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うみねこのなく頃に 考察 境界より視やる

PCゲーム「うみねこのなく頃に」の個人的な考察ブログ。「キコニアのなく頃に」についてもガッツリやっている。


EP8の序盤を再読

 咲の画像を見ると、新キャラ、ウィッチ・オブ・ザ・ピースは、カケラではなく駒の魔女らしい。
 それだけでも察するが、ゲームで問うのは私はだぁれ? のみらしいので、まあ確定だな。
 駒とは言え、ご本人が直接現れるのか。
 我らの告白の次の物語で、ラストノートという題から、3つ目の物語についてが主題であるのはわかってはいたが、実に直截的だ。

 さて、EP8の再読をしよう。



 礼拝堂の縁寿と戦人。

「すぐに思い出すさ。…そして、縁寿にとっては12年ぶりの再会でも。……俺たちにとっては、しばらくぶりでしかないんだ。……みんな歓迎する。12年の、遠い未来からようやく帰ってきた縁寿を、みんな歓迎してくれる。」

 これは、黄金郷に迎え入れられる19人目の真里亞に重なる。
 12年を経ての帰郷。





 六軒島へ。

「おぉ、そして戦人か。……よく戻ってきたな、右代宮家に。……寂しかったぞ、この6年間…。」

「良いのだ……、良いのだ、戦人よ……。言いたいこともあろう、聞きたいこともあろう。……だが今はそれはなしだ。」

「よく、………右代宮家に戻ってきてくれたな……。……私は、……嬉しいぞ……。」

 どう解釈すべきだろうね。
 この金蔵を、この世界の主と見ると、それは19人目のこと。
 この戦人は、ヤスを認めて黄金郷に迎え入れたメタ戦人となるのかな。
 つまり、ゲームを開催した主と、そのために使われた駒の関係。
 戦人は何を知らされずに魔女のゲームに強制参加させられていたわけで、言いたいことは色々あるだろう。
 基本、主の頭の中の住人だから、その外には出られないし。
 出られるのは誰かに共有された時だけで、しかもそれはその誰かの頭の中に生まれる別人でしかないのだけど。

 あるいは、この戦人はヤスに重ね合わせているのかもしれない。
 蘇らせたヤスは、12年ぶりなのだから。


「……都会はうるさい。私の家族だけしかいない、静かな島が一番だ。私はここを気に入っている。」
「……私はもう、老いた。家族だけに囲まれて、静かに暮らしたい。……そして私は幸せ者だ。それを実現できる、この島があるのだから。」

 老いた、というのを八城の「老いた」という台詞と重ね合わせれば、これは八城の台詞と解釈可能。
 家族=自分の世界だけあればいいみないな心境なのかな。
 いや、あるいは、八城の中の右代宮真里亞が、なのかもしれないが。





 6歳の縁寿。

“いとこたちは、波打ち際を散歩しながら、色々と遊んだ。”
“波で研磨された、宝石のようなガラス石を探したり。それぞれの近況を語り合ったり、茶化したり。”
“砂に文字を書いてみたり。返す波を追ってみたり、寄せる波から逃げてみたり。”
“いとこだけの、楽しい時間が過ぎていった。”

 波打ち際に書くのは、夢。
 夢を消す波を追ったり逃げたりは、ゲームのこと。
 ガラス石は、カケラのこと。
 波で研磨は、世間で揉まれること。
 波で研磨された宝石のようなガラス石は、幾たびものゲームを潜り抜けてきた真実のこと。
 じゃないだろうか。
 つまり、カケラを集める遊びという比喩。


「このガラス石、早くママに見せてあげるの! 真里亞が優勝したってママに教えるの!」
「いっひっひ。俺が見つけたヤツを譲ったんだけどなー。」
「うー! 真里亞がもらったから、真里亞のものなの! だから真里亞が優勝なの! うーうーうー!!」

 戦人が集めたカケラを真里亞に譲ったことで、真里亞が優勝した。
 魔女のゲームの結果の比喩。


“金蔵の右代宮家復興を巡る剛腕の物語は、彼を厳格で恐ろしい人物であると修飾するには、充分なものだった。”
“それに、金蔵は投資家でもある。彼をより神秘的に見せる数々の伝説や武勇伝は、そのビジネスに有利に働いただろう。”
“……金蔵も、自分の存在感をより高めるため、望んで彼らの期待する人物像を演じたところも、あったかもしれない。”
“だから、世間が右代宮金蔵を語る時、それは厳格で短期で怒りっぽく。そうして気紛れで豪胆で理解し難い奇人であるかのように語られた…。”
「でもそれは、……祖父さまの外の顔だ。右代宮家で、親戚一同、水入らずで過ごす時の顔じゃない。」

 私は外の顔は金蔵(偽)で、内が嘉音(真)だと思っているが。
 まぁ、それは置いといて。
 世間が作り出した勝手なイメージを鵜呑みにするな、ということ。
 世間が決めたものが真実であるなら、自分の頭で考える必要なんてない。
 自分の信じる真実なんて、自分で決めればいい。
 それを全て自己の責任とできるなら。
 そう、自分のルールに従いながら、自分で勝手に、真実を生み出してしまえばいい。
 それこそが自分自身が生み出した、自分ための、自分だけのゲーム。


「だって、これはお兄ちゃんのゲーム、いえ、ゲーム盤じゃない!」
「…………………。」
「ベアトだのベルンだの! 何人もの魔女が、私の運命を嘲笑い、そのゲームで屈服させようとしてきたわ。でも、私は真実を求めている! 魔女たちのまやかしなんか通用しない! ……なるほどね、魔女たちめ。最後の刺客に、お兄ちゃんを送り込んできたってわけだわ。」
「……そうだな。……これは、俺のゲームだ。だから確かに、これは俺の物語であり、俺が紡いでいる。だからこそ、もしもお前が島に来ることが出来たならという、IFを混ぜることが出来る。」

 つまり、縁寿もまた自分のゲームをすればいいのだ。
 物語は自分で紡ぎ、生み出す。
 真実なんて探したって見つからない。
 誰も絶対の保証なんて与えられない。
 だから、自分が信じる真実は、自分で生み出していくしかない。
 自分で、自分の真実を紡ぎ出すゲーム。
 それを皆、自覚の有無にかかわらず、やっているのだ。
 魔女のゲームは、そのレクチャーだったと言ってもいい。







 黄金の返還。

「そなたも元気そうで何よりだ。余命幾ばくとは片腹痛いわ。」
「そなたに元気をわけてもらってるだけだ。書斎に戻れば、枯れ果てた年寄りが窓辺で呆けているだけよ。」
「そなたの死ぬ死ぬ詐欺にはもううんざりしている! もう諦め、百まで元気に生きると誓ってしまえぃ。」
「俺も、祖父さまには6年ぶりにあったけど、全然変わってねぇんで、驚いたもんな。」
「わはははは、戦人め。この6年で世辞まで学んだか! 残念だが、それは節穴というものよ。しっかりかっきり老いぼれておるわ。」
「金蔵が百歳になってピンピンしているのに、千円賭けるぞ。」
「あぁ、俺も。百歳になっても祖父さまは今と変わらないさ。」
「わっははっはっは! これ以上褒めても何も出ぬというのに!」


「ん? そりゃそうだな。何しろ10tもの黄金を、ぽんっと祖父さまに貸し出したんだからな。」
「そうだ。必ず返すと約束し、もう数十年も借りている。その恩は、もはや返しきれないほどだ。」



「無論だとも。三代にわたりベアトリーチェさんたちが気前よく貸してくれなかったら。右代宮家はとうに滅んでいましたとも。辣腕のお父さんとて、軍資金がなければ何も出来なかったのですから。」
「もはや、カネがカネを呼び、黄金の軍資金は静かに眠るのみだ。………蔵臼。私が何を話そうとしているか、わかるか。」
“その言葉の意味するところを、蔵臼は呼び出された時から、予感していた。”
“借りたものはいつか返す。その日が訪れたのだ。”

“かつて、鷲のように雄大に空を支配した右代宮家は、関東大震災をきっかけに滅びかけた。”
“鷲は片翼をもがれて地に這い、死にかけたのだ。”
“それを、黄金の魔女が黄金の奇跡によって救った。”
“黄金の魔女に守られながら、鷲は長い時間を経て傷を癒し。”
“ようやく、魔女のもとから巣立つ日が来た、ということなのだ……。”
「そなたの祖母より借り受けた黄金を全て。そなたに返還する。………蔵臼、異論はないな? 元より、あの黄金は右代宮家のものではないのだ。」

 傷付いた片翼の鷲とは、19人目のこと。
 借りた黄金とは、黄金の魔法のこと。
 19人目は黄金の魔法の力を借りて物語を紡ぎ、自身の謎を共に出し、その結果、ひとりの人間として認められた。
 つまり、自立できたのだ。

 そして、自立したからには、一人で歩いて行かねばならない。
 絡まり合った物語は、解けてそれぞれの物語を紡いでいく。


「主人は仮にも次期当主。お父様が一代にて当家を復興させたように。主人も一代で当家を反映させるでしょう。そしてそれは、主人と私で成し遂げることです。」
「うむぅ。よくぞ言った。その意気であるぞ。」
「……10tの黄金に未練はないというか。やれやれ、大したものよ。黄金の魔法が効かぬ相手には、魔女も形無しであるな。」

 次期当主夫妻は、19人目の子である19人目の物語と、それを共に生み出している読み手のことだろう。
 つまり、後は読み手がその物語を引き継ぎ紡いでいくのだ。


「そなたに黄金を返還する。だが、黄金の魔女ベアトリーチェが、右代宮家にとって最大の恩人であることは未来永劫変わらぬぞ。」
“黄金の魔女より貸し与えられた黄金を返還する。単純にして明快な話だった。”
“しかし、当の黄金の魔女は、少しだけ寂しげな表情を浮かべる。”

 ヤスのお陰で、19人目の真里亞の今がある。
 それは消えることのない永遠の絆だ。
 しかし、人がいつか死ぬように、物語にも終わりがある。
 19人目の物語には、19人目の物語の終わりが。
 ヤスの物語には、ヤスの物語の終わりが。
 それぞれにある。
 だから絡み合った物語を解き、ヤスの物語に終わりを。
 それが物語の書き手としての責務なのだろう。
 だからヤスという人生を書き切るのだ。


「妾の魔法で、右代宮家は蘇り、そして六軒島は生まれた。……その右代宮家が、もう妾の黄金の力には頼らぬという。妾の魔法から、巣立つということだ。」
「そうだな。……そういうことになるな。」
「妾は六軒島を、魔女の島と、妾の島と呼んできた。」
「そうだったな。」
「その六軒島が、妾に黄金を、魔法を返すという。………六軒島が、魔法から目覚める日が、来たということだ。」
「………………………。……そうだな。」

 六軒島という“世界”。
 その世界は満たされ、今巣立ち、羽ばたこうとしている。
 ヤスの虚偽の世界は、19人目の世界という卵を温める巣であったのだ。
 あるいは、その2つの物語が共に過ごす揺籃の世界だった。
 2つの物語は今目覚め、それぞれの世界に羽ばたいていく。

 魔法より目覚め、真実の姿を取り戻す。
 それは12時の鐘を聞いたシンデレラのように。
 19人目がヤスとなっていた時間は終わり。
 19人目に魔法を掛けたヤスこそ、真の魔女だったのだろう。


「最後のゲームと、わかってはいたさ。……しかし、こういう形ではあっても、それを切り出されると、………意外と堪えるものよ。」
「お前って、結構サッパリしてそうに見えて、未練タラタラなタイプなのな。」
「残忍で執拗なタイプは、大抵は寂しがり屋で未練がましいものよ。」
「そうだな。お前はそういうヤツだもんな。」
「…………妾と、そなたのためのゲームだった。」
「楽しかったぜ。お前が6年の間に、練りに練った、愉快なゲームだった…。」
「かつて妾はそれを、互いを苛む永遠の拷問と称したっけな。」
「……永遠が、永遠であると信じられる内が一番幸せなのさ。物事には、全て終わりがある。そしてそれを自覚しなければならない。」
「目を背けずに、な。」
「昇らぬ日はないように、沈まぬ日もねぇってことさ。」

 そう、何事にも終わりはある。
 永遠と信じた二人の物語にも。
 魔法は解かれ、黄金は返却され、玩具は玩具箱に仕舞われる。
 そして、真実は猫箱の中に。
 猫箱は無限を内包する。
 その中で、二人の真実は永遠となるのだ。


「……お館様は、人生を終えるという最後の仕事の準備を、お始めになったということでございます。」
「自分が死んだ後のことなんて、人は普通、考えないぜ…。……はー。やっぱ祖父さまはスケールがひとつ違うぜ。」
「今日は、右代宮家が黄金の魔女の庇護から飛び立つ、新しい飛翔の日なのでございます。」

「むしろ、大きな責任に奮い立たれるでよう。……留弗夫さまは島を出られ、大成し見事な成功を収められました。しかしそれは、お館様の財産によって支えられたものです。」
「……それが、唐突に遺産をドンと出され、これからはお前の力だけで頑張るのだぞとなるわけか。………へへ、かえってプレッシャーがあるかもなぁ。」
「ご兄弟の皆様は、お館様というあまりに偉大すぎる父親に、もう何十年も苦しんできました。……偉大すぎる親は、ただ存在するだけで、子には重石になるものなのです。」
「それが今夜。……本当の意味で、一人前になって巣立つってわけだ。」

 書き手が物語を書き終えた後の準備をしているということ。
 読み手が生み出した物語の飛翔の時。
 読み手を得て、一人前の物語となるのだ。


「銃を与えられ、復讐の仕方を習った少年兵は、それを生きる目的とします。いや、少し違う。それを、銃を撃つ理由にします。………しかし、復讐ってのは、終わりがない。いつしか、銃を撃つのに、理由がなくなってくるんです。」
「……どういう意味?」
「復讐のために、銃を撃っていた。それがやがて、理由もなく、銃を撃つようになるんです。」
「復讐を忘れてしまうということ?」
「出来もしない復讐に、やがて疲れ果て、その目的を忘れてしまうんです。そして、手元には銃しかない。やがてメシを食うために、銃を撃つようになる。」
「……復讐のために銃を取った少年兵は、やがて野盗か何かに成り果てるってこと?」
「何しろ、学校にも通わず、職も学ばせてもらわなかった連中です。」
“習ったのは、銃の撃ち方だけ。そして褒められたのは、相手を殺した時だけ。”
「やがて、自分の生きる目的は、復讐のためでなく、その手段のためだけに成り果てていく。……気の毒なことです。」

 生きるために物語を紡いできた。
 それが、物語を紡ぐために生きることになった。
 生み出した真実のためなら、自分の真実を殺すことも躊躇わない。
 なんて本末転倒。





 ハロウィンパーティ。

「戦人がデカく張る時は、役なしのことが多いと思ってたんだがなぁ…!」
「そう思わせるために、ここまで負けてきたんだぜぇ? 最後に勝つ為に負けを布石する男、右代宮戦人! いっひっひ!」

 EP4~7まで負けたふりをして、最後に勝つ布石をしていた。
 でもまあ、それを明かしてしまうと、ヤスの物語が台無し。
 書き手の目的は、生まれた物語たちが羽ばたいていくこと。
 そして、読み手の目的もある意味、自分が生み出した物語を羽ばたかせたいのだ。
 そこからすると、真相を明かすというのは、無粋の極みというもの。
 ということだろう。


「うー!! 真里亞知ってる! ハロウィンパーティー!」
「……ハロウィンパーティー?」
「きっひひひひひ! 真里亞だけ知ってて、縁寿は知らない。きっひひひひひ。」

 知っている者と、知らない者に分かれているよ、という示唆。


「やれやれ。セレモニーとは、金蔵も形式にこだわる男よ。」
「例の、黄金の返還式云々ってことなんだろ。右代宮家にとっては、一つの大きな節目なんだ。付き合ってやれよ。」
「ちと寂しい気持ちもあるがな。」
「右代宮家顧問錬金術師であることは、これからも変わらないさ。」

 この物語が終わっても、ヤスは19人目の真里亞と共に、色々な物語を紡いでいくのだろう。


「黄金の魔女ベアトリーチェは、名を受け継ぐことで、千年を永らえる魔女である。よって、彼女の子々孫々に至るまで、その全てがベアトリーチェであり、その全てが当家の顧問錬金術師なのである。」
「右代宮家子孫一同は、ベアトリーチェの恩義を永遠に讃え、子々孫々に永遠にそれを伝えるのだ。………ベアトリーチェは、未来永劫、右代宮家の恩人であり、尊い絆で結ばれた家族なのである。」
「………ご承認いただける方々は、拍手をもって承認をお願い致します。」
「ありがとう、諸君。………ベアトリーチェよ。そなたは右代宮家の一員だ。それは血より尊き絆によるものだ。」

 EP3で示された、黄金郷に黄金の魔女を迎える儀式。
 ヤスがいなければ、19人目の真里亞の物語はあんなにも豊かなものにはならなかったことだろう。
 まさしく恩人であり、尊い絆で結ばれた家族なのである。


「私はお前たちを厳しくも、常に見守ってきた。しかし今をもって、お前たちの父はそれをやめるのだ。………私は雲上から見守るかの如く、お前たちが飛翔するのを眺めているだろう。もはや、何の口出しもせぬ。……そなたたちの生きたいように生きるが良い。」

“……親族兄弟たちは、遺産を巡って、ギスギスといがみ合って来たのだ。”
“しかし今宵。……遺産は綺麗に分配され、彼ら全員の金策は解決された。”
“そうなればもう、兄弟同士、何もいがみ合う理由はないのだ。”
“むしろ、手を取り合い、ますますに互いを繁栄させていくべきなのだ。”

 4兄弟は、4つの物語。
 3つの物語、魔法説、ヤス、19人目。
 それから、それらが絡まる一なる執筆者の物語。
 これまでは、どの物語が認められるかで争ってきた。
 だが、それぞれが独立して読み手に認められてことで、争う必要がなくなった。
 それぞころか、それぞれの物語が絡み合うことで、物語は深みを増し、味わい深くなる。


“六軒島という、魔女の魔法で編まれた巣から、右代宮家の鷲たちが今宵、それぞれに旅立っていくのだ。……力強く、己の力で。
“金蔵は思う。”
“初めからこうしていればよかったのだ。”
“……遺産問題を、自らがもっと早くに解決していたなら、子供たちはいがみ合う必要はなかったのだ。”
“それを、不機嫌を装うことで、彼らに全て任せきりにし、兄弟たちの関係を冷めたものにしてしまった。”
“そう。全ては自分の責任だったのだ。”
“今や、絡まった縄は解かれた。”
“それはまるで、金蔵の体を締め付ける、目に見えぬ縄のようでもあった。”
“それが今や解かれ、彼は久しく開放感を覚えるのだった…。”

 絡み合った物語を紡ぐ執筆者の葛藤。
 そして、それよりの解放。


“兄弟4人は前に歩み出て、新しい当主、蔵臼をみんなで支え、ますますの繁栄を金蔵の前で誓い合う。”
“彼らの顔は、不思議な若々しさに溢れていた。”
“当然だ。彼ら4人が、こんなにも自然な気持ちで結束したことなんて、………子供の頃以来なのだから。
“子供の頃の瑞々しい気持ちに戻り、彼ら兄弟は再び、結束するのだ。”

 物語の生まれた当初は、それぞれの物語を豊かにするために、協力して紡ぎ合って来た。
 その関係がやがて壊れかけ、そして今、修復されたのだ。


“ベアトは魔法と称して、色々な手品を見せてくれた。”
“真里亞はそれを魔法だと主張し、縁寿はそれを手品だと主張し、ますますに盛り上がった。”
“幼い二人があまりに盛り上がるので、大人たちも、自分が知る手品を披露しては、二人を大いに驚かせた。”
“やがて、互いが互いに、こんな手品知ってる? と見せ合うようになり、ハロウィンに相応しいマジックパーティーになった。”
“手品に限らず、クイズやなぞなぞ、様々な遊びが、彼らの子供時代の思い出を刺激する。”
“給仕をしている使用人たちも、その輪に引き摺り込まれ、ホールは今や、大賑わいだった。”
“幼い縁寿にとって、どの手品もクイズもなぞなぞも、知らないものばかり。”
“彼女の知的好奇心が刺激されて、わくわくが止まらなかった。”
“その上、美味しい食事にジュースが、よりどりみどりなのだからまるで夢の中だ。”
“縁寿はふわふわと、まるで雲の上を歩いているような気持だった……。”

 19人目が幼い頃にしていた遊びがこんな感じだったのだろう。


「……………ふむ。ならば我等も、この千秋楽祝いを楽しませてもらうとしよう。これほどの長きゲームにて皆、それぞれの役を見事、演じきってきたのだから。」

 駒たちは皆、見事に役を演じきったよな。
 今回の再読でホント驚いたもの。


“これで本当にいいのかと念を押されると、ちょっとだけ不安にある。”
“でも、そういう時は初心を貫徹した方がいい。”

 他人に言われて意見を翻して、それで間違っていたら、その他人のせいにするんじゃないのか。
 だったら、自分の意見を貫き、その結果玉砕した方が清々しいというもの。
 意見を翻すなら、全て自分の決断ですべきなのだろうな。


「ケチ臭いことを言うでない。2つのアーモンドが現れ、女王と姫が選び出されただけの話ではないか。」
「そういうことだ。2人が当りということで良いではないか。」

 出てきた真実は2つ。


「いいのよ、縁寿ちゃんの付き人になれたもの。さぁ、お姫様。あなたが叶えて欲しい願いはなぁに…? 考えてちょうだいな。」

 2つの真実は、主と駒。
 当主と顧問錬金術師。
 そんな関係。
 駒は主の願いを叶えるために生み出された。


「さ、……さっきまでの楽しいが、ずっと続いて欲しいのっ」
“少しニュアンスが変わってしまった気がする。それでも、それが私の偽らざる願いだった。”
「さっきまでのって。……あぁ、手品とかクイズとか?」
「うんっ。」
「じゃあこうしましょう。みんな聞いて。お姫様の命令よ。ついさっきまでみんなが盛り上がっていたように。手品やクイズなどで、縁寿ちゃんを楽しませてあげてちょうだい。」

“みんなが私を囲み、微笑みながら、どんな問題を出そうか思案している。”
“私と遊ぶために、私のことだけを考えてくれる。”
“それを独り占めできるだけで、お姫様になれた喜びははちきれんばかりだった。”

 駒たちに謎を朗読させる幼い主。
 これがやがて八城になる。





 クイズ大会(前半)
 金蔵のクイズ。

「ふっ……。忘れても良い。ただ一時、私に向けて微笑んでくれただけで、私には何よりもの冥土の土産になるのだ。これが、無償の愛の境地である。」

 金蔵が執筆者なら、子である兄弟たちは執筆者の生み出したそれぞれの物語。
 その兄弟の伴侶は、それらの物語を読んだ読者。
 なら孫は、その読者が読んだ物語から解釈した新しい物語。
 要は、読者の真実。

 孫は祖父の笑顔を思い出すことは難しい。
 基本、後世になればなるほど、真実は掛け離れていく。
 執筆者の思いを知るということは、それほどに難しい。
 特にうみねこでは。
 つまり、執筆者はそれには覚悟をしていたわけである。
 それよりも子々孫々、物語を生み出し、執筆者の生み出した世界を繁栄させてくれるのが嬉しいのだろう。
 どのような形で結実したのであろうとも、それは執筆者へ向けられた愛なのだろうから。





 秀吉と絵羽のクイズ。

「私は、何て罪を……。………悲しいのは私もあの子もまったく同じだった…! なのに私は自分の方が悲しいと決め付けて、……あの子の気持ちをまったく受け止めなくて……。………私は母失格なんだわ…。あの子の母になって、………あげられなかった………。」

 物語の系譜として読み解いてみる。
 絵羽は二番目の物語。
 縁寿は三番目の物語の子供にあたる物語。
 蔵臼、一番目の物語が当主を引き継いだのだから、これが真相である19人目とヤスの二人の物語。
 唯一生き残った二番目の物語は、ヤスの物語。
 なら死んだ三番めの物語は、19人目の物語。
 その子供の物語は、ベアトなるプレイヤーが生み出した物語。

 ゲームがヤスの物語の勝利に終わり、19人目の物語は日の目を見ずに死に、それを推理したプレイヤーも表向きは死んだことになった。
 残されたのは、ヤスの物語と、19人目の物語の子供の物語。
 そのヤスの物語が、19人目の子供の物語を育てようという話。


“絵羽は縁寿の新しい親として、最後の唯一の肉親として愛情を注ごうと努力したのだ。自身の悲しみを懸命に堪えて。”
“しかし縁寿はそれを受け容れなかった。唯一生還した絵羽を、自分の親を奪ったと罵ったのだ。”
“……6歳の幼子の傷心を理解し、絵羽はそれでも耐えた。歯を食いしばって、報われぬ愛情を縁寿に注いだのだ。”
“しかし、………絵羽だって、深く深く傷付いていた。”

 19人目の子供の物語にとって、ヤスの物語は、親である19人目の物語を殺し、そのプレイヤーも殺した存在。
 不倶戴天の敵。

 私も19人目だけを推理していた頃、その動機は復讐が主であると見ていた。
 でもヤスって19人目が生み出したわけで、それって愛なわけで。
 そうすると、見る目も変わっていくわけで。

 つまり、19人目の子供の物語は、ヤスの物語をどう解釈し接していくべきなのかという課題があるわけだ。
 そして、ヤスの物語も親であり、それを認めることで、19人目の子供の物語は、19人目とヤスの子供の物語となる。
 即ち、当主である19人目とヤスの二人の物語。
 それを受け継ぐ物語となるということだろう。


「あなたは縁寿に、譲治君に注いだのと同じ愛情を、与えようとしてくれたわ。」

 ヤスの物語の子である物語を育てるように、19人目の物語の子である物語にも同じだけの愛情を注ぎ育てようとしていた。


「…………良かったな、絵羽……。……お前のがんばりは、……ちゃんと、……認められとんのやで……。」

 そうだな。
 ヤスの物語もまた、私の紡ぐ物語の親と言える。
 ありがとう。





 郷田と熊沢のクイズ。

“残酷な運命は、……縁寿という雛に、ひとりぼっちの未来を強いる。”
“卵は温めなければ、孵らない。彼女という卵は、誰にも温められず、孵ることもなく…。”
「縁寿さまは冷え切った卵のまま、孤独な未来を迎える他ないのでしょうか…。」

 卵は宇宙の喩え。
 二人で生み出すもの。
 書き手が生みだした物語を、読み手が孵す。
 その読み手が現れない限り、物語は孵らない。
 だが軸足を物語に移せば、物語は読み手の世界の中で卵から自ら孵ろうとしていると見做すこともできる。
 読み手の心の世界を冒険し、幾多の試練を潜り抜け、立派に成長するものなのかもしれない。


「……卵の殻は、いつだって内側から破られるもの。……冷え切った殻は、とてもとても硬いでしょうが、それでも破れぬものではありません。」
「縁寿さまに、その強さがあるでようか。」
「それを、得ることが出来るか否か。それがこの最後のゲームと聞いています。」
「私たちはもっと、メッセージを送るべきではないでしょうか。……せめて温められぬ卵なら、殻が割りやすいよう、少しでも外から叩くとか。」
「自らの殻を割る力もない雛を、無理に卵の外へ出せば、寒風に耐えることは出来ないでしょうね。縁寿 さまは、その力とたくましさを、自ら得なければならないのです。」

 物語が殻を破る。
 誰の力も借りずに。
 でなければ、たくましい物語にはならない。
 真実のたくましさとは、それを信じる力による。
 自力で謎を解くからこそ、達成感を得られ、それを掴む力を得られるのだ。


「……ですから、その力とたくましさを、私たちは何とか得ることは出来ないんでしょうか。」
「言葉とは、与えられるものでなく、受け止めるものです。……私たちが何を与えようとも、縁寿さまが受け止めなければ、何の意味もない。」
「…………そうですね。私たちが何を伝えても、縁寿さまが耳を貸さなければ、意味がない。」
「ほほほほ……。見守るしかないんですよ、私たちには。馬を水場に連れて行くことは出来ても、飲ませることは出来ないのですから。」
「縁寿さまが、より良い未来を自ら選択してくれることを、……祈るしかありませんな。」

 言葉は、受け取り方しだい。
 一つの言葉に、二重三重の意味を持たせているなら尚のこと。
 何を喰らい、どう咀嚼し、自らの糧とするのか。
 選ぶのは物語自身。
 だから、同じ言葉を受け取っても、別の物語に成長することもありえるのだ。


「縁寿さまが、諦めと悲しみを紛らわせるためだけの怒りに身を任せず。……本当に縁寿さまが求めておられる、たったひとつの願いに純粋であってさえくれれば。彼女は絶対に、自分の一番の願いを叶えることが出来るでしょう。」
「皮肉なものです。……その一番の願いを、自ら一番最初に、否定されているのですから。」

 19人目の物語の子である物語にとって、一番の願いは真相に至ること。
 その最初にしたのは、魔女を否定すること。
 黄金の魔女であるヤスの物語を否定することで、19人目の物語の子である物語は生まれた。
 だが真相に至るためには、ヤスの物語を認めなくてはならない。
 その上で、一つ上のステージに辿り着かなくてはならない。


「笑う門に福来る。泣きっ面に蜂。信ずる者は救われる。……人の思いが、その強さが、自分の未来を自ら生み出すのです。」
「せめて、その言葉だけでも掛けてあげたいものですが……。」
「戦人さまも厳しい。……そのような言葉さえも許さず、縁寿さまが自分の力だけで気付いてくれることを願っている。」
「………私たちには、見守ることしか出来ないのですね。」
「だから、せめて祈りましょう。彼女が、最も望む未来を、その手に掴めるように。」

 うん、最も望む未来を掴めたと思う。





 蔵臼と夏妃のクイズ。

「私が、あなたを拒絶してしまったから、……あなたはいくつもの世界で、辛い目に…。……それは全て、私の責任です…。」

 母である19人目と、娘であるヤスとして読み解く。
 19人目がヤスを殺して島を出てしまったから、その真実を塗り替えるために、ヤスは猫箱の中でいくつもの世界で酷い目にあった。
 それは、19人目の責任である。


「……だからといって、……あなたを崖より突き落としても良いという理由にはなりません。」
「そうであるな。それは、そなたが生涯、背負うべき十字架であろう。」
「……はい。その覚悟です…。」
「ならば、そなたを苛む役は、その十字架だ。妾ではない。」
「私を、……恨まないというのですか…。」
「そう、しょげた顔をするなって。……いやいや、むしろだなぁ。お前がそのしょげた顔をする限り、妾はそなたを咎めようとは思わぬ。そなたがその十字架を背負い続ける限り。妾はそなたを恨もうとは思わぬ。」
「この私を、……恨まないというのですか……。」
「ホントは恨んでたぜェ? チョオ恨んでたっ。お前の抱き枕を吊るしてサンドバッグにするくらい恨んださァ!」
「でも、お前を見ている内に、その気もなくなった。……お前は悔やみ、後悔している。そしてその気持ちをきっと、お前は生涯忘れない。」
「忘れるものですか……。……私は、人殺しなのですから……。」
「重い十字架、背負っちまったなァ。今じゃあんたに同情してる。ホントだぜ? だって、全部、金蔵が悪いんじゃないか。」

「もはや、恨みはない。それでも、そなたの十字架は軽くならぬか。」
「はい。……あなたにどうすれば償えるか、未だにわからないのですから。」
「んじゃ、こうしよう。両腕を広げよ。」
「え、……え? こ、……こうですか……?」
“おずおずと夏妃が両手を広げると、そこへベアトが飛び込み、夏妃をぎゅっと、抱き締める。”
「……あ、あの、……こ、これは………。」
「二度と言わねぇから、一度くらい言わせろよ。……妾はよ、自分の母親に会ったことさえねぇんだからよ。」
“ベアトは夏妃を抱きしめながら、小さな声で言う。”
“もう二度と、絶対に口にしないその言葉を、夏妃に言う…。”
「妾のことで悔やんでくれてありがとよ。……でもよ、妾はもう恨んでねぇからな? それだけは信じてくれよ。………カアサン。」
「……べ、………ベアトリーチェ……………。」

 良かったなぁ。母と呼んでもらえて。
 うんうん。
 万感の思いだ。





 クイズ大会(後半)。
 紗音と嘉音のクイズ。

「………これで、長かったゲームも、おしまいなんだね…。」
「清々するよ。……ようやく僕たちは、誰の玩具にもならなくて済む。……静かに忘れ去られて、埃に埋もれて消え去りたいね。」

 執筆者が生み出した物語たち。
 読む者がいなければ、忘れられて埃に埋もれて消え去るのみ。


「違うよ。私たちは、埃に埋もれて消えるんじゃない。」
「…………………。」
「閉じられる猫箱の世界で、誰にも知られることのない、私たちの未来を続けていくんだよ。」
「………そうだね。……ごめん。それは僕たちにも知ることの出来ない世界だから、……忘れてたよ。」
「私たちは、猫箱の世界で、どんな未来を紡がれるんだろうね。」
「それがわからないから、猫箱って言うんじゃないか。」
「…………そうだね。」

 読み手がそれぞれの物語の未来を紡ぐ。
 その物語は、元の物語とは別物だけど同一の物語。


「私が譲治さまとの婚約を破棄して、島を出て行っていなくなる未来だって、ありえるんだよ。その世界では、嘉音くんはもう、私のことなんか何も気兼ねしなくていい。……お嬢様と、青春を謳歌することが出来るんだよ。」

 これはヤスの真実が消え、19人目の真実のみが残る世界。


「……姉さんが譲治さまとの婚約を諦められるなら、そういう世界もあるかもね。」

 最後の魔法と手品の選択を考えれば、19人目とヤスの真実が共にある世界と、ヤスが消えて19人目だけが残る世界の対立のことかな。


「だから。……私が譲治さまと結ばれる世界と。あなたがお嬢様と結ばれる世界が、同時に存在できるのが、猫箱の中じゃない。」
「…………どんな矛盾した夢も、全てが同時に存在できる世界。」
「それが、私たちという駒がしまわれる世界なの。……だから、寂しくなんかないし、悲しくもない。……今ここにいる私は、譲治さまに指輪をもらうところまでしか、観測できないけれど。」
“猫箱の中の、私には観測できない世界にいる私は、その後の、幸せな未来をきっと紡いでいるんだよ…。”
“猫箱は、どんな駒も玩具も夢もしまえる、不思議な箱なの。”
“それは、私たちを閉じ込める檻なんかじゃない。”
“むしろ、猫箱の中こそが、全てから解放される、無限の世界なんだよ……。”
「全てから解放され、全てが同時に叶う世界。……でも、その世界の僕は、今ここにいる僕じゃない。……それが何だか、悔しくて。」

 そう読む読者がいれば、その物語が猫箱の中で紡がれる。
 たとえその読者がいなくとも、その可能性は残すことができる。
 そしていつか誰かが読んでくれるかもしれない。
 だけどそれは、その読者が紡ぐ物語であり、厳密には執筆者の紡いだ物語ではない。
 だからそれは自分のことではないし、自分が知ることはできない。
 しかし、夢を見ることはできる。
 猫箱の中にはたくさんの夢をしまえるのだ。


「決闘。」
「…………………いいの?」
「私たちは、もっと早くに決着をつけるべきだった。なのに、こうしてゲームが終わる最後の瞬間まで、それを先送りにしてる。」
「……いいよ。……どうせ終わるゲームさ。最後の最後くらい。………僕らは自分たちの決着を、しっかりとこの手でつけるべきなんだ。」
「そうすれば、猫箱にしまう前に、私たちは未来を見ることが出来るもんね。」

 これは最後の手品と魔法の選択のこと。





 楼座と真里亞のクイズ。

「うりゅー。意地悪な問題で虐めすぎだよ……。」
「だって、縁寿といっぱい遊びたかったんだもん。簡単な問題だったら、すぐ解かれちゃうよ?」
「真里亞は縁寿のこと、大好きだもんね。」
「嫌いだよ? さくたろのこと、ぬいぐるみだって馬鹿にしたもん。」
“真里亞はそう言って口を尖らせるが、その表情は決して言う通りではなかった。”

 ベアトのゲームのこと。
 難しい謎にしたのは、いっぱい遊ぶため。
 遊んでくれたプレイヤーたちが大好きだから。


「正しい結末に辿り着けないとしても。……せめて今夜を君が楽しんでくれることを。心より祈っているよ……。」
“楽しんでね、縁寿。”
“さようなら。”
“君との日々は、長かったような、短かったような。”
“それでも私には、永遠の思い出だよ………。”

 正しい結末は、執筆者本人の物語にまで至ることだろう。
 プレイヤーと魔女のゲームで遊んだ日々。
 それが永遠の思い出であると。

 私にとっても、忘れられない永遠の思い出だな。
 こんなにも考えて物語を読んだことなどない。





 留弗夫と霧江のクイズ。

「いい、縁寿。人生には、これからもたくさんの問題が訪れるわ。……今は絵羽伯母さんが助けてくれるから、頼ってもいい。でもね、人生の問題のほとんどは、あなた一人で解かなくちゃならないの。その時に、それまで助けてくれた人の助言や恩を、必ず思い出すようにしてね。」

 縁寿を、読み手が孵した物語と解釈すれば。
 その物語が生きていく上で現れる問題。
 例えば、その後のベルンのゲームとか。
 それを一人でクリアしていなかくてはならない。
 その時に、それまで助けてくれた人の助言や恩を、思い出すように。
 つまり、書き手の物語たちのことだな。
 書き手と読み手の二人で生み出した物語なわけだし。
 後は参考にさせて頂いた他のプレイヤーの皆さんにも。





 譲治と朱志香のクイズ。

 これについては、前にやったしいいよな。
 自分の手の中にある真実。
 それに外の人たちが干渉してくるが、それを決めるのは自分であり、それを守るのも自分である。
 この後の山羊たちの侵攻は、その他者の干渉にも重ね合わされているだろう。





 お開き。

「縁寿ちゃん。お元気で。……幸せは見つけるものでなく、作るものです。思い出も、実は同じなんですよ。」

「縁寿……。忘れるんじゃないぜ。自分も、幸せも、運命も、作るのは自分なんだ。自分だけが決められる。それは誰かに与えられるものでも、そして誰かに隠されて探すものでもない。……それを、忘れるんじゃないぜ。」
「きっと、伝わったと信じます。」
「……だといいけど。」
「僕とお嬢様の物語は、絶対に縁寿さまにそれを伝えています。」

 つまり、自らにとっての真実も物語も、読み手自身が作り、決めるもの。
 あと、嘉音と朱志香の物語とは、19人目とヤスの物語のこと。
 うん、実に伝わった。


「……幼さゆえに、やさしき思い出を記憶に留められなかったそなたを、誰も責めはせぬ。しかしそれでも、思い出してやれ。……忘れることが罪ではない。……思い出さぬことが、罪なのだ。」

 物語は、思い出さなくなったら死ぬ。
 思い出す限り、何らかの形で生きるのだ。


「……悲しい運命により、二人が傷つけ合う未来があったことを、俺たちは知ってる。……それは縁寿にとっても悲しいことだし、……絵羽伯母さんにとっても悲しいことだった。………お前に心を開けと頼むのも酷な話だった。そして、絵羽伯母さんに、それでもなお縁寿のために自分の悲しみに堪えて欲しいと頼むのも酷な話だった。」
「……そなたも、絵羽も。どちらも悪くない。」
「だからといって、……お前に何かを許せと、俺たちには頼めた義理もない。……だからせめて、許せとは言わない。………ただ、わかってやってくれ。時間が掛かってもいい、どれだけ未来でもいい。……絵羽伯母さんのことを、わかってやってくれ。そしてたまには俺たちのことを、………思い出してくれ。」

「………伯母さんを許してくれなくてもいい。……でも、伯母さんは、あなたを憎んでなんかいないの。……せめてそれだけは、わかってね……。」

 19人目の真実とヤスの真実。
 それは一見否定し合っているように見える。
 しかし、そんなことはないのだ。
 恋の決闘がなければ、仲良しなのである。
 だから、19人目の子である物語のことも憎んでいない。
 むしろ、執筆者の真実に至らせようと協力してくれている。





 人間と魔女の宴。

「ベルンが連れてきて駒にしたのよ。……用済みにされて潰されかけたところを、私が預かったの。後味が悪いのは嫌だって、アウアウに言われてね。」

 あの時のウィルと理御は、奇跡を目指す19人目とヤスに重ね合わされている。
 フェザリーヌがそれを潰すことはできないだろう。


「開けて…! 開けてー!!」
“私は窓をばんばんと叩くのだが、それは誰の耳にも届かない。”
“……よほど窓が厚いのか、中が賑やかなのか。……あるいは、こちらが闇夜だから、私の姿も闇に溶け込んでしまっていて見えないのか。”
“とにかく、いくら叩いても、誰も気付いてくれる様子はなかった。”
“ここまで来ると、寂しいという気持ちより、どうして私に気付いてくれないのか、どうして私だけをひとりぼっちにして、あんな部屋に閉じ込めていたのかと、怒りの感情の方が強くなってくる。”

“猫が窓を叩くことに諦めたと悟ると、猫は再び鈴を鳴らして先導をする。”

 縁寿は皆がいる世界へ行きたい19人目に、猫はそれを先導するヤスに重ね合わされている。


「そういうこった。ルールの外での働き方を覚えて、ようやく一人前なんだぜ? ルールに縛られてる内は、まだまだ半人前だな。」

 ルールがこうだから、こうじゃなければならない。
 ルールがこうならば、こうしたっていいんじゃないか。
 白と黒に分ける時、絶対に白の中に留まろうとすか、グレーゾーンに踏み出すかだな。
 この違いだろう。
 なんだろうとグレーゾーンで潜り抜ければいい、というのではない。
 何を潜り抜けさせなければならないのか、だ。

 これは、ベルンのゲームのヒントかな。
 それだけじゃなく、ベアトのゲーム全体になのだろうけど。


“戦人とベアトの物語が終わり、全てが猫箱にしまわれる前に。”
“ベルンカステルは初めて観客席から舞台に上がった。”
“舞台の上の明るさを嫌い、舞台袖に隠れていた魔女が、……舞台中央へ歩み出る勇気を見せたのだ。”

「………嬉しいわ。やっと私たちは戦えるのね。」
「いずれ、お前とは戦うことになると予感していた。」
「いつから?」
「………………………。……わからない。ひょっとしたら、お前の名を知るよりも、もっと前からかもしれない。」
“戦人は、思い出せぬ無意識の世界のどこかで、彼女に語りかけられたことがあったのを、おぼろげに覚えている。”
“当時、それは、ベアトとの戦いを助言するもののように聞こえた。”
“しかし、今にして思うと違う。”
“……眩しい日向に出ることの出来ぬ、臆病な猫の、舞台袖からの参戦だったのかもしれない。”
“だから、いつかやがて、ゲーム盤の上で何かの形で対峙する日が来ることを、おぼろげに予感していた……。

 言うなればベルンは、ベアトと戦人のゲームの一層上でのゲームのプレイヤー。
 それが一層下に降りてきてゲームを行う。
 あるいは、プレイヤーの方が一層昇ってか。
 とは言え、やるゲームの規模はベアトと戦人のゲームと同じ。
 どちらにせよ、読み手であるプレイヤーと、書き手側のプレイヤーの直接対決。

 我々プレイヤーはゲームの対戦席に座る“誰か”を想定してきた。
 その“誰か”はつまり執筆者なわけだけど、ベルンはその執筆者の一角。
 隠れていたと言えば、ずっと隠れていた。


「……朗読の巫女は、自分の口を通して、物語を脚色することも歪めることも出来る。……たとえ私のゲームに小細工がなくとも、朗読の術で、いくらでもそれをすることが出来る。」
「そうであるな。……それもまた、ゲームマスターの権利の一つだ。」
「あんたたちとしたい決闘は、シンプルでありたいの。……だから、朗読者はいらない。あなたたちが自らの目と耳で、物語を読みなさい。」

 つまり、今回の朗読者は読み手自身である。
 と言えるかもしれない。
 つまり、読み手が自分の真実を紡ぎ、物語として朗読できるのかが問われている。





 ベルンの出題。


“……これは、私とあなたの、本当のゲーム。”
“紙と筆記用具を用意することをお奨めするわ。”
“私と、本当に戦う気があるのならね。”
“もしどうしても行き詰まるなら、戦人とベアトの推理に耳を傾けるのもいいかもね。”
“それが、あなたがどうしても困った時の、“ヒント”。”
“でも、私はあなたと一騎打ちが楽しみたいの。”
“あなたも、私との一騎打ちを楽しんでくれるなら。”
“ヒントなんて頼らずに、あなたの力だけで私に打ち勝ってみて。”
“さぁ、……楽しみましょう?”
“あなたのためだけに、生み出した私のゲームを……。”

 相手は戦人とベアトではないことがわかる。
 つまり、“あなた”とは読み手であるプレイヤーのこと。
 その“あなた”のためだけに生み出したゲーム。
 EP7の最後を鑑みれば、奇跡を起こす資格があるかどうかを問われるものだろう。

 これまでのゲームでは、互いの真実を主張し合うものだった。
 それを繰り返して、互いの真実を、物語を成長させていくものだった。
 しかし今回のゲームは、ただひとつの解だけだという。
 それはつまり、“誰かが隠した真実を探す”ということではないか。
 それは“半人前”の仕事だ。
 真実とは“作り出すもの”。
 それができてやっと“一人前”の魔女だろうさ。

 ゲームマスターが自身の主張を信じさせようとした時、朗々と主張するより、それを隠して相手に見つけさせた方が信じさせやすい。
 だってその“主張”は、ゲームマスターのものではなく、相手プレイヤーの“主張”になるのだから。
 それはつまり、その“真実”は押し付けられたものということ。
 それをただ受け取って、そのまま退場するとか、子供のおつかいか。

 ここまで物語を再読してきたら、このゲームで求められているのは、もはや明白だろう。
 二人で物語を紡ぎ合うことだ。
 自分の紡いできた物語を生き延びさせ、真実を並び立たせるのだ。
 それがこのゲームの主旨なのだから。

 私は19人目と金蔵を犯人とした物語を作るために、紫発言で誰も嘘を吐いていない事件を再構築し、行間の出来事を想像した。
 なぜ食堂に犠牲者が集まっていたのか、そこに蔵臼夫妻がいないのはどうしてか。
 鍵を壊す指示を出したのは誰か。
 ガムテープの封印の指示を出したのは誰か。
 紗音と嘉音がゲストハウスから出た理由は。
 南條が玄関に向かった理由は。
 そんな感じで、朗読するのは読み手自身だ。





 遅れてきた来訪者。

“同じ世界にいるように見えて、………私と彼らは異なる世界にいるのだ。”
“例えるならテレビ。いや、亡霊…?”
“私にはありありと見えているが、……彼らにとって私は、いないのだ。”
“……だから、ほら。”
“私がお兄ちゃんたちの目の前に立っても、……彼らの目に、私は映っていない。”

 並行世界の向こう側を見た時、そんな感じなのだろう。
 そちらの世界では、自分はいないもの、即ち亡霊である。
 19人目にとっての、ヤスのいる虚偽の世界。
 ヤスにとっての、19人目がいる真実の世界。
 見えてしまうがゆえに、疎外感が募る。


『………留弗夫、霧江、戦人が犯人……。……留弗夫と霧江が死んだフリで戦人が嘘の検死……。そして、親の片方が第二の晩までの殺人を実行して夏妃の部屋のベッドの下に隠れる。……紗音は戦人が殺し、その後のゲストハウスでの殺人を幇助。……ゲストハウスでの殺人の実行犯は、親のもう片方……。これが、……真相………。』
「反論。……留弗夫一家犯人説以外でも、ロジックの構築が可能です。」

 そう、縁寿がベルンのゲームの解に対抗するなら、別のロジックを構築すればいい。
 でなければゲームにもならない。


「……留弗夫一家犯人説しか思いつかない、石ころ頭どもはどうぞお引き取りをッ! あるいは、私を論破できるおつもりでいる皆さんは、どうか歓迎を! 無論、私も歓迎して差し上げます!!」

 留弗夫一家で納得した読者は、もうゲームから退場した。
 退場していないのは、異なるロジックを構築した人か、異なるロジックが構築できないことを検証している人だけ。
 その人たちのとっては、これはまだゲームなのだ。


「…………真実は、いつだって残酷よ。時にそれは、自分の希望を刈り取りさえする。………多くの場合、ニンゲンは真実を得ることに対する対価に気付いていない。……私はあなたに、その覚悟があるのかどうか、問い掛けただけ。」
“私は、矛盾した2つの願いのどちらかを、選ばなければならない。”
“真実を得て、……家族が帰ってくるかもしれないという、都合の良い希望を捨て去るか。”
“それとも真実を諦め、……実際には永遠に帰って来ない家族の帰りを待ち、…………兄に与えてもらった、子供騙しの幻想で、凍える自分を騙し続けるのか。”

 第三の選択肢は、両方とも諦めずに叶えること。
 真実を知ったことで刈り取られた希望は、自分の手で蘇らせるのだ。
 不屈の精神で、絶対の意思で。


「……主に説明をさせようというのか?」
「たまには、その程度の舞台参加もしなさいよ。ボケ防止にいいわよ。」
「やれやれ……。縁寿の朗読の時に、久々の舞台を堪能したので、もう数百年は充分だと思っていたのだがな。」

 黒幕で、ある意味真主人公なのに、舞台に上がらな過ぎ。


「……仲良しこよしで煙に巻いて、……私を真実から遠ざけようとしている。………お兄ちゃんは、卑怯だわ…。」
「確かに、そなたから見れば卑怯とも呼べよう。しかし、思い出すが良い。そなたはこのゲームのプレイヤーであり、戦人がゲームマスターだというなら、……それは何を意味するというのか。」
「かつて戦人はプレイヤーで、ベアトはゲームマスターだったわ。そして二人はそれぞれの真実のために戦ったわ。………そして今度は?」
「……私がプレイヤーで、……ゲームマスターはお兄ちゃんだわ。」

 ゲームマスターの主張を、鵜呑みにする。
 ゲームマスターの主張を、認めない。
 これは初歩の選択肢。
 ゲームマスターの主張を、並び立つ真実だと認める。
 一挙両得の欲張りセットが強欲で良いんじゃないかな。


“そしてようやく、……このゲームにおいて、自分が何を為すべきなのかを理解する。”
“私はずっと受け身だった。”
“お兄ちゃんが真実を教えてくれるに違いないから、それを信じればいいなんて、……甘えてた…。”

 真実とは与えられるものではなく、能動的に生み出すもの。


「あるいは、すでにそなたには一度、目にする機会が与えられているのかも知れぬ。……詐欺師が一番最初に見せる契約書に、極小の字にて、すでに悪辣なる罠が記してあるかのように。」
「……戦人がゲームマスターとして、ミステリーの作法とやらに則るなら。………“手掛かりは必ず提示され”、“戦人が負ける選択肢も、必ず提示されている”。」

 EP1で事件の最後に真犯人は姿を現わし、メッセージボトルに名前も記した。
 ゲームとしてはフェア。


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  1. 2019/07/27(土) 21:58:14|
  2. うみねこ咲へ向けて
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続・EP7を再読

 新しき生活。

 ヤスの話は、どこに軸足を置くかで、全然別の話になる。
 EP5での夏妃とベアトのお茶会のように。
 あれは、現実では夏妃ひとりっきりのお茶会だったわけだが。
 “夏妃が”ベアトとのお茶会を妄想していたのか。
 それとも“ベアトが”夏妃とお茶会をしているという妄想をしていたのか。
 前者なら、それは夏妃の妄想。
 後者から、夏妃ひとりっきりのお茶会を見て、そこにベアトとの会話を妄想した“誰か”がいたことになる。
 つまり、観測者は誰か、という問題。

 ヤスについても同じ。
 ヤスが何を見て何を想像したのか、ではない。
 “誰が”ヤスを見ているのか、だ。


「………聞け。我こそは我にして我等なり。我が語るは我らの物語。されど此処は聞く者なき硝子とコルクに封ぜられし小さな世界。それは誰の目にも触れることなく、我が物語の全てを封じて、我が心の海を揺蕩いて海の藻屑と消えていく……。」

 自分は自分であり、同時に、異なる運命を辿った別の自分でもある。
 自分が語るのは、異なる運命を辿った自分たちの物語。
 しかし、聞く者も見る者も誰もいない。
 その物語はただ自分の心の中に生まれては消えていく。


「あぁ、ここは何処なの?! そして私は誰なの?!」
「ならば聞こう! どこがいい? 誰がいい?」
「私をやさしく包んでくれる場所ならば何処だっていいわ! やさしくしてくれるなら、自分が誰だっていいわ!」
「そうさ、僕たちには!」
「私たちには!」
「「何処で誰かなんて、些細なことなのだから!!」」

 異なる運命を辿る別の自分を生み出す時、それだけが決まっていて、どこの誰になるかはまだ決まっていない。
 想像の数だけ生み出せる。
 だから、何処で誰かなんて、些細なこと。

 テーブルトークRPGで例えると分かり易いかな。
 プレイヤー(PL)が居て、自分のプレイヤー・キャラクター(PC)を作り、その駒をゲーム盤に置いて、ゲームスタート。
 それの、ゲームをすることは決まっているけれど、まだPCが決まっていない時点。

 ついでに言うと、ゲームマスター(GM)はPLが兼任。
 ゲーム盤は、現実の六軒島とリンクした並行世界の六軒島。


「そう。我等にとってそれは、とてもとても些細なこと。少なくとも、その日を迎えるまでは。なぜに我等は新しき運命に投ぜられねばならぬのか? それは突然にして唐突なる運命の宣告。」
「それは僕が望んだ運命じゃない。」
「でも躍らせたわ、自分の胸を…!」
「新しい運命は僕を何処へ誘うのか?!」
「何処へだって構わないわ!」
「「其処が、僕たちに、私たちにとって、やさしい場所であるならば…!!」」

 駒は主が決めた運命に投ぜられる。
 駒が辿る運命や如何に。
 新しい物語が始まる。


「親を持たぬ悲しき子供たちが集いし仮の住処にもたらされるは、神の救いの報せか、新しき運命にて弄ぶ悪魔のゲームへの誘いなのか。我等にはそれを知る由もなし。」
「されど我等は信じたい。それが、神の救いが差し伸べられたという、福音の報せであると、信じたい。」
「でも、どうしてそれが私に? 私には信仰も何もない!」
「ならこれは福音じゃない、悪魔の誘いさ!」
「されど我等、運命に逆らえる由もなし。あぁ、我は我にして我等なり。願わくば、新しき運命が我等を祝福せんことを。時は西暦1976年4月。春を語るにはあまりに寒き頃のこと。新しき異郷は何ら変わることなく、朽ちた空気と隙間風で我等を苛むのである……。」

 魔女のゲーム盤に新しい駒が置かれる。
 崖から落とされた後、福音の家で育てられ、使用人として六軒島へやって来たというイフの自分という駒。
 その駒は現実に存在しないのだけど、魔女はそれを主張して平行世界を生み出して遊ぶ。


「大丈夫よ。私も一緒だから。二人でがんばろ。ね。」
“紗音はそう言って、そっと微笑んでくれた…。”

 平行世界でヤスがいる立ち位置は、現実では紗音がいる立ち位置。
 ヤスは現実の紗音を真似て使用人の仕事を学んでいる。
 だから並行世界の紗音は、ヤスが目指すべき使用人の姿となっている。
 そして、ヤスの分、平行世界の人数は現実より一人多い。

 現実の紗音がヤスの依り代だから、現実の紗音の行動がヤスに反映される。
 それがゲームのルールの一つだろう。


「くすくす、面白いじゃない。使用人なのに、実は当主の血を引く隠し子なんて……。まるで、童話のようにロマンチックな話よ?」

 物語は面白い方が魅力的。
 物語の主人公の設定としては、その方がロマンチックである。
 だからそれを採用した。


「かくして、この奇妙な物語は1976年より、ゆっくりと幕を開けるのである。あぁ、我こそは我にして我等なり。なぜに運命はかくにも、我等を捨て置いて自由気まま身勝手に進むのか……。」

 観測し、それを別解釈し、平行世界という物語を生み出している。
 つまり受動的。
 運命は人間が自分の意思で切り開くもの。
 つまり能動的。
 他の人間たちによって運命は作られ、それを観測しているだけの人間は捨て置かれどんどん進んでいくのだ。

 そして、観測者は自分の好きなように解釈して、ヤスの物語を綴る。
 その物語の中では、その解釈に沿って、各人の設定も変更されている。
 例えば源治や熊沢が、ヤスの血筋が云々~で見守っている云々~という設定とか。
 現実ではヤスは存在しないのだから、その設定も現実には存在しない。





 初めての友人。

「思春期の想像力たくましき少年少女たちにとって、怪談は恐ろしいながらも魅力的なおとぎ話であった。一つの物語を共有し共感することで連帯感が生まれる。すると共感が義務となり、それを受け容れることが、共同体に加わる通過儀礼のようになる。ずっと昔から、それは繰り返され、受け継がれてきたのだ。」

 世間におけるヤスの物語も同様のプロセスで成り立っている。
 ヤスの物語を育んでいるのは読者たち。
 その物語を共有し共感することで連帯感が生まれ、やがてそれが義務となり、それを受け容れることが共同体に加わる通過儀礼のようになる。

 今のうみねこ界隈でヤス以外の物語を語ることを、許される雰囲気はどれほどあるのだろうか。
 私の自説も、公式掲示板の皆集の中でずっとやってきたから、その中で許容されていたのであって、その外では受け入れられるのかと言われれば、疑問なんだよな。
 色々な意見が入り交じって存在していた当時の雰囲気を知る古参ほど、許容できる気がする。
 でも、一つしかない時しか知らない新参ほど、許容できないんじゃないかなぁ、と思ったり。
 まぁあれだ。
 自分も一つの物語を強要されたのだから、次の新人にもそれを強要する。
 なんて悪しき伝統が作られていくのかもしれないな。
 そして、それを全部伝統のせいにするんだよ。


「誰にも姿を見られず、そして声も聞いてもらえない悲しき魔女。……ニンゲンの気を引きたくて、いつもこんな悪戯を…?」
「妾の貧弱なる魔力を尽くし、ニンゲンどもの隙に介入するが、何をしてもヤツらは魔法とは思わぬ。……ほんのちょっとした勘違いと決めつけ、妾の存在を、ケーキの蝋燭でも吹き消すかのように簡単に、消し去ってしまう。」
「なら、あなたは私に救われました。私はあなたの存在を理解し、こうして、捕らえたのですから。」
「……救うだァ? くっくくくくくく! 妾にとってそなたとの出会いなど、新しい暇潰し以上でも以下でもないわ。」

 これは、ヤスの物語を読んでいるだけでは退屈になったのだろうな。
 だから物語に介入したくなったのだろう。
 現実で、19人目が紗音の物を隠した。
 それに対して紗音は、それを魔女の仕業であると解釈する。
 すると、現実を反映して、ヤスの物語の中でも、ヤスの物が隠される。
 そして、ヤスも魔女の仕業であると解釈する。

 そんな手順を踏んで、物語の中のヤスに自分を魔女だと認めさせた。
 そうすることで、自分を“魔女”として物語に登場できるようにした。


「そなたを、妾は気に入ったぞ。……妾を捕らえた、とな? くっくっくっく! それは同じであるわ。妾がそなたを、捕らえたのと同じことであるぞ。」

 うん、どちらに軸足を取るかの違いでしかない。


「その通り。そなたが妾を認めたお陰で、妾はそなたとの縁を得た。……日々に退屈していた妾にとって、そなた如き幼子であっても、話し相手が生まれるのは良いことだ。」

 誰かと縁を結び、誰かと対話する。
 それは19人目にとって確かな救いであったことだろう。





 虜になる日々。

“熊沢さんは流しの下の、包丁入れに包丁を戻す。”
“ただそれだけのことなのに、大冒険をして迷子になった包丁が、やっと家に帰りついたような小さな感動を覚えた。”
“彼の納まるべきスペースに、ストンとしまわれると、……包丁一家は無事に勢揃いして一家団欒が始まった…。”
“後は家族仲良く水入らず。熊沢さんは、そっと戸を閉める…。”

 迷子になった子が大冒険の果てに家に帰り、家族が揃って一家団欒。
 それを助けるのが読者の役割。


「熊沢さんに習った、蜘蛛の糸のおまじないです。どうやら、しっかり効き目はあったようですね。」
「うむ。悔しいが効き目はあるぞ。とても触れたいとは思えぬ。そなたも、剃刀の刃に指を当て、横に滑らせたくはあるまい?」

 魔女は蜘蛛の糸に触れられない。
 新たに追加されたルール。
 対戦者が成長することで、ゲームの難易度は上がる。


「とにかく。今回は私の勝ちですね。さ、もう仕事に行かなくちゃ。」
「良かろうとも、我が友よ。今回は勝ちを許そうぞ。」
「されど妾は諦めが悪い。その負けを取り返すべく、以降さらにますますにッ、そなたのミスを探そうと窺い続けるであろうぞ。心せよ。そそっかしいそなたが置き忘れる小道具など、いくらでもある。それら全てに凧糸を縛るわけにも行くまい。くっくくくく…!」

「弱点は、克服することで強みとなり、自信となって人をたくましくしてくれるのです。……あの子のそんな、日々の小さな成長が、それはもう、実の孫のように可愛らしかったですとも。」

「我は誇らしく頷き、満面の笑みを浮かべるのだ。この日、この時、この瞬間の誇らしげな体験は、我rの幼少の記憶に、忘れがたい1ページを刻むこととなる……。」

 そうして成長し合うのもいいものだ。
 全部一人遊びなんだけど。
 でもそれは紛れもない成長。
 日々なにかを達成していく楽しさ。
 それが灰色の世界を彩っていく。





 新しき日々。

「くっくくくくく。推理小説とやらは、やはり面白い。これは実に愉快な思考のゲームであるぞ。」
「そうです。これは思考のゲーム。作品と戦い、推理を得て、同じ本を読んだ仲間たちと議論で戦う。」
「いいや、魔女と人間の戦いでもあるぞ。妾の密室殺人という名の魔法を許すか、否定するかの、ミステリーという名のチェスである!」
「…………………。……これは私の読書ではなく、あなたとのゲームだと?」

“小説の中の、単なるジャンルに過ぎないと思っていた、ミステリー。”
“それが、紙一重で、魔女と人間が、幻想と真実を争うゲームに様変わりするなんて。”
“私は、この新しい“ゲーム”に、瞬く間に虜になっていく。”

 19人目とヤスの新しいゲーム。


「自分も同じようなことが何度もあったけど、誰に相談しても信じてくれなかったって…! 第一、先輩とかはヤスのこと馬鹿にしてたけど、ヤスは言われるほどドジでも馬鹿でもなかった。」
「年下に仕切られるのはムカつくから、いつも反抗してたけど、仕事は割とそつなくこなしてた。そんなヤスが、そこまで馬鹿にされるほど、物をなくすなんてことあるのかなぁって不思議に思ってた…!」
「だから確信したの。“い”る! このお屋敷には、人間とは異なる、何かおかしなものが“い”るって!」

 うん、いるな。
 物を隠して悪戯をするヤツが。


「物がね、……消えたらそれは、魔女がすぐ近くにいて私たちを見てるって合図なんだよ…。悪戯だとか、魔女なんかいるわけないとか! そんなことを言ったら、もっともっと祟られてしまう…!! 私もヤスもそう! 鍵が消えたら、……それは魔女が現れた徴…!!」

 だいたいベッドの下にいるんじゃないかな。
 物を隠すのが得意とか、人ってなんでも熟練するんだなぁ。


「それにしても、我が友が親切に忠告しているというのに、耳を貸さぬとは不愉快なヤツらよ。我が友を蔑む言動の数々、妾に対するものと受け取らせてもらおうぞ…!」

 異なる運命を辿った自分。
 それは成りたい自分。
 だからそれは、“自分たち”に対するものとして受け取る。


「我が魔法を見せてやるッ!! 愚かなる鐘音とやら! 我が友の忠告に耳を貸さなかったこと、後悔させてくれるッ! この希薄な体では物足りぬ! 借りるぞ、そなたの体ッ!! 久々に本当の魔法を見せてやりたくなったぞ! わずかのひと時、再び、我が身を現世にッ!」
「え? あ、………………ッ、」
“足元から霜柱が上がるような悪寒が、感電するかのように全身に広がる。”
“その瞬間から、……私の体の全てが、自分の意思で動かせなくなった。”
“突然の停電に、何も出来ず呆然とするしかないように、私は、自分の体の支配を失うということを、呆然と受け容れるしかない……。”
“私の体の全ての細胞が、泡立つようなぞくぞくした感じ。……それは、肉体が、私でない誰かのものに瞬時に作りかえられている感触。”
“……私の肉体を依り代に、……魔女ベアトリーチェは、束の間の復活を果たすのがわかる…。”

 19人目視点ではと言うと。
 プレイヤーとして、ゲーム盤上のヤスの駒を掴み動かした、となる。

 それが駒であるヤスからすれば、体が勝手に動かされる。
 または、自信の肉体を依り代として魔女が顕現している。
 となる。
 後の描写は、演出、脚色、修飾、観劇に過ぎない。

 これは本格的な物語への介入。
 普段なら、ヤスが紡ぐ物語を読んでいるだけ。
 たまに悪戯をして介入し、それを“対話している”と解釈して読み解いていた。
 つまり、駒自体の動きには介入したことはなかった。
 それを“直接”駒を動かした。
 実際には、現実で19人目がした犯行を、ゲーム盤ではヤスの仕業として過程を修飾することで、ヤスの駒を動かした、となるが。

 これはゲーム。
 ヤスが観測した物語を、19人目が観測するというゲーム。
 19人目がヤスを観測し、ヤスが“19人目が物を隠す介入”を魔女の仕業であると観測する。
 そう相互で観測し合うことで、相互を認め合い対話をしていた。
 それが今回のことで、ヤスは“上位世界からの直接介入”を観測してしまった。
 つまり、“プレイヤー”の存在を知覚したのだ。
 そして、自分がその“駒”であると自覚したのだ。
 まぁ、物語上ね。
 そう物語に刻まれたのだから、それに合わせて新しい物語は綴られる。
 つまり……。


「……………。……私、使用人、やめる。」
「……え?」
「使用人より、……魔女の方が、面白そう。」
「ま、魔女って…。……何の話…?」
「みんなに愛されて頼りにされる使用人って、……うん、今ももちろん憧れるけど。……でも、今の私には……、………魔女の方が、憧れるの。」

 使用人に憧れて、使用人となる自分を生み出した。
 自分が生み出された。
 でも今は、魔女の方に憧れる。
 運命に身を委ねるだけのニンゲンよりも、運命に介入する魔女の方が楽しい。
 プレイヤーに動かされる駒よりも、駒を動かすプレイヤーの方に回りたい。
 その方がより能動的なのだから。


「知らなかった世界を初めて知ったような、……まるで、暗闇の世界だけに住んでて世界を全て知っているようなつもりになっていた私が、初めて光を知って、世界を目にするような。そんな、喜び。……興奮。」

 異なる世界を知って、世界が広がる、視界が広がる。
 世界の外、ゲーム盤の外を知った。
 ゲーム盤を用いて遊ぶ、魔女の世界を知った。
 自分が“プレイヤー”であることを自覚した。


“蝶という分身を通しての、私の空中散歩。”
“小さな部屋の闇を黄金の輝きで切り裂き、自在に宙を舞う、喜び。……恍惚とした、悦楽。”

「うん。魔法。……私の指に、まだ少しだけ魔法が残っているから仕えた。……でも、本当の魔女になれば、もっともっと自由自在に、……何でも出来る。もう、私はこの楽しみを覚えてしまったの。もう、ニンゲンには戻りたくない。使用人なんて退屈なの、……耐えられない。だから、魔女に、……なるよ。」

 自分の分身を生み出し、それを操り、それに成り切り、その視点から世界を観測する。
 肉体という檻より魂を解放し、観測できない魔女の闇の中で、想像の限りを自由に振る舞える。


“漆黒の星空の海に、私だけ。ここには私と私たちだけ。”

 ヤスがプレイヤーに昇格し、カケラまたはゲーム盤の外、カケラの海にはヤスと19人目だけ。
 これはプレイヤーが二人になったのか、それともPLをヤスに譲り19人目はGMに留まったのか。
 あるいは、19人目は造物主としてさらに上層の世界にいるのか。


“……よくよく考えれば。そんな設定などなくとも、私は鏡が苦手。”
“私が誰になろうとも、憧れようとも、……鏡に映るのは、いつも無残なくらいに情けなく現実的な、ヤスの顔。”
“みすぼらしい自分の現実を、無理やり突きつける鏡は、いつだって、私の苦手なもの。”
“うん。……鏡は、嫌い。”
“……みすぼらしい自分なんか、見たく、ない。”

 ヤスの現実。
 それは虚偽の世界。
 これは全てヤスから見た物語。


「さらばだ、紗音。……ニンゲンとして、そなたを目標に、そなたと友情を育みながらの日々も、楽しいものであったぞ。…もし妾が、魔法の悦楽を知ることなく、魔女に開眼することがなかったなら、それはこれからも変わらなかったであろうな。」
“……そなたにとっても、妾が唯一の親友であったな。その親友が、忽然と消え去ることをどうか許してほしい。”
“そなたへの置き土産として、……そなたの世界より、妾そのものを消し去る。”
“今より、その部屋は二人部屋ではない。”
“そなただけの、一人部屋である。”
“そなたは、優しく、誰にも愛され、頼りにされる使用人を目指し、これからもそなたの理想の姿を体現していくが良い。”
“もう、ヤスという、物をなくしてばかりの、愚かでドジな使用人は、存在しない。”
“さらばだ、紗音。”
“妾が魔女ベアトリーチェとして成熟し、夜の屋敷を自在に闊歩するようになれば。……夜の屋敷を見回るそなたと、やがては出会うこともあるだろう。”
“しかし、そなたと再び出会う時。それは再会ではない。それは、初めての出会いとなるのだ。”
“何しろ、そなたは魔女ベアトリーチェの噂話は聞けど、会ったことなど、一度もないのだから……。”

 19人目は、ゲーム盤上での自分の分身として、誰にでも成れる駒である“ヤス”を生み出した。
 そして、これまで“使用人”になっていた。
 現実では紗音一人だけど、ゲーム盤では紗音とヤスの二人。
 現実の紗音を依り代として、ヤスの物語を読んでいた。
 が、飽きたわけだ。

 そこでヤスを“魔女”に昇格させた。
 ゲーム盤上から“ヤス”の駒を取り除き、一階層上の世界に“ヤス”の駒を置き、下層のゲーム盤で遊ぶ“魔女”のプレイヤーにした。

 つまり、19人目は最上層でヤスの駒を動かして遊ぶゲームをし、そのゲーム内でヤスは魔女のゲーム盤で遊んでいるという形。
 言うなれば、神のゲームと魔女のゲーム、ってところか。
 ……なんて手間のかかるゲームなのか。

 で、虚偽の世界は設定変更で上書きされ、使用人だったヤスはいなかったことになった。
 だからその世界で紗音と出会っても、それは初対面。
 でも、ゲーム盤上の駒はそのゲーム盤の設定に沿うが、そのゲームで遊んでいるプレイヤーは記憶を保持している。
 って、感じ。


“さらばだ、紗音。”
“いずれ出会い、何か面白い物語を紡ぎ合おうぞ………。”

 19人目は現実を反映させて物語を作っているから、他の人の解釈などを取り入れての合作であると思っているふしがあるのではなかろうか。
 ここが陥穽かな。
 実際は、自分一人で作った物語で、その物語は誰も知らないのだ。


「あぁ、我こそは我にして我等なり。」
「もう使用人ごっこは飽きた。ニンゲンごっこは飽きた!」

 使用人はごっこだった。
 遊び、ままごとだった。
 ここからそもそも使用人ですらなかったことがわかる。
 さらに、ニンゲンもごっこだったことから、使用人になる前からニンゲン以下の家具だったこともわかる。


「讃えよ使用人ども。怯えよ、夜回りに選ばれたることを! 夜の島は屋敷は、全て妾のもの、妾の時間…!」
「あぁ、我こそは我にして我等なり!」
「さぁ、我等の世界にて全てを飲み込もう。それはまるで波濤のように!」

「魔女の世界は、想像力の限りの全てを遊べる!」
「妾の想像力こそが、我が魔力の源なのだ!」
「ならばよかろう、面白い! それを無限大に広げようぞ。そしてそれで、島を全て飲み込んでやろうぞ。島の夜は全て妾のものなり!!」

 物語を作り、それを見せる。
 謎を作り、それを解かせる。
 真実を作り、それを信じさせる。
 そうして、自分の生み出した世界に全てを飲み込む。
 即ち、己の世界に組み込む。
 それは、世界の底辺だった存在が、世界の頂点に登り詰めることを意味する。
 まさに有頂天となっていた時期だろう。





 新しき元素。

“神秘的な美しさの、黄金の薔薇庭園。”
“その東屋の椅子に、紗音はいつの間にか座っていたのだ。まるでそこで居眠りをしていて、夢から覚めたかのように。”
“……しかし、それは不思議な感覚。”
“この黄金の薔薇庭園が、夢なのか。”
“今までの使用人としての生活が夢で、今、ここでこうして目覚めたのか、……その程度のことにさえ混乱してしまう、不思議な感覚…。”

 この紗音は、虚偽の世界の紗音。
 虚偽の世界自体が19人目の夢なので、その虚偽の世界の下層だろうと上層だろうと夢であることに違いはない。
 下層のゲーム盤で使用人をしているのも夢。
 上層の黄金の薔薇庭園で魔女の客人をしているのも夢。
 夢の中の住人は夢から出られない。
 よって、そこがどこだろうと夢の中。
 魔女が夢の下層から上層へ魂だけを移動させただけ。


「別れの時、そなたの記憶を奪った。しかし、妾はそなたのルームメイトだったことを忘れぬ。……そして、そなたとの友情を、妾の方から一方的に破棄し、立ち去ったことも忘れはせぬ。」
「だからこそ、一人残すそなたに悲しみを与えぬために、妾との日々の記憶も世界も、全てを消し去ったのだ。」
「……………………。」
「わかろうとしないで良い…。ただ、これだけは信じよ。妾はそなたに危害を加えるために、ここに呼んだのではない。」
「こ、ここは私の夢の中、ではないのですか…?」
「夢の中と思って良い。厳密には、眠ったそなたの魂を、我が庭園に招いたのだ。そなたを、この世界の住人に招くために。」

 どれだけ夢を紡ぎ、物語の中に登場させても、現実の紗音には何の影響もない。
 物語は生み出しただけでは何の意味もない。
 誰かに読まれなければ、世界を共有することは不可能。
 誰も知らない物語など、誰が読もうと思うものか。
 つまりはそういうこと。
 皆は他の物語に夢中なのである。


「……この黄金の薔薇庭園を完成させた今、妾は至ったのだ。此処こそが、理想郷。そう、ここを黄金の理想郷と名付けよう。その完成に至ったからこそ、そなたを迎えに来たのだ。もう、何の不自由も、忍耐も努力も必要ない。ここでそなたと妾は永遠に、いつまでも楽しく過ごすのだ。そして、終わりのないおとぎ話のようにな……。」

 無限の魔法で、無限に物語を紡ぐ。
 この時点でそれが完成していたのだろう。
 足りないのは、それを読む読者だけ。


「ここは、私の世界ではありませんので。」
「それは認める。これまではそなたの世界ではなかった。だから妾が招くのだ!」
「これより、ここは妾とそなたの世界となる。そなたはもう客人ではない。この世界の、もう一人の主となるのだ。妾にも何の遠慮も無用。この無限の世界で、かつてのルームメイトだった時のように過ごすだけの話……。」

 人は皆、自分だけの世界を持っている。
 物語を読み他の世界で遊んでも、いずれ自分の世界に帰る。
 ベアトが求めたのは、自分の世界のもう一人の主になってくれること。
 それはつまり、共に物語を紡ぎ、一緒に世界を生み出し、両目で真実を視ること。
 魔女のゲームの対戦相手。
 あるいは、ミステリーの書き手と読み手の関係。


「…………わからぬ、わからぬっ。……妾は全てを無限に手に入れられる、偉大なる黄金の魔女っ。その妾に、そなたは手に入れられぬものがあると、そう申すのか。」
「………はい。」
「知りたいっ。全てを手に入れたと信じる妾が、未だ手に入れておらぬものとは何なのか、教えよ…!」
「多分、……あなたはもう、それをご存知と思います。だから、私をここへ招いてくれたのではないですか…?」

 自分以外の誰かを必要とする。
 他の誰かに認められることで満たされる。
 愛によって世界は満たされる。
 愛されない物語に意味はあるのか。


「これは、………何だと言うのか。」
“紗音。……これが、ニンゲンの世界の、楽しいことだというのか。”
“この訳のわからぬはしゃぎ合いが、そなたの見つけたものだというのか。”
「子供同士が群れて、馬鹿馬鹿しい遊びに熱中し、下らぬ話題で盛り上がる。……これが、そなたの見つけた、魔女の悦楽にも勝る、ニンゲンの悦楽だというのか。」
「………はい。あなたには、これが楽しくは見えませんか?」
「退屈とは言わぬ。だが、この低俗なはしゃぎ合いが、全ての望みを叶えられる妾の理想郷よりも勝るとは、……解せぬ。」
「人と触れ合うことは、……とても楽しいことなんです。もちろん、あなたの世界も楽しいものだと思います。それでも、……私はこちらを選びます。」

 他者との触れ合い。交流。
 新しい物語はそこから生まれる。
 出会いこそが、物語の始まりなのだから。
 どんなに高尚な物語だろうと、誰にも共有・共感されなければ、そこからは何も生まれない。
 低俗であろと、それを共感・共有してくれる人がたくさんいれば、そこから色々なものがたくさん生まれるのだ。


「……教えよ。………そなたは、このような低俗なはしゃぎ合いの中に、何を見つけたというのか。」
「………………………。知りたいですか…?」
「知りたいっ。」
「恋です。」
「こ、…………い……………?」


「それを、犯人が自白する前に推理できるようになってなきゃ駄目なんだ。動機がないと思われていた人物が、推理不能な動機により事件に及ぶってのは、俺は個人的にはアンフェアだと思ってる。」

「ホワイダニットを大切にしない推理小説ってのは、何だか一味足りないように思う。……いや、つまらないって言ってんじゃない。……何て言うのか、……一番大切な物が足りないような気がするんだ。」
「一番大切なものが、足りない……?」
「心だよ。心が、足りない。」


 ベアトの悪戯の謎は、フーとハウが主だったと思う。
 ホワイは言葉や表情、人間関係、過去の経歴など、そんなところから類するもの。
 19人目やヤスにはそんなものは提示できない、していない。
 自分が生み出した物語には、心が足りない。
 それを自覚した。


「人の心ってのは、すごく重要だと思うんだ。人間が、殺人を決意し、計画し準備し、実行に踏み切るには、ものすごく大きな心の力が必要なはずなんだ。人は、心で動いているんだぜ。」
“……即ち。人を殺せるのは心だけなんだ。”
“殺したいほどの感情の高ぶりの挙句に、起こるのが殺人という悲劇なんだ。”
“裏を返せば、殺人という悲劇に至らしめた心を探ることこそ、事件に迫るってことじゃねぇのかな。”
“心だけが、人を殺せる。”
“そして、人が殺されたなら、心を探らなければならないんだと。”
“彼はそう言った。”

 現実で19人目が殺したのは、ベアトリーチェだけ。
 つまり、それに至るまでの心を探って欲しいということ。

 さらに言おう、“心だけが、人を殺せる”のならば、その心に殺されたベアトリーチェは人だということ。
 人ならば心があり、その心によってゲーム盤のニンゲンたちは殺された。
 その心を推理して欲しい。
 推理可能であるというのなら、心はあるのだ。
 心は与えられるのだ。

 あぁ、ならばなぜ、心を与え人として生み出した者を殺したのか。
 推理可能か、不可能か。
 可能ならば心は存在し、不可能ならば心など存在しないのだ。


「………殺すに値する、充分な心の動きを描いた作品が、お好きだと?」
「そうさ。そしてそれを推理させてくれる作品が、俺は本当は一番、好きなんだ。」

 好きな作品。好きな物語。
 そう言ってもらえる物語に、したい、なりたい、生み出したい。


「心ってやつを、俺は蔑ろにしたくない。………人は、心で動いてるんだからな。」
「……そうですね。仰る通りだと思います……。」
“ミステリーだけに、限らない。人は誰だって、何にだって、心で動いている。”
“それを察することが、人との交流、……いや、心の交流なのだ。”
“私たち人間は、誰もひとりでは生きられない。なのに、相手の心を覗く術を持たない。”
“だから、人との出会いの数だけ、…………心のミステリーがある。”
“それに触れ、推理し、理解し合うことで、人は心は、交流できるのだ。”

 心を蔑ろにしないと言った男にこそ、心を推理して欲しい。
 これは恋なのかもしれない。
 男女の恋ではないかもしれないが、書き手と読み手との恋に違いない。
 自分たちの心を全て託した物語を読んで解いて欲しい。
 そのためにも人の心を推理し、心の交流をし、物語を紡ごう。

 ここから人の心の動きに重点を置いた物語が作られていったんだろうな。


“これは、ベアトリーチェを演じる者の、仮の姿。”
“ベアトリーチェの正体に未だ至れぬ者へのまやかし……。”

 ベアトを演じる者とは、ベアトの正体を演じる者という意味。
 なので前者と後者は別物。
 だから仮の姿がまやかしになる。


「あぁ、そうだろうな。……誰にも、理解は出来ねぇだろうよ。……こいつも、もはや誰にも理解してもらえるとは思ってねェ。だからお前なんだ。……だからベルンカステルは、お前とこいつ、出会うはずのない自分同士を、こうして出合わせたんだ。」

 自分同士にしか解らない動機。
 出会うはずのない自分同士を出合わせる。
 すっごいヒントだよな、これ。


「誰にも理解できない動機だから、理御。せめてお前だけは理解しろ。この物語の主役は俺じゃない。お前だ。………俺は、お前の理解を助けるための、介助役に過ぎねェ。」





 試される日。

「…………明日夢さんは気の毒だったが、……生まれてくる子を考えれば、これは偶然のタイミングだったかもしれんね。」
「まるで明日夢が、……それを知って、自分から舞台を降りたかのようだ。………俺が明日夢を殺したのか…? ………だとしたら俺は、……いつから殺してたんだろうな…。」
「明日夢さんを大事に思う気持ちがまだあるなら。……何年かけてでも、戦人くんと復縁したまえ。」
「………あぁ。……わかってる。」
「そして、霧江さんと、生まれてくる子にも、等しい愛情を注ぎなさい。……明日夢さんの十字架を、背負いながらね。」

 読み手の立場から見ると、ヤスとその間に生まれる真実のために、19人目が舞台を降りたと解釈できる。
 そして、いつから19人目を殺していたんだろうな、ということになる。

 だが、書き手の立場から見ると、十字架というのをEP8の入水と繋げて、ヤスが舞台から降りた話に見える。
 ベアトを殺して島を出る八城は、ではいつからベアトを殺すつもりだったのかと言われれば、まさに“いつから殺してたんだろうな”になる。
 そして、戦人との復縁は、ヤスとの間で生み出した真実との復縁と見ることができる。


“それは、……新しい人生を踏み出すための決意。”
“しかし、こうしてしっかりと私の選ぼうとする未来を想像して、初めて私は理解する。”
“私は、この未来に踏み出そうという決意を、自覚しなければならなかったのだ。”

 それを物語で描いているのだから、作者もまたそれについて考えているのだろう。
 19人目が作家となり、ヤスと共に物語を紡ぎ合う未来。
 その新しい物語を紡ぎ合うために、今の物語に結末を与える決意。
 そのための道筋と準備を始めたのだろう。





 恋の芽、恋の根。

“……日中はまったく覚えていないのに、夢の世界では、これが再会だと不思議に理解できた。”
“魔女たちは気の毒そうな顔をしていた。”
“きっと今日、戦人が来てくれると励ましたのに、彼が来なくて、結果として嘘を吐くことになってしまったのを、悔やんでいるように見えた。”

 ベアトが励ましの声を掛けていたのは虚偽の世界のこと。
 よって、その相手は虚偽の世界の紗音である。
 つまり、現実の紗音は関係ない。

 要は、ヤスが勝手にそう解釈して、そういう物語を紡いでいるだけであるということ。
 自分に都合の良い物語を作っているということを忘れてはならない。
 励ました妾が悪いから恋の芽を妾に移せばいい、とかな。
 都合よすぎだぞ、その設定。


「私たち、恋人作るのは一緒だからね?! 絶対ッ、絶対だぜ?! 嘘吐いたら、針千本飲ーます!!」

 19人目とヤスの、二人同時に真実に成ること成就させるという願いは、例えるならそんな感じのもの。


“眩い光が少しずつ収まると、紗音とベアトリーチェは向かい合ったまま、プラネタリウムのような、広大な星空の球体に飲み込まれていた。”
“漆黒の星空の海に、二人だけ。”
“………紗音は、この光景をどこかで一度、見たことがある気がするが、思い出せなかった。”
“そして、我は再び宣言する。”

 紗音とベアトの二人だけの世界に、第三者である“我”が出てくる。
 まあつまりは、世界の外側にいる造物主、19人目なのだが。


「世界を、変更。……恋の芽を、紗音からベアトリーチェに。」
“これで、紗音は恋の根に、もう苛まれずに済む。”
“そしてさらに、新しい宇宙を築くために、……弟を与える。”
“弟の設定は、福音の家で仲の良かった、年下の男の子。”
“名前は、……………福音の家のルールに従い、音の一字を与えよう。”
“………うん、決めた。……紗音と相性のいい、ぴったりの名前だ。”
“彼は、……寡黙で無口な男の子。右代宮家には、新しい使用人としてやって来た。”
“そして、紗音とすぐに打ち解ける。”
“紗音を姉と慕う義理堅い彼は、いつも紗音の味方になってくれる……。”
“源治と同じように、金蔵に直接仕えることが許されている、特別な使用人と言うことにしよう。”
“……うん。何だか、かっこいい。”
“そして、ベアトリーチェ。これからはあなたが、恋の芽を受け継ぐ。”
“それはつまり、……戦人に恋焦がれ、彼を待つという役目が、あなたになったということ。”
“あなたは、六軒島の夜に君臨する魔女であると同時に。右代宮戦人を、3年前のあの日から、ずっと待ち続けているのです。”
“その姿も、設定の変更に伴い、新しいものに変えましょう…。
“彼は、どんな容姿の女性が好きか、話していたことがありましたね。”
“……それは、外国のモデルのような、金髪で髪が長くて、スタイルの良い女性。”
“金髪で。髪が長くて。スタイルが良くて。”
“……そう。そんな感じ。それが、新しいベアトリーチェの姿です。”

 紗音からベアトに恋の芽を移したから、嘉音を作り与えた。
 そんな感じの物語にしているが、現実では逆だろう。
 嘉音がやってきたから、それに合わせて物語の設定を変更したと考えるのが自然。

 紗音に寄り添う嘉音は、19人目に寄り添うヤスの重ね合わせ。
 動機を推理してもらうための設定づくりの一環だろう。
 恋の芽を移すのもそう。


“さぁ、胸には、戦人を待ち続ける、恋の芽を。”
“……これであなたはようやく、痛みと引き換えに、恋を知ります。”
“さぁ、これが、新しい世界の設定。”
“紗音には、弟のような新しい使用人がやって来る。彼は、寡黙で無口な男の子。紗音を姉と慕う義理堅い子。”
“そして紗音を苛んだ恋の芽は、……魔女、ベアトリーチェに。”
“恋の芽は預かっているだけ。”
“でも、預かっている間は、あなたは戦人に恋い焦がれる、一人の乙女になる。”
“その間、あなたは恋を知ることが出来る……。”
“さぁ、世界を変更。”
“あぁ、我は我にして我等なり。”
“目覚めなさい、我等たち。”
“そして新しい世界に羽ばたきなさい……。”

 心を得る、それは即ち、動機を得るということ。
 それは一人の人間としてあるために必要なもの。
 19人目は、ヤスの物語を完結させるために、全力を尽くして物語を作っているのだ。
 そう、物語には、相応しい結末、相応しい死に方がある。
 それを迎えるために。





 黄金郷への旅立ち。

「………これが、………ベアト…リーチェ…。」
“妾は、その巨大な肖像画に描かれた貴婦人に魂を奪われる。それは、まさにその通りだったかもしれない。”
“魂が奪われるというより、……魂が、より相応しい、在るべき場所へ戻るというべきか。”

 物語の中では、肖像画より姿を得た。
 しかし、現実では19人目が魔女の装いをして絵を描かせた。
 つまり、現実19人目(魔女Ver) → 肖像画 → 物語でベアトが姿を得る、という感じ。


“彼の人生は、あの日のベアトリーチェとの出会いで、初めて幕を開けた。”
“そして彼女らが去ってからも、金蔵は真っ暗になった舞台の上で、たったひとり、待ち続けているのだ。”
“全てを手に入れ、全てを成し遂げた老王が、最後の最後まで手に入れようと足掻き、そして指の間をすり抜けるように逃がしてきた、たった一つの元素。”
“その元素さえ得られれば、……もはや彼の人生には、何もいらなかった。”
“結局、彼の人生は。……たった一つの元素こそが、人間を構成する唯一の元素であることを知るためのものだったのかもしれない。”

 ベアトも同様の経緯で奇跡を願う。
 19人目の真里亞と出会うことで幕を開け。
 19人目の真里亞が去った舞台の上で、たったひとり待ち続ける。
 愛こそが人間を構成する唯一の元素であると知ったがゆえに。


「真里亞が生み、妾が育てる、か。……ふむ。これぞ、マリアージュ・ソルシエールであるな!」

 19人目の真里亞が生み、ヤスが育てる。


“存在を生み出し、名前を与え、姿を与える。”
“それは、新しい生命を生み出すことと、何も変わらない。”
“ニンゲンは子を生むことで姿を与え、名を与えることで認識し、世界を育むことで、その存在を深めていく。”
“まったく同じことを、マリアージュ・ソルシエールはしている。”
“我等の世界では、思い描いた存在が自由に生み出せ、それは姿を得て、名前を得て、我等の共通の友人となるのだ。”
“我等はこの、マリアージュ・ソルシエールという世界の遊びに、夢中だった。”

 一人目が、魔法でニンゲンを生み出す。
 二人目が、そのニンゲンを愛し育てる。


“宇宙を生み出すには、二人いる。今の妾には、その二人目がいるからこそ、満たされているのだ。”
“……………。”
“……満ちては、いると思う。”
“しかし、ほんのわずかに、……満たない。”
“それは本当にほんのわずか。”
“だって、こうして真里亞と一緒に遊んでいる時は、時が経つのも忘れるほどに楽しい。”
“しかし、なのに、……ふと空を仰ぐ時、……その、わずかな隙間に、何とも言えない空虚な気持ちを感じるのだ…。”
“わかっている…。”
“妾の宇宙は、満たされてはいないのだ。”
“それは、………真里亞には本当に申し訳ないが。……妾が求める、宇宙を生み出す二人目が、真里亞ではないからだ。”
“……真里亞とどれほど宇宙を育もうとも、……胸の中の、恋の根が、その隙間を開ける。”

 19人目の真里亞とヤスで二人揃っている。
 しかし、19人目は一人目であり、ヤスはその被造物であるのだ。
 故に、不完全。
 満たされそうで、満たない。
 だから、本当の二人目が必要で、それを戦人と定めている。


“……この不完全な宇宙さえも、今の妾には、永らえるために重要なもの。”
“妾は、完全な宇宙を得るその日まで、永らえねばならぬ。”
“その日まで、……妾は完全には、満たないのだ。姿を持ち、名前を持ち、……どれほどに世界を深めても、……妾は満たないのだ。”

 姿を持ち、名前を持ち、どれほど世界を深めても、ニンゲンには満たない。
 二人目の愛によってのみ満たされる。


「それは、魔力が足りないからだよ。」
“真里亞が即答する。”
“ベアトリーチェは、魔力を失っていて、往年の力が取り戻せずにいる。”
“そういうことになっていた。だから、真里亞の返答は、まさにその通りなのだ。”
“………そうだな。”
“妾は、魔力を失っているから、満たないのかも知れぬな。”
“ならば、魔力が満ち、……真の意味で復活を遂げたならその時。……妾の世界は満ちるのか。”
“それはつまり、………妾の望む、宇宙を育むもう一人の相手が、帰って来てくれるということなのか。”
“……もし、妾が本当に、自らがそう名乗るように、かつて、奇跡を自在に操る魔法を思いのままにしたならば。”
“復活を遂げたなら、必ずや、その奇跡を起こすだろう。”
“それが出来るなら、………妾は復活のため、本当の魔力を手に入れたい。”
「……そうだな。魔力が、足りないからであるな。」
「可哀想に。……ベアトはまだ魔力が弱いから、色々と不自由なんだね。」
「早く、……取り戻したいものだな。……かつての魔力を。」
「やっぱり、………あれをやらなくちゃいけないんだよ。」
「……あれとは、何か…?」
「復活の儀式。………肖像画の碑文の儀式だよ。」

「……あの碑文の謎を解けば、かつて妾が金蔵に与えた、莫大な黄金の隠し場所が知れよう。」
「ベアトが魔法で生み出した黄金だよね?」
「そうだ。魔力に満ち溢れし日の、魔力の結晶である。」
「じゃあ、……その黄金を取り戻せば、ベアトの魔力は、元に戻るんだね。」
「………そう、なるかも知れぬな。」

 事件において、魔法説のベアトは魔法でどうにかなる。
 19人目にはアリバイは不要。共犯は金蔵のみで十分。
 ヤスだけがアリバイに縛られる。
 つまり、ヤスには共犯が必要だということ。
 そのために、ヤスに碑文を解かせる必要がある。
 ので、そういう物語を紡いでいるのだろう。

 碑文の黄金は。
 魔法説では、真里亞が言う通りの解釈で。
 ヤスでは、共犯者システムで。
 19人目では、黄金の真実で。
 表裏を合わせることができる。





 魔女の蘇る日。

“碑文の謎を解けば、自分は復活を遂げる。”
“……そういうことにしたのは、自分のはず。”
“なのに、……これは本当に、………ベアトリーチェが復活する、儀式だったのだ…。”
“自分は魔法で、運命を作り出せると信じていた。”
“その魔法を自在に操れる私が、……運命に導かれて、ここへやって来たなんて…。”
“私は今こそ、本当の意味での、運命という言葉を信じざるを得なかった…。”

 ゲーム盤上の駒であるヤスがそう決めた。
 だから、その上層のプレイヤーであるヤスがそう物語を紡いだ。
 あるいは、さらに上層の神たる真里亞が、かもしれない。


“金蔵は半生をかけて求めた贖罪の時を、今、ようやく得たのだ。”
“……人の生は、罪に塗れている。”
“だから人は、生ある内に、許しを得たいと思っている。しかし多くの場合、許しを与えられる人は、この世にいない。”
“彼の場合も、そうだった。すでにこの世に、いなかった。……それが、奇跡によって紡がれて、今、それを得たのだ…。”
「おぉおおぉぉ、ベアトリーチェ…。……ベアトリーチェ……。…たとえ許してくれなくてもいい、何も言わなくてもいい…! 私はッ、……お前にただ一言ッ、謝れればそれでよかった……! ぉぉぉおぉぉおぉ………。」
“金蔵はいつまでも、ドレスの裾を握り締めて、泣き続けた。”
“人の罪は、許しで許されるのではない。悔いることで、許されるのだ。”
“……彼の何かの罪が、咎が、……私の姿を通して許されたと、信じたい…。”

 19人目の右代宮真里亞もそう。
 物語を終わらせることができずに亡くなったヤスに、贖罪するために生きてきた。
 だからこそ今、ヤスの物語を終わらせる。
 そしてただ一言、謝りたかったのだ。


“では、……今日という日は、いつかやがて必ず訪れる、約束の日だったというのだろうか……?”
“私にはもう、何もわからない。”
“全ては、神様の奇跡。”
“約束された運命が、私をあるべき日へ誘ったのだ。”

 この世界の神が起こした奇跡。
 約束された運命。
 まさしく、その通り。
 約束を果たしたから、この物語は綴られたのだ。


「………我が子、理御よ………。……今日までお前の運命を弄んだのは全て私の罪のせいだ。……許しておくれ…。……そなたは今や、我が指輪を受け継ぎ、正しく新しい、右代宮家の当主である。」

 駒であるヤスの運命を弄んだのは、上層の魔女であり、神である。
 即ち、19人目の真里亞の罪。
 当主の引継ぎは、カケラの領主の引継ぎ。
 つまり、ヤスが真実と成り、19人目の真実はなくなる。


「私を、…………お父様と、………呼んでくれぬか。」
「…………………………、」
「……呼べぬ気持ちはわかる…。……私はそなたに何も父らしいことをしなかった。そしてそなたもまた、父など知らずに育った。……とても口に出来る言葉ではないとわかっている。そして、それを求める資格が、私にないこともわかっている。………だが、それを承知で、……頼む……。……それさえ聞けたなら、……もう私に、何の未練もない……。」

 お母様と呼んでくれないか、だな。
 別の運命を辿った自分ではあるが、自分が生み出した娘である。
 母としての想いを遂げたいという願い。


「ありがとう、……理御。我が子よ……。………そしてベアトリーチェ。最後に、許しを請う機会を与えてくれて、……ありがとう………。」
「……もちろん、これしきで許されたとは思いはせぬ。……続きは地獄の業火で焼かれながらとしようではないか。………右代宮金蔵ッ、我が生に一切の未練なしッ!! もはや何もなし! 心残りも遣り残しも何もなし!! わはは、……わっははははっはっはっはッ!! わあっはっはっはっはっはっはっはっはッ!!!」
“金蔵は天を見上げながら、喝采する客席に向かって両手を上げて応えるかのような仕草をしながら、……大きな声で笑い続ける。”
“それは、この世の一切の未練から解放された者だけが知る、最期の、愉悦。

 娘への感謝。
 想いを遂げたことを、私も祝福の拍手を送ろう。


「お館様は、……あるいはもう、ずっと以前にお亡くなりになっていたのです。……それを、お館様の魔法と執念で、……今日までを永らえていたに過ぎないのです。……そして、………ベアトリーチェさまに謝罪する機会をようやく得て、………全てを、終えられたのでしょう…。」

 恋の決闘で19人目の真里亞が負けることは、前から決まっていた。
 だから、恋の決闘をするまでを執念で永らえてきた。


「この島で、………これまでと同じように、待っていたいだけなのです。これまでと同じに、……何も変わらずに。………それだけが、私の望みです。」

“あぁ、我こそは我にして我等なり。”
“我は、黄金の魔女ベアトリーチェ。”
“この六軒島の真の支配者にして、………無限の黄金の所有者。”
“でも何も満たされず。”
“……たった一人の想い人が帰って来てくれる日を、待っています……。”

 何も変わらずに待つ。
 猫箱に閉じ込められた後も。
 奇跡が起こり、物語に結末が与えられるまで。





 魔女幻想、散る。

“ルーレットに、身を委ねたといった方が、正しいかもしれない。”
“私は、私たちは、……自分たちの運命さえ決められなくて。全てを運命に託したのです。”
“誰かが、報われるかもしれない。”
“あるいは全員が結ばれて、解放されるかもしれない。”
“さもなくば誰かがこの愚行を、止めてくれるかもしれない。”

 19人目かヤス、どちらかが報われるかもしれない。
 両方結ばれれば、解放される。
 二人で一人だから、両方結ばれないと、解放にならないのだろう。

 さもなくば誰かがそれを止める。
 止めるのは、ルーレットに委ねる前に、ならば、島の連中が止める必要があった。
 委ねている最中なら、EP6で恋の決闘が描かれる前に、読者が真相に至ることで、なのか。


「そんな顔をしないで。そして、あなたが私でなかったことを、どうか喜んで。私もまた、あなたが私でないことを、喜んでいるのですから。」
「………生きます。……あなたの、分まで…。」

 これは19人目とヤスのやりとりと解釈すべきだろう。


「ミステリーは、探偵が引導を渡さなきゃ、死ねないのよ。」

 物語は、結末が描かれなければ、終わらない。
 ミステリーでは、謎が解かれること。


「………わかった。……土より生まれた者は、土に帰る。……お前の全てを、土に帰そう。」
「土は土に。灰は灰に、塵は塵に。幻は幻に。そして、夢は夢に。」
「………………あぁ。」

 土より生まれたのは人間。
 幻は魔女幻想。
 夢は冒頭でもあるように、ヤスの物語。

 夢は夢に。
 然れども、土より人は生まれ、人より夢は生まれ、ならば覚めぬ夢は土に帰そう。
 やっぱウィルは、真相を理解していて態とヤスの方の謎を解いていたとしてもおかしくはないな。


「………綺麗だ………。」
「散り際くらい、そうありたいと誰だって願うわ。」
“金の雪はまるで、舞台のフィナーレを飾る、紙吹雪のよう。彼女という舞台は今、……幕を閉じようとしていた。”

 綺麗に物語に幕を下ろす。
 そのために彼女は生きてきた。
 そして、それは果たされたのだ。


“そこには、物語を終えたクレルが立っていた。”
“そして、ゆっくりと、……やわらかに、………観客席へ向けて、会釈をした。”
“拍手が、広がる。”
“彼女の、語り終えた長い長い物語に、労いの盛大な拍手が送られた。”
“いつまでも。………いつまでも。”
“ゆっくりと舞台は、忘却の闇で暗転していく。”
“深々と会釈を続けるクレルは、……終わらない拍手を浴びながら、闇と幕の向こうに、……消えていった。”

 長い長いヤスの物語を終えた彼女は、即ち19人目の真里亞。
 ヤスの物語が真実と成ったがゆえ、彼女の物語は忘却の闇へと消える。
 それを覚悟で、ヤスの物語を語り終えた。
 それが彼女という駒に与えられた役割だから。
 ゆえに拍手を送ろう。


“……人は、罪と生まれ、誰かに許してもらうために、生きていく。”
“あるいは、謎と生まれ、誰かに解いてもらうために、生きていく。”

 前者は主に19人目、後者は主にヤス。
 今回の物語ではそんな感じの配分で描かれていた。


“彼女の謎は、未練なく、………全てがここに、解き明かされる。”
“人は、謎なのだ。”
“誰かに、自分の謎を、解いてもらいたいのだ。”
“自分という、世界でもっとも難解な謎を、誰かに解いてもらいたいと思いながら、生きている。”
“自分という謎に、誰か向かい合って欲しい。そして、それを解いて欲しい。”
“彼女のそれは今、叶えられた……。”
“………もう、彼女の魂は、迷わない。”
“猫箱の棺で、永遠に安らかに眠れ………。”

 ヤスは依り代の紗音ごと死んでいたのだが、謎を解かれなかったから死にきれずに迷い出た。
 それがつまり、メッセージボトルであり偽書。
 それが解かれたことで、ヤスは猫箱の中で安らかに眠ることができた。
 これでヤスの物語は終わり。

 なのに、まだ物語は続く。
 それはまだ物語が残っているから。
 まだ謎が残っているから。
 まだ罪が残っているから。
 亡霊の物語を執筆している人物についてが、まだ。


「いいわよ、改めないで。………私は退屈しのぎのために、あの子のゲームに乗った。……そして、負けはしたけれど、楽しく遊ばせてもらった。」
「……あの子はそのゲーム盤を、畳まずに逝ってしまった。………私は遊ばせてもらった礼と、敗者の務めとして、最期の片付けを引き受けただけよ。」

 ベルンは魔女のゲームのプレイヤーであるヤスの成れの果て。
 ベアトのゲームで遊び、駒のヤスの物語を紡いだ。
 駒であるヤスは1986年に死に、しかし解かれなかったために物語として死にきれなかった。
 後年、その物語を八城が執筆。
 その巫女であるベルンがヤスの物語の結末を紡いだ。
 という感じ。


「この、絡まった恋の物語を、絶対の意思で、終わられる。……その絶対の意思に、絶対の魔女が微笑んで、あの子を二日間だけの魔女にした。」
「……私はその二日間という限られた時間の中だけで、無限に広がる万華鏡を楽しませてもらった。……私は祝福しないから、奇跡は起きない。………でも、その結末さえも、あの子が望んだものよ。」

 19人目とヤスの絡まった恋の物語。
 それを絶対の意思で終わらせるために、無限に物語は紡がれた。
 そして、ヤスが勝ち、19人目が負けて終わった。
 二つの物語はそれで終わり。
 それはそれでいい。
 だが、その終わりは、ベルンの望む奇跡ではない。
 100:100で二つの物語が並び立ち、それらの物語を紡いだ執筆者の真実へと至る奇跡。
 それがまだ残っている。


「……無限の物語は、一体、どの真実で、本当は終わったんでしょう。」
「さぁな。……それを決め付けないのが、猫箱ってもんだ。」
「開けば、屋敷は跡形も残らず、絵羽を除いて誰も生き残れない物語。……絵羽は何も語らず死んだ以上、全ては猫箱の中。………有限の箱の中に仕舞われる、無限の可能性。」
「……こうして思うと。彼女が生きて、そして死んだ島そのものが、黄金郷だったのかもしれませんね。」
「猫箱を黄金郷と呼ぶならね。……そして、その猫箱の中で考え得る、もっとも楽しい物語を、戦人は書いたわ。」
「……ベアトリーチェの棺に収められた、その本か。」
「そうよ。………彼が思い描いた、彼女がもっとも幸せな物語。」
「とても楽しくて、愛に満ちた、……幸せな物語でした。……私も、あの物語が、……棺には一番、相応しいと思います。」

 戦人が紡いだ物語はEP6のこと。
 そこで黄金の魔女は復活を果たした。
 つまり、ヤスの新しい物語が紡がれ、それを紡ぐプレイヤーが復活したことを意味する。
 EP7では、その新しいヤスの物語と、古いヤスの物語を重ね、古い物語を終わらせるもの。
 復活したヤスのプレイヤーは、ヤスの新しい物語で、ヤス亡き後のヤスの魔法を引き継いだ戦人=十八の未来を描くわけである。


「今、来るぜ。今日はさんざんだったな。親父の葬式ごっこに付き合うのも疲れるぜ。」
「そんなこと言っちゃ駄目よ。大事なセレモニーだったわ。」
「そうね。お父様にとって、大切な儀式だったと思うわ。」

 物語を終わらせるための、大事なセレモニー。
 ひとつの区切りだったと思う。


“雲の隙間からの木漏れ日が神秘的で、……まるで天国への階段のように見えた。”

 二つの物語を終わらせて、それらの執筆者の真実がある天国へ。
 クレルを鍵としてその扉を開く。
 物語は終わり、現実が顔を表す。
 って感じか。





 お茶会。客席。

“この物語が始まる前。確かに舞台の上には、クレルが姿を現した。”
“彼女こそは異なる運命の世界の、自分の分身であり、ベアトリーチェのゲームという物語の語り部だ。”
“しかし、彼女はその全てをウィルに託し、謎の全てを解かれたはず。”
“その彼女にはもはや、新しい謎掛けをする必要などないはずなんだ……。”

 うん、謎は解かれ、物語は終わりを迎えた。
 でも、クレルは物語の語り部であって、物語そのものではない。
 だからこれは、物語ではなく、現実の謎。
 現実の人間である、ベアトを演じた者の謎。


“……では、この物語は、ベルンカステルが私を試している…?”
“私は、少なくともウィルと一緒に物語の深部に触れ、犯人の心まで理解した。”
“その自分からすれば、たとえ未知なる物語であったとしても、謎は見破れるだろう。”

 ヤスの物語の謎ならば、そう。
 だが、これは違う。
 そして、だからこその試しだろう。
 物語の背後にいる、物語を綴る執筆者の存在に至っているかどうかの。





 お茶会。黄金を見つける前。

「そうね。あの怪しげな手紙は、私たちの結束を乱すのが狙いでしょうね。踊らされれば踊らされるほど、ベアトリーチェなる差出人の思う壷だわ。」

 真犯人の思惑に踊らなかったから、物語から外れた、みたいな感じだろうか。


「君を生涯、愛することを誓う。……若い今だけじゃない。老いて、お墓に入るまでの全てを愛し、君を幸せにすることを誓うよ。」

 いつも通り、19人目とヤスについてとして解釈する。
 ヤスの謎のことなら、まさに墓までだったな。
 蘇ったヤスのプレイヤーのことなら、そのために蘇らせたのだろうしな。


「………僕は本当にみっともないね。今日、君に指輪を渡す時、断られるかもしれないと怯えた。」
「どうしてですか。……私が譲治さんの指輪を、どうして拒むと?」
「戦人くんが、帰ってきたからさ。君は本当は、いまでも戦人くんのことが好きで……。……彼が帰ってきた今、僕は用済みなんじゃないかなって、………怯えたんだ。」

 物語内で戦人はヤスの謎を解き、ヤスと結ばれた。
 つまり、事件の12年後に、謎を解くはずの戦人は帰ってきたことになる。

 19人目の真里亞である八城は、ヤスを蘇らせ、結ばれたわけだが。
 そもそもヤスの物語は戦人に解かれるために生み出された。
 つまり、八城は物語の中の戦人に嫉妬しているわけだ。


「…………譲治さん? これをご覧下さい。私の薬指に輝く、この銀色の輝きです。これは何ですか?」
「……そうだよね。ごめん。僕は、何を動揺しているんだろうね。……6年ぶりの再会で、さらにカッコよくなった彼に、また嫉妬していたんだろうね。……情けないよ。」
「うぅん、いいんです。その気持ちは即ち、……私を誰にも渡したくないという、譲治さんの強い気持ちの表れなんですから。……もし、私の気持ちが戦人さまに移るのではないかと怯えるなら。そんなことを絶対に思わせないくらいに、強く愛して下さい。……私が、あなた以外の男性のことを考える暇なんかないくらいに、愛して下さい。」

 新しいヤスの物語を愛す。
 若しくは、ヤスの物語を紡ぎ出すプレイヤーを愛する。
 生涯そういう作家として生きていくのだろう。


「私だって、怖いんです。私より魅力的な女性なんて、これからもいくらでも現れるでしょう。あるいは、至らぬ私に愛想を尽かすこともあるかもしれない。生涯、あなたの気持ちを私だけに繋ぎ止めていられるか、怖いんです。」
「それを君が怯える必要はないよ。僕は君を生涯、愛し抜くことを誓う。」
「私もそれを誓ったのに、戦人さまが帰ってきたら、信じられなくなりましたね。」
“紗音がくすりと笑うと、譲治もようやく、自分の気弱な言葉が彼女を傷つけていたことに気付く…。”

 他の魅力的な物語を作っても、ベアトの無限の物語よりも魅力のある物語というのはそうはないだろう。
 さらに本人は、そのゲームで永遠に遊べるだろうし。


「……私は、右代宮譲治さんという素敵な方を射止めました。そして、生涯、私を愛すると誓わせ、それを誓う指輪をこうして贈らせました。その指輪を、こうして薬指に通した上で、正直に告白します。」
「うん。」
「私は、確かに仰る通り。……6年前、戦人さまのことが、好きでした。多分、譲治さんより、好きだったと思います。」
「でも。それは6年前の話です。今の話では、ありません。戦人さまへのその気持ちは、この6年間で整理され、思い出と一緒に過去へ、決別したのです。今の私は、あなたを愛するためだけに存在します。」
“紗音はきっぱりと、そう言い切る…。”
“譲治は一度だけ頼りなく笑う。多分、それは6年前の譲治が浮かべた笑いだ。”
“そして背筋を毅然と伸ばし、無言で紗音を抱く。それは彼にとって、6年前の自分と決別した瞬間だった……。

 まぁ、戦人に解かれるために生み出された物語だし、当時はそうなのだろう。
 でも12年もの間、ヤスと一緒になるために、約束を守るために頑張っているのを見てきたのだろうしな。うん。
 でも、このヤスってベルンでいいのだろうか?
 デレたんかな。





 お茶会。黄金発見時。

“碑文の謎が解かれた時、……ベアトアリーチェの魔女幻想は、終わったのだ。”
“彼女の悲壮なその決意は、恐らく、その場にいる誰にも理解では出来ないだろう。”
“……恐らく、理解できるのは、自分だけ。”
“自分の中にいる自分たちにだけでも、せめてわかってもらえれば、それでいい。”
“……我は我にして我等なり。”
“無限の結果を紡ぎ出す魔法のルーレットに身を任せた。”
“その結果の答えが、これなのだ。”
“碑文の儀式という名のタロットカードが示したもの。”
“……もはや、ベアトリーチェは死んでいる。”
“彼らが殺したのではない。”
“運命に従い、……私が私で、殺したのだ。”
“彼らには、わかるまい………、永遠に。”

 誰にも理解できない動機だから、せめて別の自分には。
 その別の自分たちは自分の中にいる。

 まぁ、普通の人間には理解できないだろうな。
 別の運命を辿った自分という駒を生み出し遊ぶ魔女のゲームなど。
 そして、その別の自分と絆を深め、励まし合いながら生きてきたなど。
 挙句の果てには、その別の自分を殺し、後で蘇らせようなんて。
 理解できようはずもない。
 理解できるようなら、こんなことにはならなかっただろうから。

 そもそもだ。
 黄金の分配の話なんかよりも、自分たちを殺そうとした女の動機の方が気になんねーのか、と。
 どこの誰で、何でここにいて、いつからここにいて、いつから殺そうとしていて、何で殺そうとしたのか。
 心を蔑ろにするなと。
 まずやるべきことは、全員を集めて黄金を発見したことを報告し、魔女の扱いについて全員で相談することだろう。
 そうすれば、事情を知っているヤツ数人と、心を蔑ろにしない戦人がいるからどうにかなったかも。
 あと起爆装置だけは壊しとけ。
 安心して眠れやしねー。


「騙す気もありませんが、信じろとも言いません。……私は全てを差し出し、全てを明かしています。何を信じ、どうしようと、それはもう、新しい黄金の主である皆さんが決めることです。私の言うことを何も信じず、この場を立ち去ることさえ、皆さんの自由です。」

 これは読者にも向けて言っているんだろうな。
 信じる信じないは自分で決めること。
 どう信じるかさえ読者の勝手。

 全てを明らかにはした。
 ただし抑揚はつけたけど。
 騙す気はないけれど、読者が勝手に騙されることはあると。


「何でそうだってわかるのよ?! こいつの余裕が気に入らないのよ! まるで、もう全てに勝利したかのようだわ?! ……私、今ふと思ったの!! 爆弾のスイッチとかいうの、オンとオフが逆じゃないの?!」

 ルーレットとしては実はこれが勝利の目。
 物語、ゲームとしては、これ以上紡げなくなったので負け。
 でもこの負けこそが、物語を蘇らせようという奮起に繋がる。
 負けによって絶対の意思が宿り、約束された絶対の奇跡に至らせるだろう。
 故に、これは勝利なのだ。


“絵羽にとって、今日まで積み上げてきた生活と会社、そして信用は、一度失えばお金では買い戻せないものだ。”
“だから、47億ごと全てを吹き飛ばしてでも、蔵臼たちの死をなかったことにしたい…!”

 19人目にとっても同様かな。
 ここまでゲームを積み重ね、延々と物語を紡いできた。
 一度失えば、金で買い戻せない。
 だから、ベアトの死をなかったことにしたい。
 その死を誤魔化している間、どうにか物語を紡ぐことができるから。





 お茶会。霧江と留弗夫の殺人劇。

「じゃあ、うまいこと言い含める言い訳を考えてね。私は縁寿のことを考える。あなたは戦人くんのことを考える。公平でしょ?」
「ん、………あぁ。」
「私、自分の子供にはやさしいけれど。……明日夢さんの子供にまでやさしくするの、結構、大変なの、わかってるでしょ?」
「………………………。」
“霧江の声が、一際、冷たく刺さる。”
“霧江が戦人に温かく接するのは、無論、大人としての対応だ。”
“留弗夫にとっての子供でもあるから、邪険にしないだけのこと。”
“一皮を剥けば、死してなお憎い明日夢の子供なのだ。”
“縁寿を産み、新しい家族をようやく築けた彼女にとって、……戦人が帰ってきたのは、本当に喜ばしいことだったのだろうか……。”

 これは、あれかな。
 作者と読者の間の子、即ち、真実あるいは物語のことかな。
 確かに私は、19人目の真実は私の子として愛しているが、ヤスの真実は19人目の子だろうと見ている。
 そして真実同士は互いを否定し合う性質があるがゆえに、敵視する気持ちがないと言ったら嘘になるかもしれない。

 でも今は、私のものかそうではないかということより、2つ寄り添っていることこそが重要であると思えるようになった。
 ヤスの真実それ単体であれば愛でられない。
 しかし、2つ揃ってなら愛でられる。
 2つで1つなのだと、今なら思える。


“留弗夫の覚悟を、量る為だった。”
“手を汚すのが全て自分で、留弗夫はただ見ているだけでは、彼の心に覚悟が宿らない。”
“彼自身に自らの手を汚させることで、彼に本当の覚悟をさせることが出来るのだ。”
“……霧江は、そういう心の駆け引きを、誰よりも深く理解していた。”

 この魔女のゲームもそう。
 真実同士は否定し合うもので、自分の世界の中において、他の真実を殺す覚悟がないと100%の真実にはならない。
 その真実と共にする覚悟。
 プレイヤーのその覚悟を量るための試練が、プレイヤーにとっての恋の決闘であった。
 つまり、八城であり右代宮真里亞でもあるGMは、そういう心の駆け引きを、誰よりも理解しているのだろう。


「これで日当が10億出るなら、ちょろい仕事じゃねぇか。……親父がよく言ってたぜ。男は人生で一度、人を殺す覚悟を以って臨む日が訪れるってな。」
「常に、相手を殺してでも生き残る覚悟を持て、よね。……お父様の言葉の中で、一番好きな言葉よ。」

 ヤスを殺す覚悟。
 ヤスを殺して生き延びる覚悟。


“ゲームは、メッセージと同じなのだ。”
“それはある意味、遠回しな恋文にも似る。伝えたいたった一つのことを、いくつものゲームを重ねて語る。”
“しかしもう、私たちは理解している。閉ざされた二日間の猫箱からは、無限の物語が湧き出すことを、知っている。”
“そしてさらに、私は犯人も動機も知っている。その上、それはすでに解明され、このゲームには関わってさえいない。”
「猫箱の物語という解を、私たちは二人とも得ているんです…! だから、これ以上、このようなゲームを繰り返す必要はないはずです…!! もしこれがあなたと私たちのゲームだというなら、私たちはすでに答えを得ている…!! ゲームは終了していいはずです!!」

 この物語は、ヤスに向けた恋文。
 そして、共に2つの物語を生み出すための読み手を探すためのもの。

 しかし、それは果たされ、そして、ここでは物語が紡がれる前に殺された。
 つまりは、物語に上塗りされなかった現実の出来事。
 だけどまだ終わらない。
 物語の続きを紡ぐために。
 当時はできなかったが、今ならできる。
 この“現実”を“物語”で上書きすることが。

 まぁ、それがEP8というわけだ。


「………そういうことなの。ここでこうしていると、いとこ部屋での大はしゃぎが聞こえてくるようだわ。………………くす。」
“霧江が何を言っているのか、猫箱の外の人間たちには、永遠にわかるまい。”
“爆発事故という猫箱で閉ざす彼女だけが、その真の意味を理解している……。”

 猫箱の中では、真実を上塗りすることができる。
 何度も何度も。
 その上塗りのし合いでゲームができるほどに。


「…………………。……そう。……目立ちたがり屋なのに、ここ一番で頼りない人ね。……やっぱり、あの人は私がいないと駄目なのね。」

 これを読み手を失った書き手として読み解いていく。
 読み手を誘導し、やる気を引き出したり、成長させたり。
 それはこのゲームの書き手の力量によると言えるからなぁ。


「……私にはわからないわ。あなたも、自分のお腹を痛めて子を産んだ経験を持つ、母のはず。命の尊さを、知らないわけがない…! そのあなたがどうして、これだけのことが出来るの…!」
「子供なんて。勝手に出来るわ。」

 書き手にとって、子とは物語。
 物語なんて勝手にできあがるものなのかもしれない。
 まぁ、ある意味では、だけど。


「子はかすがい、って言うわよね。」
「それが何?!」
「子は、夫を繋ぎ止めておくための、かすがいなのよ。……留弗夫さんに、私のことを認めさせ、あの女から彼を取り戻すための、かすがいだった。」
「でも、留弗夫さんはあなたが殺したわ。だったら、………わかるでしょう?」
「わかるって、……どういう意味!」
「私はもう。誰かの妻でもないし、母のつもりもない、ということよ。……私は私。霧江。留弗夫さんが死んだ今、右代宮でさえないわ。私は私の、得になるように生きる。」

 書き手にとって、子とは物語。
 ならば、夫とは読み手のこと。
 読み手に自分のことを認めさせること、物語はそのためのかすがいだった。
 だが、読み手として選ばれた戦人は死んだ。
 ならばもう、戦人のための書き手である必要はない。
 自分だけのために、自由に物語を書くことができるのだ。


「そうね、留弗夫は死んで、あんたは妻ではなくなったかもしれない。でも、縁寿ちゃんがいるでしょう…?! あんたはまだ、母であり続けるはずよ…!」
「言ったでしょ、かすがい、って。留弗夫さんがいなくなった今、縁寿は私にとって、必要なものじゃないわ。」
「……あ、……あんた……、それが、母親が子に対して言うことなのッ?!」
「絵羽姉さん。やめましょうよ。綺麗事は。」
「綺麗事…?!」
「私たちって、子供が欲しくて結婚したの? 違うでしょ? 好きな男と一緒に暮らしたいから、結婚したんでしょ? そして、結婚したんなら、その男を一生、手放したくないと思うでしょ? 子供は、そのための武器じゃない。」
「そんなこと考えて、子供作ったりなんかしないわよ…!!」
「そんなこと考えて、子供を作ることも出来るのよ。」

 特定の読み手のために生み出した物語は、その読み手がいなくなった時点で意味をなくす。
 読み手と一緒に楽しむために、物語が必要だった。
 ならば、読み手がいない今、必要ないのだ。
 物語は、読み手を繋ぎとめるための武器。
 そんなことを考えて、物語を作ることもできる。


「縁寿なんて、留弗夫さんを縛り付けるための、ただの鎖。……あるいは、家族ごっこをするための、子供の役という名の駒。……私にとって縁寿は、留弗夫さんの前で良い母を演じる時に必要な駒なだけよ。」

 プレイヤーを対戦席に縛り付けるための鎖。
 ゲームで遊ぶための、犯人という役。
 魔女を演じる時に必要な駒なだけ。


「…あんたッ、……それを縁寿ちゃんの前で言える?!」
「さすがに気の毒だから、本人には言わないわ。悪いお母さんを許してね、とでも書いて、姿を眩ますつもり。楼座さんと真里亞ちゃんを見ればわかるでしょ? 留弗夫さんがいない今、縁寿なんて私を縛る鎖なだけ。」
「……私は元の、たった一人の霧江に戻り、のんびりと余生を楽しむつもりよ。新しい挑戦、新しい人生。ひょっとしたら、新しい恋もあるかもね? くすくす…………。」

 ヤスに縛られない新しい物語。
 そんな作家としての人生。


「……それでも人間なの……。……それでも縁寿ちゃんの母なの?!」
「くすくすくす。縁寿なんか知ったことじゃないわよ。あんな、クソガキ。可愛いと思ったことなんて、一度だってないわよ。」
「……あ、……あんたって人は……。」
「あなただって、もう、家族ごっこから解放されたでしょう? 謳歌しましょうよ、女の自由を。感謝してほしいわ、譲治くんも、殺してあげたんだから。」
「こっ、……この、………人でなしがぁああぁああぁあぁ!!」
「あっはっはははハっはヒャっはハぁあぁあああああああぁああぁあッ!!!」

 19人目の負の側面。
 あるいはそれに支配されたイフの19人目。
 ニンゲンだと認められたいという願いすらを捨てた、人でなし。


「…………縁寿ちゃんのためにも、……そこで死になさい。………あんたは、爆発事故で死ぬ。死ぬ直前の瞬間まで、置いてきた娘のことを心配していた。……そう、刻むわ。猫箱の蓋の上にね………。」
「…………………………………。」
“霧江はそれを聞き、……口から血を零しながら、ニヤリと笑って、何かを言い返したらしい。”
“しかしその声は、喉に空いた穴から、ごぼごぼと血を零すだけで、言葉にはならなかった……。

 この人でなしの19人目の真里亞は、ヤスの物語のためにも、そこで死ぬべきであると。
 そんな負の感情など猫箱の中に封じて、上書きしてしまえばいい。
 そしてこう書き記すのだ。
 19人目の右代宮真里亞は、死ぬ直前までヤスのことを心配していたのだと。

 要は、ルーレットに選ばれた現実が、ベアトことヤスを殺すことだった。
 その事実を猫箱に閉じ込めることで、真実を上書きできるようにした。
 そして12年越しに、第6のゲームで読者に認めさせてヤスを蘇らせた。
 即ち、ヤスは生きていると上書きした。
 それにより、猫箱の中の自分を葬ることだと知りながら。

 つまり、ゲームのスタート時点は実はここであり、やっとそこに戻ってきた。
 ヤスが死に19人目が生き残るのを、ヤスが生き19人目が死ぬ物語に書き換えたのだ。
 そこから新しく物語を続けるために。





  お茶会。客席。

「……理御。私はゲームマスターじゃないと、何度言えばわかるの?」
「ではクレルだと言うのですか?! そんなはずはない…!!」
「えぇ。そんなはずはもちろんないわ。だって。クレルは死んだもの。………私たちはその葬儀に立ち会ったはず、忘れた……?」
「では、そこに立っている彼女は一体……。」
「死体よ。剥製じゃないわ。だからもちろん、中身がある。……綺麗な姿で隠しているけれど内側には、どろどろのハラワタが詰まってる。」

 まずはクレルとベアトとベルンの関係をまとめる。

 3組による恋の決闘。
 ヤスの謎を解いてもらいその物語を終わらせたいと願ったのが、ベアト。
 19人目の真里亞の謎を解いてもらいその物語を終わらせたいと願ったのが、クレル。
 2人揃って物語の続きを紡ぎたいのが、ベルン。

 クレルはベアトの依り代。
 よって別人。
 ベアトの謎を解いてその物語を終わらせ、それによって自身の謎を殺しその物語を終わらせた。
 つまり、あれはベアトの葬儀であると同時に、クレルの葬儀でもあった。

 あれは12年ごしの恋の決闘の結果。
 1986年に終わるはずだった2つの物語は、終わるに終われず、1996年になってやっと終わることができた。
 しかし、ベルンは物語の続きを欲している。
 だから“終わり”を踏み躙って“続き”をやるのだ。


「あっははははははははは、あーっはっはっはははははははははははは!! 真実ってそんなにも尊いものなの? 馬鹿らしい、愚かしい!!」
「どうしてニンゲンは真実を自在に出来ないのかしら。馬鹿みたいにそれだけを追い求め、そして目の当たりにして堪えられず、自ら屑肉と成り果てる!!」

 真実に堪え、魔女となり、ゲーム盤の真実を自在に塗り替える。
 物語の続きを紡ぐために、死んでいる暇などないのだから。


「ねぇ、見えてる? クレル? ………あなたもたま、この真実を隠したかったのよね?」
「あなたは戯れに、憧れる推理小説のラストのように、メッセージボトルに封じるつもりで、猫箱の物語をいくつも書いていた。それをあなたは、海に投じたわ。この真実を知ったら苦しむだろう者を救うためにね…!!」

 この真実とは、ベアトを生み出した者がベアトを殺したこと。
 だからその真実を知って悲しむ者とはベアト。
 自身が生き延びるために、ベアトを見捨てたなんて、ベアトは知りたくないだろう。
 クレルは、ベアトを生み出した者の、ベアトと共に物語を終わらせたかった側面。
 クレルは、その真実をベアトに知らせないために、メッセージボトルを流し。
 そして、知られる前に、物語を終わりまで辿り着かせ、共に死んだ。


「あなたが猫箱で閉ざし、絵羽がそれを錠前で閉じた。くすくすくす!! その箱を、私が切り裂いてあげたわ…!!」
「あっははははははははははッ、あんたが隠した全てが無駄ッ!! あんたが死んで隠した真実を、全て暴き出してやったわッ!! あっはははははははっはっはっはっはっはッ!!」

 願い通り、終わらせた。
 だから次は、続きの番。
 これまでは、死んだ者のための物語だった。
 これからは、生きている者のための物語。
 そのために、猫箱の中で全部閉じ込められたのではなく、その外へ出た者がいることを示さなければならない。
 手掛かりがなくては、ミステリーにならないのだから。


「それが、……あなたの目的だったと言うのですか?! あなたは、……クレルの死を、辱めるためだけに、このようなことをしたというのですか!! そしてそれを、……縁寿に見せて苦しめて…! やはりあなたは、……邪悪な魔女だった!!」
「私は最初から魔女よ。退屈から逃れることだけが目的の旅人。……生きては愛でて、死しては喰らって二度愛でる。それが魔女の生き様よッ!」

 死んで終われる。諦めて終われる。
 そんな別の自分に対して思うことはあってもおかしくない。
 だってベルンは、絶対に諦めないことを強いられているのだから。
 無数に死んだ自分たちの真実を、無念を喰らって生き延びねばならないのだから。
 そうして、一度で終わる死を無限に繰り返し、その先を、続きを紡いでいるのだから。


「理御。それでも、クレルにとってあなたは希望なのよ。死してなおね。」
「………………!」
「クレルは崖より投じられた時、すでに運命の袋小路に閉じ込められていた。そんな彼女にとって、あなたというもう一人の自分が、異なる世界では幸せに生きていたことを知れたのは、さぞや救いになったでしょうね。」
「……そうです。私は、彼女の救いなんです…! だから、彼女の分まで一生懸命に、幸せに生きなければならないんです…!」

 運命の袋小路に閉じ込められたクレルの希望は、その外に出ているベアトを殺した別のクレル。
 即ち、八城のこと。
 あるいは、その八城に付いているヤスのこと。


「そして、夜には親族会議だわ。………あなたは二十歳になったら、当主を継承するのだったわね? それは親族たちの間でも、円満に決まってることなのかしら…?」

「さすがに円満だとは信じてないようね。そういうことよ。……金蔵があなたを目に入れても痛くないほどに可愛がり、特例的に当主の座をあなたに直接、継承しようとしている。そのことを、親族兄弟たちが面白く思っているわけない。」

“そこで金蔵は今夜の親族会議で、ある難題を吹っ掛けるつもりだった……。”

 まぁ、つまり、金蔵が仕組んだ惨劇。
 猫箱を閉ざす仕掛けを作ったのは金蔵。
 よって、ベアトの猫箱の外の大きい猫箱は金蔵の。
 1986年が期限なのは金蔵が決めていたことで、ベアトのはそれに合わせたのだろう。


“決して出られぬ牢獄の鉄格子の先に見えるわずかな空に、ベアトリーチェという魔女は、幸せになれたかもしれない世界を夢想した…。”
“しかし、その鉄格子の先の空は、…………またしても、牢の中だったのだ……。”

 ベアトは虚偽の世界の住人。
 よって、その外は真実の世界。
 でもその世界もまた猫箱の中。
 虚偽は猫箱の中で真実と成り、猫箱の外に出ることを望む。


「ベアトにゲームで負けたから、腹いせで。……くすくすくすくす!! あぁ、これで少しは負けたムカツキも晴れてきたわ…! ねぇ、ベアト、見てる? 見えてる?! そして覚えてる?! あなたには、絶対に奇跡は起きないって、私、約束したわよね?!」

 物語の続きを望むベルンが、物語を終わらせることを望むベアトに負ける形になったのは、腹が立っただろうな。
 まぁ、茶番なのだが。
 ベアトの物語の続きを望むベルンには、一度ベアトの真実で決着させなければならなかったのだから。
 そして、袋小路の中で諦めたベアトに奇跡など起きない。
 奇跡は生きて足掻いている別の自分が叶えるのだから。

 
「……お前が、いい話で終わらせるわけがねェ。そこまでベアトリーチェが憎いか。」
「私が勝ち逃げなんて許すと思う…? 私に敗北の屈辱を味わわせてくれた分、たっぷりとお返しをしないとね。私、根に持つと百年は忘れないわよ。」
「根の暗ぇヤツだ。」
「私の心を蔑ろにしないで欲しいわね。……くっすくすくすくすくす!!」

 猫箱の中の猫がベアト。
 猫箱の中の無数の猫の女王がベルン。
 無数の猫の死を喰らい生き延びることを強いられた、共食いの猫。
 それを強いる無数の猫は憎いだろうさ。
 死ねば、諦めれば、楽になれるのだから。
 死んで勝ち逃げなんて許せるはずがない。
 どうして、そこまでして生き延びなければならないのか。
 それは無数の自分の無念を背負っているから。
 その心を推理せよ。


「私の遊びを邪魔するの……?」
「てめぇは神じゃねぇ。出来るのは運命を嘲笑うことだけだ。………理御の運命は理御が決める。人間の運命を、玩具にするんじゃねェ。」

 遊びとはゲーム。
 神はフェザリーヌ。
 理御は八城のゲーム盤に置かれた新生ヤスに重ね合わされている。
 これはそのヤスを駒として、ベアトの物語の続きを紡ぐゲーム。


“しかし、奇跡の魔女が、絶対に奇跡はないと保証したその未来の楔は、あまりに強固にして無慈悲……。”
“理御の胸を、わずかずつ、そして確実に貫いていく……。”
「……いいか。……俺が一瞬だけ包囲を破る。そしたら全力で走れ。どこまでも真っ直ぐな。方向は大事じゃない。ここから遠ざかることだけを意識して、ただひたすらにどこまでも走れ。」

 己を閉じ込める猫箱という名の運命の袋小路。
 猫箱の中にいては、絶対の運命に殺される。
 それより逃れる。
 どこでもいい、どこかの未来に辿り着くために。


「……………可能な限り……、努力します……。……無理な時は、……許して下さい………。」
「……無理な時? 弱音を吐くな。俺が許さねェ。クレルが許さねェ。」
「……お前はクレルの、237万8917分の1の希望だろうが。お前が諦めたら、お前は無数の世界のお前たちを裏切るんだ……!! だから挫けるんじゃねぇ、足掻いて足掻くんだよ…!! 奇跡を探すんじゃねぇ、お前が奇跡になるんだッ!!」
「……私が、………奇跡に………。」
「お前は幸せな未来へ辿り着くんだよ。挫けるんじゃねェ、弱音を吐くんじゃねェ。もう一度弱音を言ってみろ。今度は俺がお前の尻を抓ってやる…!」
「…………は、………はい……。」

 無数の自分の願いを背負って、奇跡に辿り着くために足掻く、ヤスの道程。


「霧江と留弗夫が犯人で、島の人間を皆殺しにした? 理御を客間に呼び出して射殺した? 悪ぃな、そんな“真実”とやらを、ミステリーが認めるわけには行かねェ。こいつは全て、ファンタジーだ。」
「ファンタジー? そういうことにして、理御の運命を逃れさせるつもり? やってご覧なさいな。くっくくくくく、くっすくすくすくすくす!! あっはははっははっははははははは、ひぃヤっはぁああぁっはァあああアぁああぁッ!!!」
「第1則、手掛かり全ての揃わぬ事件を禁ず。」
“……ウィルの黒い刃は確かにベルンカステルの体を、斜めに切断したはず。”
“しかしまるで、水面に映る月を斬るかのように、……それは意味を為さない。”

 水面に映る月とは、ベアトのこと。
 ベアト=ベルン。
 即ち、ファンタジーのふりをしたミステリー。


「なぁに? 手掛かりって?」
「霧江と留弗夫が犯人だとする、お前の“ミステリー”を、認めない。……霧江たちが犯人であることを示す手掛かりは、何れのゲーム中にも存在しない。」
「あるわけないじゃない。あったとしても、島は丸ごと吹き飛んだんだし。」
「つまり手掛かりなしってわけだな。ならばそれはミステリーじゃねぇ。ファンタジーだ。」
「……はぁ…?」
“立証できない真実は、ニンゲンの世界では真実と成り得ない。”
“即ち、真実さえも、猫箱の外には出られないのだ。”

 第7のゲームは、ベアト殺人事件を解くミステリー。
 だから留弗夫と霧江の殺人は主題じゃない。
 誰がベアトを殺したのか。
 その手掛かりは、全て揃っている。


「戦うのさえも馬鹿らしい。おいで、ゲロカス。好きなだけ、私を斬ってご覧なさい。あんたの言い分、全部、聞いてあげるわ。」
「………貴様の、心を蔑ろにしたミステリーを全て貫く、二十の楔。くれてやらぁ。」
「二十の楔で私を倒せなかった時は、………覚悟することね? くすくす、さぁ、おいで。遊んであげるわ、……二十の楔とやら!」

 第1則。手掛かり全ての揃わぬ事件を禁ず。
 第7則。死体なき事件であることを禁ず。
 ベアト殺人事件はこれをクリアしている。
 他の事件も同様。
 クリア。

 第9則。探偵が複数あることを禁ず。
 第11則。使用人が犯人であることを禁ず。
 これらもクリア。

 第12則。真犯人が複数であることを禁ず。
 真犯人は19人目の右代宮真里亞。金蔵は共犯にすぎない。
 クリア。


 漫画版。
 第16則。物語に必要以上の描写は入れるべきではない。
 クリア。
 全てヒントだから。


 真相解明読本から引用。
 第2則。作者が故意に読者を欺いてはならない。
 これは確か、作中の人物によるトリックならありだったはず。
 メッセージボトルの執筆者は物語の中で描かれている。
 よってクリア。

 第3則。物語に不必要に恋愛要素を加えるべきではない。
 物語に描かれた恋愛要素は推理に必要だった。
 クリア。

 第4則。探偵自身、もしくは捜査当局の人間が犯人であってはならない。
 第5のゲームにおいて、真犯人は探偵となったが、そのゲームでは殺人を犯す犯人ではない。
 クリア。

 第5則。偶然や動機のなき自白によって事件を解決してはならない。
 動機は全て物語の中に記してある。
 クリア。

 第6則。探偵小説には探偵役が登場しなければならない。
 第8則。犯罪の解明に占いや心霊術、読心術などを用いてはいけない。
 これらもクリア。

 第10則。犯人は物語の中で有用な役割を演じている人物でなければならない。
 真犯人は第1のゲームからベアトを演じていた。
 クリア。

 第13則。秘密結社の類は登場させるべきではない。それらが登場するのは冒険小説やスパイ小説である。
 第14則。未発見の元素や、想像上のみに存在する毒物などを犯行に使用してはならない。
 これらもクリア。

 第15則。物語の最終章に辿り着くまでに真相を察しえるよう、事件の真相は明白でなければならない。
 真相は明白。
 クリア。

 第17則。職業的犯罪者を犯人にすることは避けるべきである。
 第18則。事件の真相が、事故あるいは自殺であるべきではない。
 これらもクリア。


 第19則。探偵小説における犯罪は個人的動機に拠るもので、読者の日常生活を反映したものでなければならない。国際的陰謀や政治犯罪などはスパイ小説の類が扱うべきものである。
 要するに、組織的な犯罪ではなく、個人的な動機による犯罪であればいい。
 クリア。

 第20則。以下のような展開は使い古されているため、避けるべきである。
 略。
 これらも全てクリア。
 特筆すると、タバコの銘柄から犯人特定に引っ掛かりそうだけれど、EP3のあれは絵羽も秀吉も犯人ではなく、ただの冤罪に過ぎないので、クリアしている。

 そんなわけで、一応、全てクリアしているはず。
 だからこれはミステリー。





 お茶会。カケラの海。

“気付けば、まるで星の海を思わせるような、……あるいは、星を散らした深海のようなところを駆け抜けていた。”
“気を許せば、転びそうになる。”
“いや、気を許せば、走っているのか、それとも、自分は走っているつもりになっているだけで、実は自由落下しているのか、……星の海をどこまでも沈んでいるだけなのではないか、わからなくなる。”
“どこを目指すわけでもなく、ただただ、理御は走った。”
“足を止めるわけには行かない。ここで倒れるわけには行かない。”
“自分が倒れれば、……無数の世界の自分たちの希望を、潰えさせることになる…。”
“ベアトリーチェたちが望んだ、幸せな世界。”
“自分だけが、……その世界へ辿り着くことが出来る、最後の希望なのだ…。”
“……それが、わかっていても、…………奇跡を司る魔女に、奇跡はないと宣告されて突きつけられた“真実”は、あまりに冷酷に、……理御の胸を抉る……。”

 カケラの海。
 19人目の真里亞の世界。
 走るとは、考えること。
 考え続けることで、生き延びる。
 無限にカケラを生み出して繋ぎ合わせ、いつかどこかの未来に辿り着くために。
 それが無数の世界の自分たちの希望。
 奇跡の魔女が宣告した“真実”は、ベアトを演じた者がベアトを殺すというもの。


「……ごめんなさい、……本当にごめんなさい……。……でも、……私はあの日、あそこで、殺される運命だった……。」
「そうだな。人は誰だって、最期には死ぬ運命だ。なら、その人生は全て無意味なのか?」
「違うだろ。人生の意味も、価値も、人生そのものすらも、人が自分で描くんだ。……押し付けられた運命が何だってんだ。受け入れるな。世界はお前が紡げ、自らで…!」

 ベアト即ちヤスは、19人目に殺された。
 だからベアトは1986年に死ぬ。
 そう運命に刻まれた。
 だが、死ねば無意味になるのか。
 死後にも物語は続く。
 あるいは、死に方を塗り替えることができる。
 自分で自分の結末までを描くことができるのだ。


「………ウィル、……あなたの、左腕……!」
「あぁ、……忘れて来ちまった。取りに帰るのも億劫だ。」

 左腕は、第4のゲームのベアトの心臓。
 それを犠牲にして、生き延びたということは。
 このウィルには、ヤスの主が重ね合わされている。
 二つの心臓は、ベアトの主の魂を支える二本の柱。
 自分の方の真実を犠牲にして、ヤスの方の真実を守った。


“片腕で理御を抱え上げている。刀は抜けない。”
“しかしウィルは理御を下ろさない。”
“……絶対に理御を、ここから逃げ延びさせ、ベアトリーチェたちが夢見た、幸せな物語に辿り着かせる。”

 主は、残された右腕でヤスを抱え、下ろさない。
 絶対に、ベアトたちが夢見た、幸せな物語に辿り着かせる。


「クソッタレな、お涙頂戴のミステリーばかりに飽きたからだよ。………ハッピーエンド上等、逃げ延びてやるぜ。」
「俺が教えてやるんだよ。バッドエンドしかないと絶望して死んだベアトリーチェに、ハッピーエンドもありえるんだって教えてやるんだ。だから絶対にお前を、下ろさねェ。」

 そのために、主は、八城は作家になって偽書を書いているのだ。


「猫ども、左の二の腕もくれてやるぜ。欲しけりゃ両足もくれてやる。……だがな、絶対ェに理御だけは放さねェ。……俺が、這ってでもこいつを、お前というバッドエンドから逃がしてやる……!」
「いいの、理御? ウィルは、あんたを庇って死ぬ気よ? 嫌でしょう? 私なんか放って逃げて下さいって、お言いなさいよ。」

 猫は、死んだベアトたち。
 ベアトを逃さない死の運命。
 右腕、即ち、ヤスの真実以外はくれてやる。
 這ってでもヤスをバッドエンドから逃がしてやる。
 そういう決意。
 ヤスに問い掛けられたのは、EP4の三択。
 駒さえ諦めれば主だけは助かるのだと。


「……私を、…………離さないで下さい……ッ。……逃げ延びます、絶対に! そして、あなたも…!!」
「それでいい」
“その言葉に、ウィルは理御を力強く抱きかかえる。”
「というわけだ。足掻くぜ、ベルンカステル。」
「私たちは、奇跡を諦めない…!!」
「絶対に奇跡は訪れないと奇跡の魔女が約束したのに、それをよくも口に出来たこと。………くすくすくす、うっふふふっはっはっはっははははははッ!! さよなら、二人とも。忘却の深遠で死すら迎えられずに、埃に降り積もられて消え去りなさい!!」

 互いが互いを絶対に諦めない。
 決断は成された。
 それに対して、最期の壁としてベルンが塞がる。
 奇跡がなくば、二人揃った幸せな物語は生まれず、忘却の深遠に消え去る。
 奇跡への道筋を作った者として、それが奇跡に相応しいか試すために。





 裏お茶会。

“チェス盤の上に置かれた白い駒が2つ。”
“……それを取り囲む無数の黒い駒は、もはやマスの上にさえ収まらずに、ぎっしりと取り囲んでいる。”
“そしてその白い駒2つを、ベルンカステルは指で突いてパタリと倒し、……盤の外へ取り除く。”

 黒の駒に囲まれたゲーム盤は、前に書いた考えぬ者を嵌め殺すもの。
 ヤスの真実を認めたがゆえに、その幻想によって殺される。
 ヤス一人では奇跡に満たないのだ。
 ヤスと19人目の真里亞が揃って奇跡なのだから。
 そんなわけで、無くした左腕を、読み手、プレイヤーが補えばいい。
 二人揃って、ニンゲンだと認められ、今も新たにヤスの物語を紡いでいける。
 そんな奇跡。


「………うむ。やはりそなたの朗読は耳に馴染むぞ、我が巫女よ。」

 やはり特別なんだよな。
 定位置に戻ったって感じなのだろう。


「あんたのお望み通り、ハラワタの内側まで掻き出してやった。答え合わせには、これで充分でしょう?」
「うむ。……実に満足しているぞ。そなたが明かした答えを鍵に、これまでの物語を遡り、まるで宝石箱のような密室の数々を、一つずつ開いていこう。」
「………鍵を得ることは楽しい。そして、その鍵で個々を開いていくことは、もっと楽しい。ご苦労であった、我が巫女よ。これより先は、私ひとりでゆっくりと思考を楽しみたい。もう充分であるぞ……。」


「ふっふふふふ………。天晴れであったぞ、ベルンカステル。可愛い可愛い、我が巫女よ……。」

 可愛い娘だもんな。
 万感の思いが籠っているんだろうな。


「あら、ラムダ。いたの? いるわよね、私のいるところなら、どこへでも。」

 フェザリーヌとベルンとラムダの関係はどんなのだろう?
 フェザリーヌが主で、ベルンがその巫女であるのは確定。
 これで19人目とヤスの二人を最低限満たすはずだが。
 ベルンとラムダがセットなら。
 ベルンとラムダは、魂を支える二本の柱で、フェザリーヌはその上で支えられている一つの魂という感じか。
 これがしっくりくるかな。

 ってことは、今回左腕であるラムダが犠牲になってるじゃん。
 これがEP8での活躍に繋がるのかも。


“このゲームに、ハッピーエンドは与えない。”

 ゲームにそれが与えられなくても、ゲームをしているプレイヤーたちには与えることができる。
 駒にとってのハッピーエンドではないけれど、そのプレイヤーがハッピーエンドを迎えれば、それは駒にとって幸せなのではないだろうか。





 このEP7で物語の全貌が明かされた。
 私の中でも大分整理がついた気がする。


  1. 2019/07/20(土) 22:52:35|
  2. うみねこ咲へ向けて
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EP7の序盤を再読

 どうやら咲とキコニアの発売が少し延期になるようだ。
 残念だが、推理できる期間が延びると思えば良いことでもあるかもしれない。

 さて、どうもキコニアはとても攻め込んだものであるようだ。
 そして、二度と同じものは描けないくらいのようだ。

 うみねこも、二度と同じものは描けないものだったはず。
 まぁ、どちらも真であるなら、同一人物でも別人であるという、つまり、時期によって描けるものが違うだけであり、どちらも二度と同じものは描けないものなのだろうが。
 うみねこってめっちゃ攻めてたと思うのだけど、それと同等かそれ以上ってどんなのだっていう。

 まぁ、うみねこは対戦席が用意されていて、取っ掛かりを掴めばあとは辿っていくだけ。
 最終的には物語のいたるところで自身のことについて語っているし、難易度はバカ高いけど解いて欲しがっているわけで。
 プレイヤーフレンドリーだったな。

 それがキコニアではプレイヤーの席は用意されていないと。
 ある意味、ひぐらしに回帰したようなものか。
 あれも当初は黒幕に相手にされてもいなかったのが、最後にはプレイヤーに昇格していたわけで。
 まああれだ、推理考察していようと、それだけではプレイヤーではない。
 黒幕と伍する立場にまで登り詰めなければプレイヤー足りえないのだろうさ。
 それが物語の中の駒だろうと、物語の外の読者だろうと。

 つまり問われるのは、プレイヤー足らんとする意思の強さ。
 実に「なく頃に」的だな。
 面白そうだ。


 んじゃ、再読の続きといこう。





“土は土に。灰は灰に、塵は塵に。幻は幻に。そして、夢は夢に。”
“夢とは、寄せては返す波間の真砂に描くもの。”
“それは波が寄せる度に、真っ白に戻ってしまう儚きもの。”
“だから心無き人は、それを描くことを、無駄なことだと嘲笑うだろう。”
“しかしもう、彼女の描いた夢を消す波は、二度と訪れない。”
“彼女が最後に描いた、美しき夢は、もう永遠に消えることはない。”
“さぁさ、思い浮かべてご覧なさい。”
“それは暖かき春の日の、やわらかき午後の日差しが、そのまま陰ることを忘れたかのよう。”
“それはとてもとても、素敵なことなのだから……。”

 第6のゲームでヤスの魂が一に満ち、それがカケラに刻まれて新たな物語が紡がれる。
 即ち、第7のゲームは、初っ端からヤスという夢が全開で襲い掛かってくるという悪夢のようなゲームなのだ。
 が、すでに夢の住人となった人々にとっては、それは真実を明かされているに見えるのだろう。
 永遠に覚めぬ夢は、もはや現実。
 黒く染まったキングは、幻想を自ら紡ぎ出す。
 残された白いマスは足元だけ。
 つまり、足元を注意して歩きましょう、ってことだ。

 まあともあれ、夢の実現おめでとう、と言ったところ。





 ベルン登場。

「くすくす……。……ベアトの猫箱より、もっと大きな猫箱で閉ざしただけよ。理御は、その中で生まれ得る可能性を持つ、一つの駒。」

 ベアトの猫箱より大きい猫箱は、金蔵の猫箱。
 金蔵のルーレットで分岐した未来は多岐に亘りそうだよなぁ。





 楼座の過去話。

「お前は、崖から足を踏み外すことを期待して、そこを歩かせたのか。」

 多分、金蔵はそれを期待してルーレットを回していたと思われる。
 金蔵は九羽鳥庵のベアトにどんな役を期待していたのだろうか。
 19人目と同じように依り代として育てられていたにしては、確実に失敗していると思うのだが。
 自分がベアトじゃないというのは当然であり、その別人のベアトを自分の中に生み出せるか、だから。
 遊び、ゲームのルール、想像力、その辺が足りてなさそう。
 うーん、結果失敗作となったのか、それともそもそもそう育てるつもり自体がなかったのか。
 金蔵のゲーム盤はどんな感じだったのだろう?


“どれほど長い年月を、楼座は苛まれてきたというのか。”
“今、楼座は初めて。……海を初めて見た時の、あの無邪気な笑顔のベアトリーチェと、再会しているだろう。”
“楼座を許せるのは、彼女だけだ。”
“その彼女と、楼座はとうやく対話を始めることが出来る……。”
「……どなたか存知ないけれど、ありがとう。……彼女は私を、許してくれるかしら。」
「あんたは20年近くもそれを悩んだ。長過ぎだ。彼女はもう勘弁しろと言ってらァ。」
「……そうですよ、楼座叔母さん。あなたが悲しめば悲しむほど、きっと、ベアトリーチェも悲しむでしょう。」
「…………あなたまで…。ありがとう。……私には、私が許されるかどうかわからないけれど。……彼女が許してくれるかどうか、胸の中で問い掛けてみることにするわ。……2人とも、ありがとう。恥ずかしいところを見せて、ごめんなさい。」

 八城は自分を許したのだろうか。
 ヤスに許されたのだろうか。
 私としては、許されたと思うのだが。





 ベルンから観劇者権限を渡される。

「……“観劇者権限”か。………それを元老院の許可なく与えられることは禁じられてるはず。」

 観劇の魔女の観劇は、演出も含まれているから鵜呑みにはできない。
 問題は、どんな脚本に基づいているのか、ということ。


「私の、命令権者です。私は命令に、逆らえませン。」
「その命令権者は誰だ。そいつに交渉する。」
「交渉など、デキマセン。私たチの、命令権者デス。」
「ここへ嘉音を呼べ。……俺は拷問も観劇も嫌ェだ。」

「嘉音を呼べ。お前たちに確かめたいことがある。」
「オ呼ビデ キマセン。ソレデモナ お、ソレヲゴ希望デ スカ……?」
「呼ばねぇなら、お前を“観劇”する。」
「ドウシ テモト仰 ルノデシタ ラ、……特 別ニオ呼ビス、ルコ トモ出 来マ ス  ガ   ?」

「嘉 音ク  ン ヲ、  呼  ンデ マ イリマ  ス ガ。」
「ヨ  ロ シ イデ      ス    カ       ?」

“……チェスの初心者は時に、不注意にも、相手の射線に気付かずに、そこへキングを動かしてしまうことがある。”
“それを容赦なく取っても良いが、……上級者はそれをさり気なく教えてやるべきだ。
“もう一歩、踏み込むと、……取られてしまいますよ、と。”
“これは、……それに、……似る………。”
「……………………。」
“……なるほどな。やはり、か………。”

 嘉音を呼ぶことは可能で、そうしたらあなたの負けですよと教えてくれた。





 金蔵を観劇。

「……ウィラードさま。お館様は遺言を好まれません。生きているうちより、何事かを投げ出すお方ではございません。」
「……だろうな。らしからぬこととは思っていた。」
「生ある限り足掻いてこそ人間であろうが! それを早々に諦め遺言に残そうという浅ましさなど笑止千万!」
「確かに、その方がお前らしい。……死ぬかもしれないから、過去語りを記せと言い出すのは、確かにお前の柄じゃねェ。」

 やはり、メッセージボトルは生きているから出しているのだろうな。


「葬式ってのは、死者のためにやるんじゃねェ。……生きている人間が、死んだ人間への未練を断ち切るために行なうもんだ。……それが、出来なかった。だから、爛れたんだ。」

 ヤスの死体はない。
 第7のゲームはヤス即ち、ベアトの葬式なのだろう。


「………この私が、自らの口より真実を話せる内に、この機会を設けてくれたことを感謝する。……お前はきっと、ベアトリーチェより遣わされた、天の使いに違いない…。……感謝する………。」
「その機会を設けたのはベアトリーチェじゃねェ。どこぞの魔女だ。……いや、どっちも魔女に違いねェ…。」

 成れの果ての別人だけど、多分、同一人物。
 そのベアトの生み出した世界の天界大法院に所属していたから、天の使いなのも間違いない。
 その設定は、金蔵だから知っているんだろうけど。
 金蔵のゲーム盤では、19年前の赤子を、真里亞と理御に意図的に分岐させている。
 つまり、理御の世界の金蔵であろうとも、真里亞の世界のために動くことは可能だろう。
 金蔵ならやりかねん。

 てなわけで、金蔵を観劇しても、用意された脚本に従ったものだろうことは、疑いようもない。
 金蔵の世界は、金蔵の魔法で修飾してあるだろう。


「私は右代宮家など、継ぎたくはなかった。……私が当主に選ばれたのは、運命のいたずらに過ぎぬのだ。」

「全ては、この足の指のせいだ。足の指が1本ずつ足りなかったなら、我が人生はまったく異なるものになっていただろう……。」

「下らぬ話よ。長老どもは、自分たちの誰も得をしない馬の骨であれば、誰でも良かったのだ。」

 吉兆である6本指の分家の金蔵であれば、どこの馬の骨だろうと良かった。
 つまり、別人であっても構わなかった。


「あれは、……あまりに長い長い、灰色の日々であった。それは私には、今に生す苔のような、気の遠くなるほど長い長い、死んだ時間……。」

“気付けばもう、自らを若者と呼べば、若者たちに笑われそうになる歳になっていた。”
“気が遠くなるような、長くても何も中身のない灰色の日々。”
“それは20年にも及んだ。”
“20年あれば、人は生まれ、志を持ち、社会へ飛び出すことさえ出来る。”
“つまり、……社会人となって初めて人間と呼べるのだとしたら。”
“私は、人間が一人、生み出せるほどの膨大な時間を、……何をすることなく、欲深な老人たちの人形として過ごしていたわけだ。”
“そんな日々は、体を老いさせても、皮肉にも、心は老いさせない。”
“心だけは、小田原に呼び出される直前の、……あの充実した日々を懐かしむ、若いまま。”
“なのに体だけは老いを重ね、いつしか、その乖離は理解し難いほどにまで広がった。”
“だから、鏡に映る、疲れ切った男が、とても自分と思えなかった。”
“いや、本当に自分ではないのだ。”

 当主を受け継ぐ前と後では、別人だと認識している。
 そして、当主として過ごしている時間を全てを別の自分として乖離させ、そして元の自分は昔のままの精神年齢を保たせている。
 全ては別の自分がしたことで、本当の自分は何も成していない。
 故に、何も満たされることはない。
 そして、その年月は、“何か”を産み育んていたとしてもおかしくはない。
 “それ”にいつ名前が付けられたかはわからないが、きっとその名前は、ベアトリーチェというのだろう。


「……理御よ。自ら生きぬ人生ほど希薄で長いものはない。なのに、それはあっという間に過ぎ去るのだ。……心せよ。」
「自ら、生きる人生……。」
「生きるってことは、意思を持つということだ。……殺された日々だったろうよ。」
「そうだ。私は行きたかった。いや、死にたかった。……操り人形はどうすれば死ねる?」
「………………。……糸を、断ち切ることです。」
「そうだ。それが死ぬことであり、生きることであり、……解放だ。」

 これは、金蔵から19人目への、先達からの助言。
 自分と同じような境遇を送らせ、同じように克己を果たさせる。
 全ては自身の魔法を受け継がせるためのマッチポンプ的な何かだろう。


「……同じ死ぬなら、誰かの役に立つべきと思った。……いや、違うな。私には自らの命を絶つ気力さえなかったのだろう。もっともらしく死ねる理由が、戦争だったのだ。」

「幸いと喜ぶ仲間もいたよ。私には逆だった。戦って死ぬという、出来すぎた美酒のヤケ酒が欲しかっただけなのだ。」

 無為に死ぬのではなく、戦って死ぬことを選ぶ。
 その間だけは、本気で生きることができる、そんな形の死を選びたいのだろう。
 その“本気”というのが、黄金や無限の魔法に通じるだろうが。


“嫌だ、死にたくないッ!!
“どうして? あんなにも望んだのに?”
“私はもう、知ってしまった。生きることの、素晴らしさを。”
“彼女が教えてくれた。ビーチェが教えてくれた。”
“彼女と話している時だけ解放された。違う!”
“彼女と話して、私は初めて生きたのだ。生まれたのだ!!”
“生きたいッ。生きたい生きたい生きたいッ!! 死にたくない!!”
“生きて彼女と会いたい、今すぐに!! 会わなきゃ死ぬ、殺される!!”
“………落ち着け金蔵、……彼女だって殺されるかもしれない…!”
“自分が生きても、彼女が殺されたら、それは同じことなんだ……!!”

 想像するに、多分、ビーチェとの会話で解放されたのではない。
 ビーチェを依り代として、己が生み出したベアトリーチェと対話することで、解放されたのだろう。
 金蔵が生み出した“永遠の淑女”という卵が、ビーチェという依り代を得ることで、孵化した。
 つまり、金蔵とビーチェの会話に、嘉音(真)とベアトの会話を修飾していた。
 通訳は金蔵とビーチェの2人だけであり、その2人の会話を操れば、日本人側とイタリア人側の両方に幻想を植え付けるのは簡単。
 つまり、金蔵(偽)こと嘉音(真)は、ビーチェとの会話を通じて、虚偽の世界を構築していった。
 そしてその果てに、現実世界に虚偽の世界を現出させた。
 それがこの惨劇。
 自分が全力で生きるために、そして、ベアトを全力で生かすために。
 自分の命の全てを賭けたルーレット。


『迎えが来るまでの数日間でいいから。……の方は、叶えられないということさ。』
『………え? どういう意味?』
『君をさらう。……そっちを叶えることにした。』

 幻想を外に持ち出す。夢の続きを見るために。
 19人目もまたこの道を歩む。


『……あなたと同じく私も、あなたが居てくれる限り、生きることを許される屍。……あなたがいなくなったら、私は今すぐにでも死んでしまう。』
『死なせない。』
『本当に?』
『絶対に。』
『取ってね、責任。………だってあなたは、私をさらったんだから。』

 主と駒との関係であることを匂わせる台詞。




「これまでに聞いたどのベアトリーチェも、殺されてなどいない。…それを、俺たちが“殺された”ことにしようとしている。ベルンカステルにとっては、これこそが本当の葬儀なんだ。」
「…………誰も“殺された”ことを知らない。それを、私たちが暴こうとしている?」





 真里亞を観劇。

「“見よ、乙女が身篭って男の子を産むであろう。その名はインマヌエルなり”。……真里亞はもし男の子に生まれていたなら、それが名前だったかもしれない。」
「マタイ伝1章20節。」
「違うよ、23節。20節は“かくて、これらを思い巡らす時、御使いが夢に現れて言った。ダビデの子、ヨセフよ。妻マリアを迎えることを恐れるな。その胎に宿る者は聖霊によるものなり”。」

 19人目の名前は、真里亞。
 一人で子を産むがために。
 ならば、その子であるヤスは、インマヌエルということになる。


「ベアトは宇宙を生み出す最小の人数を、2人だと言った。私はこれを、両親がいないと子は成せないという意味だと感じた。……その時、私は思ったの。ベアトは魔女だけれど、ニンゲンから生まれた魔女なんだ、って。ベアトは聖霊の子じゃない。」
「でも、私は違う。ママだけから生まれた。聖霊から生まれた! ………ベアトは、私と一緒じゃなきゃ宇宙を作れない。でも私は、“神は我らと共にある”。私1人でも、聖霊とともに宇宙が作れる!」
「ベアトは私を原始の魔女と呼んだ。そしてやがては、1人で全てを生み出せる造物主になれるよと言ってくれた。私が1人で、無から有を創造する! それをベアトが無限に膨らませる! 縁寿はそれを受け継ぎ、語り広げる魔女の使徒だった!」
「一と無限は大きく違う。だからベアトは偉い。でも、無と有の前には、一も無限も同じ有でしかない。私は世界で一番の魔女、うぅん! 世界で一番偉い、造物主になることを約束されていた子…!」
「マリアージュ・ソルシエールは、そんな私を温める卵の巣! 私は、右代宮真里亞!! 神と共にある真里亞!!」

 インマヌエルの名の意味は“神は我らと共にある”。
 神と共にあるヤス。
 実に運命的。
 だから、19人目の真里亞は、神すなわち造物主を目指した。


「つまり、1986年の六軒島で、ベアトリーチェに実際に会えたのは、郷田を除く使用人4人とお前と南條の、合計6人だけだったということか。」

 19人目は隠れて住んでいたわけで、源治・熊沢・南條はその協力者だろう。
 厳密には金蔵の協力者なのだが。
 ので、19人目が自分の代わりに魔女を認めさせ、魔女として姿を現わすことへの協力、今のところは真里亞の前に姿を現わす時に協力してもらっているのだろう。
 3人とも、隠れ住んでいる19人目のことを憐れんでいるだろうから。

 紗音と嘉音はEP2であった通り。
 真里亞の次のターゲットとして、その目の前に現れたのだろう。


“自分を認識出来るニンゲンを少しずつ増やし、島の全員に自分を認めさせることが、ベアトリーチェのゲーム、ということに違いない…。”

 魔法説のベアト、姉ベアトについてはその通り。
 雛ベアトが生まれてからは少し異なる。
 戦人に認めさせたいのは、姉ベアトの方ではなく、雛ベアトの方に変わったのだから。
 そして、それを主が諦めたことでまた切り替わる。
 戦人に認めさせるのは物語の中で、現実ではメッセージボトルを読んだ読み手たちに認めさせる方向へ。


“……しかし、戦人の好むチェス盤理論によるならば。”
“己が存在を認めさせたいベアトリーチェとは即ち、認めさせねば、存在を持たない人物だと言える。”

 雛ベアトは、戦人に認められなければ存在できない、存在しない人物。
 主は、認められずとも、存在している人物。
 そして、雛ベアトを認めさせるために、魔法を用いる。

 この時点で、雛ベアトが単なる別の人格でないのがわかる。
 主とは異なる過程を経て結果に至る、平行世界の向こう側の存在。
 つまり、現実に肉体を持たず、平行世界に肉体を持つ存在。
 要するに、主とは別の肉体を持つという“設定”。


“………宇宙を生み出す最少人数は2人。”
“しかし、産むだけなら1人でも出来ると、真里亞は言った。”
“しかし、真里亞は2人目を欲した。1人で産んだ世界を育てる2人目を欲したのだ。”
“産んでも育まねば、死んで消えるから?”
“……宇宙を、ベアトリーチェに置き換えてみよう。”
“ベアトリーチェを生み出す最少人数は2人。”
“しかし、産むだけなら1人でも出来る。”
“しかし、その1人は2人目を欲した。自分が産んだベアトリーチェを認める2人目を欲したのだ。”

 姉ベアトの2人目に選んだのが、真里亞。
 雛ベアトの2人目に選んだのが、戦人。


“ベアトリーチェを生み出した1人は、2人目に認めさせようとして、真里亞をその2人目に選んだのだ。”
“古戸ヱリカの心ない推理を待たずとも、ティーカップの魔法は手品だとわかる。”
“反魔法の毒素の話を鵜呑みにした真里亞は、魔法に対し、目を閉じたのだ。”
“相手が目を閉じてくれれば、どんな手品だって魔法に出来る。”

 今回の第7のゲームのヤスの話を鵜呑みにした読者は、目を閉じたのだ。


“1人でベアトリーチェを産み出すことが、卵を産むことと考えるなら、1人で産んだだけでは、妄想と同じ。卵の中も同然だ。”
“2人目に認められて初めて、殻を割り、現れる。”
“2人目に卵を温めてもらって、初めて、現れる。”
“真里亞に認めさせることで初めて、ベアトリーチェは孵化し、雛が誕生したのだ。”
“なら、ベアトリーチェとその魔法大系とやらを育むマリアージュ・ソルシエールは、まるで巣だ。”

 戦人に認めさせることで、孵化し、雛が誕生した。
 なら巣は、作者と読者たち、ゲームのプレイヤーということになる。


“卵自体は、すでに“最初の1人”に産み出されていた。”
“そして、真里亞と出会うまでの間に、殻の中で千年の貫禄を持つ“キャラクター”を充分に熟成させた。”
“そして真里亞に認めさせることで孵化し、………六軒島の魔女は、初めて姿を持った。”
“恐らく、この瞬間こそが、……1986年のベアトリーチェの誕生した瞬間なのではないか。”

 つまり、犯人ヤスは、第6のゲームで読み手側のプレイヤーが認めることで、初めて姿を持ったことになる。
 そして、その雛を立派に育てるのがプレイヤーの仕事。


「……魔女に願わねば、取り戻せない世界だと。お前はもう、思っているのか。」
「うん。ママは大好き。やさしい。いつまでも一緒にいたい。永遠に。」

 戦人によって孵化するはずだった世界。
 だが戦人は来ない。
 だからその世界を取り戻すために、ヤスは“魔女”に願った。
 そして“魔女”はそれに応えた。
 可愛い“子”の願いを叶えるために。





 朱志香を観劇。

“ベアトリーチェ。”
“お前はどうしてそんなにも、自分の存在を、自分以外の全員に認めさせたかったのか?”
“全員が認めた虚構は、真実となるから?”
“その時にこそ、ベアトリーチェという存在は認められ、ニンゲンになれるから?”
“なら、全員に認められる以前のベアトリーチェは、ニンゲンに満たない。家具だ。”
“家具は、どうしてニンゲンになりたがるのか?”
“前回のゲームで、そのテーマが語られていた気がする。”
“資格を、得たいからだ。”
“家具には、*が出来ない。だから、*をする資格が欲しくて、ニンゲンになろうとする。”
“……………………。”
“非常にシンプルな話だ。”
“……そもそも、雛ベアトが誕生した理由がそのまま直結する。”
「…………………。……なるほどな。……わかってはいるが、複雑だ。」
“人の心を、……蔑ろには出来ねぇな。”

 ベアトは虚構のキャラクター。
 誰かに認めてもらわなければ、存在できない。
 物語は、読まれなければ意味がなく。
 謎は、解かれなければ意味がなく。
 真実は、信じられなければ意味がない。
 ならば、虚構のキャラクターは愛されなければ意味がない。
 生まれた意味を果たす。
 それが駒に与えられた目的。

 人の心は蔑ろに出来ない。
 なら、家具に心はあるのか。
 蔑ろにするのか。
 はたまた、家具を生み出した主の心を蔑ろに出来るのか。

 まあ、つまるところ、どうあろうとも、ウィルにはヤスの心を蔑ろにはできない。
 だから、ヤスを犯人として謎を解いて、ヤスの葬儀をすることになった。
 19人目の真実に至っていようとも、それを暴くことはできない。
 ウィルは多分、そこまで至っていると思うなぁ。


「二重人格! あぁ、そいつは多分、ぴったりな表現だろうな。あるいはそれが、真里亞にとっての理想の人格だったのかもしれない。」
「自分のなりたい、“もう一人の自分を生み出す”、の話か…?」

 19人目にとってそれは、異なる運命を辿った自分。
 福音の家で育ち、六軒島で使用人として暮らしているのが、ヤス。
 夏妃に認められ、右代宮家の一員として暮らしているのが、理御。
 そんな感じで。


“それはかつて、朱志香が嘉音に語った話だ。”
“人は誰でも、自分を本当に好きになれる、もう一人の自分を生み出すことが出来る、という話。”
“……確か、第2のゲームの冒頭で語られた言葉だったと思う。”
“今にして思うと、ずいぶん面白いことが、ずいぶん早くから語られていたものだ…。”

 うん、これが核心だからな。


「誰だって、自分が本当にありたい自分があるんだ。でも、なれない。……生活やしがらみの中に今の自分がいるからこそ、今の自分を変えるなんてこと、出来やしないんだ。」
「そうだな。自分を変えるとは、環境も変えるということだ。……それは容易なことじゃねェ。」
「だから、私は今の自分はそのままに。……本当になりたい自分を、もう一人、生み出すことを思い付いたんだ。」
「良家のお嬢様であることを強いられ、窒息しそうな日々に。お前は、なりたい自分を見出した。」
「だからって、家で破天荒は出来ないさ。母さんに怒鳴られるのがオチだぜ。……だから、そうした。家にいる、大人しく親の言うことを聞く私に加え、……本当になりたい私をもう一人、生み出したんだ。」

 19人目は、なりたい自分になるために、異なる境遇の自分であるヤスを生み出し、それを並行世界の中で叶えた。
 現実ではみんなの中に入れず、会話もできない。
 でもその並行世界では、使用人のヤスとなって、みんなの中に入ることが出来る。
 それは、密室(比喩)の中で閉じ込められて暮らしている19人目にとって、解放だった。

 それは現実の体験ではないけれど、疑似的に人としての生きることを体験できる。
 学びは、真似び。
 ままごとはただの遊びじゃない。自分の立ち位置を変えて、人間関係を学ぶことが出来る。


「真里亞は、何かの権威になりたかったということか。」
“それは、幼少から脱皮したいと願う少年少女なら、誰もが思うことだ。”
“何かを覚えて、親に褒められるのは悪い気はしない。……しかし、そのことについて、親がすでに知っていることがわかると、馬鹿にされたような気持ちにもなる。”
“初めて九九が出来た時、親はきっと褒めてくれただろう。”
“しかし、心無い親は、じゃあ11×11は知ってる? とか、16×16は知ってる? などと意地悪な問題を返してくる。”
“そんな時、子供は九九を覚えた達成感は失われ、何をしても親を越えられないことに、深い落胆を覚えるのだ…。”
「だから真里亞が、誰も知らないオカルトに関心を持ち、その知識を深めていったのは容易に想像できる。……多分、真里亞にとっての理想の自分というのは、みんなに尊敬されるオカルトの権威の自分なんだ。」

 19人目は、ミステリーと魔法の権威になりたかった、と言ったところか。


「私は、こんな時の真里亞を、そうだと思ってる。……いや、本当の自分が、普段の自分を塗り潰してしまったと言うべきかな。」
「私も、そういうのちょっと覚えが。……深層の令嬢に憧れて、病弱な自分になれたらいいなと思って、咳する真似ばっかしてたら、悪いクセになって。」

 19人目もそう。
 日々がヤスに塗り潰されて、本来の自分はほったらかし。
 ヤスと玩具を夢中で遊び、本来の自分という玩具を押入れの中で埃を被せている状態。
 それが過ぎ、自分の魂の一部になってしまった。


“………真里亞は、日常では満たされない何かを得るために、ベアトリーチェと自分の中に何かを見出したのだ。”
“ベアトリーチェと、黄金郷に行くのが、……真里亞の、願い?”

 19人目は、人間として生きたかった、人間として認められたかった、人間として満たされたかった。
 ヤスを生み出したことで、偽りとはいえ人間として生きた。
 でもそれは現実では誰とも共有できない、関係を築けない、認められない。
 だから、認めさせることができる、魔女に夢中になった。
 受動的から能動的に変わったわけだが、魔女だと認められても、それは人間として認められることではない。
 ならばと、一人の人間として認めさせよう、推理されようするが、ヤスの人生の物語を紡ぐのに夢中で、本来の自分の物語を紡いでこなかった。
 だからまずは、ヤスが人間と認められる物語を紡いだ。
 そうすることで、ヤスの物語を紡ぐ執筆者としての自分の物語を綴った。
 ヤスの一歩後ろにいて、その背中を追って歩く、それが自分なのだと。

 つまり、ヤスと共に黄金郷に行くのが、19人目の願い。



「………もしもし?」
『うー! ベアトリーチェ、こんにちは…!』

 夜に「こんにちは」はないので、電話の真里亞の声は録音。





 お前が犯人だ。

「そうなる。………しかし、ややこしいことに、この礼拝堂は今、猫箱の内側の世界だ。その犯人という名の猫は、生きた猫と死んだ猫の2匹がここに、同時に存在している。」
「……本当にややこしい。さっぱりですが、先を促しましょう。つまり、犯人が2人いると仰りたいので?」

 猫箱の中には、犯人が2人同時に存在する。
 つまり、これまでのゲームも猫箱なので、犯人は2人同時に存在している、というヒント。


“もはやそこが、彼女の座るべきところとでも言うように、……ベルンカステルは祭壇に腰掛けた姿で現れる。”

 死んだベアトリーチェとは、ヤスのこと。
 そしてベルンはヤスの成れの果て。
 生きながら死んでいる亡霊の如きもの。
 よって、ベアトの棺およびその祭壇はベルンの居場所として相応しいと言える。


「何処か、じゃねェ。……明白に、ベアトリーチェの血を与えられている。その証拠が、数多の世界で理御にしか与えられない、銀の指輪だ。」

 金蔵が愛したベアトが、現実の存在ではなく、虚偽の世界の存在であるならば。
 実際に血が繋がっているかは重要ではない。
 重要なのは、そうであるかのように信じさせる幻想。
 それを生み出す意思。

 ミステリーの犯人は、出自や境遇が運命的であればあるほど、魅力的となる。
 金蔵とベアトリーチェの子である、という“設定”の方が面白い。
 悲劇に彩られ、犯人の動機は、劇的となる。
 だから、それを修飾した。

 銀の指輪は、その幻想を修飾するための、依り代に過ぎない。
 だから出自はどちらでも構わない。
 境遇が同じであればそれでいい。


「知りたいわよねぇ…? 自分が、あるいはひょっとしたら辿ったかもしれない運命なんて。」

 それがまさしく物語の始まりだった。


「いいなら、始めよう。……誰も急かさない。………お前の葬儀が終わるまで、ベルンカステルは永遠に時間を閉ざしてる。心の整理に必要な時間は、無限にある…。」

 ベアトを殺した犯人は、ベアトを演じた者である。
 これはベアトの葬儀。
 ならば、“お前の葬儀”の“お前”とはベアトのこと。
 つまり、犯人として呼び出されたのはベアトであって、ベアトを演じた者ではない。


  1. 2019/07/13(土) 22:08:49|
  2. うみねこ咲へ向けて
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続・EP6を再読

 譲治対絵羽。

「亜由美さんと結婚させたいのは、それが母さんにとって利するからさ。……母さんの縁談には、僕の気持ちがわずかほども含まれていないっ。」

 読者が結ばれるべき真実を出題者が決める。
 そういう文脈で読んでいく。


「今日まで。立派に育ててもらって、本当に感謝してる。僕も子を持って親になったら。………母さんみたいな親になるよ。子供のために、本当に戦える、世界で一番尊敬できる親にね。」

 子のために戦える母。
 それは即ち、ヤスのために戦う八城。


「今、僕は、母さんを見ていないからさ。……僕の目に映っているのは、……僕の選び取ろうとする未来の前に立ち塞がる、試練の壁だけさ。……母さんだって人間だ。夢や野心があって、それを今も追い続けてるのは知ってる。そしてそれを、素晴らしいと思う。……自分の夢を決して諦めないことの大変さを、僕たちは知っているのだから。」
“だから、その素晴らしき力を、僕も受け継がなきゃならない。”
“僕は、両親や友人たち、そして紗代から、様々なものを学んで成長してきた。”
「その最後に学び、獲得して完成されるのが本当の、………右代宮譲治という男なんだ! 僕は今、あなたという最後の壁を、超えるッ!!」

 幼い頃の夢を叶えようと、諦めずに追い続けている。
 本当に凄いよな。
 でも今は壁。
 自分の推理を切り開くために、いくつもの壁を乗り越えてきた。
 だから、最後の壁も乗り越えて見せよう。
 そうすることで、プレイヤーとしての私は完成する。
 …そんな感じ?
 これも、今までにあった色々な人やもののお陰だなぁ。


“神の座を求めた孫悟空に、お釈迦様は試す。”
“この手の平から飛び出すことが出来たなら、それを認めようと。”
“そして孫悟空が辿り着いたと思った世界の果てにそびえ立つ五本の柱は……、お釈迦様の指で、未だその手の平を脱してさえいなかった、というエピソード。”

 神の座を、フェザリーヌの階層とするならば、19人目の真実もまた想定の範囲内。
 神の真実にまで至らないとならないのだろうな。
 それに比べりゃ、ヤスの真実など小さい小さい。
 世界の半分でしかないからなぁ。


「“馬を水場に連れて行くことは出来るが、水を飲ますことは出来ない”。」

 いくら推理できるように作っても、推理しない人は推理しないからなぁ。


「“子に釣竿を買うな。一緒に釣りに行け”。」

「子供はね、親が見ていないと伸びないの!! 子が芽なら親は太陽だわ! 太陽なくして芽吹く草木も、咲かせる花も存在しないの!!」

 「うみねこ」は作者と読者が一緒なって挑戦するものとしてデザインされているからな。


「思い上がったあなたは、孫悟空と同じに、少し反省とお仕置きが必要だわァ。あなたが改心したら、私が解放してあげる。」
「それは解放じゃないね、洗脳だ。………………うッ!!」
「何も考えなくていいの! ママに全て任せちゃえばぁ?! 私があなたの全てを決めてあげる。それがあなたにとって、一番素晴らしい人生なのよッ!!」

 何も考える必要もない、全てを任せなさい。
 そう言われている。
 つまり、自分で考える力がないと見縊られている。
 

「……“友を責めるな。行為を責めよ”、………だね。……これも、イギリスの格言だ。」

 ヤスをニンゲンだと認めさせたい友を責めるな。
 思考停止させようという行為を責めよ。


「………これもイギリスの格言よ。“子供を幸福で包むことが、最高の教育”。」

 真実に至れば読者は幸福。
 それが偽りの勝利だろうと、勝利した者は、その味を味わうためにまた勝利を求める。
 または、得た勝利をより良きものにしようと大切にする。
 つまり、推理や考察をしてくれるようになる。


「“全ての木に斧を一撃ずつ加えても。一本の木も切り倒せはしない”。」

「こっちの方がいいかな。………“学問に時間を費やし過ぎることは、怠惰に過ぎない”。………フランシス・ベーコン。」

 学んだことで何を成すのか。
 色々な考え方を学んでも、実際に自分なりの答えを作り上げなくては意味がない。
 それができてこその自立。


“ゼパルとフルフルが課した試練が、これ。”
““二人の愛を貫くために、一人の命を自らの手で捧げよ”。”

 愛を貫くということは、反対側の答えを殺すこと。
 その決意があるかどうかを問うもの。





 朱志香対霧江。

「せめて。私の産む子だけでも認知させたかったわ。……留弗夫さんもそのつもりはあったみたい。病院もきっちり用意してくれたし、明日夢さんの出産が近付いても、甲斐甲斐しく私のところにも来てくれてたっけ。………もはや向こうが本当の奥さんなのにね。ひどい人だわ、本当……。」

 子=真実。
 要するに、2種類のプレイヤーに、それぞれ別の真実を生ませようとしていた。
 そして、表向きは向こうの方に手掛かりやヒント、核心に迫るだろうものを手配し、裏向きにはこっちにもそういうのを手配してくれてた。
 酷い謎だわ、ホント。


“自分も明日夢も、……同じ日が出産日だった。”
“なのに、向こうの懐妊は結婚に結びつき、……私の懐妊は意味を成さなかった。”
“私は、絶対に自分の子を、留弗夫さんに認められる子に育てようと誓ったわ。”
“明日夢さんと私の戦いは、私の敗北に決まった。”
“生まれてくる子の優秀さで明日夢さんに勝てて…、留弗夫さんに、もっとも認めてもらえる子になれたなら、私は報われる。………そう信じたわ。”
「しかし、……霧江の子は死産だった。」
「えぇ。……明日夢さんにはお兄ちゃんが生まれた。……しかしお母さんからは、誰も。……お母さんの、せめて第二夫人の座に残りたいという最後の希望は、…絶たれた……。」

 私が生んだ真実を立派に育て上げれば、いつか認められる日が来るかもしれない。
 だからまだ負けじゃない。
 まぁ実際、そんな感じだな。

 でも死産だったと。


「でしょうね。……もし、死産が明日夢さんで、お母さんの方がお兄ちゃんを出産していたなら。……何か歴史は変わっていたかもしれない。もしもそうだったなら、明日夢さんと離婚させて、自分と再婚するようなシナリオを描きたいと、思ってたみたい。」

 それでも子供は入れ替えられるから、見た目の結果は同じになる。
 それは真実の話でも同じ。
 執筆者の思惑として、ヤスの真実を認めさせることがある以上、ヤスを信じるプレイヤーの真実を認知するよ、って結果は覆ることはない。
 その結果だけを見て、死産だと信じることはない。
 その結果に至る過程を思い描き、それを信じることができれば死産ではなくなる。
 私の生んだ真実は生きているし、愛人じゃなく第二夫人だと信じることも可能。


「違う違う。………私の驕りだけよ。………留弗夫さんはもう私のものだから、絶対安全。……あんな明日夢なんていう小娘に負けるわけがない。」
「……彼女がバスや飛行機でぎゃあぎゃあ喚く時、渡井はその手配と経費を適正に処理できた。……だから私は一番、留弗夫さんに信頼されていると、……驕り高ぶっていた。」

 当時の私もそんな驕りがあったなぁ。
 真相に至って絶対安全。
 全ての事件のトリックで、全てを論理的に説明できたと思ってたし。
 まさか紗音嘉音同一説にかっさらわれるとは思わなかった。


「間違ってないわ。……二人で水をやり、世話をして、育む。……そして最後に結実するのが、愛という実なの。知ってる? 結実して終わりじゃないのよ? ……愛を収穫できなきゃ、恋は成就したことにならないの。」
「………収穫って……?」
「それは朱志香ちゃんが考えなさい。……実らせても、収穫しなきゃ、傷んで腐ることもある。虫が集ることだってもちろんあるわ。いいえそれどころか、……盗人が現れて、もぎ取っていってしまうことさえもね。」
「……………………。」
「朱志香ちゃんたち若い子の恋愛観は、育むところで終わってる。……それは甘いわ。……愛を収穫しなきゃ、恋は報われない。」
「愛を、……収穫……。」
「それは、一見、愛し合う二人きりだけの問題に見えて、そんなことはないのよ。だからいつ収穫しても自由なんていう先延ばしは、盗人に機会を与えるだけ。」
「……苦労して育てた実が、翌朝にもぎ取られてなくなっていたら? ……昨日の内に、面倒臭がらずに収穫しておけば良かったと後悔するはずよ。……辛いわよ、その後悔は。……地獄を這うわよ。」

 まあつまり私は、盗人に取られる前に、収穫することができたということか。
 それか、盗人に取られてなくなったのに、私の目だけには実があるように見えて、そのまま育てているのかもしれない。
 そもそも、自分が信じる真実は、自分が捨てない限りなくならない。
 だから、盗人に取られて消えるはずなんてないのだ。


「私は幸運よ。その地獄が18年で終わったから。……だからもう、私は自分を、間違えないの。……あの人は私のものよ。もう逃がさない、手放さない。そして主に感謝する。………その機会を与えてくれて。絶対にあの人を諦めないという“絶対の意思”に、“奇跡”が応えてくれたんだわ。」

 奇跡とは自分が起こすもの。
 諦めるに足るものを提示されていないのだったら、諦める必要なんて何一つない。
 ただ自分の信じる道を万進すればいい。


「それは愛ゆえにッ!! だから不死身なのさッ!!」
「あぁ、愛よ偉大なれ! 我らの祝福する者に不死身あれ!!」

 愛さえあれば、プレイヤーは不死身。
 殺したって死なないさ。





 嘉音対楼座。

「…………籍こそまだだったけれど、……これから結婚する相手で、パートナーだと思ってた。私の名前がなければ借りられないお金なら、それに協力するのが、未来の妻の役目だと思ったのよ。」

「でもね、……こうも思うの。………私が立派に返済しきったら、……それは彼が私に与えてくれた、愛の試練に打ち勝ったという意味にもなるの。……結局は返さなくてちゃいけない借金なのに、どうしてその結果、得られる愛を先に自ら捨てるの…? 返済してから考えても、遅くはないと思わない……?」

 これはヤスの話だな。
 これから結婚する相手は、無論19人目。
 ベアトリーチェの名を借りて、六軒島ミステリーをぶち上げてやるという事業。
 そして島を出てヤツは帰ってこなかった。

 愛の試練とはつまり、ベアトのゲーム。
 それを完遂いたらヤツは帰ってくると信じた。


「霧江さんの話が出たから言うけど。………彼女の話は、私にとって、希望、……夢なの。」
“男を奪われても、彼女は18年間、辛抱強く待った。”
“自暴自棄にならず、それでもなお留弗夫の側で支え、じっと伏して奇跡を待ったのだ……。”

 黄金の奇跡。
 それを伏して待つ。


「ある意味、私は亡霊なのよ。……私はすでに死んでいる。それに気付かず、生きている。」
「………決して来ない人を、永遠に待つ、亡霊……。」
「そうよ。………彼の夢を応援したいなんて甘えたことを言ったあの日に、私は多分、もう死んでいた。………やっぱり、あの日は後悔すべき日だったのかしら? 俺には夢がある。海外を巡りたい。このちっぽけな日本を飛び出して、必ず大物になって帰ってくる。……懐かしいわね…。」
「……あの頃の私は、互いの途方もない夢を認め合うのが恋人同士だ、みたいな考えだった。」

 ヤス、即ちベアトは、猫箱の中の亡霊。
 死んだことに気付かず、永遠の二日間を生きている。
 駒としてはこっち。

 あるいは、八城に取り憑いた亡霊。
 死んだ状態で存在している。
 プレイヤーとしてはそんな感じじゃないかな。
 蘇っても、元の状態には戻らない。
 そういう意味で、前のベアトは蘇らない、となるんじゃないかと。





 雛ベアト対夏妃。

「……夫を愛しているからこそ、私はここで待っています。……しかし、愛は寄り添うものと、私は思ってしまいます。……ここでこうしているのが、一番の協力になると、理屈ではわかっているのに、………そんな自分に惨めさを感じてしまうのです…。………辛いですね、……愛ゆえに、待つのは…。」

 これも猫箱の中で待つヤスの話。


“生ける者が生きようとする力は本来、魔法の力よりも強いのだ。”

 幻想が真実に成るためには、真実を殺さなくてはならない。
 それはつまり、真の自分を殺すということ。
 命は放っておいても生きようとする。
 命を諦め譲り渡せるのは、限りなく難しい。
 自身の力だけでは不可能だろう。
 よって、他の人間たちの力を借りる必要がある。
 全員が信じた幻想で、生きようとする自身を殺す。
 未来において絵羽が、世間によって作り上げられた幻想によって、真なる自分を殺されたように。
 そう、絵羽が世間に屈服し諦めたから、絵羽の中の真の絵羽は殺され、世間が信じる絵羽として生きるようになってしまった。
 ようは、そのように真なる自分を殺すということ。

 そして、縁寿が絵羽を理解していたら、真の絵羽が死なずにすんだだろうということから。
 求められているのは、まさにそれ。
 簡単に言えば、今から崖から飛び降りるから、手を掴んで離さないでくれ、って感じか。
 すげー無茶ぶり。


「ねぇ、ゼパル! これってありなの? ベアトリーチェは自分の力だけで試練を成し遂げていないわ?!」
「そうだね、フルフル! 確かに試練は、誰の助けも借りずに成し遂げなくてはならない!」
「でもね、ひょっとしたらそれには例外があるんじゃないかしら?!」
「「愛する二人は、互いで一人だもの! これは手助けじゃない!」」

 ヤスと19人目は、二人で一人。
 主の犯行が駒の犯行となり、駒の犯行は主の犯行である。
 過程を装飾したに過ぎず、結果は同じ。





 縁寿と八城と天草。

「……愛し合う恋人たちの数が、たまたま6人だっただけのこと。それが第一の晩とうかく合致したのは、偶然半分、様式美半分。……その方が運命的で面白い。」
「人間は、無意味な2つの事象を、無理やり関連付けようとする悪癖がある。それを運命的と読み解かせるのが、読み物の“騙し”でしょ。」

 無意味な2つの事象を結び付けた時、魔法は視える。
 結び付けさせた時、魔法を見せ付けることができる。


「それそれ。……人の家族を、物語の中で勝手に殺すことに対する怒りは置いておいて。……あえてこの物語を書いた八城先生に敬意を表して言うなら、その描写には、意味があることになる。何しろ、これだけの文章量を割いて、さんざん、愛だの試練だの語ってる。……つまりこれが、この物語のテーマであり、キーワードだってことになるわ。」
「……おや。……赤インク以外で書いた文字は全て読むに値しないとまで言い切る御仁も多いというのに。……光栄なるかな、人の子よ。黒い文字も読んでくれて。」
「物語は、書き手が何かを伝えるために書くものよ。そしてそれはどういうわけが、直接書いたら無粋という、奥ゆかしい面倒な作法がある。」

 愛があれば、駒の向こうに、その主の姿が視える。
 奥ゆかしいにもほどがある。
 出演した色々な駒の立ち位置に、19人目かヤスを置くだけで、これだけ読めるようになった。
 けど、奥ゆかしすぎて、誰か読めた人いるの? というレベル。


「あなたが書いた物語は“愛”が何度も繰り返される。でも、それは真里亞お姉ちゃんの主張でも、ベアトリーチェの主張でもない。……八城十八の主張だわ。」
「……そうです。それこそが、私が語りたいこと。そして、私なりの“答え”なのです。」

 1986年の右代宮真里亞ではなく、その家具たるベアトリーチェでもない。
 1998年の八城十八の“答え”。
 12年越しの、恋の決闘の決着。





 ゲームの開始。

「大丈夫よ、ちゃんと賭けるものは公平だわ。……今回のゲームに、探偵宣言なしのニンゲンで勝てれば、戦人たちの魔女幻想は粉々の再起不能。」
「……でも逆に、ヱリカが負けるようなら、このゴミクズ探偵は忘却の深淵に、最悪のカケラと一緒にブチ込んでやるの。」

 ヱリカは即ち、19人目。
 ベアトは即ち、ヤス。
 そのどちらかが再起不能となる決闘。

 即ち、19人目の真実とヤスの真実。
 その異なる2つの真実が、己を信じてくれるプレイヤーと結ばれるための決闘。
 そして三組目は、19人目の真実とヤスの真実が結ばれるという奇跡の目。





 第一の晩。

“このゲームはフェアだ。”
“魔法で起こしたと主張する不思議な事件を、魔法以外で説明するのが目的だ。”
“それが出来ないなら、ゲームじゃない。”
“即ち、ヱリカの言う通り“魔法以外で成し得なければならない殺人”というわけだ…。”
“……裏を返すと、魔女側には義務があるわけだ。”
“魔法など使わず、トリックで事件が再現可能であることが。”
“それをニンゲン側が看破できない限り、どんな魔法も幻想も許される。”
“……つまり、魔法で密室殺人を行うには。”
“ニンゲンの手で可能な事件を作らなければならない。”

「……魔女は魔法を以ってしても、自らに出来ないことを出来ない。……自らに出来ることのみ、魔法で“装飾”できる。」
「……面白きかな。……魔法を使わずして成し遂げる者が、魔法を語り、魔女を名乗るのだから。」

「……このルールを見破られたら、魔女に勝ち目はなくなるわ。……だから、それを見破られる前に、相手を屈服させなくちゃいけない。……長引けば長引くほど、……そしてヒントを与えれば与えるほど、……魔女は圧倒的に不利になっていく…。」
“また堂々巡りの思考。”
“……どうしてベアトは、負けるまでゲームを長引かせたのか。”

 ルールがよくわかっていない人間側にしか勝てないゲームとか、ゲームになっていない。
 それじゃ全然、無限に遊べない。
 普通、ルールが解って来てからがゲームの本番だろう。
 つまり、人間側が“魔法以外で成し得なければならない殺人”というルールを把握した後も、魔女側にも“互角”に戦う方法がなければならない。

 ゲームを重ねれば重ねるほどに魔女側が不利になるならば、なぜゲームを繰り返すのか?
 それを、勝つ気がないから、と答えるのは簡単。
 だがそれは、ベアトが本気で戦ってなどいないと断じるということ。
 ベアトが本気で戦っていると信じないことには、本気の戦いなどできない。
 だからそれは、プレイヤーとしてのベアトを見下しているようなもの。
 本気の戦いなどしなくても勝てるのだと。
 あれほどまでに、本気だ、全力だ、互角だ、決意だ、どちらが勝っても祝福できる~だ、言われているのにもかかわらず。

 逆に、ベアトが本気であると信じるのなら、長引かせているのは、勝つためだと信じられる。
 幻想として、長引かせることで有利になる点は、環境作りだと言える。
 長くなればなるほど、幻想が居得る環境は盤石となる。

 そして人間側と互角であると信じられるなら、“魔法以外で成し得なければならない殺人”と互角となるもの、即ち、別の“魔法以外で成し得なければならない殺人”を用意していると信じられる。


“しかし、ヱリカは知っている。”
“現実には可能でも、……今回の密室では、赤き真実によって、密室は外部から構築不能とすでに宣言されている。つまり、チェーンロックを外部から細工することは、不可能なのだ。”
“にもかかわらず。……ヱリカは、使用人にだけは密室が構築可能であるかのような幻想を抱かせ、彼らの思考を誘導する…。”
“ヱリカは、さも重要なことを真剣に打ち明ける風を装いながら、……自分が望む状況に、着実に誘導しているのだ。”

 生存者たちの行動は思考誘導の賜物である、というヒント。





 戦人陣営。

「ゲームは、消えるだろうな。……だが、俺はもう、魔法を完全に理解している。……だからお前を、ゲーム盤の外に連れ出せる。………それが、お前の望みだったはずだ。」

 ゲーム上のルールに基づいて生み出された幻想。
 それがヤスであり、そのヤスより生み出された虚偽の世界。
 1986年で永遠に止まっていたその世界の続きを綴る。
 それがヤスの望み。
 ヤスの世界を存続させられれば、その世界を生み出し維持しようという目的を持った思考、即ち、プレイヤーヤスを蘇らせたと言えるだろう。


「妾は、ゼパルとフルフルの試練に期待している。」
「勝者に与えるという、魔法の奇跡、……のことですね。」
「その魔法の奇跡とは即ち、一なる自分となれることではないだろうか。……妾は本来の姿に至れる。そなたは、それを望む戦人の期待に応えられる。戦人も万々歳で、ほぅ、三方丸く収まるというものだ。」

 恋の決闘は、一なる自分になるために必要。
 ヤスに良し、19人目に良し、そして私に良し。


「……なぜ、こんなに歪な天秤なのでしょう。」
「歪とは?」
「恋は得る者と得られない者がいる。……ならば、それらの天秤の両端に並ぶことは理解できます。しかし、私たちの試練の天秤は3つの皿が並び、1人の勝利のために2人が敗北するという、ひどく歪なものです…。」

 一つ目には、ヤスの真実と、それを信じるプレイヤーが。
 二つ目には、19人目の真実と、それを信じるプレイヤーが。
 三つ目には、ヤスの真実と、19人目の真実が。

 三つ目が謎いが、まあそうだな、簡単に言えば。
 三つ目には、ヤスの真実を信じるプレイヤーと、19人目の真実を信じるプレイヤーが乗っている。
 即ち、呉越同舟。
 異なる目的を持ったプレイヤー同士でも、究極的には、協力することはあり得る。
 まぁ、信頼し合わなければできないんだけど。




 ヱリカ陣営。


“魔女のゲームは、0か100。即ち、赤き真実であるか否かのどちらかだけだ。”
“彼女の優れた力は、並みの人間なら10のところを、99にも値するだろう。……しかし、決して100にはならない。”
“100に満たないということは、絶対ではないということ。赤き真実に届かないということだ。”

 読者の推理は、それだけでは99までにしか至らない。
 それを恋の決闘によって、他の可能性を淘汰し、100にする。
 その恋の決闘は、異なる真実を信じるプレイヤー間で行われる。
 そして、第6のゲームにおいて、同一説以外の説を刈り取ったプレイヤーは、その物語を描いた八城である。
 それと戦うプレイヤーは、それ以外の説を推すプレイヤーだ。

 さて、説明しよう。
 2人のプレイヤーは全力で戦った。
 八城は、ヤスの真実を100とするために、自身の真の真実をぶち殺した。
 私は、19人目の真実を100とするために、ヤスの真実をぶち殺した。
 合計が100%となる天秤。
 それを、それぞれ、100:0、0:100にした。
 つまり、それぞれが、それぞれの世界で、異なる一人のニンゲンだけを視ている。
 でも2人は同じゲームの卓につくプレイヤー。
 一人では片方しか視えない。
 しかし、両方の目で視れば、天秤は100:100。
 2人ともニンゲンに成れる。
 プレイヤー2人の間で生み出した世界では。

 合計100しかない天秤において、100:100は正しく奇跡。
 両者が全力で戦ったからこそ辿り着ける必然。
 絶対の奇跡。
 八城が切り捨てた19人目の真実を、読者が助け。
 読者が切り捨てるヤスの真実を、八城が助ける。
 それを信じなければできない賭け。
 そこまで信頼されるなんて、プレイヤー冥利に尽きる。

 ゲームは、100:100で引き分け。
 これでゲームは真に無限に遊べるものとなった。
 やはり「うみねこ」は最高の知的ゲームだ。


「…ありがとう……。……私、……本気で戦います…。全力で戦いますから、………だから、……絶対にお前をやっつけますからっ…、……だから、……もしも私に勝つ時は、………全力で、………叩き潰して下さい…。ぇっく……。………お願いだから、……塵一つ、……残さないで………。……ぅっく……!」

 ヱリカ=19人目だから、これはある意味本音。





 恋の試練。

「……みんながみんな、一緒に幸せになることは、出来ないのですね。」
「そういうのを、ゼロサムゲームって言うんだよ。経済用語だけどね、知ってるかい…?」
「い、…いえ、すみません……。」
「ゼロサムゲーム。勝利も敗北も、全てを相殺すればゼロになる。……誰かが勝利を得るためには、誰かに敗北を強いねばならない。……それが、世界の冷酷な原理だ。」
「………へっ。…みんながみんな。全員が幸せになれればいいのにな。………そんな理想の世界、……あるわけねぇか。」
「うぅん、あるよ!」
「それは、黄金郷!」
「……黄金郷…? 何の話だよ……?」
「………そうだったな。……黄金郷に至れば、……全ての愛が満たされる。……だが、そこは天国や地獄と同じで、この世ならざる場所だ。」
「それは御免蒙りたいね。……恋は現世で叶えるから意味がある。僕は死後に恋愛を成就させるための、悲しい心中なんて、断じて認めないね。……生きて、愛を貫く。何者にも、負けない。」

 つまり黄金郷とは、2人のプレイヤーによって生み出される、100:100の世界ということになる。





 戦人の密室脱出。

「俺の手札は役無しかもしれない。……だがな、……1枚入れば、ストレートにもフラッシュにも、……ロイヤルストレートにだって化ける手札なんだ。………降りても乗っても地獄なら、………勝った時、…ヤツの息の根を止められる方を選ぶ…!」
「きょ、……狂気の一手だわ。……狂人は時に、自ら死地に飛び込むから、………奇跡を起こす。」

 3つの役になる可能性のある手札。
 それは3組の恋の決闘。
 読者の選ぶ1枚が勝負を決める。
 読者を信じて自ら死地に飛び込むとか、狂気だわ。


“ロジックエラーは、……魔女がそれを認めて初めて成立する。”
“言い逃れできる新たなロジックを考え続ける限り、……死なない、死ねない。”
“しかしそれは、……永遠に終わらない、思考の生き地獄に閉じ込められるのと同じことだ。”
「……あんたは、永遠に思考の闇に落ちて這いずり回っても、……ロジックエラーを拒否して、……この密室から出る方法を永遠に考え続ける地獄に、閉じ込められるのよ。」

 八城の心が閉じ込められた思考の密室にして、ヤスが閉じ込められた猫箱の密室。
 そして彼女らが這いずった地獄。


“目の前に横たわる人間が、生きているのか、死んでいるのか。”
“それを調べるのが、検死。”
“ぱっと見ただけでは、生きているも死んでいるも、五分五分。”
“それをはっきりさせるために、様々な知識や経験で、瀬角な結果が得られるようにする。”
“……しかし、どれほどそれを積み重ねても、99%まで近づけても、100%の正解を出すことは出来ない。”
“……そう、多くの人は思うはずだ。”
“しかし、一つだけあるのだ。……絶対、検死を誤らない方法が。”
「殺す、…………ということです。」

 己の信じる真実を100%するには、他の可能性の余地を自分の世界から駆逐し、殺しきらねばならない。


「………………これは、……地獄の生還者からの忠告よ。……この賑やかさを、よく楽しんでおきなさい。………あんたをムカつかせる悪口雑言さえ、……永遠の静寂のなかでは、正気を保つ温かな思い出になりうるんだから。」

 魔女たちが這いずった地獄を、今の境地から本気で考えてみよう。
 どうやらラムダは、永遠の静寂の中に閉じ込められたらしい。
 そして、それは地獄に入る前は賑やかだったということ。


「……私もね、…………たまにね、…あの恐怖が蘇るのよ。………私は本当に、……あの地獄を抜けられたのかしら、って。………実は、……私の心はとっくにおかしくなっていて、………あの地獄の中に未だ居ながら、………ここにこうして居て、楽しくあんたたちと話をしているという、妄想を見ているだけなのかもしれないと、………未だに悪夢に怯えさせられるの…。」
「………だから私はこれが夢でないと、永遠に感じ続けていなきゃならないの…。……ねぇ……、あんたたちは、……本当に、………現実……? …未だに地獄の中にいて、……壊れた私が見ている妄想じゃ……ないの……? ねぇ、………ねぇ……?」

 地獄を出た後、会話している皆を、妄想ではないかと疑ってしまう。
 ふむ、理解した。
 ラムダの周りの皆は妄想の産物。
 それがラムダの信じた世界。
 その世界が壊れ、静寂に閉じ込められた。
 それを絶対の意思で、その真実を信じることで、皆を取り戻した。
 でも時々、皆がいなくなってしまった地獄を思い出してしまう。

 つまり、ラムダの地獄は、19人目が最初に落ちた地獄。
 自身が紡いだ赤き真実で、自分が生み出した幻想の全てをぶち壊してしまった時の地獄。
 自分の生み出した幻想を、絶対の真実で信じることで取り戻した。
 その絶対の意思を駒化したのがラムダ。

 要するに、赤き真実の上に黄金の真実のロジックを構築する際、ロジックエラーを起こし、それを抜けるために、絶対の意思で黄金の真実のロジックを構築して地獄を抜け出した。


「いい? かつてのあんたは、無限の魔女ベアトリーチェ。……かつてのあんたは、不可能犯罪を謳った推理小説に憧れて、それによって魔女の存在を主張して、魔法を数多に認めさせ、魔女への階段の一つとしたわ。」
「……推理、……小説…。」
「そう。かつてのあんたは、立派な読書家。……推理小説を愛し、密室犯罪を愛した、……不可能犯罪の超エキスパートだった。あなたはいくつもの密室トリックを読み漁り、……究極にして一なる原始のトリックに気付き、それを魔法大系の核にしたわ。」

 それは愛。
 ヤスへの愛ゆえに、ヤスが行う犯行を生み出し、それを装飾することができる。
 そして、愛が尽きぬ限り、トリックは湧き出でることだろう。


“そして、魔女の喫茶室には、……無限の魔女の名を持った二人が、取り残される。”
“一人は、瞳が虚ろ。一人は、それを脇で支える。”
“……それは皮肉にも、……つい前回のゲームでの二人の関係を、正反対にしていた……。”

 19人目とヤス。
 一人を救出するために、一人が閉じ込められる。





 推理の提示を要求する八城。

「私を詰って楽しむもよし。二人のベアトとともに、悩むもよし。……そなたが考えぬ限り、物語は進まぬぞ。」
「どうしてよ。私は朗読者でしょ? ただ黙々と読み進めればいいだけの話でしょ。」
「………いいえ。……考えて欲しいのです。読み手の、あなたにも。」

 EP6にて、八城と縁寿がゲームを俯瞰する上層から観劇していたのは、第6のゲームの本当のプレイヤーが、八城と縁寿と縁寿だから。
 もっと言うと、書き手と読み手で、我々読者も読み手側のプレイヤーである。
 つまり、これまでのゲームでも同様だったということを明かしている。

 読み手が解釈して朗読した物語は、読み手が考えることで生まれる。
 自分が考えなければその物語は、視えない、読めない、進まない。
 そして、書き手と読み手の2人がプレイヤーとして、それぞれの目で視た真実を重ね合わせることで、その2人の世界を生み出している。
 そのために、書き手もまた、読み手の思考を必要としている。





 大聖堂。

「我が主も、………ロジックエラーの地獄に落ちたことがあるというのですか…?」
「あるわ。ロジックエラーを起こしたのはあの子ではないけれど。」
「……主がゲームマスターではない…?」
「そうよ。……当時、あの子はまだ、自覚さえしていない小さな駒だったわ。ロジックエラーを起こしたのは、ベルンの主であるゲームマスターだった。」
「……我が主も、……魔女の駒だったのですか。」
「えぇ。………あの子の主、……これがまた酷いヤツでねぇ。……自分で作ったゲームのはずなのに、途中でゴールがわからなくなっちゃって。……スタートとゴールがつながった、ドーナツみたいな、込まれたすごろくを作ってしまったのよ。」
「ゴールをなくしたとは……?」
「ロジックエラーってことね、……どおやれば自分の望むゴールに辿り着けるか、そいつは自分のすごろくを、ロジックを描けなかった。だからいつまでも、すごろくは壊れたままで、ゴールがなかった。」
「……ならば自分一人で、静かにそれを悩んで考え出せばいいのに。……そいつはあろうことか、その考えることさえ、駒であるベルンに任せっきりにしたのよ。………“無限の猿の定理”って、知ってる?」
「……猿が、無限の時間の中でデタラメにタイプライターを打ち続ければ。……いつか偶然にも文字列が、ハムレットとまったく同じ文章になるかもしれないという理論、いえ、暴論ですね。」
「……ひどい地獄よね。………ベルンは、無限の時間の間、意味もわからずデタラメにタイプライターを叩かせられて。………ゲームマスターは、自分さえ思いつかないゴールを、彼女に作らせようとしたのよ。」

 ラムダは絶対の意志で、赤き真実の上に黄金の真実を装飾する。
 そうして生み出される無限の物語。
 しかしそれだけでは、19人目とヤスが両方ともニンゲンとなって猫箱を脱出できない。
 そこで無限のゲームをランダムに組み合わせて、奇跡的に二人揃って脱出できるルートを確立させるために、思考させ続けるために生み出された駒がベルン。


「私は、真実の魔女です。……私の潜った地獄には、ただ、真実がありました。………真実という冷酷な現実の前に、一切の意思も、そして奇跡さえも介在できません。私は、その真実を、踏み越えてここへ至ったのです。……この、真実に堪えるという力において、私はあなたにも、我が主にも引けを取るつもりは、……ありません。」

 赤き真実の前には、一切の意思も、そして奇跡さえも介在できない。
 これにラムダとベルンの地獄を合わせる。

 そうすると、
 ヱリカが赤き真実に堪え、ラムダが消え去った黄金の真実を絶対の意志で再び紡ぎ、ベルンが二人揃ってニンゲンに成れる奇跡のルートを開拓する。
 そんな感じになる。





 恋の決闘の直前。

“19。”
“それは、18人しかいないはずの島に、19人目の幻想を見た時、魔女を指して数えた数字。”
“それは、この物語を生み出すのに、かかった月日の数。”
“それは、避けえぬ今日と言う日に至るまでの月日の数。”
“そしてそれは、……この世界の、本当の領主の、年齢。”

 19人目がいるのか、いないのか。
 19人目の真実を殺すには良い数字だ。


「今までありがとう。………君という弟に出会えて、楽しかった。」
「……僕を僕であらせてくれて、ありがとう。……灰色の世界に、彩を見せてくれて、ありがとう。」

 19人目の灰色の世界に彩を見せてくれたのがヤス。


「どうして、……私たちは生まれたんだろうね。」
「生まれた時、すぐに死ねればよかったんだ。」
「……それは、お父さんの罪だね。」
「そうさ。だからあいつも死ね。みんな死ね。」

 ゲーム盤の真実は、戦人に推理して欲しくて生み出された。
 よって、盤上の駒である19人目とヤスの父親は戦人と言える。
 推理されずに放っておかれた駒は、その目的を果たすために盤上のニンゲンを殺す。
 果たされるまで無限にゲームを繰り返す。


「うん。みんな死ぬよ。もうすぐね。……そして、すぐにみんな蘇って会えるよ。もう私たちは、篭の中の小鳥じゃない。」
「……僕たちはようやく篭を出て、……それぞれの世界へ羽ばたけるんだ。」

 目的を果たせば、ゲームは終わり、ゲームの世界は滅ぶ。
 しかし、駒たちは真実として、推理してくれたプレイヤーの世界へ羽ばたける。


「君と、もっと早くこうして、……決闘をすれば良かったね。」
「……それがきっと、今日なのさ。」
「うん。今日だね。」
「1986年、10月、5日。……運命の日。」
「私たちの、どちらかが、死ぬ。」
「……あるいは、同時に打ち合って、二人とも死ぬよ。」
「あ、それもありか。………それでも全然ありだね。」
「そうさ。それであっても、必ず僕らの恋は、成就されるのから。」
「………決闘の必要、……あったのかな。」
「あったさ。姉さんも言ってるよ。……僕たちはいずれにせよ、……もっと早くに決闘するべきだった。」
「そうだね。……私にとって、君は、」
「僕にとって、姉さんは、」
「「もう邪魔なのだから。」」

 プレイヤーと結ばれる一つの真実となるべく、二つの真実は決闘をする。
 片方が死ねば、もう片方が真実と成る。

 “同時に打ち合って二人とも死ぬ”は0:0、つまりそれは100:100。
 2人を殺して、2人をニンゲンにする。
 2人のプレイヤーが協力して生み出した世界となる。





 いこと部屋と隣部屋の窓の封印。

「隣部屋の窓以外に、出口はない。……にもかかわらず、隣部屋の窓を推理に組み込むことが許されぬ。…………この密室を解く答えは、恐らく、ない。」
「ないならどうなるの?!」
「答えがない以上、説明義務を求められているプレイヤーが敗北するのは必定だ。」
「それって、手詰まりってことじゃない…! つまり、今のドラノールの宣言は、……ある意味、トドメ! チェックメイトってことじゃない!!」
「……………………。……いや、一手、あるにはある。……しかしその手は、………二度と使えぬ手だ。……そしてそれは、…ベアトの心臓の一部でもある。」
「この物語の、最大の謎の一つってこと…?」
「そうだ。………それを使えば、……あるいは何とか……。」

 隣部屋の窓を使わないで済むロジック。
 それはもう、金蔵(偽)こと嘉音(真)の駒を使うしかない。
 それはベアトの心臓の一端。
 GMとしては晒すわけにはいかない。

 でも推理するプレイヤーとしてはそんなの関係ない。
 だからその手で勝負するわけだ。
 それ以外の可能性を淘汰して、100%として自身の命運を託す。

 するとその後、嘉音が消えて、紗音嘉音同一説爆誕というか復活というか、それを目撃してしまうわけだ。
 もう笑うしかない。
 だって、真実が2つ並び立つ魔法を見せられたんだから。

 私が本気で真実を見付けようとしているように。
 相手も本気で別の真実を生み出そうとしていたんだっていうこと。
 それらの行為はなんら矛盾しない。
 二つの真実が並び立とうとも。
 だって、それが人間に可能なことだと、目に見える形で証明されてしまったのだから。





 恋の決闘。

「愛し合う二人以外に、本来は何もいらないんだ。」
「だから、それが“二人”でない時、……私たちは決闘で、その数を“二人”にしなくてはならない。」

 19人目とヤスの二人、実際は一人だからな。
 “二人”を満たすために、もう一人のプレイヤーを欲した。
 それが謎を生み出した理由。


「悲しまないで。私たちはすぐに、黄金郷で会えるよ。」
「僕たちはもっと早く、こうするべきだったね。」
「そうすれば、……再会しなくて済むのにね。」
「いいさ。この決闘さえも、もはや今日という日の前には、ただの茶番さ。」
「そうだね…。どうせ蘇る黄金郷の前には、本当にただの茶番。」
「じゃあ、後ほど。」
「うん、後ほど。」
「さようなら。」

 100:100の結果が約束されているなら、まあ実に茶番。


“私には、………もう彼を愛することが、出来ないのです。”
“どうか、私には遂げられなかった想いを、……私には堪えられなかった想いを、……あなたが遂げて。”
“あなたは今日より、悪戯をするだけの、六軒島の亡霊ではありません。”
“あなたは今日より、この島の主となりて、彼が約束を果たす日まで帰りを待ち続けるのです。”
“あなたは今日より、それを私より引き継ぐのです。”
“だから、今日より、あなたは私ではなくなります。”

 戦人に推理して欲しかった。
 だけどもう時間切れ。
 過去と決別し、未来へと踏み出す時が来た。
 その未来には戦人はもういない。
 “私”は未来に進み、“あなた”は過去に留まる。
 猫箱の中の物語で、戦人が約束を果たすその日まで。


“あなたに、私の苦悩を全て押し付けて、……私だけ幸せになろうとすることを、許して下さい。”
“あなたは今日より、全てを憎む資格があります。”
“あなたは今日より、黄金の魔女、ベアトリーチェ。”
“そしていつか。全てを滅ぼして、全てを蘇らせて。”
“……全ての恋人たちに祝福を。”
“その時。……私もあなたも、ともに幸せになれていることを、……心より願っています。”

 推理されて共にニンゲンになるという約束を果たすため、その為のロジックを組むという苦悩を押し付けた。
 だから“あなた”は全てを憎む資格がある。


“あなたは今日より、私ではなくなります。”
“私は今日より、あなたではなくなります。”
“私たちは一つの魂を割いて、分け合おう。”
“それは一つの魂には当然満たないけれど。”
“きっと人より多くの夢を見させてくれる。”
“私たちに、祝福あれ………。”

 八城として見れる夢。
 ヤスとしてニンゲンだと認められる夢。
 19人目としてニンゲンだと認められる夢。
 そして、2人共にニンゲンだと認められる夢。


“私の可愛い、ベアトリーチェ………。”
“誰にもあなたの姿は見えないけれど。”
“でも私にだけはあなたが見えるよ。”
“そしてあなたも色々な人に愛されれば。”
“きっとみんなにも姿が見えるようになっていく。”
“愛があれば、私たちは視えるよ……。”

 可愛い娘の幸せを考えぬ母はいない。
 だからこのゲームでの決闘の結末は必然だったのだろう。





 ベアト来襲時のルシファーの台詞。

「物言えぬ主に、何を命令できるというなりや…。」
「物、聞かずとも…。……それを察するが家具の道と見つけたりッ!!」

 物言わぬ主の代わりに物を語る。
 それが家具の役割。




 嘉音疾走。

“………今なら、少し納得できるよ。”
“どうして紗音が決闘に勝ったか。”
“神様はちゃんと見てる。”
“僕よりはるかに勇気を持っていた君を、神様はお見捨てにならなかったんだ……。”

 神=フェザリーヌ。
 フェザリーヌが、ヤスの真実を勝たせることを選んだ。
 そして、かつての自分の真実を葬ることを選んだ。





 ベアトとヱリカの決闘。

「………………………。……あんたが前回のゲームの時。……私がボロクソに負けたのに庇ってくれた時。……嬉しかった。」
「私は、生まれてから誰かに庇われたのって、あれが初めてでした。……我が主にさえ、私は庇われたことがない。私に与えられたのは、……暴かれた真実には、暴き返すことで自分の痛みを打ち消すという、傷つけ合いの仕方だけでした。」
「…………………。……傲慢を、お許し下サイ。……私は守らねばと思いマシタ。……あなたがどんなか弱い真実で生き、それをよりもっともらしい虚実の横暴で虐げられてきたか、察した時。……あなたを守りたいと思いマシタ。」

 もっともらしい虚実の横暴で虐げられてきた19人目の真実。
 それを私は守りたいと思った。


「ヱリカ卿…!! もう決闘は終わっていマス…!!」
「終わってないんだ。」
「死が二人を別つまで。」
「「誰にも、彼女の散り際を、穢せない。」」

 ヤスの真実によって、19人目の真実が殺される。
 そうしなければ決闘は終わらない。




「はい。………あなたと一緒になりたくて、生み出した物語。……だから、もうこの世界の目的は果たされました。……だからこれからは、……あなたが紡いで下さい。……私とあなたの、これからの物語を。」

 あなた=19人目、と読み解くと。
 19人目とヤスの物語の続きを、19人目に任せている。

 あなた=戦人、と読み解くと。
 ヤスが紡ぐ虚偽の世界において、ヤスは死に、戦人は生き残る。
 ヤスの生み出した虚偽の世界の未来を、虚偽世界の駒戦人のプレイヤーたるメタ戦人に紡がせようということになる。

 要するに、現実世界で物語を紡ぐプレイヤーは19人目とヤスだが、その物語の中の虚偽世界において、物語を紡ぐのは戦人=十八という形にする、ということ。




 縁寿と八城の別れ。

“ものすごい、……長い長い時間を、ここで過ごしたような気がする。”
“それこそ、……生まれてから今日までの時間の、何分の一を過ごしたように感じるほどに。”
“……窮屈なはずの、他所の家のソファーなのに、……すっかり自宅みたいに馴染んでしまっていて、何だか不思議な気持ちだった。”

 現実の縁寿が、八城の家に住んで何年も経っているという伏線。


「…………………。……こういう質問もおかしいんだけど、……その…。……………あんたがフェザリーヌなの? フェザリーヌがあんたなの?」

 ここの縁寿は駒。
 だからここの八城は駒。
 よって、フェザリーヌはその上層にいる。
 さらにその上層で、現実の八城が執筆している。
 さて、駒なのか、人間なのか、神なのか。


「どうするか決めかねている時。あるいはどうでもいい時。……コイントスのように運命に身を任すのも、悪いことじゃないわ。」

 読み手の決断に身を任す。
 それも書き手の決断として、悪いことじゃないのかもしれない。





 裏お茶会。

「……肉を喰らい、選ぶ道もあることを学んだ猫よ。……久しぶりであるな……。」
「あんたが教えなきゃ、気付かずに済んだ道よ。……肉の味を教えたバケモノ。………生き返ったのね。………フェザリーヌ・アウアウローラ…。」

 猫は、猫箱の中の猫。
 肉は、依り代たる肉体。
 と、読み解けば、肉体の方の真実を喰らい選ぶ道とは、恋の決闘によって100:100になる奇跡のこと。


「私に対するあてつけにも程があるわ。……血の足跡を残しながら歩き、血塗れの肉を頬張る猫なんてね、露骨にもほどがあるのよ…。」

 血の足跡を残りながら歩くとは、物語の中を赤き真実を残しながら歩くこと。
 血塗れの肉を頬張るとは、赤き真実を生み出す肉体を喰らうということ。
 それをする猫とは、猫箱の中に閉じ込められた猫。
 即ち、ヤスである。

 つまりベルンカステルとは、19人目の右代宮真里亞の真実を食い殺す道を選んだヤスの成れの果て。
 その道を教えたフェザリーヌとは、右代宮真里亞であることを捨て、八城となった19人目。

 ヤスを失って壊れた右代宮真里亞の成れの果てが、フェザリーヌ。
 右代宮真里亞を失って壊れたヤスの成れの果てが、ベルンカステル。
 2つに割れた魂が揃っていても、黄金蝶のブローチは壊れたまま。
 だから、黄金蝶のブローチを修復する奇跡を欲する。
 そんな感じかな。


「生きてるうちは愛でて遊んで、死んだら肉を食らってご機嫌満腹。……あんたにとって、猫は二度役に立つわけだわ。………死ね、バケモノ。」

 その猫って、つまりは、昔の自分だもんな。
 謎を作って一度。謎を解いて二度。
 物語を別の視点から楽しむ。
 退屈をしのぐための方策か。







 100:100の奇跡。
 絶妙なゲームバランスだと言えるだろう。
 読み手が絶対の意志で自身の推理を信じたのであれば、それと対等となるべく書き手が選ぶ手段として、読み手が絶対の意志を持たねば返せない手でくるのは、まさしくフェアだ。
 裏を返せば、それ以外にはアンフェアなのだが。

 でもそれは一見そう見えるだけ。
 そもそもこのゲームは、読み手の力量と努力によって得られる答えの数が異なる、というコンセプトで作られている。
 つまり、どんなプレイヤーにも、それに相応しいだけの真実が得られるように、ゲームバランスが整っているのだ。
 そういう意味で、誰に対してもフェアなゲームだったと思う。

 そしてそれはつまり、個々人が信じる真実を誰も邪魔しないということでもある。
 信じるも信じないも、自分で決める。
 その選択は全て自分の責任。
 その選択の連続の結果、今自分が信じる真実がある。

 全て自分で決めたのなら、それは誇っていい。
 その誇りの前では、正解不正解など問題にはならない。
 誰にもその誇りを傷つけることなどできはしない。
 だからきっと、愛も失うことはないと、信じたいものだ。


  1. 2019/07/13(土) 21:06:23|
  2. うみねこ咲へ向けて
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EP6の序盤を再読

 結婚式。

「ねぇ、……聞いてる? あんたたち?」
“新郎に、あんたたちと複数形で語りかける。……もちろん、新郎が複数のはずもない。”

 推理する読者、プレイヤーたちに対しての発言。
 その時点で、プレイヤーたちもゲームの当事者ということなのだけど、それを意識できるプレイヤーは少ないだろうな。


「ふ、…は、……はっははははははは…! 出られないですよね、その密室っ。あんたが自分で作った密室なんですからっ。あんたは永遠にその密室で苦しむんです。私は妻として、あなたの側に永遠にいて、その苦悶の表情を独り占めします。」

 自らの心を閉じ込める密室。
 八城もこれに苦しめれているわけだ。
 そして、密室に閉じ込められた主を、妻として永遠に側にいて、苦悶の表情を独り占めにするのは、ヤスだろう。





 誰かが閉じ込められた部屋。

“扉の隙間から、温かな灯りが漏れる。……やはり、廊下には温かな灯りが満ちていた。”
“聞こえるわけじゃないけど、何だか遠くで、温かで楽しそうな気配がする。”
“……きっと、向こうの部屋にみんな集まってるんだ。”
“……自分だけがたった一人、こんな寂しくて薄気味悪い部屋に閉じ込められている…。”

“口をぱくぱくと、“誰か来て”と動かすのだが、そこから言葉が声となって出ないのだ。”

“この部屋から、……出して……、助けて、怖い怖い怖い、出して出して出して、助けて助けて助けて……。”

 明るく皆が集まる外は、人々が認め合ってできた世界。
 一人取り残された暗い部屋は、誰にも認められず魔女の闇の中に閉じ込められた世界。
 声が出ないのは、誰にも助けを求められない状態だということ。
 そして、助けてくれる誰かを求めていること。
 一刻も早く助けて欲しいということ。





 八城十八登場。

「読者など、本を読んでいるふりをしているだけ。……作者名とブランドだけで本を読み、読んだつもりでいる。」
「……彼らには、私の本に何が書いてあっても、何も読んでなんかいない。ただ、今、流行りの作品は欠かさず読んでいるとインテリぶるために読んだふりをしているだけ。……その程度の者どもに、どうして我が身を晒せようか。あぁ、汚らわしきかな汚らわしきかな。」

 まあ、執筆者右代宮真里亞の正体に気付いていない者たちの前には、姿を現わせないわな。
 だって、謎を解いてないもの。
 その資格がない。


“八城十八は、近年、話題になっている推理作家だ。”
“作品自体の評かも高いらしいが、作品以上にミステリアスなデビューで今、脚光を浴びている。”
“彼女は昨年、複数の大手出版社が主催するそれぞれの推理小説大賞に、それぞれ異なる偽名で投稿し、それぞれで大賞を受賞するという快挙を成し遂げた。”
“その後も次々に、低くない評価を受けていた無名作家の作品が、彼女の偽名による過去の作品であると発覚し、作品以上に作家自身がミステリアスであるとして人気が沸騰した。”
“にもかかわらず、作者本人は決して表に出ず、謎のベールに包まれてきたが、つい先日、ついにサイン会にてその姿を現わし、サングラスとマスクで顔を隠した文字通りの覆面作家として、さらに注目を浴びたのだが…。”
“……それさえも、本人ではなかったとは。”

 これら全部ヤスのためだったのだろうが、凄く立派に成長したよな。


“特に、伊藤幾九郎の最初の偽書、「Banquet of the golden witch」は、九羽鳥庵で右代宮絵羽が難を逃れるまでを全て描いており、これこそ六軒島の真実ではないかとさえ囁かれ、ワイドショーでまで取り上げられたことがある…。”
“これらはまだ、ネット上の電子テキストに過ぎないが。”
“……やがて伊藤幾九郎の正体は、八城十八だとわかるだろう。”
“そうなれば、“あの奇人”八城のこおtだから、これはただの創作ではなく。…実は本当に、第三のメッセージボトルも持っていて、それを創作のふりをして発表したのではないか、などということになり、神秘性と信憑性を同時に高めることにさえなるだろう…。”
「……狡猾、ですね。」
「どうして?」
「そうしてあなたは、自分の偽書に神秘性と信憑性を与える。」

 それを得て、物語の続きを、ゲームの続きを綴れる。
 謎に挑戦する読者がいなければならないから。


「あなたは真里亞お姉ちゃんじゃない。ましてや、あの日の六軒島にも存在しない。なのにどうして真実などとおこがましいことを?」

 八城は執筆者右代宮真里亞で、あの日、いたんだよなぁ。


「かつて。私は戦人を通してカケラを鑑賞していた。……しかし、彼がゲームマスターを継承した今、観測者として相応しくないのだ。私は、心より純粋な気持ちで物語を追っている。その私にとって、今の戦人を通して観測するのは、さながら推理小説を逆さに読むにも等しい興ざめ…。」

 自分で作った物語を自分で読んでも意味がない。
 真相を知っているのだから、すべては予定調和。
 真相を知らない“観測者”に、真相を探らせることに意味がある。

 戦人たちのゲームを俯瞰する、さらに上層のゲームの対戦者。
 それがフェザリーヌと縁寿。
 もっと言えば、八城と我々読者。
 ゲームの真実は、両者の目、その両方が揃って初めて生み出される。
 真相を知らないプレイヤーという不確定要素によって、生み出される真実はブレが生じる。
 それこそが未知。だから面白い。


「さっぱりだろう。知りたいであろう。……私も知りたい。戦人がゲームマスターを継承し、紡ぐ物語がどのようなものなのか。…そして、戦人が至ったという真実がどのようなものなのか、私の、自らの思考の旅で追いたいのだ。………私は病の深き身。考えねば鼓動を続けることさえ叶わぬ…。」

 縁寿という駒を自分の内面世界に生み出し、その駒に朗読させることで自分の思考を生み出している。
 何かと対話することで、自分の中に新しい思考を生み出す。
 真相を知っている視点と、真相を知らない視点、その両方で視ることで物語は立体的に見える。
 真相を知らない視点では、どんな幻想の余地があるのか。
 何の幻想を信じているのか。ならその幻想を助長させる方法は?
 どうすれば誤魔化せるのか。
 逆に、どうやって推理させるのか。
 真相に至っている者には理解できるように、しかし至っていない者には別のものに視えるように。

 最後のが分かり易いかな。
 つまり、AにはAの物語が読め、Bにはそれとは異なるBの物語が読めるように。
 考えた者には考えた分だけ、何かが読めるように。
 考えを促し、読み手の解釈を尊重する。
 そんな謎を、物語を作るためにも、読者視点から朗読する駒が、つまりテスターが必要なのだ。

 作者視点は、その真逆。
 読者の考えを誘導し、作者の都合の良い方に持っていく。
 物語の着地点まで読者を連れて行く牽引力を発揮する。
 Aを信じるものにはAの物語が、Bを信じるものにはBの物語が視えるように。

 その2つの視点の対話から物語は生まれる。
 思考は生まれる。


「私の朗読者であるということは、私の使いであるということ。……即ち、そなたへの干渉は私への干渉。私は、ベアトリーチェの物語の続きを読みたいという唯一の興味を、何者にも邪魔されることを許さぬ。……そなたを弄んだ、ベルンカステルもラムダデルタも、無論ベアトリーチェさえも、そなたに対して一切の強制力を持つことは許さない…。」

 八城の内面世界の階層において、フェザリーヌは最上位。
 思考の中枢。
 そして朗読者とは、フェザリーヌに物語を献上し、思考を促す役。
 その思考を邪魔する駒は何人も許さないということだろう。


「そなたは本を読む時、本に、よろしくお願いしますと語りかけてから表紙を捲るか…?」
「……そういうことよね。理解したわ。」
“彼女が、……対話に応じるだけで、それは最大限の敬意と譲歩。

“彼女にとって人の名など、舞い散る落ち葉の一枚一枚に名を認めるのと同じこと。”

 退屈を癒すために、無数の駒を生み出し、そして捨て去ってきたのだろう。
 つまり、名など認める必要がない。
 対話するとは、対等と認めるということ。
 あるいはそれに準じるということ。
 フェザリーヌに対等なのは、ベアト、即ち、ヤス。
 一時的にそれに準じる扱いってところか。





 ゲームが始まる前のベアトの喫茶室。

「……消えたのはプレイヤーのベアトよ。こいつは駒でしょ、戦人の。」

 プレイヤーのベアトは、サクリファイスされた。
 猫箱から八城が出るためには、それが必要だった。
 つまり、消えたプレイヤーのベアトが生み出したゲームはEP4までなのだろう。
 EP5以降は、八城が新しく作って猫箱に放り込んだものじゃないかな。
 だからそれ以降はヤスが犯人ではない。





 フェザリーヌと縁寿。

「この世界での死は2つある。……1つは駒としてゲーム盤より取り除かれること。これはゲームにおける死でしかなく、仕切り直せば、何度でも蘇る命だ。」

「真里亞における、さくたろうが、その駒の最たるものであっただろう。」
「……さくたろうが、お姉ちゃんの駒…?」
“確かに、……そうかもしれない。”
“お姉ちゃんの内面世界という名のゲーム盤では、確かにさくたろうは存在して、お姉ちゃんと常に寄り添っている駒だった。”
“現実の世界では、ただの布と綿のぬいぐるみであっても、お姉ちゃんのゲーム盤では、それは他の駒と何の区別もない、立派な1つの駒なのだ。”
「でも、……どうかしら。…魔女のゲームの駒なら、簡単に生き返らせることが出来るんでしょ。……でも、お姉ちゃんの世界では、さくたろうは蘇ることが出来なかった。」
「……世界でたった一つのぬいぐるみという依り代が失われたからだ。だから、駒の存在条件が崩れ、真里亞のゲームでは復活することが出来なかった。……そなたが、その存在条件を再び満たしてやったからこそ、さくたろうはゲーム盤に甦ることが出来たのではないか。」

 駒であるヤスの依り代は、ヤスを成立させるためのルール。
 探偵の前では、紗音と嘉音が同時に目撃されてはならない、とかの。
 そして、未来においては、紗音と嘉音が死んでいるので、ヤスを蘇らせるのは不可能。


「ゲーム盤の外の存在の死だ。さくたろうの話で続けるなら、この場合は、真里亞の死だ。」
「駒じゃなく、……本当のお姉ちゃんの死、ね。」
「死だけではない。興味や関心の喪失でも同じだ。……真里亞がぬいぐるみ遊びを卒業すれば、ゲームのプレイヤーとしての真里亞は死ぬ。さながら、テレビに飽きてスイッチを切るかのように、簡単にあっさりと。」
「………なるほど。つまり、プレイヤーとしてのベアトは、それまでのゲームで、勝利を完全に諦めたので、……死んで消え去ったわけね。…ならつまり、ベアトが再び、お兄ちゃんに勝てるつもりになって戻ってきたら、生き返るってことだわ。」
「理屈ではそうだ。人も魔女も神さえも。興味と関心を失えばいつでも死ねる。そして、それを取り戻せばいつでも蘇れる。……しかし、神の世界には時間の概念がないから、いつ蘇るも自在だが、矢の如く時が過ぎ去る人の世では、それは容易ではないな…。」
「そうね。1日のズル休みならともかく、3日もサボると、学校に行くのがものすごく億劫になるわ。」
「それが1ヶ月、1年、10年。それこそ、魔女の世界のように、千年にも及んだら?」
「……なるほど。ズル休みもそれだけになればもはや、社会における“死”ね。……それだけの長い間、死んでいたら、社会的な遅れを取り戻せないだけじゃなく、当時のモチベーションだって、絶対に蘇らないわ。」
「……それはつまり、命があっても、一度死んだのと同じことだわ。二度と、……元の自分には戻れない。蘇れない。」
「ベアトは、勝てる道理も希望も全て失った。……それを知りつつ気付かぬふりをし、あれだけのゲームを戦ってきたのだ。だからもう、ベアトは戻らない。彼女の希望は潰えた。気を取り直して再び戦う気力の全てを、もう費やしている。だから。……あのベアトリーチェが蘇ることは、二度とない。」

 ヤスは駒でありながらプレイヤーでもある。
 主である右代宮真里亞のゲームの対戦者として、対等なプレイヤーであると認められていた。
 そして、そのゲームによって世界を生み出していた。

 それが猫箱脱出時、主の身代わりとして死亡。
 ヤスを成立させるルールが崩壊した1986年10月6日以降に、ヤスを成立させることができる希望を喪失した。

 時は流れ、右代宮真里亞は八城十八となり、万全の態勢でヤスを復活させるためにプレイヤーとして復帰。
 数度繰り返したゲームはブランクを埋めるためのものでもあっただろう。


 問題は“あのベアトリーチェが蘇ることは、二度とない”という赤き真実。
 思うにこれは、黄金の真実で上書きすればいいのでは。
 赤き真実で構成される八城の住む世界では復活できずとも、黄金の真実で構成されるヤスの世界では復活させることはできる。
 そして、黄金の真実を皆に認めさせることで、2つの世界は重なり合い、一つの世界となり。
 一つの世界になったと自分が信じられたら、隣にはヤスがいると信じられる。

 さらに言えば、ヤスは主に物語を献上する駒でもある。
 つまり、ヤスが生み出す物語があればよく、その物語でヤスが生存している必要はないのではないか?
 要するに、ヤス死亡後のヤスの世界の未来を紡ぐ、そんなヤスを新しく生み出せばいい。

 そう、ヤスの世界、虚偽の世界では戦人は生存していて十八として存在している。
 そしてその十八は偽書を作成してヤスの真実を探っている。
 その果てに縁寿と再会し、孤児院のホールで黄金郷に辿り着き、十八の中の戦人がヤスと再会する。
 そんな未来を。
 そんなヤスの老後を描くことで、1998年の八城の許へプレイヤーのヤスは蘇るのではないか。


“あの、第5のゲームで、ずっとずっと虚ろな瞳のままぼんやりとしていたベアトはまさに、……彼女の骸だったのだ。”
“それでもゲーム盤に留まったが、……消え去ってしまった…。”
“もしあの時、ラムダデルタでなく、ベアトがゲームマスターだったなら、その時にゲーム盤も消え去り、全ては終わるはずだった。”
“ベアトが戦意を失えば、……このゲームの世界は、消える。”
“しかし、このゲーム盤の世界を遊び続けたい魔女たちが、ラムダデルタがそれを許さず、呪いの枷で彼女を縛った。”
“たとえベアトが戦う意思を失っても、ゲーム盤が消え去らないように、枷で固定したのだ。”
“それはさながら、チェスで言うなら、制限時間を撤廃して無限にしたようなもの。”
“しかし、だからといって、無限にベアトの手番で止まってしまっていては、魔女たちは退屈の病で死んでしまう。”
“だから、ラムダデルタがゲームマスターを引き継いだ。”
“…その時、ベアトの存在が、このゲームの存在する前提条件で、なくなった。

 ヤスがサクリファイスされ、ゲーム盤が崩壊するところを。
 ヤスを蘇らせるという絶対の意志が、ゲーム盤を固定した。
 そして、ヤスを蘇らせるために、ゲームマスターを引き継がせてゲームを再開した。
 だからヤスの存在がゲームから消えた。


“ぬいぐるみごっこは、ぬいぐるみに、自分のもっとも望む人格を投影できる。”
“……しかし、自分が演じるからこそ、一切のイレギュラーがない。”
“望外の喜びを、一切望めないのだ。”
“人の世において、予定調和ほど退屈なものはない。”
“だから、ぬいぐるみは世界で一番のお友達でありながらも、……いつかは飽き、卒業する。”
“お兄ちゃんは、本当のベアトでないと嫌だったのだ。”
“ベアトのふりをさせるぬいぐるみでは、堪えられなかったのだ…。”
「戦人の駒として生み出されたベアトは、戦人の望むとおりに動くだろう。」
「駒なんだから当然だわ。プレイヤーの指す通りに動く。……そして、それ以外では、一切動かない。……お兄ちゃんが何を望んでるのかはわかるわ。じゃあ、このおかしなベアトは何者なの。」
「……戦人は、ベアトを本当の意味で蘇らそうとしているのかもしれない。……人の子らの、諦めきれぬ夢、だ。」

 駒としてではなく、プレイヤーとしてヤスを蘇らせたい。
 思考停止による死だから、思考を再開させれば蘇るはずだが、そんな簡単じゃないわな。
 新しくヤスを生み出し、それに前のヤスのゲームを再演させ、そして上で新しいゲームのロジックを構築できたら、新しい思考を生み出したと認めることができるだろう。
 これは、新しいヤスを依り代に、前のヤスを召喚すると言った感じか?





 人ならざる世界の書斎。

「複数の物語を描き、その表裏を合わせねばなりません。……それにしても、初めてとは思えない、見事なお手並みでした。……ヱリカさまも、きっとこのゲームならご満足いただけるでしょう。」
「あの探偵殿の好みに合うといいだがな。……しかし、…ベアトを純粋に尊敬するぜ。…よくあんなややこしい物語をあっさりと作ってみせたもんだ。」
「……あっさりとではありません。……ベアトリーチェさまも、深く深く悩み、物語を生み出しては、矛盾に悩み、常にロジックエラーと戦われておりました。」
「ロジックエラー?」
「物語の表裏が合わぬこと、矛盾することでございます。……これが生じると、ロジックエラーと呼ばれる致命的な反則手となり、即座にゲーム盤は破綻、崩壊いたします。魔女側が犯せぬ、最大最悪のミスです。」

 今実感しているところだが、本当にややこしい物語を作ったものだ。
 3つの物語の表裏を合わせるとか、人間技とは思えない。
 なんでこれが成立しているのかわかんないレベル。





 八城ん家。

“人は、同じ人間であっても、別人になり得る。”
“いや、生い立ちと無限の可能性によって、無限の数の別人になり得るのだ。”

 19人目の右代宮真里亞が、福音の家に預けられ使用人となって六軒島にやってきた別の可能性の自分として、ヤスを生み出したように。
 あるいは、悪魔のルーレットによって、別の可能性の自分たちを生み出したように。
 我は我にして我らなり。
 無限に別の自分を生み出す、それが無限の魔法。

 さらに言えば、チェス盤思考も、広義による無限の魔法である。
 相手の立場となった自分を生み出しているので。


「………あなたはなかなか出来る読者のようですね。…並みの読者相手だったら、同一の人間であっても、その生い立ちと時間によって、別人になりうることを説明するために数百ページを割かねばならぬというのに。」
「あまり読者を舐めないで。私たちはただ読んでるだけじゃない。読んで、考えてるの。」
「……100人に読ませれば、90人くらいは読める。しかし意味がわかるのは、50人。そしてそこからさらに考えられるのは20人もいない。……よく噛んで飲み込みなさいと。…ただそれだけの話なのに。くすくす。」
「しかし、“あなた”はどうやら…、その貴重な20人の中の1人らしい…。だからここへ招いたのです、人の子よ…。」

 この同じ人間だけど別人という話ひとつとっても凄い深いよな。
 数百ページを割かれてきたけれども、全部理解できたとは到底思えんぞ。
 異なる運命を辿れば別人となる、くらいなら誰でも理解できる。
 その別人さんは、自分ではないと区別し、“自分”には含めないのが普通だろう。
 それを“自分”に含め、“自分”を増設するという考えに、理解が至る人がどれほどいるのか。
 さらには、その別の自分に独立した人格を与えて、対戦ゲームをして遊んでいるとか、理解可能だろうか。
 果ては、自分が思考するために、駒に朗読させて介添えしてもらわなければならない、とか話半分でも理解できるかわからないんじゃないのか。

 一応言うと、一つの物事に対して異なる視点から別の見解を提示させることで、その見解に対する自分の考えが生まれる。
 未知の思考を生み出すために、そういう試行を駒にやらせ続けている。
 そして、やらせ続けた結果、既知ばかりになり、未知が生まれ難くなる。
 そうなると、未知を探すために、新しい駒を生み出し続けることになり、ずっと駒の立場から思考し続けることになり、本来の自分の立場から思考することが少なくなっていく。
 要するに、思考は止まらず、ただ思考する立場がコロコロと変わっている。
 そして、自分に立ち戻ることが稀。
 これを人格として捉えるなら、フェザリーヌが長い眠りに就いた、となる。

 この別人って話題だけで語ることはごまんとあるけれど、実際みんなどれくらい考えてるの?


「ね? 時間など、気にすることもないでしょう。……あなたが読み終わるまで、全ての時間はあなたを追い立てない…。」

 現実とは異なる時間の流れ。
 それはそこが、八城の生み出した“世界”だから。
 内面世界だから、外の世界の時間に追い立てられない。






 人ならざる世界の書斎。

「……お前はたくさんの家具たちや、色々な物語を紡ぎ出して来た。……俺はそれを見て、……お前はきっと、さぞや楽しいだろうなと思っていた。」
「「“だが違う。”」」
「お前は、……信じられないくらいに、孤独だったんだ。」
「“お前にとって、…俺という、自らに反逆する対戦相手が、どれほど愉快なものか。今の俺には、痛いほど理解できる。”」

 駒だけでは、全てが予定調和、全てが既知。
 “世界”の全てを知っているから。
 自分以外に、解釈を述べる者がいない。
 それはつまり、孤独だと言うこと。
 だからこそ、対戦相手となるプレイヤーを欲する。
 自分とは異なる解釈をする他人を求める。
 新たに世界を生み出すために。
 そうして生み出されたのがヤス。
 ……ヤスが生まれる必要があった環境、つまりは、信じられないほどの孤独な環境ということ。
 変化が何もないからこそ、変化を求めて生み出された存在だろうから。




 事件当日、ゲストハウス。

「こういう日に限って、油断すると悪戯されるの。……いざって時、大切な物が見つからなかったり、閉めておいたはずのものが開いてたり。」

 19人目が狙い易い紗音に対して良く悪戯しているのだろう。
 昔からの(一方的な)付き合いだから、どんな時が狙い目なのか知り尽くしているはずだから。


「……家具のくせに、ニンゲンと結婚なんか出来るつもりなの。」
「出来ると思う。」
「無理だね。」
「どうして。」
「譲治さまの描く未来の夢を、姉さんは叶えられない。」
「そ、……それは……。」
「……僕たちはニンゲンじゃない。それに劣る、家具。譲治さまは姉さんをニンゲンだと思い込んでるだけ。」

 真実の世界の紗音と嘉音は、自分たちを家具と卑下する人間。
 特に嘉音は、親族を監視する汚れ仕事をやらされているので、その思いが強いのだろう。

 虚偽の世界の紗音と嘉音は、ヤスを構成する部品であり家具。
 真実と幻想が結ばれるには猫箱に閉ざすしかなく、猫箱の中にありえたかもしれない未来を視ることでしか、その未来は紡げない。

 19人目とヤスの姿に重ねたものなら。
 ヤスは19人目が生み出した家具。
 駒からプレイヤーに昇格し、独立した人格を持っていて、対等な人間として扱われていても、家具は家具。
 ニンゲンにはなれない。
 しかし愛を知った。
 右代宮真里亞を愛した。
 そして戦人に恋をした。
 だからニンゲンになりたいと願った。
 その時点で、心は人間だ。
 後はその心を認められるだけ。
 ……おい、戦人ァ。ホントもう。


「お嬢様も僕も、この島に閉じ込められて、何の希望もなく生きてるのはまったく同じだった…! なのにお嬢様は自らの道を自ら照らし、自らの足で運命を切り開くんだ…! それが眩しくて、羨ましくてッ!! お嬢様と一緒になら、……こんなみすぼらしい自分じゃない、別な、本当の自分を見つけられそうな気がして…!!」

 19人目とヤスのものとして見ると。
 19人目もヤスも六軒島に閉じ込められた家具だった。
 ニンゲンとして認められず、何の希望もなく生きているのはまったく同じだった。
 なのにヤスは、幼い頃からのゲームによって、自らの道を照らし、自分の居得る余地を切り開いてきた。
 そこからすると、ヤスの方が一日の長があるんだな。
 それが眩しくて、羨ましくて、ヤスと一緒なら…………。
 と言った感じ。

 この二人の関係は良いよな。
 ずっと一緒にいさせたくなる。


「この島を出て、……そしてこの島へは、二度と帰らない。……嘉音くんとは、お別れになる。」
「………………………。……そうだね。……僕たちは、……お別れだね。」

 譲治と紗音が結ばれて島を出るを、戦人とヤスが結ばれて島を出るという形に置き換える。
 そうすると、この話は、EP8で描かれた戦人=十八の黄金郷の未来となる。
 無論、その虚偽の世界には19人目はおらず、お別れということになる。

 そんなわけで、これは戦人とヤスが結ばれるという意味の他に、ヤスを信じる読者とヤスの真実が結ばれるという意味もあるだろう。


「もし。……嘉音くんが心の底からお嬢様を愛していて、……それが、私の譲治さんへの思いと同じか、それ以上だと言えるなら。………私は、あなたと、決着をつけなきゃならない。」
「……ね………、…姉さん……。」
「それが、お互いのため。………嘉音くんの思いを、私を理由に、諦めないで。」
「僕のわがままが、姉さんの幸せを傷つけるかもしれないのに……?」
「私も、自覚してるよ。……私の幸せが、……嘉音くんを傷つけることを。」
“私たちは、傷つけ合わずには、いられない。”
“紗音はそう言い、嘉音に背中を向ける…。”
“嘉音はその背中に、……紗音の強さと、…それでもなお自分を想ってくれる姉の愛を感じた。”
「……姉さん。僕は、姉さんと一緒で、幸せだったよ。」
「私もだよ。君がいてくれたから、今日まで頑張れた。……だから、譲治さんとも出会えた。」
「うん。僕も姉さんが教えてくれたから、……お嬢様の眩しさに気がつけた。」
「私は、自分の想いを曲げない。……その気持ちだけを見つけて他を無視して、嘉音くんの心を踏み躙ることから目を逸らさない。」
「……僕も、姉さんを理由に、……自分の気持ちをもう、偽らない。」
「私の恋が実っても。君の恋が実っても。………私たちは互いを祝福しよう。」
「うん。……約束する。そして僕が勝ったら。……お嬢様を愛し、……姉さんも大切にする。」
「ありがとう。でも私が勝ったら。……君と島を忘れて、ここを永遠に出て行く。」
「うん。……勝ったら。自分の恋に、全力を。……たとえそれが報われない恋だと知っていても。」
「うん。私たちは、だって、もう。」
「「家具じゃ、ない。」」

 私を理由に諦めないで、とのことなので、やはりここで言う恋は、“ニンゲン”として認めてもらうために推理してもらうことだろう。
 真実として読者と結ばれる、そのための決闘。
 互いがいたからこそ、真実として認めてもらおうと頑張れた。
 でも、真実として互いを否定し合う関係。
 どちらかの恋が実っても、真実だと、ニンゲンだと認められたなら、互いを祝福しよう。

 そして、主である19人目が勝ったのなら、結ばれた読者と、そしてヤスも大切にする。
 逆にヤスが勝ったのなら、ヤスとその読者が結ばれ、19人目の世界から出て行く。

 19人目とヤスが一緒にいられるのは、前者か。





 薔薇庭園で決意を朱志香に話す嘉音。

「僕は、姉さんがここを辞めることがあった時、自分も辞めると決めていました。」
「……知ってるよ。…じゃあ、嘉音くんも辞めちゃうの?」
「今は、わからなくなりました。……辞めたら、お嬢様という太陽が照らしてくれた何かを、また見失ってしまいそうだから。」
“朱志香は何を言われてるのかわからず、呆然とするしかない。”
“……しかし、嘉音が大切なことを伝えようとしていることだけはわかる。”
“だから、続く言葉が、何のまやかしも誤魔化しもなく、そのままに受け取れる…。”
「僕は、朱志香お嬢様のことが、好きです。」
「…………わ、………私もだよ…っ…!」
「あなたの太陽の如き生き方を、僕も一緒に歩んでみたい。あなたとなら、家具と蔑んだ自分から決別できるかもしれない気がする。」
「嘉音くんは家具じゃない。そして使用人になるために生きてきたのでもない! 年頃の男の子として、もっともっと、人生を楽しんでいいはずなんだよ…! は、ははははは。私も、……眩しいや。嘉音くんが眩しくて、……目が見られない。」
「これが、偽らざる僕の気持ちです。………それを、…今まで誤魔化してきて、すみませんでした。……僕の臆病さが、お嬢様を傷つけたあの日を、お詫びします。」
「いいよ。その言葉だけで、……私は嬉しい。」
「だから。……僕はお嬢様といつまでも一緒にいるために、……家具をやめようと思います。僕に、そのための時間を下さい。……最後に、その弱さを許して下さい。」
「よ、弱さなんてとんでもない…! 嘉音くんは見せてくれたよ。今までの自分と決別したいっていう、飛び切りの勇気を。だから私は応援したいし、急かさずいつまでも待つよ。」
「……私が太陽になって君の道を照らせるなら。私だって、君という人がいてくれたから、誰よりも眩しく輝いて、君の瞳に私だけを映したいと思った。君がいなかったら、私だって太陽になんて、なれなかった。……だから待つよ。ずっと。」
「ありがとう、お嬢様。」

 ヤスの真実が結ばれたら、19人目の真実は消え去る。
 そうするつもりだった。
 でも、ヤスと一緒にいるために、立派な真実になる決意をした。
 そのための時間は、今の八城になるまでの時間。
 ヤスは戦人に推理してもらうために生み出された駒。
 しかし、そもそも駒は主のために生み出される。
 主に己の働きを見てもらうことが喜び。
 そして、主の役に立つことが最大の喜び。


「うん、今はそれでいい。だから私も、嘉音くんのこと、名前で呼びたい。……嘉音じゃなくて、……本当の名前があるんでしょ? きっと、嘉音の嘉が含まれた名前だと思うな…。な、何だろ、……えへへ…。」

“思えばあの二人はこれまで、互いの名を呼んだことはなかったのだ。”
“朱志香は、嘉音の本当の名を知らなかった。”
“嘉音は、朱志香を名前では、呼ばなかった。”
“相手の名を呼んで、人は魂の価値を認める。”
“だから、名前は神聖。”
“……それを口にすることを許されることは即ち、自分の魂を認めてくれたということ。

 我は我にして我らなり。
 たぶん、どちらも“私”で名前で呼び合っていなかったのだろう。
 名付けることで別人となり、魂を割った。


“……少なくとも。ベアトリーチェは、戦人のために生まれて来た、無垢な存在だった。”

 戦人に推理してもらうために生まれたからなぁ。




 チーズの問題。

「………え、あぁ、……そうなのか…? んんんんん、3回ってのはすぐに思いついたんだが、……それじゃ簡単すぎて問題にならないと思って、捻り過ぎたか……。」

 うみねこの答えも、誰でも解るような簡単なものではなく、実に捻り過ぎなやつ。
 まぁ、誰でも解けるなら、探偵なんていらない。
 誰でも解ける答えより、探偵しか解けない答えが必要とされるのが、ミステリーというもの。
 皆が揃って右を向けば、自分は左を向くようなひねくれ者は、探偵に向いているのかもしれない。

 私はそんなタイプではないと思うが。
 どちらかというと自分の考えに固執するタイプ。
 あるいは、自分が納得できないものは納得したくないタイプ。


“問題をなぞなぞ的に考え、3回という答えをはるかに超えた1回という答えに行き着いた戦人と。”
“その双方の答えをすでに用意し、出題者の粗まで着目していたヱリカ。”

 私は当時、簡単な答えはミスリードで間違い、だから難しい答えが正解という、戦人タイプだった。
 でも実際は、双方の答えを用意したヱリカタイプの方が、より正解、理想的な解答なのだよな。





 肖像画の前の雛ベアト。

「……あなたに、何があったのですか? ………私はあなたの卵。そして雛。……あなたの翼は、お父様のためにあったはず。……それがいつ、片翼をもがれ、………あのように変わり果ててしまったのですか……?」

 ヤスと19人目が揃って両翼が揃う。
 そして、戦人に推理してもらうために、19人目と決別した。
 片翼となったヤスは、失った片翼の代わりとなり支えてくれるはずの戦人が、推理せずに去ったため、そのまま置き去りになった。
 魂を支える二本の柱の内の一本を失い、瓦解寸前。
 それがあの荒れように繋がる。





 夜の屋敷を徘徊する魔女たち。

「つまり、簡単に言えば、ニンゲンの視界に入ってはならない、ということですね…。」
「その通りだ。ニンゲンの目は毒を放つものと同じに考えよ。ヤツらに見られるということは、身を焼かれるのと同じことだ。それには劣るが、聞かれること、気取られることすらも、毒を含む。」
「……私たちは、ニンゲンに近付くだけでも大変なのですね… 。」

 19人目が自分に課したルールのひとつ。
 人に見られたら身を焼かれるからそれを回避して遊ぶ、という側面もあるが。
 実際は、自分と共にする幻想たちを守るためのルール。
 このルールがあるから、自身の真実すら晒せられない自縄自縛に陥っているのんだよな。
 でもまあ、それが自分が生み出した世界を守るための、最大のルールでもあるのだが。


「我らが魔力を蓄え、それをニンゲンも認めたなら、その毒は限りなく軽減される。即ち、吾らの存在を認めさせることが、ニンゲンたちから毒を失わせ、再び彼らの前に降臨することも出来るというわけだ。」
「なるほど……。今の私たちは基本的に、ニンゲンたちの居ぬ間のみに、存在できるわけですね…。」
「魔力がまだまだ足りぬ妾たちは、人影に怯え物陰にコソコソと隠れる野良猫にも劣る存在というわけよ。」

 認められたなら、その時には、姿を現わすことができる。
 逆を言えば、認められなければ、姿を現わす勇気が持てない、ということ。
 臆病なのだ。
 魔女と共にし、魔女の世界にどっぷりと浸かった結果、魔女の理屈に染まった、と言えるのかもしれない。
 だからこそ、ヤスは19人目を人の世界に戻そうとしたのだろうな。
 魔女として認められるのではなく、人間として認められるよう、共に頑張ろうと。





 フェザリーヌと縁寿。

「そうだ。全ての現象は本来、中立、中性、無味無色だ。……それを、望む受け取り方をさせるには、その環境作りが必要となる…。」

 ヤスの真実を受け取らせるには、その環境作りが必要となる。
 そして、19人目の真実を受け取らせるのも同様。
 手掛かりを残し、伏線を張り、布石を置かなければならない。
 その努力なくして、信じてもらえることはない。


「………観測者なき結果は、無限の過程を持ち得る。…それを、たった一つの可能性でしか捉えられないニンゲンには、何も想像することが出来ない。」
「しかし、魔女の可能性を信じられる者には、魔女のイタズラを想像することが出来る。……その時、今、我らが見たベアトリーチェたちの悪戯の光景は、事実としてカケラに刻まれる…。」
「……魔法の原点の一つだわ。過程の、虚飾。」

 複数の可能性を捉えられる者は、複数の過程を想像でき、それを真実に修飾することができる。


「邪悪なる魔法を退ける力も、人の子には必要だろう。……しかし、愛ある魔法を、焼いて穢さぬこともまた、人の世の愛なのだ。」

 事件に飾られた黄金の魔法、これを邪悪なる魔法とするか、愛ある魔法とするか、というのは議論になり得るのでは、と思う。
 ヤスという真実は、真犯人の罪を覆い隠す邪悪であるとも言えるし、ヤスに対する愛による魔法であるとも言える。
 愛のためとはいえ、罪は罪。
 しかし、罪に塗れようと、愛は愛。
 罪は明らかにされなければならないが、愛は穢したくない、むしろ認めたい。
 ならば、どうするのか、と言ったところがね。


“奇怪な何かが起これば、それは全て、黄金の魔女の仕業…。”
“そういう“魔女の居得る環境”こそが、ベアトリーチェ自身。”
「……それが累積して、1986年に至る。……これこそが、真犯人が被っているヴェールなのよ。そしてそれを被っているのは紛れもなく、ニンゲンの誰かだわ。」
「この、魔女たちの過去物語の時点ではそうも断言できよう。……しかし、その論法だけで、1986年も戦い抜けるとは思えぬぞ……?」

 “お母さま”も足せば、3人で一つの魔女。
 だから、ヴェールを被ったニンゲン、さらにそのニンゲンというヴェールを被ったニンゲンである可能性は否定できない。





 ゲストハウス、真里亞対ヱリカ。

「へー、その話を詳しく教えてはもらえませんか? あなたはベアトリーチェに会った? そして魔法を見せてもらったとでも言うんですか?」
「うー! いつも会ってる! 六軒島に来る度に会ってるもん! そしていつも、楽しい魔法を見せてくれるの!!」

 ベアトのふりをして真里亞に会っていたのは、お前だ、ヱリカのふりをしているヤツ。
 と、ツッコミを入れたくなる。
 本人乙、という状況だから笑える。


「ノーサンキューです。今、大変、知的な話をしています。外野は黙っているようにッ。」

 姿を偽った師匠と弟子の対決。
 他人が口出しできることじゃない。
 自演乙ってレベルじゃねーぞ。


“すると真里亞は足を止め、ぐるりと振り返った。”
「………何か?」
“ひっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! たまにいるんだよ、魔法を信じない毒素の塊みたいなニンゲンが! 私のクラスにもお前みたいな男子がいくらでもいるよ!」
「魔女も魔法も、奇跡も幸せも何も信じない! そんな程度のヤツらの毒素に焼かれて灰になっちゃうようじゃ、魔女なんかはなれないねッ! 真里亞はこう見えても、ベアトリーチェの弟子! 原初の魔女見習いなんだからッ! きっひひいひひひひひひひひひひひ!!!」
“直前まで、さめざめと泣いていた真里亞が、まるで別人に豹変したかのように。……薄気味悪く、いや、けらけらと笑う。”
“戦人たちは突然のことに面食らうが、ヱリカはその様子を平然と見ていた。”
“そして、微笑みながら小さく頷いて応える。”
「グッド。……相性は悪くないです。おやすみなさい、ミス・マリア。次はもっと手応えのあるゲームで戦いましょう。」
「そうだね、そうしようね、約束しよう。……きひひひひひひひひひひひ。」

“あとのラウンジには、ヱリカだけが残されるのだった…。”
“ヱリカは薄笑いを浮かべたまま、飲み物のグラスを指で弾く。”
“チンと軽い音がする。……案外つまらない音だった。”
“それでもヱリカは、さも小気味良いかのように、薄ら笑いを浮かべるのだった…。”

 弟子の成長を喜ぶ師匠の図。
 スパルタだねぇ。
 ベアトのゲームは、人間側と魔女側に別れて論戦するもの。
 19人目はヤスと共に、頭の中で常にそれを行なっている。
 真里亞の前では、魔女側のプレイヤーとしてしか会ってないが、本来は人間側の側面も持っている。
 そして、魔女であり続けるなら、人間側との論戦を潜り抜けなければならない。
 論戦で負けても、なにくそと奮起できなきゃ、魔女なんてやってられない。
 まぁ、とどのつまり、スパルタなのだよ。
 最低な戦いも、愛のある目で視ると、こんな感じに映る。

 子供相手に本気で相手をするのは、確かに大人げない。
 でもそれは逆を言うと、対等な相手であると認めているということでもある。
 はっきり言えば、譲治たちの真里亞への対応は、悪く言えば子ども扱い、腫物扱い。
 誰も真里亞に真剣に相対しない。
 子供の夢を守るのは良いが、幼いままでいさせようとしている、成長させないでいる、そんな悪い面もある。
 成長を促すためには時には厳しくしなくてはならないこともあるだろう。
 まぁ、楼座のやり方は論外だが。





 東屋の恋人たち。
 EP7と繋げて解釈する。

「ヱリカさんくらいのお歳の方が、一番、自分自身との付き合い方が難しいと思います。」
「……そうだね。子供という殻を打ち破りたくて、辺り構わず嘴を打ちつけるお年頃だね。それを打ち破れて、ようやく大きく羽ばたくことが出来る。……僕もそうだったよ。かつて、まだ殻の中にいた時の自分は、情けなくひ弱な、まるで尊敬できない男だった。」

 かつて、まだ殻の中にいた頃の八城は、情けなくひ弱な存在だった。


“……そんな自分が、嫌いだった。”
“その殻を打ち破り、父さんや母さんのような立派な大人になりたかった。”
「でも、……譲治さまはそれを打ち破られました。……この数年の譲治さまは、毎年出会う度に見違えるようでした。」
「ありがとう。」
「……何か、きっかけがあったんですか?」
「殻を破る?」
「はい。……あれほどの、まるでサナギを経て蝶になるかのように、目まぐるしく成長された譲治さまが、ただ漫然と日々を過ごしていてそれを迎えられたとは思いません。……それだけの大きな決意をされる、何かきっかけがあったに違いないと思いまして。」

 今の八城は立派なミステリー作家。
 謎を問うことも出来なかったかつてとはまるで違う。
 世に謎を問い掛け、その返事をもらえるまでに成長した。


「異性とどう接していけばいいかわからなくて。過度に神格化して畏れて、……紳士的なレディファーストを装いながら、僕は女の子との交流に、多分、恐怖さえ覚えていた。」
“もちろん、譲治に、異性と交流したい気持ちは、健全な男子として当然に存在した。”
“しかし、どう接すればいいかわからなくて。紳士的に振る舞いたくて、嫌われたくなくて、そして大事にしたくて。”
“その気持ちが、女性を大切にするという言葉だけが先行する、自覚なき女性恐怖へと膨らんでいった…。”
「そんな男を、紳士的な、奥手な男と呼ぶんだろうね。………とんでもない。ただの臆病者さ。そのくせ、自分はこんなにも紳士的なのに、どうして彼女が出来ないのかと一方的に思い込み、最後には、世間の女性は全て、男を見る目がないなんて勝手に決めつけ、勝手に蔑み始める。………これが本当の、情けない男ってもんさ。」

 人間とどう接していけばいいかわからなくて、過度に神格化して畏れて。
 読み手ファーストを装いながら、人間との交流に、恐怖さえ覚えていた。
 もちろん、人間と交流したいという気持ちは当然に存在した。
 しかし、どう接すればいいかわからなくて、魔女的に振る舞いたくて、嫌われたくなくて、そして大事にしたくて。
 その気持ちが、読み手の解釈を大切にするという言葉だけが先行する、自覚なき人間恐怖へと膨らんでいった。
 ただの臆病者。
 自分が生み出した世界は謎はこんなにも素晴らしいのに、どうしてそれに挑戦してくれる人が出来ないのかと一方的に思い込み、最後には、世間の人間は全て、謎を見る目がないなんて勝手に決めつけ、勝手に蔑み始める。


“しかし、現実はまるで違う。”
“学校での僕は、まるでうだつが上がらない。”
“……リーダーシップどころか、周りに流されるだけのイジラレキャラ。”
“当時の僕はそれを、空気が読めて周りに合わせられる、順応性を持つデキる男、なんて思ってたよ。……馬鹿馬鹿しい。”
“確かに僕は女子から一定の信用を得ていたかもしれない。”
“……でも、僕とガールフレンドになってくれる女子はおろか、友人と呼べる女子さえもいなかったよ。”
「そりゃそうさ。……レディファーストと称して、いつも後ろへ下がる男だよ。そんな後ろ向きな、牽引力のない男の背中についていこうなんて、誰が思うものか。…滑稽だね。それに気付かず、自分はさぞや魅力的な男子に違いないなんて思ってる。」
「………その気持ち、ちょっぴりわかります。…自分が異性に魅力的に見てもらいたくて努力した振る舞いが、必ず思ったとおりの結果を導くとは、限りませんから。」

 しかし、現実は違う。
 謎として、まるでうだつが上がらない。
 リーダーシップどころか、周りに流されるだけ。
 当時はそれを、空気を読めて周りの解釈に合わせて“設定”を変更できる、順応性を持つデキる謎、なんて思ってた。
 馬鹿馬鹿しい。
 確かに人間たちから魔女の仕業として一定の信用を得ていたかもしれない。
 でも、自分の謎に挑む者はおろか、友人と呼べる人間さえいなかった。
 そりゃそうさ、読み手ファーストと称して、いつも後ろに下がる人間だよ。
 そんな後ろ向きな、牽引力のない謎についていこうなんて、誰が思うものか。
 滑稽だね。それに気付かず、自分はさぞや魅力的な謎に違いないなんて思ってる。


「そんな、自惚れた僕の目を覚ましてくれたのが、……紗音。……いや、君たちだった。」
「………どんなきっかけが、譲治さんに訪れたんですか。」
「はは、……嫉妬かな。」
「意外です。……でも、何に?」
「君と、戦人くんが、とても楽しそうに話しているのを見て。………僕は嫉妬した。」
「…………私が、…戦人さまと?」

 紗音と戦人がとても楽しそうにミステリーの話をしているのを見て。……嫉妬した。


“こんなにも女性を大切にする紳士に憧れない女の子はいないと、僕は本気で信じてたさ。”
“だから、縁ある女の子たちはみんな、僕に好意を持ってるに違いないと本気で思っていた。”
「それに比べたら、いつまでもはしゃいだりふざけたり、下品で低俗な言葉遣いばかりしている戦人くんや朱志香ちゃんなんか、絶対に彼女や彼氏が出来たりするもんかと思っていたよ。……それが、いつまで経っても彼女が出来ない自分への、精神安定剤だったのかもしれない。」
「……とんでもない。彼らは僕に劣ってなんかいない。むしろ、異性を勝手に神格化して、レディファーストと称して畏れて避ける僕の方がよっぽど、劣っていた。」

 こんなにも読み手の解釈を大切にする謎に憧れない人間はいないと、本気で信じてた。
 だから、縁ある人間たちはみんな、自分の謎に好意を持っているに違いないと本気で思っていた。
 それに比べたら、他の謎なんか、絶対に解きたいと思う者が出来たりするもんかと思っていたよ。
 それがいつまで経っても謎を解いてもらえない自分への、精神安定剤だったのかもしれない。
 とんでもない。彼らは自分より劣ってなんかいない。
 むしろ、読み手を神格化して、読み手ファーストと称して畏れて避ける自分の方がよっぽど、劣っていた。


「人は、無縁であるなら、相手が無害で退屈な人間であることを尊ぶ。しかしそれは、邪魔にならないという意味で好まれているだけだ。……退屈な人間を、身近にしたいと願う人間など、いるわけもない。」
「……当然よ。動かず、物も言わぬ電信柱と友達になろうという馬鹿はいないわ。……でも、動かず物を言わないのは、電信柱としては優秀だわ。」
「そういうことだ。譲治はつまり、いくら自分が優秀であっても、魅力ある人間として認められていない、ただの電信柱扱いであることに、ようやく気付いたというわけだ…。」

 物を言わぬ謎、物を言わぬ真実、物を言わぬ物語、物を言わぬ人間と友達になろうという馬鹿はいない。
 19人目はつまり、いくら自分が優秀であっても、魅力ある謎、魅力ある物語として認められていない、ただの怪談扱いであることに、ようやく気付いたというわけだ。


「僕は当時、自惚れの真っ盛りだった。……だから、親族会議でみんなで集まっている時。一番魅力的なのは僕で、それに交じって遊んでくれた使用人の女の子はみんな、僕に惚れていると信じていたよ。………それがあの日、僕はそこでようやく、自分がどれほどみすぼらしかったかを思い知ったのさ。」
「………私が、…当時、何か心無いことを言ってしまったのでしょうか……?」
「いいや、逆さ。………君は何も言わなかった。君の瞳に映っているは常に僕だという自惚れが、打ち砕かれたのさ。」
“いつからだったんだろうね。……いや、多分、ずっと前からさ。”
“僕が自惚れで目を曇らせているから、気付かなかっただけなんだ。”
「……ある日、唐突に気付いたんだ。……君たちが、戦人くんや朱志香ちゃんと、僕なんかよりはるかによく馴染んで、……楽しそうに遊んでいることに。」
“……そうさ。僕があれだけ見下してた彼らは、僕なんかよりはるかに魅力を放っていたんだ。”
“あの日の君は本当に楽しそうだったよ。”

 自分は当時、自惚れの真っ盛りだった。
 だから一番魅力的なのは自分の謎で、それに交じって遊んでくれた使用人たちはみんな、自分が生み出す物語に惚れていると信じていたよ。

 ある日、唐突に気付いたんだ。
 君たちが、自分なんかより、戦人や朱志香と楽しそうに遊んでいることに。
 あれだけ見下していた彼らの世界や物語は、自分のなんかよりはるかに魅力を放っていたんだ。


「ははは、気色悪い話さ。……僕は君を勝手に、僕に好意を持ってると決めつけ、ひょっとしたら異性の付き合いになってもいいかななんて、青臭い白昼夢を許したことさえあるんだ。」
「それを、勝手に恋人を奪われた気持ちになって、勝手に傷付いてる。………どこまでも僕は、駄目な男だったんだ。……その時、ようやく僕は、自分の愚かさに気付けたんだ。」

 紗音を黄金郷に招き入れ、共に世界を作り上げることを許しても良い、なんて思っていた。

 これはつまり、紗音はヤスの依り代なのだから、紗音の協力があれば、ヤスをもっと能動的に動かして色々と世界を広げて行ける。
 物語の共同著作者になってもいい、という感じかな。
 そう、思い上がっていたということなのだろう。


「最初はね、戦人くんたちを真似ようと思ったんだ。……滑稽な話さ。ふざけたりはしゃいだり、下品な会話を好めば彼らのような魅力が得られると思い込んだ。」

 ベアトの喋り方だな。


「僕に魅力がないのは、人を大事にすると称したり、場の雰囲気に合わせて振る舞えると称したりして、………いつも一歩逃げている自分の、臆病さにあったんだ。」
「僕は、それを克服するために、生まれ変わる決意をしたよ。……初めて自分の殻というものを理解し、それを打ち破ろうと誓ったんだ。」
「僕の意思が挫けそうになる度に、……あの日のことを思い出してバネにした。……君たちが僕を忘れて楽しそうに遊んでいた、あの日。そして、僕に好意があると決め付けていた君の瞳に、僕が映っていなかったことをね。」
「……誓ったんだよ。今度こそ、本当に君を振り向かせて、その瞳に僕を映してやりたいとね。……それが、実は君に恋をした、一番最初の感情。」

 読み手の解釈を大事にすると称したり、場の雰囲気に合わせて振る舞いを変える真実と称したりして、いつも一歩逃げている自分の、臆病さにあったんだ。

 挑むに足る魅力のある謎。
 それを物語にして突きつける。
 自分の主張や解釈を盛り込み、読み手の解釈も盛り込む。
 読み手の考えを誘導し、読み手の信じた幻想を基に新しい物語を綴る。
 手掛かりを与え、自分の思考を辿らせることで牽引し、目的の真実にまで連れて行く。
 自分の真実を、自分の世界を、自分の想いを全て込めて。
 全力の謎を。

 今度こそ、読者を振り向かせる。
 未だ見ぬ読者に向けて。
 今いる読者に向けて。
 ミステリーの作者と読者の関係は、恋愛に例えられる。
 だからこれは、恋だと言っていい。


「あの日、僕を無視して遊んでいた君たち、……いや、君への復讐が。いつの間にか、本当の恋心に変わっていったんだ。」
「……しかし、神に誓うよ。それが君のことを真剣に考えたきっかけだとしても。……僕が今、君に持つ気持ちには、何の偽りもない。」
「……僕は君を生涯愛することを誓う。それは誰にも、何にも偽らない。そして、君を妻として迎えるために、僕は世界を敵に回すことだって厭わない覚悟がある。」

 真剣に読者のことを考えたきっかけ。
 ここで言う読者は、真剣に謎と向き合う読者のことな。


「以上が、君に先にしておきたい懺悔さ。……僕は今日まで君のことを、初恋で一目惚れだったと言ってきた。……それは嘘なんだ。…自惚れた僕の、歪んだ、」
「関係ないです、そんなの。」
“紗音はにっこりと笑いながら、……だけれども、譲治の言葉を断ち切るだけの強さをもって、言った。”
「初恋じゃなかったら、結ばれちゃいけないんですか…? 初恋の人を忘れたら、それは裏切りなんですか…? 恋って、……そんな単純じゃない。いえ、……単純かもしれない。……だって、恋なんて簡単。……常に、今の。……今の自分の正直な気持ちだけが、正解なのだから。だから昔の話も馴れ初めも、何も関係ないんです。」

 処女作かどうかとか、誰に向けたミステリーなのかとか、関係ない。
 今の私にとって、最高のミステリーがこれだってことが重要なのだ。
 今もなお夢中だぜ。


「くすくす、いいえ。……何事も完璧な譲治さんにも、人間臭い一面があることがわかって、ちょっと嬉しかったです。……そして、それを私だけに打ち明けてくれることに、…嬉しくなりました。」

 うん、私も同意見だ。
 完璧なゲームだったけど、それ以前は未熟で人間臭かったんだなと。
 これを知っているのは私だけなんだと。


「…………ありがとう。…僕は君がいたから、僕になれた。」
「私も。譲治さんがいるから、私でいるのです。……だから、包み隠さず教えて下さい。……私たちは、どんな夫婦になって。……どんな未来を築くのですか。」
「僕は、君という妻を得て。父さんを追える実業家になる。……そして様々な挑戦や冒険を経て、自分の可能性の限界を確かめたい。その到達点の頂に、君と一緒に至りたいんだ。……そこからの眺めは、僕以外の誰にも見せられないものになる。」
「楽しそうです。……どこまでも、お供します。」

 作者と読者、両者が揃ってこそ、真実は、世界は、物語は生み出される。
 謎を出し、それに対する推理を出し、さらにそれに対する謎を出す。
 それを何度も繰り返して、今がある。
 今ある謎も、今ある推理も、互いがいたからこそ。
 到達点に連れて行ってくれ。
 お供しますよ。


「子供を作ろう。」

 ヤスかな。





 ゲストハウスの使用人室。

「……うん、それでいいよ。……君と、お嬢様もがんばって、……もしも結ばれるなら。……私たちが心の底から祝福できるくらいに、素敵な関係になって。」
「姉さんに、かなりのリードを許してるけどね。」
「……仕方ないよ。それが、君のこれまでの臆病の対価なんだから。」
「わかってる。……それが僕の、罪だから。」

 魔女の闇にある真実たちは、推理されて読者と結ばれることを望む。
 どちらが結ばれようと、それを祝福しよう。
 今のところ、ヤスの真実がリードしている。
 19人目は、他の真実より一歩身を引いていた。

 あれだな、猫箱の中に閉じ込められた幻想たちは、自身を真実だと認めさせて外に出て自由になろうとしているが、19人目はその幻想たちの後ろに隠れ、猫箱の中に引き籠ろうとしてきた、みたいな感じだな。





 ベアトの伝説と悪食島の悪霊伝説。

「思うに。……悪食島伝説の悪霊と、魔女伝説のベアトリーチェ。この2つの異なる伝説が、少し混交しているように思います。いえ、混交どころか融合かもしれません。」

「うむ。……あのヱリカとやらの話を聞いて、妾はふと思った。……魔女であり、魔法が使えるが、体を持たぬ妾と。……そして魔女であるが、魔法は使えず、肉の体を持つそなた。………妾たちはやがて一つになり、欠け合った部分を埋め合って、本当のベアトリーチェとして完成されるのではないだろうか。」

 悪霊伝説と魔女伝説が融合して、その設定を引き継いだのが姉ベアト。
 姉ベアトと、そのベールを被った雛ベアトが融合して一人に。
 さらに、それと19人目が融合して、1にして3人の魔女に。





 ひとりぼっちの密室。

“チェーンロックは閉じていなければならない。”
“開けても良いが、必ず閉じなければならない。”
“閉じなければお前の出口もまた、閉ざされる。”

“チェーンロックは、如何なる方法によっても、外側から開けることも閉めることも出来ない。”

 一人を身代わりにすることで出られる猫箱。
 どっちを連れ出し、どっちを残すのか。
 それが問われるのが、第6のゲーム。





 トランプをした嘉音。

“負けず嫌いの嘉音が大真面目に勝負を挑んできたため、譲治も戦人もそれを受けて立ち、徹底的に堰き止めあう苛烈なバトルに展開したためだ。”
“勝ちも負けも、あっけらかんと楽しむ戦人に比べると、嘉音は勝敗に激しく一喜一憂しているようだった。”
“……負けず嫌いというよりは、遊び慣れていないのだ。”
“勝ったり負けたりというやり取りに慣れていないから、遊びの負けにも大真面目になってしまう。”
“そんな彼が勝ちに固執して戦って、ベテランの譲治や戦人を挑発してしまったら、結果は火を見るより明らかなのだ。”

 ゲームのプレイヤーとしては、19人目よりヤスの方がベテランなのだろう。
 幻想を生み出すことを主目的としていて、自分の真実については一歩引いていた。
 だから、真実を認めさせるゲームにおいて、本気で戦ったことはなかった。


「惜しかった惜しかった…! あははっ、でも、楽しいぜ。本気で戦うのはね!」
「……本気だろうとそうでなかろうと、結果が負けでは何の意味も…。」
「とんでもない。本気で戦った結果の負けなら清々しいもんだぜ。いい加減に戦っての負けじゃ、本気出してたら勝ってた云々で未練タラタラでしょ?」
「そうだな。全力を尽くしたヤツは言い訳しない。そして、結果にかかわらず爽やかなもんさ。」
「そうだね。そしてそういう人間が一番怖いのさ。そこから必ず何かを学び、成長するからね。」
「……確かに。…僕は臆病だから、何も学ばなかった。…だから、未だに未熟なんだ。」

 本気で謎を作り、本気で論戦をし、そこから学び、次のゲームへ。


“家具だから、何を夢見ても無駄。”
“そう決め付け、全てから自分を遠ざけ閉じ篭っていた。”
“しかしその間に紗音は、いくつもの人生の冒険を繰り広げた。”
“そして今、家具からニンゲンへと続く扉に、手を掛けている……。”
“これまでの嘉音だったら、このトランプは、ただの付き合いに過ぎない。”
“しかし、……今の嘉音は、そこからも、何かを得ることが出来るようになっていた。”
“それを多分、成長と呼ぶ。”
“家具は、時を経ても朽ちていくだけだ。”
“成長できるのは、……ニンゲンだけの特権なのだ。”

 全てを諦め、代わりをヤスという家具に任せ、全てから自分を遠ざけて閉じ篭っていた。
 その間ヤスは、謎を作り、それを潜り抜けるロジックを通し、いくつもの冒険を繰り広げた。
 そして第6のゲームにおいて、真実に昇華しようとしている。
 成長できるのは、人間だけの特権。
 だから、ヤスは家具ではなくニンゲン。
 そして、自分もまた人間であると19人目は強く思ったのだろう。


「……いいえ。僕も楽しかったです。……いえ、……これが楽しいことなんだって、理解できました。僕を無理に誘ってくれて、ありがとうございます。」
「私たちはさ、もっともっと色々なことに挑戦していこう。そして、君が知らなかったものを探しに行こう。」
「……あ、あー、それでー、さっきの話だけどさ。ギ、ギターとか興味ない? い、いやぁ、別に無理にとは言わないけどその、」
「………きっと、難しいでしょうね。」
「ま、まぁね。でもさ、そこは丁寧に教えるし、練習は私が付き合うからっ。まぁ、言うほど私もうまくないんだけどね、ははは…。」
“嘉音は最初、ギターという初めての楽器に触れれば、無様な醜態を晒すに違いないと恐れていた。”
“……その醜態が、自分を不愉快にさせることをわかっていたからだ。”
“……しかし、嘉音は少しずつ学び始めている。”
「初めてで下手なのは、当たり前です。……それから逃げてたら、永遠に何も、学べない。何にも、至れない。」
「そうさ。だからこそ人は、上達を実感して面白くなるんじゃねぇかよ。私だって最初はさ、右手と左手が別々に動くってだけでもう全然駄目だったぜ…! でも少しずつコツがわかってくるとさ、だんだん当たり前になってきて…!」
「…………………。……僕も、その境地に至りたいです。その為の道の一つにお嬢様との音楽活動があるなら、……ぜひご一緒させて下さい。」

 謎を作ること、ゲームを作ること、物語を作ること、それらに挑戦していく。
 右手と左手を同時に動かす、とは、19人目の駒とヤスの駒を同時に動かすことの比喩。
 経験を積むことで上手くなる。


「お嬢様のことを、………もっと好きになりました。あなたが、太陽のような人なのに、僕が目を背けていたから、こんなにもずっと近くにいたのに、それに気付けなかった…。」
「えへへへへ。じゃあもっと好きになってもらえるように頑張っちゃうぜ…。いやあは、てひゃひゃひゃ…。」

「………僕がお嬢様を好きになれる理由は、こんなにもはっきりしています。……だから、わからなくて辛いです。」
「な、何が……?」
「……お嬢様が、僕を好きになる理由です。………お嬢様と違い、僕は何も照らしてない。……今だって、お嬢様に照らされながら、その背中に付いて行ってるだけです。……そんなみすぼらしい僕を、お嬢様が好きになる理由が、……何一つ、思い付かないんです。」

「僕のどこが気に入ったんですかなんて質問。……本当に馬鹿らしいと思ったんです。自分に本気じゃないから、自分のことさえ、理解できてない証拠なんだ。……そんなこと、お嬢様に言わせようとするなんて、僕は最低だ。」

「それを相手に尋ねる時点で、僕は未熟なんです。そんな未熟者に、……気に入ってもらえるようなものが、あるわけがない。」

「だから。………僕がお嬢様を好きになるように、……お嬢様にも僕を好きになってほしい。……その為に、僕は自分を変えていくことにします。今はまだこんな自分を、お嬢様に好きになってもらえるとは、到底思えません。……でもいつか、…………必ず。」
「……あぁ。絶対、素敵な嘉音くんになれるよ。私がベタベタに惚れちゃうくらいの、素敵な男の子になれる。私はそれまで、ずっと一緒にいるから。……時間なんて、いくらでもある…!」
「……………………。……ただ時間が、そうないのが悔やまれます。」

 ヤスが照らす道を、ヤスの背中に付いて行っているだけの19人目。
 だから19人目は、ヤスが好きで、ずっと一緒にいたいと思っている。
 ならヤスは19人目を好きなのか、客観的に言えば、駒だからとなる。
 が、愛は錯覚。
 信じられれば、信じられるだけの自信が付けば、そんなのはもはやどうでもいいだろうな。
 つまり、成長し、自信を持つことができればいい。

 それまでずっと一緒にいるから、時間なんていくらでもある……。
 まあ、なかった。
 1986年に猫箱は閉ざされ、12年後に満を持して八城が、だから。


 あるいは、これは19人目の真実と読者の恋としても見れるな。
 真実は、読者が推理で照らした道を、読者の思考の後を付いていく。
 何で好きかって? 魅力的な謎だからだよ。そして思いの丈を全て込められた真実だからだ。
 時間がないのは、第6のゲームで恋の決闘に決着がつくから。


「はい。だから、ニンゲンになろうと思います。ですが、まだ家具なんです。」
「なら、なろうよ、ニンゲンに…!」
「かつて魔女は、教えてくれました。……この世の一なる元素。それは愛だと。……それは、この世に住まうニンゲンが、当たり前のように享受できるものです。」
「……しかし、家具として生み出された、この世ならざる家具は、当たり前ではないのです。………その当り前でないものを得るには、魔法か、奇跡が必要なんです。」

 ニンゲンは真実の世界に住まう。
 だからニンゲンは、何の疑いもなく存在できる。
 1として存在できる。

 家具は魔女の闇の中に生み出される。
 だから家具は、可能性という形でしか存在できない。
 つまり、1未満の小数点以下としてしか存在できない。
 赤き真実が与えられない、そんな幻想の如き真実と永遠を共にできるのか?
 赤き真実が与えられないなら、黄金の真実を与えればいい。
 読者の世界において、決闘で他の可能性を淘汰することで、その世界において1を満たす存在になれる。





 黄金蝶のブローチについての縁寿の考察。

“だから紗音は、そのたったひとつの奇跡を自分が消費してしまうことで、嘉音の恋路が自動的に永遠に閉ざされてしまうことに、躊躇していたかのように思えるのだ…。”

 天秤に乗っている真実たちに与えられる奇跡は一度のみ。
 天秤は一つの魂を量るもの。
 片方が消えることで、もう片方が一の魂を満たす。
 それは、疑う余地もない真実となったことを示す。
 次の奇跡はない。
 故に、チャンスは平等に。





 雛ベアトのクッキー差し入れ。

“あぁ。ベアトがクッキーなんて差し入れて来たら……。”
“……そりゃ、おかしな、笑える毒が混じってて当然だって、思うだろうが……。”
“毒でも入ってると思うか、だって……?”
“そんな、……丁寧で可愛らしく盛り付けられたクッキーに、……おかしなものが入ってるなんて、誰が思うかよ…。”

 クッキー=謎。
 ベアトの謎は、毒が入っていて当然。
 だから、捻くれた謎だと信頼して、それを解くさ。
 だが、雛ベアトの謎は、捻くれていない。
 丁寧で分かり易いもの。
 ……みたいな感じかな。
 つまり、経験の差。
 謎を作る経験がなければ、ルールからベアトを生成しても、ベアトのレベルの謎を作ることはできない。
 まぁ、当然のこと。





 フェザリーヌと縁寿と雛ベアト。

“それじゃ、……もしもお兄ちゃんが振り向いてくれたとしても、それは駒の彼女に対してであって、……彼女と言う駒を生み出した、創造主に対してではなくなってしまうじゃない。”

“私には理解できないわと、肩を竦める縁寿。”
“そしてそれを見て、生娘にはわからぬと笑うフェザリーヌ。”
“不機嫌に言い返す縁寿。”

 子を産んだ母にしかわからない。
 子の幸せを願うのが親というもの。
 自分の幸せと、子の幸せ。
 それが天秤に乗っている。
 女である自分と、母である自分。
 二束のわらじ。





 戦人と幻のベアト。

「妾は死して、娘を残し、……そなたに託したと、そう思うのだ。さすればそなたも、あやつをどう受け止めればいいか、少しは考えやすいのではないか。」

 娘と母。
 二人のベアト。
 それを融合すれば、真のベアトとなる。


“それは、……あのクッキーと一緒に飾られていた、…メッセージカードだった。”
“早く片付けて出て行けと急かしたので、これを床に落としたことに気付かなかったのだろう。”
“それを拾い上げ、………添えられたメッセージを読む。”
“……それは、あまりに無垢で、…純真な、……短い一言が記されていた。”
“こんなにも目に沁みるのだから、……自分には確かにそれが読めているはず。”
“……なのに、………涙で滲んで、…何も、………見えない………。”

 生んでくれて、ありがとう。
 ……かな。
 涙しかないな。




 ゼパルとフルフル。

「人は、愛のために生きるのです! そう、愛こそは世界なり!」
「あぁ、愛の力の何と偉大なことか…! 愛こそは全てなり!!」

 信じること、それが愛。
 人は信じるもののために生きる。
 自分が信じるもので構成されているのが、自分の世界。


「朱志香。受け入れよ。それが、家具の身でニンゲンと結ばれようと願う身の程知らずに課せられる、唯一の試練なのである。」

 愛されるということは、その人の世界に存在することが許されるということ。
 一つの真実に、2つの可能性があるとする。
 その時、Aという家具は、それが必要とされる時にだけ存在が許される。
 Bという家具が必要とされた時には、Aは片付けられる。
 つまり、都合に左右される。
 一の魂に満ちてニンゲンになれば、必要とされなくても、一人のニンゲンとしてその世界に存在していられる。


「想い人を失ったあなたはその時、気付くわ。想いを遂げる試練を逃げた、あの時の自分が憎いって!」

 私がここで戦わなかったら、19人目は消えていたわけだ。
 だから私は、真剣に戦って良かったと安堵している。





 ゲストハウスのヱリカの部屋。

「以前は、別の子と付き合っていましたが、今は完全に切れています。周りの人たちは僕たちを妬んでありもしないことを言いますが、気にしないで下さい。」

「俺は君に、生涯の全てを捧げるから、君も俺に、全てを捧げて欲しい。二人で一緒に、幸せになろう。」

 恋の話は、推理の話、真実の話。
 プレイヤーからこんな話を聞いたら、そりゃ信じられないわな。
 簡単に前に信じていた真実を切って乗り換えたのなら、また簡単に乗り換えるだろうさ。
 真実なんてファッション。
 流行りの真実を信じているふりをすることが重要で、流行りが変わればそれに合わせてコロコロ換えます。
 自分の考えなんてありません。
 ……なんて可能性が高いもの。


「……愛がなければ視えない? …………はっ。逆なんですよ。」
「……………………。」
「愛なんてあるから、ありもしないものが、視えてしまう。」
“……それは、自分にしか視えず、なのに自分でも触れられない、ただの幻。”
“愛さえなければ、ニンゲンは虚構など何も視ずに済むのだ。”
“虚構が視えてしまうから、……惑う。苦しみ。泣き叫ぶ。”
「………私は今、幸せです。………仮とはいえ、真実の魔女になれて。……今の私は、もう、……赤くない言葉に、苦しめられなくて済むのだから。」

 そうだな、19人目も、愛なんてあるからヤスが視えてしまう。
 それは、自分にしか視えず、なのに自分でも触れられない、ただの幻。
 愛さえなければ、視ずに済む。
 視えてしまうから、惑い、苦しみ、泣き叫ぶ。
 19人目の苦悩と葛藤の一側面。


「青き真実で反論。構築に状況証拠、物的証拠を84点提出。」
「青き真実で反論。今も愛し続けている状況証拠、物的証拠を6点提出デス。」
「グッド。青と青では相殺ですが、構築する駒の数が圧倒的ですね。」
“双方、青き真実で相殺された場合、状況、物的を問わず、証拠という名の駒の数量で判定が行われることがほとんどだ。……ニンゲンの世界の場合は特に。”
“よって、スタンダードルールの場合、ヱリカの判定勝ちとなる…。”

 赤き真実によって否定されない、青と青の対決。
 即ち、恋の決闘。
 真実対真実は、証拠の多寡も判断材料のひとつだけれども、決めるのは自分という裁判員の主観だ。
 証拠の量とか、他の裁判員たちの情勢とか関係ない。
 愛を証明するのは簡単だ。
 世界中を敵に回しても、それを貫いてみせればいい。
 皆こぞって逆側に回るなら好都合じゃん、自分はこっち側に突っ張ればいい。
 それで証明は終了だ。


  1. 2019/07/06(土) 21:35:56|
  2. うみねこ咲へ向けて
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プロフィール

フラット・ホームズ

Author:フラット・ホームズ
「うみねこのなく頃に」の某公式サイトで推理を投稿していた。
その時使っていた名前は察してください。
スタイルは、アンチミステリーをチェス盤で引っ繰り返す、というもの。
キコニアでは、世界を箱庭に見立て、そこにどんな駒を置いたのか、それらを動かして最終的にどういう形に持って行くのか、的な感じのを主にやっている。

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