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うみねこのなく頃に 考察 境界より視やる

PCゲーム「うみねこのなく頃に」の個人的な考察ブログ。「キコニアのなく頃に」についてもガッツリやっている。


EP4の序盤を再読

 戦人と合流した縁寿。

「人はいきなり騙されたりしない。自らの確認を怠り、それを他人に委ねた時、騙される。……他の人が渡り始めたからもう信号は青になったと思った、じゃ、事故の言い訳にはならないってこと。わかる…?」

 自分の考えを他人に委ねた時に、人は思考停止する。
 他人と同じ意見だから安心する。
 他人と同じ意見でなければ安心できない。
 皆がそう言っているのだからそうなのだろう。
 安心するために意見を合わせる。
 リスクを背負うことができない。
 要は、騙されて安心を得たいということだろう。

 だから、自分の意見を持つためには、安全な範囲を出て、崖から一歩を踏み出せばいい。
 崖に張られた綱を渡り切るか、崖の上に戻るかは、その後に選べばいいのだ。

 そして、取捨選択し、綱を渡り切ったのなら、敬意に値する。
 本気で思考したのだと。


「だから私を無条件で信用なんてしなくていい。ゆえに私の助言も参考意見程度に留めてもらって大いに結構。だって、……魔女とのゲームを戦っているプレイヤーは、あなたなんだから。」
「…そうだな。外野の指し手に従って打ったから負けた、なんて情けねぇ言い訳だもんな。」

 これは戦人に対してであるが、同時に、プレイヤーたる読者に対してでもある。
 自分が信じるものは、常に自分で決めるべし。
 リスクは自分が背負うものであり、他人に背負わせるものではない。


「いいえ、外野じゃないわ。ベアトリーチェと右代宮戦人。…そしてそれを俯瞰する私が、まるで三角形のような形になって戦うのよ。一見、これは共闘ではないけれど、一緒に戦うばかりが共闘ではない。」

 皆同じ意見なら、死ぬ時は一緒、全滅あるのみ。
 生存戦略は多様性にあり。
 面で攻めるのだ。
 皆が違う意見だから頼もしいのではないか。
 自分が倒れても、まだ後を託せる者がいるのだから。
 皆集は偉大だわ。


「……異なる立場から異なる角度で討つ。…十字砲火ってことだな。へへ、面白いぜ。」
「異なる立場から、異なる角度で、討つ。……だから私は誰とも馴れ合わない。自分の立ち位置をずらし、魔女を挟み撃ちにするために。」

 誰とも馴れ合う必要はない。結構じゃあないか。
 自分の立ち位置は自分で定める。当然じゃあないか。
 死に場所くらい自分で決めさせろ。だからここは任せろってんだ。
 きつかったけど、やってのけたぞ!
 19人目と金蔵(偽)を犯人とする私の説と、皆の紗音嘉音同一によるヤス犯人説。
 十字砲火の完成だ。





 真里亞の日記。

“日々を日記にして書き記すことが、彼女にとってはもうひとりの自分との対話みたいなものだったのだろう。”
“だから真里亞お姉ちゃんの日記は、日々の出来事を書き残したというよりは、もうひとりの自分に今日の出来事を手紙で伝えるような、そんな文体で記されている。”

 八城にとって、偽書を書くことは、もうひとりの自分であるヤスとの対話だったのだろう。
 昔はそれなくして対話できていたのだろうが。


“そして、………彼女は今や、私の唯一の友達となった。”

 縁寿にとっての真里亞。
 真里亞にとってのさくたろう。
 19人目にとってのヤス。


「さくたろはね、とても無垢で可愛らしくて、そしていつも真里亞にやさしくしてくれるの。真里亞に元気がない時には励ましてくれて、真里亞が元気な時は一緒にいっぱい遊んでくれるの!」
「だから真里亞はもう寂しくなんかない。ママが仕事で忙しくてひとりぼっちでも寂しくないし、学校で誰も遊んでくれなくても全然寂しくないの。ねー、さくたろ~、うりゅ~☆」

 イマジナリーフレンドがいるから大丈夫。
 逆を言えば、イマジナリーフレンドがいなくなると大丈夫ではなくなる。


「天使様はその提案をのむことにした。だから、1人の生贄によって、19人は救われた。……だから真里亞の役割は大切なの。魔女は19人を、守ってる。」
「……私たちが生贄になることによって? ………その19人に、感謝された覚えはないけれど。」

 1人が我慢することで他の全員を守っている。
 けど感謝などされない。
 そして生贄がその役割を放棄することで破局が訪れた。


“もちろん、冷めた目で見ればそれは、ぐずる私を真里亞お姉ちゃんが、ぬいぐるみであやしているだけの光景だ。”
“……でも、そのぬいぐるみには、確かに魂が吹き込まれている。”
“真里亞お姉ちゃんの、愛という魂が。”
“だから私はそのぬいぐるみの中に、さくたろという存在を認める。”

 そうだな、その愛が視えるから、ヤスの存在を認めるしかないんだよなぁ。


“真里亞お姉ちゃんは、誕生日にもらえることになっていたこのぬいぐるみに「さくたろう」という名前を与え、ずっとずっと心の中でその存在を温めて膨らませてきたのだ。”
“だから、出会う前からその存在は人格にまで昇華されていた。”

 事件の犯人はヤス。
 事件の日になる前から、ずっと心の中でその存在を温めて膨らませてきた。
 だから、人格まで備えている。

 人間として認められるために、人間が備える要素をふんだんに与えられているからなぁ。
 キャラに厚みを持たせる設定。
 それが厚ければ厚いほど、人並みに近付き、やがては人よりも存在が厚みを持つ。
 人よりも人らしい幻想。
 愛がなければ創れない。


“今日まで私にこびり付いてきた常識なる鎖が、虚空に声を掛ける行為など馬鹿馬鹿しいと嘲笑するのだ…。”
“まるでそれは、眼下に光の海を見下ろす高層ビルの屋上から一歩を踏み出せと言われているようなもの。”

 私ができる魔法は、対戦者に声を掛けることくらい。
 これで“私の対戦者”がいませんでした、だったら恥ずかしいな。
 そんなリスクを背負って一歩を踏み出さなかったら、今の私はないわけだ。


“黄色い哄笑が後から聞こえてくる。”
“私は、真里亞お姉ちゃんを馬鹿にされたような気持にイラつきながら、早足で、そして角を曲がってからは小走りでその場を立ち去る。
“……もう少しで、お姉ちゃんの世界へ辿り着けたかもしれないのに……。”
“悔しい、腹立たしい…、何でみんな私を邪魔するの…。私はみんなを邪魔したことなんて一度もないのに……!”

 金蔵も邪魔されたらこんな感じだったな。
 19人目も同様なのだろうな。





 小此木との話。

「…碑文の謎を解いた者に家督を引き継ぐなどという新ルールは、蔵臼さんから次期当主の肩書を奪うためだけの茶番だったんだろうな。」
「あの碑文は誰にも解ける必要はなかったのさ。適当に掲示期間を経た後、本当に金蔵さんが跡を継がせたかった絵羽さんを呼び出し、その答えを与えるだけでいい。つまり、それこそが当主継承の証ってわけさ。」

 “碑文の事件の謎”はこの通りだった。
 適当な掲示機関を経た後、黄金の真実を与えるだけでいい。


「つまるところ、唯一の生存者である、絵羽さんの話を、信じられるか否か、ってことになるわけさ。」
「……俺は信じたよ。指輪の話や、彼女の尊敬できる家族愛、そして葬儀で見せた涙。それらを加味して考えて、彼女の話を信じようと思ったんだ。」

 同感。
 我が対戦者の話を、信じられるか否か。





 縁寿とベルンの会話。

“結局のところ、……真実などというものは存在しないのかもしれない。”
“それを語る人間の数だけ、各々の解釈の真実が生み出される。ただそれだけなのだ。”
“そんな不定形なものを真実だと認められないのなら、……私が本当に見つけたいと思う真実は、どこに存在するというのか。……そしてそれは、目で見えるものなのか。”
“案外、…目の前にこれが真実だと突きつけられても、……私には視えないモノなのかも知れない…。”

 真実を探し回っても見つかるのは他人の真実だけ。
 自分の真実は自分で作り出すしかない。
 自分が何を望んでいるのかを把握するところから始めるべきなのだろうな。


「……真実って何? 人の数だけ真実がある。人の数だけ解釈がある。そしてそれは主観によって歪められ、いくらでも姿を変える。……真実ってものは、そんなにも不定形であやふやなものなの?」
「そうよ。……真実は不定形。粒子のようであり、波のようでもあり、相反する形状を同時に持つ。」

 人の数だけ真実がある。
 その中でより本当の真実に近い真実は誰の真実か?
 それは当事者たちの真実。
 それも犯人の真実が最も近いだろう。

 そして犯人はメッセージボトルに自身が犯す事件を記した。
 それも相反する事件を複数。
 要するに、相反する真実を同時に複数生み出したかったのだろう。


「箱の中の猫が、生きていると思おうが死んでいると思おうが自由。……でも、真実はとても繊細。それは観測されただけで姿を変えてしまうわ。」
「シュレディンガーの猫箱とかいう話? ………寝言よ。箱を開ければ真実はわかる。開ける前の議論なんて、机上の空論もいいところ。」
「そうね。にもかかわらず、その空論を否定するには箱を開ける必要がある。……開けられない箱の中身についてのあらゆる想像は否定不能。つまりは真実ということ。」
「………真実は、否定されない限り、その形状を維持する。」
「そう。真実は、観測されない限り、その形状を維持する。」
「つまり、暴けなきゃどんな妄言も真実たりえるわけね。」
「えぇ。……無限の想像は、それらが互いに矛盾していたとしても否定されず同時に真実として存在できる。」
「………家族みんなが、六軒島の魔女に捕らわれて、永遠に12年前に閉じ込められているという、滅茶苦茶な話すら、12年前に何があったかわからない限り、真実として存在できる…。」
「ベアトリーチェという魔女は、12年前の六軒島に“無限”の想像の余地を抉じ開け、そこを猫箱として全てを飲み込んだ。……開かれぬ箱の中の全ては真実。」
“そう。あの島で何があったかわからないから、無限になる。”

 問題は、猫箱を作ったベアトが、その中にどんな真実を入れたのか。
 どんな真実を否定されたくなかったのか。
 どんな真実を観測させたかったのか。


「ベアトリーチェのゲーム盤は1986年10月4日から5日の2日間。つまりそれは、あなたが彼女のゲーム盤の外へ自在に動ける駒だということ。……そして、ベアトリーチェですらこのゲーム盤を越えた未来へは干渉できない。」
「……そうやって言われると、私って、かなり優秀でズルイ駒だわ。」

 これは、ベアトのゲーム盤の外に、さらなるゲーム盤を広げ、そしてそこに縁寿を駒として置いた者がいることを示唆している。


「あなたが身を置く12年後という未来は確かに遠いわ。しかし、駒は未来に位置すれば位置するほど、強い力を持つの。……言ったでしょう? 真実は、観測されると姿を変えると。」
“未来の真実は、過去の真実に、勝る。”

 最後に塗り替えた者が真実を決める。
 ゲームの勝者足らんとするならば、その決定権を手放してはならない。


「………そうよ。元々、六軒島の事故は、ただそれだけならば、絵羽伯母さんと右代宮家の財産を巡る陰謀疑惑でしかなかった。」
「……しかしそれが、後年。オカルトによって脚色され、陰謀は魔女伝説として塗り替えられる。」
「そう。恒星爆発の光が地球に届くまでの間の虚偽の真実が、陰謀説という人間説だったかのよう。」
「………数年後に漂着した手紙入りのワインボトル、『メッセージボトル』が、それをオカルト説という魔女説に遡って塗り替え始めた。」

 いうなれば、猫箱の外の世界に対する魔女の初手が、これ。
 まずは、魔女説で真実を塗り潰す。


「……そうよ。魔女なんて、1986年の時点では存在しなかった。その数年後に、メッセージボトルによって私たち未来の人間に“観測”されたから、魔女が六軒島を支配した…!」
「……少し修正が必要よ。1986年の時点でも魔女は存在出来たわ。無限に存在できる数多の可能性の中のひとつとしてね。」
「確かに。観測されたら消えてしまう、猫箱の中に縮こまってね。……だからメッセージボトルは悪質なのよ。」
「…魔女は、箱の外に出ようとした。自らを観測させて、魔女説以外の可能性を淘汰した。……つまり、自らを否定されないように、魔女説以外の全ての可能性を否定したということ。」
「………何てこと。つまりベアトリーチェは、悪魔の証明を正攻法で成し遂げたのよ。そして、それは初めから魔女の計画に組み込まれていた。」
「メッセージボトルは1986年より未来に観測される情報。………ベアトリーチェにも戦人にも観測できない。エンジェ・ベアトリーチェにしか観測できない。」

 六軒島の事件はさながら魔女の卵。
 卵の中で密に魔女の設定は膨らませられてきた。
 そして、メッセージボトルによって観測させることで、魔女は孵化した。
 同時に、それ以外の説を淘汰した。

 その状況でベアトと戦人のゲームは始まった。
 つまり、魔女説はゲームのスタート地点であり、ゴール地点ではないということ。
 魔女説を踏み台として、何かの真実を観測させ、その真実を孵化しようとしていたと考えられる。





 青き真実の権利を与えられる直前。

「……少なくとも、魔女が反論するまではね。真実は、より未来の新しい真実に負ける。……厄介なのは、その反論のタイミングすらも魔女に委ねられているという点よ。」
「…つまり、今のあなたの推理が正解しているのか、それとも間違っているにもかかわらず魔女がその反論を保留しているのか。」
「……さもなくば、そもそもその推理自体が魔女説を揺るがすことにならないため、魔女が無視しているかの何れかか、現時点では判断がつかないということよ。」

「……ふ、ふざけた真似を……。…じゃあ俺は、間違った推理を掲げたとしても、ベアトはわざと否定せずに俺を泳がせ、さらに壮大に推理を広げた最後の最後に、その根元をチョンと断ち切って、全てを引っ繰り返してくる可能性さえあるってわけなのか……!」

 つまり、どれだけ筋が通り、全てを説明できたとしても、未来において全てを引っ繰り返されるリスクがあるということ。
 だから別の、筋が通り全てを説明できる真実を用意しておくこと。
 それが面の推理。

 犯人はヤスと信じている方々の中でどれほどの方がこのリスクを承知しているのか、疑問だ。
 そのリスクを踏まえて信じている方には敬意を持ちたい。
 私的価値基準では、リスク=その真実の重さ。
 載せる真実の重さこそが、天秤を揺るがす。





 楼座の出張で一人留守番する真里亞。

『ボクには、世界中でただひとり、真里亞がいる。……ママには、世界中でただひとり、真里亞がいる。………真里亞には?』
「……ママもいるし、さくたろもいる…。」
『だから真里亞は寂しくなんか、ない! うりゅ!』
「………うー。」
『ママはお仕事が忙しいから、なかなか真里亞と一緒にいられないけど、真里亞はどうかそれを責めないで。……その代わり、ボクはいつも一緒に、そしていつまでも一緒に真里亞の側にいるから。……………だから泣かないで…?』

 19人目とヤスの関係を想像してしまう。
 ヤスには、世界中でただひとり、19人目がいる。
 19人目には、世界中でただひとり、ヤスがいる。
 だから寂しくない。
 だから泣かないで。


『うりゅー…! 真里亞、泣かないで…。ボクがずっと一緒にいるから…。真里亞が泣いても、ボクは泣かない。ボクはライオンの子だから寂しくても泣かないよ。……ボクだって泣きたいけど、ボクは泣かないんだもん…!』
「どうして、さくたろは泣かないの…? こんなに寂しくて涙が堪えられなくも泣かないの…?」
『うりゅ。だってボクが泣いたら、誰が真里亞を慰めるの…? だからボクは泣かないよ。だって、真里亞に元気を出してもらいたいから。』

 19人目は、どれほどヤスに、慰められ、元気付けられたのか。


『うりゅー! ママに内緒で実験してみよう♪ 今夜はいっぱい遊んでいっぱい笑って、涙を元気で吹き飛ばしちゃおう。大丈夫、ボクと一緒だから絶対に楽しいよ! ボクが絶対に真里亞を幸せにしてあげるから。』

 主を幸せにする。
 それがヤスという駒の目的。
 ヤスという存在の気持ち。
 ……それを最後まで果たしたよなぁ。


“真実は不定形なもので、観測される度に姿を変えるもの。一つの真実は、その捉え方によって、…つまり人によって異なる真実となる。”
“そして過去の真実は、未来の真実で塗りつぶされる……。”
「真里亞はこの日記で、この夜の出来事を、とてもとても楽しかったと記した。」
「……真里亞お姉ちゃんはこの夜の出来事を、とても幸せだったと記述した。」
「なのに、日記を読んだ縁寿は、この夜の出来事を、とてもとても悲しかったと読んだ。」
「……真里亞お姉ちゃんは幸せだと記述したのに、私はそうではないと読み解いた。」
「やめて。」
「…………………………。」
「これは、幸せな夜を記したものなの。………これが、この夜の“真実”。お願いだから、その幸せな真実を、…………新しい、そして異なった真実で塗り潰さないで。」

 八城もまた同様だろう。
 自身が生み出した幸せな真実で塗り潰し、その真実を新たな真実で塗り潰さないでと懇願している。
 ……同時に、その先の真実に至って欲しいと願いながら。


“……友達もなく、孤独な境遇は、今の私も当時の彼女も同じ。”
“そして縁寿は、……孤独な真実を、孤独な真実のままに受け入れる。しかし彼女は、……孤独な真実を、幸せな真実に塗り替えた。”
“右代宮真里亞は、悲しい真実を、……幸せに変えたのだ。”
“そここそが、……私と真里亞お姉ちゃんの、唯一にしてあまりに大きな、…違い。”
“そして、それを受け容れられないと思いつつ、……その力を羨む自分もいる。”
「うん。……そうなの。それは“力”なの。……その力がある真里亞は幸せになれて。その力がない縁寿は、幸せになれない。」

 それが魔法の力。
 真実に囚われた心を開放し、新しい一歩を踏み出すための力。
 克己の力。





 真里亞とベアトの交流と、それを読む縁寿。

「………何と言うことか。…さくたろうとやらは、その布地と綿の依り代を核に、完全に人間界に顕現している。自らの人格を持ち、召喚者と自在に対話をし、しかも自らの意思で動いている。」
「……しかもさらに驚くべきは、それが異界の人物を名指しして呼び寄せたものではなく、真里亞がゼロの海から生み出したものという点だ。」

 さくたろうは“黄金の魔女”を紐解く上での大きなヒント。
 19人目がヤスの詳細な設定を作るうえで、真里亞の方法論を参考にしたことだろう。
 ヤスは基本的に、現実をモデルとして、それを意図的に別解釈によって歪めて生み出されている鏡の向こうの存在だから。


「……真に驚嘆すべきは、ぬいぐるみに魂を宿したことだけではないのだ。それにより、自己の世界観まで変化させた。……そなたは無より有を生じる力が群を抜いている。」

 意図的に異なる解釈をして、無限のカケラを生み出す。
 ヤスによって、自己の世界観を広げたのも凄いと思うけど。


「黄金の魔女、ベアトリーチェの名において、マリアの子、さくたろうをここに認める。………お師匠様、立会人のサインを頼むぜ!」
「はいはい。……我が名において、この宣誓に立ち合い認めるものなり。………出来ましたよ。」
“それは、さくたろうが人間界に確かに顕現することを、上位世界の存在に宣言する力ある書面。”
“真里亞より生まれたさくたろうは、ベアトリーチェとワルギリアの2人の魔女に推薦され、たった今、上位世界にその存在を認められたのだ。”
“……それこそが、大いなる顕現の魔法。”
“ベアトの話によると、ワルギリアがこの場にいてくれたのはとても僥倖なことらしい。”
“上位世界への宣言書は、サインしてくれた魔女の人数や格によって、宿る力がまったく変わるからだ。”
“特にワルギリアは、上位世界に友人がとても多いので、彼女のサインは宣言書において、ベアトのそれとは比べ物にならないほどの力を持つ。”
「この宣言書により、汝、さくたろうを自我ある一個人と認める。そしてその存在をマリアージュ・ソルシエールの条約に従い、友人として迎える。今よりさくたろうは、我ら共通の友人だ。」

 人に認められることで、その人の世界に存在することを許される。
 それを魔法的に解釈したもの。
 魔女たちの願いはこれ。


「原初の魔女って…?」
「うむ。造物主の道を求める魔女の称号よ。今は身の回りの小物に魔力を吹き込む力しか持たぬ、付与魔術師でしかない。」
「……しかし千年の修行を経たならば、その胸の内より魔法大系はおろか、銀河を生み出すことも夢ではあるまい。」
「……原初の魔女の才能はとても希少。幼き日には誰もが持つのに、誰も持ち続けることが出来ない。……この称号は、あなたが穢れなき心を失わなかったことの証でもありますね。」

 鏡写しの世界だとは言え新しい世界を生み出した19人目も、やがて造物主に至る魔女である。
 

「幸せになることを、どうか恐れないで。幸せになるというのは、今の不幸を受け容れるという意味じゃないの。今の不幸の中に、幸せを新しく生み出すということなの。それが、原初の魔法。」

 幸せを新しく生み出すというのは、幸せのカケラを見つけるということ。





 大月教授とメッセージボトルの話。

“もしもメッセージボトルが1つだったなら、それこそが真実と言い切ることも、乱暴であるが不可能ではないだろう。”
“しかし、2つあるせいで、そのどちらもが疑わしくなってしまっている。”
“謎の二日間を、魔女の仕業にしたい何者かの仕組んだこととするならば、まさに蛇足なのだ。”、
“そして、2つ存在するということは、未発見の3つ目、あるいはそれ以上がある可能性すら示唆する。”

 この時点で、ひとつの真実だけを主張したいわけではないことは解る。
 複数の真実を主張し、そこから真実を解き明かして欲しいと要求し、さらにその後に新しい物語を追加できる余地を作り出している。
 要するに、願いが叶うまでメッセージボトルを流し続けようとする意図を感じざるを得ない。





 マモンを再召喚した縁寿。

「私は嫌! 縁寿さまは約束したもん! また私たちみんなと遊んでくれるって!」
“…言ってな、…。”
「ね! 縁寿さま! みんなとまた会えるって! すぐに会えるって約束した!」
「………そうね、………約束したわ。……すぐにが、いつのこととは約束しなかったけど、……確かに私は、約束したわ。」
「だから守って! じゃないと、私は今日までそれを忘れていた縁寿さまを許さない…!」

 この約束は、19人目とヤスのものと重なる。


“忘れてしまった日々だけど。”
“悲しさと寂しさしかないと思ってた日々だけど。”
“……確かに、彼女らと過ごしたわずかな時間は、……紛れもなく、楽しい時間だったのだから。”

 過去と約束を忘れそうな八城と重なる。


“そんな私を夢の世界の入り口で、真里亞お姉ちゃんと、……さくたろうが受け止めてくれた気がした。”
「……………。お疲れ様。……そして、がんばったね。」
『うりゅ。…お帰り、縁寿…。』
“……お帰り、か。じゃあ返事はこうだわ。”
“…………ただいま………。”

 旅は終わり、願いを達成して黄金郷に迎え入れられた時、こうだろうという想像。
 いや、そう信じている、ということ。





 縁寿の魔法修行。

「うー、駄目だよ。心象世界は広大で、そして孤独じゃないといけないの。自分以外に一切遮るものがない世界。」
「……だから、その世界を人に教えたら、その世界は孤独ではなくなってしまう。だから心象世界は誰にも明かしちゃ駄目なの。だから縁寿も、上手に心象世界を描けたら、それは自分だけの秘密の世界にするんだよ。」

 孤独こそ、妄想の糧。
 自己の世界に他者を迎え入れるということは、その他者の承認が必要になるということ。
 その分、脆くなる。
 逆を言えば、脆くなった世界を補強してもらうことができるのだが。

 心象世界と言えば、カケラの海のイメージは広大だな。
 人が生み出した世界をカケラとし、それを無数に内包しているというイメージの世界だからなぁ。
 ベアトはそこに、無数の惨劇のカケラを生み出して広大な領地を築いた。





 縁寿の家族を蘇らせるという願い。

“でも、安物かどうかが問題なんじゃなくて、……幸せを、自らの手で掴み取るという、そのプロセスが、私にはとても大切で、神聖なものに感じられたのだ。”

 幼い縁寿が髪飾りを欲した理由がこれ。
 この、幸せを自らの手で掴み取る、というのを八城も重視している。
 自身とヤスの魔法によって願いを叶える、というプロセスが大切で、神聖な約束なのだ。


「…………嬉しいわ。私以外の人に、それを認めてもらえるのは。」
“自らの努力というものは、自らには観測できない。”
“その意味において、……この、七つの大罪のうちの一つを司るという物騒な悪魔少女であっても、……私に掛けてくれたその言葉はとても嬉しいものだ。”

 努力は、絶対の魔法に通じる。
 それを認められることは、その魔法の力となることだろう。

 後、直接的な自己承認ができない時、心の中に架空の友人に認められることは間接的な自己承認となるだろう。


“……約束する。いつか必ず、七姉妹を呼び出せる魔力を養おう。そして姉妹を賑やかに楽しく過ごさせてやろう。”
“彼女らは7人で1組。……欠けさせてはいけない。”
“家族は、一緒でなきゃ。”
“必ず、……揃えてあげなくちゃ………。”

 八城もまたそれを求めている。
 黄金郷では皆が揃わなくては。





 ラムダデルタと縁寿の会話。

「当り前でしょ? ルールは他人を縛るためにあるのよ。自分をそれで縛る馬鹿はいないわ。」

 法律なら、作る側の方が得。
 しかし、ゲームはルールがあるから面白いのだ。
 例えば、学校からの一人での帰り道、常に白線を踏んでいなければならない、踏み外したら負けというルールを作る。
 それだけで何もない帰り道が楽しくなるだろう。

 19人目は、全ての出来事を、ヤスの世界の出来事として解釈して遊んだ。
 つまり、「ヤス」という名のルールを作り、それを踏み外さないで生活するというゲーム。
 何もない日々も、それだけで楽しく過ごせる魔法。
 それを幼い頃より19才まで、常に欠かすことなく続けた。
 それは、ゲーム盤という名の舞台の上だけの人生。
 役者が役を降りずに続け、仮面が剥がれなくなるように。
 ヤスという仮面は独立した人格を持つようになる。
 即ち、ルールの擬人化。


「………いいえ、違うわ。右代宮縁寿じゃない。……そういう名前の、魔女の駒なのよ。厳密には、エンジェ・ベアトリーチェという名の、まったくの別人。……意味、わかるゥ?」

 誰かの世界、その世界に置かれた駒。
 現実の世界と、誰かの心の中にある世界は、異なる別物。
 故に、同じ縁寿だろうと、世界が異なるなら別人なのだ。
 魔女のゲーム盤に置かれたニンゲンの駒は全て、同様にして取り込まれている。
 つまり、あの世界にその人本人は存在しない。
 その人を模した駒でしかない。
 メタ戦人も同様。
 故に、肉のある戦人は蘇ることができず、駒で家具である戦人は蘇ることができる。
 だから、縁寿の願いを叶えることができるのは魔法だけ。


「うっふふふふふ、くすくすくすくす…!! そろそろ気付いてきた…? あんた、この戦いにご褒美が用意されてないのよ。」
「いえ、それどころか、ベアトを打ち破ればゲーム盤は消え去る。そしてその駒であるあんたも消え去る。」
「………あんたに享受できるゴールは、完ッ全に、………いいえ。私の名において宣言するわ。この絶対の魔女、ラムダデルタの名において! “絶対”にないと宣言する…!」

 ひとつの世界の終わり。
 そこの住人の幸せとは?


「確かに、自らの名を名乗ることは出来ないけれど、それでも少なくとも、魔女と戦うゲームの味方同士という位置にいて、……いつまでも永遠に一緒にいることが出来る。……意味、わかるゥ……??」
“つまり、………このゲームは、お兄ちゃんが引き分け続ける限り、永久に繰り返される。”
“引き分け続けるということは、永久にゲームが続き、私という駒は、お兄ちゃんと一緒にいられるということ。”
“でももし、お兄ちゃんが勝ったり、あるいは負けたりして、ゲームが幕を下ろしたなら。”
「駒である、あんたは消える。」
「………………………。」
「ゲームの駒の幸せは何? ……ゲームで遊んでもらうことだけよ。押入れに仕舞われて埃を被ることじゃないわ、そうでしょう?」
“……かつて、煉獄の七姉妹が言っていた。家具の幸せは使役されることで、仕舞われることじゃないと。」

 駒の幸せは使役されること。
 永遠にお遊戯を続け、そこで永遠に一緒なのが幸せ?
 それがヤスが望む幸せなのか。
 それとも主の願いを叶えることなのか。


「話を少し変えるわね? ……実は私、このゲーム、永遠に引き分けて続けてほしいと思ってるの。終わらないゲームは永遠の檻。……ベルンを今度こそ屈服させる未来永劫に開かれることのない絶対密室よ。」

「………ただね。どうもベアトのやつ、それに薄々気付き出してる気がする。……このゲームに、自分の勝ちは永遠にないんじゃないかって、気付き始めてる気がする。」
「でもそこはさすが、無限の魔女。ベアトは馬鹿だから、それでもいつかきっと勝てる、それまで延々と無限にゲームを繰り返せばいいと楽観してるわ。」

 ベアトの勝ちを望むのがベアト。
 引き分けを望むのがラムダ。
 ベアトの負けを望むのがベルン。

 ゲームに存在する3つの決着。
 それらを全て同時に望むのが、ゲーム盤の世界を生み出した主。
 その主の望みを分割し、それぞれの目的として与えて生み出されたのが3魔女。

 ベアトの勝ちは、魔法説が勝つこと。
 魔法説は、2人の再会を邪魔させないためにあるセブンスランクルークの境界線。
 条件付きの永遠。
 故に、いつかは負けることが定められている。
 だがその時までは、延々と維持し続けなければならない。
 負けてはならない。

 引き分けは、真実を並び立たせる。
 猫箱が開けば消え去ってしまう真実を閉じ込めるための鳥籠。
 共にゲーム盤で踊る、永遠のお遊戯。

 ベアトの負けは、全ての幻想が消え去る。
 自身の本当の真実を認めて欲しい、それが本当の願い。
 しかし幻想を消し去りたくはない。

 それが葛藤となり、負けと引き分けの争いとなる。
 それがゲームの本番。
 対魔法説戦は前座。
 魔法説の負けが確定する、それは終わりの始まり。
 故に、EP4はあんな感じに。


「そう。……永遠に引き分け続ける限り、この世界は崩壊しない。」
「……この世界は何? ………魔女とのゲームの世界。ベアトと戦人が永遠に戦い続ける世界。」
「……そして同時に。あなたが永遠に戦人と一緒にいられる世界なのよ……!!」
「ねぇ……? エンジェ・ベアトリーチェぇえぇ…?? ゲームを終わらせ、あなたと戦人の交流できる世界を終わらせよとするのが目的のベルンカステルに、味方する理由はどこにあんのォ…?」

 ゲーム盤の世界、それがヤスのいる世界。
 ヤスと交流するための世界。
 永遠に一緒にいるために、引き分けを選べという、魔女の囁き。





 縁寿の回想。さくたろうと七姉妹との交流。

「私は、誰も知らないことを、私だけが知っているのが好き。誰も出来ないことを、私だけが出来るのが好き。だから勉強は好き、練習は好き。私だけが、誰も知らない英知を、独り占めしたいから。」

 強欲の嗜好。
 魔法の深淵。
 誰にも知られないからこそ、魔法は魔法足り得る。


「駄目だよ、縁寿。そういう感情は反魔法の毒素になるよ。夢は必ず叶うって気持ちが、一番よく芽吹く魔力の種なんだよ。」
「縁寿さまは少し強欲さが足りないのよ。欲しい物のためにはどこまでも! 手に入れるまで絶対に諦めないという、根性が足りない!」

 夢を絶対に叶えるという意志こそが魔法の源。
 故に、プレイヤーはその意志を探ればいい。


“……私も、真里亞お姉ちゃんのような、魔女になろう。”
“そしていつの日にか、この楽しい輪に、家族も加えよう。”
“お父さん、お母さん。そしてお兄ちゃん。”
“……もし許されるなら、譲治お兄ちゃんや朱志香お姉ちゃんも。他の親戚たちも。”
“みんなみんなここに呼んで、誰一人欠けることなく、…みんなで集まろう。”
「……それが私の、夢。……そうよ。私はそれを叶えるまで、絶対に挫けない。」

 八城の夢。
 黄金郷にて欠けることなく全員を集める。


「縁寿さまはきっと大魔女になられます。あなたがそうだと信じるだけで。我ら煉獄の七姉妹は、その日まで常にお側にお仕えするでしょう。」
「いてくれる…? いつまでも。……私の力になってくれる?」
「当然。だって私、縁寿さまの友達じゃないですか?」
「……………………。……えぇ、そうね。常に全員揃って、みんなで遊びましょう。今も、これからも、ずっと、ずっと。」
「縁寿さまが夢を叶えられる日まで。」

 八城の夢を叶える日までの約束。





 縁寿が七姉妹を殺したシーン。

“自らの口で、自らを辱める文章を読まされることが、こんなにも辛いことだなんて、知らなかった。”
“指が震える。指先も震える。……自らの筆跡で書かれた屈辱的な文章が、瞳の奥を熱い液体が焼く。”
“だから世界が潤んで歪んだ。”
“私を取り囲む彼女らがみんな歪んで見えた。”
“私が彼女たちに持っていた印象そのままの姿に歪んで見えた。”

 他人を自分の世界に招き、その者の真実を語らせる。
 ……それは自身の存在を否定する言葉。
 それを紙の上に文章として記す。
 どんな気持ちで書いたのか。
 その答えがこれ。
 それを無限に繰り返した。


「つーかさぁ、何でまだ生きてんの? 生きてられる普通? 私なら死んじゃうね!」
「生きてられないよねー?! だってさ、生きてるだけで迷惑掛けてるだけでしょ? 私だったら絶対に生きてられない!」
「うんうん、私だったら死ぬね。その方が世の中のためになるなら、すぐにでも死んじゃうよー! ねええー!!」

 これを無限に繰り返す拷問。
 こう思わせることはやはり罪だよ。


“役立たずが役立たずが……!! あんたなんて大嫌いッ!! 消えてしまえ…!! あんたなんて所詮、私の中の妄想じゃない…!!!”
“絶望と失望。諦めと夢の終わり。厳冬の湖で、氷結した湖面が立てるような亀裂音が一度だけ響く。”

“……虚しい。悲しい。そして情けない……。”
“そうさ、わかっていたさ。彼女らには、現実に指一本だって触れることなんか出来やしない……。”

「死になさいよ、使えない家具ッ! どうして生きてるの、あんたたち? 生きてる価値がないのに、何で生きてるわけ? 死ねがいいじゃん。死になさいよ。というかむしろ死ねッ!! 使い道のない家具を置いとく馬鹿がいると思うッ?!」

 家具は主の思いを受け止めるためにある。
 愛も喜びも、そして、怒りも悲しみも。

 押し付けずにはいられないのが、人の世の罪。
 18人の罪を、ひとりぼっちの19人目に。
 そして19人目の罪を、その家具に。
 全ての罪を押し付けられた家具は、その役割を果たし続ける限り、島には平和が保たれる。
 しかし、天使との約束が破られた時、魔女は目覚める。

 解離性同一性障害、所謂二重人格は、嫌な記憶を自分のことではないと切り離し、その切り離された記憶を押し付けられた人格が成長したもの。
 これは無意識でやるで、元の人格に自覚がないのが普通。

 うみねこにおける二重人格は、意図的に作って演じているもの。
 だが、それが習い性になれば、やがては独立した人格に成長するだろう。
 だって、自分と違うと区別し続けているのだから。
 そして自分がやられたことを、作った人格にぶつける。
 自分より下の存在を作り、自分より上の存在にやられたことをそのままぶつける。
 これは自分の境遇を自覚した上での行動。
 記憶は乖離していないが、負の感情を擦り付けている。

 だがその相手はもう一人の自分。
 負の感情を捨て去るゴミ箱は、自分の頭の中にあり、ただただ溜まっていくだけ。
 それを糧に人格は成長し、暴走し出すだろう。

 ただし、意図的に作られたものであることに違いはないので、意図的に殺すことも可能。
 正確には、殺したと決めることはできるが、綺麗さっぱり消えることは不可能だろう。
 ゴミ箱がなくなっても、ゴミは残るのだ。

 さらに言えば、殺す人格を逆に元の人格とすることも可能。
 どちらも自分だから。
 そうなれば制御していた人格が消え、負の感情に満たされた人格が解き放たれる。
 それは傍から見れば、悪霊に乗っ取られたかのようだろう。


「ふっ、………くっくっくっく、あっはっはっはっはっは…。あっはっはっはっはっはっはっは、語るな家具が。妄想がッ!!」

 EP2でベアトが紗音や嘉音に対して同じフレーズで罵っていた。
 要するに、あれらのシーンのベアトも紗音も嘉音も皆、ひとりの人間の脳内妄想ということ。
 それぞれの駒が、各々の立場から、主の心を代弁していただけ。
 異なる視点から、異なる解釈をさせ、主の意見の参考にするためのもの。
 だから時には、家具が勝手に語り出す。
 だがそれは、間違いなく主の心から生じたもの。
 自覚していなかった自身の心。
 想いを、願いを、罪を、顕かにする。


「もうわかってるわよ、皆まで言わせないでよ。…あんたたちには何も出来ない。あんたたちは所詮、私の妄想、幻想、白昼夢…!」
「私には初めから友達なんて一人もいないわ。孤独な私が心の中に生み出した、お友達ごっこの幻影でしょう? 知ってたのよ、最初ッから!!!」
「あっはははははははははははッ!! えぇ、そうですよゥ! 縁寿さまの頭の中の幻想ですけど何かァ? ハイ、そうですゥ!」
「私たちは友達のただ一人もいやしない、寂しい寂しい縁寿さまの心を慰めるためだけに生み出されたお友達ごっとの脳内妄想ですが何かァ?」
「見たければ現実を見るといい、私たちなんか見ないで、あそこで囲まれて罵声を浴びせられてるあなたに戻るといい!!」
「ほらほら戻りなさいよ、お帰りなさいな現実にッ!! 都合のいい時だけ私たちを呼び出してお友達ごっこで、自分の手を汚す覚悟もないくせにそれをけしかけ、駄目とわかったら否定して消し去る!」
「えぇ、どうぞお楽しみ下さいよ、縁寿さまが期待されるような苦悶の声と悲鳴をあげて退場しますとも!!」
「縁寿さまがたった今、浴びせられている罵声を、私たちにも同じように浴びせ掛けて胸の内をスゥっとさせるがいいです。」
「それもまた家具の役目!! ムカついて床に叩き付けられることもまた、椅子の大事なお役目ですからァ!!」
「その程度のことで主の不機嫌を一時でも受け止められたなら、家具としてこれほどの栄誉はありません。殺しなさいよッ、否定しなさいよ、あなたの最初で最後の友達をぉおおおッ…!!!」

 そして、ベアトを殺した。


「……だから大丈夫。とても傷ついただろうけど、無事だよ。みんな生きてるよ。きっといつか、また会えるよ。」

 残された微かな希望の光。


「さくたろは私の家具。縁寿には消せないよ。……なのに否定しようとするのは魔女にとって最大級の侮蔑も同じだよ。」

 それは愛を否定するも同じ。


「うーーッ!! やめてェ!! 反魔法の毒でさくたろを焼かないでッ!! 虐めないで!! 侮辱しないでッ! 否定しないでぇええ!!」

 19人目の叫び。


“………それで。”
“…私の穏やかだった日々は、白昼夢ということになって、終わった。”
“今となっては検証不能だ。”
“あれが本当に魔法で、そして私の友人たちだったのか、それとも白昼夢に過ぎなかったのかは、誰にも検証できない。”
“……唯一の観測者である私が彼女らを、白昼夢だと断じたから。”
“……それが真実となった。”
“私は後の未来に再びこれを観測し、その時はこれを夢ではなく、……七姉妹たちは本当に友人で、真里亞お姉ちゃんもさくたろも、孤独な私のために尽力してくれていたと、認めるのだろうか。”
“………………そんなあやふやなの。真実でも幻でも、何でもない。”
“今ここにある現実だけが、本当の私の世界なんじゃないか。”
“本当の私はどこにいるの?”
“私がいるのは、……あそこ。”
“人垣に囲まれ、罵声を浴びせられ続け、…目を真っ赤にしながら俯く、私………。”
“……あそこにいる私こそが、………本当の私じゃないか……。”
“もう、夢なんか、見ない。”
“逃げる場所なんか、どこにもないのだから。”
“私は、帰る。……肉で出来た檻に、自ら戻る……。”

 八城の現実。


「…………生きてても仕方ありません。」
“……私の、即興。そして、胸の内。”
「……そうです。私は生きてても仕方なかった。……1986年のあの日に、私も連れて行ってもらうはずだったんです。……なのに、私だけが連れて行ってもらいなかった。」
「……どうして、私はここにいるのでしょう。…ここは、私のいる世界じゃない。…………誰も助けてくれません。」
「…一時、……私の中に生まれた架空の友人たちだけが、私を助けてくれるような気がしていました。でも、友人たちは所詮は妄想で、……助けてなどくれなかった。だってここは妄想の世界じゃなくて、現実の世界だから。」
「………だからつまり、……私は今日までずっと、……白昼夢を見続けてきたわけです。…現実のクラスメートを嫌い、妄想の友人たちとの交流の中だけに生きた。………その友人たちとは、さっき決別しました。だから私がここにいます。」
「…………家族もいません。友人も捨てました。……もう私には、何も残っていません。」
「……どうして死なないの? さっきそう聞いた人がいます。…その通りだと思います。どうして私は、………生きているんでしょう。………………1986年に私は、…………死んでいるはずだったんです。…いえ、きっと死んだんです。」
「なのに、…………私の殺された魂は、未だにこの肉の檻に閉じ込められている。だから、誰かに求めよう。それに応えてくれないなら、……自分でしよう。」
「誰か私を、………………死なせて下さい。」

 心中して、ベアトに猫箱の中の世界に連れて行ってもらうはずだった。
 だが、ルーレットが選んだのは別の未来だった。
 これは、取り残された八城の、胸の内。


“…………殺せと命じて、白昼夢の友人たちには出来なかった。”
“ならばと。現実のニンゲンたちに殺せと頼んだが、……やはり彼女たちにも出来ない。”
“……ということはつまり、白昼夢も現実も、どちらも同じ。”
“この世界も含めて、全てが全てが。…………白昼夢だということじゃないのか。”
“なら、……それでいいじゃないか。”
“だって私は、……家族を全て失ったあの日に、もう死んでいるのだから。”
“その後に続く全ての日々が、……死に損なった私の、走馬灯のような妄想だったのだ。”
“それを理解したら、……………周りの全ての景色が、わずかに歪み始めた気がした。”
“……あぁ。やっと私は、………覚めるんだな。この白昼夢の世界から、解放されるんだな。”
“ふぅっと、気が遠のいていく気がする。”
“……それでいい。どこまでもどこまでも遠のいて、…………私を家族のところまで連れて行って……。”
“だから、歪んで色褪せた世界で何が起こっても、まったく気にならなかった。”

 これが、全てから解き放たれた造物主の境地、か。
 自分、というものを全て失ったがゆえの、完全なる俯瞰。
 これは、悲しいなぁ。


“教師は盛んに何かを怒鳴りながら、私を庇うような仕草をしていた。”
“……それを見て、私はたった1人とはいえ、味方が現れてくれたことを知り、少しだけ意識が戻るのを感じる。”
“………………。”
“……現実の世界で私を助けてくれるのは、…現実のニンゲンだけなんだ。”
“もう二度と。……白昼夢などに救いを、求めるものか。”
“……ここはニンゲンの世界。”
“ニンゲンを助けてくれるのは、ニンゲンだけなんだ……。”

 私は助けられるニンゲンになれただろうか。
 ……信じよう。


「……………………。……そうだね。縁寿がそう思ったのなら、それが縁寿の世界。」
『……縁寿は、……これで幸せになれる………?』
「………縁寿が、それでしか幸せになれないと信じたなら、もうそれしかない。…篭の中にいる青い鳥を、そうだと認められないなら、…どこまでも探しに行かざるを得ない。」
『うりゅ……。…真里亞と縁寿はもう、……絶交なの………?』
「……………………。……絶交なんかじゃないよ。縁寿がそれを求めたから、そうしただけ。……私たち魔女は、時に迫害を受けるけれども。でも、常にみんなの身近にある。……そしてきっとその助けを求められる。」
『……縁寿も、………またボクたちと遊んでくれる日が来る……?』
「来ないで、そのまま忘れてしまうこともあるかもしれない。…人の世ではそれを、成長や決別と呼ぶから。…………でも。」
“縁寿さえ思い出してくれれば、私たちはいつでも、側にいられるよ。”
“……それまで私たちは、……待ってるから。”

 ヤスたちの思い。





 真里亞の日記。

『ママと先生にさえ見つからなければ、ボクたちはいつまでだって一緒にいられるんだよ。そしていつまでも一緒にいよう、遊んでいよう。ボクたちは真里亞を、絶対にひとりぼっちになんか、させないから、うりゅ!』

 19人目とヤスの誓い。


“……そう。元々考えてみれば、真里亞の世界に縁寿はいなかったのだ。”
“縁寿がいなくても、みんなが一緒で楽しかった。”
“なのに、最後に入ってきた縁寿が抜けただけで、急に悲しくなるのはおかしい。”
“縁寿が入る直前の世界に戻っただけじゃないか。……なら、悲しいわけなんかないんだ。”

 んー、これも19人目とヤスに繋げてみるか?

 ヤスの世界は、虚偽の世界、鏡の向こうの世界。
 だからその世界には、19人目はいない。
 19人目が作り出した世界だろうとね。
 その“世界”からすると、19人目は最後に入ってきたと言えるのかもしれない?
 設定ではそうなる。
 だから19人目が入る直前の世界に戻っただけ。

 これは猫箱の中の世界に、19人目は存在しない状態だと言っているのかな。
 まあ、19人目は猫箱の外で八城やってるからな。

 正確には、猫箱の中では、真実は割れて分かれている状態。
 ヤスの世界と19人目の世界が別々に存在する。
 それが19人目を迎え入れて、1つの立体的な真実に合わさるということか。


「………ポケットに鍵がない。」
“自宅の扉の前で、真里亞はぱたぱたと全身を探る。……家の鍵がないのだ。”

 真里亞の鍵は、第2のゲーム、第一の晩のトリックの手掛かり。
 何でみんな、未だにこれに注目しないのか。


「さくたろ返してッ、さくたろ返してッ!! わあああああぁああああぁあぁぁあ!! さくたろは真里亞のお友達なの!! 親友なの!! さくたろさえいれば、他には何もいらないッ! だから返して!! 返してえええぇえぇぇ!!」

 ヤスが失われることを知った19人目の気持ちもこんな感じだったのだろう。


「さくたろうは、死んでしまいました。」

 生み出した母が存在を否定する。
 これが自身の罪である、と八城は考えているのだろうな。


「さくたろうは良き友人であった…。そなたがそれを忘れぬ限り、常にそなたと共にある…。だから泣くんでない…。」

 自身に言い聞かせている感じ。


「………んむ…。……実はな…。さくたろうの依り代は、楼座の手作りのぬいぐるみであったろう…? その楼座が、さくたろうを否定した。……母にその生を許されなかった命は、存在できぬのだ…。」

 自身が夏妃にされたことを、自身の娘のようなヤスにする。
 自身が崖から落とされたように、忘却の深淵に落とした。
 罪だと感じるのも無理はないな。
 生まれてきてくれてありがとう、か。


「そなたがさくたろうの存在を強く信じる限り、その魂が消え去ることはない……。だからマリア…、どうか悲しむな…。今もほら、…すぐそこでさくたろうが微笑んでいると信じるのだ……。」

 ホント自分に言い聞かせてるな。


「諦めよ…!! さくたろうを蘇らせる魔法はない…! そして、それでもなおさくたろうがそなたの親友であり続けることを強く信じよ…!! その力が魔法となる…!」

 その通り、これは魔法だよ。
 やり遂げたよなぁ。


「ママの手作りだから駄目なの? どうしてママはさくたろを作ったの? 真里亞にプレゼントするためじゃないの? 真里亞のお友達にするためじゃないの?」
「なのに何で、ママは自分で作って、自分で壊したの? どうしてママは、自分で生んで、自分で壊そうとするの? わかんないわかんない!!」

 自分でヤスを生んで、自分でヤスを壊す。
 ヤスが抱くだろう当然の疑問。


“真里亞の背後の暗闇より、巨大な漆黒の二本の腕がぬうっと現れ、怒りに泣きじゃくる真里亞に絡みつく。”
“そして巨大な爪を真里亞の胸と腹に突き立てる……。”
“それは真里亞には見えていない。……しかしベアトには見えていた。”
“ぶつけ方を知らぬ怒りと悲しみは、自らを引き裂く。”
“……ベアトはそれを知っていた。見えていた。”
“そう。……つまりはその巨大な腕は、真里亞自身のものなのだ。”
“その爪が、めりりと彼女の胸と腹に食い込んでいく……。”
“……その腕のあまりの大きさと強さは、真里亞を容易に引き千切り、ばらばらにしてしまうだろう……。”
“しかし、当の真里亞はそれに気付けない。”
“自らの涙の海に溺れ、……自らの腕が自らの胸を引き裂こうとしていることに、気付けない……。”

 自分と同様だから良く理解できるのだろう、その心の痛みが。
 それが見える程に。


「…………………。……良かろう。その力を、そなたに与えよう。……心美しきそなたが自らに引き裂かれるくらいならば。……そなたにその苦しみを与えた、心無き母こそがよほど引き裂かれるに値する。」
「……………教えようぞ、そなたに。……魔女の世界の、光差すことなき深淵の奥底を……。」

 こうして、無限の惨劇が綴られていく。





 新島に向かう船上。

「……………自己満足か。聞こえは悪いですが、そいつが実は、人生ってヤツではないかと思ってます。」

「俺が言いたいのは、自己も何も、自分を認められるのは世の中で自分だけしかいないってことです。」
「人は、誰かに認められたくて努力をするわ。……多くの場合、それは親ね。親に褒められたくて、子どもは努力を覚える。………だから私は、覚えなかったわけだけど。」
「……俺が言いたいのは、自己満足、大いに結構ってことなんです。誰に褒められたって、それを納得できなきゃ意味がない。……逆を返しゃ、誰に褒められなくったって、自分が納得できりゃそれでいいってことです。」
「誰かに認めて欲しくて、だけれど何を努力すればいいのかわからないのが、人の世の苦しみです。俺にもそういう頃があった。」
「誰かに認められたくて、でも何を認められればいいかわからなくて。そして、何をどこまで努力すれば、誰に認めてもらえるかわからなくて、ずいぶんと無茶苦茶をやってきたもんです。」
「それで天草が至った答えが、……自己満足だっていうの?」
「聞こえは悪いがそういうことです。吾唯足るを知る、っていうヤツですわ。」
「………俺がこれでいいと思った人生なら、それはとやかく言われてどうこうってもんじゃない。縁寿さんの人生も、この旅も同じです。縁寿さん以外の誰にも、とやかく言う権利なんてない。」
「旅の意味と成果は、縁寿さんだけが決める。縁寿さんにとって有意義な旅になったなら、それで充分なんですよ。」

 思考の旅。
 プレイヤーたちと縁寿と八城の最終目的こそ、自己満足。

 果て無き真実を求める旅のどこで満足するか。
 誰かに認められたら満足なのか?
 ならば、誰もが認める真実で満足すればいい。
 それで満足できないから他を探す?
 他人の真実で満足できるのか?
 できやしない。
 だったら、自分が満足できる真実を生み出せばいい。
 それで旅は終わり。

 でもそれが難しいんだよなぁ。


「……人は満たされるために生きてる。そして満たされたまま死にたいと願ってる。だから、その満たされ方がわからないのは、とても辛いことだわ。」
「どうやれば満たされるんです? ニンゲンの人生は。」
「………認めてもらうことよ。お前は幸せだ、ってね。」
「誰が認めてもいいものでしたら、私が認めてあげますよ。」
「そうよ、そこなのよ。………誰に認めてもらえばいいのか、わからないのよ、人は。」
「おかしな話ね。認めてもらおうと認めてもらわなかろうと、自分の境遇に変化はないはず。……にもかかわらず、認められれば満たされ、認められないから満たされない。」
「…まるで青い鳥だわ。……篭の中にもう青い鳥はいるのに、それに気付けないから、どこまでも探しに旅立たなければならない。」

 八城は、メッセージボトルを流して、その誰かを探した。
 でも探し出した誰かはただ指摘するだけ。
 青い鳥はあなたの傍にいる、と。
 結局、八城の青い鳥は、猫箱という篭の中にいた。
 カケラとして傍にあった。


「……つまるところ、誰かに認めてもらわなければ満ち足りないとは即ち、自らを認められないということ。……究極の自己実現は、まず、自分を自分で認めることだったのよ。」

 魂が一人分に満たないから、自分を認められない。
 だから、欠け落ちた魂の片割れであるヤスを取り戻す必要があった。


“もし、ニンゲンの人生のほとんどが、満ち足りた死を迎えるために、誰かに自分を認めて欲しいと願う旅ならば。”
“………それを認めるのは誰かではなく、自分自身なのだと気付く時点で、その無駄な旅を終えられる。”
“その旅を終えた人間は、残りの人生を胸を張って自由に生きていくだろう。”
“……それの何と気高く、誇り高いことか。”

 これがうみねこのハッピーエンド。
 うみねこは、一人の人間の旅を描いていたのである。


「………まったくよね。結局はそういうことなのよ。他人が観測した自分の評価なんかどうでもいいこと。」
「自分の存在を、自分自身がしっかり認められたなら、それで十分なのよ。……自分に自信を持って生きられるなら、どんな生活だって受け容れて納得できるに違いない。」

 こちらが魔法エンド。


「……自分で自分を認められない哀れなニンゲンは、生涯それを求めて彷徨い、何も受け容れられず、不平不満だけを口にし、満たされないまま死んでいく。」

 こっちが手品エンド。


「どうしてかわからないけど、そう思うの。……あの日、彼女を傷つけなければ。………12年前の事件は起こらなかったんじゃないか、って。……そう思うの。」
“根拠はない。お姉ちゃんが傷ついたら、それがどう、その数年後の怪事件に結びつくのか、見当もつかない。”
“でも、なぜか、私は無関係に思えなかった。”
“この事件は魔女が起こした。”
“そして犯人は、黄金の魔女、ベアトリーチェ。”
“そしてベアトリーチェは、マリアージュ・ソルシエール魔女同盟に所属していた。”
“その同盟の、もうひとりの魔女を、私はひどく傷つけた。”
“魔法なんて存在しないと傷つけた。”
“……だからその数年後、魔女による怪事件が起こり、魔法以外で説明の出来ない二日間が、メッセージボトルによって、私に突きつけられる。”

 あながち間違いではない。
 真里亞の心の傷は、19人目も共有している。
 己がことのように受け止めただろう。
 なにせ、他人事ではないのだから。

 魔法の否定は、存在の否定であり、世界の否定。
 マリアージュ・ソルシエールが育んだ世界は、真里亞の世界だけではなく、19人目の世界も育んでいたのだから。
 メッセージボトル内の物語ではベアトが戦人に挑戦したが、メッセージボトルは縁寿に挑戦する意味もあったのではないか。


「私が知らない世界の法則を、私に否定する資格なんてない。……だから私の世界に魔法が存在しないからといって、私の知らない世界に魔法が存在することまでを否定することは出来ない。」

 人はそれぞれ、自分だけの世界を持っている。
 私がうみねこの真実はこれだ! と言っても、それは私の世界の真実でしかない。
 そんな真実は、うみねこを推理した読者の数だけある。
 そんな真実や世界とは関係ないところで、ベアトの世界や真実は存在する。
 つまり、自分はこう考える、ではなく、対戦相手はどう考えているのか、が問題なのだ。

 これ、かなり疎かにされている気がするんだよな。
 逆に、対戦相手の真実と関係なく、自分の真実があるのだからと、好き勝手に真実を構築するのに使わっているような気がする。
 対戦相手の真実を知るには、その相手に寄り添う必要があるのに。
 私の気のせいだと良いのだが。


『それは、…真里亞があの時、ボクのぬいぐるみが破れたのを見て、ボクが死んでしまったと、決めてしまったから。』

 EP7でベアトを殺したと「決めた」のがそれ。
 だから蘇らせるのが難しい。


「でも、事件後は、憎い誰かを如何にして呪うかという物騒なものばかり。……お姉ちゃんの日記はあからさまに様変わりしていくの。」
“日記はそのまま、自らの心を映し出す鏡。”
“それは、真里亞という一人格が死に、邪悪なる魔女としてのマリアという人格に生まれ変わったことを示すだろう。”
“憎しみと悲しみで日記を埋める彼女の心は、……きっと、満たされていなかっただろう。”
“満たされていなかったから、憎しみと悲しみで埋めざるを得なかったのだ。”
“そして満たされないまま、彼女は死を迎えた。”
“……満たされない彼女の魂は、今も悲しみで胸に穴を空け、涙を零して、さくたろうの名を呼びながら彷徨い続けているのだろうか……。”

 真里亞にとっての日記が、19人目にとってのメッセージボトル。
 自らの心を映し出す鏡の向こう側の姿がヤス。
 メッセージボトルの物語において、19人目という一人格は死に、ヤスという名の魔女の人格に生まれ変わった。
 そして、物語の中に閉じ込められた亡霊は、誰の名を呼んでいるのか。


「……………あなたが、……お姉ちゃんには必要なのよ。」

 19人目には、ヤスが。
 ヤスには、19人目が。
 それぞれ必要。

 つまり、現実の八城にはヤスを蘇らせて再会させること、猫箱の中のヤスには19人目を寄り添わせること、それらを同時にやらなければならない。
 それをするには、黄金の真実を全員に認めさせて奇跡を起こし、さらに19人目の真実に誰かが至る奇跡を起こさなくてはならない。
 実に強欲だ。


「どうしたらあなたを、真里亞お姉ちゃんの世界で蘇らせられるの? その方法がわかれば、私はお姉ちゃんを救うことが出来る。……それが、私に課せられた贖罪の方法なのよ。どうすればさくたろうは蘇るの?」
『……真里亞にとって、ボクの依り代は特に重要な意味を持っていたから……。』

 猫箱の中のヤスの依り代と言ったら、19人目。
 つまり、19人目という駒を蘇らせたらいい。


「……でも、さくたろうはここにいるわ。依り代なんかなくてもここにいる。私がそれを認めているから、私の世界では確かに存在する。」
「………真里亞お姉ちゃんが認めなくても、それは否定できない。そうよね…?」
「理屈ではそうですが。……同じ理屈で、マリア卿にそれを認めさせることも、また困難かと思います。」

 現実の八城に認めさせると同時に、猫箱の中のヤスにも認めさせなければならない。


「きっと六軒島で。……真里亞お姉ちゃんに私は再会できると思うの。そして私は、……何が何でも、お姉ちゃんの中のあなたを蘇らせて、再会させるわ。」

 猫箱の中に19人目の駒を蘇らせるとは即ち、八城が猫箱の中のヤスに会いに行くということなのか。


「………でも、やるしかないわ。それが私に出来る、唯一の罪滅ぼしなのよ。」

 八城がしなければならない罪滅ぼし。


「全ての始まりであるあの島こそが、この旅の終着点なのよ。………私はあなたたちを連れて、魔女の家具であるあなたたちの主として、……魔女の島へ、六軒島へ帰らなければならない。」

 懐かしき故郷へ。
 主の帰還。







 身を切るような、罪の告白。
 ヤスに思いを馳せる。
 これまで19人目にばかり目をやっていたので、これを機会にヤスの気持ちを汲み取りたい。


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フラット・ホームズ

Author:フラット・ホームズ
「うみねこのなく頃に」の某公式サイトで推理を投稿していた。
その時使っていた名前は察してください。
スタイルは、アンチミステリーをチェス盤で引っ繰り返す、というもの。
キコニアでは、世界を箱庭に見立て、そこにどんな駒を置いたのか、それらを動かして最終的にどういう形に持って行くのか、的な感じのを主にやっている。

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