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うみねこのなく頃に 考察 境界より視やる

PCゲーム「うみねこのなく頃に」の個人的な考察ブログ。「キコニアのなく頃に」についてもガッツリやっている。


続・EP4を再読

 親族会議に金蔵登場。

「………いいか、蔵臼ゥ。二度と教えないからよく聞けよ。次期当主というのはな? 自分以外にも当主を狙うヤツがいたら、その鼻を徹底的にへし折って、二度と逆らえないようにしてやるヤツのことを言うのだ。」
「これは何も、当主だけのことではない。カネについても言える! 金持ちというのは、カネを持っているヤツのことではない。自分よりカネを持っているヤツ全てを叩き潰し、そして誰よりもカネを掻き集められるヤツのことを言うのだ。」
「才能も同じ。天才とは才能に秀でたヤツのことではない! 自分より秀でたヤツを全て叩き潰し! 自分を天才と全ての人間に呼ばせることを力とカリスマで強要できるヤツを指して言う!!」

 真実も同じ。
 真実とは、自分よりも優れた真実を叩き潰し、誰よりも信用を掻き集められたヤツのことを言う。
 自分を真実と全ての人間に呼ばせることを力とカリスマで強要できるヤツを指して言う。


「次期当主の座をどんなことをしてでも奪い取ろうという貪欲さが足りぬ!! 欲しいもののためには如何なる犠牲も払い、どこまでも貪欲となるべし、強欲となるべし…!! 幸運の女神は貪欲なる者にこそ微笑む!!」

 真実の座をどんなことをしてでも奪い取ろうという貪欲さ。
 真実になるためには己の半身すらも犠牲にする。


「右代宮家など、あの震災の時にとっくに滅んでおるわ。今の右代宮家など、私が束の間だけ見ている黄金の幻想に過ぎぬのだ。……私が夢より覚めれば、終わる程度のもの。」
「ふっふっふ! この世など全ては夢、幻。…生など、死という目覚めの前には白昼夢と同じよ。」

 金蔵ではない者が金蔵の幻想を纏う。
 それは皆が認めた黄金の真実。
 金蔵としての生は夢。
 夢の中で得たモノなど全て幻。
 本当の自分が目覚めれば消え去る白昼夢。
 たとえ血を分けた子供だろうと、蔵臼たちは金蔵の子、自分の子ではない。
 自分を認めないなら、自分と同じ世界には住んでいない、別の世界のニンゲンではないか。
 金蔵を認めるなら、金蔵がいる世界に残ればいい。
 ということだろう。


「あぁ、そうだ、元よりそうだったのだ!! 私が死ぬ時に全てを失うのが、ベアトリーチェとの契約、そして呪い! ふっはっはっは!! そうは行くか、ベアトリーチェ!」
「お前を捕らえるのはこの私だ!! 今宵、それは現実となるだろう。くっくくくくく! わっははははははははは!!」

 金蔵として得たものは、金蔵でなくなれば全て失う。
 だがベアトリーチェだけは手放さない。


「お前たちのような愚かなる息子たちなど、まさに白昼夢!! 初めからいなかったも同然よッ!!」
「消えろ! 覚めろ!! 真実の私のまどろみと共に消え去ってしまえ…!! 私を継承するに値する何物も築き上げてこなかった出来損ないどもめッ!!」

 黄金の魔法の継承。
 真実を生み出し、それを信じさせ、それを実現する魔法。
 幻想を真実に昇華する魔法。
 魔法実現。


「この世の全てはカネとして結晶しているのだ。それが掴めぬということは、この世を掴んでおらぬということ! 魂がこの世をしっかり掴んでおらぬということは、生きるに値せぬということだッ!! 消えろ!! 我が生と現実から消え去ってしまえ!!」

 カネとは黄金。
 皆が認める黄金の真実、それは人々が生きる世界。
 人々が認める世界。
 その世界をしっかり掴んでいないということは、その世界で生きるに値しないということ。


「あっはははははははははは!! それは素晴らしい! つまりは百億を投じて命をひとつ生み出したと! そういうわけだ! これは面白い、錬金術的に考えて実に面白い例えではないかァ…?!」

 この世の人間だと認められ、黄金として結晶している真実たちと引き換えに、ひとつの命を生み出す。


「ふむ。…………なるほど。夢と未来、奇跡と可能性は我が魔力の源泉だ。希望なくして如何なる魔法も力を持ちはしない。」

 無限の惨劇もまた、未来を実現し、夢を叶えるためのもの。


「出来ぬな。それを望むならば、お前の自らの力で阻止するが良い。……自らの運命は自らの手で切り開け。常に誰かの背に隠れ、怯えてきたお前に宿る、人生最後の克己を見せてみよ…!!」

 惨劇は、自らの運命を自らで切り開くためのもの。
 誰の目からも隠れ、怯えていたヤスの人生最後の克己。


“それは楼座の人生で最大の、そして最後の勇気、そして克己。”
“……その勇気をもっともっと早くに持てたなら、彼女の人生はもっと自由で、何者にも束縛されなかったかもしれない。”

 19人目の克己は、もっと早くしていれば、もっと違ったものになったんだろうなぁ。


「お館様の魔力の源泉とは即ち、ノイズとリスクと運試し。……ほっほっほ、つまりは気まぐれ、というわけですか。」

「………相変わらず、男ってどこか変ね。リスクを遊ぶという概念、わかりかねるわ。」

「ふっ、実に姦しいヤツらだ。だが少なくとも退屈はせぬ。……これだから召喚は愉快なのだ。そなたらには、我が儀式のノイズとリスクの天秤の片側を担ってもらうぞ。その働きに期待している…!」

 天秤の片側はノイズで、反対側はリスク。

 差し込まれるノイズは幻想。
 惑わされればヤスの真実に辿り着く。

 声なき声を聴けるかどうか。
 真相を解かれるリスクを遊ぶ。

 朗読者の声が真相を語ってるものな。


“……魔女の侵食が進めば進むほどに、六軒島は異界側に傾いていく。”
“次々とおかしなヤツらが増えていくというわけだ。”
“この島は台風に閉ざされ、ニンゲンは島から出ることはもちろん、新しく増えて登場することも出来ない。”
“しかし魔女や悪魔どもは、侵食されればされるほどに、いくらでも登場できる。次々に増えていく。”
“今やこのおかしな物語の登場人物は、ニンゲンより悪魔の方が多いのではないだろうか。……ヤツらの人数こそが、その歪みの侵食を示す数字そのものかもしれない。”

 展開編の散でも幻想側の住人が増えていった。
 それは魔女の世界がより侵食した証と言える。


「あらゆる死体について偽装死を疑い、その後の事件の犯人に想定することが出来る。……戦人の嫌う手だけど、魔女に対するもっとも初歩的な一手ね。」

 実際に偽装死が用いられたのはEP6だけ。
 初歩的な一手だからこそ研究され尽くし、コロコロと魔女の掌で弄ばれただけだったな。





 楼座を幾度も殺す真里亞。
 これは19人目に捨てられたヤスのことでもある。

「…わ、……悪かったと思ってるわ…! でッ、でも仕方ないでしょ?! ママは仕事で忙しいのよ、仕事で!! ママの仕事が忙しいのは知ってるでしょ?! 仕方ないのよ!! 仕方ないッ!!」
「そうだ。これは仕方なきこと。そなたの娘が傷つき、心を引き裂かれ、涙に血を浮かべることさえ、これは仕方なきこと…! なれば今この場にてこのようなることになるもまた、全ては仕方なきこと…!!」

 自分の苦しみのために他者を苛む。
 それを仕方ないとするならば、その苛みの連鎖の果ての結末もまた、仕方ないこと。


「ひとつの命で償えぬほどのそなたの大罪、身をもって知れ。そして、自らの深き罪を思い出せ…! さぁさ、思い出して御覧なさい…!! そなたがどれほどの罪を犯したのか…!!」

 ヤスを捨てた八城の罪。
 その罪のために、19人目は猫箱の中で無限に殺される。
 ヤスの手によって、真実を殺され続ける。
 罪を思い出すまで。


「あぁ、マリアよ、今こそ決別の時!! そなたの母を名乗った醜き肉の塊を打ち砕け…!! そなたの無垢なる魂が、親子なる鎖にてこれ以上束縛される意味はない! 自らの魂を自らの手で! 今こそ解放せよッ!! そなたは自らを守る牙と爪を、今こそ手に入れたのだッ!!」

 決別のルーレットによって選ばれた時。
 母の魂を打ち砕き、真に独立した自己として、己の魂を解放する。
 猫箱の中に解き放たれたヤス。
 自身の尊厳と名誉を守るために、牙と爪を振るう。


「うううぅううううぅッ!! 真里亞を苦しめてきた日々を今こそ思い知らせてやる…! 苦しみの日々を、今こそ復讐してやる…!!!」

 19年間の苦しみの全てを、二日間に凝縮した物語。


「さぁ、真里亞。そなたの怒りと悲しみはこの程度のものなのか? 今こそ復讐の時! 怒りと悲しみの清算の時…!!」
「ぶつけろ、吐き出せッ!! そなたの胸に打ち込まれた楔を全て、押し出し、跳ね返せッ!!!」

 全ての罪を清算するまで。


「無論だとも、そなたの苦渋の日々がこの程度の罰で見合ってなるものかッ!! 思い知るがいい、楼座! さぁさ、思い出して御覧なさい、そなたがどんな姿をしていたのか! 殺されるために甦れ!! 己が罪を禊ぐために殺されよ、何度でもッ!!!」

 八城が物語に描く自罰。


“………真里亞は絶叫する。”
“怒りと悲しみに堪えきれなくて?”
“あるいは、形容できぬ感情に捕らわれて……?”
“それはきっと、絶望の咆哮。”
“にもかかわらず、受けいれなければならない現実。”
“真里亞だって知っていた。”
“自分が邪魔に思われていることを知っていた。”
“でも、それを自ら知りつつ、自ら信じなかった。”
“自分は母に愛されていると信じ、それを疑わせるに足る様々な出来事を、精一杯、好意的に解釈して、母の愛を信じ、すがって来たのだ。”
“でも、………自分にはママしかいない。”
“それでもやはりママが好きで、………ママが自分を愛してくれていると信じていられた日々に、戻りたいのだ……。”
“だから吼える…。”
“全てをなしにする。認めない。否定する。”
“こんなことを言う母を、言わせる黒き魔女を、そして、………そんな母を許せない自分を、否定する……!!!”
“でも否定できない!”
“これが現実、真実、真相、解答。”
“見紛うことなき、絶対の、……現実!!”

 決別のルーレットが魂を二つに分かつ。
 八城はヤスのいない世界を生き。
 ヤスは母のいない世界に捨てられる。
 共に人間になるという夢を叶えるためには、もう互いの存在が邪魔なのだから。
 絶望の世界にひとり残されたヤスの絶叫が響く。


「真里亞の苦しみの全てを教えてやる…!! もっともっと教えてやる…!! まだまだ足りない、全然足りない…!! 生まれた時から、生まれる前から…ッ!! 蔑まれてきたこの怒りと悲しみが、どうしても消せないの……!!」

 ヤスが生まれてからの苦しみ、ヤスが生まれる前の苦しみ。
 背負わされた19人目の全て苦しみ。
 存在を否定される苦しみ。
 だから全てを否定する。


“この何度も繰り返される母の虐殺は、彼女の魂を浄化することになるのだろうか…。”
“この、不毛なる虐殺でも、わずかほどに彼女の魂は救われるだろうか……。”
“彼女の報われぬ悲しき生に、…この無限の拷問は、わずかの慰みになったかもしれない。”
“なぜなら、……彼女はようやく、笑みを取り戻せるようになってきたから。”

「笑えよ、笑って見せてよママ…!! きっひひひひっははははははははは?! どうしたのママ、起きてよ、絵本を読んでよ、お散歩に行こうよ…!! 愛してるって言ってよ、次の日曜日の約束をしようよ、お買い物に行こう、映画に行こう…!! そしてその約束をどうせ破るんだよッ!!」
「きっひひひひひひひひひひひひひ、楽しいねママ、楽しいね、真里亞は今、ママと遊んでるんだねッ!! きっひっはっははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!」

 何をするにも一緒という約束。
 守られない約束。
 望めない未来。
 だから二日間を切り取ったゲーム盤で永遠のお遊戯。
 ママを使ったお遊戯。


「私もママに、認められてないんだね。………だから壊れた真里亞も、…もう直らないんだね。…………………………。」
「………きひひひ。きっひひひひひひひひひひひッ!! きっははははひゃっひゃっひゃっひゃッ!! あああぁああぁ楽しいな、楽しいよママ…!! こんなにも楽しくなったら、なぜかママが許せる気がしてきたの…!」

 壊れた家具。
 狂った魔女。
 許せる時が来るまで続く永遠の拷問。


「それは生き死にを自由に出来る力を得た魔女のみが辿り着く、達観の境地よ。……いつでも殺せる。必要なら蘇らせる。面倒ならまた殺せばいい…!」
「それをいつでも指一本鳴らすだけで出来ることを知ったなら、人の世の戯言など、その全ては聞き流すに等しい虫の声以下よ…!」
「そなたに母を許そうという感情が芽生えたのは、そなたが母の愛に目覚めたからではない。そなたが今こそ! 真の魔女の世界の入り口に立ったからだ…!! ようこそ真里亞、深淵なる、そして甘美なる魔女の世界へッ!!」

 だから聞き流せる、自身を否定する言葉を。


「ママ、許してあげるよ。きっと私はママを許せる! もうちょっとしたら許せると思うのッ!!」
「だって魔女だからッ!! き、……ひっひひっひっひっひっひっひ!」
“やがて真里亞は、母を許すだろう。”
“……数え切れない虐殺の末に。寛大に。”

 ヤスは自分を恨んでいる。
 八城はそういう視点から、こう観測してしまった。決め付けた。
 ということだろう。
 こうではないかという不安の表れ。
 罪の意識の表れ。

 ヤスは自分を愛している、という視点で見れば、ヤスは八城の願いを叶えるために頑張っている、と観測できる。
 それはヤスが母を許した世界。
 それはつまり、八城がヤスに許されたと思うことができなければ視えない。
 だから八城にとってのハッピーエンドの条件は、ヤスに許されたと思える境地に至ること。


 因みに、楼座の台詞の方は、ヤスに対する八城の苦しみと怒り。
 これもまた真実の一面。

「………私だってあんたなんか生みたくなかったわよ…。いいえ違うわ。……あんたと一緒に幸せな家庭を築けたらと思ったわよ…。……でも、あんたが生まれる直前にあついは蒸発したわ。私と温かい家庭を築くと言って私を騙し、永遠に私の前から消え去ったわ…!!」

 幸せな家庭→幸せな世界。
 戦人に推理されるためにヤスを生み出したのに、戦人は推理することさえなく19人目の前から消え去った。


「残ったのはあんただけ。愛も思い出も何もない!! あの男は今どこへ? 私との日々を温かな思い出に勝手に変え、新しい恋人に出会ったかもしれない。そして今度こそ幸せな家庭を築けたかもしれない…!! そして私は?! あんたがいるッ!! 恋も探せない!!」

 戦人は島の外で人間たちと楽しく遊んでいる。
 そして19人目には、ヤスが残された。


「男は好きに女を渡り歩いて武勇伝気取りッ! なのに女は、私にはッ!! あんたがいる!! あんたという重石がいるのよ、あんたのせいで私は恋を探せない、愛が得られない、一人で生きていくしかない!!」

 男→ミステリーの読者。女→ミステリーの作者。
 ヤスがいるから、ヤスを推理してもらうために、新しい恋を探せない、愛が得られない。


「いいえ、それさえも許されてないわ、私には一人で酔い潰れたい夜さえ許されていないッ!! あんたは誰?! 何者ッ?! 私の人生を台無しにして、私の新しい人生さえ許してくれないあんたは、私の人生の何者なのよ?!」
「死ねッ消えろッ、あんたなんか生まれて来た時から大嫌いッ!! あんたがお腹の中にいた頃から、大ッ嫌いだったッ!!! それを前向きに受け容れようと、頑張って良き母を演じてきたわ。」
「えぇ、私は頑張った!! 同世代の女性たちが、独身を謳歌し、時に恋に遊び、あるいは愛に結ばれるのを横目に見ながら、私は女と母の二束のわらじを履き続けたわ…!! その私の苦労を、誰がねぎらったの?! 誰も褒めない、讃えないッ!!」

 今なお、ヤスのためにメッセージボトルを、偽書を綴っている。
 ヤスとはルール。
 ルールとは鎖。
 ゲームは終わっていない、まだまだ続く。
 目的を果たすまで、永遠に。
 永遠に縛るあんたは誰? 何者?


「自業自得? 子持ちはいや? 負け組の遠吠え? ウブな小娘が良いぃ?! こっちから願い下げよ、ケツの青い若造どもがッ!!!」
「必死だった私はさぞかし簡単に落ちる女に見えたろうさ、えぇ、必死だったわよッ!! まだまだ恋をしたい年頃の私が、日々を仕事と育児で忙殺されていき、このまま老いてこのまま人生を終えるだろうと悟った時、どれほど必死だったか想像もつかないでしょうよッ!!」

 いやいや、全然簡単に解けない謎だろ。
 考えずとも読めば解る謎に見えたなら、そいつは見る目がないんだよ。
 ウブで素直な謎よりも、捻くれた謎の方が味わい深いさ。
 もはや負け犬じゃあない、いまや誇り高い狼と言ったところじゃないか。
 謎もワインと同じだ。熟成された味というものがある。
 苦難の年月は、謎を極上の味わいに変えた。
 これを超える謎がどこにあるというのか。
 この謎を生み出したことを誇っていい。


「あんたの本当の父親ももちろん憎いわよ! でも破局を迎えた責任は私と彼に半々だわ。私にも、逃げられるだけのしつこさがあったのかもしれない!」
「でも、その後の破局は全部あんたのせいッ!! 私はあんたにそれを詰ったことはあった?! ないでしょおおおぉッ?!」
「男に逃げられて酔い潰れたいその次の日があんたの授業参観ッ!! 泣き腫らした目を厚化粧で誤魔化して、あんたが的外れな発言をしてクラス中から失笑されてた時の私の気持ちなんて、あんたどころか、世界中の誰にもわからないでしょうよッ!!」
「あんたが嫌い、大ッ嫌い…!!! そしてこれまでにあんたを本当に愛したことなんて、ただの一度もないッ!!! うおああああああぁああああああああぁおおおあああああぁあああぁああああああああああぁあぁあぁぁぁああぁッ!!!」

 まさか楼座のこの最悪のシーンが、犯人のヒントだったとは誰も思わねーだろ。
 こりゃ確かに必要なシーンだわ。
 愛があれば、憎がある。
 人間ならば極々当たり前のこと。
 愛についてはいくらでも雄弁に語られた。
 哀についても枚挙の暇がない。
 憎についてはここに凝縮している。
 19人目とヤスの憎悪の関係は、楼座と真里亞にしか演じられない、語れない。





 紗音による黄金郷の話。

「……そういう具体的なイメージのところじゃないの。本当に、夢の中みたいなところなの。そこにいる時は、とても穏やかで安らかで、……いつまでも眠ってることを許される、まるで休日の早朝のお布団の中みたいな感じ。」
「……カーテンの隙間から日が差してきて、そろそろ起きないと、と思うんだけど、今日は休日だから起きなくてもいいんだって気付いて、もう一回お布団の中に潜り込む時みたいな、そんな気持ちになれる場所。」

「うん。そこにいた時はね、満たされてて、とても穏やかだあった。でも、元の世界に戻ってくると、つい直前までそこにいたはずなのに、うまく思い出すことが出来ないの。」
「ついさっきまで見ていた夢が思い出せないのに良く似てる。…でも、とっても穏やかで静かな世界だったことだけは覚えてるの。」

「その通りだよ。何でも願いが叶う場所。………少し違うかもしれない。何も願わなくてもいい場所、が正解かもしれないね。」
「……例えば嘉音くんが、寒くて上着が欲しいと願った時、上着をもらえればとても幸せなことだけど、そもそも暖かい部屋にいられたなら、上着が欲しいなんて願う必要さえもないでしょ?」
「……黄金郷はそういうところなの。大抵の願いは、願う必要さえなくなる。全てから解放された、何もかもが穏やかな世界なの。」
「与えられて幸せ、という概念さえも超越した、全てから解放された世界とでも言えばいいのかな。」

「そして、そこでは全てが平等なの。意思ある存在は全てが平等。……ニンゲンも家具も魔女もない。……そこでの私は誰とも対等で公平。もう家具だからと、何も自分を恥じる必要がない。」
「………全てのニンゲンとも、そして魔女とさえ対等な、本当に幸せな世界だったの。うまく思い出せないけど、そこでは私、ベアトリーチェさまとさえ対等な関係で、良い友達でいられた気がする。」

「…………………。…黄金郷はね、とても穏やかで安らかで全てが対等で公平だけれど。……幸せだけ、実は抜けているの。」

「もちろん、安らかで穏やかで公平というだけですごい幸せな世界だよ。……でも、それは例えるなら、全ての悩みというマイナスから解放されたゼロの世界なの。」
「人の世はマイナスで満ちてるから、もとろんゼロというのはものすごい幸福なわけだけど、……それでもゼロなの。くす、贅沢だよね。」
「……それはこういう感じ。穏やかな休日の朝のまどろみの時。……最愛の人も隣にいてくれて、手を握っててくれたなら、もっともっと、素敵な幸せになれる、………みたいな。…ごめん、姉さんは例えが下手くそだね、馬鹿だから。」

 全てが満たされた世界。
 それはつまり、自己満足に至った心。
 自分で自分を認められる、魂が一人分に満ちた人間。
 悩みというマイナスがないゼロの世界。

 でもそこには幸せだけがない。

 まどろみの時、最愛の人も隣にいてくれて、手を握っててくれたなら、もっともっと、素敵な幸せになれる。
 幸せとは、最愛の人と一緒に黄金郷に辿り着くこと。

 つまり、比翼の鳥は、片割れを殺して一なる魂を得ても、ゼロにしかならず、幸せだけは得られない。
 共に合わさり、一なる魂に戻らなくては、幸せにはなれない。

 我は我にして我等なり。
 19人目によって魂を吹き込まれたモノたちは、全て黄金郷に迎え入れられる。
 家具だろうと、ニンゲンだろうと、悪魔だろうと、魔女だろうと。
 共に一なる魂を形成する我等こそが、我なり。


 どうやら黄金郷とは、満ち足りた19人目の心の世界、というのがファイナルアンサーで良さそうだ。
 読者の心の中の世界は、黄金郷に準ずるものということで。





 牢屋での金蔵との会話。

「牢とは、捕らえ逃がさぬこと。それは即ち、生涯手放さぬとの強い意志と愛である。逃げても諦められる程度の女ならば、愛を語るに値しない。」
「鎖で縛ってでも逃したくないと思うほどに狂おしくなる女。そこまでに至ってこそ、我が生涯を捧げるに値する愛である。………お前にそれをわかれとは言わぬよ。」

 猫箱を作った動機。


「お前たちは、自らの命運を自らの子どもたちに委ねるのだ。……お前たちが生み、教え、育ててきた結晶が子どもたちだ。お前たちの命運を委ねるに実に相応しい存在のはず…!」
「くっくくくく! そう心配そうな顔をするなよ蔵臼ぅ…。お前の自慢の、百億の価値のある娘を信じろよぉ。ふっふふふ、ふっははははははははは…!!」

 娘であるヤスに命運を委ねる。
 彼女のゲームにて、彼女が辿り着く岸こそが、旅の終着点。
 その時、黄金郷に二人して辿り着けるのか。





 真里亞の日記に記されたベアト。

“真里亞お姉ちゃんの日記を思い出す…。”
“ベアトリーチェと遊んだ記述も結構ある。”
“その中でベアトは真里亞と一緒に、親族の大人たちに何かの悪戯を仕掛けることがたまにあった。”
“しかしその悪戯は、いつもちょっとした魔女の美学があった。”
“それは、………不確実である方が面白い、というものだ。”

「誰が引っ掛かるかわからず、引っ掛かるかどうかさえわからない罠の方が、ハラハラして面白い。」

 ノイズで惑わせられるか、リスクで遊ぶ。


“真里亞お姉ちゃんの日記帳にも魔導書にも、魔女の碑文についての記載はある。”
“曰く、黄金郷の扉を開く儀式であり、ベアトリーチェ復活の儀式であり、ベアトリーチェ継承の儀式であり。云々。”
“興味深いのは最後の、継承の儀式、という行だったろうか。”
“ベアトリーチェが言うには、もし魔女の碑文を解き明かすことが出来たなら、10tの黄金と右代宮家の家督だけでなく、自らの魔法の力と名前、黄金の魔女の称号までもを引き継ぐという。”
“魔女の碑文は、当時の右代宮家では、解けた者を次期当主に選ぶために当主金蔵が用意した難解なクイズ、という認識だった。”
“しかしマリアージュ・ソルシエールの解釈では、その出題者はベアトリーチェ自身で、自らの後継者を選び出すための出題でもあったという。”
“……両者の解釈は細部で微妙の食い違っている。”

 黄金郷の扉を開く儀式。
 これは19人目が、読者やプレイヤーに挑み、黄金の真実として認められ、黄金郷に辿り着くための儀式。

 ベアトリーチェ復活の儀式。
 これは19人目が、死んだベアトリーチェの真実を蘇らせる儀式。

 ベアトリーチェ継承の儀式。
 これは19人目が、黄金と無限の魔法を継承するための儀式。
 そして、その黄金と無限の魔法の謎を解くということは、その魔法を継承できるということ。





 紗音と嘉音を挑発するガァプ。

「……でも、案外、あなたたちだけかもしれないわよ? この状況を打開できる力を持っているのは、……ね?」
「………黄金郷に辿り着きたいんでしょう? 叶えたい夢がいっぱいあるんでしょう…? くすくす……。」

「そうだね、……私たちは無力。……でも、家具は、必要とされることだって、…そして愛されることだってあるよ。」
「……今の私たちは、暗い地下室にしまわれているだけ。……きっといつか、誰かが愛してくれる。必要としてくれるから。……だから今は挑発に乗らないで、堪えよう…。……ね?」

 黄金郷に辿り着くためには、家具である紗音と嘉音が頑張る必要がある。
 でも家具だから、誰かプレイヤーが推理に必要としてくれるまで、暗い箱の中にしまわれているだけ。





 次期当主を選ぶ試験。

“以下に掲げる三つの内。二つを得るために、一つを生贄に捧げよ。”
“一、自分の命”
“二、愛する者の命”
“三、それ以外の全員の命”
“何れも選ばねば、上記の全てを失う。”

「実に簡単な三択だわ。他の二つのために、どれを捨てられるかということよ。……簡単でしょう? それでも決まらないなら、コインでも貸してあげようかしら……?」
「……コイン? 二面しかないものでどうやって三択を?」

 コインの表裏には、19人目とヤスがそれぞれ刻まれている。


「自分から死にたいと願う人間なんて、いるもんか。そして、あ、…愛する人の命を見捨てて生き残りたいと思う人なんて、いるもんか。……そして、自分たちだけ良ければ、他の人間全てを見殺しに出来る人間なんて、いるもんか…ッ…!」

 どれも選べない人間は、いる。
 自分から死にたいと願う人間は、いる。
 愛する人の命を見捨てて生き残りたいと思う人は、いる。
 自分たちだけ良ければ他の人間全てを見殺しにできる人間は、いる。
 それは全部同一人物。





 三択、3匹のうさぎの答え。

「い、いいえいいえッ、申し訳ございません、私にはわかりません、ゴールドスミス卿!」
「愚か者めッ、選べもせぬとはな、ゲームオーバーああぁあッ!!! 自らの生きる理由も目的も見出せん愚かなうさびめッ…!!」
「貴様など誰にも気付かれずに踏みつぶされて生を終えるアリ1匹ほどの価値もないわ!! 死ね! 潰れろ!! 私が瞬きしている間に消えてなくなれッ!! ……お前はどうか。」

 45の答え。
 これは、何も決断できず、一歩も踏み出せず、人間として生きてすらいなかった時代の19人目の答え。
 誰にも気付かれずに、踏み潰されるアリ。
 そして時間切れ、愛する者ごと潰された。


「……私は1番の、“自分の命”を生贄とするであります。武具は戦い、散ってこそであります。そして武具は、敵を打ち滅ぼし、味方を守るためにある。愛する者たちを守って死寝るなら本望であります。」
「ほお。武具らしい実に見事な模範解答よ。即答、大いに結構。……そう答えればニンジンが1本余計にもらえると教えられてきたのか? ふっふふふふ違うよなぁああぁ? それすらも違うよなぁあああぁあ…?」
「そう聞かれたらそう答えよと、お前はただ吹き込まれた通りに答えたに過ぎなぁあい!! お前も今のうさぎと同じだ。自分の生きる理由と目的を、未だに見出せずに生きている…!! 生きる価値なきクズめッ…! 貴様など潰されて他の家畜の餌にでもなるのがお似合いよッ!!」
「……………ッ。…はっ! か、家畜の餌、光栄であります……!」
「違うだろぉおおおぉ? もう誰も死ぬところを見たくないんだろぉおお? それがなぜ認められぬのか。認めろよ、お前の古傷の奥の奥が未だに膿んで腐っていることを…!」
「あぁ、腐臭にて鼻が曲がりそうであるわ、愚かなる腐れうさぎめッ!! お前にはこれが誉め言葉であるッ!!」
「………あ、ありがとうございます、であります……。」

 00の答え。
 これは、自分の命を捨て、ヤスに全てを明け渡すことを選ぶ19人目の答え。
 己の世界の皆のために自分を生贄とする、潰されて他の家畜の餌となる選択。
 もう、愛する者が死ぬところを見たくない。
 それが傷となって膿んでいるのだ。


「さぁて、最後のお前はどうか。この三択から何を選ぶ…?」
「にひ。迷うことなく当然、2番であります。」
「ほぉ…。2番か。“愛する者”を生贄に捧げることを胸を張って選べる者は多くない。訳を聞かせよ。」
「愛する者は、いつかいなくなるからです。愛する者がいなければ、傷つかないし、いなくてもいつか、また誰かを愛せるかもしれない。だから。今、愛してる者なんて、大した価値はないのですにぇ。……にひ!」
「くっくくくくくく。なるほど、それでそういう回答になるわけか、愛に傷ついたがゆえに臆病になったうさぎよ……。うさぎは寂しさで死ぬと聞いたが、お前の心は一体いつ殺されたというのか…?」
「ならばうさぎよ、問いを変えよう。2番の選択肢を、“愛する者”ではなく、“そなたが愛した者の思い出”に変えようではないか。」
「……どうか。これでももう一度選べるかぁ? 何が愛してる者に大した価値はないだ、愚かなうさぎよ…!」
「自らの愛の深さにも向かい合えぬクズめッ!! 選んでみよッ、愛した者を忘れられると、選んでみよぉおおおおおッ!!」
「選べるだろ? 選べるものなぁあああぁ? ほおおら選べるって言ってみろよおおぉおおおおッ?!?!」
「え、…え、選べるであります…。選べるであります…!! にひ、………にひひひひひひひひひいひぃ……。」
「ゴ、ゴールドスミス卿…! それくらいでどうかお許しを……!!」
「ひひぃひぃ…。……ひぃいいいいぃいいぃん…!!」

 410の答え。
 これは、ベアトを殺すことを選ぶ19人目の答え。
 愛する者はいつかいなくなる。
 愛する者がいなければ傷つかない、いなくてもいつかまた誰かを愛せるかもしれない。
 だから、今、愛している者なんて大した価値はないと思い込もうとしている。
 愛に傷ついたがゆえに臆病となったうさぎ。
 お前の心は一体いつ殺されたというのか?


「もう良いわッ、クズうさぎどもめッ!! お前たちはワルギリアのところへ行き、地下牢の見張りを手伝うのだ。消えよ!!」
“シエスタ姉妹たちは、それぞれの心の古傷を抉られ、逃げ出すように姿を消す。”
“後には、誰も聞く者はないのに金蔵がひとり、演劇を続けるかのように話を続ける…。”
「……と、このように愉快なテストなわけだ。実のところを言えば、これが正解という選択肢はない。」
「むしろ、どの答えであろうとも、澱みなく、素早くッ、そして確固たる信念と揺るがぬ強き自らの意志で選べるかどうかッ!!」
「その理由と意思の方が重要なのだ。………私はそれを知りたいのだよ。あぁ、我が末裔たちよ、お前たちはどのような答えを見せてくれるのか、実に楽しみだッ!!」
「…………んん? 私か? くっくくくくくくく! あぁ、もちろん同じ問いを突きつけられたことがあったとも。その悪魔の問いに見事答えたからこそ、私は黄金と名誉と、あの魔女を我が物とすることが出来たのだよ。」
「私が選んだ答えはどれかぁあぁ? ………言うまでもないよなぁ。わっはっははははははははははははははははははははは…ッ!!!」

 3匹のうさぎが消えた舞台でひとり、演劇を続けるかのように話を続ける朗読者の答え。
 残る選択肢は一つ、答えは明白。
 自分と愛する者が共に黄金郷に辿り着くために、それ以外の全員の命を生贄に捧げる。
 絶対の意志でそれを選んだ。
 だから絶対に叶える。
 それこそが、必ず訪れる絶対の未来。





 朱志香の選択。
 これは、ヤスの選択に重なる。

「死にたくないさ。……だから一番なんて、誰だって選びたくない。……人は、幸せに生きたくて、生の限りを足掻いてるんだぜ。だから本当は、まず一番目なんてありえないはずなんだ。」

 人は幸せに生きたくて、生の限りを尽くす。
 本当は死にたくない。
 幻想の彼女にとって、一番を選ぶことの意味は重い。


「一応、……それぞれの選択肢を選んだ後の未来のことを考えてみたぜ。」

「まず、………嘉音くんを、死なせてみた。………私は自分の大好きな人を見捨ててまで生きる残りの生涯を想像してみた。」

「生きるにも値しない、最低の女だった。いつまでも自らの選択を悔やみ、ただ後悔だけのために生きるみすぼらしい女だった。……大好きな人を見捨てて生きることを選んだ、最低の女なんて、私には許せない。……私が自ら引導を渡してやる。」

 故に、二日間しか生きない。


「……あぁ。私と嘉音くん以外の全員を死なせてもみた。……嘉音くんは、そんな私を好きになるはずはない。」
「そして私もまた、いくら嘉音くんがいても、そのために見捨てた大勢の命が、生涯十字架となって圧し掛かってきた。……そしてその十字架は、嘉音くんにまで圧し掛かった。」
「………私は、嘉音くんに十字架を背負わせるために、愚かな選択肢を選んだりは、しない。もしそんなことをする私がいたなら、………私はその未来の私を許さない。…その女にも、私が引導を渡してやる。」

 これはEP8の入水自殺の直前の会話に繋がる。
 最終的には、生涯共に十字架を背負おう、という話になる。

 だが最初は三番を選ばない。
 家具の罪は主の罪。
 主に、自身が犯す罪を背負わせたい家具がいるか、という話。


“朱志香は思い描いたのだ。”
“三つの選択肢それぞれの向こうにいる未来の自分を。
“三人の朱志香がいた。……三人の内、二人は後悔していた。”
“一人だけが、胸を張って、嘉音に微笑むことが出来た。”
「……私さ、生意気にも、嘉音くんに説教をしたことがあるぜ。……自分の人生を、思い切り生きてみろ、みたいなことを。」

 人として生きよう、その一歩を踏み出そう、と主を励ました。


「だからさ。私が胸を張って、嘉音くんに見せなきゃならないんだよ。………胸を張って、お天道様を真正面から見て、思い切り笑顔でいられる生き方ってやつを。」
「……あなたの自己犠牲を、嘉音は受け入れられるでしょか? あなたの身勝手な選択が、余計に彼を傷つけてしまうことには、思いが至りませんか…?」

 お天道様を真正面から見て、笑顔でいられる生き方を、主に。
 それが家具の思い。
 だがその選択は、主に消えない傷を残す。


『……嘉音くんの、思い切りの人生を、生きて。……うぅん、ちょっと違う。嘉音くんの、じゃない。……本当の名前は未だに教えてもらえないけど。本当の嘉音くんの人生を、思い切り生きて。………そう伝えて。』

 本当の名を失い、家具となった19人目。
 人としての名を持つ人間としての人生を生きる。
 それがヤスから託された願い。





 譲治の選択。

「結婚とは。……自分は生涯、妻の味方であり続けるということだ。………僕にはその時点で。……彼女のために世界の全てを敵に回す覚悟があるんだ。」
“その言葉を、三面鏡越しに、……紗音も耳にする。そしてその決意を、目にする。”
“……紗音は確かに今夜、婚約指輪を渡される約束をしていた。”
“そしてこのような事件が起こってしまい、指輪を受け取ることが出来なかった。”
“しかし、今。………指輪の形を成さないだけで、……それ以上の何かを、紗音は受け取る。”
“……その証拠に、……ダイヤと同じ輝きの涙が一粒、…零れたから。”

 19人目の決意。
 生涯、ヤスの味方であり続ける。
 それは世界の全てを敵に回す覚悟。
 共に十字架を背負おうという覚悟。
 それを鏡の向こうの世界にいるヤスが見ている。


 19人目の選択と、ヤスの選択によって作られたのがルーレットの奇跡の目。
 19人目は誰も殺さず八城という名を得て人間として、ヤスに人間としての生を認めさせるために生き、その果てに、共に罪を背負い生きられる未来を。

 同時に、それが叶うまで、ルーレットの反対の目でヤスが地獄を這いずることが決まった。





 譲治の決意。

「………譲治さま……。……もう、………止めて………。…私なんかのために……。」
「……私のことなんて、好きにならなければ、……譲治さまは誰とも戦わなくていいんでしょ…? なら私なんて捨てて下さい……。忘れて下さい……。」
“その声が譲治に届くはずもない。”
“……しかし、なのに。……譲治はそれに答えた。”
「嫌だね。…………僕は、屈服しない。」
「……へぇ。どうして……?」
「…………それが、僕の、覚悟だからだ。……僕は紗音のために、全てと戦う。そして全てに認めさせ、……全てに僕たちを祝福させる。」
「ねぇ、聞かせて? どうしてあの紗音とかいう家具のためにそこまで言えるの? ………あんなの、ただの出来損ないじゃない。給仕ひとつ満足に出来ない、ガラクタ家具だわ。」
「…………愛する女性への暴言を、僕はそれ以上許さない。」
「だったら何? ひ弱なボクちゃんが、私にどう抗うというのかしら…?」
「人を愛するとは強さだ。……それを知ったから、僕は強くなれた。………“紗音、僕は君を愛している”。その言葉だけで、僕は何度でも立ち上がれるんだ。」
「紗音は地下牢よ? 私に愛を語られても。」
「いいや。伝わった。……それが愛だからだ。紗音には今、僕の言葉が聞こえているよ。そうだと信じられることこそが、愛だ。」
「………………こいつ、…、……。」
『紗音。君は家具なんかじゃない。……家具だったとしても、世界でただひとつの、僕だけの家具だ。生涯、僕と寄り添って欲しい。……僕には君が、永遠に必要だ。』
「………じょ、……譲治さま……………。」

 これは、八城が鏡の向こうの世界にいるヤスに向けて語り掛ける言葉。

 決して、ヤスを否定する真実に屈服しない。
 ヤスの真実のために全てと戦い、認めさせる、祝福させる。
 愛する者への暴言を許さない。
 君を愛しているから、何度でも立ち上がれる。
 君は家具じゃない。家具だとしても私だけの家具だ。生涯、私と寄り添って欲しい。私には君が、永遠に必要だ。


「あっはははははははははは…!! 愛が強さ? なら坊やはどうしてそんなにひ弱なの? その弱さがつまり、君の愛の程度なわけね?」
「くすくすくす! 婚約者への愛もひ弱。両親の呆気ない死に様もひ弱。君の人生は何から何までひ弱だわぁ。」
「……………紗音は僕に愛と強さを教えてくれた。もし君が、僕の強さだけで紗音への愛を確かめようというのなら、……僕の愛を、教えよう。」
「くす、言うわね。……なぁるほど。何度も蹴り倒されて転がされ、それでも立ち上がるのが紗音からもらった強さだと。」

 一歩も踏み出せなかったから、誰にも認めさせることはできなかった、かつてのひ弱な自分。
 だが、ヤスが愛と強さを教えてくれた。


「そして父さんにもらったのが、……忍耐力。」
“低い沸点の怒りは真に恐れるべきものではない。”
“……本当の怒りは、忍耐によって練り上げられる。”
「……君の暴力的意思表示は理解した。……また、婚約者と両親への名誉棄損も理解した。そして、それを撤回する気がないんだね……?」
「……こ、いつ……。」
「君の攻撃は、もう充分に理解したから。…………そろそろ、いいかな。反撃しても。」

 “父さん”は、金蔵でいいのかな?
 忍耐力によって練り上げられる金蔵の魔法。
 ヤスへの名誉棄損に対して反撃を。


「忍耐とは、熱くならず、冷静に相手の出方を研究することだ。………何のために? 決まってるじゃないか。わかるかい?」
「わ、わ、わかんないわよ……。」
「反撃して、きっちり借りを返し、二度とちょっかいを出したくないと思わせ、涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしてそれを拭うのを忘れて、額を地面に擦り付けて何度も謝りたくなるほどに完膚なきまでに完璧に徹ッ底的にッ!! ……叩きのめすためだよ。」

 ヤスを否定する真実を叩き潰す。
 そのために冷静に相手の出方を研究する。
 手を分析し、効果的な反撃を用意し、それに対する反論を予測し、それを叩きのめす。

 EP4の「金蔵の死亡」と「19人目の否定」は、ホントきつかった。


「君はどうやらまだ、その暴力の意味を誤解しているようだ。……この場合の暴力とはね、短絡的に振るわれる乱暴のことを言うんじゃない。………敵対すれば、無傷では済まないという、抑止のことを指すんだよ。」
「抑止……、だと……。」

「君も言ったろ? 暴力は統べる力だと。………暴力で相手を破壊してしまったら、統べられないじゃないか。」
「王者の暴力とはね、見せるだけなんだよ。破壊しない。……屈服させて、自らの財産とするんだからね。」

 ヤスの真実を見せ、読者を屈服させ認めさせる。
 そうすることにより、ヤスの真実は、魔法は力を持つ。
 即ち、黄金を山と積み上げる。


“悪魔たちから見れば、そういう魔法だったかもしれない。”
“しかし譲治にしてみればそれは、決意。”
“これ以上の戦いを望むならば、誰であろうとも容赦しない、そして相応の反撃を覚悟してもらうという絶対の決意。”
“絶対の決意が、魔法になる。”

 黄金の真実を否定する者、全てを屈服させるという、絶対の決意。
 この絶対の運命に勝てるのは、極小の確率の奇跡。





 朱志香の決意。

「砕けないからってよ、殴るのを止めはしないぜ。……どんな硬い心にだって、言葉はわずかずつ響き、やがてはひびを入れることだって出来るんだ…! 私は信じてる!! この世に無駄な努力なんて存在しないってなッ!!」
「だから生きるんだろ、思いっきりッ!! 言葉だっていつか通じるなら、拳だって同じってことだぜ…!! 私の辞書には、諦めるって文字は書いちゃいねえんだぜッ!!」
“それは多分、嘉音に語り掛ける言葉…。朱志香の言葉を一見拒絶する嘉音。……だが、その頑なな心に、少しずつ染み透っているのを、朱志香は知っている。”
“そしてきっと、心が通じて、彼が自らを家具と呼んで卑下しなくなる日が来て、……彼の新しい人生を踏み出してくれることを信じている。”
“だから朱志香は諦めない。へこたれない…!”
「馬鹿みてえだろ? 男には理解できねえだろ? 恋する乙女ってのはな、無駄だから諦めるって考えがねぇんだぜッ!!」

 ヤスの主への献身。
 愛を諦めている主の頑なな心に届かせようとする言葉。
 自らを家具と卑下しなくなる日が来て、新しい人生を踏み出してくれることを信じている。


“諦めない拳と決意には、必ず成し遂げる力が宿る。”
“それは悪魔から見れば、魔法。絶対の決意が、魔法になる。”

「そうさ…! 無駄なんて諦めたら、そこで人生が終わっちまうぜ…! 通じるんだよ。……絶対に…!!」
“私は馬鹿だからこんな生き方しか出来ないけど、それでもきっと、嘉音くんの人生に、新しい世界を教えてあげるくらいのことはいつか出来ると、……信じてる!!”

 無駄だと諦めてはいけないと教えるための、絶対の決意。
 ゼロでない限り、何度も諦めずに続ければ、奇跡は起こるのだと。
 名を取り戻し、人として生きれるのだと。


 それで、譲治と朱志香の相打ち。
 ヤスの真実を守ろうとする19人目の決意。
 19人目の真実を取り戻そうとするヤスの決意。
 相討つ結果。





 嘉音と紗音の決意。

「……いいよね、姉さん。………もう一度だけ、足掻いても。」
「…………うん。……私も、…もう一度だけ足掻くよ。……ううん、一度だけじゃない。…何度でも。」
“朱志香の声は、嘉音に届いた。”
“冷たい岩のような彼の心に、確かに浸透したのだ。”
“そして譲治の声も、紗音に届いた。彼らが示す愛が強さで現されるなら、自分も同じ形で応えなければならない。”

 ヤスの声は、19人目に届いた。
 19人目の声は、ヤスに届いた。


「あんたたちは、………一体何なの……。」
「…………僕たちは……。」
“嘉音が少し俯き口ごもると、紗音がその肩を叩き、にっこり笑い、そして言った。”
「私たちは、ニンゲンです。」

 19人目が少し俯き口ごもると、ヤスがその肩を叩き、にっこり笑い、そして言った。





 ワルギリアの山羊との戦い、抜粋。

「しかしそれでも、あなたがこの子を倒せる確率は、0.00001%というところでしょうか。おわかりかしら? あなたには万に一つの勝ち目もないということです。ほっほっほっほ…!」

「く、…くそ……。万一ということは、配当は一万倍ということではないかね。……良い大穴だ。そういう馬券は好きだよ、買いたくなる…。」
「ほっほっほっほ! それを買うコインはあなたの命、1枚しかありませんよ? しかし、それでもその奇跡に運命を託したいというあなたの気持ち、よくわかります。」
「……ですので、恐れずに立ち向かうあなたの勇気を讃え、ひとつハンデを差し上げましょう。この子は左腕一本で戦います。まぁ、それでもあなたに負ける気はまったくしませんが。」

「何? 左腕一本で戦う約束?」
「ほっほっほ!! 約束は破るためにあるのでしょうがー!!」

「……これは、勝利を最後まで諦めなかった蔵臼さんの執念と、……あんたの慢心が招いた結果だ。どちらが欠けても、この威力にはならなかった…。」

 左腕一本で戦うというのは、EP4最後のベアトの左腕に重なる。
 その約束を翻して右手を使うのは、ベアトが下げた右腕の分が残っているのに重なる。
 要するにこれは、ベアトの心臓についての戦いについてを描いている。

 ベアトの2つの心臓。
 それを同時に打ち破る確率は限りなくゼロに近い。
 だが配当はリスクに見合う莫大なもの。
 しかし、賭けれるコインは一枚。
 でも負けフラグを積み重ねておいたから。
 だから賭けるに値する。

 当時の私はよく確率の低い賭けに出られたものだ。
 まぁ、左腕一本だけだと思ったからだろうなぁ。
 まさかその後に右腕が待っているとは思わなんだ。
 でもEP5で、同一説が用意されている気配があったから、EP6の右ストレートに反応はできたのかなぁ。





 嘉音の死亡シーン。

“嘉音はぐらりと後ろへ仰け反り、……井戸の奥深くへ飲み込まれていった……。”

 これは、19人目の真実が闇に飲まれる、というところにもかかっているのだろう。





 戦人とベアトの通話。

「金蔵だってぇええぇ! 妾に再会出来て嬉しいだろぉおお? あぁ、シャバだ! 現世だ! 妾の肉体万歳ッ!!」

 今はヤスが肉体を使っている。


「イ~エぇええええぇス、アイアぁああぁムッ!! 金蔵の13人殺しの儀式のお陰で、ようやく妾は復活したぞ…!! 口があるといい、舌があるといいッ! こうしてそなたと話せることとの何と楽しいことかッ!」
「そう言えば、お前とはあれだけ何度も何度も憎まれ口を叩き合ってきたのに、こうしてゲーム中に盤上で会話をしたのは初めてだなァ。何やらとても新鮮だッ!!」

 盤上の現実にとって、メタ世界は空想。
 盤上で肉体を用いた会話は初。


「安心しろよ、浮気なんかしないってぇえぇ。あいつと二人きりになるのは今だけ。……妾はいつだってお前と二人きりだろぉぉ…? だがもう妾を四六時中束縛するのは勘弁しろよ? くっひゃっはっはははははは…!!!」

 19人目に対しての言葉。





 戦人の試験。

「黒のビショップは、そなたが黒きマスに留まる限り絶大な影響力を発揮するが、そなたがひょいと白きマス一歩逃れれば、妾はそなたの隣に接することは出来ても、接触することは叶わぬのだ。」
「だから妾は、そなたが白きマスに留まれぬよう、様々な駒を送り込み、そなたの隣の黒きマスを支配する妾の前に弾き出されるようにゲームを進めてきたのだ。」
「しかァし!!」
「今やそなたの城壁はぽっかりと穴を空け、妾はビショップではなく、とうとうクイーンを送り込むことが出来たッ!! クイーンがどういう駒か、知っているか?」
「飛車+角だろ。……言いてぇことはこうかよ。…今やお前は、黒い魔女幻想のマスだけでなく、白い人間世界のマスまで自由に侵食できるようになったと…!」

「……どうやら、この島のチェス盤は、インク壷でもぶっかけちまったみたいだな。」
「なるほど、それも愉快な表現よ…! くっくくくく、すぐにそなたもそのインクに染まるぞ。やがては真っ黒に染まり、必ず黒きキングになる…! そなたは今や、インクの海に溺れる哀れな存在であるなぁ?」
「いいや、違う。島がてめえのインク壷で、全て真っ黒に染まっちまったことは認めるが。……白いマスはまだ、残ってるぜ。」
「ほう、どこに…!!」
「俺の、足の裏にだぜ。………お前の魔法のインクが島中を覆い尽くそうと、俺が踏みしてる足の裏までは覆えない。…一見、この島が真っ黒に染まろうと、俺は俺だ。白いマスを、こうして踏みしめて立っている!!」

 白のマス=真実の世界。
 黒のマス=虚偽の世界。
 幻想の犯人が殺せるのは、幻想の住人だけ。
 だから真実の犯人の前から弾き出されるようにゲームを進めた。
 そして、真実の世界を虚偽の世界が自由に侵食できるようになった。
 いずれプレイヤーも黒く染められ、虚偽の世界を語る黒きキングとなる。
 だが、プレイヤーの足元だけは真実の世界を残すことができる。


「……妾の肉体も魂も、どう扱おうとそなたの自由よ。妾は所詮は、右代宮家の家具なのだから! あっはっはっはっはっは!!」

“二、__の命”

 名前がないゆえに愛されない者に、名前を与え魂を吹き込め。


「………そなたは右代宮に生まれ、育まれてきたのではないか。その恩を忘れ、右代宮の名を捨てる資格が、そなたにあったというのか。」

 19人目は右代宮に生まれ、育まれてきた。
 その恩を忘れ、右代宮の名を捨てる資格があるのか。


「しかし。祖父母の死を境とは言え、よくぞ右代宮に籍を戻した。よって、その罪を自ら禊ぐ機会をそなたに与えよう。今こそそなたの、6年前の罪を贖う時。」
「さぁさ、思い出して御覧なさい、自らの罪を。それを思い出し、告白し、懺悔せよ。…………それこそが、妾がそなたに与えるテストである。」

 戦人は紗音にした約束を忘れた。
 それはつまり、紗音の恋心を引き継いだという設定のヤスの心を傷つけたということ。
 ヤスは戦人に心を推理してもらい、その心を認めてもらい、紗音という人間になろうと思い描いていた。
 その願いは6年の歳月でぐちゃぐちゃになった。
 ヤスの真実が存続できるよう必死に取り繕った。
 ヤスが傷つけれれ殺されていくところをずっと見ていた。

 他人にとっては、高がそれだけのことのように思えるだろう。
 しかし、19人目にとっては、ヤスは世界の全て。
 それを失うということは、19人目の持つ全てを失いということ。


「……た、確かにそりゃあ、……俺の幼稚な反抗だったと。バッサリ言われりゃそれまでだぜ。………でもよ、…ならよ。……お袋の、……右代宮明日夢の無念は、誰が晴らすんだ…?! お袋はあんなにも献身的に俺たち家族に対し、頑張ってくれたんだぜ…?!」
「なのに親父は霧江さんと浮気もしていた。縁寿を身篭らせてさえいた…! それで出産に合わせて、駆け込むかのように籍を入れたんだ。」
「……それがお袋への裏切りでなくて何なんだよ?! お袋の、無念はッ! 誰が!! 晴らすんだよ?!」
「……だが、お前の言うとおりでもあるさ。浮気は事実でも、俺を育ててくれた恩は確かにあった。」
「なら、それを相殺して、俺が家を出て行くというので、問題ねぇじゃねえかよ!! そうさ、俺にはお袋の代わりに親父をブン殴る権利が、……いや、義務があったはずなんだぜッ?!」
「それを俺は許した! 何も言わずに出て行って、初めから俺なんていなかったことにしてやった!! 親父も俺のことなんか忘れて、霧江さんや縁寿と新しい家族を始めた! それで丸く収まってるじゃねえか!!」

 なら、ヤスの無念は、誰が晴らすのか。
 ヤスはあんなにも献身的に島の皆のために頑張っていてくれた。
 なのに戦人は島の外の世界に浮気した。
 それが裏切りでなくて何なのか。

 私を育ててくれた恩は確かにあった。
 なら、それを相殺して、私が右代宮家を出て行くというので、問題はないじゃないか。
 そう、私にはヤスの代わりに島の皆に復讐する権利が、いや義務があったはず。
 それを私は許した。
 何も言わずに出て行って、初めから私なんていなかったことにしてやった。
 島の皆も私のことなんか忘れて、新しい世界を始めた。
 それで丸く収まってるじゃないか。


「あの格好つけた親父が、本気で頭を下げやがったんだぜ…?! ……それを見たら、何だかもう、馬鹿らしくなっちまった。」
「きっと、お袋もそう思っただろうぜ?! お袋は、俺と親父が喧嘩をするといつも笑いながら仲裁してくれて、何だそんな下らないことで喧嘩をしていたの? と笑ってくれた。……俺はお袋が、そう言って笑っているのを感じたんだよ…!!」
「だから、……許すとまでは言えなかったけど、………もう一度、ゼロから始めてもいいかなって思ったんだよ。それで、6年前に全てを巻き戻すことにした。………それで右代宮家に籍を戻したんだよ…!! 俺も6年間、泣き、怒り、悩みぬいた!」
「ひょっとするとそれは親父もそうだったろうし、死んだお袋もそうだったかもしれない。あるいは霧江さんや縁寿もそうだったかもしれない。……だからゼロに戻し、右代宮戦人に戻ったんだッ!!!」

 島の皆も、ヤスを認めて頭を下げた。
 それを見たら馬鹿馬鹿しくなった。ヤスもそう思っただろう。
 ヤスは、私と島の皆が喧嘩をするといつも笑いながら仲裁してくれて、何だそんな下らないことで喧嘩をしていたの? と笑ってくれた。
 私はヤスが、そう言って笑っているのを感じた。
 だから、許すとまでは言えなかったけど、もう一度、ゼロから始めてもいいかと思った。
 それで全てを巻き戻すことにした。
 私も、泣き、怒り、悩みぬいた。
 ひっとするとそれは島の皆もそうだったかもしれない。
 だから、ゼロに戻し、右代宮__に戻ったのだ。


「………何も、……思い出せぬと、言うか。」
“これにて、未練は尽きたか……?”
「………………………。………………う、む…。」
“望み無き賭けも、賭けねば未練が残ろう。”
“……それで良いのだ。”
“賭けることに意味がある。”
「………そうかも知れぬな。…ならば、これにて。妾の未練も、ゲームも、終わりだ。」
“そなたはどうする…?”
「…さぁな。………妾はもう、何の興味もない。……すまぬが、妾はこれにて、ゲーム盤を降りさせてもらいたい。」
“…………………………。”
“……そうか。……わかった。”
「あとのゲームは妾が引き継ぐ。………そなたは休め。」
「……うむ。……………。」
「後のことは、全て妾が終わらせる。………そなたは全てを忘れて枕に顔を埋めよ。羽の布団は、そなたを全てからやさしく守ってくれるだろう。」
「………後片付けを、……頼む。」
「任せよ。……あとのことは全て任せ、眠れ。」
“戦人の問い掛けをしていた魔女は姿を消し、後より現れたもうひとりの魔女が、残る。
“確かに瓜二つの、同じ魔女だったが、………その表情はどこかとても淡白で冷め切っていて、……それまでの悪酔いした風とはいえ、元気のよかった彼女からはかけ離れていた。

 ヤスは引っ込み、19人目が後始末を引き受けた。





 戦人の対戦者資格について。
 これを引っ繰り返して、ベアトの対戦者資格を問う形で解釈するのが、正解なのだろうな。

「人名は独占されたものではない。複数の人間が、右代宮戦人を名に持つことは可能である。」
「即ち、こういうことだ。……そなたは右代宮明日夢の息子、右代宮戦人と同姓同名の別人である。」

 ベアトリーチェは家具。主の代わりに戦っている。
 つまり、本来の対戦者は、ベアトの主である人間である。
 人間であるなら、人間としての名を持つ。
 その名とは、何か?

 ヒントによると、人名は独占されたものではなく、同姓同名の別人がいる可能性がある。
 同姓同名の別人は、物語の中ですでに登場している。
 EP1からすでに明記されていて、EP4ではそれをさらに明確に提示した。

 その名とは即ち、右代宮真里亞。
 メッセージボトルの執筆者が名乗った名前。
 その執筆者は、楼座の娘である真里亞とは別人であることは確定している。
 そして、右代宮真里亞を名乗った執筆者こそが、真里亞と交流していたベアトリーチェである。


「復唱要求。………“右代宮戦人の母は、右代宮明日夢である”」
「“そなたの名は、右代宮戦人である”。」
「右代宮戦人は、右代宮明日夢から生まれた。」
「そなたは、右代宮明日夢から生まれた。」

 右代宮真里亞の母は、右代宮楼座である。
 私の名は、右代宮真里亞である。
 右代宮真里亞は、右代宮楼座から生まれた。
 私は、…………。


「そなたは誰か。右代宮戦人を名乗る、何者なのか。」

 お前は誰だ。右代宮真里亞を名乗る、何者なのか。


「……負けも勝ちもない。ただ、対戦相手が消えるだけだ。元からいなかったと言うべきか。」
「じゃあよ……、俺は、………誰なんだよ……。俺は、……親父やお袋の子じゃ、ないのかよ……?!」

 右代宮真里亞など、元からいなかった。
 ただ、対戦者が消えるだけ。
 なら、私は誰?
 対戦者を欲するなら、答えてみせよ。 


「…………残念だ。そなたがひょっとしたら本当に右代宮戦人であるかもしれないと、妾も千兆分の一の奇跡に、賭けたのだ。だが、やはりそなたは同姓同名の、別人だった。」

 自分がやられたことを相手にやりかえすスタイル。
 まあ要するに、千兆分の一の奇跡に賭ける者を欲しているということ。
 負けフラグを20も積み上げて、それを待っているのだから。


“戦人の姿が、……少しずつ、闇に霞んでいく…。”
“いや、むしろ逆かもしれない。……戦人だけを残して、全ての世界が闇に霞んでいくのだ…。”
“戦人は床に両手両膝を付け、うなだれて自問を繰り返している。”
“……しかし、それに答えが与えられることはない……。”
“闇に染まる世界で、ベアトが何かを語り、ラムダデルタが駆け寄り、何かを早口に叫ぶが、もうそれはとても遠くのことのようで、戦人の耳には届かない…。”
“…………そして“彼”は、………自分が誰かわからなくなって、……………姿を、…消した…………。”

 これが、19人目である右代宮真里亞が味わった、苦しみ。






 戦人も他の魔女も消え去った後のベアト。

“そして誰も消え去って、………書斎には誰もいなくなった。”
“まるで、初めから誰もいなかったかのように、静まり返る。……誰も、元々ここにいなかったのだ。”
“沈黙の書斎は無言でそれを語り、雨と風の音で、少しずつ部屋を満たしていくのだった……。”
“何もかもが闇に沈んだ世界で、ベアトは自問する。”
「……やはり、…………魔法は初めから、マリアージュ・ソルシエールの中だけで、使うべきであったな。」
「…………そうだね。…真里亞も、……縁寿の時に、そう思ったよ。」
「魔女同盟は、妾とそなた。その二人で始めた。……他の者を混ぜようというのが、そもそもの間違いであったのだ…。」
「………こんなにも楽しいから。…真里亞たちはその輪に、親しい誰かを加えたかったよね。そうして、魔女同盟がどこまでも大きくなって、みんなで楽しく魔法が使えて、幸せになれたらと願った。」
「だが、………魔法を理解できるのは、やはり妾とそなたの二人だけだった。」
「私たちは、奇跡が巡り合わせた、……この世界でたった二人しかいない魔女なんだよ。………真里亞はもう、ベアトさえいれば、他には誰もいらないよ。」
「…………妾もだ。そなたさえいれば、もう誰もいらぬ。」
「マリアージュ・ソルシエールは、結成したその一番最初の時点で、……もう、完成していたんだよ。」
「……………そうで、あるな。まさに、そうであるな……。」
“みんなで、魔法で幸せになるための、魔女同盟だった。”
“……それが、どこでこんな滅茶苦茶になってしまったんだろう。”
“自分が何をしたくて、このゲームを始めたのか。”
“……それさえも、何だか思い出せない。
“いや、覚えてるのかもしれないけれど、…今やそれは忘却の彼方に、自ら投げ込みたい気持ちだ。”
「………いいよ。何もかも、忘れてしまおう? 二人だけの、マリアージュ・ソルシエール。……私たちは互いを認め合う。そして、誰にも傷つけられない。だからもう傷つかない。泣かない。」
「全て、忘れよう。…………ね、ベアト。……私たちは、永遠だよ……。」
「……………………………真里亞……。…………ううぅ、………ううぅうぅッ…!!」

 この真里亞を、19人目の右代宮真里亞として見る。





 六軒島に着いた縁寿。

“そして、………私が傷つけてしまったあの日から、マリアージュ・ソルシエールが、……お姉ちゃんが本当の意味で望んでいたものとは違うものに変貌してしまったことを知っている。」”
“………あの日々のお姉ちゃんには、人を呪うことで怒りを吐き出す魔法も、大切だったかもしれない。”お姉ちゃんの境遇は、それが許されるだけの悲しいものだった。”
「でも。………もう、そんな悲しい日々は、終わったよ。……だから、……お姉ちゃんの魔女同盟を、………元の、やさしいマリアージュ・ソルシエールに、戻そう。」

「私が、お姉ちゃんを傷つけたから。マリアージュ・ソルシエールは、こんなになってしまった。………お姉ちゃんは黒き邪悪な魔女じゃない。……白き、……無垢で無邪気な、……やさしい魔女だったのよ……。」
「……私が、元に戻してあげる。元の、みんなを幸せにする魔法を世界中に振りまいていた、……真里亞お姉ちゃんに戻してあげる。」

 真里亞がそうであるように、ベアトもそう。


「……あんたの人生は、いつ始まるの? ……始まりやしないわ。いつまでもいつまでも永久に、死んだ母さんに嘲笑われ続け、そのまま死ぬのよ。……というか死ねば? 何で生きてるの?」

 霞に対する縁寿の言葉。
 自分が言われたことを返しているだけ。
 19人目とヤスもそう。


“……しかし、やがて。霧江が背負っていた重責の全てが、自分に引き継がれることを知り、その時、初めて、出し抜かれたことに気付いたのだ……。”
「あんたの母親のせいで、私の人生はめちゃめちゃにされたわ。……いいえ、一度殺されたと言ってもいい。あの日に私は一度殺されて、地獄のような日々に突き落とされたのよ…。」

 19人目が島を抜け出し、ヤスが19人目の全てを引き継がされた。
 ヤスが落ちた地獄。


「こっちは何? 何このへたくそなライオンの落書き。……さくたろう? 変な名前! 一番大好きなお友達だって。そうなの? これがあんたの友達? 親友? このライオンが? ねぇねぇ?」

『ボクは…悲しくなんかないよ……。…ただ、……悔しい……。……真里亞のことを馬鹿にされて、………何も言えない自分が、……悔しいッ……。』
「………………………。……私たちは、……視えないニンゲンには、……いないも同然…。……私たちは、必要としてくれるニンゲンとしか、交流できない。…………だから、………家具………。」
“悔しいのは私も同じだった……。……魔法の世界の素晴らしさは、視える人間にしか、理解できない。”
“理解できない人間に説明できない。だから貶される。………見せることが出来れば…。”
“……でも、出来ない……。”
“魔法は、反魔法の毒素で満たされた、魔法を理解できないニンゲンたちの前では、………使えないのだから……。”

 ヤスの気持ち。
 ヤスの動機。
 19人目の生み出した世界を、視えない人間に認めさせる。


“だからそれは、多分、真里亞が生み出した魔法の中で、もっとも古い、一番最初の魔法……。”
“………絹を裂く音が、少女の幸せな世界を、消し、た。”

 19人目の世界が消えた音。


「………じゃあ、………魔法を私が見せることが出来たなら、……お姉ちゃんの魔法を、………信じてくれるの………?」

 縁寿による魔法殺人。
 これは天草が霞たちを狙撃し、現れた天草の銃が暴発し、縁寿が介錯したのを魔法修飾したもの。
 だがこれは厳密に言うと、執筆者によるトリック。

 縁寿が使った魔法は、王者の傲慢による魔法。
 縁寿は、天草が狙撃することを知っていた。
 だから、煉獄の七姉妹を召喚できると言った。
 縁寿は、天草が敵と同じ銃を入手し、自分を殺すつもりだと知っていた。
 だから、暴発するように細工した。
 縁寿は手掛かりから起こりえる出来事を予測し、そうであった場合の対処を予めしておき、未来を豪語し自身に信じさせ、それを実現した。

 過去に囚われるのが黒き魔法。
 未来を実現するのが白き魔法。


「…………ありがとう、マモン。…あの日の教室で、あなたたちの無力を罵ったことを、今こそ心の底より、そして再び謝るわ。あなたたちは魔女を守るための、優秀な家具だった。」

 魔法は無力じゃない。
 家具は使ってなんぼ。




 黄金郷へ突入する直前の縁寿。

「……魔法は、愛と悲しみと怒りで出来ている。……ベアトリーチェが、どんなに残酷な魔女であったとしても、その魔法の源泉はまったく同じ。」
「………だからこそ、彼女のその世界を、本当はそっとしてあげたい。……少なくとも、彼女にとってその世界は、完成しているのだから。」

 理解すると、本当にそう思う。
 でも、推理はしちゃう。


「……私は1998年の縁寿だから、家族を救っても、それは1986年の縁寿が救われるだけ。……この私が救われるわけじゃない。だから騙されていると思っていたことがあるの。」
「……………………。……そのとおりよ。私はあなたを騙したわ。」
「……でも、今は感謝してる。………だって。あなたは私に家族の取り戻し方を、結局は教えてくれたもの。」
「…………私は何も教えてないわ。……それを知ったのだったら、それはあなたが魔女として自ら至った境地だわ。それは私のそれとは違う境地。………私に理解は出来ないけれど、もしもそうならば、おめでとう。」

 死者と対話をし、その魂を取り戻す、反魂の魔法。
 それが縁寿の至った境地だろう。

 でもベルンも、騙したけど、嘘は付いてない。
 メタ世界の戦人は、魔女の駒。
 本人ではない。
 そして本人は死んでいる。
 その状態で、戦人が縁寿の許に辿り着くにはどうすればいいか。

 それはゲームを続け、それを読んでいる縁寿の心の中へ辿り着けばいい。
 島の皆の真実を取り戻し、全員で縁寿の心へ辿り着く。
 つまり、縁寿が反魂の魔法を使えばいい。
 でもこれは縁寿の魔法。

 EP8での戦人=十八の生還。
 それは真実の世界でのことではなく、虚偽の世界でのことだけれども。
 その世界の縁寿の許に戻ってきた。
 現実の縁寿の許には帰ってこなかったけど、その縁寿の心の中にはその世界がある。
 慰めになるかわからないが。
 これがベルンの奇跡の魔法。


「私はこのゲームのプレイヤーではなく、駒だと。あなたは私に言ったわよね?」
「…………えぇ、言ったわ。」
「その役割を、今こそ完全に理解した。………………駒に、感情はいらない。ただ、勝利のために、最善を尽くせばいい。」
「…………えぇ。そのとおりよ。ゲームは最善手を指し合うものでしょう? 躊躇や戸惑いで指し手をおかしくしてたら、対戦相手も混乱するわ。」

 駒は勝利のために最善を尽くす。
 悪魔のルーレットによって、無限に惨劇を起こし自殺するヤス。
 躊躇や戸惑いを挟まずに、奇跡のための捨て駒となる。





 黄金郷→縁寿死亡。

“心を閉ざし、真里亞お姉ちゃんと二人だけの世界に閉じ篭っているのだ。”
“仲良しの真里亞お姉ちゃんといつまでも二人きりで、魔法談義をしながらお茶を飲んでいられる世界。”
“……誰にも急かされず、何にも拒まれない。”
“傷つけるかもしれないような誰一人すらも、彼女ら以外に存在しない世界。”
“そう、それは二人にとって完成された、もはや小さな宇宙……。”

 19人目の右代宮真里亞とヤスが生み出した世界。


「……マリア。それはならぬと言ったはず。妾にはそなただけがいれば良い。だからそなたも、妾だけがいれば良いと、言っておくれ。」
「…………………。……うん。……ありがとう。真里亞を、そこまで必要としてくれる人は、ベアトだけだよ。なら、ベアトと一緒にいる。二人きりでいい。」
「………マリア……、……すまぬ……。…………ありがとう………。」
“ベアトは真里亞を深く抱き、その組み合った腕の中に温かな宇宙さえ生み出していた…。”
“……多分それは、世界でもっとも小さい宇宙の誕生。”
“…互いを必要とし合う二人が生み出せる、世界でもっとも小さい宇宙…。”
“それはどんなに小さくても、完成された世界。”

 互いを必要とし合い、身を寄せ合う二人。
 それはそれ以外の世界から閉め出されたことを意味する。


「…………なぜ、……妾の世界を、……壊すのか………。こ、この世界が妾と真里亞以外の誰に迷惑を掛けたというのか……?!」

 なぜ最後の拠り所を奪うのか。


「そ、そんなことは許さぬ…!! ここは妾と真里亞の世界!! マリアがいなくなったら、……壊れてしまう…!!」
“ニンゲンが宇宙を生み出すための最少人数は、2人。それが崩れれば、世界は滅ぶ。”

 19人目を失えば、世界は滅ぶ。


“それは紛れもなく、………あの、ライオンの、……さくたろうのぬいぐるみ。”
“そのやわらかさを、生地も縫い目も何もかも、………真里亞は忘れていた。”
“でも、………ぬいぐるみを抱いた瞬間に、その全てを鮮明に鮮明に思い出す……。”
『うりゅ。真里亞、……ただいま。』

 反魂の魔法。
 八城が望むもの。


『もう、真里亞といつまでも一緒だよ。永遠に一緒だよ。……だからボクを、離さないでね………。』
「うん、……離さないよ……。……永遠に………………。」

 八城が望む未来。


「……さよなら、…真里亞お姉ちゃん。そしていつまでも、お幸せに。…………大丈夫よ、お姉ちゃんの世界にも必ずあなたはいるわ。でもそれは、あなたのことじゃない。」
「……………よかったな、……真里亞……。……妾はそなたの親友として、………その再会を、心より祝福するぞ………。」
“ベアトの表情には、……おそらく人間が浮かべることの出来る、全ての表情が入り混じっていた。”
“それは、喜びであり、怒りであり、哀しみであり。”
「………それが、魔法の根源よね。…………愛がなければ。悲しみがなければ。怒りがなければ。…………魔法は、視えない。」

 悪魔のルーレットにより19人目の願いが叶い、取り残されるヤス。


”………それは次第に大きな地割れを呼び、ベアトリーチェの最後の楽園を、引き裂き始める。”
“黄金の蝶たちは逃げ惑うが、どこにも逃げ場などない。…そして、ベアトリーチェも。”
“黄金郷は崩れ去ってゆく。”
“大地はまるで抜け落ちる床のように崩れ落ち、………ベアトリーチェを漆黒の闇の底へ飲み込んでいく。”
“そして無慈悲に漆黒の床に叩き付けられた。”
“……そこは、とても薄暗い、喫煙室。”
“出ることの出来る扉はなく、窓はあれど光も差さぬ、……薄暗きベアトリーチェの喫煙室。”
“ベアトはその冷たく硬い床に叩き付けられた痛みに呻きながらも、ふらふらと立ち上がる……。”
“そこには席が。”
“……彼女が堆積したままの形で残っている、……ゲームのテーブルが。”
“ゲーム盤もまた、ベアトが放置した状態で残されている。”
「そこがあなたの席よ。座りなさい。」
「……………妾に座るべき席は、………ここしかない、ということなのか………。」
“ベアトは自らの席に手を付き、……悲しく笑う。”
「勝つか、負けるか。あなたに与えられるのはそれだけよ。それに行き着く過程での引き分けは許されるでしょう。」
「………でも、中断して投げ出すことだけは許さない! 勝って生き残るか、負けて消え去るか、そのどちらかになるまで、あなたはその席を立つことなんて許されない!!」
「それが魔女のゲームのホストである、黄金の魔女ベアトリーチェの唯一の務めでしょう…!!」
“ベアトは力なく笑いながら、その席に、……座る。”
“……そして肘を付き、両手で顔を覆って、………口だけはせめて笑って見せた。”
「………勝てぬゲームを逃げることは許されぬか。………ならばよかろう。……妾が負けるまで、……繰り返そうではないか……。」

 黄金郷が壊れ、奈落に落ちるヤス。
 勝てば生き残り、負ければ消える、無限に繰り返されるゲーム。
 その対戦席しか、もう座る場所がない。


“ベルンカステルが現れて、手をパンと打つと、宙より戦人が現れて、どさりと向かいの席に落ちる。”
“戦人は目を薄っすらと開けてはいるが、輝きはなく、まるで人形のようだった。”
“自分の魂を確立する柱の一本を欠き、…………暗闇の底の底まで落ち、ずっと漂っていた。”
“……そのまま、霧のように散って消えてしまうはずだった。”
“それをベルンカステルが掻き集めてきた。よくも人の形にまで戻せたものだ。”
“しかし、肉体は戻っても、魂がまだ戻ってこない。……ベアトリーチェに存在を否定されて吹き飛ばされた。容易には戻らない。”
「……………戦人もこの戦いを逃げないわよ。あんたに勝つまでね。……勝ち目がなくなってきたからって、全て投げ出して逃げるなんて、そんな無粋を許しはしない。」
「彼だって、そんなことを望んではいないわ。…………でしょう、右代宮戦人…?」
“戦人は答えない。……心がまだ、死んでいる。”
“問い掛けに、わずかに目を震わせるが、返事は出来ない。”
「戦人…! しっかり! あなたはここにいるわよ。そして敵は目の前にいる…! 戦って! 勝つために!!」
“戦人はぼんやりとそれを、うわ言のように復唱する。”
“………戻ってきた。”
“魂に負った傷は浅くない。”
“それは無理からぬこと。ベアトリーチェに赤を織り交ぜ、否定された。”
“敬愛していた母親が、生みの親でなかったことを知り、………自分が誰なのかわからないのだ。”
「……自分は右代宮戦人では、……ない…………。」
「馬鹿なこと言ってんじゃないわッ! あんたは他の誰でもない、右代宮戦人よ!」
「誰が認めようと否定しようと、あなたがそれを信じなさい…!! あなたの世界はね、あなただけが作れるのよ。あなたが右代宮戦人である世界を、失わないで!」

 向かいの席には、19人目の右代宮真里亞。
 ヤスを失い、自分の魂を確立する柱の一本を欠き、忘却の暗闇の底の底まで落ち、ずっと漂っていた。
 もう自分が誰かもわからない。


「明日夢お母さんはあなたを寂しがらせたことがある? ないでしょ?! あなたの平和だった家族を簡単に捨て去らないでッ!! あんたは6年も家族のもとから離れてたから家族の絆が希薄過ぎるのよ!!」
「もっともっと、家族の絆を強く感じて! 思い出して!! 明日夢お母さんのためにも、こんなくだらない魔女の妄言で、愛情を失わないでッ!」
「………………………。………そうさ……。……お袋は、……いつだって俺の味方だったんだ……。」
「……………ここはどこだよ……? ……暗ぇよ……、……帰りてぇよ……。俺の家族は、みんなは、……どこなんだよ………。」
“戦人の目にまだ光は戻らない。でも、……涙が浮かぶ。
「お家であなたの妹が帰りを待ってるわ。せめてあなただけでも帰ってあげないと、……彼女はいつまでも独りぼっち…! 妹のためにも、どうか魔女のゲームに勝って…!!」
「…………縁寿……、俺の、……妹………。……でもよ、………わからねぇんだ…。………どうして、俺はベアトと、こんなわけのわかんねぇ、残酷なゲームを永遠に繰り返さなきゃならねぇんだ……? ……もう、……嫌だ……。」
「なら、早くこんなゲームに決着をつけて、お家へお帰りなさいッ!! 右代宮戦人、いつまでこんなところで遊んでいるのッ?! 妹が帰りを待ってるわよッ!!!」

 真里亞の世界の皆を簡単に捨て去らないで。
 12年も離れてたから、皆との絆が希薄過ぎる。
 絆を強く感じて、思い出して、愛情を失わないで。
 六軒島であなたの娘が帰りを待っている。


 これはヤスと真里亞のゲーム。
 ヤスは自らの存在を認めさせるために。
 真里亞は自らの世界を失わないために。
 互いを苛む永遠の拷問。
 どちらも決して負けられない。
 永遠に引き分けを繰り返し、いつか二人で黄金郷へ辿り着くために。


「…………お兄ちゃんを助けるために、ここに来るために、唯一守らなきゃいけないルールが、……あったの…。………それが、…………これ。………お兄ちゃんに、……私が縁寿だと、……知られてしまう、……こと………。」
「……辛かったよ………。」
「お兄ちゃんが目の前にいるのに、……それを口に出来ないなんて………。」
「このルールさえ守れば、……ずっと永遠にお兄ちゃんの側にいられるはずだった。」
「……お兄ちゃんと一緒に、…魔女と戦うゲームを、……永遠に遊べるはずだった……。」
「でも、………それじゃ駄目。」
「…………お兄、……ッ、………ちゃんは、……帰らなきゃ。」
「………お家で、……あなたの妹が待っているもの……。」
「………それは私のことではないけれど、…………それで、あなたの妹は、…救われる………。」

「…………気に…しないで………。……私は所詮、……駒だから……。………あのね、チェスではね、……サクリファイスって、言うんだって……。」

「………サクリファイスとは、捨て駒のことよ。戦略的展望のために、わざと損を承知で駒を見捨てることを言う…。」
“チェスにおいての至上目的は相手に勝利すること。……だから、最終的にそれに結びつくならば、個々の駒の犠牲は問題にならない。

 名前のルールは、19人目がヤスを蘇らせるためにゲーム盤上で課されたルール。
 己の名を名乗ってはならない。
 名乗れば、真実が晒される。

 サクリファイスは、駒であるヤスのこと。
 ヤスの許に帰るために、駒であるヤスを捨て駒にする。
 EP4における戦略がこれ。
 左の心臓を晒すことで、19人目の真実を貫かせ、ヤスを一度否定する。
 ヤス、即ちベアトを殺し、EP6でベアトを蘇らせるために。


“駒らしく振る舞い、戦人を救うには、今、自らが捨て駒とならねばならないのだ。”
“…………戦人は、知らなければならない。”
“この魔女のゲームの目的は、魔女をやっつけるなんて抽象的なものであってはならない。”
“ゲームに打ち勝ち、自らを解放し、家族を連れ帰らなければならないのだ。”
“なぜ? ………帰りを待っている、妹という家族がいるから。”
“右代宮縁寿の声を届かせるために、生み出された存在。”
“それが私、エンジェ・ベアトリーチェ…!!”
“私という駒を生贄に、お兄ちゃんに戦う意思を、目的を!”
“私の目的はお兄ちゃんと永遠に魔女のゲームで遊ぶことじゃない!”
“私は右代宮縁寿の嘆きと悲しみを、あなたに届けに来たッ! それこそが私の揺ぎ無い目的!”

 八城にヤスの声を届かせるために、生み出された存在。
 それがベアトリーチェ。


“揺ぎ無き決意。…絶対の意思。”
“ニンゲンの絶対なる意思は絶対の魔力となる。”
“……それは奇跡に通じ、それを約束する。” 
“そう、これは、約束された、絶対の奇跡。”
“……………妾の勝ちは百億にひとつも、いや…………、ひとカケラの奇跡も絶対になく、ありえぬということか。”
“妾の足にはいつの間にか、音もなく、もう片方の足にも冷たく頑丈な鎖が絡みつき、この椅子に縛り付けている…。”
“………妾に残されたる運命は、戦人に殺され敗北することか、それを拒み、永遠に引き分けを繰り返すことのみ。”
“……いや、殺されるための心の整理がつくまで、引き分けを繰り返すの間違いか。”
“いずれにせよ、妾は。………敗れるためだけに、戦わねばならぬ。”
“もう永遠の鎖は妾を縛り付けた。そして戦人もまた、妾を逃さない。”
“……みっともなく赦しを乞うか…? 同情を乞うために、憐みの心に訴えかけるか…?”
“形振り構わず土下座して?”
“鎖のせいでそれも叶わぬわ。”
“……チェックメイト。”
“これは完全なる詰めだ。”
“……………………………だが。”
“妾は、黄金の魔女、ベアトリーチェ。”
“黄金郷に君臨したる黄金の魔王。”
“敗れるための戦いであっても、妾には相応しき態度がある。”
“そして、妾には、妾に相応しき散り際を飾る権利がある。”

 サクリファイスされるベアトの名演技。





 ラストバトル。


「…………縁寿は、良い駒であったな。」
「縁寿の名を、……お前が口にするんじゃねぇ。」
「………あれは奇跡によって現れ、自らを生贄にして、そなたに絶対の勝利の執念を与えた。」
「縁寿の名を、口にするな。」
「…………あの無残な死は、そなたにとって必要なものだった。あの死を見なければ、そなたは本気にならない。縁寿の幸薄き未来を自覚しなければ、そなたに勝利の執念は生まれない。」
「縁寿の名を口にするなと言っている…!!」
「…………つまりは、必要な生贄だったというわけだ。そうでなくては、そなたに妾を殺すほどの怒りは生まれない。妾とそなたの拮抗が崩せない。」
「ベルンカステル卿め、これは駒ではないわ、切り札と呼ぶに相応しい。……駒はどれほど活躍しようとも盤上を離れることはない。しかし切り札は、どんな力を発揮しようとも、切れば確実に捨てられる。」
「縁寿は、そなたにとって実に良き切り札だったのだ。」
「縁寿の名を、口にするんじゃねええええぇえええええぇ!!!」

 自身もまた捨て駒だからなぁ。切り札だからなぁ。


“そうさ、私は、………戦人に殺されるためだけに、………戦っている………。”
“……戦人の、瞳を見る。その中にいるのは、私ではない。”
“………彼の帰りを待つ、妹と、…連れ帰るべき家族の姿が映っている。”
“私の存在などもはや、……彼にとっては一人の存在でさえない。”
“…当然だ。彼は最初から、私という個人を否定するために戦っている。”

 一人の存在でさえない。
 私もこの当時、ヤスの姿は映ってなかったなぁ。
 思いっきり戦略に嵌ってたわけだ。


「………いいでは…ないかよ……。……投了で…。……それでそなたの勝ちだろうが。………とっとと、……妹のところへ、…帰るがいい……。妾などこの場に、………打ち棄てていけ………。」
「俺は言ったはずだ。逃げない。そして、お前を逃がさないとな。」
「………………。」
「お前は、何者だ。そして一体、何が望みだったんだ。」
“それが知りたくば、……そなたの十八番でも試せば良い……。
「……………いいではないか…。…ただの、……妄想、……幻想……。それで、……いいではないか……。」
「全然駄目だぜ。俺はお前を、逃がさない。」
「………………………。」
「俺はお前を、打ち破る。このまま逃がしてなるもんか。」
「………………………。」
「お前をうやむやにしたまま、幻想の暗闇に逃げ帰らせはしない。………打ち破る。完全にな。だから立て。弱々しいふりなんかするな! お前はまだ何手か隠してる! 俺にはわかる!」
「……………なぜ、……大人しく見逃してくれぬのか……。」
「親父を、お袋を、そして縁寿を。いとこのみんなや親族のみんなを。そして使用人のみんなを。お前はあれだけ弄んで殺した…!! その非道を、俺は絶対に忘れない、許さない!」
「俺の方にはよ、……まだ縁寿の、腕の感触が残ってるんだよ…!! 俺はッ、お前の非道を、許さないッ…!! だから、そんなことで、逃がさない…!!!」

 ここで終わったら、19人目を人間だと認めさせることは最低限叶う。
 だが、それでは魂を欠けさせた家具。
 ヤスの魂も合わせなければならない。
 だから、うやむやにしたままに暗闇に逃がさない、完全に打ち破るというのは嬉しいこと。

 しかし、戦いを続けるということは、ヤスの真実が成立する余地を大きくとり、19人目に辿り着く確率を引き下げるということ。
 つまり、サクリファイスの戦略の最初の一歩が成功するリスクが膨大となり、そのリスクに踏み出す覚悟が必要となる。


“狼と羊のパズルどころか、………これじゃア、狼少年だなぁ……………。”

 今更気付いたけど。狼と羊のパズルって、19人目とヤスの真実を向こう岸に連れて行くパズルのことか。
 もっと言えば、それぞれの真実を信じる読者が狼と羊で、それらの読者を次のゲームに連れて行くパズルかな。

 謎という壁を、乗り越えるのが狼、抜け穴を探すのが羊。
 羊は穴を示せばそこに向かってくれる。
 ゲームが進む度に穴は少なくなり、集約されていく。
 狼は壁を乗り越え自らが掴んだ真実を守るための爪と牙を持つ。
 多くなりすぎると、羊を食い殺す。

 EP4でのゲームバランスが狂っている。
 この時点で、狼絶滅もありえたんじゃないか?
 生き残った狼は、良く訓練された狼だ!


「この島には18人以上の人間は存在しない!! 以上とはつまり18人目を含めるぞ。つまり、18人目のXは存在しないッ!! これは全ゲームに共通することである!!!」

 これは“存在しない人間”である19人目と金蔵(偽)で通ると思うのだが、念のために面の推理をしようと思う。

 19人目の名は、右代宮真里亞。
 金蔵(偽)の名は、嘉音。
 同姓同名ならば、一つの名前を数えるだけで複数の人間を同時に数えることができる。
 つまり、17人の人間の名前しか存在しない。
 にもかかわらず、19人の人間の肉体が存在する。
 そして、その2人はその名で生きてはいない。

 名前の手掛かりは、右代宮真里亞の分は、EP1と4で執筆者の名として提示されている。
 嘉音の分はEP4にて青で、金蔵の名の継承と同様に嘉音の名を継承した人物を仮定している。
 そして同姓同名は、EP4で戦人の対戦資格についてで提示されている。
 以上。


“これは、勝ち負けを決めて遊ぶゲームではない。”
“……そうさ、遊びじゃないんだ。”
“ここでこうして戦って遊んでいるだけでも、………帰りが遅れているんだ。”
“孤独な縁寿が、悲しみと寂しさで心を切り刻まれ続けてるんだ……!”
“一秒でも早く、俺は縁寿のところへ帰ってやらなければならないんだッ!!”

 ヤスが待っている。


“ベアトは虫の息で、残った力の全てを振り絞り、何とか、両手の拳を、握りしめる……。”

“そこまでを口にし、……彼女の顔が、少しだけ斜めに傾ぐ。そして、右腕が光を失って、どさりと落ちた。”
“しかし左腕だけは光を失わず、そのまま天に差し出されていた。”

 左腕、そっちの心臓が、19人目。
 下がった右腕、そっちの心臓が、ヤス。


「…………私は、だぁれ…?」

 名前については、本来ここでやるつもりだったが、フライングしてしまった。
 誰が言い出したのか、ヤス=右代宮真里亞説というのがある。
 楼座が真里亞に名を付けた時、金蔵が怒ったということを根拠としている。
 私もこれは大いにありえると思った。
 ただし、19人目の名前として。

 聖母マリアは、処女懐胎で一人で子を産んだ。
 これはEP2のハッピーハロウィンのところで示されている。
 EP7でも同様のことは繰り返し提示された。

 19人目は、金蔵が用意したベアトリーチェの依り代。
 ひとりで“人間”を生み出すことを、運命に約束された子。
 ヤスを“人間”として生み出すことに生涯を費やす子。
 金蔵がその子にマリアの名を与えるのは必然であるだろう。

 故に名は、右代宮の真里亞。
 ヤスの母、右代宮真里亞だ。





 裏お茶会。

「……そういうことね。私たちの力がもっとも均衡するのは、引き分けと戦人有利の中間で均衡している場合のみ。ベアト有利に傾き過ぎれば、私たちは共に同じベクトルに団結して、ベアトを引きずり戻す。」

 19人目の右代宮真里亞とヤスのゲーム。
 どちらかが勝てば、もう片方は消える。
 故に、0対100や100対0になってはならない。
 だが、狼の数が羊より多くなると羊が食い殺されるので、50対50はギリギリ過ぎる。
 そして、ヤスの黄金の真実は、全てに認められなければ存在を認められない。

 つまり、ヤスの勝利と引き分けの間で釣り合いを取り。
 19人目を信じる者を少数作る。
 そして、19人目を信じる者にヤスもいて良いと認めさせることでクリア。







 真相が沢山書いてある。
 なら、これを見せれば皆信じるだろうか?

 どうだろう。
 見てと言っても、見えない。
 読めても、信じない。
 って感じで終わるんじゃないかと思うのだが。
 さすがに人間不信が過ぎるか?

 でもさあ、声なき声を聴いた、とか言い出したら頭がおかしいヤツみたいじゃん。
 他人から見たら、オカルトでファンタジーじゃん。

 つまりさあ、私にとってはミステリーでも、他の人にとってはファンタジー。
 ミステリーとファンタジーは一枚のカードの裏表。
 これって面白いじゃん。

 科学でだって、ひとつのことに色々な仮説を立ててる時が一番面白いんじゃないかな。
 真実が立証されたら、そこの部分はもうつまらなくなる。
 だって、これが真実だと教えられて終わっちゃうんだから。

 そう、リスクを抱えて綱渡りしているから面白いんだよ。
 ミステリーとファンタジーが天秤に載っているから面白いんだよ。

 そして、誰もが考えればわかることもつまらない。
 それではミステリーにならない。
 極論、誰かに聞けばいいだけで、自分で考える必要さえないのだから。

 他の誰にもかわらない答えだから面白いんじゃあないか、
 それこそがミステリー的な答えだ。

 なにもそうでなければ本当の真実ではないと言っているわけではない。
 そういう風な方がミステリーとして面白いと言っているのだ。
 たとえ間違っていたとしても、絶対にそっちの答えの方が面白い。
 ミステリーの楽しみ方としては、その方が楽しめるのだから。

 だから今が一番楽しい。
 私の他に誰もわからないだろうということが楽しい。
 ひとりじめしているのが嬉しい。
 余さず自分のモノだと実感できるのが快感だ。
 これは強欲だろうか。

 絶壁から踏み出す感覚が楽しい。
 リスクを踏み越えるのがこんなにも悦ばしい。
 誰にも理解できないできないだろうという感覚。
 故にこれは人にはわからない喜び、魔女の悦楽なのだろう。

 だから誰にも理解できなくて構わない。
 我が大罪、傲慢と強欲が疼く。

 それでも理解できた方は、ようこそ「うみねこ」の深淵へ。
 この沼は底なし、共にずっぽりと沈もうじゃないか。


 でも今は愛の話だ!


 「うみねこ」は表裏の合わせ方が凄い。
 群像劇が、一人語りに視える。
 これは駒や家具が、一人の心から生み出されたものだから可能なことなのだろう。

 だが、ならば、ニンゲンの駒には魂が宿っていなかったのかと言われれば、それはノー。
 魂が籠った言葉だから心に響く。
 譲治や朱志香の言葉には、確かに魂が宿り、心が籠っていた。
 一人のニンゲンとして確立していたと言える。

 それはつまり、愛されていたということ。
 愛され、魂を吹き込まれ、心を持っていた。

 でもさあ、かつては島のニンゲンたちを恨んで無限に殺し続けていたんだよね。
 ニンゲンたちを本音に傷つき、その度に殺していた。
 それを千年続けた。

 それはつまり、それだけの時間、そのニンゲンと向き合っていたということ。
 相手の罪と向き合い、やがてはそれを浄化し、理解できる人間となったのだろう。
 己と共通する苦しみを知り、己と異なる視点を獲得し、世界を広げた。
 そして、その広がった世界に、そのニンゲンの駒を収めた。
 だからずっと一緒。
 黄金郷は宝を仕舞うための宝箱。

 愛する駒だから、魂を持っている。
 魂を持つ駒の声だから心に響く。
 主の代わりに声を張り上げている。
 つまり、これは駒や家具たちが主のために演じる劇。

 端的に言おう、駒たちから愛されてるじゃん。
 主のためにあんなに頑張っている。
 愛し愛されて、世界が愛で溢れている。
 この時点ではまだ満たされてはいないのだろうけど。
 もはや立派な世界だと誇っていい。
 胸を張っていい。
 誰に恥じることもない。
 立派な一人の人間だよ。
 私が尊敬する友人だよ。

 私がイメージしていた、朗読者が一人でいるだけの舞台。
 その舞台の上、朗読者の周りに、色々な存在がうっすらと視えてきた。
 あぁ、世界はこんなにも賑やかで豊かだったのか。
 私の瞳にも、愛が視えてきたのだろうか。


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  1. 2019/06/22(土) 22:32:32|
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フラット・ホームズ

Author:フラット・ホームズ
「うみねこのなく頃に」の某公式サイトで推理を投稿していた。
その時使っていた名前は察してください。
スタイルは、アンチミステリーをチェス盤で引っ繰り返す、というもの。
キコニアでは、世界を箱庭に見立て、そこにどんな駒を置いたのか、それらを動かして最終的にどういう形に持って行くのか、的な感じのを主にやっている。

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