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うみねこのなく頃に 考察 境界より視やる

PCゲーム「うみねこのなく頃に」の個人的な考察ブログ。「キコニアのなく頃に」についてもガッツリやっている。


EP6の序盤を再読

 結婚式。

「ねぇ、……聞いてる? あんたたち?」
“新郎に、あんたたちと複数形で語りかける。……もちろん、新郎が複数のはずもない。”

 推理する読者、プレイヤーたちに対しての発言。
 その時点で、プレイヤーたちもゲームの当事者ということなのだけど、それを意識できるプレイヤーは少ないだろうな。


「ふ、…は、……はっははははははは…! 出られないですよね、その密室っ。あんたが自分で作った密室なんですからっ。あんたは永遠にその密室で苦しむんです。私は妻として、あなたの側に永遠にいて、その苦悶の表情を独り占めします。」

 自らの心を閉じ込める密室。
 八城もこれに苦しめれているわけだ。
 そして、密室に閉じ込められた主を、妻として永遠に側にいて、苦悶の表情を独り占めにするのは、ヤスだろう。





 誰かが閉じ込められた部屋。

“扉の隙間から、温かな灯りが漏れる。……やはり、廊下には温かな灯りが満ちていた。”
“聞こえるわけじゃないけど、何だか遠くで、温かで楽しそうな気配がする。”
“……きっと、向こうの部屋にみんな集まってるんだ。”
“……自分だけがたった一人、こんな寂しくて薄気味悪い部屋に閉じ込められている…。”

“口をぱくぱくと、“誰か来て”と動かすのだが、そこから言葉が声となって出ないのだ。”

“この部屋から、……出して……、助けて、怖い怖い怖い、出して出して出して、助けて助けて助けて……。”

 明るく皆が集まる外は、人々が認め合ってできた世界。
 一人取り残された暗い部屋は、誰にも認められず魔女の闇の中に閉じ込められた世界。
 声が出ないのは、誰にも助けを求められない状態だということ。
 そして、助けてくれる誰かを求めていること。
 一刻も早く助けて欲しいということ。





 八城十八登場。

「読者など、本を読んでいるふりをしているだけ。……作者名とブランドだけで本を読み、読んだつもりでいる。」
「……彼らには、私の本に何が書いてあっても、何も読んでなんかいない。ただ、今、流行りの作品は欠かさず読んでいるとインテリぶるために読んだふりをしているだけ。……その程度の者どもに、どうして我が身を晒せようか。あぁ、汚らわしきかな汚らわしきかな。」

 まあ、執筆者右代宮真里亞の正体に気付いていない者たちの前には、姿を現わせないわな。
 だって、謎を解いてないもの。
 その資格がない。


“八城十八は、近年、話題になっている推理作家だ。”
“作品自体の評かも高いらしいが、作品以上にミステリアスなデビューで今、脚光を浴びている。”
“彼女は昨年、複数の大手出版社が主催するそれぞれの推理小説大賞に、それぞれ異なる偽名で投稿し、それぞれで大賞を受賞するという快挙を成し遂げた。”
“その後も次々に、低くない評価を受けていた無名作家の作品が、彼女の偽名による過去の作品であると発覚し、作品以上に作家自身がミステリアスであるとして人気が沸騰した。”
“にもかかわらず、作者本人は決して表に出ず、謎のベールに包まれてきたが、つい先日、ついにサイン会にてその姿を現わし、サングラスとマスクで顔を隠した文字通りの覆面作家として、さらに注目を浴びたのだが…。”
“……それさえも、本人ではなかったとは。”

 これら全部ヤスのためだったのだろうが、凄く立派に成長したよな。


“特に、伊藤幾九郎の最初の偽書、「Banquet of the golden witch」は、九羽鳥庵で右代宮絵羽が難を逃れるまでを全て描いており、これこそ六軒島の真実ではないかとさえ囁かれ、ワイドショーでまで取り上げられたことがある…。”
“これらはまだ、ネット上の電子テキストに過ぎないが。”
“……やがて伊藤幾九郎の正体は、八城十八だとわかるだろう。”
“そうなれば、“あの奇人”八城のこおtだから、これはただの創作ではなく。…実は本当に、第三のメッセージボトルも持っていて、それを創作のふりをして発表したのではないか、などということになり、神秘性と信憑性を同時に高めることにさえなるだろう…。”
「……狡猾、ですね。」
「どうして?」
「そうしてあなたは、自分の偽書に神秘性と信憑性を与える。」

 それを得て、物語の続きを、ゲームの続きを綴れる。
 謎に挑戦する読者がいなければならないから。


「あなたは真里亞お姉ちゃんじゃない。ましてや、あの日の六軒島にも存在しない。なのにどうして真実などとおこがましいことを?」

 八城は執筆者右代宮真里亞で、あの日、いたんだよなぁ。


「かつて。私は戦人を通してカケラを鑑賞していた。……しかし、彼がゲームマスターを継承した今、観測者として相応しくないのだ。私は、心より純粋な気持ちで物語を追っている。その私にとって、今の戦人を通して観測するのは、さながら推理小説を逆さに読むにも等しい興ざめ…。」

 自分で作った物語を自分で読んでも意味がない。
 真相を知っているのだから、すべては予定調和。
 真相を知らない“観測者”に、真相を探らせることに意味がある。

 戦人たちのゲームを俯瞰する、さらに上層のゲームの対戦者。
 それがフェザリーヌと縁寿。
 もっと言えば、八城と我々読者。
 ゲームの真実は、両者の目、その両方が揃って初めて生み出される。
 真相を知らないプレイヤーという不確定要素によって、生み出される真実はブレが生じる。
 それこそが未知。だから面白い。


「さっぱりだろう。知りたいであろう。……私も知りたい。戦人がゲームマスターを継承し、紡ぐ物語がどのようなものなのか。…そして、戦人が至ったという真実がどのようなものなのか、私の、自らの思考の旅で追いたいのだ。………私は病の深き身。考えねば鼓動を続けることさえ叶わぬ…。」

 縁寿という駒を自分の内面世界に生み出し、その駒に朗読させることで自分の思考を生み出している。
 何かと対話することで、自分の中に新しい思考を生み出す。
 真相を知っている視点と、真相を知らない視点、その両方で視ることで物語は立体的に見える。
 真相を知らない視点では、どんな幻想の余地があるのか。
 何の幻想を信じているのか。ならその幻想を助長させる方法は?
 どうすれば誤魔化せるのか。
 逆に、どうやって推理させるのか。
 真相に至っている者には理解できるように、しかし至っていない者には別のものに視えるように。

 最後のが分かり易いかな。
 つまり、AにはAの物語が読め、Bにはそれとは異なるBの物語が読めるように。
 考えた者には考えた分だけ、何かが読めるように。
 考えを促し、読み手の解釈を尊重する。
 そんな謎を、物語を作るためにも、読者視点から朗読する駒が、つまりテスターが必要なのだ。

 作者視点は、その真逆。
 読者の考えを誘導し、作者の都合の良い方に持っていく。
 物語の着地点まで読者を連れて行く牽引力を発揮する。
 Aを信じるものにはAの物語が、Bを信じるものにはBの物語が視えるように。

 その2つの視点の対話から物語は生まれる。
 思考は生まれる。


「私の朗読者であるということは、私の使いであるということ。……即ち、そなたへの干渉は私への干渉。私は、ベアトリーチェの物語の続きを読みたいという唯一の興味を、何者にも邪魔されることを許さぬ。……そなたを弄んだ、ベルンカステルもラムダデルタも、無論ベアトリーチェさえも、そなたに対して一切の強制力を持つことは許さない…。」

 八城の内面世界の階層において、フェザリーヌは最上位。
 思考の中枢。
 そして朗読者とは、フェザリーヌに物語を献上し、思考を促す役。
 その思考を邪魔する駒は何人も許さないということだろう。


「そなたは本を読む時、本に、よろしくお願いしますと語りかけてから表紙を捲るか…?」
「……そういうことよね。理解したわ。」
“彼女が、……対話に応じるだけで、それは最大限の敬意と譲歩。

“彼女にとって人の名など、舞い散る落ち葉の一枚一枚に名を認めるのと同じこと。”

 退屈を癒すために、無数の駒を生み出し、そして捨て去ってきたのだろう。
 つまり、名など認める必要がない。
 対話するとは、対等と認めるということ。
 あるいはそれに準じるということ。
 フェザリーヌに対等なのは、ベアト、即ち、ヤス。
 一時的にそれに準じる扱いってところか。





 ゲームが始まる前のベアトの喫茶室。

「……消えたのはプレイヤーのベアトよ。こいつは駒でしょ、戦人の。」

 プレイヤーのベアトは、サクリファイスされた。
 猫箱から八城が出るためには、それが必要だった。
 つまり、消えたプレイヤーのベアトが生み出したゲームはEP4までなのだろう。
 EP5以降は、八城が新しく作って猫箱に放り込んだものじゃないかな。
 だからそれ以降はヤスが犯人ではない。





 フェザリーヌと縁寿。

「この世界での死は2つある。……1つは駒としてゲーム盤より取り除かれること。これはゲームにおける死でしかなく、仕切り直せば、何度でも蘇る命だ。」

「真里亞における、さくたろうが、その駒の最たるものであっただろう。」
「……さくたろうが、お姉ちゃんの駒…?」
“確かに、……そうかもしれない。”
“お姉ちゃんの内面世界という名のゲーム盤では、確かにさくたろうは存在して、お姉ちゃんと常に寄り添っている駒だった。”
“現実の世界では、ただの布と綿のぬいぐるみであっても、お姉ちゃんのゲーム盤では、それは他の駒と何の区別もない、立派な1つの駒なのだ。”
「でも、……どうかしら。…魔女のゲームの駒なら、簡単に生き返らせることが出来るんでしょ。……でも、お姉ちゃんの世界では、さくたろうは蘇ることが出来なかった。」
「……世界でたった一つのぬいぐるみという依り代が失われたからだ。だから、駒の存在条件が崩れ、真里亞のゲームでは復活することが出来なかった。……そなたが、その存在条件を再び満たしてやったからこそ、さくたろうはゲーム盤に甦ることが出来たのではないか。」

 駒であるヤスの依り代は、ヤスを成立させるためのルール。
 探偵の前では、紗音と嘉音が同時に目撃されてはならない、とかの。
 そして、未来においては、紗音と嘉音が死んでいるので、ヤスを蘇らせるのは不可能。


「ゲーム盤の外の存在の死だ。さくたろうの話で続けるなら、この場合は、真里亞の死だ。」
「駒じゃなく、……本当のお姉ちゃんの死、ね。」
「死だけではない。興味や関心の喪失でも同じだ。……真里亞がぬいぐるみ遊びを卒業すれば、ゲームのプレイヤーとしての真里亞は死ぬ。さながら、テレビに飽きてスイッチを切るかのように、簡単にあっさりと。」
「………なるほど。つまり、プレイヤーとしてのベアトは、それまでのゲームで、勝利を完全に諦めたので、……死んで消え去ったわけね。…ならつまり、ベアトが再び、お兄ちゃんに勝てるつもりになって戻ってきたら、生き返るってことだわ。」
「理屈ではそうだ。人も魔女も神さえも。興味と関心を失えばいつでも死ねる。そして、それを取り戻せばいつでも蘇れる。……しかし、神の世界には時間の概念がないから、いつ蘇るも自在だが、矢の如く時が過ぎ去る人の世では、それは容易ではないな…。」
「そうね。1日のズル休みならともかく、3日もサボると、学校に行くのがものすごく億劫になるわ。」
「それが1ヶ月、1年、10年。それこそ、魔女の世界のように、千年にも及んだら?」
「……なるほど。ズル休みもそれだけになればもはや、社会における“死”ね。……それだけの長い間、死んでいたら、社会的な遅れを取り戻せないだけじゃなく、当時のモチベーションだって、絶対に蘇らないわ。」
「……それはつまり、命があっても、一度死んだのと同じことだわ。二度と、……元の自分には戻れない。蘇れない。」
「ベアトは、勝てる道理も希望も全て失った。……それを知りつつ気付かぬふりをし、あれだけのゲームを戦ってきたのだ。だからもう、ベアトは戻らない。彼女の希望は潰えた。気を取り直して再び戦う気力の全てを、もう費やしている。だから。……あのベアトリーチェが蘇ることは、二度とない。」

 ヤスは駒でありながらプレイヤーでもある。
 主である右代宮真里亞のゲームの対戦者として、対等なプレイヤーであると認められていた。
 そして、そのゲームによって世界を生み出していた。

 それが猫箱脱出時、主の身代わりとして死亡。
 ヤスを成立させるルールが崩壊した1986年10月6日以降に、ヤスを成立させることができる希望を喪失した。

 時は流れ、右代宮真里亞は八城十八となり、万全の態勢でヤスを復活させるためにプレイヤーとして復帰。
 数度繰り返したゲームはブランクを埋めるためのものでもあっただろう。


 問題は“あのベアトリーチェが蘇ることは、二度とない”という赤き真実。
 思うにこれは、黄金の真実で上書きすればいいのでは。
 赤き真実で構成される八城の住む世界では復活できずとも、黄金の真実で構成されるヤスの世界では復活させることはできる。
 そして、黄金の真実を皆に認めさせることで、2つの世界は重なり合い、一つの世界となり。
 一つの世界になったと自分が信じられたら、隣にはヤスがいると信じられる。

 さらに言えば、ヤスは主に物語を献上する駒でもある。
 つまり、ヤスが生み出す物語があればよく、その物語でヤスが生存している必要はないのではないか?
 要するに、ヤス死亡後のヤスの世界の未来を紡ぐ、そんなヤスを新しく生み出せばいい。

 そう、ヤスの世界、虚偽の世界では戦人は生存していて十八として存在している。
 そしてその十八は偽書を作成してヤスの真実を探っている。
 その果てに縁寿と再会し、孤児院のホールで黄金郷に辿り着き、十八の中の戦人がヤスと再会する。
 そんな未来を。
 そんなヤスの老後を描くことで、1998年の八城の許へプレイヤーのヤスは蘇るのではないか。


“あの、第5のゲームで、ずっとずっと虚ろな瞳のままぼんやりとしていたベアトはまさに、……彼女の骸だったのだ。”
“それでもゲーム盤に留まったが、……消え去ってしまった…。”
“もしあの時、ラムダデルタでなく、ベアトがゲームマスターだったなら、その時にゲーム盤も消え去り、全ては終わるはずだった。”
“ベアトが戦意を失えば、……このゲームの世界は、消える。”
“しかし、このゲーム盤の世界を遊び続けたい魔女たちが、ラムダデルタがそれを許さず、呪いの枷で彼女を縛った。”
“たとえベアトが戦う意思を失っても、ゲーム盤が消え去らないように、枷で固定したのだ。”
“それはさながら、チェスで言うなら、制限時間を撤廃して無限にしたようなもの。”
“しかし、だからといって、無限にベアトの手番で止まってしまっていては、魔女たちは退屈の病で死んでしまう。”
“だから、ラムダデルタがゲームマスターを引き継いだ。”
“…その時、ベアトの存在が、このゲームの存在する前提条件で、なくなった。

 ヤスがサクリファイスされ、ゲーム盤が崩壊するところを。
 ヤスを蘇らせるという絶対の意志が、ゲーム盤を固定した。
 そして、ヤスを蘇らせるために、ゲームマスターを引き継がせてゲームを再開した。
 だからヤスの存在がゲームから消えた。


“ぬいぐるみごっこは、ぬいぐるみに、自分のもっとも望む人格を投影できる。”
“……しかし、自分が演じるからこそ、一切のイレギュラーがない。”
“望外の喜びを、一切望めないのだ。”
“人の世において、予定調和ほど退屈なものはない。”
“だから、ぬいぐるみは世界で一番のお友達でありながらも、……いつかは飽き、卒業する。”
“お兄ちゃんは、本当のベアトでないと嫌だったのだ。”
“ベアトのふりをさせるぬいぐるみでは、堪えられなかったのだ…。”
「戦人の駒として生み出されたベアトは、戦人の望むとおりに動くだろう。」
「駒なんだから当然だわ。プレイヤーの指す通りに動く。……そして、それ以外では、一切動かない。……お兄ちゃんが何を望んでるのかはわかるわ。じゃあ、このおかしなベアトは何者なの。」
「……戦人は、ベアトを本当の意味で蘇らそうとしているのかもしれない。……人の子らの、諦めきれぬ夢、だ。」

 駒としてではなく、プレイヤーとしてヤスを蘇らせたい。
 思考停止による死だから、思考を再開させれば蘇るはずだが、そんな簡単じゃないわな。
 新しくヤスを生み出し、それに前のヤスのゲームを再演させ、そして上で新しいゲームのロジックを構築できたら、新しい思考を生み出したと認めることができるだろう。
 これは、新しいヤスを依り代に、前のヤスを召喚すると言った感じか?





 人ならざる世界の書斎。

「複数の物語を描き、その表裏を合わせねばなりません。……それにしても、初めてとは思えない、見事なお手並みでした。……ヱリカさまも、きっとこのゲームならご満足いただけるでしょう。」
「あの探偵殿の好みに合うといいだがな。……しかし、…ベアトを純粋に尊敬するぜ。…よくあんなややこしい物語をあっさりと作ってみせたもんだ。」
「……あっさりとではありません。……ベアトリーチェさまも、深く深く悩み、物語を生み出しては、矛盾に悩み、常にロジックエラーと戦われておりました。」
「ロジックエラー?」
「物語の表裏が合わぬこと、矛盾することでございます。……これが生じると、ロジックエラーと呼ばれる致命的な反則手となり、即座にゲーム盤は破綻、崩壊いたします。魔女側が犯せぬ、最大最悪のミスです。」

 今実感しているところだが、本当にややこしい物語を作ったものだ。
 3つの物語の表裏を合わせるとか、人間技とは思えない。
 なんでこれが成立しているのかわかんないレベル。





 八城ん家。

“人は、同じ人間であっても、別人になり得る。”
“いや、生い立ちと無限の可能性によって、無限の数の別人になり得るのだ。”

 19人目の右代宮真里亞が、福音の家に預けられ使用人となって六軒島にやってきた別の可能性の自分として、ヤスを生み出したように。
 あるいは、悪魔のルーレットによって、別の可能性の自分たちを生み出したように。
 我は我にして我らなり。
 無限に別の自分を生み出す、それが無限の魔法。

 さらに言えば、チェス盤思考も、広義による無限の魔法である。
 相手の立場となった自分を生み出しているので。


「………あなたはなかなか出来る読者のようですね。…並みの読者相手だったら、同一の人間であっても、その生い立ちと時間によって、別人になりうることを説明するために数百ページを割かねばならぬというのに。」
「あまり読者を舐めないで。私たちはただ読んでるだけじゃない。読んで、考えてるの。」
「……100人に読ませれば、90人くらいは読める。しかし意味がわかるのは、50人。そしてそこからさらに考えられるのは20人もいない。……よく噛んで飲み込みなさいと。…ただそれだけの話なのに。くすくす。」
「しかし、“あなた”はどうやら…、その貴重な20人の中の1人らしい…。だからここへ招いたのです、人の子よ…。」

 この同じ人間だけど別人という話ひとつとっても凄い深いよな。
 数百ページを割かれてきたけれども、全部理解できたとは到底思えんぞ。
 異なる運命を辿れば別人となる、くらいなら誰でも理解できる。
 その別人さんは、自分ではないと区別し、“自分”には含めないのが普通だろう。
 それを“自分”に含め、“自分”を増設するという考えに、理解が至る人がどれほどいるのか。
 さらには、その別の自分に独立した人格を与えて、対戦ゲームをして遊んでいるとか、理解可能だろうか。
 果ては、自分が思考するために、駒に朗読させて介添えしてもらわなければならない、とか話半分でも理解できるかわからないんじゃないのか。

 一応言うと、一つの物事に対して異なる視点から別の見解を提示させることで、その見解に対する自分の考えが生まれる。
 未知の思考を生み出すために、そういう試行を駒にやらせ続けている。
 そして、やらせ続けた結果、既知ばかりになり、未知が生まれ難くなる。
 そうなると、未知を探すために、新しい駒を生み出し続けることになり、ずっと駒の立場から思考し続けることになり、本来の自分の立場から思考することが少なくなっていく。
 要するに、思考は止まらず、ただ思考する立場がコロコロと変わっている。
 そして、自分に立ち戻ることが稀。
 これを人格として捉えるなら、フェザリーヌが長い眠りに就いた、となる。

 この別人って話題だけで語ることはごまんとあるけれど、実際みんなどれくらい考えてるの?


「ね? 時間など、気にすることもないでしょう。……あなたが読み終わるまで、全ての時間はあなたを追い立てない…。」

 現実とは異なる時間の流れ。
 それはそこが、八城の生み出した“世界”だから。
 内面世界だから、外の世界の時間に追い立てられない。






 人ならざる世界の書斎。

「……お前はたくさんの家具たちや、色々な物語を紡ぎ出して来た。……俺はそれを見て、……お前はきっと、さぞや楽しいだろうなと思っていた。」
「「“だが違う。”」」
「お前は、……信じられないくらいに、孤独だったんだ。」
「“お前にとって、…俺という、自らに反逆する対戦相手が、どれほど愉快なものか。今の俺には、痛いほど理解できる。”」

 駒だけでは、全てが予定調和、全てが既知。
 “世界”の全てを知っているから。
 自分以外に、解釈を述べる者がいない。
 それはつまり、孤独だと言うこと。
 だからこそ、対戦相手となるプレイヤーを欲する。
 自分とは異なる解釈をする他人を求める。
 新たに世界を生み出すために。
 そうして生み出されたのがヤス。
 ……ヤスが生まれる必要があった環境、つまりは、信じられないほどの孤独な環境ということ。
 変化が何もないからこそ、変化を求めて生み出された存在だろうから。




 事件当日、ゲストハウス。

「こういう日に限って、油断すると悪戯されるの。……いざって時、大切な物が見つからなかったり、閉めておいたはずのものが開いてたり。」

 19人目が狙い易い紗音に対して良く悪戯しているのだろう。
 昔からの(一方的な)付き合いだから、どんな時が狙い目なのか知り尽くしているはずだから。


「……家具のくせに、ニンゲンと結婚なんか出来るつもりなの。」
「出来ると思う。」
「無理だね。」
「どうして。」
「譲治さまの描く未来の夢を、姉さんは叶えられない。」
「そ、……それは……。」
「……僕たちはニンゲンじゃない。それに劣る、家具。譲治さまは姉さんをニンゲンだと思い込んでるだけ。」

 真実の世界の紗音と嘉音は、自分たちを家具と卑下する人間。
 特に嘉音は、親族を監視する汚れ仕事をやらされているので、その思いが強いのだろう。

 虚偽の世界の紗音と嘉音は、ヤスを構成する部品であり家具。
 真実と幻想が結ばれるには猫箱に閉ざすしかなく、猫箱の中にありえたかもしれない未来を視ることでしか、その未来は紡げない。

 19人目とヤスの姿に重ねたものなら。
 ヤスは19人目が生み出した家具。
 駒からプレイヤーに昇格し、独立した人格を持っていて、対等な人間として扱われていても、家具は家具。
 ニンゲンにはなれない。
 しかし愛を知った。
 右代宮真里亞を愛した。
 そして戦人に恋をした。
 だからニンゲンになりたいと願った。
 その時点で、心は人間だ。
 後はその心を認められるだけ。
 ……おい、戦人ァ。ホントもう。


「お嬢様も僕も、この島に閉じ込められて、何の希望もなく生きてるのはまったく同じだった…! なのにお嬢様は自らの道を自ら照らし、自らの足で運命を切り開くんだ…! それが眩しくて、羨ましくてッ!! お嬢様と一緒になら、……こんなみすぼらしい自分じゃない、別な、本当の自分を見つけられそうな気がして…!!」

 19人目とヤスのものとして見ると。
 19人目もヤスも六軒島に閉じ込められた家具だった。
 ニンゲンとして認められず、何の希望もなく生きているのはまったく同じだった。
 なのにヤスは、幼い頃からのゲームによって、自らの道を照らし、自分の居得る余地を切り開いてきた。
 そこからすると、ヤスの方が一日の長があるんだな。
 それが眩しくて、羨ましくて、ヤスと一緒なら…………。
 と言った感じ。

 この二人の関係は良いよな。
 ずっと一緒にいさせたくなる。


「この島を出て、……そしてこの島へは、二度と帰らない。……嘉音くんとは、お別れになる。」
「………………………。……そうだね。……僕たちは、……お別れだね。」

 譲治と紗音が結ばれて島を出るを、戦人とヤスが結ばれて島を出るという形に置き換える。
 そうすると、この話は、EP8で描かれた戦人=十八の黄金郷の未来となる。
 無論、その虚偽の世界には19人目はおらず、お別れということになる。

 そんなわけで、これは戦人とヤスが結ばれるという意味の他に、ヤスを信じる読者とヤスの真実が結ばれるという意味もあるだろう。


「もし。……嘉音くんが心の底からお嬢様を愛していて、……それが、私の譲治さんへの思いと同じか、それ以上だと言えるなら。………私は、あなたと、決着をつけなきゃならない。」
「……ね………、…姉さん……。」
「それが、お互いのため。………嘉音くんの思いを、私を理由に、諦めないで。」
「僕のわがままが、姉さんの幸せを傷つけるかもしれないのに……?」
「私も、自覚してるよ。……私の幸せが、……嘉音くんを傷つけることを。」
“私たちは、傷つけ合わずには、いられない。”
“紗音はそう言い、嘉音に背中を向ける…。”
“嘉音はその背中に、……紗音の強さと、…それでもなお自分を想ってくれる姉の愛を感じた。”
「……姉さん。僕は、姉さんと一緒で、幸せだったよ。」
「私もだよ。君がいてくれたから、今日まで頑張れた。……だから、譲治さんとも出会えた。」
「うん。僕も姉さんが教えてくれたから、……お嬢様の眩しさに気がつけた。」
「私は、自分の想いを曲げない。……その気持ちだけを見つけて他を無視して、嘉音くんの心を踏み躙ることから目を逸らさない。」
「……僕も、姉さんを理由に、……自分の気持ちをもう、偽らない。」
「私の恋が実っても。君の恋が実っても。………私たちは互いを祝福しよう。」
「うん。……約束する。そして僕が勝ったら。……お嬢様を愛し、……姉さんも大切にする。」
「ありがとう。でも私が勝ったら。……君と島を忘れて、ここを永遠に出て行く。」
「うん。……勝ったら。自分の恋に、全力を。……たとえそれが報われない恋だと知っていても。」
「うん。私たちは、だって、もう。」
「「家具じゃ、ない。」」

 私を理由に諦めないで、とのことなので、やはりここで言う恋は、“ニンゲン”として認めてもらうために推理してもらうことだろう。
 真実として読者と結ばれる、そのための決闘。
 互いがいたからこそ、真実として認めてもらおうと頑張れた。
 でも、真実として互いを否定し合う関係。
 どちらかの恋が実っても、真実だと、ニンゲンだと認められたなら、互いを祝福しよう。

 そして、主である19人目が勝ったのなら、結ばれた読者と、そしてヤスも大切にする。
 逆にヤスが勝ったのなら、ヤスとその読者が結ばれ、19人目の世界から出て行く。

 19人目とヤスが一緒にいられるのは、前者か。





 薔薇庭園で決意を朱志香に話す嘉音。

「僕は、姉さんがここを辞めることがあった時、自分も辞めると決めていました。」
「……知ってるよ。…じゃあ、嘉音くんも辞めちゃうの?」
「今は、わからなくなりました。……辞めたら、お嬢様という太陽が照らしてくれた何かを、また見失ってしまいそうだから。」
“朱志香は何を言われてるのかわからず、呆然とするしかない。”
“……しかし、嘉音が大切なことを伝えようとしていることだけはわかる。”
“だから、続く言葉が、何のまやかしも誤魔化しもなく、そのままに受け取れる…。”
「僕は、朱志香お嬢様のことが、好きです。」
「…………わ、………私もだよ…っ…!」
「あなたの太陽の如き生き方を、僕も一緒に歩んでみたい。あなたとなら、家具と蔑んだ自分から決別できるかもしれない気がする。」
「嘉音くんは家具じゃない。そして使用人になるために生きてきたのでもない! 年頃の男の子として、もっともっと、人生を楽しんでいいはずなんだよ…! は、ははははは。私も、……眩しいや。嘉音くんが眩しくて、……目が見られない。」
「これが、偽らざる僕の気持ちです。………それを、…今まで誤魔化してきて、すみませんでした。……僕の臆病さが、お嬢様を傷つけたあの日を、お詫びします。」
「いいよ。その言葉だけで、……私は嬉しい。」
「だから。……僕はお嬢様といつまでも一緒にいるために、……家具をやめようと思います。僕に、そのための時間を下さい。……最後に、その弱さを許して下さい。」
「よ、弱さなんてとんでもない…! 嘉音くんは見せてくれたよ。今までの自分と決別したいっていう、飛び切りの勇気を。だから私は応援したいし、急かさずいつまでも待つよ。」
「……私が太陽になって君の道を照らせるなら。私だって、君という人がいてくれたから、誰よりも眩しく輝いて、君の瞳に私だけを映したいと思った。君がいなかったら、私だって太陽になんて、なれなかった。……だから待つよ。ずっと。」
「ありがとう、お嬢様。」

 ヤスの真実が結ばれたら、19人目の真実は消え去る。
 そうするつもりだった。
 でも、ヤスと一緒にいるために、立派な真実になる決意をした。
 そのための時間は、今の八城になるまでの時間。
 ヤスは戦人に推理してもらうために生み出された駒。
 しかし、そもそも駒は主のために生み出される。
 主に己の働きを見てもらうことが喜び。
 そして、主の役に立つことが最大の喜び。


「うん、今はそれでいい。だから私も、嘉音くんのこと、名前で呼びたい。……嘉音じゃなくて、……本当の名前があるんでしょ? きっと、嘉音の嘉が含まれた名前だと思うな…。な、何だろ、……えへへ…。」

“思えばあの二人はこれまで、互いの名を呼んだことはなかったのだ。”
“朱志香は、嘉音の本当の名を知らなかった。”
“嘉音は、朱志香を名前では、呼ばなかった。”
“相手の名を呼んで、人は魂の価値を認める。”
“だから、名前は神聖。”
“……それを口にすることを許されることは即ち、自分の魂を認めてくれたということ。

 我は我にして我らなり。
 たぶん、どちらも“私”で名前で呼び合っていなかったのだろう。
 名付けることで別人となり、魂を割った。


“……少なくとも。ベアトリーチェは、戦人のために生まれて来た、無垢な存在だった。”

 戦人に推理してもらうために生まれたからなぁ。




 チーズの問題。

「………え、あぁ、……そうなのか…? んんんんん、3回ってのはすぐに思いついたんだが、……それじゃ簡単すぎて問題にならないと思って、捻り過ぎたか……。」

 うみねこの答えも、誰でも解るような簡単なものではなく、実に捻り過ぎなやつ。
 まぁ、誰でも解けるなら、探偵なんていらない。
 誰でも解ける答えより、探偵しか解けない答えが必要とされるのが、ミステリーというもの。
 皆が揃って右を向けば、自分は左を向くようなひねくれ者は、探偵に向いているのかもしれない。

 私はそんなタイプではないと思うが。
 どちらかというと自分の考えに固執するタイプ。
 あるいは、自分が納得できないものは納得したくないタイプ。


“問題をなぞなぞ的に考え、3回という答えをはるかに超えた1回という答えに行き着いた戦人と。”
“その双方の答えをすでに用意し、出題者の粗まで着目していたヱリカ。”

 私は当時、簡単な答えはミスリードで間違い、だから難しい答えが正解という、戦人タイプだった。
 でも実際は、双方の答えを用意したヱリカタイプの方が、より正解、理想的な解答なのだよな。





 肖像画の前の雛ベアト。

「……あなたに、何があったのですか? ………私はあなたの卵。そして雛。……あなたの翼は、お父様のためにあったはず。……それがいつ、片翼をもがれ、………あのように変わり果ててしまったのですか……?」

 ヤスと19人目が揃って両翼が揃う。
 そして、戦人に推理してもらうために、19人目と決別した。
 片翼となったヤスは、失った片翼の代わりとなり支えてくれるはずの戦人が、推理せずに去ったため、そのまま置き去りになった。
 魂を支える二本の柱の内の一本を失い、瓦解寸前。
 それがあの荒れように繋がる。





 夜の屋敷を徘徊する魔女たち。

「つまり、簡単に言えば、ニンゲンの視界に入ってはならない、ということですね…。」
「その通りだ。ニンゲンの目は毒を放つものと同じに考えよ。ヤツらに見られるということは、身を焼かれるのと同じことだ。それには劣るが、聞かれること、気取られることすらも、毒を含む。」
「……私たちは、ニンゲンに近付くだけでも大変なのですね… 。」

 19人目が自分に課したルールのひとつ。
 人に見られたら身を焼かれるからそれを回避して遊ぶ、という側面もあるが。
 実際は、自分と共にする幻想たちを守るためのルール。
 このルールがあるから、自身の真実すら晒せられない自縄自縛に陥っているのんだよな。
 でもまあ、それが自分が生み出した世界を守るための、最大のルールでもあるのだが。


「我らが魔力を蓄え、それをニンゲンも認めたなら、その毒は限りなく軽減される。即ち、吾らの存在を認めさせることが、ニンゲンたちから毒を失わせ、再び彼らの前に降臨することも出来るというわけだ。」
「なるほど……。今の私たちは基本的に、ニンゲンたちの居ぬ間のみに、存在できるわけですね…。」
「魔力がまだまだ足りぬ妾たちは、人影に怯え物陰にコソコソと隠れる野良猫にも劣る存在というわけよ。」

 認められたなら、その時には、姿を現わすことができる。
 逆を言えば、認められなければ、姿を現わす勇気が持てない、ということ。
 臆病なのだ。
 魔女と共にし、魔女の世界にどっぷりと浸かった結果、魔女の理屈に染まった、と言えるのかもしれない。
 だからこそ、ヤスは19人目を人の世界に戻そうとしたのだろうな。
 魔女として認められるのではなく、人間として認められるよう、共に頑張ろうと。





 フェザリーヌと縁寿。

「そうだ。全ての現象は本来、中立、中性、無味無色だ。……それを、望む受け取り方をさせるには、その環境作りが必要となる…。」

 ヤスの真実を受け取らせるには、その環境作りが必要となる。
 そして、19人目の真実を受け取らせるのも同様。
 手掛かりを残し、伏線を張り、布石を置かなければならない。
 その努力なくして、信じてもらえることはない。


「………観測者なき結果は、無限の過程を持ち得る。…それを、たった一つの可能性でしか捉えられないニンゲンには、何も想像することが出来ない。」
「しかし、魔女の可能性を信じられる者には、魔女のイタズラを想像することが出来る。……その時、今、我らが見たベアトリーチェたちの悪戯の光景は、事実としてカケラに刻まれる…。」
「……魔法の原点の一つだわ。過程の、虚飾。」

 複数の可能性を捉えられる者は、複数の過程を想像でき、それを真実に修飾することができる。


「邪悪なる魔法を退ける力も、人の子には必要だろう。……しかし、愛ある魔法を、焼いて穢さぬこともまた、人の世の愛なのだ。」

 事件に飾られた黄金の魔法、これを邪悪なる魔法とするか、愛ある魔法とするか、というのは議論になり得るのでは、と思う。
 ヤスという真実は、真犯人の罪を覆い隠す邪悪であるとも言えるし、ヤスに対する愛による魔法であるとも言える。
 愛のためとはいえ、罪は罪。
 しかし、罪に塗れようと、愛は愛。
 罪は明らかにされなければならないが、愛は穢したくない、むしろ認めたい。
 ならば、どうするのか、と言ったところがね。


“奇怪な何かが起これば、それは全て、黄金の魔女の仕業…。”
“そういう“魔女の居得る環境”こそが、ベアトリーチェ自身。”
「……それが累積して、1986年に至る。……これこそが、真犯人が被っているヴェールなのよ。そしてそれを被っているのは紛れもなく、ニンゲンの誰かだわ。」
「この、魔女たちの過去物語の時点ではそうも断言できよう。……しかし、その論法だけで、1986年も戦い抜けるとは思えぬぞ……?」

 “お母さま”も足せば、3人で一つの魔女。
 だから、ヴェールを被ったニンゲン、さらにそのニンゲンというヴェールを被ったニンゲンである可能性は否定できない。





 ゲストハウス、真里亞対ヱリカ。

「へー、その話を詳しく教えてはもらえませんか? あなたはベアトリーチェに会った? そして魔法を見せてもらったとでも言うんですか?」
「うー! いつも会ってる! 六軒島に来る度に会ってるもん! そしていつも、楽しい魔法を見せてくれるの!!」

 ベアトのふりをして真里亞に会っていたのは、お前だ、ヱリカのふりをしているヤツ。
 と、ツッコミを入れたくなる。
 本人乙、という状況だから笑える。


「ノーサンキューです。今、大変、知的な話をしています。外野は黙っているようにッ。」

 姿を偽った師匠と弟子の対決。
 他人が口出しできることじゃない。
 自演乙ってレベルじゃねーぞ。


“すると真里亞は足を止め、ぐるりと振り返った。”
「………何か?」
“ひっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! たまにいるんだよ、魔法を信じない毒素の塊みたいなニンゲンが! 私のクラスにもお前みたいな男子がいくらでもいるよ!」
「魔女も魔法も、奇跡も幸せも何も信じない! そんな程度のヤツらの毒素に焼かれて灰になっちゃうようじゃ、魔女なんかはなれないねッ! 真里亞はこう見えても、ベアトリーチェの弟子! 原初の魔女見習いなんだからッ! きっひひいひひひひひひひひひひひ!!!」
“直前まで、さめざめと泣いていた真里亞が、まるで別人に豹変したかのように。……薄気味悪く、いや、けらけらと笑う。”
“戦人たちは突然のことに面食らうが、ヱリカはその様子を平然と見ていた。”
“そして、微笑みながら小さく頷いて応える。”
「グッド。……相性は悪くないです。おやすみなさい、ミス・マリア。次はもっと手応えのあるゲームで戦いましょう。」
「そうだね、そうしようね、約束しよう。……きひひひひひひひひひひひ。」

“あとのラウンジには、ヱリカだけが残されるのだった…。”
“ヱリカは薄笑いを浮かべたまま、飲み物のグラスを指で弾く。”
“チンと軽い音がする。……案外つまらない音だった。”
“それでもヱリカは、さも小気味良いかのように、薄ら笑いを浮かべるのだった…。”

 弟子の成長を喜ぶ師匠の図。
 スパルタだねぇ。
 ベアトのゲームは、人間側と魔女側に別れて論戦するもの。
 19人目はヤスと共に、頭の中で常にそれを行なっている。
 真里亞の前では、魔女側のプレイヤーとしてしか会ってないが、本来は人間側の側面も持っている。
 そして、魔女であり続けるなら、人間側との論戦を潜り抜けなければならない。
 論戦で負けても、なにくそと奮起できなきゃ、魔女なんてやってられない。
 まぁ、とどのつまり、スパルタなのだよ。
 最低な戦いも、愛のある目で視ると、こんな感じに映る。

 子供相手に本気で相手をするのは、確かに大人げない。
 でもそれは逆を言うと、対等な相手であると認めているということでもある。
 はっきり言えば、譲治たちの真里亞への対応は、悪く言えば子ども扱い、腫物扱い。
 誰も真里亞に真剣に相対しない。
 子供の夢を守るのは良いが、幼いままでいさせようとしている、成長させないでいる、そんな悪い面もある。
 成長を促すためには時には厳しくしなくてはならないこともあるだろう。
 まぁ、楼座のやり方は論外だが。





 東屋の恋人たち。
 EP7と繋げて解釈する。

「ヱリカさんくらいのお歳の方が、一番、自分自身との付き合い方が難しいと思います。」
「……そうだね。子供という殻を打ち破りたくて、辺り構わず嘴を打ちつけるお年頃だね。それを打ち破れて、ようやく大きく羽ばたくことが出来る。……僕もそうだったよ。かつて、まだ殻の中にいた時の自分は、情けなくひ弱な、まるで尊敬できない男だった。」

 かつて、まだ殻の中にいた頃の八城は、情けなくひ弱な存在だった。


“……そんな自分が、嫌いだった。”
“その殻を打ち破り、父さんや母さんのような立派な大人になりたかった。”
「でも、……譲治さまはそれを打ち破られました。……この数年の譲治さまは、毎年出会う度に見違えるようでした。」
「ありがとう。」
「……何か、きっかけがあったんですか?」
「殻を破る?」
「はい。……あれほどの、まるでサナギを経て蝶になるかのように、目まぐるしく成長された譲治さまが、ただ漫然と日々を過ごしていてそれを迎えられたとは思いません。……それだけの大きな決意をされる、何かきっかけがあったに違いないと思いまして。」

 今の八城は立派なミステリー作家。
 謎を問うことも出来なかったかつてとはまるで違う。
 世に謎を問い掛け、その返事をもらえるまでに成長した。


「異性とどう接していけばいいかわからなくて。過度に神格化して畏れて、……紳士的なレディファーストを装いながら、僕は女の子との交流に、多分、恐怖さえ覚えていた。」
“もちろん、譲治に、異性と交流したい気持ちは、健全な男子として当然に存在した。”
“しかし、どう接すればいいかわからなくて。紳士的に振る舞いたくて、嫌われたくなくて、そして大事にしたくて。”
“その気持ちが、女性を大切にするという言葉だけが先行する、自覚なき女性恐怖へと膨らんでいった…。”
「そんな男を、紳士的な、奥手な男と呼ぶんだろうね。………とんでもない。ただの臆病者さ。そのくせ、自分はこんなにも紳士的なのに、どうして彼女が出来ないのかと一方的に思い込み、最後には、世間の女性は全て、男を見る目がないなんて勝手に決めつけ、勝手に蔑み始める。………これが本当の、情けない男ってもんさ。」

 人間とどう接していけばいいかわからなくて、過度に神格化して畏れて。
 読み手ファーストを装いながら、人間との交流に、恐怖さえ覚えていた。
 もちろん、人間と交流したいという気持ちは当然に存在した。
 しかし、どう接すればいいかわからなくて、魔女的に振る舞いたくて、嫌われたくなくて、そして大事にしたくて。
 その気持ちが、読み手の解釈を大切にするという言葉だけが先行する、自覚なき人間恐怖へと膨らんでいった。
 ただの臆病者。
 自分が生み出した世界は謎はこんなにも素晴らしいのに、どうしてそれに挑戦してくれる人が出来ないのかと一方的に思い込み、最後には、世間の人間は全て、謎を見る目がないなんて勝手に決めつけ、勝手に蔑み始める。


“しかし、現実はまるで違う。”
“学校での僕は、まるでうだつが上がらない。”
“……リーダーシップどころか、周りに流されるだけのイジラレキャラ。”
“当時の僕はそれを、空気が読めて周りに合わせられる、順応性を持つデキる男、なんて思ってたよ。……馬鹿馬鹿しい。”
“確かに僕は女子から一定の信用を得ていたかもしれない。”
“……でも、僕とガールフレンドになってくれる女子はおろか、友人と呼べる女子さえもいなかったよ。”
「そりゃそうさ。……レディファーストと称して、いつも後ろへ下がる男だよ。そんな後ろ向きな、牽引力のない男の背中についていこうなんて、誰が思うものか。…滑稽だね。それに気付かず、自分はさぞや魅力的な男子に違いないなんて思ってる。」
「………その気持ち、ちょっぴりわかります。…自分が異性に魅力的に見てもらいたくて努力した振る舞いが、必ず思ったとおりの結果を導くとは、限りませんから。」

 しかし、現実は違う。
 謎として、まるでうだつが上がらない。
 リーダーシップどころか、周りに流されるだけ。
 当時はそれを、空気を読めて周りの解釈に合わせて“設定”を変更できる、順応性を持つデキる謎、なんて思ってた。
 馬鹿馬鹿しい。
 確かに人間たちから魔女の仕業として一定の信用を得ていたかもしれない。
 でも、自分の謎に挑む者はおろか、友人と呼べる人間さえいなかった。
 そりゃそうさ、読み手ファーストと称して、いつも後ろに下がる人間だよ。
 そんな後ろ向きな、牽引力のない謎についていこうなんて、誰が思うものか。
 滑稽だね。それに気付かず、自分はさぞや魅力的な謎に違いないなんて思ってる。


「そんな、自惚れた僕の目を覚ましてくれたのが、……紗音。……いや、君たちだった。」
「………どんなきっかけが、譲治さんに訪れたんですか。」
「はは、……嫉妬かな。」
「意外です。……でも、何に?」
「君と、戦人くんが、とても楽しそうに話しているのを見て。………僕は嫉妬した。」
「…………私が、…戦人さまと?」

 紗音と戦人がとても楽しそうにミステリーの話をしているのを見て。……嫉妬した。


“こんなにも女性を大切にする紳士に憧れない女の子はいないと、僕は本気で信じてたさ。”
“だから、縁ある女の子たちはみんな、僕に好意を持ってるに違いないと本気で思っていた。”
「それに比べたら、いつまでもはしゃいだりふざけたり、下品で低俗な言葉遣いばかりしている戦人くんや朱志香ちゃんなんか、絶対に彼女や彼氏が出来たりするもんかと思っていたよ。……それが、いつまで経っても彼女が出来ない自分への、精神安定剤だったのかもしれない。」
「……とんでもない。彼らは僕に劣ってなんかいない。むしろ、異性を勝手に神格化して、レディファーストと称して畏れて避ける僕の方がよっぽど、劣っていた。」

 こんなにも読み手の解釈を大切にする謎に憧れない人間はいないと、本気で信じてた。
 だから、縁ある人間たちはみんな、自分の謎に好意を持っているに違いないと本気で思っていた。
 それに比べたら、他の謎なんか、絶対に解きたいと思う者が出来たりするもんかと思っていたよ。
 それがいつまで経っても謎を解いてもらえない自分への、精神安定剤だったのかもしれない。
 とんでもない。彼らは自分より劣ってなんかいない。
 むしろ、読み手を神格化して、読み手ファーストと称して畏れて避ける自分の方がよっぽど、劣っていた。


「人は、無縁であるなら、相手が無害で退屈な人間であることを尊ぶ。しかしそれは、邪魔にならないという意味で好まれているだけだ。……退屈な人間を、身近にしたいと願う人間など、いるわけもない。」
「……当然よ。動かず、物も言わぬ電信柱と友達になろうという馬鹿はいないわ。……でも、動かず物を言わないのは、電信柱としては優秀だわ。」
「そういうことだ。譲治はつまり、いくら自分が優秀であっても、魅力ある人間として認められていない、ただの電信柱扱いであることに、ようやく気付いたというわけだ…。」

 物を言わぬ謎、物を言わぬ真実、物を言わぬ物語、物を言わぬ人間と友達になろうという馬鹿はいない。
 19人目はつまり、いくら自分が優秀であっても、魅力ある謎、魅力ある物語として認められていない、ただの怪談扱いであることに、ようやく気付いたというわけだ。


「僕は当時、自惚れの真っ盛りだった。……だから、親族会議でみんなで集まっている時。一番魅力的なのは僕で、それに交じって遊んでくれた使用人の女の子はみんな、僕に惚れていると信じていたよ。………それがあの日、僕はそこでようやく、自分がどれほどみすぼらしかったかを思い知ったのさ。」
「………私が、…当時、何か心無いことを言ってしまったのでしょうか……?」
「いいや、逆さ。………君は何も言わなかった。君の瞳に映っているは常に僕だという自惚れが、打ち砕かれたのさ。」
“いつからだったんだろうね。……いや、多分、ずっと前からさ。”
“僕が自惚れで目を曇らせているから、気付かなかっただけなんだ。”
「……ある日、唐突に気付いたんだ。……君たちが、戦人くんや朱志香ちゃんと、僕なんかよりはるかによく馴染んで、……楽しそうに遊んでいることに。」
“……そうさ。僕があれだけ見下してた彼らは、僕なんかよりはるかに魅力を放っていたんだ。”
“あの日の君は本当に楽しそうだったよ。”

 自分は当時、自惚れの真っ盛りだった。
 だから一番魅力的なのは自分の謎で、それに交じって遊んでくれた使用人たちはみんな、自分が生み出す物語に惚れていると信じていたよ。

 ある日、唐突に気付いたんだ。
 君たちが、自分なんかより、戦人や朱志香と楽しそうに遊んでいることに。
 あれだけ見下していた彼らの世界や物語は、自分のなんかよりはるかに魅力を放っていたんだ。


「ははは、気色悪い話さ。……僕は君を勝手に、僕に好意を持ってると決めつけ、ひょっとしたら異性の付き合いになってもいいかななんて、青臭い白昼夢を許したことさえあるんだ。」
「それを、勝手に恋人を奪われた気持ちになって、勝手に傷付いてる。………どこまでも僕は、駄目な男だったんだ。……その時、ようやく僕は、自分の愚かさに気付けたんだ。」

 紗音を黄金郷に招き入れ、共に世界を作り上げることを許しても良い、なんて思っていた。

 これはつまり、紗音はヤスの依り代なのだから、紗音の協力があれば、ヤスをもっと能動的に動かして色々と世界を広げて行ける。
 物語の共同著作者になってもいい、という感じかな。
 そう、思い上がっていたということなのだろう。


「最初はね、戦人くんたちを真似ようと思ったんだ。……滑稽な話さ。ふざけたりはしゃいだり、下品な会話を好めば彼らのような魅力が得られると思い込んだ。」

 ベアトの喋り方だな。


「僕に魅力がないのは、人を大事にすると称したり、場の雰囲気に合わせて振る舞えると称したりして、………いつも一歩逃げている自分の、臆病さにあったんだ。」
「僕は、それを克服するために、生まれ変わる決意をしたよ。……初めて自分の殻というものを理解し、それを打ち破ろうと誓ったんだ。」
「僕の意思が挫けそうになる度に、……あの日のことを思い出してバネにした。……君たちが僕を忘れて楽しそうに遊んでいた、あの日。そして、僕に好意があると決め付けていた君の瞳に、僕が映っていなかったことをね。」
「……誓ったんだよ。今度こそ、本当に君を振り向かせて、その瞳に僕を映してやりたいとね。……それが、実は君に恋をした、一番最初の感情。」

 読み手の解釈を大事にすると称したり、場の雰囲気に合わせて振る舞いを変える真実と称したりして、いつも一歩逃げている自分の、臆病さにあったんだ。

 挑むに足る魅力のある謎。
 それを物語にして突きつける。
 自分の主張や解釈を盛り込み、読み手の解釈も盛り込む。
 読み手の考えを誘導し、読み手の信じた幻想を基に新しい物語を綴る。
 手掛かりを与え、自分の思考を辿らせることで牽引し、目的の真実にまで連れて行く。
 自分の真実を、自分の世界を、自分の想いを全て込めて。
 全力の謎を。

 今度こそ、読者を振り向かせる。
 未だ見ぬ読者に向けて。
 今いる読者に向けて。
 ミステリーの作者と読者の関係は、恋愛に例えられる。
 だからこれは、恋だと言っていい。


「あの日、僕を無視して遊んでいた君たち、……いや、君への復讐が。いつの間にか、本当の恋心に変わっていったんだ。」
「……しかし、神に誓うよ。それが君のことを真剣に考えたきっかけだとしても。……僕が今、君に持つ気持ちには、何の偽りもない。」
「……僕は君を生涯愛することを誓う。それは誰にも、何にも偽らない。そして、君を妻として迎えるために、僕は世界を敵に回すことだって厭わない覚悟がある。」

 真剣に読者のことを考えたきっかけ。
 ここで言う読者は、真剣に謎と向き合う読者のことな。


「以上が、君に先にしておきたい懺悔さ。……僕は今日まで君のことを、初恋で一目惚れだったと言ってきた。……それは嘘なんだ。…自惚れた僕の、歪んだ、」
「関係ないです、そんなの。」
“紗音はにっこりと笑いながら、……だけれども、譲治の言葉を断ち切るだけの強さをもって、言った。”
「初恋じゃなかったら、結ばれちゃいけないんですか…? 初恋の人を忘れたら、それは裏切りなんですか…? 恋って、……そんな単純じゃない。いえ、……単純かもしれない。……だって、恋なんて簡単。……常に、今の。……今の自分の正直な気持ちだけが、正解なのだから。だから昔の話も馴れ初めも、何も関係ないんです。」

 処女作かどうかとか、誰に向けたミステリーなのかとか、関係ない。
 今の私にとって、最高のミステリーがこれだってことが重要なのだ。
 今もなお夢中だぜ。


「くすくす、いいえ。……何事も完璧な譲治さんにも、人間臭い一面があることがわかって、ちょっと嬉しかったです。……そして、それを私だけに打ち明けてくれることに、…嬉しくなりました。」

 うん、私も同意見だ。
 完璧なゲームだったけど、それ以前は未熟で人間臭かったんだなと。
 これを知っているのは私だけなんだと。


「…………ありがとう。…僕は君がいたから、僕になれた。」
「私も。譲治さんがいるから、私でいるのです。……だから、包み隠さず教えて下さい。……私たちは、どんな夫婦になって。……どんな未来を築くのですか。」
「僕は、君という妻を得て。父さんを追える実業家になる。……そして様々な挑戦や冒険を経て、自分の可能性の限界を確かめたい。その到達点の頂に、君と一緒に至りたいんだ。……そこからの眺めは、僕以外の誰にも見せられないものになる。」
「楽しそうです。……どこまでも、お供します。」

 作者と読者、両者が揃ってこそ、真実は、世界は、物語は生み出される。
 謎を出し、それに対する推理を出し、さらにそれに対する謎を出す。
 それを何度も繰り返して、今がある。
 今ある謎も、今ある推理も、互いがいたからこそ。
 到達点に連れて行ってくれ。
 お供しますよ。


「子供を作ろう。」

 ヤスかな。





 ゲストハウスの使用人室。

「……うん、それでいいよ。……君と、お嬢様もがんばって、……もしも結ばれるなら。……私たちが心の底から祝福できるくらいに、素敵な関係になって。」
「姉さんに、かなりのリードを許してるけどね。」
「……仕方ないよ。それが、君のこれまでの臆病の対価なんだから。」
「わかってる。……それが僕の、罪だから。」

 魔女の闇にある真実たちは、推理されて読者と結ばれることを望む。
 どちらが結ばれようと、それを祝福しよう。
 今のところ、ヤスの真実がリードしている。
 19人目は、他の真実より一歩身を引いていた。

 あれだな、猫箱の中に閉じ込められた幻想たちは、自身を真実だと認めさせて外に出て自由になろうとしているが、19人目はその幻想たちの後ろに隠れ、猫箱の中に引き籠ろうとしてきた、みたいな感じだな。





 ベアトの伝説と悪食島の悪霊伝説。

「思うに。……悪食島伝説の悪霊と、魔女伝説のベアトリーチェ。この2つの異なる伝説が、少し混交しているように思います。いえ、混交どころか融合かもしれません。」

「うむ。……あのヱリカとやらの話を聞いて、妾はふと思った。……魔女であり、魔法が使えるが、体を持たぬ妾と。……そして魔女であるが、魔法は使えず、肉の体を持つそなた。………妾たちはやがて一つになり、欠け合った部分を埋め合って、本当のベアトリーチェとして完成されるのではないだろうか。」

 悪霊伝説と魔女伝説が融合して、その設定を引き継いだのが姉ベアト。
 姉ベアトと、そのベールを被った雛ベアトが融合して一人に。
 さらに、それと19人目が融合して、1にして3人の魔女に。





 ひとりぼっちの密室。

“チェーンロックは閉じていなければならない。”
“開けても良いが、必ず閉じなければならない。”
“閉じなければお前の出口もまた、閉ざされる。”

“チェーンロックは、如何なる方法によっても、外側から開けることも閉めることも出来ない。”

 一人を身代わりにすることで出られる猫箱。
 どっちを連れ出し、どっちを残すのか。
 それが問われるのが、第6のゲーム。





 トランプをした嘉音。

“負けず嫌いの嘉音が大真面目に勝負を挑んできたため、譲治も戦人もそれを受けて立ち、徹底的に堰き止めあう苛烈なバトルに展開したためだ。”
“勝ちも負けも、あっけらかんと楽しむ戦人に比べると、嘉音は勝敗に激しく一喜一憂しているようだった。”
“……負けず嫌いというよりは、遊び慣れていないのだ。”
“勝ったり負けたりというやり取りに慣れていないから、遊びの負けにも大真面目になってしまう。”
“そんな彼が勝ちに固執して戦って、ベテランの譲治や戦人を挑発してしまったら、結果は火を見るより明らかなのだ。”

 ゲームのプレイヤーとしては、19人目よりヤスの方がベテランなのだろう。
 幻想を生み出すことを主目的としていて、自分の真実については一歩引いていた。
 だから、真実を認めさせるゲームにおいて、本気で戦ったことはなかった。


「惜しかった惜しかった…! あははっ、でも、楽しいぜ。本気で戦うのはね!」
「……本気だろうとそうでなかろうと、結果が負けでは何の意味も…。」
「とんでもない。本気で戦った結果の負けなら清々しいもんだぜ。いい加減に戦っての負けじゃ、本気出してたら勝ってた云々で未練タラタラでしょ?」
「そうだな。全力を尽くしたヤツは言い訳しない。そして、結果にかかわらず爽やかなもんさ。」
「そうだね。そしてそういう人間が一番怖いのさ。そこから必ず何かを学び、成長するからね。」
「……確かに。…僕は臆病だから、何も学ばなかった。…だから、未だに未熟なんだ。」

 本気で謎を作り、本気で論戦をし、そこから学び、次のゲームへ。


“家具だから、何を夢見ても無駄。”
“そう決め付け、全てから自分を遠ざけ閉じ篭っていた。”
“しかしその間に紗音は、いくつもの人生の冒険を繰り広げた。”
“そして今、家具からニンゲンへと続く扉に、手を掛けている……。”
“これまでの嘉音だったら、このトランプは、ただの付き合いに過ぎない。”
“しかし、……今の嘉音は、そこからも、何かを得ることが出来るようになっていた。”
“それを多分、成長と呼ぶ。”
“家具は、時を経ても朽ちていくだけだ。”
“成長できるのは、……ニンゲンだけの特権なのだ。”

 全てを諦め、代わりをヤスという家具に任せ、全てから自分を遠ざけて閉じ篭っていた。
 その間ヤスは、謎を作り、それを潜り抜けるロジックを通し、いくつもの冒険を繰り広げた。
 そして第6のゲームにおいて、真実に昇華しようとしている。
 成長できるのは、人間だけの特権。
 だから、ヤスは家具ではなくニンゲン。
 そして、自分もまた人間であると19人目は強く思ったのだろう。


「……いいえ。僕も楽しかったです。……いえ、……これが楽しいことなんだって、理解できました。僕を無理に誘ってくれて、ありがとうございます。」
「私たちはさ、もっともっと色々なことに挑戦していこう。そして、君が知らなかったものを探しに行こう。」
「……あ、あー、それでー、さっきの話だけどさ。ギ、ギターとか興味ない? い、いやぁ、別に無理にとは言わないけどその、」
「………きっと、難しいでしょうね。」
「ま、まぁね。でもさ、そこは丁寧に教えるし、練習は私が付き合うからっ。まぁ、言うほど私もうまくないんだけどね、ははは…。」
“嘉音は最初、ギターという初めての楽器に触れれば、無様な醜態を晒すに違いないと恐れていた。”
“……その醜態が、自分を不愉快にさせることをわかっていたからだ。”
“……しかし、嘉音は少しずつ学び始めている。”
「初めてで下手なのは、当たり前です。……それから逃げてたら、永遠に何も、学べない。何にも、至れない。」
「そうさ。だからこそ人は、上達を実感して面白くなるんじゃねぇかよ。私だって最初はさ、右手と左手が別々に動くってだけでもう全然駄目だったぜ…! でも少しずつコツがわかってくるとさ、だんだん当たり前になってきて…!」
「…………………。……僕も、その境地に至りたいです。その為の道の一つにお嬢様との音楽活動があるなら、……ぜひご一緒させて下さい。」

 謎を作ること、ゲームを作ること、物語を作ること、それらに挑戦していく。
 右手と左手を同時に動かす、とは、19人目の駒とヤスの駒を同時に動かすことの比喩。
 経験を積むことで上手くなる。


「お嬢様のことを、………もっと好きになりました。あなたが、太陽のような人なのに、僕が目を背けていたから、こんなにもずっと近くにいたのに、それに気付けなかった…。」
「えへへへへ。じゃあもっと好きになってもらえるように頑張っちゃうぜ…。いやあは、てひゃひゃひゃ…。」

「………僕がお嬢様を好きになれる理由は、こんなにもはっきりしています。……だから、わからなくて辛いです。」
「な、何が……?」
「……お嬢様が、僕を好きになる理由です。………お嬢様と違い、僕は何も照らしてない。……今だって、お嬢様に照らされながら、その背中に付いて行ってるだけです。……そんなみすぼらしい僕を、お嬢様が好きになる理由が、……何一つ、思い付かないんです。」

「僕のどこが気に入ったんですかなんて質問。……本当に馬鹿らしいと思ったんです。自分に本気じゃないから、自分のことさえ、理解できてない証拠なんだ。……そんなこと、お嬢様に言わせようとするなんて、僕は最低だ。」

「それを相手に尋ねる時点で、僕は未熟なんです。そんな未熟者に、……気に入ってもらえるようなものが、あるわけがない。」

「だから。………僕がお嬢様を好きになるように、……お嬢様にも僕を好きになってほしい。……その為に、僕は自分を変えていくことにします。今はまだこんな自分を、お嬢様に好きになってもらえるとは、到底思えません。……でもいつか、…………必ず。」
「……あぁ。絶対、素敵な嘉音くんになれるよ。私がベタベタに惚れちゃうくらいの、素敵な男の子になれる。私はそれまで、ずっと一緒にいるから。……時間なんて、いくらでもある…!」
「……………………。……ただ時間が、そうないのが悔やまれます。」

 ヤスが照らす道を、ヤスの背中に付いて行っているだけの19人目。
 だから19人目は、ヤスが好きで、ずっと一緒にいたいと思っている。
 ならヤスは19人目を好きなのか、客観的に言えば、駒だからとなる。
 が、愛は錯覚。
 信じられれば、信じられるだけの自信が付けば、そんなのはもはやどうでもいいだろうな。
 つまり、成長し、自信を持つことができればいい。

 それまでずっと一緒にいるから、時間なんていくらでもある……。
 まあ、なかった。
 1986年に猫箱は閉ざされ、12年後に満を持して八城が、だから。


 あるいは、これは19人目の真実と読者の恋としても見れるな。
 真実は、読者が推理で照らした道を、読者の思考の後を付いていく。
 何で好きかって? 魅力的な謎だからだよ。そして思いの丈を全て込められた真実だからだ。
 時間がないのは、第6のゲームで恋の決闘に決着がつくから。


「はい。だから、ニンゲンになろうと思います。ですが、まだ家具なんです。」
「なら、なろうよ、ニンゲンに…!」
「かつて魔女は、教えてくれました。……この世の一なる元素。それは愛だと。……それは、この世に住まうニンゲンが、当たり前のように享受できるものです。」
「……しかし、家具として生み出された、この世ならざる家具は、当たり前ではないのです。………その当り前でないものを得るには、魔法か、奇跡が必要なんです。」

 ニンゲンは真実の世界に住まう。
 だからニンゲンは、何の疑いもなく存在できる。
 1として存在できる。

 家具は魔女の闇の中に生み出される。
 だから家具は、可能性という形でしか存在できない。
 つまり、1未満の小数点以下としてしか存在できない。
 赤き真実が与えられない、そんな幻想の如き真実と永遠を共にできるのか?
 赤き真実が与えられないなら、黄金の真実を与えればいい。
 読者の世界において、決闘で他の可能性を淘汰することで、その世界において1を満たす存在になれる。





 黄金蝶のブローチについての縁寿の考察。

“だから紗音は、そのたったひとつの奇跡を自分が消費してしまうことで、嘉音の恋路が自動的に永遠に閉ざされてしまうことに、躊躇していたかのように思えるのだ…。”

 天秤に乗っている真実たちに与えられる奇跡は一度のみ。
 天秤は一つの魂を量るもの。
 片方が消えることで、もう片方が一の魂を満たす。
 それは、疑う余地もない真実となったことを示す。
 次の奇跡はない。
 故に、チャンスは平等に。





 雛ベアトのクッキー差し入れ。

“あぁ。ベアトがクッキーなんて差し入れて来たら……。”
“……そりゃ、おかしな、笑える毒が混じってて当然だって、思うだろうが……。”
“毒でも入ってると思うか、だって……?”
“そんな、……丁寧で可愛らしく盛り付けられたクッキーに、……おかしなものが入ってるなんて、誰が思うかよ…。”

 クッキー=謎。
 ベアトの謎は、毒が入っていて当然。
 だから、捻くれた謎だと信頼して、それを解くさ。
 だが、雛ベアトの謎は、捻くれていない。
 丁寧で分かり易いもの。
 ……みたいな感じかな。
 つまり、経験の差。
 謎を作る経験がなければ、ルールからベアトを生成しても、ベアトのレベルの謎を作ることはできない。
 まぁ、当然のこと。





 フェザリーヌと縁寿と雛ベアト。

“それじゃ、……もしもお兄ちゃんが振り向いてくれたとしても、それは駒の彼女に対してであって、……彼女と言う駒を生み出した、創造主に対してではなくなってしまうじゃない。”

“私には理解できないわと、肩を竦める縁寿。”
“そしてそれを見て、生娘にはわからぬと笑うフェザリーヌ。”
“不機嫌に言い返す縁寿。”

 子を産んだ母にしかわからない。
 子の幸せを願うのが親というもの。
 自分の幸せと、子の幸せ。
 それが天秤に乗っている。
 女である自分と、母である自分。
 二束のわらじ。





 戦人と幻のベアト。

「妾は死して、娘を残し、……そなたに託したと、そう思うのだ。さすればそなたも、あやつをどう受け止めればいいか、少しは考えやすいのではないか。」

 娘と母。
 二人のベアト。
 それを融合すれば、真のベアトとなる。


“それは、……あのクッキーと一緒に飾られていた、…メッセージカードだった。”
“早く片付けて出て行けと急かしたので、これを床に落としたことに気付かなかったのだろう。”
“それを拾い上げ、………添えられたメッセージを読む。”
“……それは、あまりに無垢で、…純真な、……短い一言が記されていた。”
“こんなにも目に沁みるのだから、……自分には確かにそれが読めているはず。”
“……なのに、………涙で滲んで、…何も、………見えない………。”

 生んでくれて、ありがとう。
 ……かな。
 涙しかないな。




 ゼパルとフルフル。

「人は、愛のために生きるのです! そう、愛こそは世界なり!」
「あぁ、愛の力の何と偉大なことか…! 愛こそは全てなり!!」

 信じること、それが愛。
 人は信じるもののために生きる。
 自分が信じるもので構成されているのが、自分の世界。


「朱志香。受け入れよ。それが、家具の身でニンゲンと結ばれようと願う身の程知らずに課せられる、唯一の試練なのである。」

 愛されるということは、その人の世界に存在することが許されるということ。
 一つの真実に、2つの可能性があるとする。
 その時、Aという家具は、それが必要とされる時にだけ存在が許される。
 Bという家具が必要とされた時には、Aは片付けられる。
 つまり、都合に左右される。
 一の魂に満ちてニンゲンになれば、必要とされなくても、一人のニンゲンとしてその世界に存在していられる。


「想い人を失ったあなたはその時、気付くわ。想いを遂げる試練を逃げた、あの時の自分が憎いって!」

 私がここで戦わなかったら、19人目は消えていたわけだ。
 だから私は、真剣に戦って良かったと安堵している。





 ゲストハウスのヱリカの部屋。

「以前は、別の子と付き合っていましたが、今は完全に切れています。周りの人たちは僕たちを妬んでありもしないことを言いますが、気にしないで下さい。」

「俺は君に、生涯の全てを捧げるから、君も俺に、全てを捧げて欲しい。二人で一緒に、幸せになろう。」

 恋の話は、推理の話、真実の話。
 プレイヤーからこんな話を聞いたら、そりゃ信じられないわな。
 簡単に前に信じていた真実を切って乗り換えたのなら、また簡単に乗り換えるだろうさ。
 真実なんてファッション。
 流行りの真実を信じているふりをすることが重要で、流行りが変わればそれに合わせてコロコロ換えます。
 自分の考えなんてありません。
 ……なんて可能性が高いもの。


「……愛がなければ視えない? …………はっ。逆なんですよ。」
「……………………。」
「愛なんてあるから、ありもしないものが、視えてしまう。」
“……それは、自分にしか視えず、なのに自分でも触れられない、ただの幻。”
“愛さえなければ、ニンゲンは虚構など何も視ずに済むのだ。”
“虚構が視えてしまうから、……惑う。苦しみ。泣き叫ぶ。”
「………私は今、幸せです。………仮とはいえ、真実の魔女になれて。……今の私は、もう、……赤くない言葉に、苦しめられなくて済むのだから。」

 そうだな、19人目も、愛なんてあるからヤスが視えてしまう。
 それは、自分にしか視えず、なのに自分でも触れられない、ただの幻。
 愛さえなければ、視ずに済む。
 視えてしまうから、惑い、苦しみ、泣き叫ぶ。
 19人目の苦悩と葛藤の一側面。


「青き真実で反論。構築に状況証拠、物的証拠を84点提出。」
「青き真実で反論。今も愛し続けている状況証拠、物的証拠を6点提出デス。」
「グッド。青と青では相殺ですが、構築する駒の数が圧倒的ですね。」
“双方、青き真実で相殺された場合、状況、物的を問わず、証拠という名の駒の数量で判定が行われることがほとんどだ。……ニンゲンの世界の場合は特に。”
“よって、スタンダードルールの場合、ヱリカの判定勝ちとなる…。”

 赤き真実によって否定されない、青と青の対決。
 即ち、恋の決闘。
 真実対真実は、証拠の多寡も判断材料のひとつだけれども、決めるのは自分という裁判員の主観だ。
 証拠の量とか、他の裁判員たちの情勢とか関係ない。
 愛を証明するのは簡単だ。
 世界中を敵に回しても、それを貫いてみせればいい。
 皆こぞって逆側に回るなら好都合じゃん、自分はこっち側に突っ張ればいい。
 それで証明は終了だ。


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  1. 2019/07/06(土) 21:35:56|
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フラット・ホームズ

Author:フラット・ホームズ
「うみねこのなく頃に」の某公式サイトで推理を投稿していた。
その時使っていた名前は察してください。
スタイルは、アンチミステリーをチェス盤で引っ繰り返す、というもの。
キコニアでは、世界を箱庭に見立て、そこにどんな駒を置いたのか、それらを動かして最終的にどういう形に持って行くのか、的な感じのを主にやっている。

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