、爆発事故で死ぬ。死ぬ直前の瞬間まで、置いてきた娘のことを心配していた。……そう、刻むわ。猫箱の蓋の上にね………。」
「…………………………………。」
“霧江はそれを聞き、……口から血を零しながら、ニヤリと笑って、何かを言い返したらしい。”
“しかしその声は、喉に空いた穴から、ごぼごぼと血を零すだけで、言葉にはならなかった……。

 この人でなしの19人目の真里亞は、ヤスの物語のためにも、そこで死ぬべきであると。
 そんな負の感情など猫箱の中に封じて、上書きしてしまえばいい。
 そしてこう書き記すのだ。
 19人目の右代宮真里亞は、死ぬ直前までヤスのことを心配していたのだと。

 要は、ルーレットに選ばれた現実が、ベアトことヤスを殺すことだった。
 その事実を猫箱に閉じ込めることで、真実を上書きできるようにした。
 そして12年越しに、第6のゲームで読者に認めさせてヤスを蘇らせた。
 即ち、ヤスは生きていると上書きした。
 それにより、猫箱の中の自分を葬ることだと知りながら。

 つまり、ゲームのスタート時点は実はここであり、やっとそこに戻ってきた。
 ヤスが死に19人目が生き残るのを、ヤスが生き19人目が死ぬ物語に書き換えたのだ。
 そこから新しく物語を続けるために。





  お茶会。客席。

「……理御。私はゲームマスターじゃないと、何度言えばわかるの?」
「ではクレルだと言うのですか?! そんなはずはない…!!」
「えぇ。そんなはずはもちろんないわ。だって。クレルは死んだもの。………私たちはその葬儀に立ち会ったはず、忘れた……?」
「では、そこに立っている彼女は一体……。」
「死体よ。剥製じゃないわ。だからもちろん、中身がある。……綺麗な姿で隠しているけれど内側には、どろどろのハラワタが詰まってる。」

 まずはクレルとベアトとベルンの関係をまとめる。

 3組による恋の決闘。
 ヤスの謎を解いてもらいその物語を終わらせたいと願ったのが、ベアト。
 19人目の真里亞の謎を解いてもらいその物語を終わらせたいと願ったのが、クレル。
 2人揃って物語の続きを紡ぎたいのが、ベルン。

 クレルはベアトの依り代。
 よって別人。
 ベアトの謎を解いてその物語を終わらせ、それによって自身の謎を殺しその物語を終わらせた。
 つまり、あれはベアトの葬儀であると同時に、クレルの葬儀でもあった。

 あれは12年ごしの恋の決闘の結果。
 1986年に終わるはずだった2つの物語は、終わるに終われず、1996年になってやっと終わることができた。
 しかし、ベルンは物語の続きを欲している。
 だから“終わり”を踏み躙って“続き”をやるのだ。


「あっははははははははは、あーっはっはっはははははははははははは!! 真実ってそんなにも尊いものなの? 馬鹿らしい、愚かしい!!」
「どうしてニンゲンは真実を自在に出来ないのかしら。馬鹿みたいにそれだけを追い求め、そして目の当たりにして堪えられず、自ら屑肉と成り果てる!!」

 真実に堪え、魔女となり、ゲーム盤の真実を自在に塗り替える。
 物語の続きを紡ぐために、死んでいる暇などないのだから。


「ねぇ、見えてる? クレル? ………あなたもたま、この真実を隠したかったのよね?」
「あなたは戯れに、憧れる推理小説のラストのように、メッセージボトルに封じるつもりで、猫箱の物語をいくつも書いていた。それをあなたは、海に投じたわ。この真実を知ったら苦しむだろう者を救うためにね…!!」

 この真実とは、ベアトを生み出した者がベアトを殺したこと。
 だからその真実を知って悲しむ者とはベアト。
 自身が生き延びるために、ベアトを見捨てたなんて、ベアトは知りたくないだろう。
 クレルは、ベアトを生み出した者の、ベアトと共に物語を終わらせたかった側面。
 クレルは、その真実をベアトに知らせないために、メッセージボトルを流し。
 そして、知られる前に、物語を終わりまで辿り着かせ、共に死んだ。


「あなたが猫箱で閉ざし、絵羽がそれを錠前で閉じた。くすくすくす!! その箱を、私が切り裂いてあげたわ…!!」
「あっははははははははははッ、あんたが隠した全てが無駄ッ!! あんたが死んで隠した真実を、全て暴き出してやったわッ!! あっはははははははっはっはっはっはっはッ!!」

 願い通り、終わらせた。
 だから次は、続きの番。
 これまでは、死んだ者のための物語だった。
 これからは、生きている者のための物語。
 そのために、猫箱の中で全部閉じ込められたのではなく、その外へ出た者がいることを示さなければならない。
 手掛かりがなくては、ミステリーにならないのだから。


「それが、……あなたの目的だったと言うのですか?! あなたは、……クレルの死を、辱めるためだけに、このようなことをしたというのですか!! そしてそれを、……縁寿に見せて苦しめて…! やはりあなたは、……邪悪な魔女だった!!」
「私は最初から魔女よ。退屈から逃れることだけが目的の旅人。……生きては愛でて、死しては喰らって二度愛でる。それが魔女の生き様よッ!」

 死んで終われる。諦めて終われる。
 そんな別の自分に対して思うことはあってもおかしくない。
 だってベルンは、絶対に諦めないことを強いられているのだから。
 無数に死んだ自分たちの真実を、無念を喰らって生き延びねばならないのだから。
 そうして、一度で終わる死を無限に繰り返し、その先を、続きを紡いでいるのだから。


「理御。それでも、クレルにとってあなたは希望なのよ。死してなおね。」
「………………!」
「クレルは崖より投じられた時、すでに運命の袋小路に閉じ込められていた。そんな彼女にとって、あなたというもう一人の自分が、異なる世界では幸せに生きていたことを知れたのは、さぞや救いになったでしょうね。」
「……そうです。私は、彼女の救いなんです…! だから、彼女の分まで一生懸命に、幸せに生きなければならないんです…!」

 運命の袋小路に閉じ込められたクレルの希望は、その外に出ているベアトを殺した別のクレル。
 即ち、八城のこと。
 あるいは、その八城に付いているヤスのこと。


「そして、夜には親族会議だわ。………あなたは二十歳になったら、当主を継承するのだったわね? それは親族たちの間でも、円満に決まってることなのかしら…?」

「さすがに円満だとは信じてないようね。そういうことよ。……金蔵があなたを目に入れても痛くないほどに可愛がり、特例的に当主の座をあなたに直接、継承しようとしている。そのことを、親族兄弟たちが面白く思っているわけない。」

“そこで金蔵は今夜の親族会議で、ある難題を吹っ掛けるつもりだった……。”

 まぁ、つまり、金蔵が仕組んだ惨劇。
 猫箱を閉ざす仕掛けを作ったのは金蔵。
 よって、ベアトの猫箱の外の大きい猫箱は金蔵の。
 1986年が期限なのは金蔵が決めていたことで、ベアトのはそれに合わせたのだろう。


“決して出られぬ牢獄の鉄格子の先に見えるわずかな空に、ベアトリーチェという魔女は、幸せになれたかもしれない世界を夢想した…。”
“しかし、その鉄格子の先の空は、…………またしても、牢の中だったのだ……。”

 ベアトは虚偽の世界の住人。
 よって、その外は真実の世界。
 でもその世界もまた猫箱の中。
 虚偽は猫箱の中で真実と成り、猫箱の外に出ることを望む。


「ベアトにゲームで負けたから、腹いせで。……くすくすくすくす!! あぁ、これで少しは負けたムカツキも晴れてきたわ…! ねぇ、ベアト、見てる? 見えてる?! そして覚えてる?! あなたには、絶対に奇跡は起きないって、私、約束したわよね?!」

 物語の続きを望むベルンが、物語を終わらせることを望むベアトに負ける形になったのは、腹が立っただろうな。
 まぁ、茶番なのだが。
 ベアトの物語の続きを望むベルンには、一度ベアトの真実で決着させなければならなかったのだから。
 そして、袋小路の中で諦めたベアトに奇跡など起きない。
 奇跡は生きて足掻いている別の自分が叶えるのだから。

 
「……お前が、いい話で終わらせるわけがねェ。そこまでベアトリーチェが憎いか。」
「私が勝ち逃げなんて許すと思う…? 私に敗北の屈辱を味わわせてくれた分、たっぷりとお返しをしないとね。私、根に持つと百年は忘れないわよ。」
「根の暗ぇヤツだ。」
「私の心を蔑ろにしないで欲しいわね。……くっすくすくすくすくす!!」

 猫箱の中の猫がベアト。
 猫箱の中の無数の猫の女王がベルン。
 無数の猫の死を喰らい生き延びることを強いられた、共食いの猫。
 それを強いる無数の猫は憎いだろうさ。
 死ねば、諦めれば、楽になれるのだから。
 死んで勝ち逃げなんて許せるはずがない。
 どうして、そこまでして生き延びなければならないのか。
 それは無数の自分の無念を背負っているから。
 その心を推理せよ。


「私の遊びを邪魔するの……?」
「てめぇは神じゃねぇ。出来るのは運命を嘲笑うことだけだ。………理御の運命は理御が決める。人間の運命を、玩具にするんじゃねェ。」

 遊びとはゲーム。
 神はフェザリーヌ。
 理御は八城のゲーム盤に置かれた新生ヤスに重ね合わされている。
 これはそのヤスを駒として、ベアトの物語の続きを紡ぐゲーム。


“しかし、奇跡の魔女が、絶対に奇跡はないと保証したその未来の楔は、あまりに強固にして無慈悲……。”
“理御の胸を、わずかずつ、そして確実に貫いていく……。”
「……いいか。……俺が一瞬だけ包囲を破る。そしたら全力で走れ。どこまでも真っ直ぐな。方向は大事じゃない。ここから遠ざかることだけを意識して、ただひたすらにどこまでも走れ。」

 己を閉じ込める猫箱という名の運命の袋小路。
 猫箱の中にいては、絶対の運命に殺される。
 それより逃れる。
 どこでもいい、どこかの未来に辿り着くために。


「……………可能な限り……、努力します……。……無理な時は、……許して下さい………。」
「……無理な時? 弱音を吐くな。俺が許さねェ。クレルが許さねェ。」
「……お前はクレルの、237万8917分の1の希望だろうが。お前が諦めたら、お前は無数の世界のお前たちを裏切るんだ……!! だから挫けるんじゃねぇ、足掻いて足掻くんだよ…!! 奇跡を探すんじゃねぇ、お前が奇跡になるんだッ!!」
「……私が、………奇跡に………。」
「お前は幸せな未来へ辿り着くんだよ。挫けるんじゃねェ、弱音を吐くんじゃねェ。もう一度弱音を言ってみろ。今度は俺がお前の尻を抓ってやる…!」
「…………は、………はい……。」

 無数の自分の願いを背負って、奇跡に辿り着くために足掻く、ヤスの道程。


「霧江と留弗夫が犯人で、島の人間を皆殺しにした? 理御を客間に呼び出して射殺した? 悪ぃな、そんな“真実”とやらを、ミステリーが認めるわけには行かねェ。こいつは全て、ファンタジーだ。」
「ファンタジー? そういうことにして、理御の運命を逃れさせるつもり? やってご覧なさいな。くっくくくくく、くっすくすくすくすくす!! あっはははっははっははははははは、ひぃヤっはぁああぁっはァあああアぁああぁッ!!!」
「第1則、手掛かり全ての揃わぬ事件を禁ず。」
“……ウィルの黒い刃は確かにベルンカステルの体を、斜めに切断したはず。”
“しかしまるで、水面に映る月を斬るかのように、……それは意味を為さない。”

 水面に映る月とは、ベアトのこと。
 ベアト=ベルン。
 即ち、ファンタジーのふりをしたミステリー。


「なぁに? 手掛かりって?」
「霧江と留弗夫が犯人だとする、お前の“ミステリー”を、認めない。……霧江たちが犯人であることを示す手掛かりは、何れのゲーム中にも存在しない。」
「あるわけないじゃない。あったとしても、島は丸ごと吹き飛んだんだし。」
「つまり手掛かりなしってわけだな。ならばそれはミステリーじゃねぇ。ファンタジーだ。」
「……はぁ…?」
“立証できない真実は、ニンゲンの世界では真実と成り得ない。”
“即ち、真実さえも、猫箱の外には出られないのだ。”

 第7のゲームは、ベアト殺人事件を解くミステリー。
 だから留弗夫と霧江の殺人は主題じゃない。
 誰がベアトを殺したのか。
 その手掛かりは、全て揃っている。


「戦うのさえも馬鹿らしい。おいで、ゲロカス。好きなだけ、私を斬ってご覧なさい。あんたの言い分、全部、聞いてあげるわ。」
「………貴様の、心を蔑ろにしたミステリーを全て貫く、二十の楔。くれてやらぁ。」
「二十の楔で私を倒せなかった時は、………覚悟することね? くすくす、さぁ、おいで。遊んであげるわ、……二十の楔とやら!」

 第1則。手掛かり全ての揃わぬ事件を禁ず。
 第7則。死体なき事件であることを禁ず。
 ベアト殺人事件はこれをクリアしている。
 他の事件も同様。
 クリア。

 第9則。探偵が複数あることを禁ず。
 第11則。使用人が犯人であることを禁ず。
 これらもクリア。

 第12則。真犯人が複数であることを禁ず。
 真犯人は19人目の右代宮真里亞。金蔵は共犯にすぎない。
 クリア。


 漫画版。
 第16則。物語に必要以上の描写は入れるべきではない。
 クリア。
 全てヒントだから。


 真相解明読本から引用。
 第2則。作者が故意に読者を欺いてはならない。
 これは確か、作中の人物によるトリックならありだったはず。
 メッセージボトルの執筆者は物語の中で描かれている。
 よってクリア。

 第3則。物語に不必要に恋愛要素を加えるべきではない。
 物語に描かれた恋愛要素は推理に必要だった。
 クリア。

 第4則。探偵自身、もしくは捜査当局の人間が犯人であってはならない。
 第5のゲームにおいて、真犯人は探偵となったが、そのゲームでは殺人を犯す犯人ではない。
 クリア。

 第5則。偶然や動機のなき自白によって事件を解決してはならない。
 動機は全て物語の中に記してある。
 クリア。

 第6則。探偵小説には探偵役が登場しなければならない。
 第8則。犯罪の解明に占いや心霊術、読心術などを用いてはいけない。
 これらもクリア。

 第10則。犯人は物語の中で有用な役割を演じている人物でなければならない。
 真犯人は第1のゲームからベアトを演じていた。
 クリア。

 第13則。秘密結社の類は登場させるべきではない。それらが登場するのは冒険小説やスパイ小説である。
 第14則。未発見の元素や、想像上のみに存在する毒物などを犯行に使用してはならない。
 これらもクリア。

 第15則。物語の最終章に辿り着くまでに真相を察しえるよう、事件の真相は明白でなければならない。
 真相は明白。
 クリア。

 第17則。職業的犯罪者を犯人にすることは避けるべきである。
 第18則。事件の真相が、事故あるいは自殺であるべきではない。
 これらもクリア。


 第19則。探偵小説における犯罪は個人的動機に拠るもので、読者の日常生活を反映したものでなければならない。国際的陰謀や政治犯罪などはスパイ小説の類が扱うべきものである。
 要するに、組織的な犯罪ではなく、個人的な動機による犯罪であればいい。
 クリア。

 第20則。以下のような展開は使い古されているため、避けるべきである。
 略。
 これらも全てクリア。
 特筆すると、タバコの銘柄から犯人特定に引っ掛かりそうだけれど、EP3のあれは絵羽も秀吉も犯人ではなく、ただの冤罪に過ぎないので、クリアしている。

 そんなわけで、一応、全てクリアしているはず。
 だからこれはミステリー。





 お茶会。カケラの海。

“気付けば、まるで星の海を思わせるような、……あるいは、星を散らした深海のようなところを駆け抜けていた。”
“気を許せば、転びそうになる。”
“いや、気を許せば、走っているのか、それとも、自分は走っているつもりになっているだけで、実は自由落下しているのか、……星の海をどこまでも沈んでいるだけなのではないか、わからなくなる。”
“どこを目指すわけでもなく、ただただ、理御は走った。”
“足を止めるわけには行かない。ここで倒れるわけには行かない。”
“自分が倒れれば、……無数の世界の自分たちの希望を、潰えさせることになる…。”
“ベアトリーチェたちが望んだ、幸せな世界。”
“自分だけが、……その世界へ辿り着くことが出来る、最後の希望なのだ…。”
“……それが、わかっていても、…………奇跡を司る魔女に、奇跡はないと宣告されて突きつけられた“真実”は、あまりに冷酷に、……理御の胸を抉る……。”

 カケラの海。
 19人目の真里亞の世界。
 走るとは、考えること。
 考え続けることで、生き延びる。
 無限にカケラを生み出して繋ぎ合わせ、いつかどこかの未来に辿り着くために。
 それが無数の世界の自分たちの希望。
 奇跡の魔女が宣告した“真実”は、ベアトを演じた者がベアトを殺すというもの。


「……ごめんなさい、……本当にごめんなさい……。……でも、……私はあの日、あそこで、殺される運命だった……。」
「そうだな。人は誰だって、最期には死ぬ運命だ。なら、その人生は全て無意味なのか?」
「違うだろ。人生の意味も、価値も、人生そのものすらも、人が自分で描くんだ。……押し付けられた運命が何だってんだ。受け入れるな。世界はお前が紡げ、自らで…!」

 ベアト即ちヤスは、19人目に殺された。
 だからベアトは1986年に死ぬ。
 そう運命に刻まれた。
 だが、死ねば無意味になるのか。
 死後にも物語は続く。
 あるいは、死に方を塗り替えることができる。
 自分で自分の結末までを描くことができるのだ。


「………ウィル、……あなたの、左腕……!」
「あぁ、……忘れて来ちまった。取りに帰るのも億劫だ。」

 左腕は、第4のゲームのベアトの心臓。
 それを犠牲にして、生き延びたということは。
 このウィルには、ヤスの主が重ね合わされている。
 二つの心臓は、ベアトの主の魂を支える二本の柱。
 自分の方の真実を犠牲にして、ヤスの方の真実を守った。


“片腕で理御を抱え上げている。刀は抜けない。”
“しかしウィルは理御を下ろさない。”
“……絶対に理御を、ここから逃げ延びさせ、ベアトリーチェたちが夢見た、幸せな物語に辿り着かせる。”

 主は、残された右腕でヤスを抱え、下ろさない。
 絶対に、ベアトたちが夢見た、幸せな物語に辿り着かせる。


「クソッタレな、お涙頂戴のミステリーばかりに飽きたからだよ。………ハッピーエンド上等、逃げ延びてやるぜ。」
「俺が教えてやるんだよ。バッドエンドしかないと絶望して死んだベアトリーチェに、ハッピーエンドもありえるんだって教えてやるんだ。だから絶対にお前を、下ろさねェ。」

 そのために、主は、八城は作家になって偽書を書いているのだ。


「猫ども、左の二の腕もくれてやるぜ。欲しけりゃ両足もくれてやる。……だがな、絶対ェに理御だけは放さねェ。……俺が、這ってでもこいつを、お前というバッドエンドから逃がしてやる……!」
「いいの、理御? ウィルは、あんたを庇って死ぬ気よ? 嫌でしょう? 私なんか放って逃げて下さいって、お言いなさいよ。」

 猫は、死んだベアトたち。
 ベアトを逃さない死の運命。
 右腕、即ち、ヤスの真実以外はくれてやる。
 這ってでもヤスをバッドエンドから逃がしてやる。
 そういう決意。
 ヤスに問い掛けられたのは、EP4の三択。
 駒さえ諦めれば主だけは助かるのだと。


「……私を、…………離さないで下さい……ッ。……逃げ延びます、絶対に! そして、あなたも…!!」
「それでいい」
“その言葉に、ウィルは理御を力強く抱きかかえる。”
「というわけだ。足掻くぜ、ベルンカステル。」
「私たちは、奇跡を諦めない…!!」
「絶対に奇跡は訪れないと奇跡の魔女が約束したのに、それをよくも口に出来たこと。………くすくすくす、うっふふふっはっはっはっははははははッ!! さよなら、二人とも。忘却の深遠で死すら迎えられずに、埃に降り積もられて消え去りなさい!!」

 互いが互いを絶対に諦めない。
 決断は成された。
 それに対して、最期の壁としてベルンが塞がる。
 奇跡がなくば、二人揃った幸せな物語は生まれず、忘却の深遠に消え去る。
 奇跡への道筋を作った者として、それが奇跡に相応しいか試すために。





 裏お茶会。

“チェス盤の上に置かれた白い駒が2つ。”
“……それを取り囲む無数の黒い駒は、もはやマスの上にさえ収まらずに、ぎっしりと取り囲んでいる。”
“そしてその白い駒2つを、ベルンカステルは指で突いてパタリと倒し、……盤の外へ取り除く。”

 黒の駒に囲まれたゲーム盤は、前に書いた考えぬ者を嵌め殺すもの。
 ヤスの真実を認めたがゆえに、その幻想によって殺される。
 ヤス一人では奇跡に満たないのだ。
 ヤスと19人目の真里亞が揃って奇跡なのだから。
 そんなわけで、無くした左腕を、読み手、プレイヤーが補えばいい。
 二人揃って、ニンゲンだと認められ、今も新たにヤスの物語を紡いでいける。
 そんな奇跡。


「………うむ。やはりそなたの朗読は耳に馴染むぞ、我が巫女よ。」

 やはり特別なんだよな。
 定位置に戻ったって感じなのだろう。


「あんたのお望み通り、ハラワタの内側まで掻き出してやった。答え合わせには、これで充分でしょう?」
「うむ。……実に満足しているぞ。そなたが明かした答えを鍵に、これまでの物語を遡り、まるで宝石箱のような密室の数々を、一つずつ開いていこう。」
「………鍵を得ることは楽しい。そして、その鍵で個々を開いていくことは、もっと楽しい。ご苦労であった、我が巫女よ。これより先は、私ひとりでゆっくりと思考を楽しみたい。もう充分であるぞ……。」


「ふっふふふふ………。天晴れであったぞ、ベルンカステル。可愛い可愛い、我が巫女よ……。」

 可愛い娘だもんな。
 万感の思いが籠っているんだろうな。


「あら、ラムダ。いたの? いるわよね、私のいるところなら、どこへでも。」

 フェザリーヌとベルンとラムダの関係はどんなのだろう?
 フェザリーヌが主で、ベルンがその巫女であるのは確定。
 これで19人目とヤスの二人を最低限満たすはずだが。
 ベルンとラムダがセットなら。
 ベルンとラムダは、魂を支える二本の柱で、フェザリーヌはその上で支えられている一つの魂という感じか。
 これがしっくりくるかな。

 ってことは、今回左腕であるラムダが犠牲になってるじゃん。
 これがEP8での活躍に繋がるのかも。


“このゲームに、ハッピーエンドは与えない。”

 ゲームにそれが与えられなくても、ゲームをしているプレイヤーたちには与えることができる。
 駒にとってのハッピーエンドではないけれど、そのプレイヤーがハッピーエンドを迎えれば、それは駒にとって幸せなのではないだろうか。





 このEP7で物語の全貌が明かされた。
 私の中でも大分整理がついた気がする。


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  1. 2019/07/20(土) 22:52:35|
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フラット・ホームズ

Author:フラット・ホームズ
「うみねこのなく頃に」の某公式サイトで推理を投稿していた。
その時使っていた名前は察してください。
スタイルは、アンチミステリーをチェス盤で引っ繰り返す、というもの。
キコニアでは、世界を箱庭に見立て、そこにどんな駒を置いたのか、それらを動かして最終的にどういう形に持って行くのか、的な感じのを主にやっている。

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