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うみねこのなく頃に 考察 境界より視やる

PCゲーム「うみねこのなく頃に」の個人的な考察ブログ。「キコニアのなく頃に」についてもガッツリやっている。


続・EP5の再読

 連日投稿。


 いとこ部屋での遺体発見時。

“まるでそれは、学芸発表会の演劇で、いよいよ自分の出番が近付いてきた子が、舞台袖で浮かべる笑みのようだ…。”

 まさにその通り。
 ヱリカは舞台袖でずっと出番を待っていた駒。
 やっと来た出番に心が躍っているのだろう。





 客間に集まった生き残り。

“ヱリカ、主人公はあんたよ。さぁ、始めなさい…!

 19人目が演じる主人公。
 ヤスの不在のゲームではヱリカの出番。


「いえ、呼び出し音はします。聞こえていないはずはないのですが……。」
「……………。」

 現れない蔵臼。
 紗音の報告の後、ヱリカが目を開き、夏妃が無言になるという演出。
 まるで、夏妃が蔵臼のことを喋らないか、ヱリカが確認しているようだ。
 というか、そうだというヒントだろう。






 対策を取るベアトと悪魔たち。

「夏妃はキング。動けぬ駒成れど、取らせることは許されぬ! ……先手を取ろう。ここで失すると、夏妃が詰められる…! ガァプ、頼めるか?!」

 本来ならキングは真犯人。
 それを夏妃に見立てて、ゲームを外側から観戦する。
 そうすることで見えてくるものもあるだろう。





 蔵臼の部屋。

“ヱリカは、この殺人が、まるでテレビの向こうの出来事であるかのように、呆れながら笑い捨てる。”
“……理解できない。”
“どうしてこいつはこんなにも、“居る世界”が異なってるんだ?”
“まるで、自分たちとは別次元の存在みたいだ…。”

 ヱリカが本来住む世界は、虚偽の世界。
“探偵”というファンタジー。


「………お前には心ってもんがねぇのか。」
「心? 何ですか、それ?」

 戦人、それをお前が言うか。
 お前がそれを推理しないから、心が存在しないんだよ。
 心が認められないんだよ。
 だからこんな事件が起こるんじゃないか。





 ラムダとベルン。

「3つ目。そもそも死体が別人。犠牲者そっくりの身代わり死体よ。譲治たちは最初から隠れていて、その後に身代わり死体を片づけた。」

 犠牲者そっくりの身代わり死体は、19年前の赤子の死のヒント。


“……この死体消失の一手。ラムダとベアトの双方にとって、なかなか有効だわ。”
“とりあえず、私も死体消失について、思いつく仮説を3つほど上げてみた。”
“1つの謎に対し、3つの青い楔。”
“だから、3つのうち、1つを否定すればいいわけじゃない。”
“3つの楔を全て抜かない限り、この謎は貫かれてる。”
“それが、魔女狩りの鉄則。”
“楔は一本じゃ全然足りない。”
“楔一本で死んでくれるのは吸血鬼程度。”
“魔女に比べりゃ、吸血鬼なんて貧弱なもんよ。”
“……本物の魔女はね、楔で滅多刺しにしなきゃしなないのよ?”

 ラムダとベアト、二つの思惑。
 それに対し、3つの青い楔。
 面の推理とは、結果、一本の楔が貫いていればいいというものではない。
 二つの思惑を貫くのは、二本の楔。
 全ての弱点を、全て同時に貫かなくては、魔女は死なない。


「死体がなければ行方不明。……行方不明扱いとは、犯人と疑われ、同時に犠牲者とも疑われる、まさに猫箱の中身そのもの。……開かれることの決してない猫箱の中の暗闇こそ、我ら悪魔と魔女の住処…! 一手遅かったわね、名探偵さん。……ふっふふふ。」

 猫箱の中の2つの可能性。
 これを同時に貫くことが、魔女との戦い方。


「ふ、……ふふふふ。おかしな三角対決になったものよ。我らはそれぞれが敵であり、時に意図せずして連携しておる。……三つ巴が、2対1になったかと思えば、逆に1対2にもなる。……ほらあれだ。中国のバトルロイヤル! 三国志とやらに似てるとは思わんか?」
「天下三分の計ですな。お嬢様にしてはずいぶんと高尚な例えですよ、ぷっくっく…!」

 魔法の余地を残そうとする者。
 天秤の均衡を維持しようとする者。
 魔法を暴こうとする者。


“……曹操が参謀として招いた名門、司馬氏は、やがて権力闘争で中枢を支配し、最後には国を乗っ取ってしまう。”
「………参謀として招き、……乗っ取られるか。………くくくく、……面白いぞ。……ラムダデルタ卿め……! くっくくくくくっくくっくくくくッ!!」

 参謀として黄金の魔女を招き、それに乗っ取られる。
 黄金の真実が、真実を食い破り生まれ出でる。





 書斎前。

「…き、…機嫌をまた、損ねられているのかもしれませんな…。金蔵さんは時に、ほんのわずかの変化であっても、それに吉凶を感じ、本人以外には与り知れぬ理由で機嫌を損ねたりします…。」

 金蔵、ルーレット回しすぎ。




 書斎内。

「ふっ。殺人が起こり、大勢が殺された屋敷内を、のんびり真夜中の散歩と洒落込んでいた、では誰も納得はするまいな。私ならばむしろ本当にやりかねんが。」

 犯人さんはそういう自白やめてw


「良い覚悟だ。……案ずるな。絶対に金蔵は殺させぬ。」

 幻想の金蔵を、殺させない。
 本来のゲームでは、幻想の誰を殺させないのか。


“緩やかに笑いながら、一同を見回してから話し始めた。”
“その様子はまるで、スポットライトを浴びて、舞台中央に出てきた、演劇の主人公のようだった…。”

 この劇の主人公が、満を持して舞台の中央に躍り出た、って感じだからなぁ。
 展開編は姿を現わした19人目が縦横無尽に暴れまわる。
 ヱリカに八城、それにクレル。


「グッド。………最終目撃者だと名乗ることは、普通、困難なんです。……自分が目撃した後に、誰も目撃出来ないと確信できる理由をご存知でない限り。」

 嘉音(真)は野に放たれたネズミ。
 その留守を託された夏妃は、それが金蔵を目撃できる最後だと知っていた。





 
“それは魔女の杭。青き真実の力を宿した魔女の楔…!”

 金蔵が生きている余地を切り開くための青き真実。
 本来のゲームでも同じように、ベアトはヤスの存在の余地、青き真実が貫ける穴を用意しなければならない。


「悪魔との戦いに、これほど相応しい駒はいないわ。私の分身たるヱリカに、魔女の最大の天敵ドラノール。」
「私は2つのルークで今や、セブンスランクを支配したわ。……見せてもらうわよ、ラムダデルタ。そしてベアトリーチェ。あんたたちの無駄な足掻きをね。……くすくす、あっははははははははあはははははははははッ!!」

 セブンスランクルークは、魔法説のベアト。
 悪魔の証明により、無数の未知を生み出していた。
 それを逆に支配され、ノックスにより未知のXは封殺。
 手掛かりのある推理の通過を許した。
 今こそ、ワルギリア戦で示された手順を踏むべし。


「この世に我らの神を除いて、他に一切の神はなく、一切の隠し扉は存在しマセン。存在してはなりマセン、させマセン。吾らの神への冒涜デス。」

 “この世界”を生み出した神はフェザリーヌ。
 世界を観測し、朗読し、執筆する。
 故に、他に一切の神はなく、手掛かりのない一切の隠し扉は存在を許されない。
 未知の技術も、未来の技術も、人類の進歩も、現実の世界ではない“この世界”には許されない。


「夏妃は“金蔵と書斎で話をした”と主張しているが、対面で話をしたとまでは言っておらぬ。即ち、金蔵が書斎以外の場所にいたとしても、会話が成立すれば矛盾はないわ!」

「夏妃はその書斎で、内線電話を使い、別の場所にいる金蔵と会話をしていたのだ! 親族たちを嫌う金蔵が、書斎に立ち入られることを予見して別の場所に避難していたとしても、何の不思議もないわ。おそらく、それは隠し屋敷、九羽鳥庵かもしれぬぞ!」

「夏妃の言う金蔵が、金蔵本人を指さない可能性がある! 夏妃の言う金蔵とはこの部屋の別称かもしれぬぞ? 金蔵は九羽鳥庵に避難していて連絡不能。夏妃はこの部屋を“お父様”と呼び、この部屋で瞑想することで、金蔵より啓示を受けているつもりになっていたのかもしれぬ!!」

 “対面で話をしていない可能性”。
 “内線電話で別の場所にいる金蔵と会話していた可能性”。
 “書斎に立ち入られることを予見していて別の場所に避難していた可能性”。
 “夏妃の言う金蔵が、金蔵ではない可能性”。

 これらの手掛かりから導き出される推理。
 金蔵(偽)は実は嘉音(真)であり、本物の金蔵ではない。
 夏妃の言う金蔵は、嘉音(真)のことであり、それを金蔵だと認識していた。
 嘉音(真)は書斎に入られることを予見して、すでに別の場所に避難していた。
 そこから内線電話で、その時間に書斎に呼んでいた夏妃と会話していた。
 そして、金蔵が不在であることを隠すように命じた。
 故に夏妃は、これが金蔵の“最終目撃”となることを知っていた。


““真実を知る者”夏妃が自ら否定したため、そこに赤き真実が宿ってしまう…!”

 “この世界”を作った者は、“この世界”の真実を知っている。
 故に、“この世界”で赤き真実が使える。


「……見事デス。例え、あなたが中庭に落ち、生きようが死のうが、金蔵に密室が打ち破れたことに変わりはナイ…! 命を捨てて飛んだあなたこそ殉教者…!! よくぞ、我らの密室結界を打ち破って見せマシタ。天晴れデス、右代宮戦人ッ!!」

 生死は兎も角、正誤は兎も角、密室を打ち破れたことには変わりない。
 推理と生死を共にする殉教者。
 密室を打ち破る推理力と、リスクを踏み越えるその胆力に賞賛を。


「その窓が俺たちの出口の扉だッ! ……だから飛べ!! お前は密室に閉じ込められてるような魔女じゃないだろうがッ!!」
“もはや書斎は密室ではない。ここより飛べる、逃げられる…!”
“今こそ、魔女を捕らえ窒息させて殺そうとする密室は破られたのだ。”
「う、……うむ…!! き、金蔵も…!」
「行け。戦人が答えを見せた時点で、わしの魂はすでにこの密室を逃れておるわ。」

 猫箱という名の、魔女を閉じ込める密室。
 その密室を打ち破り、魔女を救出せよ。


“ベアトも、戦人のように、……飛ぶ。”
“そして、雨粒の宝石箱の世界を、戦人の胸に飛び込むように舞い降りた。”
“……戦人は天使の羽を受け止めるように、彼女を両手で受け止めた。”
“それは、まるで……、騎士が、塔に捕らわれた姫君を受け止めたかのような、……まるでおとび話の中の一場面を再現した、美しき絵画のようだった…。”
「………ヤッバイ。……惚れたわ。…右代宮家の当主って、こういうヤツらばっかなの?」
「右代宮金蔵の破天荒を記せば、……書斎の魔導書の数に負けぬ長い波乱の物語が書けるでしょうな。その次の当主の物語も、記す価値が大いにありそうだ。いえいえ、もう記しておりますとも。それはもう、長い長い物語に。……ぷっくっくっく。」

 右代宮真里亞が飛び降りたヤスを受け止めた。
 金蔵の次の当主の物語。
 それはもう記している最中。





 黄金郷へ挨拶に来たドラノール。

「………魔法ってのは、……やさしい、嘘、……なのか。」
「“嘘”というと聞こえが悪いですね。日本語で表現する場合、“修飾”と呼んだ方が、より相応しいでしょう。」

 退屈な日々に、潤いを与えるのが魔法。
 例えば、寂しいひとりぼっちの帰り道、白線を踏み外さないで歩いた。
 それを、一歩踏み外せば崖から落ちるそんなスリリングな道を歩き切った、みたいに修飾すれば、それはまるでひとつの冒険を終えたかのよう。

 つまりそれは、何かを誤魔化すために嘘ではない、何かを飾り立てるための修飾なのだ。
 理解できるかな。
 AをBだと偽った時、Aということを誤魔化したかったのか、Bだと飾り立てたかったのか、では目的が異なるということ。


「違いマス。飴を与えるという結果に対し、より美しく楽しい修飾を与えたことに、意味があるのデス。」

 それは楽しむための修飾。
 ミステリーも、皆でより面白い推理を出し合えば、合っていようが間違っていようが、楽しいに決まっている。
 綺羅星のようなロジックで飾り立てよう、ということだ。


「それを、全員のアリバイを調べて、誰がポケットに忍ばせたのか調べ上げて特定するのは、私は無粋なことと思っていマス。飴を受け取り、少女が喜んだという、結果こそが重要デス。そして、少女を喜ばせるために修飾されたことが、意味あることなのデス。」

 修飾したのは、“誰”のためなのか?
 “誰”のために、何を修飾したのか?
 “誰”を、どのように喜ばせようとしたのか?

 この物語は、ベアトリーチェに捧げられた。
 物語を修飾したのは、ベアトリーチェのため。


「……結果において、私が魔女たちを処刑するのに変わりナイ。……私の憐みなど、所詮は無駄な修飾に過ぎマセン。あってもなくても、何も変わらナイ。なら、なくてもイイ……。」
「………そんなことはありませんよ。結果が同じでも、心が違えば、大きく意味が異なることもあります。」

「そうだな。………結果が同じに見えても、……真心ってヤツがあるかないかで、意味は全然変わるかもしれねぇぜ…。」
「そうでショウカ……。………私の心など、あってもなくても、何の意味もナイ。」

 右代宮真里亞の心。
 それがあろうと、なかろうと、ヤスの真実は変わらない。
 だが、それがあるかないかで、ヤスの真実の意味が変わる。
 だから、右代宮真里亞の心には、意味がある。


「今の話を聞いて、俺はお前の見方を少し変えたぜ。……だから心が無意味なんてことは、絶対にねぇ。」


“心”を知ることは、魔法の本質への第一歩だからだ。”
“戦人はいつの間にか、……ベアトの本質、魔女の本質、…そして一番最初の本質となる魔法について、……無意識に、少しずつ理解を始めているのかもしれない。”
“魔女になるにせよ、討つにせよ。……魔法を知ることは、全ての第一歩。”


「わかりマセン。突然、あの瞬間に、切り札の使用が禁じられたのデス。それを失った時点で、あなたの勝利は約束されマシタ。」
「………ゲームマスター、ラムダデルタ卿の干渉でしょう。」
「あいつめ…。………結局、あの戦いの全て、ラムダデルタの手の平での茶番ってわけかよ。“俺たち”は、あいつの筋書き通りに、お芝居をやらされたってわけだ。」

 スケールを拡大し、物語の全てに変えれば、全ては“神”の筋書き通りのお芝居を披露する舞台、と見れる。


「“金蔵が存在しない”のは、すでに確定事項のハズ。ラムダデルタ卿もベルンカステル卿も、それをよくご存じのはずデス。なのに、二人とも金蔵が存在する余地を残してゲームを進めてイマス。……まるで二人で結託して、金蔵を否定させないかのようデス。」

「…………確かに少し、おかしいですね。…ラムダでスタ卿とベルンカステル卿は、魔女が優勢にならない限り、対立する関係にあるはず。……現在の流れでは、二人が結託することは考え難いのですが…。」

 “金蔵が存在しない”だとベアトに有利過ぎる。
 奇跡の余地を残さないと。
 つまり逆側である、金蔵を存在させるロジックを、そのための手掛かりを。
 だからラムダとベルンは金蔵についての謎をこれほどに用意している。
 なぜ謎を用意したのか?
 それは謎を解いてもらうために決まっている。


「ここに私がいて、あなたがいることも。ベアトがいることも。そしてドラノールが招かれたことも。……全てはこの子が望んだことなのです。……ドラノールとあなたが過ごす、このささやかな紅茶の時間さえも。」

 ベアトがいることも望む、この子って誰?






「立って下さい。片足で。」

 これも実はヒント
 両足で立てば倒れない。しかし、片足だけで立つと倒れて易い。
 19人目とヤスの2つの柱の片方を欠くと、世界は崩れ落ちる。


「つまり、屋敷にいた人物全員が、ノック音の発生源とは成り得ない、という意味デス。……そしてこの“全員”とは、誰も把握していない、観測されていない人物であったとしても含みマス。」

 観測された人物と、観測されていない人物、全員に不可能。
 だがしかし、その“全員”には、“金蔵だと把握している人物”は含まれていない。
 なぜなら、“金蔵は存在しない”から。
 前提がそうであるから、“全員”から“存在しない金蔵”は除外されている。
 つまり、“存在しない金蔵”として存在している人物がいたならば、ノックは可能。





「……お前、疲れてんのか? メシくらい、落ち着いて食えよ。」
“窓から中庭に脱出して見せた時。”
“ヱリカの言う通り、実際に戦人は、雨どいを伝いながら壁を這い下りた。”
“途中で手が滑り、結構な高さを飛び降りてしまったが、うまいこと着地でき、腰を打たずには済んだ。”
“……それには目撃者などないが、この食堂の、たぶん、ヱリカを除く全員が、きっとそうだったろうと理解している。”
“3階の窓から飛び降りたなんて、誰も最初から信じていないのだ。”
“……それを直接、目撃していなくても。”
“だから、ヱリカが何を言い出し、何に拘っているのかわかりかね、怪訝な顔と白い目、そしてひそひそとした囁きを聞こえさせる……。”
「反論できないでしょう?! あなたの飛び降りは否定された!! 私の真実が勝ったんです!! 私の青き真実は有効です!」
「我が主、それをどうかお認め下さい!! 私は無能ではありません、失望もさせません…! 必ずやこのようにご期待に応えて見せますから、どうかお見捨てにならないで下さい!! 我が主…!!」
〝天井よりさらに向こうにいるのかもしれない誰かに向かって、ヱリカは両手を広げてそう叫ぶ。”
“そして、………それに応えたかのような、大きな大きな落雷が、すぐ近くに落ちる。”
“ものすごい音だった。地響きさえ感じた。”
“その音と同時に、ヱリカは、まるで操り人形の糸が全て千切れたかのように、カクンと脱力し、椅子に座り落ちる。”
“そして、ゆっくりと元通りの風雨の音が部屋を満たすと、……まるで立ち眩みから目覚めたように、ヱリカはうっすらと目を開ける。”
“すると、何事もなかったかのように、静かに食事を再開する。”
“先ほどからずっとそうであるかのように、平然と。”
“……今、ヱリカは突然立ち上がって、おかしなことを捲し立てなかったっけ……?”
“思わず、自問したくなるくらいに、ヱリカはさも当然のように、静かに食事を続けている。”
“その平然とした様子に一同は、……自分たちが疲れてしまっていて、ヱリカが突然叫び出すような幻を見てしまったのだろうと、それぞれが自分を納得させてしまった。”
“だから、ほんの数舜前のヱリカの変貌ぶりは、白昼夢のような扱いとなり、すぐに全員の記憶から薄れていった……。”

 ゲーム盤のニンゲンたちには、幻想は見えていない。
 幻想を見せられているのは、それより上位の階層の住人。
 その幻想を知り、上位世界へと呼びかけることが可能なニンゲンの駒など存在しない。
 駒には不可能なことはさせることができない。
 それができたということは、それが可能な駒だったということ。
 上位階層を観測できるのは、その世界を生み出した者か、それを共有している者のみ。
 つまり、この時点で、ヱリカが犯人側なのは確定している。

 後、ヱリカの振る舞いは本気ではなく、芝居である。
 即ち、ヒント。




 ベアトと悪魔たちの会議。

「無駄なことよ。アリバイがあろうとなかろうと、妾たちの存在を否定することなど出来ぬわ。……金蔵は窓より逃れ、今や六軒島の霞よ。決して捕らえることも、否定することも出来ぬ。」
「差し詰め、チェス盤の裏側にでも逃げ込んだ、とでも言えばいいのかしら。」
「その場合は仕舞い込んだ、というのが適当でしょうな。」

 “金蔵は存在しない”という赤字を与えられた。
 金蔵(偽)こと嘉音(真)は、ゲーム盤に“存在しない金蔵”として存在している。





 客間、夏妃の退室。

「どうやってでも結構です。客観的に、あなたには犯行が可能だったと証明してもらえれば結構なのです。………他の皆さんは協力して下さっています。夏妃さんも、そう邪険にされず、どうかアリバイとその証拠を示してもらいたいと思いまして。」

 実に白々しい。
 夏妃のアリバイを剥奪した側だと言うのに。
 これは脅されて客室のクローゼットに隠れなければならない夏妃に対するパス。
 退出する良い切っ掛け。





 クローゼット内の夏妃。


“そう。この部屋は元々、鍵が開いていたのだ。”
〝それが突然、閉まっていれば、それが誰かの関心を引いてしまうことも考えられる。”
〝……余計なことをしない方がいい…。あの男は、隠れていろとしか言っていない……。”



〝紗音にしか、秋が好きだと語ったことはない。”

 しかし、陰で誰かがそれを聞いていた可能性は否定できない。
 熊沢が陰から見ていたり、ヱリカが隣の部屋から聞き耳を立てていたりと、その手掛かりは存在している。


“秀吉さんの命と夫の命。……それを天秤に掛けることの何と罪深いことか…!!”

 ベアトの天秤の両端に、命が乗せられていることのヒント。


“秀吉は、……一人息子を失ったことを、こうしてたった一人になることで、ようやく涙を零して泣けるようになったのだ…。”
“……取り乱す絵羽を支えなければと、自分だけは気丈を装っていた。”
“しかし、彼にだって泣く権利も資格もある。”

 ヱリカが碑文を解いた時、親族会議がどうなるのか推理したり、朱志香がどういう顔をするのか推理していた。
 同じように犯人もどういう事件を起こせば、犠牲者たちはどう行動するのかを推理している。
 今回は、夏妃が退出したら、一同は個別に休みを取り、秀吉は手近な客室にやってきて誰にも邪魔されないように泣くことを推理していた。


“遺体を客間に運びたいと主張しているようだった。”
“それを南條が、警察が来るまで、現場は極力そっとしておくべきだと、なだめようとしている。”
「譲治たちの死体はそうしたらどうなったの?! 犯人にどこかへ持っていかれちゃったのよ?! 犯人は、殺すだけじゃ飽き足らず、遺体にまで何か無体なことをするつもりなのかもしれない…!! だから駄目ッ! ここへ主人をひとりぼっちで残していくなんて絶対駄目!!」

 譲治たちの遺体を隠したのは、こうやって秀吉の遺体を運び出させるため。
 そうすることで、譲治たちの遺体も、秀吉の遺体も夏妃に見せないようにした。
 実に効率の良い進め方。

 そしてヱリカも、なんだかんだ理由を付けて遺体を見ないようした。
 これで犠牲者の生死は猫箱の中。
 どちらでも言えるようにした。





 客間に全員が揃う。

「ちょうど、夏妃さんが戻って来てくれました。全員が揃ったところで、私から皆さんに、とても重要な話があります。」

 全員。
 つまり、紗音と嘉音も。
 無論、探偵のヱリカ視点ではないので、二人を同時に目撃しても、そうだとは限らないことはわかっている。
 ヱリカの前では常に片方のみいたのだろう。
 だがしかし、犯人を指摘する推理を披露する時、紗音か嘉音のどちらか一人だけを除け者にして、単独行動を許すだろうか。
 という状況証拠から、同一説は不自然なのだけど、赤とそれに準じる確定情報しか信じないのであれば、片方の目でしか見ていないのであれば、スルーされるのも致し方なし。

 他のシーンでもそれは言える。
 生存者が全員集まることは不可能、つまり、常にひとりだけアリバイがない人物がいたことになる。
 なぜ、誰も、その人物が、遺体を隠したのではないかと疑わなかったのか。

 となると、虚偽世界では、紗音か嘉音のどちらか一人だけ勤務していることになっている方が自然ではある。
 つまり、一人二役はしていないゲームということ。
 EP8のベルンのゲームもそんな感じだし。
 とは言え、そうすると、漫画版EP8のヱリカの推理が辻褄が合わなくなるんだけど……。

 ので、難しく考えず、曖昧にしておくべきかね。

 



 黄金郷のベアトとワルギリア。

「第4のゲームまでで、あなたは全てのメッセージを、彼に伝えています。………つまり戦人くんは、……いつでも、全ての真実に気付いても良いということです。………しかし、彼には甘えがある。……だから。このままゲームを幾百と続けたとしても。永遠に解けはしない。まるで青い鳥を探すかのように、永遠に彷徨い続けるだけ。」

 第4のゲームまでで、確かに全てのメッセージは揃ってたなぁ。


“そしてそれは、…………ベアトリーチェ。あなたもなのですよ。”
“あなたとて、ゲームを幾百と繰り返したとしても。あなたの望む答えになど、永遠に辿り着けるわけもない。”
“ベルンカステルは、確かにゲームを振り回すでしょう。”
“ラムダデルタもまた、傍若無人の限りを尽くして、ゲームを掻き回すに違いない。”
“それは一見、あなたと戦人くんにとって、ゲームを奪われたように見える、屈辱的なことです。”
“…………しかし。”
“今のあなたたちには、それは必要なことなのです。”
“戦人くんの甘えを断ち。あなたの迷いを、断つ。

 戦人の甘え。
 つまり読者の甘え。
 これは、答えが明かされるだろう、という甘え。

 ベアトの迷い。
 つまり執筆者である八城の迷い。
 これは、答えを闇に葬り、それでもなお闇の中に飛び込んでくれるのか、という迷い。

 ゲームが奪われるとは、別の答えが明らかなように振る舞う状況。

 つまり、ヤスの真実が明らかにされる中、19人目の真実と共に闇へと踏み出すことができるのか否か。


「ベアトリーチェ。………あなたはいつまでそうして、……生きるでもなく、死ぬでもなく。………天国に昇るでもなく、地獄に堕ちるでもなく。煉獄山の頂上でぼんやりとしているつもりなの……?」
「………………。」
「私はワルギリア。彼を煉獄山に案内し、頂上のあなたのところまで連れて来ました。……そしてあなたはベアトリーチェ。彼の手を取って天国へ昇るか、彼を抱いて地獄へ堕ちるか、選ばなくてはならない。」
“天国と地獄の狭間の、煉獄という名の葛藤は、地獄よりも辛く苛むことがあるのを知っているだろうか…?”
“地獄の門には、望みを一切捨てよと書いてある。”
“……望みを捨てた人間は、苦難を受け入れることで、諦めることもまた出来るのだ。”
“しかし、煉獄の住人には、望みがある。天国に至れるかもしれないという、捨てきれぬ望みがある。”
“だから、苛む。”
“希望という名の一本の針に勝る拷問道具は、…地獄にさえ存在しないのだから……。”

 今の状態は煉獄。
 一筋の希望がある。

 地獄は諦め。
 共に地獄に堕ちるとは、真実を諦めるということ。

 天国は希望を叶えた状態。


「飛びなさい。煉獄の崖より。……淡く脆くて下らない希望の未練ごと、パンドラの箱を開け放ってしまいなさい。怖いでしょう? 箱を開けるのは。」
“ベアトは無言だったが、………一粒の涙を浮かべながら、小さく頷いた。”
「箱の中の猫は生きているのか、死んでいるのか。それを確かめる時が、来ました。……死んでいる猫ならば、早く供養して、天へ昇ってもらいなさい。生きている猫ならば、早く餌を与えて、全ての愛情を注いであげなさい。」
「生き死にに関係なく。あなたの猫箱は、猫を永遠に冒涜しています。………あなたが開くことを恐れた箱の鍵を、あの二人が持ってきてくれましたよ。」
“ベアトリーチェ。あなたは、死ぬべき時を迎えたのです。”
“願わくば。あなたの心臓が、あなたの望んだ人の手によって、……止められることを願っています。”

 崖とはリスク、そこより飛ぶとは、今こそ賭ける時ということ。
 後戻りはできない、行き着くのは地獄か天国か。

 箱の中の猫は、ヤス。
 死んでいるなら供養し、生きているなら愛情を注ぐ。

 ベアトの死ぬ時、心臓は両方止められるのか。


 うーん、物語はどちらで終わったのだろうか。
 私は今なら完全に、二つの心臓を止め、天国の眺めを見ている感じだけど。
 EP8当時は所直微妙なんだよなぁ。
 魔法エンドの方を選んだと思うけど、手品エンドはすっきり爽快で良い、とか言っていた気がするんだよなぁ。
 「咲」はどっちの続きなんだ?
 ロゴが赤字の上に金だから、赤き真実に黄金の真実を飾り立てたもの。
 つまり、一つの結ばれているということだと思うのだが……。





 幻想大法廷。

“二つの主張がぶつかり、どちらかが淘汰される。”
“どちらかが破滅し、生きてここを後にすることは出来ない……。”

 本来その二つの主張とは、19人目の真実と、ヤスの真実。


“……つまり、本当の真実は明かされない。”
“永遠に開かれぬ猫箱の中では、全員が納得した冤罪は、真実と同じ価値を持ち得るのだ。”

 皆が信じれば、それは“真実”。
 “何か”を真実と同じ価値にするために作られた猫箱。


“……理解する。これが、六軒島の物語の作り方なのだ。”
“俺は、ワルギリアに導かれて、ベアトリーチェに出会い、……全てが見下ろせる、この山頂まで来て、ようやくこの世界の真実を理解する。”
「これが、……以前にワルギリアが話してくれたことなんだな。」
「………えぇ。そうですよ。ここでは真実など脆い。」
「両者が主張する限り、異なる真実が同時に存在できる…。」

 異なる2つの真実を主張し合い、紡がれる物語。
 絡み合った物語、その異なる真実を一望できる煉獄山。
 どんな真実を抱いて、飛ぶのか。


“座席に座る二人に振り返ると、……二人の蝋人形にだけ生気が戻る。”
“きっと、発言権がない時には、魂さえも与えられていないのだろう。”

 魂を抜かれて眠り、魂を与えられて起きる駒。
 魂が与えられているということは、愛されている証拠。


「何しろ、莫大な黄金が発見されて、どんな事件が起こってもおかしくない不気味な夜でした。……探偵あるところ事件あり。私は、何か事件が起こることを予見して、予め、アリバイを失いそうな人物に、これで封印をさせていただいたのです。」

 事件を予見できるのは、犯人だけ。
 よって、事件を予見する探偵はファンタジー。


「はい。私の耳は完璧です。戦人さんが入室後、直ちに私は部屋の壁に耳を付け、何か異常が起こらないか、監視していました。」

 19人目の日常が垣間見える……。


“……………誰もが、…絶句する………。”
“壁に耳を付けて、……そのまま朝まで、ずっとずっと戦人の部屋の様子をうかがっていたなんて……。”
“それはどんな光景だろう……。”
“夜が明けるまで、真っ暗な室内でじっと息を潜めて、いとこ部屋の壁に、じっとへばり付いている……。”
“まるで不気味な毒蜘蛛が、暗闇の部屋の中でじっと壁にへばり付いているかのよう……。”

 でもその毒蜘蛛、実は19年前から六軒島に生息していたんだよ。


「……さて次はベアトリーチェ卿のご高説の外部から至る方法です。これには正直困りました。登れそうな木もありますし、ハシゴを使う手もあるでしょう。雨どいをよじ登って2階に至ることも、不可能とは言い切れません。しかし、これをさせるわけにはいきませんっ。」

 させるわけにはいかない、ってそれはゲームマスター側の都合なんだよなぁ。


「………イカれてやがるぜ……。…客人として迎えられた家で、まだ何も起こってないのに、あの雨の中、そんなことをして回るってのか……。」
「普通のニンゲンなら、絶対にありえない不審な行為です。……ですが、彼女は魔女の駒ですから。」

 魔女の駒で納得したらファンタジー。
 ミステリーならその不審な行為を追求しなきゃ。


「………あなたという人は…、……我が右代宮家を、……何だと心得ておられるのですが…。客人として迎えた恩も忘れ…!」

 実は、六軒島のもう一人の主なんだよ。
 客人という意識なんてない、あるのは設定だけ。


「……お恥ずかしながら、すっかり熱中してしまっていたため、その間、廊下を誰かが通り抜けても、私は気付けませんでした。……探偵にあるまじき、痛恨のミスです。」
“完全なアリバイを証明するために、あらゆる工作と封印をして回った彼女が、ミステリー談義に耽り過ぎ、隙を作ってしまったと……?”
“彼女の余裕ある笑みには、言葉とは裏腹、それを恥じるものは、一切感じられない。”
“むしろ、まるで逆。”
“24時からの1時間の間、……夏妃にだけアリバイがないことを知り尽くしての、わざとの、まるで罠としか思えない…。

 それを意図した罠であることは明白。
 そして、そう意図できるのは犯人側だけ。
 一応それ以外にも、狂言殺人の協力者である可能性はあるけど、その場合、死体を見ないという、探偵視点を考慮した動きの説明が付けられない。

 つまり、探偵というファンタジーを認めるのか、それを認めずミステリーで解釈するのかの二択。


“ヱリカのアリバイは、本来ならば、まだまだ青き真実で反論できるものも多い。”
“しかし、それらはことごとく、ベルンカステルやラムダデルタによって赤き真実と認められ、一切の反論を許されなくなってしまっている……。”
「……まるで、………ヱリカの描いた筋書きを、あの魔女たちが、そうなるように、曲解してるみてぇじゃないか…。」
「そうですね。ゲームマスターのラムダデルタ卿が納得したなら、その真実の真贋は問われない。最後に残った真実に基づかれ、続く世界が紡がれる。……その最後の真実が、本当の真実とどれほど掛け離れていようとも。」

 “誰が”筋書きを描き、“誰が”それに沿って曲解したのか。
 そして、“誰が”その真実に基づいて世界を紡いでいるのか。


「ヱリカの真実は、卑劣な構築ですが正当です。魔女と結託しているとはいえ、赤き真実で認められています。つまり、嘘だけで構築したニセの真実では、断じてありません。」
「……つまり、ヱリカの真実でも、筋が通るのです。夏妃や蔵臼が犯人という真実も、まったくありえなくはありません。それが虚構であろうとも、“筋は通る”。……真実と同じ価値を持った虚構なのです。……その、二つの真実のどちらを信じるか。それは、戦人くん自身が自ら決めることです。」

 全てに筋が通る、真実と同じ価値を持つ虚構。
 二つの真実のどちらを信じるのか、それを決めねばならない。


“全員が決め付けたら、それが真実にあるのか?”
“全員が納得した嘘は、それが真実になるのか?”
“ひとりぼっちの正直者は、嘘吐きたちに罵られながら、断頭台に引き摺り出されなきゃならないのか?”
「俺は、……嫌だぜッ。……誰も夏妃伯母さんを信じないなら、むしろ俺が信じてやる…!!」
「本当の真実は、全員が納得したら決まるものじゃない! 徹底的に双方の可能性を検討して、その上で至るもんなんだ…! だからこの法廷は嘘っぱちだ! この法廷は、夏妃伯母さんを犯人だとでっち上げるためにしか存在しない!!」

 このゲームは、真実をでっち上げるために存在している。
 その上で、全員が決め付けた真実に抗い、異なる別の真実を信じることができるのかを問われている。
 あぁ、戦人と同意見だ。
 誰も信じないのなら、むしろ信じてやりたくなる。


「違う。ベアトがしているのは、抗弁。……言い訳でしかない! この法廷では、相手の主張に抗うだけじゃ戦えないんだ。だからかつての俺は、一方的にベアトにやり込められていたんだ…!」
「ヱリカに勝つのに必要なのは、ヤツの推理の粗を探すことじゃない! ヤツとは異なる、別の真実を見つけ出し、それをあのゲームの支配者、ラムダデルタに、……ヱリカの真実より正しいと認めさせることなんだ…!!」

 提示された真実に抗うには、その真実を検証しても何の意味もない。
 まったく別の真実を構築し、それを揺ぎ無く信じることだ。


「………夏妃が犯人であると、これほどの赤き真実を突きつけられても、あなたは信じないのですね?」
「あぁ……! 物事ってのは、常に信じるヤツと信じないヤツがいるべきなんだ…! 例えいくら証拠が積み重ねられようとも、誰かが潔白を信じなきゃならない! 世の中には、証拠じゃ示せない真実なんて、いくらでもあるはずなんだ。みんながそうだというから、きっとそうなんだ、なんてことを、おれは二度と受け入れたくない!!」

 誰かひとりでも反対側にいなくては、天秤にはならない。
 そうして常に天秤を用いなければ、真実は量れない。


“真実は、実際に確かめられるまで、決め付けられてはならない。”
“この法廷は、確かめることの出来ない真実を、何かひとつに決め付けようとする、悪意あるものだ。”
“俺は月の裏に文明を信じたぜ?!”
“でもそれは、小学校で馬鹿にされて囃し立てられた。だから俺は、月に文明があるなんて信じるのは、恥ずかしいことなんだと思い……、…その“信念”を捨てた。”
“俺は母さんが絵本を読んで、月の裏にはうさぎたちが住んでいるって教えてくれたから、それをずっとずっと信じって。”
“……でもみんながそれは違うというから、俺は真実を確かめるのを待たずに、その真実を捨てたんだ!”
“俺は、……証拠もないのに、信じる真実を、捨てた……!”
“そしてみんなは今、夏妃伯母さんが犯人だと信じようとしている。”
“彼女が犯人であると示す、決定的な証拠が一切ないにもかかわらず…!”
“証拠はなくても、ヱリカの言うそれがもっともらしく聞こえるから、多分、真実なのだろう……? だから、証拠がなくても夏妃伯母さんの無実を信じる“信念”を捨てるのか?!”
「誰も信じないなら、……俺が信じる…! 本当の真実は、否定と肯定の二つの目で同時に見た時にしか、浮かび上がらないと、……俺は信じる…!! ヤツらが夏妃伯母さんが犯人だといくら信じさせようとも、俺は犯人じゃないと信じるッ! それを捨てないッ!!」

 まぁ、つまりはそういうこと。
 信念を捨てるかどうか。
 それは誰かに言われてすることでも、誰かに決め付けられるものでもない。
 信じると決めたなら、それを貫くだけ。
 それができるのは、自分だけなのだから。

 そして、自分の目と他人の目で同時に見ることで、二つの真実が乗った天秤を見ることができる。
 つまり、天秤の意味を知ることができる。


「次のゲームに仕切り直され、………このゲームの夏妃は、……このカケラの夏妃はどうなるというのか……。」
「そんなの気にしてる場合じゃないでしょ?! 夏妃なんて所詮、駒よ! このゲームで取り除かれても、次のゲームにはまた登場するわ!」
「しかしお嬢様はそういうわけには参りませんぞ…。今回のゲームでベルンカステル卿の手の内はわかったはずです。それを生かし、次回のゲームで勝利を目指す方が現実的です。……ここは、ベルンカステル卿の取引に乗るのが唯一無二の上策かと…!」
「下らないプライドは捨てなさいッ!! カスパロフもディープブルーも無敗じゃないわ! 最後に勝率で勝者を決めるんでしょ?! 1つの勝負、1つの人生、1つの駒に魔女が執着したら、……死ぬわよッ?!」
「…………済まぬが、………そういうわけには行かなくてな。………誰もが違うと言っても、……自分だけは信じる男の強さと、……それを捨てなければならなかった男の悔しさを、妾は知っている…!」
「妾は夏妃を見捨てぬ! なぜか? 誰もが夏妃を疑うのなら、誰かが夏妃を信じねばならぬからだ! 真実とは、疑う者と、信じる者の狭間にこそ見つけ出せるからだ…!!」
「妾は見捨てぬぞ! 誰もが夏妃を犯人と信じるなら、それでも妾は魔女が犯人であると主張する…!! それが主張できぬなら、妾の存在価値などそれまでよ…!!」
「負けられねぇんだよ。真実ってのはさァ、誰かが否定するもんじゃねェ。」
「……自分が疑って、捨てた時に消え去るんだよォおおぉおおおおおおお!!」

 駒のヤス。
 それを見捨てるのか。
 誰もがいないというから、いないのか。
 否、信じる者が誰もいなくなった時に、いなくなるのだ。
 だから、自分だけは信じなくてはならない。
 それを疑って、捨てた時に消え去るのだから。

 そして、真実の天秤は、疑う者と、信じる者の狭間にこそ見出せる。
 その天秤こそが、真実。


“ベルンカステルの無慈悲なる冷酷の赤き刃は、夏妃を抉る……。”
“……それは、……あまりに無慈悲だ………。”
“生死不明だからこそ、……不安で潰されそうになりながらも、生存を信じることが出来た…。”
“その、……希望も、…期待も、……一片の奇跡も許さず、………叩き潰すなんて…ッ…!!”
“夫の身を案じればこそ、罠に投じた我が身だった。”
“彼女は娘と夫を失い、………右代宮家に嫁いで来て得たもの全てを、……失った。”
“いや、……それでもまだ、………ひとつだけ、残ってる。”

 これを八城になった後と解釈するなら。
 猫箱の中のヤスの生死を案じている。
 だから、生存を信じることができた。
 だからこそ、身を投じた。

 八城になる前と解釈するなら。
 ゲーム盤を作成したのは、ヤスが生死不明だから。
 だが、その希望も期待も叩き潰された。
 ヤスも世界も失い、右代宮家で得たもの全てを失った。
 それでも、一つだけ残っている。
 それはヤスとの約束。


「夏妃。金蔵があんたの心に、片翼の鷲を刻むことを、いつ許したっての? あんたの妄想の中の金蔵の言葉でしょ、それは。……本当の金蔵はね。生涯、ただの一度も、あんたを心の底から信頼したこともないし、あんたに紋章を許そうと思ったことも、ただの一度もないわ!」

 ヤスも妄想。
 つまりこれは、19人目がそういう赤き真実を構築することになったことの暗示。

 因みに、この赤き真実だが。
 夏妃の知る金蔵は、金蔵(偽)のみ。
 よって、夏妃は本当の金蔵とは一度も会ったことがない。
 本当の金蔵はとっくの昔に死んでいる。
 よって、本当の金蔵は生涯、夏妃を信頼したこともないし、紋章を許そうと思ったこともないのは当然。
 金蔵(偽)は本当は金蔵ではないので、夏妃の妄想の中の金蔵と言っても過言ではない。
 つまり、夏妃は金蔵(偽)からそうされていた可能性は否定できない。


「ぬぉおおおおおおおおおおぉおおおおおおお!! 消せぬ、消せぬぞ、我が魂は!! 夏妃が心に紋章を刻み続ける限りなッ!!」

 ヤスの魂も、八城が心に刻み続ける限り、消えない。


「本当の金蔵はそんなことを言わないわ。消えなさい。夏妃によって美化された、夏妃にとって都合のいい、夏妃の中の妄想の金蔵。」

 この赤き真実も、同様に、金蔵(偽)を否定できない。
 以降の同様の赤字も、同様に否定できない。


“夏妃の、哀しみと、……それだけではない様々な感情の入り混じった、鳴き声が、大聖堂に木霊する……。”
“……もう、夏妃は涙を止められない。”
“彼女を今日まで奮い立たせ、右代宮家の人間として、当主代行の妻として、……そして、最後の当主として耐えてきた最後の一本のか細い何かが、………千切れてしまう……。”
“もう、夏妃には、………何も残っていない。”
“夏妃にはもはや、……右代宮の姓を名乗ることさえ、……自らに許せないのだ………。”
“辛かった日々、苦々しかった日々。”
“それでも嫁いだ家のために尽くそうとした日々。”
“……そんな中にもわずかにあった、喜びの日々。”
“それらが次々と蘇っては、………消えた。”
“美しかった記憶の全ては、……もうベルンカステルの赤き真実で、……打ち砕かれてしまって、………粉々の破片になって散らばり、…ちくちくと両手いっぱいに刺さって、……悲しみの地で真っ赤に濡らす…。”
“……それが、哀しみと真実の、赤。”

 19人目の右代宮真里亞。
 もう何も残っていない。
 その名を名乗ることさえ、自らに許せないのだ。
 辛かった日々、苦々しかった日々。
 そんな中にもわずかにあった、喜びの日々。
 それらが次々と蘇っては、消えた。
 美しかった記憶の全ては、赤き真実で打ち砕かれてしまった。
 世界の、そして記憶のカケラ。
 壊れたカケラを集めてみても、手から零れる。
 構築した赤き真実が、ヤスの真実を壊す。
 自分の心を推理して欲しいという願いが、自らを傷つける。
 それが血の赤で染まった真実。





 幻想大法廷、終局。

「…………良いのだ…。この世に、……真実などない。……それは後から作られ、上書きされるのだ。本当の真実なんて、……どこにもないのだ……。」

 真実は上書きされていく。
 後世になればなるほど、どんどん上塗りされていく。
 なら本当の真実はそれらの下にあるのだ。
 塗り潰されて掻き消されるもの。
 今、消え去ろうとしているもの。
 それをどれほど気にする者がいるのか。
 EP6で嘉音が消えたところを見たが、どれだけの人が消えた嘉音を気にしたのか。
 嘉音が消えて悲しんだ者はいても、嘉音が消えないように守ろうとする者がいたかと聞かれたら、たぶん数えるほどもいなかったのではないかと。
 足掻くこともなかったのが大半で、足掻いた者もその内消え、保てた人はいたのかいないのか。
 そこからすると、本当の真実って儚いよな。
 あっという間に、掻き消えてしまうのをこの目で見てしまったもの。


「嘘だな。……そなたの約束など、妾はもう二度と信じぬぞ。」
「何? 俺がお前に、何の約束をして、何の嘘を吐いた…?」
「…………ふふふ、…くっくくくくくくく。……その、そなたの言葉で、妾は地獄を受け入れられるというもの。……ふっははははは、くっはっははははははははは…!! 殺せ、妾たちを! ベルンカステル、ラムダデルタ…!! ひゃっははははははははははははァ!!」

 紗音との約束を思い出せないということは、ヤスの真実が成立しないということ。
 謎が謎として成立せず、謎が解かれないということ。
 ヤスが生きているという希望が潰えるということ。
 一切の希望がない地獄を受け入れられるということ。


「………な……? ……本当の真実なんて、……儚いんだよ。……本当の真実なんて、存在するのか…? そしてそれは、必要なものなのか……? ……なくてもこうして、……物語は進むんだよ……。……戦人ぁ………。」

 本当の真実がなくても、人間たちが信じる他の真実が物語を紡いで行く。
 自分が信じる真実があれば、本当の真実など必要ない。
 それが人間というものだろうから。

 でも、この物語を紡いでいるのも執筆者。
 執筆者はどんな真実を基に物語を紡いでいるのか?
 そして、隠された本当の真実とは何か?




「あらゆる証拠品と証言から多角的に構築して、あなたが夫に激しい嫌悪を持っていたことは明らかです。そして逆にあなたが仰るような、やがて受け入れるようになっていったことを示す証拠は存在しません。」

 愛がなければ、愛は視えない。
 うみねこの物語も同様。
 あれだけ虐殺しているのだから愛なんてないと一見視える。
 けれど、今の私には、それすらからも愛が視える。
 証拠なんていらないよな。


「真実を語れぬ、嘘吐きニンゲンどもめッ!! 赤き真実なきニンゲンに、愛も心も真実も語る資格なんてないんです! 知ってました? 男はあなたたち女が思っているほど馬鹿ではありませんよ? 男は、女の“愛している”なんて、本気で真に受けたりなんかしませェん…!」
「……可哀想な人……。本当に人を愛したことがないのね…。」

 かつての19人目は、まさに愛することも愛されることもなかった。
 ある意味、その負の面が凝縮したのがヱリカと言えるだろう。


「……僕には、…愛憎の気持ちなんて、…わからない。」
「………あなたにもいつかわかるわ。そしてそれは生きる目的にも、殺す目的にもなりうるの。」

 こっちはさらに幼い頃の19人目。
 まだ一人の人間だと認められようとする前。
 そして確かに、生きる目的にも、殺す目的にもなった。


「夏妃さんと同じように。金蔵さんにもまったくアリバイはありません。実は今回の事件、金蔵さんにも犯行は可能なんです。」
「私はてっきり、最初からいらっしゃらない人物だと決めて掛かっていたので、今の今まですっかり失念していました。それをお詫びいたします。」

 実に白々しい。
 今回金蔵(偽)に実行犯になってもらったのに。


「近年。探偵の推理さえも筋書きに組み込まれている可能性がありますから。本当に油断ならない時代になったものです。」

 うん、組み込まれているな。
 お陰で、展開編のロジックはハチャメチャで面白くなっているけど。
 アクロバティックが過ぎるよな。


「私を犯人だと決め付けることが、あなたの真実だというのならっ。お好きになさればいいでしょう…! 私が無実であることを……、神様はきっとご存知です…! 必ずやいつか、私の無実を証明してくれます!!」
“自分か金蔵のどちらかが被らねばならぬ濡れ衣なら。……夏妃は、自らが被ることを選ぶ。”
“それが、……彼女なりの、……右代宮家の名誉の、守り方なのかもしれない。”

 “この世界”を生み出した“神”は、確かにご存知。
 無実も赤き真実で証明してくれた。
 でもこれって、夏妃を貶めるための物語であり、つまりは復讐。
 ……一見そうで、確かにそうで、最初はそうだったに違いないんだけど。
 全部通せば、逆説的に夏妃の高潔さを証明する物語になっている。
 つまり、最終的には、夏妃の高潔さを理解するための物語として生み出されているのだ。

 愛憎。そしてその変化の過程。
 夏妃の日記と同じだ。
 負の感情しか書かれていないのだけど。
 その記述がだんだん少なくなることで、その感情がだんだんなくなっていくのがわかる。
 書かれていないのに、それがわかる。
 証拠はないけど、理解できる。
 愛がなければ、視えない。


“自分が犯人でないという一時の真実を得るために、金蔵の名誉を売り払うことを、毅然と彼女は拒否する……。”

 19人目の右代宮真里亞の、一時の真実を得るために、ヤスの名誉を売り払うことはできなかった。


「金蔵は24時から朝まで、ずっと同じ部屋に滞在したわ。」

 この赤字。
 本当の金蔵のことなら、死者なので葬られた場所にすっといたことになる。
 それが駄目なら、金蔵の名は金蔵(偽)が書斎に残してきた。
 つまり、夏妃に己が不在の間、書斎にいたことにせよと命じていた。
 よって、金蔵の名は書斎に、24時から朝まで滞在していた。
 とか。


「………これより金蔵という言葉を“生きている金蔵”という意味で使うわ。」

 皆が把握している金蔵と、本物の金蔵は違う。
 つまり、本物の金蔵が生きていようと、六軒島には存在しない。
 金蔵(偽)は、金蔵ではないにもかかわらず、皆に金蔵だと把握されることで“存在しない金蔵”として存在している。
 よって、金蔵の名は書斎に残しながら、“存在しない”ままに自由に行動できる。

 まぁ、そもそも“金蔵が死亡していて存在しない”と皆が認めたから、それに基づき新しい物語が紡がれた。
 それがどれほど、真実と異なっていようとも。
 つまり、金蔵が死んでいるとされるこのEP5は、金蔵が死亡しているとする虚偽の世界を描いたものなのだ。
 ただし、だからと言って、本当の真実を全て覆い隠すことは不可能なのだけど。





 19年前の復讐。

“転落したというより、……まるで、何もない宙に、二人が音も無く飲み込まれて消えたようにさえ感じたのです。”
“だから私は、二人が岩浜に落下した音さえ聞いていません。”
“いえ、きっと聞いているのです。”
“でも、消えたと思い込みたかったから、………その聞いた音を、きっと記憶から消し去ってしまったのです…。”

「私は一瞬、…これが夢だと信じました。……あの高さですから、ちょっと身を乗り出したくらいでは、眼下の二人は見えません。だから、二人が落ちたことさえ、……ほんの数秒のことさえ、現実のことなのかわからなくて…。」

 落下音を聞いていない。
 死んだ二人を見ていない。
 これだけで、二人が死んだとは限らないことはわかる。

 例えば、金蔵がその行動を予測、推理し、予めマットを敷いていた、とか。
 その後の探索では、源治にでもそこへ行かせて確認し、死んだことにした。
 後、落とされた使用人と、その家族に金でも握らせて言い含めればいい。
 死んだことにされた使用人は、九羽鳥庵で赤子の世話でもさせれば一石二鳥。

 あと、マットがあろうとかなりの高さから赤子が落ちて無事かわからないので、安全策を取るなら、やはり赤子の偽物と直前に摩り替えておくのが良いと思う。





 お茶会。

「ありがとう、ヱリカ。……あなたのお陰で私は、病の辛さを当分の間、忘れることができそうだわ……。くすくすくす、うっふふふふふふはっはははははははははは! あなたは最高だわ。私の駒、私の分身、……そして私の可愛い娘。」
「も、……もったいないお言葉です…! 我が主…!!」

 主は退屈を癒すことを目的に駒を作り、駒に物語を紡がせる。
 灰色の世界を、鮮やかに修飾させるために。
 私の駒、私の分身、私の可愛い娘、ベアトリーチェ。

 ヱリカが夏妃犯人説を基に新しい物語を紡ぐように、ベアトも何らかの真実を基に物語を紡ぐ駒であるというのは、EP5と6で示されている。


“……駒にとって、その活躍を主に認められる以上の喜びは存在しないのだから。”

 駒の喜び、ベアトの喜び。
 まさしくそのためにベアトは頑張っている。





 裏お茶会。

“……だからもう。……戦人が戻ってくることは、……ない…。”
“だからもう。………黄金の魔女、ベアトリーチェには。”
“存在する理由が、………なくなった…………。”

 ヤスの真実は、戦人に推理されるために作られた。
 それを果たすための駒がベアト。
 よって、戦人が推理できなくなったら、存在する理由がなくなる。

 現実の戦人は間に合わなかった。
 だから、それを防ぐために猫箱に閉じ込めた。
 そして12年後、戦人の代わりに推理する読者を探すためにメッセージボトル及び偽書を流し、ゲームを再開した。
 戦人が間に合わずに死んだ猫箱の中の猫を蘇らせるために。
 猫箱の中なら、死は確定しないから。


「物語を、……遡り給え。……今の汝には、真実のか弱い光を見逃さぬ眼が、与えられていると知れ。」

 真実のか弱い光は、凄いいっぱい散りばめられていた。
 戦人はホワイダニットには強いよな。
 私は心の方面は苦手だから大変だったぞ。
 「咲」発売前にようやくギリギリと言ったところ。


“その眩い黄金の光は、………赤き太刀の色を、……黄金に染めていく……。”

 黄金の真実は、赤き真実を上塗りするもの。
 即ち、本当の真実に飾り立てられる、真実と価値を同じくする幻想。





「証拠提示。右代宮金蔵と識別可能な遺体を提示する…!!」

 この赤字は、焼死体の多指症から金蔵だと識別可能というだけで、その死体が本当の金蔵であることを保証するものではない。


「この死体が右代宮金蔵の死体であると保証する…!!」

 黄金の真実。
 それは、真実に修飾された、真実と同等の価値がある虚実。
 つまり、“右代宮金蔵と識別可能な遺体”を“金蔵の死体であると保証する”で飾り立てたわけだ。
 そしてそれは逆説的に、その死体が金蔵ではないという明白な事実を示している。


「……黄金の真実。赤き真実とは異なる方法によって紡がれる神なる真実。……その力は赤き真実と同等デス。……時に劣るでショウ。しかし、時に勝ル!!」

 神が紡ぐ、赤き真実とは異なるもう一つの真実。
 赤き真実と価値を同じくする虚偽。
 相反しながらも、この世界では同時に存在できる。
 天秤の傾きによって、時に劣り、時に勝る。
 今回のゲームにおいては、金蔵の死亡をほぼ全てのプレイヤーが信じていたから、絶大な力を振るった。


「俺は今回のゲームで! 碑文の謎の仕掛けを解いた時。祖父さまを目撃している。……すでに赤で示されている通り、祖父さまは存在しない。その目撃は不可能だ! よって俺の視点に客観性がないことはすでに示されているッ!!」

 これは全て赤字。
 まず戦人は、金蔵を目撃している。
 戦人が金蔵だと把握している人物を目撃した。

 続いて、金蔵は存在しないので、その目撃は不可能。
 本物の金蔵は存在しないので、目撃は不可能。

 目撃と目撃不可という矛盾した赤き真実を同時に成立させるためには、それぞれ異なる金蔵について語られていなければ不可能な状態だ。

 ついでに、戦人視点は、主観なので、客観性など元からない。
 よって、第5のゲームで戦人が探偵であっても構わないと思う。


「………あなたのような男が世界にいてくれたナラ。どのような傲慢からも、か弱き真実を守ってくれたに違いナイ。」
「もっともらしい一つの真実が、か弱き真実たちを駆逐し、唯一の真実であると語る横暴から、……本当の真実を守ってくれたに違いナイ…!!」

 全員が一致した真実の横暴より、ひとりぼっちの真実を、真実たちを守ってくれる者。
 それが奇跡だよな。


「……あんたのプライドなんて知ったことじゃないわ。いつまでその無様な姿を晒す気なの。……私と同じ青い髪を許された分身が、……いつまでそこで磔になっているつもり……? 私自らがやはり降臨しなきゃ駄目なのかしら……。」
「………やはり駒なんていらないわ。あぁ、面倒臭い面倒臭い七面倒臭い…。駒なんていらないわ、捨ててしまおう、あぁ、残念無念失望絶望期待外れの的外れ…!! ……早くしなさいよ、屑がッ!! お前のそのみっともない推理を修正しろって言ってんでしょうッ?!?!」

 主がすることを、駒が代わりにする。
 その駒の代わりを、そのまた駒が代わりにする。
 二度手間三度手間。まぁ、面倒臭いはな。
 とは言え、退屈による死を回避するための、多様性による生存戦略。
 それが駒や家具だから。


「あぁ、そうだ。俺の真実に関係なく、お前の真実も同時に存在する。……それが、この世界だ。誰にも否定できないなら、いくつでも、どんなに相互が矛盾しても、それらの真実は同時に存在できる。ここでは、想像の数だけ真実があっていいんだ。それを、誰も一方的に否定してはならない…!!」

 駒の数だけ真実が並列し、そしていくらでも駒を追加できる。
 それがこの世界。


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  1. 2019/06/30(日) 02:41:46|
  2. うみねこ咲へ向けて
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EP5の序盤を再読

 GMラムダのゲームのロノウェの評。

「愛が、ありませんな。」
「……愛って何だ。」
「これは失礼。女性風に申し上げると、です。……男性風に申し上げるならば、……道理が通らぬと申しましょうか。」

 愛とは即ちヤス。
 ヤスによる殺人がないゲーム。
 義理が通らないよな。


「………上辺は、大変良くお嬢様のゲームに似せていると思います。しかし、根本が大きく異なっています。」
「それはベアトのゲームのルールに反することなのか。」
「いいえ、反しません。ラムダデルタさまはお嬢様のゲームのルールを、実によく理解なされております。……しかし。」

 ヤスの幻想を成立させなければならない。
 それがゲームのルール。


「……ありがとう。その言葉を、この子に聞かせてやりたかった。」
「きっと聞こえていますよ。……お嬢さまは、それにお返事することが出来ないだけです。」

 ヤスにはきっと聞こえている。
 それに返事をすることが出来ないだけ。


「……行ってらっしゃい、戦人くん。そしてどうか。……あの子のいないゲームにて、この子の何かを見つけてあげて下さい。もしそれを見つけることが出来たなら、……例えこの子が不在であっても、あなたはこの子と、戦ってくれたことになる。」

 ヤスは死んでいる。
 だからヤスに犯行は不可能。
 にもかかわらず、なぜかヤスを目撃する人が続出。
 これはいったいどういうことなのか?
 誰がそれを仕組んでいるのか?
 これはそういうゲーム。





 夏妃の金蔵を蘇らせる魔法。

“その、近付いてくる死神の足音を日々聞きながら、…金蔵はこの世との未練を少しずつ、絶っていったと言われる。”
“そして、生への未練を完全に絶ち、達観の境地に達したある日のこと……。”
“神秘の体験をしたという。”
“……金蔵は出会ったというのだ。黄金の魔女、ベアトリーチェに……。”
「私は魔女と契約を交わし、黄金と狂気の力を与えられた。……その日を境に、古き私は死に、狂気の魔力を得た新しき私が誕生したのだ。」

 生から自己を切り離し、俯瞰から己すら駒して使うくらいの境地に立たないと開眼しないのだろうな。


「真の意味で、右代宮家の当主としての責任と誇りを持てるかどうかということだ。…夏妃、お前ならばわかっているはず。当主とは血で継承されるものではない。魂と信念によって継承されるのだ。……蔵臼が我が長男であっても、それがなくては真の当主とは呼べない!」
「そして、それが心に宿されていたなら、その人間は例え蔵臼でなくとも、立派な新しき当主である。黄金の魔女ベアトリーチェは、その真の当主に力を貸すであろう。………そうであるな、ベアトリーチェ!!」
「如何にも。妾こそが、右代宮家顧問錬金術師、黄金の魔女ベアトリーチェである。……妾は奔放にして自由! 誰の命令も聞かぬ。」
「それを、世界でたった一人。私だけが支配した。……だからこそ、右代宮家の当主たりえるのだ。」
「ふっ。その傲慢さこそが右代宮家当主の資格だと言うか。」
「傲慢とは即ち、自信であり勇気である。そしてそれに見合う力を得ようとする、飽くなき向上心の表れである。…だからこそ、私はお前を支配した。」
「………傲慢を語る男が、それを実現していく様を見るのは心地よいものだ。不言実行は強運なる者の言い訳に過ぎぬ。…真の王者は持たぬ物さえも語る。そしてその傲慢を確かに実現して見せるのだ。……妾を支配できる者には、その王者の傲慢が必要だ。」
「わかるか、夏妃よ。真の王者は、あらゆる苦難を恐れぬ。必ず乗り越えられると公言する。その算段がなくともだ。だから弱者は希望を持つ。集い、崇め、協力を誓う。そこに力が生まれ、有言は実行されるのだ。それを心に刻め。」

 右代宮家当主の継承とは魔法の継承。
 魂と信念によるもの。
 王者の傲慢によって黄金の真実を生み出さなければならない。


「お父様は確かに今日、お亡くなりになったかもしれなせん。しかし、今この場にいる私たち全員が信じることで、お父様を蘇らせる魔法を、使うことが出来ます。」

 ヤスを蘇らせる魔法のレクチャー。


「しかし夏妃、心せよ。確かに金蔵は蘇ったが、それは永遠ではない。我が魔力が続く限りである。」
「……反魔法の毒素により、魔法は破られてしまうかもしれないことを心せよ。魔法の断りを正しく理解し、その維持に努めよ。妾はそなたに奇跡を見せるが、それを拒み、留めるのはそなたの役目だ。」

 夏妃を通して、19人目の努力を垣間見ることができる。





 正式なミステリー。

「なんだそりゃ…。未知の薬物X、未知の化学装置Xは、魔女と戦う上での一番の武器だろうが…。」
「………それ。全部、正式なミステリーでは違反だから。未知のウィルス、未知の薬物、…未知の病気、未知のXを仮定なんて、立派なファンタジーなわけ。ご愁傷様。それがあなたの推理だったなら、あなた、ゲームオーバーよ。くすくすくすくす。」
「………こ、いつ…。何を言ってやがんだ……。」
「あなたはベアトと真正面から戦ってきたつもりでいる。でもね、本当は違うのよ。真正面じゃない。ズレた角度で戦い合ってたの。」

 ノックス違反で~というのは極論としても。
 未知のXでの戦いは、アンチファンタジーのやり方。
 ファンタジーと戦っているだけで、それらは真実でもなんてもない。
 相手を否定しているだけに過ぎず、真実を構築しているわけではない。
 人間説の真実を構築するには、ミステリーで戦わなくてはならない。
 だから魔女側は、それと戦うためにアンチミステリーとしての戦い方を用意しているのだから。

 つまり、魔女側はファンタジーとアンチミステリーで戦っているのに、人間側はアンチファンタジーで戦っていた。
 噛み合うはずもない。

 因みに、未知の隠し扉についてのミステリーの考え方は、未知の隠し扉について考えたら思考停止して先に進められないから、まずは隠し扉がないとして考え、それが無理だった場合、隠し扉の手掛かりを探し、それも駄目だったら、最後の最後で未知の隠し扉ないと無理だと認める、というもの。

 ついでに言うと、私の犯人が19人目の右代宮真里亞というのは、手掛かりのある19人目のXね。
 安易に使用人を疑うくらいなら、こっちの方が余程ミステリー的であるという判断。


「魔女側を受け持つラムダはファンタジー。それと戦う私はミステリー。あなたは? ただファンタジーを否定してかわし続けるのがやっとのアンチファンタジー。何から何まで反対だけど、対案は一つも出せない。あなた、どっかの国の政治家みたいね。くすくすくすくす。」

 そこから対案を出すということは、ミステリーとミステリーが対峙し、アンチミステリーに。
 対峙するミステリーを打ち破るか、アンチミステリーという状況自体を打ち破るか。
 まあその前に、ミステリーとミステリーを用意しなければならないのだが……。





 夏妃とベアトの茶会。

「この度の親族会議における使用人たちへの指示や采配は見事であった。金蔵が何時にどこにいて、何をして何を残したのか。それらを、見事に共有させ、矛盾なく組み上げた。それらの緻密な計画書は高度な魔法陣のそれと同じ美しさがあったぞ。」
“夏妃は、金蔵が実在し、気ままに生活していることを装うため、金蔵の一日のスケジュールを緻密に書き上げ、それを使用人たちに徹底させたのだ。”
“何時にどこで誰に会い、何を残したか。”
“何時にどこで何をして、何を変えたか。”
“その結果、親族たちはついに一度も金蔵の姿を見ていないにもかかわらず、その存在をまったく疑わなかったのだった。”
“絵羽たちは、廊下を偶然通り掛った金蔵に、遺産の話を聞かれて憤慨されたと、本気で信じていた。”
“全て、見事なまでに緻密な、夏妃の計画書どおり。”
“そして、見事なまでに緻密な、使用人たちとの連携だった……。”

 ヤスを生み出す計画書。
 それこそが執筆者の用いるトリック。
 全ての黄金を生み出す魔法陣。
 複雑すぎて、私でも全部を理解できたとは言い切れない。
 要研究。


“ベルンカステルは、何を考えてるのかまったく読み取れない表情で、ベアトの顔を見ながら言う。……それは、まったく理解できない一言だった。”
「おめでとう。」
「………何がだ。」
「ベアトがそのザマなのは、あなたが勝ったからこその結果だからよ。」
「………何を言ってやがる……?」
「あなたはかつてのゲームで言ったわ。これは互いを苛む永遠の拷問だとね。そうよ。ベアトにとっても拷問だった。そして、その拷問ゲームに、あなたは勝ったのよ。……だからベアトの魂は殺され、人形同然の屍に成り果てた。」
「俺がベアトをこうしたと、……言うのかよ。」
「勝敗は、どちらか一方の勝とうとする意思が挫けた時に決まる。……あなたとベアトの戦いという意味においては、すでに前回、決着がついていたのよ。まぁ、あなたにとっては、与り知れぬ内に、だろうけれども。」
「………なら、俺の勝利なのにどうしてゲームが終わらない。……どうしてこのゲームがまだ続いている。」
「その子の足首についてる足枷。……ラムダが施したルールなのよ。」
“ベアトリーチェは、屈しようと挫折しようと、あるいは投了しようとも、ゲームを降りることができない。”

 サクリファイス成功おめでとう。
 今のところ賭けに勝っていることをベルンは讃えている。
 ゲームは膠着を抜け、一歩踏み出した。
 戦人の与り知れぬ内に、左の心臓はすでに貫かれ、残るは右の心臓のみ。
 左の心臓は19人目の真実であるがため、ヤスの真実を否定する。
 ヤスの真実である右の心臓を貫けば、安らかに殺せる。
 それは、ヤスを“人間”だと認めることになるから。


「本来、ゲームは2つの終わり方があった。どちらかが負けを認めて投了するか、どちらかがチェックメイトでゲームに勝つか。ベアトはその前者に抵触しかけた。だからラムダはそれを潰し、敗北をぎりぎりのところで回避したの。ゲーム上は立派なサポートだわ。」

 黄金の魔女を絶対に蘇らせる、その決意を得るために、黄金の魔女を殺した。
 魔女側は、黄金の魔女を蘇らせれば勝ち。
 人間側は、黄金の魔女を殺せたら勝ち。
 まぁ、実質同じ意味なんだけどね。
 どちらも絶対の意思をもってすれば、そりゃあ奇跡は約束されているさ。


“……俺が、彼女は傷ついたと思ったなら、…それは傷ついたと言えるだろうか。”
“そして、俺が傷つけたと思わなかったら、俺は誰も傷つけずにいられるのだろうか。”

 傷ついたと思ったなら、自分の世界の彼女傷ついている。
 傷つけたと思わなかったら、自分の世界では傷ついていないだけ、相手の世界では傷ついている可能性は否定できない。
 うん、思わなかったんだろうけど、傷つけちゃってるんだよね。
 それが発端。


「二人が並んでお茶を飲んでるように見えるのは、ゲームマスターであり、物語の語り手であるラムダデルタがそう解釈しているからなだけよ。」

 語り手。観測者であり朗読者。
 真実の世界を観測し、そこから虚偽の世界も観測する。
 そして、その表裏を合わせるゲームマスターでもある。
 つまり、全部ひとりでやっている。
 ただし、駒にその役割を代行させることはあるが。


「夏妃に対し、一片の愛も持たずに凝視できたなら、そんな幻想が見えたりはしない。………だから私の目には、夏妃がひとろぼっちで、もくもくと紅茶を飲んでるようにしか見えないわ。」
“愛がなければ、視えない。愛がないから、視えない。”

 19人目とヤスの関係も同様。
 愛のない目で見たら、ひとりぼっち。
 でもまずは、犯人である19人目を見つけなくてはならないのだ。
 愛のある目で見るのは、動機の推理の時でいい。
 展開編は仕様上、虚偽の世界の描写ばかりなので、一度とことん愛のない目で見るのをお勧めする。


「だって、夏妃はそこで、ひとりぼっちで紅茶を飲んでるんだもの。」
“激しくガラスの割れる音がして、……夏妃の新婚時代をからかい、上機嫌に笑っていたベアトの姿が掻き消える。”
“……寂しい風が吹き、……ベンチにいるのは、疲れた表情で紅茶をすする、……ひとりぼっちの夏妃伯母さんが残されるだけだった………。”
「………………ん、ぐ、…………………。」
“ベアトが、……呻く。それははっきりと、苦悶のものだとわかった。”

 19人目とヤスの世界もこのようにぶち壊されてきた。


“……今、この薔薇庭園には、夏妃伯母さん以外に誰もいない。”
“つまり、観測者は夏妃伯母さんしかいないのだ。”
“だから、そのたった一人の観測者が、ベアトと二人でお茶を飲んだと語ったなら、……それは誰にも否定できないはずなのだ。”
“……誰にも否定できないこととは即ち、…真実のことではないのか。”
“夏妃伯母さんは、ベアトと二人で、薔薇を愛でながらお茶を飲んでいる。”
“…その微笑ましいひと時を、無慈悲に踏み躙る資格が、誰にあるというのか……。”

 うん、誰にもないよな。
 ただし、実際の夏妃はこんな世界を作ってはいないけどね。
 “この夏妃”を通して真犯人が何をしたかったのかを、犯人側から見ようという趣旨だからEP5は。


「そもそも、悪魔の証明により、魔女の否定は不可能だ。そして、このゲームのルールに従い、赤でそれを語るのもステイルメイトで禁じ手だ。赤き真実でさえ、魔女の存在を否定はできねぇんだぜ。」
「……………確かに。……まさかあなたに、魔女の存在を語られるとはね。…………さすがラムダ。戦人を、人間犯人説と、魔女がいてもいいという気持ちの、うまいこと中間に引っ張り出して来たわ。」
「ニンゲンの心を操るのに本当に長けている。……私ももっとあなたを応援しないとまずいわね。」

 魔女を語るとは、相手の心を、異なる解釈を、語るということ。
 愛について語るということ。
 展開編の肝だな。
 そして、ゲームの駆け引きを司る二人の魔女。
 真実の天秤のバランスを守る。




 親族会議前の夏妃。

「……ふむ。妾から見てもなかなかのものよ。誰もが勝利を確信し、相当の魔力が集中している。その結果、さらに勝利が厚くなり、ますますに人と魔力を集め、黄金を生み出そうとしている。錬金術の王道を見事に体現しているぞ。」

 EP5において、読者の誰もが偽装殺人だと勝利を確信し、魔力が集まり、結果、EP6で黄金を生み出すことに成功した。


「昨年同様、会議当日はお父様の秘密を知る使用人を集中的に配置します。……お父様の不在を気取る親族もすでにいるかもしれません。不用意な演出は、むしろ馬脚をあらわす危険性もあります。」
「ふむ。過ぎたるは及ばざるが如しとも言う。……なれば、どうする?」
「今年は昨年とは逆に、最後まで書斎をお出でにならないという筋書きで行こうと思います。」
「それが良かろうな。篭城は単純にして最後の切り札だ。」
「どれほど屋敷が毒素に満ちようとも、この部屋を密室結界に閉ざす限り、金蔵の存在を否定することは出来ぬ。それは妾も保証する。……だが、篭城すれば囲まれるは必至。」

 これはヤスにも言える。
 犯人ヤスが不在、つまり、犯人紗音や犯人嘉音が不在であると見ている私のような者がいるのだから、不用意な演出は逆効果だったろう。
 犯人として出歩かず、密室に閉じこもって篭城したのは得策だったと言える。


“ベアトの表情がわずかに和らぐ。”
“俺の青い光が、……ゆっくりと魔女幻想を否定する赤い棘を、溶かしていく…。”
「……………。」
“ベアトは相変わらずの悲しげな表情だったが、顔を上げる。そしてじっと俺の目を見る。”
“無言であっても、痛みがなくなったことを、その目で教えてくれた。”
“その目に浮かぶのは、痛みを取り除いてくれたことへの感謝の気持ちと、……魔女の存在の余地をわずかに残してくれたことへの、感謝と、驚き…?”

 青き真実でヤスの存在できる余地を切り開くことは、即ちそこに黄金の魔女を蘇らせるということ。


「……殺人がとか、トリックがとか、……そういう上辺だけじゃない。…お前が、…黄金の魔女、ベアトリーチェが、何を考え、何の為にそうしたのか。何を望んでいたのか。……………それを、辿る。」
“そうさ。俺はその旅路を辿るための方法を、もう知っている。そして最初から、それを掲げている。”
「……今こそ、チェス盤を引っ繰り返そう。この物語を、俺側からじゃなく、……お前側からの目線で、物語を紐解く。」

 展開編はそういう話だな。
 当時の私は、その上辺だけに終始していた気がする。





 島の外での留弗夫と霧江の会話。

“霧江は時折、情愛というものを全て切り捨てて、極めて冷酷に思考を巡らすことが出来る。”
“そういうものを感じる時、留弗夫はつくづく、彼女を敵に回したくないと思い知るのだ……。”

「選択の余地のない問題で悩むのは、人生の無駄だと思わない?」

“幼少期に振るわれた暴力が元で、留弗夫は未だに蔵臼に対するある種の恐怖感を持つ。”
“……その蔵臼を、脅す。”
“それは、留弗夫の幼少期からのトラウマとの戦いさえ意味した。”
“だからそんな夫の背中を押すかのように、霧江は心強く、……あるいは冷たく、笑う。”

 ここの霧江はまるで、ヤスが19人目に助言している構図のよう。


「つくづく、信用で仕事をしたくないものだわ。信用ほど、積み上げるのに苦労して、失う時が一瞬なんて、割の合わない投資はない。」

 信用を基盤とする真実もまた同様。





 親族会議直前の夏妃の苦悩。

“いや、いっそ、船が欠航するほどの台風が、六軒島を永遠に閉ざしてくれないものか。”
“そうすれば、金蔵の死をいつまでも隠し果せることが出来るのだが……。”
「台風が、……彼らを永遠に遠ざけてくれればいいのに。」

 19人目も同じような苦悩を抱いていただろう。
 永遠に来なければ惨劇を犯さずにすむ。
 ヤスと永遠に一緒にいられる。


「……俺が誰かを名乗るのは簡単さ。……だが、それでは俺が、あまりに悲しい。」

「俺の望みは、……あんたに思い出してもらうことだ。」

「………そんなこと言うなよ。俺はあんたの子どもじゃないか。」

「そんな悲しいことを言うなよ。…カアサン。」

「……俺は復讐するために帰ってきたんだ。……あんたの、19年前の罪に。」

「………あんた、本当はもう思い出してるんだろ……?」

「19年前にあんたがした仕打ちを、……俺は忘れない。……だからあんたを呪うために、あえてそれでも、いや、だからこそ、俺はあんたをカアサンと呼ぶよ。………もうすぐ、親族会議じゃないか。……俺もカアサンの子どもだからね。会議の日に帰るよ。…19年ぶりにね。……あんたに復讐するために。」

 19年前の男=19人目。
 赤子の世話をしなかった夏妃は、その性別を確認していない。
 だから本来は女だが、男だと思い込まされていた。
 夏妃が赤子を認め、世話をしたら女と判明し、右代宮理御となる。
 崖から落とされたら、右代宮真里亞となる。

 のだが、この19年前の男の台詞は、ヤスのものに重なる。
 正確に言えば、八城がそういう悪夢を見ている、と言った方がいいだろう。
 八城には、子はいない。
 だが、右代宮真里亞には、子はいる。





 薔薇庭園。

“戦人も、本来は18歳なりの分別のある男だ。”
“しかし、6年ぶりの再会に、精神年齢が当時のものに戻ってしまっているようだった。”
“そして譲治や朱志香たちもまた、6年前の自分たちに戻っていることを、次第に気がつくのだった…。

 八城が偽書を書くことで、“みんな”との再会で、精神年齢が当時のものに戻ってしまう。
 “みんな”もまた同様。
 昔のように“みんな”で……。





 薔薇庭園を見下ろしていた夏妃。

「ロノウェもガァプも頼れるぞ。しかし、魔法の世界とニンゲンの世界は表裏一体。」
「わかってます。……もちろん、私もニンゲンの世界から努力します。力を合わせて、お父様の秘密を守りましょう。」

 真実の世界と虚偽の世界は表裏一体。
 ニンゲンは虚偽を真実の世界に留めるために努力する。
 虚偽の世界は破綻しないよう、緻密に計画されたものにならなくてはならない。





 客間の親族の会話。

「……それは兄さんたちだって同じよ。……逃がさないわ、絶対に…。こっちのカードは悪くないのよ。兄さんは虚勢を張ってるだけだわ。……絶対に屈服させて見せる…。」
「取引っちゅうんはな。相手を負かすもんとちゃうで。……落とし所を用意しておいて、相手に花を持たせて、自らに座らせるもんなんや。」
「……秀吉さんの言うとおりだわ。さっきの話も、ちょっと追い詰め過ぎよ。絵羽姉さん。」

 これは左の心臓を貫くだろうカードを持つ、プレイヤー側から見たゲームの進捗かな。
 落し所は、黄金の真実を蘇らせて相手に花を持たせてやろう、というところか。





 真里亞の薔薇。

“自分が目印を付けた、少し元気のない可哀想な薔薇が見つけられなくて、……雨如きでそれを探すのを中断させられることが許せない。”
“だから真里亞は、冷たい雨粒に叩かれれば叩かれるほどに意地になって、薔薇の花壇をぐるぐると回るのだった…。

 八城がヤスを探すのも同様。





 ヱリカ来島。

「ふざけるな。ベアトのゲーム盤には存在しない駒だ。俺もベアトも認めない…!」

 ルールには違反しない。
 ヱリカが登場する余地はあった。
 ヱリカとなりえる、19人目がいたということ。
 即ち、19人目の右代宮真里亞が古戸ヱリカを名乗っただけ。
 そうすることで、“古戸ヱリカ”という幻想で侵食した。


「古戸ヱリカは探偵であることを宣言するわ。」
「探偵は、犯人ではなく。その証明には如何なる証拠も必要としない。……早い話が、この子を一切疑う必要はないということよ。これなら、ニンゲンの駒として登場しても、いつもと変わらずに推理できるでしょう…?」

 犯人ではなくとも、犯人の協力者である可能性はある。
 一切疑う必要はない、を赤字で言わないのがミソ。


「つまり、今、この客間にいる人数が、在島者全ての人数、ってことになるわね。」

 赤き真実で言われたわけだけれども、客間にいる人間が、在島者と一致するとは言っていないのが味噌。
 客間にいる人間の名の数は17。
 在島者の名の数も17。
 ヱリカと金蔵の名は存在しない人間のものなので数えない。
 実際に客間にいる人間の体の数は18。
 在島者の体の数は19。


““俺”はぐるりと客間の人間を見回す。”

 紗音嘉音同一説の根拠となるのが、駒の戦人の主観では両者を同時に目撃していないというもの。
 それは同一である可能性の余地を作るものではあるが、同一でないことを否定するものではない。
 よって、こういうことも言える。
 “同時目撃がない=同一である”というのなら、“同一であると思わせたい=同時目撃させない”である可能性もある、と。
 つまり、表、裏、裏の裏。
 このゲームは、相手の手札を読み勝たなくてはならない。
 リスクを負って。
 ならばリスクを正確に測らなくてはならないのだが、リスクを把握している人はどれほどいるのか?
 リスクなんてないと思い込んでいる人ほど、引っ掛けるのは簡単なのだが……。

 それはともかく、EP5ではそこをさらに攻めてきた。
 “俺”での目撃を強調し、探偵視点が信頼できることを提示し、戦人は今回探偵ではないとすることで。
 戦人に同時に紗音嘉音を目撃させて焦燥感を煽り、今回戦人は探偵じゃないからセーフ。
 それどころか、前回までの戦人視点で目撃していないことの意味合いが高騰する。
 ……こんな感じで引っ掛ける。

 今回戦人は探偵視点ではないけど、それでもその視点を信頼すれば、紗音と嘉音は別人である。
 つまり、執筆者は二択を迫っているのに、一択であると思い込む。
 別人である可能性は否定されておらず、裏の裏のリスクがあるのに、それに目を塞ぐ。
 選択をするのなら、リスクをないとせず、リスクを直視して踏み込んで欲しい。
 切にそう願う。





 ヱリカの素性を源治から確認する夏妃。

「朱志香の昔の服、あんなに似合うなんて思いませんでした。」

 捨てた子が、育てた子の服が似合うという皮肉。
 そして、本来なら姉妹だったという伏線。


「警察やご家族には連絡しましたか?」
「はい。先方も大層ご心配なされていたようでした。」

「…………ところで。……客人は本当に、事故、…でしょうね?」
「……ご本人は、帰港中のボートから転落したと仰っております。」
「裏付けはありますか?」
「海保に問い合わせて確認しました。プレジャーボートの後部から転落したそうで、他の乗員たちは気付かなかったようです。実際の転落地点はわかりませんが、おそらくはここの近海でしょう…。」

 全部源治からの伝聞。
 即ち、源治が嘘を吐いていたら、どうとでも誤魔化せるということ。


「………ほう。…古戸ヱリカとな。この六軒島に来客とは珍しい。楽しませてくれそうではないか。」
「ベルンカステル卿の駒でしょう。……ニンゲンのルールに従うとはいえ、プレイヤーは魔女です。侮ることは出来ませんよ。」

 ホント魔女の駒は油断ならない。
 そもそもゲームにおける魔女たちの関係は、
 GMのベアトがゲームメイク。
 フェザリーヌがゲームのオーナー。
 ラムダとベルンがオーナーから派遣されたゲームバランスを監督する者たち。
 そんな感じ。
 ベルンは人間側だけど、それ以上にゲームの開催者側だということ。
 さらに言えば、奇跡の魔女として、奇跡に触れる資格のない者を排除する役割も担っているだろう。
 つまり、奇跡を味方につけたプレイヤーには味方だけど、そうではないプレイヤーには敵となる。





 ヱリカを迎えた晩餐。

“ヱリカの席は、序列で言うと一番の末席。つまり、下手の正面席。”
“上手の正面席である金蔵の席は不在であるため、引っ繰り返して見たならまるで、ヱリカがこの晩餐の主催のようにさえ見えた…。”

 ヱリカ=19人目の真里亞=ベアトリーチェ=六軒島のもうひとりの主。
 なので、その見方は至極妥当だといえる。
 つまり、ヒント、伏線。


“このような豪華な晩餐の席は、蔵臼一家を除けば、決して一般的なものではない。”
“しかし、彼らは慣れているから当たり前のように振る舞える。”
“……驚くべきは、またしてもヱリカだった。”
“彼女はこのような晩餐であっても、何も驚かず、周りに合わせて落ち着きある振る舞いを見せている。”
“……迷い込んだ子犬のような怯えは、微塵も感じられなかった。”

 ずっと六軒島に隠れて暮らしていたのだから、それは見慣れたもの。
 迷い込んでなどいない、元からいたのだ、というヒント。


「頭のいい子ね。……本当にこの子、偶然の来客なの? 実は今日の親族会議にこっそり呼んだ、兄さんの隠し子じゃないの~?」
「賢く、場を和ますセンスもあるようだ。マナーも見事じゃないか。あんな子が娘だったら、悪くはないね。」

 本来なら蔵臼の子になるはずだったので、ほとんど当たっている。
 皮肉的な演出。





 碑文の謎解き。

「………大富豪が、謎を解いた者に富を譲るというのは、割とよくあるシチュエーションです。……そして、ご当主の金蔵さんは、その碑文を新聞に載せたのではなく、お屋敷の中に掲示しました。つまり、このお屋敷の人間を対象とした謎だ、ということです。」
「そうだよな…。………この屋敷の中である以上、この屋敷に出入り出来ない者には解きようがない。…つまり、この屋敷の人間に、祖父さまは挑戦してきたってわけだ。」
「………グッド。よい思考です。あの碑文が、屋敷内にあったという一事からでも、その程度のことを読み取ることは可能です。」

 謎を作ってメッセージボトルに入れて流すのも典型だろう。
 そうやって提示したということは、島の外にいる人間に向けて出した謎であるということは明白。


「………ただ碑文がそこに存在するだけで。古戸ヱリカはこの程度の推理が可能です。……如何でしょうか、皆様方。」

 それだけでこれだけ推理できるのだから、情報不足だとか言わずにどんどん推理しよう。
 と言っている。


「………莫大な財産を持つ右代宮家の当主なら、政治的な意味で様々な影響力を持つことになるでしょう。……ならば本来、その継承は厳格であり、一切の紛れが入るべきではありません。」

 逆を言えば、紛れが入るように意図したということ。
 紛れ、気紛れ、偶然。
 つまりは、悪魔のルーレット。


“……つまり、後継者指名とは、後継者は誰もが認める唯一無二の一人であると全体に知らしめ、それ以外の人物が対立候補となる要素全てを排除することも意味する。”

 真実も同じ。
 真実の後継者指名。
 黄金の真実こそが、誰もが認める唯一無二であると全体に知らしめ、それ以外の真実が対立候補を排除する。
 黄金の真実を皆に認めさせたということは、逆を言えば、先代の真実が存在し、その先代こそがそれを画策したということを示す。


“……なるほど。このヱリカという少女が、右代宮家に相応しいのはどうやら、テーブルマナーだけじゃないらしい。”
“…相応しくなくてもいいところまで、……実に右代宮家らしいようだ…。”

 だって実は、そいつも“右代宮”だもん。


「……わくわくしません? こういう謎。………私は大好きです。」

 あなたはどうですか? という読者に対する問い掛け。





 碑文の謎。

“そのカケラが、俺のすぐ近くを駆け抜けると、……何かの記憶が蘇るような気持ちになる。”
“だから直感する。”
“……多分、このカケラというものは、記憶の結晶のようなものなのだ。”
「記憶じゃないわ。世界のカケラよ。……まぁ、あんたには記憶のように感じられるだろうけどね。」

 カケラが集まってひとつの世界を構成している。
 それが19人目の右代宮真里亞が生み出した世界。
 だから八城がやっていることは、壊れた世界のカケラを拾い集めての世界の修復。


「そりゃそーでしょ。それを教えてあげちゃったら、ヒントが過ぎちゃうわ。………難易度の高い謎でなきゃ、意味がないんだから。……あらいけない。これもヒントになっちゃうわね。くすくす……。」

「……つまり、…第一の晩という時点でもう、何かの文字列が存在するということなのか? しかし、“第一の晩”じゃ、4文字しかない。他の読み方か? 祖父さま風に英語で読むなら、……第一の晩って何だ…? 1st-nightか…? ………………。」

 ん? ナイトとナイトで何かあったな。
 ……これは、碑文の別解に届くか?
 あれだけダブルミーニングがあるんだから、碑文にあってもおかしくはない。

 EP3。
「……これは私の妄想なんだけど。…実は私、鮎の川のイメージから、家系図を疑ったことがあるの。鮎は一度海へ出るけど、また生まれた川に帰ってきて産卵するんでしょう。………まるで私のことみたいだなって思って。」
「……そうね。今だから白状するけど、私もあなたと真里亞ちゃんのことを指してるんじゃないかって疑ったことがあるわ。」
「なるほど。……川を下れば、やがて里あり。家系図を下ってくと見付かる“里”は、真里亞の名に含まれる“里”の字だけだ。」
「でしょう?! ……でも、みんなも知っての通り、お父様は真里亞のことを毛嫌いしてて、ほとんど言葉を交わしたこともない。」
「それに、お父様はかつて真里亞に全然違う名前をつけるように言っていたの。それを私が勝手に真里亞にした。お父様はそれをとても怒っていたわ。」
「……その経緯を考えると、財産や家督を引き継ごうという大切な碑文に、真里亞の名を引用するとはとても思えなくて。」

 懐かしい「家系図説」だが、19人目の名前が右代宮真里亞だとわかったので、再発掘する価値はある。
 家系図を下った“里”は勿論19人目のこと。
 19人目=真里亞は、八城となり右代宮家を出てまた戻ってくる。
 そして、ヤスを“人間”として生み出す。
 即ち、生まれた川に帰ってきて産卵する“鮎”である。
 だから金蔵は、真里亞の名付けに怒った。
 碑文の謎が台無しになると、だから真里亞を毛嫌いすることで、あの真里亞のことではないと思わせることにしたのだろう。

 そして、その里にて“二人”が、これは19人目とヤスの一人で二人のこと。

 EP5。
“オマケだが、外国のなぞなぞで、“ドラゴンはなぜ、昼間は寝てばかりいるのか”ってのを知ってるか?”
“ちなみに正解は、“騎士と戦うためだから”。
“英語圏のなぞなぞだから、日本人にはちょいと難しいかもしれない。”

 これは騎士のナイトと夜のナイトを掛けたなぞなぞ。

 二人が口にし岸、の“岸”を“騎士”に変換、さらに“ナイト”に変換。
 第一の晩の“晩”を“ナイト”に変換。
 つまり、“岸”=“晩”。
 さらに“晩”を“盤”に変換。

 真里亞とヤスの二人が口にし盤。
 それはベアトリーチェのゲーム盤。
 そこを探せ。
 そこに黄金郷への鍵が眠る。
 で、その後は碑文の殺人。

 要するに、碑文の謎とは、ベアトのゲームの碑文殺人の謎ということ。
 というか、こっちの碑文の解読ができる時点で、ゲームの真犯人は特定済みなので、これは真相に至ったという追認かな。
 あるいは、一度ゲームをGMとして完遂せよ、ということか。


“だから、そこまでの“俺”という駒は、プレイヤーのベルンカステルがコントロールしてる。”
“なので、ベルンカステルの推理を、“俺”の口を通して披露することも可能、ってわけだ…。”

 つまり、駒は主の言葉を代弁しているかもしれない。
 主の声なき声を、駒が代弁しているかもしれない。

 さらに言えば、メタ戦人もさらに上位の世界にいる魔女の駒で、メタ戦人の推理もその口を通してその魔女が披露しているかもしれない。






 書斎で作戦会議する夏妃。

「…………それを言えば、例の19年前の復讐とかいう謎の男も、ベルンカステル卿の駒かもしれなせん。……18の駒で均衡がとれていた盤面に、望まぬ駒が2つも追加された。…イレギュラーが多過ぎます、今年は。」
「ベルンカステル卿は東洋趣味がおありだったな。……日本のチェス、将棋では、ゲーム中に駒を追加することも出来るというではないか。」
「えぇ、可能ですよ。……敵のキングの目の間に、駒置き場より取り出したクイーンを置くことさえ、将棋では許された、切り札足る一手です。」

 EP5の真相を端的に喩えている。
 ベルンがゲーム盤に置いたヱリカという駒はクイーンであり、それは駒置き場より取り出された。
 そして駒置き場に置かれたということは、ゲーム盤から取り除かれた駒であるということ。
 18の駒以外でゲーム盤から取り除かれた駒は、19人目のX。
 つまり、取られた19人目のXをヱリカとして再度ゲーム盤に置いただけ。
 そしてそれはクイーン、即ち、ベアトリーチェである。


「わかってます…、わかってます!! でも、…もう、……疲れ切ってしまって、…頭痛が耐えられなくて…。……どうして私は、…こんなにも冷え切った書斎で、……たった一人で泣いているの?! どうして…、どうして主人は今、ここに居てくれないのッ?!」

 これは八城の心情かな。


“一人で戦い、裏から支えることこそ良妻の役目と自負しつつも、……それが必要であると、誰かに認められねば、涙を止めることも出来ないほどに、……今は弱々しい。”
“ならばせめて自分が言葉を…、と慰めの言葉をあれこれ思案するベアトの肩を、そっとワルギリアが叩く。”
“……慰めの言葉は、然るべき人間の口から出なければ、むしろ傷つけることさえあるのだ。”

 舞台の表に出ているのがヤスだから、裏から支えるのは19人目の仕事だろう。


「………さっきリーチェも言ったわ。野に逃れたネズミを捕まえることは出来ない。そして、森に消えたゴールドスミスを捕らえることもね。」
「それで言い逃れられると?! この、もっとも疑われた今に、その一手を指すなど、まさに自殺にも等しい一手です!!」
「疑われるでしょう。まさに疑惑と呼ばれるに等しい一手でしょう。………しかし、この書斎に彼らが踏み込もうともぬけのの殻。……金蔵さまを捕らえることは永遠に不可能で、その死は、これほどまでに疑わしいにもかかわらず、立証することが出来ない…。」
「36時間どころか、永遠に金蔵の秘密を守ることが出来るんじゃない……? …もちろん、それに相応しいリスクを背負うことになるけれど。」

 ヤスのこととして解釈しよう。
 猫箱に閉じ込めたことで、ヤスの不在を隠し、ヤスが生きているような幻想を生み出した。
 その不在を疑われ、猫箱の外に出すことにした。
 一時的な不在であり、完全な不在ではないという言い訳。
 つまり、猫箱で起きた事件は偽装殺人であり、真犯人のヤスは後になれば帰ってきて殺人を犯すよ、っていう言い訳。


「煽りじゃないわ。当主夫人としての覚悟を、私は聞いているだけよ……。……泥をすすってでも右代宮家を守る覚悟が、あなたにはあるんでしょう……?」
「あ、……あります…。」
「今が、その時よ。………泥をすすって生き延びられるなら、いくらでも飲み干しなさい。あなたは苦界を這いずって生き延び、やがては必ず栄光を取り戻す。………この序列33位のガァプが、それを約束してあげるわ。」

 19人目の真里亞が、八城となって生き延び、ヤスを取り戻そうとしている。
 泥をすすってでも、苦界を這いずってでも。
 果たすべき約束のために。





 碑文を解いた戦人とヱリカ。

「……蔵臼さんって、ちょっと傲慢な方じゃないですか。偉そう、って言いますか。その蔵臼さんが、一夜明けたら、甥に黄金も次期当主の座も掻っ攫われていたなんて、……何だか愉快ですね。」

 偉そうな真実が、一晩経ったら、真実の座を掻っ攫われていたなんて……。
 黄金の魔女の愉悦。
 黄金の魔女の渇望。

 あるいは、碑文の事件の謎を解いた読者の愉悦か。
 はたまた執筆者の愉悦か。


「………朱志香さん、でしたっけ。私に意見した女の子。」
「ん、……あぁ。」
「………あの子、自分の父親が次期当主だと、威張ってましたね。……彼女は今夜が明け、戦人さんが全ての黄金を受け継ぎ、自分の父親がもはや次期当主でなくなったことを知ったら、どんな表情を見せるんでしょうね……?」

 どんな仮説にも、真実の座を勝ち取るチャンスはある。
 その中で次期真実の座の肩書を与えられた仮説があり、それこそが真実なのだからケチつけるなと言い出す者が出てくる。
 そいつが信じていた真実を引っ繰り返えしたら、どんな表情をするのか。
 ……ということかな。


「朱志香さんです。………私の推理に口を挟み、高潔かつ高尚な時間を汚しました。………だから、あの朱志香という子に思い知らせたくて、碑文の謎を解くことに目的を変えたんです。」
「……………………お前、…本気で言ってんのか。」
「くす。………くすくすくすくすくすくす。…私は、どんな相手でも屈服させます。それが私の唯一の愉悦です。……まだ推理、必要ですか?」
「………右代宮朱志香は、私をムカつかせた。だから私は、身の程を思い知らせてやりたくて、碑文を解くことにした。………そこから導かれる、今の私の感情。…推理可能ですか?」

 他人に認めさせることで満足を得ようという行為。
 自分で認めて満足できるならば、必要はない。

 でも、ミステリーとは引っ繰り返すことに愉悦を感じるもの。
 当然のような顔をしてふんぞり返っている真実があれば、引っ繰り返してやりたくはなる。


“……謎は、まるで錠前だ。錠前は閉ざすためにある。”
“そして閉ざすからには、その意味があるのだ。”
“だからこそ、それを暴くことにも意味がなければならないはず。”
“しかしこいつは、……その暴く行為そのものが目的になっていて、…その後のことについては、まったく無責任なのだ。”

 暴くことの意味。
 真実を得たものの責任。

 うーん、私はどうなのだろう。
 ここで推理を書いているのは、私の自己満足。
 いまさら誰かに認めさせたいとかという気持ちはない。
 謎は19人目で解くが、ヤスの真実を壊したいわけじゃない。
 他の誰かも至るかもしれないから、天秤は動かしたくない。
 だったらネットに書かなければいいのだが、ベアトにだけは伝えたいという思いがある。
 そんなところか。


“ヱリカはにやにやと笑いながら、ぶつぶつと呟いている。”
“……これから親族たちが起こす騒ぎを、推理しているに違いない。”
“彼女にとって。……200億円の黄金より、……それを想像することの方が、よっぽど甘美なのだ……。”

 戦人が金蔵を目撃した際のヱリカ。
 探偵視点で目撃しないように、意図的にぶつぶつ推理している。





 書斎にいる夏妃。

「となると、ゴールドスミス卿も、もうしばらくはお役御免にはなりませんね。……無事に親族会議を乗り越え、せめて夏妃さまにお別れの挨拶と、……もし出来るなら、これまでの努力を労われるべきかと。」
「…………ふむ。……あれも、よく愚息を支えてきたものよ。」
「貴様など、片羽をもがれた堕天使ではないか。揃わぬ翼なら、置き土産に捨てて行けぃ。」
「……ふむ。……それも良かろう。夏妃ならば、我が翼を背負うに相応しいかも知れぬ。…しかし、………ここからが正念場となるぞ。……褒美は用意した。無事にこの試練を乗り越えてみよ……、夏妃…。」

 片羽、揃わぬ翼。
 つまり、金蔵と嘉音の名。
 嘉音の名を奪われ、取り戻せないなら、残された名を捨てる。
 その名を夏妃に与えるということは、その名に付随する名誉を背負えということ。

 つまり、金蔵(偽)または嘉音(真)は、書斎の中に“金蔵”の名を残して捨て去り、蔵臼夫妻にその名の名誉を守る試練を与え、自分は嘉音(真)となって野に放たれたネズミの如く、というわけだ。





 戦人とワルギリアの会話。

「はい。……第一、もともと黄金郷の黄金はこの子のもの。見つけさせる必要も、横取りする必要も、何もありません。」

 黄金郷の黄金は、黄金の真実。
 それは元から19人目のもの。


「……そうですね。碑文の謎が解けても解けなくても、この子にとって得るものは何もありません。」

 ただし、失うものはあるかもしれない。


「……………。……そうですね。碑文の謎は、この子にとって何の意味もない。ならばそれを、無価値であると極論しても、言い返せないかもしれませんね…。」

 碑文の事件の謎を解けば、19人目の真実を得る。
 19人目にとってそれはすでに持っているものなので、得る意味はない。
 しかし、価値がないわけじゃない。
 だがそれは、自分にとってだけ。
 世間での価値は他人が評価するもの。
 それを無価値だと評されたくはないだろう。


“お前という魔女を天秤に見立てた時、片方の皿には碑文殺人が。”
“そしてもう片方の皿には碑文の謎が乗っかる。”
“なぜなら、碑文の謎を解いたら、こいつは碑文殺人をやめると言ってる。”
“……つまり、碑文殺人と碑文の謎の価値は、ベアトにとって同じもの。”
“天秤の両端ということになる。”

 碑文の謎=19人目の真実。
 碑文殺人=ヤスの真実の修飾。
 19人目にとって、それらは同価値。


「知ってるか? ミステリー小説では、こういう碑文殺人のことを“見立て殺人”という。……この見立て殺人が行われる理由を、俺は3つに大別できると思ってる。」
「……うかがいましょう。」
「1つは、碑文に沿うことで、証拠やアリバイを誤魔化し、犯人に利するためだ。……死んだふりをして、自らを犠牲者に交ぜる古典もこれだし、碑文に沿わずに殺人を犯し、その発生順序を誤解させることによって、アリバイを作るのもこれだ。」
「なるほど。碑文に沿って儀式的に殺していると見せかけて、……実は自分に利するように誘導しているわけですね。面白いと思います。」

 何を誤魔化し、どんな利を得ようとしたのか。


「1つは偶然。……意図せずして行なった連続殺人が、たまたま碑文をなぞる形になり、目撃者たちが勝手に見立て殺人だと誤解するケース。人間はどのような事象にも因果性を求めてしまう。……きっとそうに違いないと思ったら、そう見えてしまう生き物だ。」
「……なるほど。それも面白いですね。…ですが、どうでしょう。この子のゲームでは、第一の晩の殺人以前に、常に事件が予告されている。そして、明白に碑文殺人を遂行していることを示す手紙や状況証拠が、次々に見つかるはずです。」
「あぁ、そうだな。………偶然なんかじゃない。ベアトは始めから碑文殺人を見せ付ける目的で遂行している。俺たちが誤解してるんじゃない。これは明白な“見立て殺人”なんだ。だから、この理由でもない。」

 誤解。
 どのような事象にも因果性を求めてしまう。
 きっとそうに違いないと思ったら、そう見えてしまう。
 ここがポイント。


「最後の1つは、………見せ付けること。つまり恐怖だ。…碑文に沿うということは、殺人が連続するという明白な予告だ。生存者たちは、続くに違いない殺人に、ずっと怯えさせられることになる。」

「それは違います。……恐怖を味わわせるのが目的ではありません。誰かに復讐するためのものでもありません。」

 つまり、純粋に見せ付けたかった。
 なんのために? 誤解させるために。
 因果性を求めさせるために。
 そうに違いないと思わせるために。
 どうして? 犯人を誤魔化すために。
 そうすることで、ヤスが真実となる。


““碑文殺人の謎が解けなければ、碑文殺人を実行する”という天秤を、俺たちに、提示する。”
“つまり、碑文殺人も碑文の謎も、個々では確かに意味がない。”
“しかし、天秤の両端に乗せて俺たちに、………いや、俺に突き付けることで、初めて意味が現れる。”
“……つまり、正しくはこうだ。”
“X=0。Y=0。X+Y>0。”
“両端に、重みを持たぬ無意味が乗せられた天秤。しかし、それ自体が重みを伴い、意味を、成す。”

 天秤の両端に乗るのは、19人目の真実と、ヤスの真実。
 重さを持たぬ無意味に、価値を乗せるのは、メタ戦人であり、読者。
 皆が注目する殺人事件の真実には価値がある。
 そして皆こぞって自身の信じる真実に投資する。
 これは天秤を傾けて遊ぶゲーム。

 しかしベアトとっては、勝敗に意味はない。
 両者が天秤に乗っているという状態に意味があるのだ。
 19人目の真実=0。
 ヤスの真実=0。
 19人目の真実+ヤスの真実>0。
 つまり、片方だけでは意味がない、両方の真実が並び立っていなければ意味がないのだ。


「…まるで、……遊びだな。子どものジャンケンみたいだ。」
“ジャンケンはもっとも身近な、勝敗を決めるランダム発生器だ。”
“何かの権利を賭けて、勝負することも多いが、……子どもなどは、特に何も賭けず、ただの遊びとしてジャンケンをすることも多い。”
“何かを賭けない限り、勝っても負けても、嬉しい悔しい以上の何も生まれはしない。”
“つまり、勝つことも負けることも、天秤の両端は無価値。”
“しかし、そのどちらに傾くかという、その行為そのものが、子どもたちがジャンケンで遊ぶ目的となっている。”
“だから子どもは、ジャンケンを巡ってのコミュニケーションを楽しんでいるのであり、……勝敗に純粋な価値を求めているわけではない。”
“勝敗に、固執してはいないのだ……。
「それじゃベアトにとって碑文殺人は、……成功してもしなくてもいいもの、ってことになっちまう。……まるで、その過程そのものを楽しんでいるかのようにさえ、思える。」

 本来はそういう遊びでコミュニケーションだった。
 でも今回のは生死を賭けた真剣なゲーム。
 両者のバランスを取り、そのバランスを保ったまま、引き分けで終わらせなければならない。
 それも50対50とかじゃなく、100対1とか1000対1とかで。

 つまり、これは脱出ゲーム。
 猫箱の密室に入った2匹の猫。
 扉から出られるのはどちらか1匹だけ。
 この時、2匹共に脱出するには如何なる方法を取ればいいのか?
 みたいな。





 食堂に残った親族たち。

“紗音と嘉音の二人が配膳台車と共に訪れる。”

 戦人が探偵だった時は、絶対に同時には現れなかった。
 それが探偵でなくなったとたんに、同時に現れる。
 同一人物なのか、それとも別人なのか。
 それは未だ猫箱の中。
 どちらだろうとも、説明が付く。
 だからこれはつまり、天秤を傾けて、リスクで遊んでいるだ。
 見るべきは、どちらに傾いているかではない、両端に何が乗っているのか。
 それらを乗せている天秤に意味があるのだから。


“深夜勤なの? 大変ね。
「そういうお役目ですので。……ご用命いただけて嬉しいです。」
「そうかもしれんな。することもなく、ぼんやり起きてる方がしんどいもんや。わしも下積み時代に(後略)」

 19人目の日常はすることが何もなく、常に退屈が支配していた。
 退屈だからそれから抜け出すために遊びだした。
 それがヤスルール。
 退屈な日々を彩る、様々な装飾。
 灰色の世界に差し込む太陽。


「よしなさいよ、あなた。戦後生まれにいくら話しても、当時の苦労なんか伝わらないわよ。」
「ん、またわしの悪い癖が出てしもうたな…! すまんすまん! わはははははは!」

 理解できない者には理解できない、いくら話そうとも。
 こんなにも沢山、くどいくらいに同じ話を繰り返そうとも。
 理解できないだろう。





 食堂を離れた蔵臼と夏妃の相談。

「……失踪という切り札は、最後の最後まで待とう。伝家の宝刀と同じだよ。抜かない内が華だ。大事なのは、いつでも抜けるという心構えではないかね…?」
「それは、……わかっています…。」
「その切り札を、私に預けてくれんかね。………もちろん、最後の瞬間の責任は、全て私が取る。……君と朱志香は巻き込まん。」
「それは、…どういう意味ですか…!」
「右代宮家が滅ぶ時、その瓦礫に潰されるのは私だけで充分だ。………台風が過ぎたら、離婚届を準備しよう。それに捺印し、君に預けておく。……内緒で、君の名義にしてある財産がある。さらにそれに慰謝料を加えれば、君と朱志香は不自由なく暮らせるはずだ。」
「嫌です!! 私の墓碑に刻むべき名は、右代宮夏妃です…! どうか最後の瞬間までご一緒に…! たとえあなたが、右代宮家最後の当主であろうとも、……夏妃を最後までどうか、……当主夫人で、……あなたの妻でいさせて下さい……。」
“……蔵臼は、財界のフィクサーとしての、信用と財力だけで存在している。”
“それが両方とも揺らげば、後には何も残らない。”
“金蔵失踪の切り札を切れば、二本しかない屋台骨の片方を失うことになる。”
“……首を斬られる代わりに右腕を差し出すようなもの。”
“首に比べればマシだろうが、失血多量で死ぬかもしれないし、万一、生き残れたとしても、生涯癒せぬ、大きな痛手を背負うことになる……。”
“蔵臼は、死すら覚悟しているのだ……。”
“それを夏妃は理解し、……蔵臼の胸に顔を埋め、…泣いた…。”

 蔵臼→ヤス。夏妃→19人目。
 2人で生み出した世界が滅ぶ時、その瓦礫で潰されるのは自分だけで充分だというヤス。
 19人目には、八城として暮らしていけるだけのものが用意されている。
 魂を支える二本の柱の片方を失い、生き残れたとしても生涯癒せない痛手を背負うことになる。





 親族会議が終わって。

“親族会議は、午前1時頃に一応は終了が宣言されたが、まだぐだぐだと場外乱闘が続いている。”
“その時に、するりと抜け出せた楼座叔母さんが本当に羨ましい。”
“真里亞が夜更かししてるかもしれない、見てくると言って、うまいこと抜け出したのだ。”

 戦人が何も言わずに抜け出しているので、いとこたちは寝ずに待っている可能性があった。
 それを知っていたので、楼座はゲストハウスに向かった。
 つまり、犯人もそれを予測できたということ。





 夏妃の19年前の回想。

「その挙句が、……この仕打ちではな。…………察するぞ。」

 夏妃の苦しみを理解しようとするベアト。
 そのように理解できる人間にするためのゲームでもある。


「お父様を恨んではいません。……もし恨めるのなら、……ただただ、自分の体が恨めしかった…! 憎かったんです! 子を宿せぬ我が身がひたすらに、……憎かった……!! だから私は祈りました。天使と悪魔の両方に!! そして、その両方が叶いました…!」
「……天使には何と祈ったか。」
「私の体に奇跡を…! 私の体に問題があるというならそれを受け容れましょう。ならばそれを克服して、どうか夫の子を授かることの出来る奇跡を私に…!」
「……その願いは、叶ったわ。……あなたはその次の年に、見事に朱志香を産むことになる。」
「そして、……悪魔には何と祈ったか。」
「悔しい……、悔しい……。この身が恨めしい…! そして、それを見せ付けるかのような、……この赤ん坊が憎かったんです…!!」
「………何を、願われたのですか。」
「私は初めて、悪魔に祈りました、願いました…!! この赤ん坊が、消えてなくなってしまえばいいのにってッ!!」

 しかしその試みは、こういう呪いの言葉を聞いてしまうことでもある。


「ふ、……ふっふふふふふふふ、ふっはっはははははははははははっはっはは!! 読めていたぞ、読めていたぞ、この顛末はな! どこまで足掻くのか。どこまで我が物にならぬというのか!! わっはっはははははははははははは!! 空の檻に興味はない! 打ち捨てい!!」
“事故を知ったお父様は、これ以上愉快なことはないとでも言うように、いつまでもいつまでも、聞いているこっちが気味悪くなってしまうくらいに、…ずっとずっと笑っていた。”
“心の何かのたがが、外れてしまったのかもしれない……。”
“その日からだ。”
“お父様がそれまで以上に、オカルトの世界だけに篭り切るようになるのは……。”

 言葉通り、金蔵には、この未来が読めていた。
 夏妃に受け入れられて理御となるか、受け入れられず真里亞となるか。
 そういうルーレット。
 なぜ赤子を抱いた使用人が、道から外れて普段行かない崖まで行ったのか?
 金蔵が命じたからに決まっている。
 ベアトの魔法修飾で、赤子が大人しくなる方向へ向かったという。
 それはつまり、その時、赤子は泣いていなかった。
 泣かない赤子は、さて、本物だっただろうか?
 その赤子は偽物だから、空の檻と呼んだのでは?
 まぁ、ひとつの可能性として、だが。
 ともかく、依り代である真里亞を手に入れ、金蔵はさぞ研究が捗っただろう。





 いよいよゲームの始まり。

“それは、……酷いゲームになるでしょう。”
“上辺は、確かにいつもの物語によく似てはいます。”
“しかしそこには、……この物語の、本当の主人公への敬意がない。”
“この物語は、…黄金の魔女、ベアトリーチェが、右代宮戦人を招いての物語のはず。”
“しかし、ホストは失われ、もはや客人もない。……招いた者も、招かれた者も、もはやない、最悪の物語。”
“ようこそ、第5のゲーム、End of the golden witchへ。
“邪なる魔女たちに乗っ取られた、主賓なき宴へ……。”

 主人公であるベアト、即ちヤスの、いないゲーム。
 ヤスが死に、そして蘇るまでの、ヤスが不在の間のゲーム。


  1. 2019/06/29(土) 20:02:10|
  2. うみねこ咲へ向けて
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続・EP4を再読

 親族会議に金蔵登場。

「………いいか、蔵臼ゥ。二度と教えないからよく聞けよ。次期当主というのはな? 自分以外にも当主を狙うヤツがいたら、その鼻を徹底的にへし折って、二度と逆らえないようにしてやるヤツのことを言うのだ。」
「これは何も、当主だけのことではない。カネについても言える! 金持ちというのは、カネを持っているヤツのことではない。自分よりカネを持っているヤツ全てを叩き潰し、そして誰よりもカネを掻き集められるヤツのことを言うのだ。」
「才能も同じ。天才とは才能に秀でたヤツのことではない! 自分より秀でたヤツを全て叩き潰し! 自分を天才と全ての人間に呼ばせることを力とカリスマで強要できるヤツを指して言う!!」

 真実も同じ。
 真実とは、自分よりも優れた真実を叩き潰し、誰よりも信用を掻き集められたヤツのことを言う。
 自分を真実と全ての人間に呼ばせることを力とカリスマで強要できるヤツを指して言う。


「次期当主の座をどんなことをしてでも奪い取ろうという貪欲さが足りぬ!! 欲しいもののためには如何なる犠牲も払い、どこまでも貪欲となるべし、強欲となるべし…!! 幸運の女神は貪欲なる者にこそ微笑む!!」

 真実の座をどんなことをしてでも奪い取ろうという貪欲さ。
 真実になるためには己の半身すらも犠牲にする。


「右代宮家など、あの震災の時にとっくに滅んでおるわ。今の右代宮家など、私が束の間だけ見ている黄金の幻想に過ぎぬのだ。……私が夢より覚めれば、終わる程度のもの。」
「ふっふっふ! この世など全ては夢、幻。…生など、死という目覚めの前には白昼夢と同じよ。」

 金蔵ではない者が金蔵の幻想を纏う。
 それは皆が認めた黄金の真実。
 金蔵としての生は夢。
 夢の中で得たモノなど全て幻。
 本当の自分が目覚めれば消え去る白昼夢。
 たとえ血を分けた子供だろうと、蔵臼たちは金蔵の子、自分の子ではない。
 自分を認めないなら、自分と同じ世界には住んでいない、別の世界のニンゲンではないか。
 金蔵を認めるなら、金蔵がいる世界に残ればいい。
 ということだろう。


「あぁ、そうだ、元よりそうだったのだ!! 私が死ぬ時に全てを失うのが、ベアトリーチェとの契約、そして呪い! ふっはっはっは!! そうは行くか、ベアトリーチェ!」
「お前を捕らえるのはこの私だ!! 今宵、それは現実となるだろう。くっくくくくく! わっははははははははは!!」

 金蔵として得たものは、金蔵でなくなれば全て失う。
 だがベアトリーチェだけは手放さない。


「お前たちのような愚かなる息子たちなど、まさに白昼夢!! 初めからいなかったも同然よッ!!」
「消えろ! 覚めろ!! 真実の私のまどろみと共に消え去ってしまえ…!! 私を継承するに値する何物も築き上げてこなかった出来損ないどもめッ!!」

 黄金の魔法の継承。
 真実を生み出し、それを信じさせ、それを実現する魔法。
 幻想を真実に昇華する魔法。
 魔法実現。


「この世の全てはカネとして結晶しているのだ。それが掴めぬということは、この世を掴んでおらぬということ! 魂がこの世をしっかり掴んでおらぬということは、生きるに値せぬということだッ!! 消えろ!! 我が生と現実から消え去ってしまえ!!」

 カネとは黄金。
 皆が認める黄金の真実、それは人々が生きる世界。
 人々が認める世界。
 その世界をしっかり掴んでいないということは、その世界で生きるに値しないということ。


「あっはははははははははは!! それは素晴らしい! つまりは百億を投じて命をひとつ生み出したと! そういうわけだ! これは面白い、錬金術的に考えて実に面白い例えではないかァ…?!」

 この世の人間だと認められ、黄金として結晶している真実たちと引き換えに、ひとつの命を生み出す。


「ふむ。…………なるほど。夢と未来、奇跡と可能性は我が魔力の源泉だ。希望なくして如何なる魔法も力を持ちはしない。」

 無限の惨劇もまた、未来を実現し、夢を叶えるためのもの。


「出来ぬな。それを望むならば、お前の自らの力で阻止するが良い。……自らの運命は自らの手で切り開け。常に誰かの背に隠れ、怯えてきたお前に宿る、人生最後の克己を見せてみよ…!!」

 惨劇は、自らの運命を自らで切り開くためのもの。
 誰の目からも隠れ、怯えていたヤスの人生最後の克己。


“それは楼座の人生で最大の、そして最後の勇気、そして克己。”
“……その勇気をもっともっと早くに持てたなら、彼女の人生はもっと自由で、何者にも束縛されなかったかもしれない。”

 19人目の克己は、もっと早くしていれば、もっと違ったものになったんだろうなぁ。


「お館様の魔力の源泉とは即ち、ノイズとリスクと運試し。……ほっほっほ、つまりは気まぐれ、というわけですか。」

「………相変わらず、男ってどこか変ね。リスクを遊ぶという概念、わかりかねるわ。」

「ふっ、実に姦しいヤツらだ。だが少なくとも退屈はせぬ。……これだから召喚は愉快なのだ。そなたらには、我が儀式のノイズとリスクの天秤の片側を担ってもらうぞ。その働きに期待している…!」

 天秤の片側はノイズで、反対側はリスク。

 差し込まれるノイズは幻想。
 惑わされればヤスの真実に辿り着く。

 声なき声を聴けるかどうか。
 真相を解かれるリスクを遊ぶ。

 朗読者の声が真相を語ってるものな。


“……魔女の侵食が進めば進むほどに、六軒島は異界側に傾いていく。”
“次々とおかしなヤツらが増えていくというわけだ。”
“この島は台風に閉ざされ、ニンゲンは島から出ることはもちろん、新しく増えて登場することも出来ない。”
“しかし魔女や悪魔どもは、侵食されればされるほどに、いくらでも登場できる。次々に増えていく。”
“今やこのおかしな物語の登場人物は、ニンゲンより悪魔の方が多いのではないだろうか。……ヤツらの人数こそが、その歪みの侵食を示す数字そのものかもしれない。”

 展開編の散でも幻想側の住人が増えていった。
 それは魔女の世界がより侵食した証と言える。


「あらゆる死体について偽装死を疑い、その後の事件の犯人に想定することが出来る。……戦人の嫌う手だけど、魔女に対するもっとも初歩的な一手ね。」

 実際に偽装死が用いられたのはEP6だけ。
 初歩的な一手だからこそ研究され尽くし、コロコロと魔女の掌で弄ばれただけだったな。





 楼座を幾度も殺す真里亞。
 これは19人目に捨てられたヤスのことでもある。

「…わ、……悪かったと思ってるわ…! でッ、でも仕方ないでしょ?! ママは仕事で忙しいのよ、仕事で!! ママの仕事が忙しいのは知ってるでしょ?! 仕方ないのよ!! 仕方ないッ!!」
「そうだ。これは仕方なきこと。そなたの娘が傷つき、心を引き裂かれ、涙に血を浮かべることさえ、これは仕方なきこと…! なれば今この場にてこのようなることになるもまた、全ては仕方なきこと…!!」

 自分の苦しみのために他者を苛む。
 それを仕方ないとするならば、その苛みの連鎖の果ての結末もまた、仕方ないこと。


「ひとつの命で償えぬほどのそなたの大罪、身をもって知れ。そして、自らの深き罪を思い出せ…! さぁさ、思い出して御覧なさい…!! そなたがどれほどの罪を犯したのか…!!」

 ヤスを捨てた八城の罪。
 その罪のために、19人目は猫箱の中で無限に殺される。
 ヤスの手によって、真実を殺され続ける。
 罪を思い出すまで。


「あぁ、マリアよ、今こそ決別の時!! そなたの母を名乗った醜き肉の塊を打ち砕け…!! そなたの無垢なる魂が、親子なる鎖にてこれ以上束縛される意味はない! 自らの魂を自らの手で! 今こそ解放せよッ!! そなたは自らを守る牙と爪を、今こそ手に入れたのだッ!!」

 決別のルーレットによって選ばれた時。
 母の魂を打ち砕き、真に独立した自己として、己の魂を解放する。
 猫箱の中に解き放たれたヤス。
 自身の尊厳と名誉を守るために、牙と爪を振るう。


「うううぅううううぅッ!! 真里亞を苦しめてきた日々を今こそ思い知らせてやる…! 苦しみの日々を、今こそ復讐してやる…!!!」

 19年間の苦しみの全てを、二日間に凝縮した物語。


「さぁ、真里亞。そなたの怒りと悲しみはこの程度のものなのか? 今こそ復讐の時! 怒りと悲しみの清算の時…!!」
「ぶつけろ、吐き出せッ!! そなたの胸に打ち込まれた楔を全て、押し出し、跳ね返せッ!!!」

 全ての罪を清算するまで。


「無論だとも、そなたの苦渋の日々がこの程度の罰で見合ってなるものかッ!! 思い知るがいい、楼座! さぁさ、思い出して御覧なさい、そなたがどんな姿をしていたのか! 殺されるために甦れ!! 己が罪を禊ぐために殺されよ、何度でもッ!!!」

 八城が物語に描く自罰。


“………真里亞は絶叫する。”
“怒りと悲しみに堪えきれなくて?”
“あるいは、形容できぬ感情に捕らわれて……?”
“それはきっと、絶望の咆哮。”
“にもかかわらず、受けいれなければならない現実。”
“真里亞だって知っていた。”
“自分が邪魔に思われていることを知っていた。”
“でも、それを自ら知りつつ、自ら信じなかった。”
“自分は母に愛されていると信じ、それを疑わせるに足る様々な出来事を、精一杯、好意的に解釈して、母の愛を信じ、すがって来たのだ。”
“でも、………自分にはママしかいない。”
“それでもやはりママが好きで、………ママが自分を愛してくれていると信じていられた日々に、戻りたいのだ……。”
“だから吼える…。”
“全てをなしにする。認めない。否定する。”
“こんなことを言う母を、言わせる黒き魔女を、そして、………そんな母を許せない自分を、否定する……!!!”
“でも否定できない!”
“これが現実、真実、真相、解答。”
“見紛うことなき、絶対の、……現実!!”

 決別のルーレットが魂を二つに分かつ。
 八城はヤスのいない世界を生き。
 ヤスは母のいない世界に捨てられる。
 共に人間になるという夢を叶えるためには、もう互いの存在が邪魔なのだから。
 絶望の世界にひとり残されたヤスの絶叫が響く。


「真里亞の苦しみの全てを教えてやる…!! もっともっと教えてやる…!! まだまだ足りない、全然足りない…!! 生まれた時から、生まれる前から…ッ!! 蔑まれてきたこの怒りと悲しみが、どうしても消せないの……!!」

 ヤスが生まれてからの苦しみ、ヤスが生まれる前の苦しみ。
 背負わされた19人目の全て苦しみ。
 存在を否定される苦しみ。
 だから全てを否定する。


“この何度も繰り返される母の虐殺は、彼女の魂を浄化することになるのだろうか…。”
“この、不毛なる虐殺でも、わずかほどに彼女の魂は救われるだろうか……。”
“彼女の報われぬ悲しき生に、…この無限の拷問は、わずかの慰みになったかもしれない。”
“なぜなら、……彼女はようやく、笑みを取り戻せるようになってきたから。”

「笑えよ、笑って見せてよママ…!! きっひひひひっははははははははは?! どうしたのママ、起きてよ、絵本を読んでよ、お散歩に行こうよ…!! 愛してるって言ってよ、次の日曜日の約束をしようよ、お買い物に行こう、映画に行こう…!! そしてその約束をどうせ破るんだよッ!!」
「きっひひひひひひひひひひひひひ、楽しいねママ、楽しいね、真里亞は今、ママと遊んでるんだねッ!! きっひっはっははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!」

 何をするにも一緒という約束。
 守られない約束。
 望めない未来。
 だから二日間を切り取ったゲーム盤で永遠のお遊戯。
 ママを使ったお遊戯。


「私もママに、認められてないんだね。………だから壊れた真里亞も、…もう直らないんだね。…………………………。」
「………きひひひ。きっひひひひひひひひひひひッ!! きっははははひゃっひゃっひゃっひゃッ!! あああぁああぁ楽しいな、楽しいよママ…!! こんなにも楽しくなったら、なぜかママが許せる気がしてきたの…!」

 壊れた家具。
 狂った魔女。
 許せる時が来るまで続く永遠の拷問。


「それは生き死にを自由に出来る力を得た魔女のみが辿り着く、達観の境地よ。……いつでも殺せる。必要なら蘇らせる。面倒ならまた殺せばいい…!」
「それをいつでも指一本鳴らすだけで出来ることを知ったなら、人の世の戯言など、その全ては聞き流すに等しい虫の声以下よ…!」
「そなたに母を許そうという感情が芽生えたのは、そなたが母の愛に目覚めたからではない。そなたが今こそ! 真の魔女の世界の入り口に立ったからだ…!! ようこそ真里亞、深淵なる、そして甘美なる魔女の世界へッ!!」

 だから聞き流せる、自身を否定する言葉を。


「ママ、許してあげるよ。きっと私はママを許せる! もうちょっとしたら許せると思うのッ!!」
「だって魔女だからッ!! き、……ひっひひっひっひっひっひっひ!」
“やがて真里亞は、母を許すだろう。”
“……数え切れない虐殺の末に。寛大に。”

 ヤスは自分を恨んでいる。
 八城はそういう視点から、こう観測してしまった。決め付けた。
 ということだろう。
 こうではないかという不安の表れ。
 罪の意識の表れ。

 ヤスは自分を愛している、という視点で見れば、ヤスは八城の願いを叶えるために頑張っている、と観測できる。
 それはヤスが母を許した世界。
 それはつまり、八城がヤスに許されたと思うことができなければ視えない。
 だから八城にとってのハッピーエンドの条件は、ヤスに許されたと思える境地に至ること。


 因みに、楼座の台詞の方は、ヤスに対する八城の苦しみと怒り。
 これもまた真実の一面。

「………私だってあんたなんか生みたくなかったわよ…。いいえ違うわ。……あんたと一緒に幸せな家庭を築けたらと思ったわよ…。……でも、あんたが生まれる直前にあついは蒸発したわ。私と温かい家庭を築くと言って私を騙し、永遠に私の前から消え去ったわ…!!」

 幸せな家庭→幸せな世界。
 戦人に推理されるためにヤスを生み出したのに、戦人は推理することさえなく19人目の前から消え去った。


「残ったのはあんただけ。愛も思い出も何もない!! あの男は今どこへ? 私との日々を温かな思い出に勝手に変え、新しい恋人に出会ったかもしれない。そして今度こそ幸せな家庭を築けたかもしれない…!! そして私は?! あんたがいるッ!! 恋も探せない!!」

 戦人は島の外で人間たちと楽しく遊んでいる。
 そして19人目には、ヤスが残された。


「男は好きに女を渡り歩いて武勇伝気取りッ! なのに女は、私にはッ!! あんたがいる!! あんたという重石がいるのよ、あんたのせいで私は恋を探せない、愛が得られない、一人で生きていくしかない!!」

 男→ミステリーの読者。女→ミステリーの作者。
 ヤスがいるから、ヤスを推理してもらうために、新しい恋を探せない、愛が得られない。


「いいえ、それさえも許されてないわ、私には一人で酔い潰れたい夜さえ許されていないッ!! あんたは誰?! 何者ッ?! 私の人生を台無しにして、私の新しい人生さえ許してくれないあんたは、私の人生の何者なのよ?!」
「死ねッ消えろッ、あんたなんか生まれて来た時から大嫌いッ!! あんたがお腹の中にいた頃から、大ッ嫌いだったッ!!! それを前向きに受け容れようと、頑張って良き母を演じてきたわ。」
「えぇ、私は頑張った!! 同世代の女性たちが、独身を謳歌し、時に恋に遊び、あるいは愛に結ばれるのを横目に見ながら、私は女と母の二束のわらじを履き続けたわ…!! その私の苦労を、誰がねぎらったの?! 誰も褒めない、讃えないッ!!」

 今なお、ヤスのためにメッセージボトルを、偽書を綴っている。
 ヤスとはルール。
 ルールとは鎖。
 ゲームは終わっていない、まだまだ続く。
 目的を果たすまで、永遠に。
 永遠に縛るあんたは誰? 何者?


「自業自得? 子持ちはいや? 負け組の遠吠え? ウブな小娘が良いぃ?! こっちから願い下げよ、ケツの青い若造どもがッ!!!」
「必死だった私はさぞかし簡単に落ちる女に見えたろうさ、えぇ、必死だったわよッ!! まだまだ恋をしたい年頃の私が、日々を仕事と育児で忙殺されていき、このまま老いてこのまま人生を終えるだろうと悟った時、どれほど必死だったか想像もつかないでしょうよッ!!」

 いやいや、全然簡単に解けない謎だろ。
 考えずとも読めば解る謎に見えたなら、そいつは見る目がないんだよ。
 ウブで素直な謎よりも、捻くれた謎の方が味わい深いさ。
 もはや負け犬じゃあない、いまや誇り高い狼と言ったところじゃないか。
 謎もワインと同じだ。熟成された味というものがある。
 苦難の年月は、謎を極上の味わいに変えた。
 これを超える謎がどこにあるというのか。
 この謎を生み出したことを誇っていい。


「あんたの本当の父親ももちろん憎いわよ! でも破局を迎えた責任は私と彼に半々だわ。私にも、逃げられるだけのしつこさがあったのかもしれない!」
「でも、その後の破局は全部あんたのせいッ!! 私はあんたにそれを詰ったことはあった?! ないでしょおおおぉッ?!」
「男に逃げられて酔い潰れたいその次の日があんたの授業参観ッ!! 泣き腫らした目を厚化粧で誤魔化して、あんたが的外れな発言をしてクラス中から失笑されてた時の私の気持ちなんて、あんたどころか、世界中の誰にもわからないでしょうよッ!!」
「あんたが嫌い、大ッ嫌い…!!! そしてこれまでにあんたを本当に愛したことなんて、ただの一度もないッ!!! うおああああああぁああああああああぁおおおあああああぁあああぁああああああああああぁあぁあぁぁぁああぁッ!!!」

 まさか楼座のこの最悪のシーンが、犯人のヒントだったとは誰も思わねーだろ。
 こりゃ確かに必要なシーンだわ。
 愛があれば、憎がある。
 人間ならば極々当たり前のこと。
 愛についてはいくらでも雄弁に語られた。
 哀についても枚挙の暇がない。
 憎についてはここに凝縮している。
 19人目とヤスの憎悪の関係は、楼座と真里亞にしか演じられない、語れない。





 紗音による黄金郷の話。

「……そういう具体的なイメージのところじゃないの。本当に、夢の中みたいなところなの。そこにいる時は、とても穏やかで安らかで、……いつまでも眠ってることを許される、まるで休日の早朝のお布団の中みたいな感じ。」
「……カーテンの隙間から日が差してきて、そろそろ起きないと、と思うんだけど、今日は休日だから起きなくてもいいんだって気付いて、もう一回お布団の中に潜り込む時みたいな、そんな気持ちになれる場所。」

「うん。そこにいた時はね、満たされてて、とても穏やかだあった。でも、元の世界に戻ってくると、つい直前までそこにいたはずなのに、うまく思い出すことが出来ないの。」
「ついさっきまで見ていた夢が思い出せないのに良く似てる。…でも、とっても穏やかで静かな世界だったことだけは覚えてるの。」

「その通りだよ。何でも願いが叶う場所。………少し違うかもしれない。何も願わなくてもいい場所、が正解かもしれないね。」
「……例えば嘉音くんが、寒くて上着が欲しいと願った時、上着をもらえればとても幸せなことだけど、そもそも暖かい部屋にいられたなら、上着が欲しいなんて願う必要さえもないでしょ?」
「……黄金郷はそういうところなの。大抵の願いは、願う必要さえなくなる。全てから解放された、何もかもが穏やかな世界なの。」
「与えられて幸せ、という概念さえも超越した、全てから解放された世界とでも言えばいいのかな。」

「そして、そこでは全てが平等なの。意思ある存在は全てが平等。……ニンゲンも家具も魔女もない。……そこでの私は誰とも対等で公平。もう家具だからと、何も自分を恥じる必要がない。」
「………全てのニンゲンとも、そして魔女とさえ対等な、本当に幸せな世界だったの。うまく思い出せないけど、そこでは私、ベアトリーチェさまとさえ対等な関係で、良い友達でいられた気がする。」

「…………………。…黄金郷はね、とても穏やかで安らかで全てが対等で公平だけれど。……幸せだけ、実は抜けているの。」

「もちろん、安らかで穏やかで公平というだけですごい幸せな世界だよ。……でも、それは例えるなら、全ての悩みというマイナスから解放されたゼロの世界なの。」
「人の世はマイナスで満ちてるから、もとろんゼロというのはものすごい幸福なわけだけど、……それでもゼロなの。くす、贅沢だよね。」
「……それはこういう感じ。穏やかな休日の朝のまどろみの時。……最愛の人も隣にいてくれて、手を握っててくれたなら、もっともっと、素敵な幸せになれる、………みたいな。…ごめん、姉さんは例えが下手くそだね、馬鹿だから。」

 全てが満たされた世界。
 それはつまり、自己満足に至った心。
 自分で自分を認められる、魂が一人分に満ちた人間。
 悩みというマイナスがないゼロの世界。

 でもそこには幸せだけがない。

 まどろみの時、最愛の人も隣にいてくれて、手を握っててくれたなら、もっともっと、素敵な幸せになれる。
 幸せとは、最愛の人と一緒に黄金郷に辿り着くこと。

 つまり、比翼の鳥は、片割れを殺して一なる魂を得ても、ゼロにしかならず、幸せだけは得られない。
 共に合わさり、一なる魂に戻らなくては、幸せにはなれない。

 我は我にして我等なり。
 19人目によって魂を吹き込まれたモノたちは、全て黄金郷に迎え入れられる。
 家具だろうと、ニンゲンだろうと、悪魔だろうと、魔女だろうと。
 共に一なる魂を形成する我等こそが、我なり。


 どうやら黄金郷とは、満ち足りた19人目の心の世界、というのがファイナルアンサーで良さそうだ。
 読者の心の中の世界は、黄金郷に準ずるものということで。





 牢屋での金蔵との会話。

「牢とは、捕らえ逃がさぬこと。それは即ち、生涯手放さぬとの強い意志と愛である。逃げても諦められる程度の女ならば、愛を語るに値しない。」
「鎖で縛ってでも逃したくないと思うほどに狂おしくなる女。そこまでに至ってこそ、我が生涯を捧げるに値する愛である。………お前にそれをわかれとは言わぬよ。」

 猫箱を作った動機。


「お前たちは、自らの命運を自らの子どもたちに委ねるのだ。……お前たちが生み、教え、育ててきた結晶が子どもたちだ。お前たちの命運を委ねるに実に相応しい存在のはず…!」
「くっくくくく! そう心配そうな顔をするなよ蔵臼ぅ…。お前の自慢の、百億の価値のある娘を信じろよぉ。ふっふふふ、ふっははははははははは…!!」

 娘であるヤスに命運を委ねる。
 彼女のゲームにて、彼女が辿り着く岸こそが、旅の終着点。
 その時、黄金郷に二人して辿り着けるのか。





 真里亞の日記に記されたベアト。

“真里亞お姉ちゃんの日記を思い出す…。”
“ベアトリーチェと遊んだ記述も結構ある。”
“その中でベアトは真里亞と一緒に、親族の大人たちに何かの悪戯を仕掛けることがたまにあった。”
“しかしその悪戯は、いつもちょっとした魔女の美学があった。”
“それは、………不確実である方が面白い、というものだ。”

「誰が引っ掛かるかわからず、引っ掛かるかどうかさえわからない罠の方が、ハラハラして面白い。」

 ノイズで惑わせられるか、リスクで遊ぶ。


“真里亞お姉ちゃんの日記帳にも魔導書にも、魔女の碑文についての記載はある。”
“曰く、黄金郷の扉を開く儀式であり、ベアトリーチェ復活の儀式であり、ベアトリーチェ継承の儀式であり。云々。”
“興味深いのは最後の、継承の儀式、という行だったろうか。”
“ベアトリーチェが言うには、もし魔女の碑文を解き明かすことが出来たなら、10tの黄金と右代宮家の家督だけでなく、自らの魔法の力と名前、黄金の魔女の称号までもを引き継ぐという。”
“魔女の碑文は、当時の右代宮家では、解けた者を次期当主に選ぶために当主金蔵が用意した難解なクイズ、という認識だった。”
“しかしマリアージュ・ソルシエールの解釈では、その出題者はベアトリーチェ自身で、自らの後継者を選び出すための出題でもあったという。”
“……両者の解釈は細部で微妙の食い違っている。”

 黄金郷の扉を開く儀式。
 これは19人目が、読者やプレイヤーに挑み、黄金の真実として認められ、黄金郷に辿り着くための儀式。

 ベアトリーチェ復活の儀式。
 これは19人目が、死んだベアトリーチェの真実を蘇らせる儀式。

 ベアトリーチェ継承の儀式。
 これは19人目が、黄金と無限の魔法を継承するための儀式。
 そして、その黄金と無限の魔法の謎を解くということは、その魔法を継承できるということ。





 紗音と嘉音を挑発するガァプ。

「……でも、案外、あなたたちだけかもしれないわよ? この状況を打開できる力を持っているのは、……ね?」
「………黄金郷に辿り着きたいんでしょう? 叶えたい夢がいっぱいあるんでしょう…? くすくす……。」

「そうだね、……私たちは無力。……でも、家具は、必要とされることだって、…そして愛されることだってあるよ。」
「……今の私たちは、暗い地下室にしまわれているだけ。……きっといつか、誰かが愛してくれる。必要としてくれるから。……だから今は挑発に乗らないで、堪えよう…。……ね?」

 黄金郷に辿り着くためには、家具である紗音と嘉音が頑張る必要がある。
 でも家具だから、誰かプレイヤーが推理に必要としてくれるまで、暗い箱の中にしまわれているだけ。





 次期当主を選ぶ試験。

“以下に掲げる三つの内。二つを得るために、一つを生贄に捧げよ。”
“一、自分の命”
“二、愛する者の命”
“三、それ以外の全員の命”
“何れも選ばねば、上記の全てを失う。”

「実に簡単な三択だわ。他の二つのために、どれを捨てられるかということよ。……簡単でしょう? それでも決まらないなら、コインでも貸してあげようかしら……?」
「……コイン? 二面しかないものでどうやって三択を?」

 コインの表裏には、19人目とヤスがそれぞれ刻まれている。


「自分から死にたいと願う人間なんて、いるもんか。そして、あ、…愛する人の命を見捨てて生き残りたいと思う人なんて、いるもんか。……そして、自分たちだけ良ければ、他の人間全てを見殺しに出来る人間なんて、いるもんか…ッ…!」

 どれも選べない人間は、いる。
 自分から死にたいと願う人間は、いる。
 愛する人の命を見捨てて生き残りたいと思う人は、いる。
 自分たちだけ良ければ他の人間全てを見殺しにできる人間は、いる。
 それは全部同一人物。





 三択、3匹のうさぎの答え。

「い、いいえいいえッ、申し訳ございません、私にはわかりません、ゴールドスミス卿!」
「愚か者めッ、選べもせぬとはな、ゲームオーバーああぁあッ!!! 自らの生きる理由も目的も見出せん愚かなうさびめッ…!!」
「貴様など誰にも気付かれずに踏みつぶされて生を終えるアリ1匹ほどの価値もないわ!! 死ね! 潰れろ!! 私が瞬きしている間に消えてなくなれッ!! ……お前はどうか。」

 45の答え。
 これは、何も決断できず、一歩も踏み出せず、人間として生きてすらいなかった時代の19人目の答え。
 誰にも気付かれずに、踏み潰されるアリ。
 そして時間切れ、愛する者ごと潰された。


「……私は1番の、“自分の命”を生贄とするであります。武具は戦い、散ってこそであります。そして武具は、敵を打ち滅ぼし、味方を守るためにある。愛する者たちを守って死寝るなら本望であります。」
「ほお。武具らしい実に見事な模範解答よ。即答、大いに結構。……そう答えればニンジンが1本余計にもらえると教えられてきたのか? ふっふふふふ違うよなぁああぁ? それすらも違うよなぁあああぁあ…?」
「そう聞かれたらそう答えよと、お前はただ吹き込まれた通りに答えたに過ぎなぁあい!! お前も今のうさぎと同じだ。自分の生きる理由と目的を、未だに見出せずに生きている…!! 生きる価値なきクズめッ…! 貴様など潰されて他の家畜の餌にでもなるのがお似合いよッ!!」
「……………ッ。…はっ! か、家畜の餌、光栄であります……!」
「違うだろぉおおおぉ? もう誰も死ぬところを見たくないんだろぉおお? それがなぜ認められぬのか。認めろよ、お前の古傷の奥の奥が未だに膿んで腐っていることを…!」
「あぁ、腐臭にて鼻が曲がりそうであるわ、愚かなる腐れうさぎめッ!! お前にはこれが誉め言葉であるッ!!」
「………あ、ありがとうございます、であります……。」

 00の答え。
 これは、自分の命を捨て、ヤスに全てを明け渡すことを選ぶ19人目の答え。
 己の世界の皆のために自分を生贄とする、潰されて他の家畜の餌となる選択。
 もう、愛する者が死ぬところを見たくない。
 それが傷となって膿んでいるのだ。


「さぁて、最後のお前はどうか。この三択から何を選ぶ…?」
「にひ。迷うことなく当然、2番であります。」
「ほぉ…。2番か。“愛する者”を生贄に捧げることを胸を張って選べる者は多くない。訳を聞かせよ。」
「愛する者は、いつかいなくなるからです。愛する者がいなければ、傷つかないし、いなくてもいつか、また誰かを愛せるかもしれない。だから。今、愛してる者なんて、大した価値はないのですにぇ。……にひ!」
「くっくくくくくく。なるほど、それでそういう回答になるわけか、愛に傷ついたがゆえに臆病になったうさぎよ……。うさぎは寂しさで死ぬと聞いたが、お前の心は一体いつ殺されたというのか…?」
「ならばうさぎよ、問いを変えよう。2番の選択肢を、“愛する者”ではなく、“そなたが愛した者の思い出”に変えようではないか。」
「……どうか。これでももう一度選べるかぁ? 何が愛してる者に大した価値はないだ、愚かなうさぎよ…!」
「自らの愛の深さにも向かい合えぬクズめッ!! 選んでみよッ、愛した者を忘れられると、選んでみよぉおおおおおッ!!」
「選べるだろ? 選べるものなぁあああぁ? ほおおら選べるって言ってみろよおおぉおおおおッ?!?!」
「え、…え、選べるであります…。選べるであります…!! にひ、………にひひひひひひひひひいひぃ……。」
「ゴ、ゴールドスミス卿…! それくらいでどうかお許しを……!!」
「ひひぃひぃ…。……ひぃいいいいぃいいぃん…!!」

 410の答え。
 これは、ベアトを殺すことを選ぶ19人目の答え。
 愛する者はいつかいなくなる。
 愛する者がいなければ傷つかない、いなくてもいつかまた誰かを愛せるかもしれない。
 だから、今、愛している者なんて大した価値はないと思い込もうとしている。
 愛に傷ついたがゆえに臆病となったうさぎ。
 お前の心は一体いつ殺されたというのか?


「もう良いわッ、クズうさぎどもめッ!! お前たちはワルギリアのところへ行き、地下牢の見張りを手伝うのだ。消えよ!!」
“シエスタ姉妹たちは、それぞれの心の古傷を抉られ、逃げ出すように姿を消す。”
“後には、誰も聞く者はないのに金蔵がひとり、演劇を続けるかのように話を続ける…。”
「……と、このように愉快なテストなわけだ。実のところを言えば、これが正解という選択肢はない。」
「むしろ、どの答えであろうとも、澱みなく、素早くッ、そして確固たる信念と揺るがぬ強き自らの意志で選べるかどうかッ!!」
「その理由と意思の方が重要なのだ。………私はそれを知りたいのだよ。あぁ、我が末裔たちよ、お前たちはどのような答えを見せてくれるのか、実に楽しみだッ!!」
「…………んん? 私か? くっくくくくくくく! あぁ、もちろん同じ問いを突きつけられたことがあったとも。その悪魔の問いに見事答えたからこそ、私は黄金と名誉と、あの魔女を我が物とすることが出来たのだよ。」
「私が選んだ答えはどれかぁあぁ? ………言うまでもないよなぁ。わっはっははははははははははははははははははははは…ッ!!!」

 3匹のうさぎが消えた舞台でひとり、演劇を続けるかのように話を続ける朗読者の答え。
 残る選択肢は一つ、答えは明白。
 自分と愛する者が共に黄金郷に辿り着くために、それ以外の全員の命を生贄に捧げる。
 絶対の意志でそれを選んだ。
 だから絶対に叶える。
 それこそが、必ず訪れる絶対の未来。





 朱志香の選択。
 これは、ヤスの選択に重なる。

「死にたくないさ。……だから一番なんて、誰だって選びたくない。……人は、幸せに生きたくて、生の限りを足掻いてるんだぜ。だから本当は、まず一番目なんてありえないはずなんだ。」

 人は幸せに生きたくて、生の限りを尽くす。
 本当は死にたくない。
 幻想の彼女にとって、一番を選ぶことの意味は重い。


「一応、……それぞれの選択肢を選んだ後の未来のことを考えてみたぜ。」

「まず、………嘉音くんを、死なせてみた。………私は自分の大好きな人を見捨ててまで生きる残りの生涯を想像してみた。」

「生きるにも値しない、最低の女だった。いつまでも自らの選択を悔やみ、ただ後悔だけのために生きるみすぼらしい女だった。……大好きな人を見捨てて生きることを選んだ、最低の女なんて、私には許せない。……私が自ら引導を渡してやる。」

 故に、二日間しか生きない。


「……あぁ。私と嘉音くん以外の全員を死なせてもみた。……嘉音くんは、そんな私を好きになるはずはない。」
「そして私もまた、いくら嘉音くんがいても、そのために見捨てた大勢の命が、生涯十字架となって圧し掛かってきた。……そしてその十字架は、嘉音くんにまで圧し掛かった。」
「………私は、嘉音くんに十字架を背負わせるために、愚かな選択肢を選んだりは、しない。もしそんなことをする私がいたなら、………私はその未来の私を許さない。…その女にも、私が引導を渡してやる。」

 これはEP8の入水自殺の直前の会話に繋がる。
 最終的には、生涯共に十字架を背負おう、という話になる。

 だが最初は三番を選ばない。
 家具の罪は主の罪。
 主に、自身が犯す罪を背負わせたい家具がいるか、という話。


“朱志香は思い描いたのだ。”
“三つの選択肢それぞれの向こうにいる未来の自分を。
“三人の朱志香がいた。……三人の内、二人は後悔していた。”
“一人だけが、胸を張って、嘉音に微笑むことが出来た。”
「……私さ、生意気にも、嘉音くんに説教をしたことがあるぜ。……自分の人生を、思い切り生きてみろ、みたいなことを。」

 人として生きよう、その一歩を踏み出そう、と主を励ました。


「だからさ。私が胸を張って、嘉音くんに見せなきゃならないんだよ。………胸を張って、お天道様を真正面から見て、思い切り笑顔でいられる生き方ってやつを。」
「……あなたの自己犠牲を、嘉音は受け入れられるでしょか? あなたの身勝手な選択が、余計に彼を傷つけてしまうことには、思いが至りませんか…?」

 お天道様を真正面から見て、笑顔でいられる生き方を、主に。
 それが家具の思い。
 だがその選択は、主に消えない傷を残す。


『……嘉音くんの、思い切りの人生を、生きて。……うぅん、ちょっと違う。嘉音くんの、じゃない。……本当の名前は未だに教えてもらえないけど。本当の嘉音くんの人生を、思い切り生きて。………そう伝えて。』

 本当の名を失い、家具となった19人目。
 人としての名を持つ人間としての人生を生きる。
 それがヤスから託された願い。





 譲治の選択。

「結婚とは。……自分は生涯、妻の味方であり続けるということだ。………僕にはその時点で。……彼女のために世界の全てを敵に回す覚悟があるんだ。」
“その言葉を、三面鏡越しに、……紗音も耳にする。そしてその決意を、目にする。”
“……紗音は確かに今夜、婚約指輪を渡される約束をしていた。”
“そしてこのような事件が起こってしまい、指輪を受け取ることが出来なかった。”
“しかし、今。………指輪の形を成さないだけで、……それ以上の何かを、紗音は受け取る。”
“……その証拠に、……ダイヤと同じ輝きの涙が一粒、…零れたから。”

 19人目の決意。
 生涯、ヤスの味方であり続ける。
 それは世界の全てを敵に回す覚悟。
 共に十字架を背負おうという覚悟。
 それを鏡の向こうの世界にいるヤスが見ている。


 19人目の選択と、ヤスの選択によって作られたのがルーレットの奇跡の目。
 19人目は誰も殺さず八城という名を得て人間として、ヤスに人間としての生を認めさせるために生き、その果てに、共に罪を背負い生きられる未来を。

 同時に、それが叶うまで、ルーレットの反対の目でヤスが地獄を這いずることが決まった。





 譲治の決意。

「………譲治さま……。……もう、………止めて………。…私なんかのために……。」
「……私のことなんて、好きにならなければ、……譲治さまは誰とも戦わなくていいんでしょ…? なら私なんて捨てて下さい……。忘れて下さい……。」
“その声が譲治に届くはずもない。”
“……しかし、なのに。……譲治はそれに答えた。”
「嫌だね。…………僕は、屈服しない。」
「……へぇ。どうして……?」
「…………それが、僕の、覚悟だからだ。……僕は紗音のために、全てと戦う。そして全てに認めさせ、……全てに僕たちを祝福させる。」
「ねぇ、聞かせて? どうしてあの紗音とかいう家具のためにそこまで言えるの? ………あんなの、ただの出来損ないじゃない。給仕ひとつ満足に出来ない、ガラクタ家具だわ。」
「…………愛する女性への暴言を、僕はそれ以上許さない。」
「だったら何? ひ弱なボクちゃんが、私にどう抗うというのかしら…?」
「人を愛するとは強さだ。……それを知ったから、僕は強くなれた。………“紗音、僕は君を愛している”。その言葉だけで、僕は何度でも立ち上がれるんだ。」
「紗音は地下牢よ? 私に愛を語られても。」
「いいや。伝わった。……それが愛だからだ。紗音には今、僕の言葉が聞こえているよ。そうだと信じられることこそが、愛だ。」
「………………こいつ、…、……。」
『紗音。君は家具なんかじゃない。……家具だったとしても、世界でただひとつの、僕だけの家具だ。生涯、僕と寄り添って欲しい。……僕には君が、永遠に必要だ。』
「………じょ、……譲治さま……………。」

 これは、八城が鏡の向こうの世界にいるヤスに向けて語り掛ける言葉。

 決して、ヤスを否定する真実に屈服しない。
 ヤスの真実のために全てと戦い、認めさせる、祝福させる。
 愛する者への暴言を許さない。
 君を愛しているから、何度でも立ち上がれる。
 君は家具じゃない。家具だとしても私だけの家具だ。生涯、私と寄り添って欲しい。私には君が、永遠に必要だ。


「あっはははははははははは…!! 愛が強さ? なら坊やはどうしてそんなにひ弱なの? その弱さがつまり、君の愛の程度なわけね?」
「くすくすくす! 婚約者への愛もひ弱。両親の呆気ない死に様もひ弱。君の人生は何から何までひ弱だわぁ。」
「……………紗音は僕に愛と強さを教えてくれた。もし君が、僕の強さだけで紗音への愛を確かめようというのなら、……僕の愛を、教えよう。」
「くす、言うわね。……なぁるほど。何度も蹴り倒されて転がされ、それでも立ち上がるのが紗音からもらった強さだと。」

 一歩も踏み出せなかったから、誰にも認めさせることはできなかった、かつてのひ弱な自分。
 だが、ヤスが愛と強さを教えてくれた。


「そして父さんにもらったのが、……忍耐力。」
“低い沸点の怒りは真に恐れるべきものではない。”
“……本当の怒りは、忍耐によって練り上げられる。”
「……君の暴力的意思表示は理解した。……また、婚約者と両親への名誉棄損も理解した。そして、それを撤回する気がないんだね……?」
「……こ、いつ……。」
「君の攻撃は、もう充分に理解したから。…………そろそろ、いいかな。反撃しても。」

 “父さん”は、金蔵でいいのかな?
 忍耐力によって練り上げられる金蔵の魔法。
 ヤスへの名誉棄損に対して反撃を。


「忍耐とは、熱くならず、冷静に相手の出方を研究することだ。………何のために? 決まってるじゃないか。わかるかい?」
「わ、わ、わかんないわよ……。」
「反撃して、きっちり借りを返し、二度とちょっかいを出したくないと思わせ、涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしてそれを拭うのを忘れて、額を地面に擦り付けて何度も謝りたくなるほどに完膚なきまでに完璧に徹ッ底的にッ!! ……叩きのめすためだよ。」

 ヤスを否定する真実を叩き潰す。
 そのために冷静に相手の出方を研究する。
 手を分析し、効果的な反撃を用意し、それに対する反論を予測し、それを叩きのめす。

 EP4の「金蔵の死亡」と「19人目の否定」は、ホントきつかった。


「君はどうやらまだ、その暴力の意味を誤解しているようだ。……この場合の暴力とはね、短絡的に振るわれる乱暴のことを言うんじゃない。………敵対すれば、無傷では済まないという、抑止のことを指すんだよ。」
「抑止……、だと……。」

「君も言ったろ? 暴力は統べる力だと。………暴力で相手を破壊してしまったら、統べられないじゃないか。」
「王者の暴力とはね、見せるだけなんだよ。破壊しない。……屈服させて、自らの財産とするんだからね。」

 ヤスの真実を見せ、読者を屈服させ認めさせる。
 そうすることにより、ヤスの真実は、魔法は力を持つ。
 即ち、黄金を山と積み上げる。


“悪魔たちから見れば、そういう魔法だったかもしれない。”
“しかし譲治にしてみればそれは、決意。”
“これ以上の戦いを望むならば、誰であろうとも容赦しない、そして相応の反撃を覚悟してもらうという絶対の決意。”
“絶対の決意が、魔法になる。”

 黄金の真実を否定する者、全てを屈服させるという、絶対の決意。
 この絶対の運命に勝てるのは、極小の確率の奇跡。





 朱志香の決意。

「砕けないからってよ、殴るのを止めはしないぜ。……どんな硬い心にだって、言葉はわずかずつ響き、やがてはひびを入れることだって出来るんだ…! 私は信じてる!! この世に無駄な努力なんて存在しないってなッ!!」
「だから生きるんだろ、思いっきりッ!! 言葉だっていつか通じるなら、拳だって同じってことだぜ…!! 私の辞書には、諦めるって文字は書いちゃいねえんだぜッ!!」
“それは多分、嘉音に語り掛ける言葉…。朱志香の言葉を一見拒絶する嘉音。……だが、その頑なな心に、少しずつ染み透っているのを、朱志香は知っている。”
“そしてきっと、心が通じて、彼が自らを家具と呼んで卑下しなくなる日が来て、……彼の新しい人生を踏み出してくれることを信じている。”
“だから朱志香は諦めない。へこたれない…!”
「馬鹿みてえだろ? 男には理解できねえだろ? 恋する乙女ってのはな、無駄だから諦めるって考えがねぇんだぜッ!!」

 ヤスの主への献身。
 愛を諦めている主の頑なな心に届かせようとする言葉。
 自らを家具と卑下しなくなる日が来て、新しい人生を踏み出してくれることを信じている。


“諦めない拳と決意には、必ず成し遂げる力が宿る。”
“それは悪魔から見れば、魔法。絶対の決意が、魔法になる。”

「そうさ…! 無駄なんて諦めたら、そこで人生が終わっちまうぜ…! 通じるんだよ。……絶対に…!!」
“私は馬鹿だからこんな生き方しか出来ないけど、それでもきっと、嘉音くんの人生に、新しい世界を教えてあげるくらいのことはいつか出来ると、……信じてる!!”

 無駄だと諦めてはいけないと教えるための、絶対の決意。
 ゼロでない限り、何度も諦めずに続ければ、奇跡は起こるのだと。
 名を取り戻し、人として生きれるのだと。


 それで、譲治と朱志香の相打ち。
 ヤスの真実を守ろうとする19人目の決意。
 19人目の真実を取り戻そうとするヤスの決意。
 相討つ結果。





 嘉音と紗音の決意。

「……いいよね、姉さん。………もう一度だけ、足掻いても。」
「…………うん。……私も、…もう一度だけ足掻くよ。……ううん、一度だけじゃない。…何度でも。」
“朱志香の声は、嘉音に届いた。”
“冷たい岩のような彼の心に、確かに浸透したのだ。”
“そして譲治の声も、紗音に届いた。彼らが示す愛が強さで現されるなら、自分も同じ形で応えなければならない。”

 ヤスの声は、19人目に届いた。
 19人目の声は、ヤスに届いた。


「あんたたちは、………一体何なの……。」
「…………僕たちは……。」
“嘉音が少し俯き口ごもると、紗音がその肩を叩き、にっこり笑い、そして言った。”
「私たちは、ニンゲンです。」

 19人目が少し俯き口ごもると、ヤスがその肩を叩き、にっこり笑い、そして言った。





 ワルギリアの山羊との戦い、抜粋。

「しかしそれでも、あなたがこの子を倒せる確率は、0.00001%というところでしょうか。おわかりかしら? あなたには万に一つの勝ち目もないということです。ほっほっほっほ…!」

「く、…くそ……。万一ということは、配当は一万倍ということではないかね。……良い大穴だ。そういう馬券は好きだよ、買いたくなる…。」
「ほっほっほっほ! それを買うコインはあなたの命、1枚しかありませんよ? しかし、それでもその奇跡に運命を託したいというあなたの気持ち、よくわかります。」
「……ですので、恐れずに立ち向かうあなたの勇気を讃え、ひとつハンデを差し上げましょう。この子は左腕一本で戦います。まぁ、それでもあなたに負ける気はまったくしませんが。」

「何? 左腕一本で戦う約束?」
「ほっほっほ!! 約束は破るためにあるのでしょうがー!!」

「……これは、勝利を最後まで諦めなかった蔵臼さんの執念と、……あんたの慢心が招いた結果だ。どちらが欠けても、この威力にはならなかった…。」

 左腕一本で戦うというのは、EP4最後のベアトの左腕に重なる。
 その約束を翻して右手を使うのは、ベアトが下げた右腕の分が残っているのに重なる。
 要するにこれは、ベアトの心臓についての戦いについてを描いている。

 ベアトの2つの心臓。
 それを同時に打ち破る確率は限りなくゼロに近い。
 だが配当はリスクに見合う莫大なもの。
 しかし、賭けれるコインは一枚。
 でも負けフラグを積み重ねておいたから。
 だから賭けるに値する。

 当時の私はよく確率の低い賭けに出られたものだ。
 まぁ、左腕一本だけだと思ったからだろうなぁ。
 まさかその後に右腕が待っているとは思わなんだ。
 でもEP5で、同一説が用意されている気配があったから、EP6の右ストレートに反応はできたのかなぁ。





 嘉音の死亡シーン。

“嘉音はぐらりと後ろへ仰け反り、……井戸の奥深くへ飲み込まれていった……。”

 これは、19人目の真実が闇に飲まれる、というところにもかかっているのだろう。





 戦人とベアトの通話。

「金蔵だってぇええぇ! 妾に再会出来て嬉しいだろぉおお? あぁ、シャバだ! 現世だ! 妾の肉体万歳ッ!!」

 今はヤスが肉体を使っている。


「イ~エぇええええぇス、アイアぁああぁムッ!! 金蔵の13人殺しの儀式のお陰で、ようやく妾は復活したぞ…!! 口があるといい、舌があるといいッ! こうしてそなたと話せることとの何と楽しいことかッ!」
「そう言えば、お前とはあれだけ何度も何度も憎まれ口を叩き合ってきたのに、こうしてゲーム中に盤上で会話をしたのは初めてだなァ。何やらとても新鮮だッ!!」

 盤上の現実にとって、メタ世界は空想。
 盤上で肉体を用いた会話は初。


「安心しろよ、浮気なんかしないってぇえぇ。あいつと二人きりになるのは今だけ。……妾はいつだってお前と二人きりだろぉぉ…? だがもう妾を四六時中束縛するのは勘弁しろよ? くっひゃっはっはははははは…!!!」

 19人目に対しての言葉。





 戦人の試験。

「黒のビショップは、そなたが黒きマスに留まる限り絶大な影響力を発揮するが、そなたがひょいと白きマス一歩逃れれば、妾はそなたの隣に接することは出来ても、接触することは叶わぬのだ。」
「だから妾は、そなたが白きマスに留まれぬよう、様々な駒を送り込み、そなたの隣の黒きマスを支配する妾の前に弾き出されるようにゲームを進めてきたのだ。」
「しかァし!!」
「今やそなたの城壁はぽっかりと穴を空け、妾はビショップではなく、とうとうクイーンを送り込むことが出来たッ!! クイーンがどういう駒か、知っているか?」
「飛車+角だろ。……言いてぇことはこうかよ。…今やお前は、黒い魔女幻想のマスだけでなく、白い人間世界のマスまで自由に侵食できるようになったと…!」

「……どうやら、この島のチェス盤は、インク壷でもぶっかけちまったみたいだな。」
「なるほど、それも愉快な表現よ…! くっくくくく、すぐにそなたもそのインクに染まるぞ。やがては真っ黒に染まり、必ず黒きキングになる…! そなたは今や、インクの海に溺れる哀れな存在であるなぁ?」
「いいや、違う。島がてめえのインク壷で、全て真っ黒に染まっちまったことは認めるが。……白いマスはまだ、残ってるぜ。」
「ほう、どこに…!!」
「俺の、足の裏にだぜ。………お前の魔法のインクが島中を覆い尽くそうと、俺が踏みしてる足の裏までは覆えない。…一見、この島が真っ黒に染まろうと、俺は俺だ。白いマスを、こうして踏みしめて立っている!!」

 白のマス=真実の世界。
 黒のマス=虚偽の世界。
 幻想の犯人が殺せるのは、幻想の住人だけ。
 だから真実の犯人の前から弾き出されるようにゲームを進めた。
 そして、真実の世界を虚偽の世界が自由に侵食できるようになった。
 いずれプレイヤーも黒く染められ、虚偽の世界を語る黒きキングとなる。
 だが、プレイヤーの足元だけは真実の世界を残すことができる。


「……妾の肉体も魂も、どう扱おうとそなたの自由よ。妾は所詮は、右代宮家の家具なのだから! あっはっはっはっはっは!!」

“二、__の命”

 名前がないゆえに愛されない者に、名前を与え魂を吹き込め。


「………そなたは右代宮に生まれ、育まれてきたのではないか。その恩を忘れ、右代宮の名を捨てる資格が、そなたにあったというのか。」

 19人目は右代宮に生まれ、育まれてきた。
 その恩を忘れ、右代宮の名を捨てる資格があるのか。


「しかし。祖父母の死を境とは言え、よくぞ右代宮に籍を戻した。よって、その罪を自ら禊ぐ機会をそなたに与えよう。今こそそなたの、6年前の罪を贖う時。」
「さぁさ、思い出して御覧なさい、自らの罪を。それを思い出し、告白し、懺悔せよ。…………それこそが、妾がそなたに与えるテストである。」

 戦人は紗音にした約束を忘れた。
 それはつまり、紗音の恋心を引き継いだという設定のヤスの心を傷つけたということ。
 ヤスは戦人に心を推理してもらい、その心を認めてもらい、紗音という人間になろうと思い描いていた。
 その願いは6年の歳月でぐちゃぐちゃになった。
 ヤスの真実が存続できるよう必死に取り繕った。
 ヤスが傷つけれれ殺されていくところをずっと見ていた。

 他人にとっては、高がそれだけのことのように思えるだろう。
 しかし、19人目にとっては、ヤスは世界の全て。
 それを失うということは、19人目の持つ全てを失いということ。


「……た、確かにそりゃあ、……俺の幼稚な反抗だったと。バッサリ言われりゃそれまでだぜ。………でもよ、…ならよ。……お袋の、……右代宮明日夢の無念は、誰が晴らすんだ…?! お袋はあんなにも献身的に俺たち家族に対し、頑張ってくれたんだぜ…?!」
「なのに親父は霧江さんと浮気もしていた。縁寿を身篭らせてさえいた…! それで出産に合わせて、駆け込むかのように籍を入れたんだ。」
「……それがお袋への裏切りでなくて何なんだよ?! お袋の、無念はッ! 誰が!! 晴らすんだよ?!」
「……だが、お前の言うとおりでもあるさ。浮気は事実でも、俺を育ててくれた恩は確かにあった。」
「なら、それを相殺して、俺が家を出て行くというので、問題ねぇじゃねえかよ!! そうさ、俺にはお袋の代わりに親父をブン殴る権利が、……いや、義務があったはずなんだぜッ?!」
「それを俺は許した! 何も言わずに出て行って、初めから俺なんていなかったことにしてやった!! 親父も俺のことなんか忘れて、霧江さんや縁寿と新しい家族を始めた! それで丸く収まってるじゃねえか!!」

 なら、ヤスの無念は、誰が晴らすのか。
 ヤスはあんなにも献身的に島の皆のために頑張っていてくれた。
 なのに戦人は島の外の世界に浮気した。
 それが裏切りでなくて何なのか。

 私を育ててくれた恩は確かにあった。
 なら、それを相殺して、私が右代宮家を出て行くというので、問題はないじゃないか。
 そう、私にはヤスの代わりに島の皆に復讐する権利が、いや義務があったはず。
 それを私は許した。
 何も言わずに出て行って、初めから私なんていなかったことにしてやった。
 島の皆も私のことなんか忘れて、新しい世界を始めた。
 それで丸く収まってるじゃないか。


「あの格好つけた親父が、本気で頭を下げやがったんだぜ…?! ……それを見たら、何だかもう、馬鹿らしくなっちまった。」
「きっと、お袋もそう思っただろうぜ?! お袋は、俺と親父が喧嘩をするといつも笑いながら仲裁してくれて、何だそんな下らないことで喧嘩をしていたの? と笑ってくれた。……俺はお袋が、そう言って笑っているのを感じたんだよ…!!」
「だから、……許すとまでは言えなかったけど、………もう一度、ゼロから始めてもいいかなって思ったんだよ。それで、6年前に全てを巻き戻すことにした。………それで右代宮家に籍を戻したんだよ…!! 俺も6年間、泣き、怒り、悩みぬいた!」
「ひょっとするとそれは親父もそうだったろうし、死んだお袋もそうだったかもしれない。あるいは霧江さんや縁寿もそうだったかもしれない。……だからゼロに戻し、右代宮戦人に戻ったんだッ!!!」

 島の皆も、ヤスを認めて頭を下げた。
 それを見たら馬鹿馬鹿しくなった。ヤスもそう思っただろう。
 ヤスは、私と島の皆が喧嘩をするといつも笑いながら仲裁してくれて、何だそんな下らないことで喧嘩をしていたの? と笑ってくれた。
 私はヤスが、そう言って笑っているのを感じた。
 だから、許すとまでは言えなかったけど、もう一度、ゼロから始めてもいいかと思った。
 それで全てを巻き戻すことにした。
 私も、泣き、怒り、悩みぬいた。
 ひっとするとそれは島の皆もそうだったかもしれない。
 だから、ゼロに戻し、右代宮__に戻ったのだ。


「………何も、……思い出せぬと、言うか。」
“これにて、未練は尽きたか……?”
「………………………。………………う、む…。」
“望み無き賭けも、賭けねば未練が残ろう。”
“……それで良いのだ。”
“賭けることに意味がある。”
「………そうかも知れぬな。…ならば、これにて。妾の未練も、ゲームも、終わりだ。」
“そなたはどうする…?”
「…さぁな。………妾はもう、何の興味もない。……すまぬが、妾はこれにて、ゲーム盤を降りさせてもらいたい。」
“…………………………。”
“……そうか。……わかった。”
「あとのゲームは妾が引き継ぐ。………そなたは休め。」
「……うむ。……………。」
「後のことは、全て妾が終わらせる。………そなたは全てを忘れて枕に顔を埋めよ。羽の布団は、そなたを全てからやさしく守ってくれるだろう。」
「………後片付けを、……頼む。」
「任せよ。……あとのことは全て任せ、眠れ。」
“戦人の問い掛けをしていた魔女は姿を消し、後より現れたもうひとりの魔女が、残る。
“確かに瓜二つの、同じ魔女だったが、………その表情はどこかとても淡白で冷め切っていて、……それまでの悪酔いした風とはいえ、元気のよかった彼女からはかけ離れていた。

 ヤスは引っ込み、19人目が後始末を引き受けた。





 戦人の対戦者資格について。
 これを引っ繰り返して、ベアトの対戦者資格を問う形で解釈するのが、正解なのだろうな。

「人名は独占されたものではない。複数の人間が、右代宮戦人を名に持つことは可能である。」
「即ち、こういうことだ。……そなたは右代宮明日夢の息子、右代宮戦人と同姓同名の別人である。」

 ベアトリーチェは家具。主の代わりに戦っている。
 つまり、本来の対戦者は、ベアトの主である人間である。
 人間であるなら、人間としての名を持つ。
 その名とは、何か?

 ヒントによると、人名は独占されたものではなく、同姓同名の別人がいる可能性がある。
 同姓同名の別人は、物語の中ですでに登場している。
 EP1からすでに明記されていて、EP4ではそれをさらに明確に提示した。

 その名とは即ち、右代宮真里亞。
 メッセージボトルの執筆者が名乗った名前。
 その執筆者は、楼座の娘である真里亞とは別人であることは確定している。
 そして、右代宮真里亞を名乗った執筆者こそが、真里亞と交流していたベアトリーチェである。


「復唱要求。………“右代宮戦人の母は、右代宮明日夢である”」
「“そなたの名は、右代宮戦人である”。」
「右代宮戦人は、右代宮明日夢から生まれた。」
「そなたは、右代宮明日夢から生まれた。」

 右代宮真里亞の母は、右代宮楼座である。
 私の名は、右代宮真里亞である。
 右代宮真里亞は、右代宮楼座から生まれた。
 私は、…………。


「そなたは誰か。右代宮戦人を名乗る、何者なのか。」

 お前は誰だ。右代宮真里亞を名乗る、何者なのか。


「……負けも勝ちもない。ただ、対戦相手が消えるだけだ。元からいなかったと言うべきか。」
「じゃあよ……、俺は、………誰なんだよ……。俺は、……親父やお袋の子じゃ、ないのかよ……?!」

 右代宮真里亞など、元からいなかった。
 ただ、対戦者が消えるだけ。
 なら、私は誰?
 対戦者を欲するなら、答えてみせよ。 


「…………残念だ。そなたがひょっとしたら本当に右代宮戦人であるかもしれないと、妾も千兆分の一の奇跡に、賭けたのだ。だが、やはりそなたは同姓同名の、別人だった。」

 自分がやられたことを相手にやりかえすスタイル。
 まあ要するに、千兆分の一の奇跡に賭ける者を欲しているということ。
 負けフラグを20も積み上げて、それを待っているのだから。


“戦人の姿が、……少しずつ、闇に霞んでいく…。”
“いや、むしろ逆かもしれない。……戦人だけを残して、全ての世界が闇に霞んでいくのだ…。”
“戦人は床に両手両膝を付け、うなだれて自問を繰り返している。”
“……しかし、それに答えが与えられることはない……。”
“闇に染まる世界で、ベアトが何かを語り、ラムダデルタが駆け寄り、何かを早口に叫ぶが、もうそれはとても遠くのことのようで、戦人の耳には届かない…。”
“…………そして“彼”は、………自分が誰かわからなくなって、……………姿を、…消した…………。”

 これが、19人目である右代宮真里亞が味わった、苦しみ。






 戦人も他の魔女も消え去った後のベアト。

“そして誰も消え去って、………書斎には誰もいなくなった。”
“まるで、初めから誰もいなかったかのように、静まり返る。……誰も、元々ここにいなかったのだ。”
“沈黙の書斎は無言でそれを語り、雨と風の音で、少しずつ部屋を満たしていくのだった……。”
“何もかもが闇に沈んだ世界で、ベアトは自問する。”
「……やはり、…………魔法は初めから、マリアージュ・ソルシエールの中だけで、使うべきであったな。」
「…………そうだね。…真里亞も、……縁寿の時に、そう思ったよ。」
「魔女同盟は、妾とそなた。その二人で始めた。……他の者を混ぜようというのが、そもそもの間違いであったのだ…。」
「………こんなにも楽しいから。…真里亞たちはその輪に、親しい誰かを加えたかったよね。そうして、魔女同盟がどこまでも大きくなって、みんなで楽しく魔法が使えて、幸せになれたらと願った。」
「だが、………魔法を理解できるのは、やはり妾とそなたの二人だけだった。」
「私たちは、奇跡が巡り合わせた、……この世界でたった二人しかいない魔女なんだよ。………真里亞はもう、ベアトさえいれば、他には誰もいらないよ。」
「…………妾もだ。そなたさえいれば、もう誰もいらぬ。」
「マリアージュ・ソルシエールは、結成したその一番最初の時点で、……もう、完成していたんだよ。」
「……………そうで、あるな。まさに、そうであるな……。」
“みんなで、魔法で幸せになるための、魔女同盟だった。”
“……それが、どこでこんな滅茶苦茶になってしまったんだろう。”
“自分が何をしたくて、このゲームを始めたのか。”
“……それさえも、何だか思い出せない。
“いや、覚えてるのかもしれないけれど、…今やそれは忘却の彼方に、自ら投げ込みたい気持ちだ。”
「………いいよ。何もかも、忘れてしまおう? 二人だけの、マリアージュ・ソルシエール。……私たちは互いを認め合う。そして、誰にも傷つけられない。だからもう傷つかない。泣かない。」
「全て、忘れよう。…………ね、ベアト。……私たちは、永遠だよ……。」
「……………………………真里亞……。…………ううぅ、………ううぅうぅッ…!!」

 この真里亞を、19人目の右代宮真里亞として見る。





 六軒島に着いた縁寿。

“そして、………私が傷つけてしまったあの日から、マリアージュ・ソルシエールが、……お姉ちゃんが本当の意味で望んでいたものとは違うものに変貌してしまったことを知っている。」”
“………あの日々のお姉ちゃんには、人を呪うことで怒りを吐き出す魔法も、大切だったかもしれない。”お姉ちゃんの境遇は、それが許されるだけの悲しいものだった。”
「でも。………もう、そんな悲しい日々は、終わったよ。……だから、……お姉ちゃんの魔女同盟を、………元の、やさしいマリアージュ・ソルシエールに、戻そう。」

「私が、お姉ちゃんを傷つけたから。マリアージュ・ソルシエールは、こんなになってしまった。………お姉ちゃんは黒き邪悪な魔女じゃない。……白き、……無垢で無邪気な、……やさしい魔女だったのよ……。」
「……私が、元に戻してあげる。元の、みんなを幸せにする魔法を世界中に振りまいていた、……真里亞お姉ちゃんに戻してあげる。」

 真里亞がそうであるように、ベアトもそう。


「……あんたの人生は、いつ始まるの? ……始まりやしないわ。いつまでもいつまでも永久に、死んだ母さんに嘲笑われ続け、そのまま死ぬのよ。……というか死ねば? 何で生きてるの?」

 霞に対する縁寿の言葉。
 自分が言われたことを返しているだけ。
 19人目とヤスもそう。


“……しかし、やがて。霧江が背負っていた重責の全てが、自分に引き継がれることを知り、その時、初めて、出し抜かれたことに気付いたのだ……。”
「あんたの母親のせいで、私の人生はめちゃめちゃにされたわ。……いいえ、一度殺されたと言ってもいい。あの日に私は一度殺されて、地獄のような日々に突き落とされたのよ…。」

 19人目が島を抜け出し、ヤスが19人目の全てを引き継がされた。
 ヤスが落ちた地獄。


「こっちは何? 何このへたくそなライオンの落書き。……さくたろう? 変な名前! 一番大好きなお友達だって。そうなの? これがあんたの友達? 親友? このライオンが? ねぇねぇ?」

『ボクは…悲しくなんかないよ……。…ただ、……悔しい……。……真里亞のことを馬鹿にされて、………何も言えない自分が、……悔しいッ……。』
「………………………。……私たちは、……視えないニンゲンには、……いないも同然…。……私たちは、必要としてくれるニンゲンとしか、交流できない。…………だから、………家具………。」
“悔しいのは私も同じだった……。……魔法の世界の素晴らしさは、視える人間にしか、理解できない。”
“理解できない人間に説明できない。だから貶される。………見せることが出来れば…。”
“……でも、出来ない……。”
“魔法は、反魔法の毒素で満たされた、魔法を理解できないニンゲンたちの前では、………使えないのだから……。”

 ヤスの気持ち。
 ヤスの動機。
 19人目の生み出した世界を、視えない人間に認めさせる。


“だからそれは、多分、真里亞が生み出した魔法の中で、もっとも古い、一番最初の魔法……。”
“………絹を裂く音が、少女の幸せな世界を、消し、た。”

 19人目の世界が消えた音。


「………じゃあ、………魔法を私が見せることが出来たなら、……お姉ちゃんの魔法を、………信じてくれるの………?」

 縁寿による魔法殺人。
 これは天草が霞たちを狙撃し、現れた天草の銃が暴発し、縁寿が介錯したのを魔法修飾したもの。
 だがこれは厳密に言うと、執筆者によるトリック。

 縁寿が使った魔法は、王者の傲慢による魔法。
 縁寿は、天草が狙撃することを知っていた。
 だから、煉獄の七姉妹を召喚できると言った。
 縁寿は、天草が敵と同じ銃を入手し、自分を殺すつもりだと知っていた。
 だから、暴発するように細工した。
 縁寿は手掛かりから起こりえる出来事を予測し、そうであった場合の対処を予めしておき、未来を豪語し自身に信じさせ、それを実現した。

 過去に囚われるのが黒き魔法。
 未来を実現するのが白き魔法。


「…………ありがとう、マモン。…あの日の教室で、あなたたちの無力を罵ったことを、今こそ心の底より、そして再び謝るわ。あなたたちは魔女を守るための、優秀な家具だった。」

 魔法は無力じゃない。
 家具は使ってなんぼ。




 黄金郷へ突入する直前の縁寿。

「……魔法は、愛と悲しみと怒りで出来ている。……ベアトリーチェが、どんなに残酷な魔女であったとしても、その魔法の源泉はまったく同じ。」
「………だからこそ、彼女のその世界を、本当はそっとしてあげたい。……少なくとも、彼女にとってその世界は、完成しているのだから。」

 理解すると、本当にそう思う。
 でも、推理はしちゃう。


「……私は1998年の縁寿だから、家族を救っても、それは1986年の縁寿が救われるだけ。……この私が救われるわけじゃない。だから騙されていると思っていたことがあるの。」
「……………………。……そのとおりよ。私はあなたを騙したわ。」
「……でも、今は感謝してる。………だって。あなたは私に家族の取り戻し方を、結局は教えてくれたもの。」
「…………私は何も教えてないわ。……それを知ったのだったら、それはあなたが魔女として自ら至った境地だわ。それは私のそれとは違う境地。………私に理解は出来ないけれど、もしもそうならば、おめでとう。」

 死者と対話をし、その魂を取り戻す、反魂の魔法。
 それが縁寿の至った境地だろう。

 でもベルンも、騙したけど、嘘は付いてない。
 メタ世界の戦人は、魔女の駒。
 本人ではない。
 そして本人は死んでいる。
 その状態で、戦人が縁寿の許に辿り着くにはどうすればいいか。

 それはゲームを続け、それを読んでいる縁寿の心の中へ辿り着けばいい。
 島の皆の真実を取り戻し、全員で縁寿の心へ辿り着く。
 つまり、縁寿が反魂の魔法を使えばいい。
 でもこれは縁寿の魔法。

 EP8での戦人=十八の生還。
 それは真実の世界でのことではなく、虚偽の世界でのことだけれども。
 その世界の縁寿の許に戻ってきた。
 現実の縁寿の許には帰ってこなかったけど、その縁寿の心の中にはその世界がある。
 慰めになるかわからないが。
 これがベルンの奇跡の魔法。


「私はこのゲームのプレイヤーではなく、駒だと。あなたは私に言ったわよね?」
「…………えぇ、言ったわ。」
「その役割を、今こそ完全に理解した。………………駒に、感情はいらない。ただ、勝利のために、最善を尽くせばいい。」
「…………えぇ。そのとおりよ。ゲームは最善手を指し合うものでしょう? 躊躇や戸惑いで指し手をおかしくしてたら、対戦相手も混乱するわ。」

 駒は勝利のために最善を尽くす。
 悪魔のルーレットによって、無限に惨劇を起こし自殺するヤス。
 躊躇や戸惑いを挟まずに、奇跡のための捨て駒となる。





 黄金郷→縁寿死亡。

“心を閉ざし、真里亞お姉ちゃんと二人だけの世界に閉じ篭っているのだ。”
“仲良しの真里亞お姉ちゃんといつまでも二人きりで、魔法談義をしながらお茶を飲んでいられる世界。”
“……誰にも急かされず、何にも拒まれない。”
“傷つけるかもしれないような誰一人すらも、彼女ら以外に存在しない世界。”
“そう、それは二人にとって完成された、もはや小さな宇宙……。”

 19人目の右代宮真里亞とヤスが生み出した世界。


「……マリア。それはならぬと言ったはず。妾にはそなただけがいれば良い。だからそなたも、妾だけがいれば良いと、言っておくれ。」
「…………………。……うん。……ありがとう。真里亞を、そこまで必要としてくれる人は、ベアトだけだよ。なら、ベアトと一緒にいる。二人きりでいい。」
「………マリア……、……すまぬ……。…………ありがとう………。」
“ベアトは真里亞を深く抱き、その組み合った腕の中に温かな宇宙さえ生み出していた…。”
“……多分それは、世界でもっとも小さい宇宙の誕生。”
“…互いを必要とし合う二人が生み出せる、世界でもっとも小さい宇宙…。”
“それはどんなに小さくても、完成された世界。”

 互いを必要とし合い、身を寄せ合う二人。
 それはそれ以外の世界から閉め出されたことを意味する。


「…………なぜ、……妾の世界を、……壊すのか………。こ、この世界が妾と真里亞以外の誰に迷惑を掛けたというのか……?!」

 なぜ最後の拠り所を奪うのか。


「そ、そんなことは許さぬ…!! ここは妾と真里亞の世界!! マリアがいなくなったら、……壊れてしまう…!!」
“ニンゲンが宇宙を生み出すための最少人数は、2人。それが崩れれば、世界は滅ぶ。”

 19人目を失えば、世界は滅ぶ。


“それは紛れもなく、………あの、ライオンの、……さくたろうのぬいぐるみ。”
“そのやわらかさを、生地も縫い目も何もかも、………真里亞は忘れていた。”
“でも、………ぬいぐるみを抱いた瞬間に、その全てを鮮明に鮮明に思い出す……。”
『うりゅ。真里亞、……ただいま。』

 反魂の魔法。
 八城が望むもの。


『もう、真里亞といつまでも一緒だよ。永遠に一緒だよ。……だからボクを、離さないでね………。』
「うん、……離さないよ……。……永遠に………………。」

 八城が望む未来。


「……さよなら、…真里亞お姉ちゃん。そしていつまでも、お幸せに。…………大丈夫よ、お姉ちゃんの世界にも必ずあなたはいるわ。でもそれは、あなたのことじゃない。」
「……………よかったな、……真里亞……。……妾はそなたの親友として、………その再会を、心より祝福するぞ………。」
“ベアトの表情には、……おそらく人間が浮かべることの出来る、全ての表情が入り混じっていた。”
“それは、喜びであり、怒りであり、哀しみであり。”
「………それが、魔法の根源よね。…………愛がなければ。悲しみがなければ。怒りがなければ。…………魔法は、視えない。」

 悪魔のルーレットにより19人目の願いが叶い、取り残されるヤス。


”………それは次第に大きな地割れを呼び、ベアトリーチェの最後の楽園を、引き裂き始める。”
“黄金の蝶たちは逃げ惑うが、どこにも逃げ場などない。…そして、ベアトリーチェも。”
“黄金郷は崩れ去ってゆく。”
“大地はまるで抜け落ちる床のように崩れ落ち、………ベアトリーチェを漆黒の闇の底へ飲み込んでいく。”
“そして無慈悲に漆黒の床に叩き付けられた。”
“……そこは、とても薄暗い、喫煙室。”
“出ることの出来る扉はなく、窓はあれど光も差さぬ、……薄暗きベアトリーチェの喫煙室。”
“ベアトはその冷たく硬い床に叩き付けられた痛みに呻きながらも、ふらふらと立ち上がる……。”
“そこには席が。”
“……彼女が堆積したままの形で残っている、……ゲームのテーブルが。”
“ゲーム盤もまた、ベアトが放置した状態で残されている。”
「そこがあなたの席よ。座りなさい。」
「……………妾に座るべき席は、………ここしかない、ということなのか………。」
“ベアトは自らの席に手を付き、……悲しく笑う。”
「勝つか、負けるか。あなたに与えられるのはそれだけよ。それに行き着く過程での引き分けは許されるでしょう。」
「………でも、中断して投げ出すことだけは許さない! 勝って生き残るか、負けて消え去るか、そのどちらかになるまで、あなたはその席を立つことなんて許されない!!」
「それが魔女のゲームのホストである、黄金の魔女ベアトリーチェの唯一の務めでしょう…!!」
“ベアトは力なく笑いながら、その席に、……座る。”
“……そして肘を付き、両手で顔を覆って、………口だけはせめて笑って見せた。”
「………勝てぬゲームを逃げることは許されぬか。………ならばよかろう。……妾が負けるまで、……繰り返そうではないか……。」

 黄金郷が壊れ、奈落に落ちるヤス。
 勝てば生き残り、負ければ消える、無限に繰り返されるゲーム。
 その対戦席しか、もう座る場所がない。


“ベルンカステルが現れて、手をパンと打つと、宙より戦人が現れて、どさりと向かいの席に落ちる。”
“戦人は目を薄っすらと開けてはいるが、輝きはなく、まるで人形のようだった。”
“自分の魂を確立する柱の一本を欠き、…………暗闇の底の底まで落ち、ずっと漂っていた。”
“……そのまま、霧のように散って消えてしまうはずだった。”
“それをベルンカステルが掻き集めてきた。よくも人の形にまで戻せたものだ。”
“しかし、肉体は戻っても、魂がまだ戻ってこない。……ベアトリーチェに存在を否定されて吹き飛ばされた。容易には戻らない。”
「……………戦人もこの戦いを逃げないわよ。あんたに勝つまでね。……勝ち目がなくなってきたからって、全て投げ出して逃げるなんて、そんな無粋を許しはしない。」
「彼だって、そんなことを望んではいないわ。…………でしょう、右代宮戦人…?」
“戦人は答えない。……心がまだ、死んでいる。”
“問い掛けに、わずかに目を震わせるが、返事は出来ない。”
「戦人…! しっかり! あなたはここにいるわよ。そして敵は目の前にいる…! 戦って! 勝つために!!」
“戦人はぼんやりとそれを、うわ言のように復唱する。”
“………戻ってきた。”
“魂に負った傷は浅くない。”
“それは無理からぬこと。ベアトリーチェに赤を織り交ぜ、否定された。”
“敬愛していた母親が、生みの親でなかったことを知り、………自分が誰なのかわからないのだ。”
「……自分は右代宮戦人では、……ない…………。」
「馬鹿なこと言ってんじゃないわッ! あんたは他の誰でもない、右代宮戦人よ!」
「誰が認めようと否定しようと、あなたがそれを信じなさい…!! あなたの世界はね、あなただけが作れるのよ。あなたが右代宮戦人である世界を、失わないで!」

 向かいの席には、19人目の右代宮真里亞。
 ヤスを失い、自分の魂を確立する柱の一本を欠き、忘却の暗闇の底の底まで落ち、ずっと漂っていた。
 もう自分が誰かもわからない。


「明日夢お母さんはあなたを寂しがらせたことがある? ないでしょ?! あなたの平和だった家族を簡単に捨て去らないでッ!! あんたは6年も家族のもとから離れてたから家族の絆が希薄過ぎるのよ!!」
「もっともっと、家族の絆を強く感じて! 思い出して!! 明日夢お母さんのためにも、こんなくだらない魔女の妄言で、愛情を失わないでッ!」
「………………………。………そうさ……。……お袋は、……いつだって俺の味方だったんだ……。」
「……………ここはどこだよ……? ……暗ぇよ……、……帰りてぇよ……。俺の家族は、みんなは、……どこなんだよ………。」
“戦人の目にまだ光は戻らない。でも、……涙が浮かぶ。
「お家であなたの妹が帰りを待ってるわ。せめてあなただけでも帰ってあげないと、……彼女はいつまでも独りぼっち…! 妹のためにも、どうか魔女のゲームに勝って…!!」
「…………縁寿……、俺の、……妹………。……でもよ、………わからねぇんだ…。………どうして、俺はベアトと、こんなわけのわかんねぇ、残酷なゲームを永遠に繰り返さなきゃならねぇんだ……? ……もう、……嫌だ……。」
「なら、早くこんなゲームに決着をつけて、お家へお帰りなさいッ!! 右代宮戦人、いつまでこんなところで遊んでいるのッ?! 妹が帰りを待ってるわよッ!!!」

 真里亞の世界の皆を簡単に捨て去らないで。
 12年も離れてたから、皆との絆が希薄過ぎる。
 絆を強く感じて、思い出して、愛情を失わないで。
 六軒島であなたの娘が帰りを待っている。


 これはヤスと真里亞のゲーム。
 ヤスは自らの存在を認めさせるために。
 真里亞は自らの世界を失わないために。
 互いを苛む永遠の拷問。
 どちらも決して負けられない。
 永遠に引き分けを繰り返し、いつか二人で黄金郷へ辿り着くために。


「…………お兄ちゃんを助けるために、ここに来るために、唯一守らなきゃいけないルールが、……あったの…。………それが、…………これ。………お兄ちゃんに、……私が縁寿だと、……知られてしまう、……こと………。」
「……辛かったよ………。」
「お兄ちゃんが目の前にいるのに、……それを口に出来ないなんて………。」
「このルールさえ守れば、……ずっと永遠にお兄ちゃんの側にいられるはずだった。」
「……お兄ちゃんと一緒に、…魔女と戦うゲームを、……永遠に遊べるはずだった……。」
「でも、………それじゃ駄目。」
「…………お兄、……ッ、………ちゃんは、……帰らなきゃ。」
「………お家で、……あなたの妹が待っているもの……。」
「………それは私のことではないけれど、…………それで、あなたの妹は、…救われる………。」

「…………気に…しないで………。……私は所詮、……駒だから……。………あのね、チェスではね、……サクリファイスって、言うんだって……。」

「………サクリファイスとは、捨て駒のことよ。戦略的展望のために、わざと損を承知で駒を見捨てることを言う…。」
“チェスにおいての至上目的は相手に勝利すること。……だから、最終的にそれに結びつくならば、個々の駒の犠牲は問題にならない。

 名前のルールは、19人目がヤスを蘇らせるためにゲーム盤上で課されたルール。
 己の名を名乗ってはならない。
 名乗れば、真実が晒される。

 サクリファイスは、駒であるヤスのこと。
 ヤスの許に帰るために、駒であるヤスを捨て駒にする。
 EP4における戦略がこれ。
 左の心臓を晒すことで、19人目の真実を貫かせ、ヤスを一度否定する。
 ヤス、即ちベアトを殺し、EP6でベアトを蘇らせるために。


“駒らしく振る舞い、戦人を救うには、今、自らが捨て駒とならねばならないのだ。”
“…………戦人は、知らなければならない。”
“この魔女のゲームの目的は、魔女をやっつけるなんて抽象的なものであってはならない。”
“ゲームに打ち勝ち、自らを解放し、家族を連れ帰らなければならないのだ。”
“なぜ? ………帰りを待っている、妹という家族がいるから。”
“右代宮縁寿の声を届かせるために、生み出された存在。”
“それが私、エンジェ・ベアトリーチェ…!!”
“私という駒を生贄に、お兄ちゃんに戦う意思を、目的を!”
“私の目的はお兄ちゃんと永遠に魔女のゲームで遊ぶことじゃない!”
“私は右代宮縁寿の嘆きと悲しみを、あなたに届けに来たッ! それこそが私の揺ぎ無い目的!”

 八城にヤスの声を届かせるために、生み出された存在。
 それがベアトリーチェ。


“揺ぎ無き決意。…絶対の意思。”
“ニンゲンの絶対なる意思は絶対の魔力となる。”
“……それは奇跡に通じ、それを約束する。” 
“そう、これは、約束された、絶対の奇跡。”
“……………妾の勝ちは百億にひとつも、いや…………、ひとカケラの奇跡も絶対になく、ありえぬということか。”
“妾の足にはいつの間にか、音もなく、もう片方の足にも冷たく頑丈な鎖が絡みつき、この椅子に縛り付けている…。”
“………妾に残されたる運命は、戦人に殺され敗北することか、それを拒み、永遠に引き分けを繰り返すことのみ。”
“……いや、殺されるための心の整理がつくまで、引き分けを繰り返すの間違いか。”
“いずれにせよ、妾は。………敗れるためだけに、戦わねばならぬ。”
“もう永遠の鎖は妾を縛り付けた。そして戦人もまた、妾を逃さない。”
“……みっともなく赦しを乞うか…? 同情を乞うために、憐みの心に訴えかけるか…?”
“形振り構わず土下座して?”
“鎖のせいでそれも叶わぬわ。”
“……チェックメイト。”
“これは完全なる詰めだ。”
“……………………………だが。”
“妾は、黄金の魔女、ベアトリーチェ。”
“黄金郷に君臨したる黄金の魔王。”
“敗れるための戦いであっても、妾には相応しき態度がある。”
“そして、妾には、妾に相応しき散り際を飾る権利がある。”

 サクリファイスされるベアトの名演技。





 ラストバトル。


「…………縁寿は、良い駒であったな。」
「縁寿の名を、……お前が口にするんじゃねぇ。」
「………あれは奇跡によって現れ、自らを生贄にして、そなたに絶対の勝利の執念を与えた。」
「縁寿の名を、口にするな。」
「…………あの無残な死は、そなたにとって必要なものだった。あの死を見なければ、そなたは本気にならない。縁寿の幸薄き未来を自覚しなければ、そなたに勝利の執念は生まれない。」
「縁寿の名を口にするなと言っている…!!」
「…………つまりは、必要な生贄だったというわけだ。そうでなくては、そなたに妾を殺すほどの怒りは生まれない。妾とそなたの拮抗が崩せない。」
「ベルンカステル卿め、これは駒ではないわ、切り札と呼ぶに相応しい。……駒はどれほど活躍しようとも盤上を離れることはない。しかし切り札は、どんな力を発揮しようとも、切れば確実に捨てられる。」
「縁寿は、そなたにとって実に良き切り札だったのだ。」
「縁寿の名を、口にするんじゃねええええぇえええええぇ!!!」

 自身もまた捨て駒だからなぁ。切り札だからなぁ。


“そうさ、私は、………戦人に殺されるためだけに、………戦っている………。”
“……戦人の、瞳を見る。その中にいるのは、私ではない。”
“………彼の帰りを待つ、妹と、…連れ帰るべき家族の姿が映っている。”
“私の存在などもはや、……彼にとっては一人の存在でさえない。”
“…当然だ。彼は最初から、私という個人を否定するために戦っている。”

 一人の存在でさえない。
 私もこの当時、ヤスの姿は映ってなかったなぁ。
 思いっきり戦略に嵌ってたわけだ。


「………いいでは…ないかよ……。……投了で…。……それでそなたの勝ちだろうが。………とっとと、……妹のところへ、…帰るがいい……。妾などこの場に、………打ち棄てていけ………。」
「俺は言ったはずだ。逃げない。そして、お前を逃がさないとな。」
「………………。」
「お前は、何者だ。そして一体、何が望みだったんだ。」
“それが知りたくば、……そなたの十八番でも試せば良い……。
「……………いいではないか…。…ただの、……妄想、……幻想……。それで、……いいではないか……。」
「全然駄目だぜ。俺はお前を、逃がさない。」
「………………………。」
「俺はお前を、打ち破る。このまま逃がしてなるもんか。」
「………………………。」
「お前をうやむやにしたまま、幻想の暗闇に逃げ帰らせはしない。………打ち破る。完全にな。だから立て。弱々しいふりなんかするな! お前はまだ何手か隠してる! 俺にはわかる!」
「……………なぜ、……大人しく見逃してくれぬのか……。」
「親父を、お袋を、そして縁寿を。いとこのみんなや親族のみんなを。そして使用人のみんなを。お前はあれだけ弄んで殺した…!! その非道を、俺は絶対に忘れない、許さない!」
「俺の方にはよ、……まだ縁寿の、腕の感触が残ってるんだよ…!! 俺はッ、お前の非道を、許さないッ…!! だから、そんなことで、逃がさない…!!!」

 ここで終わったら、19人目を人間だと認めさせることは最低限叶う。
 だが、それでは魂を欠けさせた家具。
 ヤスの魂も合わせなければならない。
 だから、うやむやにしたままに暗闇に逃がさない、完全に打ち破るというのは嬉しいこと。

 しかし、戦いを続けるということは、ヤスの真実が成立する余地を大きくとり、19人目に辿り着く確率を引き下げるということ。
 つまり、サクリファイスの戦略の最初の一歩が成功するリスクが膨大となり、そのリスクに踏み出す覚悟が必要となる。


“狼と羊のパズルどころか、………これじゃア、狼少年だなぁ……………。”

 今更気付いたけど。狼と羊のパズルって、19人目とヤスの真実を向こう岸に連れて行くパズルのことか。
 もっと言えば、それぞれの真実を信じる読者が狼と羊で、それらの読者を次のゲームに連れて行くパズルかな。

 謎という壁を、乗り越えるのが狼、抜け穴を探すのが羊。
 羊は穴を示せばそこに向かってくれる。
 ゲームが進む度に穴は少なくなり、集約されていく。
 狼は壁を乗り越え自らが掴んだ真実を守るための爪と牙を持つ。
 多くなりすぎると、羊を食い殺す。

 EP4でのゲームバランスが狂っている。
 この時点で、狼絶滅もありえたんじゃないか?
 生き残った狼は、良く訓練された狼だ!


「この島には18人以上の人間は存在しない!! 以上とはつまり18人目を含めるぞ。つまり、18人目のXは存在しないッ!! これは全ゲームに共通することである!!!」

 これは“存在しない人間”である19人目と金蔵(偽)で通ると思うのだが、念のために面の推理をしようと思う。

 19人目の名は、右代宮真里亞。
 金蔵(偽)の名は、嘉音。
 同姓同名ならば、一つの名前を数えるだけで複数の人間を同時に数えることができる。
 つまり、17人の人間の名前しか存在しない。
 にもかかわらず、19人の人間の肉体が存在する。
 そして、その2人はその名で生きてはいない。

 名前の手掛かりは、右代宮真里亞の分は、EP1と4で執筆者の名として提示されている。
 嘉音の分はEP4にて青で、金蔵の名の継承と同様に嘉音の名を継承した人物を仮定している。
 そして同姓同名は、EP4で戦人の対戦資格についてで提示されている。
 以上。


“これは、勝ち負けを決めて遊ぶゲームではない。”
“……そうさ、遊びじゃないんだ。”
“ここでこうして戦って遊んでいるだけでも、………帰りが遅れているんだ。”
“孤独な縁寿が、悲しみと寂しさで心を切り刻まれ続けてるんだ……!”
“一秒でも早く、俺は縁寿のところへ帰ってやらなければならないんだッ!!”

 ヤスが待っている。


“ベアトは虫の息で、残った力の全てを振り絞り、何とか、両手の拳を、握りしめる……。”

“そこまでを口にし、……彼女の顔が、少しだけ斜めに傾ぐ。そして、右腕が光を失って、どさりと落ちた。”
“しかし左腕だけは光を失わず、そのまま天に差し出されていた。”

 左腕、そっちの心臓が、19人目。
 下がった右腕、そっちの心臓が、ヤス。


「…………私は、だぁれ…?」

 名前については、本来ここでやるつもりだったが、フライングしてしまった。
 誰が言い出したのか、ヤス=右代宮真里亞説というのがある。
 楼座が真里亞に名を付けた時、金蔵が怒ったということを根拠としている。
 私もこれは大いにありえると思った。
 ただし、19人目の名前として。

 聖母マリアは、処女懐胎で一人で子を産んだ。
 これはEP2のハッピーハロウィンのところで示されている。
 EP7でも同様のことは繰り返し提示された。

 19人目は、金蔵が用意したベアトリーチェの依り代。
 ひとりで“人間”を生み出すことを、運命に約束された子。
 ヤスを“人間”として生み出すことに生涯を費やす子。
 金蔵がその子にマリアの名を与えるのは必然であるだろう。

 故に名は、右代宮の真里亞。
 ヤスの母、右代宮真里亞だ。





 裏お茶会。

「……そういうことね。私たちの力がもっとも均衡するのは、引き分けと戦人有利の中間で均衡している場合のみ。ベアト有利に傾き過ぎれば、私たちは共に同じベクトルに団結して、ベアトを引きずり戻す。」

 19人目の右代宮真里亞とヤスのゲーム。
 どちらかが勝てば、もう片方は消える。
 故に、0対100や100対0になってはならない。
 だが、狼の数が羊より多くなると羊が食い殺されるので、50対50はギリギリ過ぎる。
 そして、ヤスの黄金の真実は、全てに認められなければ存在を認められない。

 つまり、ヤスの勝利と引き分けの間で釣り合いを取り。
 19人目を信じる者を少数作る。
 そして、19人目を信じる者にヤスもいて良いと認めさせることでクリア。







 真相が沢山書いてある。
 なら、これを見せれば皆信じるだろうか?

 どうだろう。
 見てと言っても、見えない。
 読めても、信じない。
 って感じで終わるんじゃないかと思うのだが。
 さすがに人間不信が過ぎるか?

 でもさあ、声なき声を聴いた、とか言い出したら頭がおかしいヤツみたいじゃん。
 他人から見たら、オカルトでファンタジーじゃん。

 つまりさあ、私にとってはミステリーでも、他の人にとってはファンタジー。
 ミステリーとファンタジーは一枚のカードの裏表。
 これって面白いじゃん。

 科学でだって、ひとつのことに色々な仮説を立ててる時が一番面白いんじゃないかな。
 真実が立証されたら、そこの部分はもうつまらなくなる。
 だって、これが真実だと教えられて終わっちゃうんだから。

 そう、リスクを抱えて綱渡りしているから面白いんだよ。
 ミステリーとファンタジーが天秤に載っているから面白いんだよ。

 そして、誰もが考えればわかることもつまらない。
 それではミステリーにならない。
 極論、誰かに聞けばいいだけで、自分で考える必要さえないのだから。

 他の誰にもかわらない答えだから面白いんじゃあないか、
 それこそがミステリー的な答えだ。

 なにもそうでなければ本当の真実ではないと言っているわけではない。
 そういう風な方がミステリーとして面白いと言っているのだ。
 たとえ間違っていたとしても、絶対にそっちの答えの方が面白い。
 ミステリーの楽しみ方としては、その方が楽しめるのだから。

 だから今が一番楽しい。
 私の他に誰もわからないだろうということが楽しい。
 ひとりじめしているのが嬉しい。
 余さず自分のモノだと実感できるのが快感だ。
 これは強欲だろうか。

 絶壁から踏み出す感覚が楽しい。
 リスクを踏み越えるのがこんなにも悦ばしい。
 誰にも理解できないできないだろうという感覚。
 故にこれは人にはわからない喜び、魔女の悦楽なのだろう。

 だから誰にも理解できなくて構わない。
 我が大罪、傲慢と強欲が疼く。

 それでも理解できた方は、ようこそ「うみねこ」の深淵へ。
 この沼は底なし、共にずっぽりと沈もうじゃないか。


 でも今は愛の話だ!


 「うみねこ」は表裏の合わせ方が凄い。
 群像劇が、一人語りに視える。
 これは駒や家具が、一人の心から生み出されたものだから可能なことなのだろう。

 だが、ならば、ニンゲンの駒には魂が宿っていなかったのかと言われれば、それはノー。
 魂が籠った言葉だから心に響く。
 譲治や朱志香の言葉には、確かに魂が宿り、心が籠っていた。
 一人のニンゲンとして確立していたと言える。

 それはつまり、愛されていたということ。
 愛され、魂を吹き込まれ、心を持っていた。

 でもさあ、かつては島のニンゲンたちを恨んで無限に殺し続けていたんだよね。
 ニンゲンたちを本音に傷つき、その度に殺していた。
 それを千年続けた。

 それはつまり、それだけの時間、そのニンゲンと向き合っていたということ。
 相手の罪と向き合い、やがてはそれを浄化し、理解できる人間となったのだろう。
 己と共通する苦しみを知り、己と異なる視点を獲得し、世界を広げた。
 そして、その広がった世界に、そのニンゲンの駒を収めた。
 だからずっと一緒。
 黄金郷は宝を仕舞うための宝箱。

 愛する駒だから、魂を持っている。
 魂を持つ駒の声だから心に響く。
 主の代わりに声を張り上げている。
 つまり、これは駒や家具たちが主のために演じる劇。

 端的に言おう、駒たちから愛されてるじゃん。
 主のためにあんなに頑張っている。
 愛し愛されて、世界が愛で溢れている。
 この時点ではまだ満たされてはいないのだろうけど。
 もはや立派な世界だと誇っていい。
 胸を張っていい。
 誰に恥じることもない。
 立派な一人の人間だよ。
 私が尊敬する友人だよ。

 私がイメージしていた、朗読者が一人でいるだけの舞台。
 その舞台の上、朗読者の周りに、色々な存在がうっすらと視えてきた。
 あぁ、世界はこんなにも賑やかで豊かだったのか。
 私の瞳にも、愛が視えてきたのだろうか。


  1. 2019/06/22(土) 22:32:32|
  2. うみねこ咲へ向けて
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EP4の序盤を再読

 戦人と合流した縁寿。

「人はいきなり騙されたりしない。自らの確認を怠り、それを他人に委ねた時、騙される。……他の人が渡り始めたからもう信号は青になったと思った、じゃ、事故の言い訳にはならないってこと。わかる…?」

 自分の考えを他人に委ねた時に、人は思考停止する。
 他人と同じ意見だから安心する。
 他人と同じ意見でなければ安心できない。
 皆がそう言っているのだからそうなのだろう。
 安心するために意見を合わせる。
 リスクを背負うことができない。
 要は、騙されて安心を得たいということだろう。

 だから、自分の意見を持つためには、安全な範囲を出て、崖から一歩を踏み出せばいい。
 崖に張られた綱を渡り切るか、崖の上に戻るかは、その後に選べばいいのだ。

 そして、取捨選択し、綱を渡り切ったのなら、敬意に値する。
 本気で思考したのだと。


「だから私を無条件で信用なんてしなくていい。ゆえに私の助言も参考意見程度に留めてもらって大いに結構。だって、……魔女とのゲームを戦っているプレイヤーは、あなたなんだから。」
「…そうだな。外野の指し手に従って打ったから負けた、なんて情けねぇ言い訳だもんな。」

 これは戦人に対してであるが、同時に、プレイヤーたる読者に対してでもある。
 自分が信じるものは、常に自分で決めるべし。
 リスクは自分が背負うものであり、他人に背負わせるものではない。


「いいえ、外野じゃないわ。ベアトリーチェと右代宮戦人。…そしてそれを俯瞰する私が、まるで三角形のような形になって戦うのよ。一見、これは共闘ではないけれど、一緒に戦うばかりが共闘ではない。」

 皆同じ意見なら、死ぬ時は一緒、全滅あるのみ。
 生存戦略は多様性にあり。
 面で攻めるのだ。
 皆が違う意見だから頼もしいのではないか。
 自分が倒れても、まだ後を託せる者がいるのだから。
 皆集は偉大だわ。


「……異なる立場から異なる角度で討つ。…十字砲火ってことだな。へへ、面白いぜ。」
「異なる立場から、異なる角度で、討つ。……だから私は誰とも馴れ合わない。自分の立ち位置をずらし、魔女を挟み撃ちにするために。」

 誰とも馴れ合う必要はない。結構じゃあないか。
 自分の立ち位置は自分で定める。当然じゃあないか。
 死に場所くらい自分で決めさせろ。だからここは任せろってんだ。
 きつかったけど、やってのけたぞ!
 19人目と金蔵(偽)を犯人とする私の説と、皆の紗音嘉音同一によるヤス犯人説。
 十字砲火の完成だ。





 真里亞の日記。

“日々を日記にして書き記すことが、彼女にとってはもうひとりの自分との対話みたいなものだったのだろう。”
“だから真里亞お姉ちゃんの日記は、日々の出来事を書き残したというよりは、もうひとりの自分に今日の出来事を手紙で伝えるような、そんな文体で記されている。”

 八城にとって、偽書を書くことは、もうひとりの自分であるヤスとの対話だったのだろう。
 昔はそれなくして対話できていたのだろうが。


“そして、………彼女は今や、私の唯一の友達となった。”

 縁寿にとっての真里亞。
 真里亞にとってのさくたろう。
 19人目にとってのヤス。


「さくたろはね、とても無垢で可愛らしくて、そしていつも真里亞にやさしくしてくれるの。真里亞に元気がない時には励ましてくれて、真里亞が元気な時は一緒にいっぱい遊んでくれるの!」
「だから真里亞はもう寂しくなんかない。ママが仕事で忙しくてひとりぼっちでも寂しくないし、学校で誰も遊んでくれなくても全然寂しくないの。ねー、さくたろ~、うりゅ~☆」

 イマジナリーフレンドがいるから大丈夫。
 逆を言えば、イマジナリーフレンドがいなくなると大丈夫ではなくなる。


「天使様はその提案をのむことにした。だから、1人の生贄によって、19人は救われた。……だから真里亞の役割は大切なの。魔女は19人を、守ってる。」
「……私たちが生贄になることによって? ………その19人に、感謝された覚えはないけれど。」

 1人が我慢することで他の全員を守っている。
 けど感謝などされない。
 そして生贄がその役割を放棄することで破局が訪れた。


“もちろん、冷めた目で見ればそれは、ぐずる私を真里亞お姉ちゃんが、ぬいぐるみであやしているだけの光景だ。”
“……でも、そのぬいぐるみには、確かに魂が吹き込まれている。”
“真里亞お姉ちゃんの、愛という魂が。”
“だから私はそのぬいぐるみの中に、さくたろという存在を認める。”

 そうだな、その愛が視えるから、ヤスの存在を認めるしかないんだよなぁ。


“真里亞お姉ちゃんは、誕生日にもらえることになっていたこのぬいぐるみに「さくたろう」という名前を与え、ずっとずっと心の中でその存在を温めて膨らませてきたのだ。”
“だから、出会う前からその存在は人格にまで昇華されていた。”

 事件の犯人はヤス。
 事件の日になる前から、ずっと心の中でその存在を温めて膨らませてきた。
 だから、人格まで備えている。

 人間として認められるために、人間が備える要素をふんだんに与えられているからなぁ。
 キャラに厚みを持たせる設定。
 それが厚ければ厚いほど、人並みに近付き、やがては人よりも存在が厚みを持つ。
 人よりも人らしい幻想。
 愛がなければ創れない。


“今日まで私にこびり付いてきた常識なる鎖が、虚空に声を掛ける行為など馬鹿馬鹿しいと嘲笑するのだ…。”
“まるでそれは、眼下に光の海を見下ろす高層ビルの屋上から一歩を踏み出せと言われているようなもの。”

 私ができる魔法は、対戦者に声を掛けることくらい。
 これで“私の対戦者”がいませんでした、だったら恥ずかしいな。
 そんなリスクを背負って一歩を踏み出さなかったら、今の私はないわけだ。


“黄色い哄笑が後から聞こえてくる。”
“私は、真里亞お姉ちゃんを馬鹿にされたような気持にイラつきながら、早足で、そして角を曲がってからは小走りでその場を立ち去る。
“……もう少しで、お姉ちゃんの世界へ辿り着けたかもしれないのに……。”
“悔しい、腹立たしい…、何でみんな私を邪魔するの…。私はみんなを邪魔したことなんて一度もないのに……!”

 金蔵も邪魔されたらこんな感じだったな。
 19人目も同様なのだろうな。





 小此木との話。

「…碑文の謎を解いた者に家督を引き継ぐなどという新ルールは、蔵臼さんから次期当主の肩書を奪うためだけの茶番だったんだろうな。」
「あの碑文は誰にも解ける必要はなかったのさ。適当に掲示期間を経た後、本当に金蔵さんが跡を継がせたかった絵羽さんを呼び出し、その答えを与えるだけでいい。つまり、それこそが当主継承の証ってわけさ。」

 “碑文の事件の謎”はこの通りだった。
 適当な掲示機関を経た後、黄金の真実を与えるだけでいい。


「つまるところ、唯一の生存者である、絵羽さんの話を、信じられるか否か、ってことになるわけさ。」
「……俺は信じたよ。指輪の話や、彼女の尊敬できる家族愛、そして葬儀で見せた涙。それらを加味して考えて、彼女の話を信じようと思ったんだ。」

 同感。
 我が対戦者の話を、信じられるか否か。





 縁寿とベルンの会話。

“結局のところ、……真実などというものは存在しないのかもしれない。”
“それを語る人間の数だけ、各々の解釈の真実が生み出される。ただそれだけなのだ。”
“そんな不定形なものを真実だと認められないのなら、……私が本当に見つけたいと思う真実は、どこに存在するというのか。……そしてそれは、目で見えるものなのか。”
“案外、…目の前にこれが真実だと突きつけられても、……私には視えないモノなのかも知れない…。”

 真実を探し回っても見つかるのは他人の真実だけ。
 自分の真実は自分で作り出すしかない。
 自分が何を望んでいるのかを把握するところから始めるべきなのだろうな。


「……真実って何? 人の数だけ真実がある。人の数だけ解釈がある。そしてそれは主観によって歪められ、いくらでも姿を変える。……真実ってものは、そんなにも不定形であやふやなものなの?」
「そうよ。……真実は不定形。粒子のようであり、波のようでもあり、相反する形状を同時に持つ。」

 人の数だけ真実がある。
 その中でより本当の真実に近い真実は誰の真実か?
 それは当事者たちの真実。
 それも犯人の真実が最も近いだろう。

 そして犯人はメッセージボトルに自身が犯す事件を記した。
 それも相反する事件を複数。
 要するに、相反する真実を同時に複数生み出したかったのだろう。


「箱の中の猫が、生きていると思おうが死んでいると思おうが自由。……でも、真実はとても繊細。それは観測されただけで姿を変えてしまうわ。」
「シュレディンガーの猫箱とかいう話? ………寝言よ。箱を開ければ真実はわかる。開ける前の議論なんて、机上の空論もいいところ。」
「そうね。にもかかわらず、その空論を否定するには箱を開ける必要がある。……開けられない箱の中身についてのあらゆる想像は否定不能。つまりは真実ということ。」
「………真実は、否定されない限り、その形状を維持する。」
「そう。真実は、観測されない限り、その形状を維持する。」
「つまり、暴けなきゃどんな妄言も真実たりえるわけね。」
「えぇ。……無限の想像は、それらが互いに矛盾していたとしても否定されず同時に真実として存在できる。」
「………家族みんなが、六軒島の魔女に捕らわれて、永遠に12年前に閉じ込められているという、滅茶苦茶な話すら、12年前に何があったかわからない限り、真実として存在できる…。」
「ベアトリーチェという魔女は、12年前の六軒島に“無限”の想像の余地を抉じ開け、そこを猫箱として全てを飲み込んだ。……開かれぬ箱の中の全ては真実。」
“そう。あの島で何があったかわからないから、無限になる。”

 問題は、猫箱を作ったベアトが、その中にどんな真実を入れたのか。
 どんな真実を否定されたくなかったのか。
 どんな真実を観測させたかったのか。


「ベアトリーチェのゲーム盤は1986年10月4日から5日の2日間。つまりそれは、あなたが彼女のゲーム盤の外へ自在に動ける駒だということ。……そして、ベアトリーチェですらこのゲーム盤を越えた未来へは干渉できない。」
「……そうやって言われると、私って、かなり優秀でズルイ駒だわ。」

 これは、ベアトのゲーム盤の外に、さらなるゲーム盤を広げ、そしてそこに縁寿を駒として置いた者がいることを示唆している。


「あなたが身を置く12年後という未来は確かに遠いわ。しかし、駒は未来に位置すれば位置するほど、強い力を持つの。……言ったでしょう? 真実は、観測されると姿を変えると。」
“未来の真実は、過去の真実に、勝る。”

 最後に塗り替えた者が真実を決める。
 ゲームの勝者足らんとするならば、その決定権を手放してはならない。


「………そうよ。元々、六軒島の事故は、ただそれだけならば、絵羽伯母さんと右代宮家の財産を巡る陰謀疑惑でしかなかった。」
「……しかしそれが、後年。オカルトによって脚色され、陰謀は魔女伝説として塗り替えられる。」
「そう。恒星爆発の光が地球に届くまでの間の虚偽の真実が、陰謀説という人間説だったかのよう。」
「………数年後に漂着した手紙入りのワインボトル、『メッセージボトル』が、それをオカルト説という魔女説に遡って塗り替え始めた。」

 いうなれば、猫箱の外の世界に対する魔女の初手が、これ。
 まずは、魔女説で真実を塗り潰す。


「……そうよ。魔女なんて、1986年の時点では存在しなかった。その数年後に、メッセージボトルによって私たち未来の人間に“観測”されたから、魔女が六軒島を支配した…!」
「……少し修正が必要よ。1986年の時点でも魔女は存在出来たわ。無限に存在できる数多の可能性の中のひとつとしてね。」
「確かに。観測されたら消えてしまう、猫箱の中に縮こまってね。……だからメッセージボトルは悪質なのよ。」
「…魔女は、箱の外に出ようとした。自らを観測させて、魔女説以外の可能性を淘汰した。……つまり、自らを否定されないように、魔女説以外の全ての可能性を否定したということ。」
「………何てこと。つまりベアトリーチェは、悪魔の証明を正攻法で成し遂げたのよ。そして、それは初めから魔女の計画に組み込まれていた。」
「メッセージボトルは1986年より未来に観測される情報。………ベアトリーチェにも戦人にも観測できない。エンジェ・ベアトリーチェにしか観測できない。」

 六軒島の事件はさながら魔女の卵。
 卵の中で密に魔女の設定は膨らませられてきた。
 そして、メッセージボトルによって観測させることで、魔女は孵化した。
 同時に、それ以外の説を淘汰した。

 その状況でベアトと戦人のゲームは始まった。
 つまり、魔女説はゲームのスタート地点であり、ゴール地点ではないということ。
 魔女説を踏み台として、何かの真実を観測させ、その真実を孵化しようとしていたと考えられる。





 青き真実の権利を与えられる直前。

「……少なくとも、魔女が反論するまではね。真実は、より未来の新しい真実に負ける。……厄介なのは、その反論のタイミングすらも魔女に委ねられているという点よ。」
「…つまり、今のあなたの推理が正解しているのか、それとも間違っているにもかかわらず魔女がその反論を保留しているのか。」
「……さもなくば、そもそもその推理自体が魔女説を揺るがすことにならないため、魔女が無視しているかの何れかか、現時点では判断がつかないということよ。」

「……ふ、ふざけた真似を……。…じゃあ俺は、間違った推理を掲げたとしても、ベアトはわざと否定せずに俺を泳がせ、さらに壮大に推理を広げた最後の最後に、その根元をチョンと断ち切って、全てを引っ繰り返してくる可能性さえあるってわけなのか……!」

 つまり、どれだけ筋が通り、全てを説明できたとしても、未来において全てを引っ繰り返されるリスクがあるということ。
 だから別の、筋が通り全てを説明できる真実を用意しておくこと。
 それが面の推理。

 犯人はヤスと信じている方々の中でどれほどの方がこのリスクを承知しているのか、疑問だ。
 そのリスクを踏まえて信じている方には敬意を持ちたい。
 私的価値基準では、リスク=その真実の重さ。
 載せる真実の重さこそが、天秤を揺るがす。





 楼座の出張で一人留守番する真里亞。

『ボクには、世界中でただひとり、真里亞がいる。……ママには、世界中でただひとり、真里亞がいる。………真里亞には?』
「……ママもいるし、さくたろもいる…。」
『だから真里亞は寂しくなんか、ない! うりゅ!』
「………うー。」
『ママはお仕事が忙しいから、なかなか真里亞と一緒にいられないけど、真里亞はどうかそれを責めないで。……その代わり、ボクはいつも一緒に、そしていつまでも一緒に真里亞の側にいるから。……………だから泣かないで…?』

 19人目とヤスの関係を想像してしまう。
 ヤスには、世界中でただひとり、19人目がいる。
 19人目には、世界中でただひとり、ヤスがいる。
 だから寂しくない。
 だから泣かないで。


『うりゅー…! 真里亞、泣かないで…。ボクがずっと一緒にいるから…。真里亞が泣いても、ボクは泣かない。ボクはライオンの子だから寂しくても泣かないよ。……ボクだって泣きたいけど、ボクは泣かないんだもん…!』
「どうして、さくたろは泣かないの…? こんなに寂しくて涙が堪えられなくも泣かないの…?」
『うりゅ。だってボクが泣いたら、誰が真里亞を慰めるの…? だからボクは泣かないよ。だって、真里亞に元気を出してもらいたいから。』

 19人目は、どれほどヤスに、慰められ、元気付けられたのか。


『うりゅー! ママに内緒で実験してみよう♪ 今夜はいっぱい遊んでいっぱい笑って、涙を元気で吹き飛ばしちゃおう。大丈夫、ボクと一緒だから絶対に楽しいよ! ボクが絶対に真里亞を幸せにしてあげるから。』

 主を幸せにする。
 それがヤスという駒の目的。
 ヤスという存在の気持ち。
 ……それを最後まで果たしたよなぁ。


“真実は不定形なもので、観測される度に姿を変えるもの。一つの真実は、その捉え方によって、…つまり人によって異なる真実となる。”
“そして過去の真実は、未来の真実で塗りつぶされる……。”
「真里亞はこの日記で、この夜の出来事を、とてもとても楽しかったと記した。」
「……真里亞お姉ちゃんはこの夜の出来事を、とても幸せだったと記述した。」
「なのに、日記を読んだ縁寿は、この夜の出来事を、とてもとても悲しかったと読んだ。」
「……真里亞お姉ちゃんは幸せだと記述したのに、私はそうではないと読み解いた。」
「やめて。」
「…………………………。」
「これは、幸せな夜を記したものなの。………これが、この夜の“真実”。お願いだから、その幸せな真実を、…………新しい、そして異なった真実で塗り潰さないで。」

 八城もまた同様だろう。
 自身が生み出した幸せな真実で塗り潰し、その真実を新たな真実で塗り潰さないでと懇願している。
 ……同時に、その先の真実に至って欲しいと願いながら。


“……友達もなく、孤独な境遇は、今の私も当時の彼女も同じ。”
“そして縁寿は、……孤独な真実を、孤独な真実のままに受け入れる。しかし彼女は、……孤独な真実を、幸せな真実に塗り替えた。”
“右代宮真里亞は、悲しい真実を、……幸せに変えたのだ。”
“そここそが、……私と真里亞お姉ちゃんの、唯一にしてあまりに大きな、…違い。”
“そして、それを受け容れられないと思いつつ、……その力を羨む自分もいる。”
「うん。……そうなの。それは“力”なの。……その力がある真里亞は幸せになれて。その力がない縁寿は、幸せになれない。」

 それが魔法の力。
 真実に囚われた心を開放し、新しい一歩を踏み出すための力。
 克己の力。





 真里亞とベアトの交流と、それを読む縁寿。

「………何と言うことか。…さくたろうとやらは、その布地と綿の依り代を核に、完全に人間界に顕現している。自らの人格を持ち、召喚者と自在に対話をし、しかも自らの意思で動いている。」
「……しかもさらに驚くべきは、それが異界の人物を名指しして呼び寄せたものではなく、真里亞がゼロの海から生み出したものという点だ。」

 さくたろうは“黄金の魔女”を紐解く上での大きなヒント。
 19人目がヤスの詳細な設定を作るうえで、真里亞の方法論を参考にしたことだろう。
 ヤスは基本的に、現実をモデルとして、それを意図的に別解釈によって歪めて生み出されている鏡の向こうの存在だから。


「……真に驚嘆すべきは、ぬいぐるみに魂を宿したことだけではないのだ。それにより、自己の世界観まで変化させた。……そなたは無より有を生じる力が群を抜いている。」

 意図的に異なる解釈をして、無限のカケラを生み出す。
 ヤスによって、自己の世界観を広げたのも凄いと思うけど。


「黄金の魔女、ベアトリーチェの名において、マリアの子、さくたろうをここに認める。………お師匠様、立会人のサインを頼むぜ!」
「はいはい。……我が名において、この宣誓に立ち合い認めるものなり。………出来ましたよ。」
“それは、さくたろうが人間界に確かに顕現することを、上位世界の存在に宣言する力ある書面。”
“真里亞より生まれたさくたろうは、ベアトリーチェとワルギリアの2人の魔女に推薦され、たった今、上位世界にその存在を認められたのだ。”
“……それこそが、大いなる顕現の魔法。”
“ベアトの話によると、ワルギリアがこの場にいてくれたのはとても僥倖なことらしい。”
“上位世界への宣言書は、サインしてくれた魔女の人数や格によって、宿る力がまったく変わるからだ。”
“特にワルギリアは、上位世界に友人がとても多いので、彼女のサインは宣言書において、ベアトのそれとは比べ物にならないほどの力を持つ。”
「この宣言書により、汝、さくたろうを自我ある一個人と認める。そしてその存在をマリアージュ・ソルシエールの条約に従い、友人として迎える。今よりさくたろうは、我ら共通の友人だ。」

 人に認められることで、その人の世界に存在することを許される。
 それを魔法的に解釈したもの。
 魔女たちの願いはこれ。


「原初の魔女って…?」
「うむ。造物主の道を求める魔女の称号よ。今は身の回りの小物に魔力を吹き込む力しか持たぬ、付与魔術師でしかない。」
「……しかし千年の修行を経たならば、その胸の内より魔法大系はおろか、銀河を生み出すことも夢ではあるまい。」
「……原初の魔女の才能はとても希少。幼き日には誰もが持つのに、誰も持ち続けることが出来ない。……この称号は、あなたが穢れなき心を失わなかったことの証でもありますね。」

 鏡写しの世界だとは言え新しい世界を生み出した19人目も、やがて造物主に至る魔女である。
 

「幸せになることを、どうか恐れないで。幸せになるというのは、今の不幸を受け容れるという意味じゃないの。今の不幸の中に、幸せを新しく生み出すということなの。それが、原初の魔法。」

 幸せを新しく生み出すというのは、幸せのカケラを見つけるということ。





 大月教授とメッセージボトルの話。

“もしもメッセージボトルが1つだったなら、それこそが真実と言い切ることも、乱暴であるが不可能ではないだろう。”
“しかし、2つあるせいで、そのどちらもが疑わしくなってしまっている。”
“謎の二日間を、魔女の仕業にしたい何者かの仕組んだこととするならば、まさに蛇足なのだ。”、
“そして、2つ存在するということは、未発見の3つ目、あるいはそれ以上がある可能性すら示唆する。”

 この時点で、ひとつの真実だけを主張したいわけではないことは解る。
 複数の真実を主張し、そこから真実を解き明かして欲しいと要求し、さらにその後に新しい物語を追加できる余地を作り出している。
 要するに、願いが叶うまでメッセージボトルを流し続けようとする意図を感じざるを得ない。





 マモンを再召喚した縁寿。

「私は嫌! 縁寿さまは約束したもん! また私たちみんなと遊んでくれるって!」
“…言ってな、…。”
「ね! 縁寿さま! みんなとまた会えるって! すぐに会えるって約束した!」
「………そうね、………約束したわ。……すぐにが、いつのこととは約束しなかったけど、……確かに私は、約束したわ。」
「だから守って! じゃないと、私は今日までそれを忘れていた縁寿さまを許さない…!」

 この約束は、19人目とヤスのものと重なる。


“忘れてしまった日々だけど。”
“悲しさと寂しさしかないと思ってた日々だけど。”
“……確かに、彼女らと過ごしたわずかな時間は、……紛れもなく、楽しい時間だったのだから。”

 過去と約束を忘れそうな八城と重なる。


“そんな私を夢の世界の入り口で、真里亞お姉ちゃんと、……さくたろうが受け止めてくれた気がした。”
「……………。お疲れ様。……そして、がんばったね。」
『うりゅ。…お帰り、縁寿…。』
“……お帰り、か。じゃあ返事はこうだわ。”
“…………ただいま………。”

 旅は終わり、願いを達成して黄金郷に迎え入れられた時、こうだろうという想像。
 いや、そう信じている、ということ。





 縁寿の魔法修行。

「うー、駄目だよ。心象世界は広大で、そして孤独じゃないといけないの。自分以外に一切遮るものがない世界。」
「……だから、その世界を人に教えたら、その世界は孤独ではなくなってしまう。だから心象世界は誰にも明かしちゃ駄目なの。だから縁寿も、上手に心象世界を描けたら、それは自分だけの秘密の世界にするんだよ。」

 孤独こそ、妄想の糧。
 自己の世界に他者を迎え入れるということは、その他者の承認が必要になるということ。
 その分、脆くなる。
 逆を言えば、脆くなった世界を補強してもらうことができるのだが。

 心象世界と言えば、カケラの海のイメージは広大だな。
 人が生み出した世界をカケラとし、それを無数に内包しているというイメージの世界だからなぁ。
 ベアトはそこに、無数の惨劇のカケラを生み出して広大な領地を築いた。





 縁寿の家族を蘇らせるという願い。

“でも、安物かどうかが問題なんじゃなくて、……幸せを、自らの手で掴み取るという、そのプロセスが、私にはとても大切で、神聖なものに感じられたのだ。”

 幼い縁寿が髪飾りを欲した理由がこれ。
 この、幸せを自らの手で掴み取る、というのを八城も重視している。
 自身とヤスの魔法によって願いを叶える、というプロセスが大切で、神聖な約束なのだ。


「…………嬉しいわ。私以外の人に、それを認めてもらえるのは。」
“自らの努力というものは、自らには観測できない。”
“その意味において、……この、七つの大罪のうちの一つを司るという物騒な悪魔少女であっても、……私に掛けてくれたその言葉はとても嬉しいものだ。”

 努力は、絶対の魔法に通じる。
 それを認められることは、その魔法の力となることだろう。

 後、直接的な自己承認ができない時、心の中に架空の友人に認められることは間接的な自己承認となるだろう。


“……約束する。いつか必ず、七姉妹を呼び出せる魔力を養おう。そして姉妹を賑やかに楽しく過ごさせてやろう。”
“彼女らは7人で1組。……欠けさせてはいけない。”
“家族は、一緒でなきゃ。”
“必ず、……揃えてあげなくちゃ………。”

 八城もまたそれを求めている。
 黄金郷では皆が揃わなくては。





 ラムダデルタと縁寿の会話。

「当り前でしょ? ルールは他人を縛るためにあるのよ。自分をそれで縛る馬鹿はいないわ。」

 法律なら、作る側の方が得。
 しかし、ゲームはルールがあるから面白いのだ。
 例えば、学校からの一人での帰り道、常に白線を踏んでいなければならない、踏み外したら負けというルールを作る。
 それだけで何もない帰り道が楽しくなるだろう。

 19人目は、全ての出来事を、ヤスの世界の出来事として解釈して遊んだ。
 つまり、「ヤス」という名のルールを作り、それを踏み外さないで生活するというゲーム。
 何もない日々も、それだけで楽しく過ごせる魔法。
 それを幼い頃より19才まで、常に欠かすことなく続けた。
 それは、ゲーム盤という名の舞台の上だけの人生。
 役者が役を降りずに続け、仮面が剥がれなくなるように。
 ヤスという仮面は独立した人格を持つようになる。
 即ち、ルールの擬人化。


「………いいえ、違うわ。右代宮縁寿じゃない。……そういう名前の、魔女の駒なのよ。厳密には、エンジェ・ベアトリーチェという名の、まったくの別人。……意味、わかるゥ?」

 誰かの世界、その世界に置かれた駒。
 現実の世界と、誰かの心の中にある世界は、異なる別物。
 故に、同じ縁寿だろうと、世界が異なるなら別人なのだ。
 魔女のゲーム盤に置かれたニンゲンの駒は全て、同様にして取り込まれている。
 つまり、あの世界にその人本人は存在しない。
 その人を模した駒でしかない。
 メタ戦人も同様。
 故に、肉のある戦人は蘇ることができず、駒で家具である戦人は蘇ることができる。
 だから、縁寿の願いを叶えることができるのは魔法だけ。


「うっふふふふふ、くすくすくすくす…!! そろそろ気付いてきた…? あんた、この戦いにご褒美が用意されてないのよ。」
「いえ、それどころか、ベアトを打ち破ればゲーム盤は消え去る。そしてその駒であるあんたも消え去る。」
「………あんたに享受できるゴールは、完ッ全に、………いいえ。私の名において宣言するわ。この絶対の魔女、ラムダデルタの名において! “絶対”にないと宣言する…!」

 ひとつの世界の終わり。
 そこの住人の幸せとは?


「確かに、自らの名を名乗ることは出来ないけれど、それでも少なくとも、魔女と戦うゲームの味方同士という位置にいて、……いつまでも永遠に一緒にいることが出来る。……意味、わかるゥ……??」
“つまり、………このゲームは、お兄ちゃんが引き分け続ける限り、永久に繰り返される。”
“引き分け続けるということは、永久にゲームが続き、私という駒は、お兄ちゃんと一緒にいられるということ。”
“でももし、お兄ちゃんが勝ったり、あるいは負けたりして、ゲームが幕を下ろしたなら。”
「駒である、あんたは消える。」
「………………………。」
「ゲームの駒の幸せは何? ……ゲームで遊んでもらうことだけよ。押入れに仕舞われて埃を被ることじゃないわ、そうでしょう?」
“……かつて、煉獄の七姉妹が言っていた。家具の幸せは使役されることで、仕舞われることじゃないと。」

 駒の幸せは使役されること。
 永遠にお遊戯を続け、そこで永遠に一緒なのが幸せ?
 それがヤスが望む幸せなのか。
 それとも主の願いを叶えることなのか。


「話を少し変えるわね? ……実は私、このゲーム、永遠に引き分けて続けてほしいと思ってるの。終わらないゲームは永遠の檻。……ベルンを今度こそ屈服させる未来永劫に開かれることのない絶対密室よ。」

「………ただね。どうもベアトのやつ、それに薄々気付き出してる気がする。……このゲームに、自分の勝ちは永遠にないんじゃないかって、気付き始めてる気がする。」
「でもそこはさすが、無限の魔女。ベアトは馬鹿だから、それでもいつかきっと勝てる、それまで延々と無限にゲームを繰り返せばいいと楽観してるわ。」

 ベアトの勝ちを望むのがベアト。
 引き分けを望むのがラムダ。
 ベアトの負けを望むのがベルン。

 ゲームに存在する3つの決着。
 それらを全て同時に望むのが、ゲーム盤の世界を生み出した主。
 その主の望みを分割し、それぞれの目的として与えて生み出されたのが3魔女。

 ベアトの勝ちは、魔法説が勝つこと。
 魔法説は、2人の再会を邪魔させないためにあるセブンスランクルークの境界線。
 条件付きの永遠。
 故に、いつかは負けることが定められている。
 だがその時までは、延々と維持し続けなければならない。
 負けてはならない。

 引き分けは、真実を並び立たせる。
 猫箱が開けば消え去ってしまう真実を閉じ込めるための鳥籠。
 共にゲーム盤で踊る、永遠のお遊戯。

 ベアトの負けは、全ての幻想が消え去る。
 自身の本当の真実を認めて欲しい、それが本当の願い。
 しかし幻想を消し去りたくはない。

 それが葛藤となり、負けと引き分けの争いとなる。
 それがゲームの本番。
 対魔法説戦は前座。
 魔法説の負けが確定する、それは終わりの始まり。
 故に、EP4はあんな感じに。


「そう。……永遠に引き分け続ける限り、この世界は崩壊しない。」
「……この世界は何? ………魔女とのゲームの世界。ベアトと戦人が永遠に戦い続ける世界。」
「……そして同時に。あなたが永遠に戦人と一緒にいられる世界なのよ……!!」
「ねぇ……? エンジェ・ベアトリーチェぇえぇ…?? ゲームを終わらせ、あなたと戦人の交流できる世界を終わらせよとするのが目的のベルンカステルに、味方する理由はどこにあんのォ…?」

 ゲーム盤の世界、それがヤスのいる世界。
 ヤスと交流するための世界。
 永遠に一緒にいるために、引き分けを選べという、魔女の囁き。





 縁寿の回想。さくたろうと七姉妹との交流。

「私は、誰も知らないことを、私だけが知っているのが好き。誰も出来ないことを、私だけが出来るのが好き。だから勉強は好き、練習は好き。私だけが、誰も知らない英知を、独り占めしたいから。」

 強欲の嗜好。
 魔法の深淵。
 誰にも知られないからこそ、魔法は魔法足り得る。


「駄目だよ、縁寿。そういう感情は反魔法の毒素になるよ。夢は必ず叶うって気持ちが、一番よく芽吹く魔力の種なんだよ。」
「縁寿さまは少し強欲さが足りないのよ。欲しい物のためにはどこまでも! 手に入れるまで絶対に諦めないという、根性が足りない!」

 夢を絶対に叶えるという意志こそが魔法の源。
 故に、プレイヤーはその意志を探ればいい。


“……私も、真里亞お姉ちゃんのような、魔女になろう。”
“そしていつの日にか、この楽しい輪に、家族も加えよう。”
“お父さん、お母さん。そしてお兄ちゃん。”
“……もし許されるなら、譲治お兄ちゃんや朱志香お姉ちゃんも。他の親戚たちも。”
“みんなみんなここに呼んで、誰一人欠けることなく、…みんなで集まろう。”
「……それが私の、夢。……そうよ。私はそれを叶えるまで、絶対に挫けない。」

 八城の夢。
 黄金郷にて欠けることなく全員を集める。


「縁寿さまはきっと大魔女になられます。あなたがそうだと信じるだけで。我ら煉獄の七姉妹は、その日まで常にお側にお仕えするでしょう。」
「いてくれる…? いつまでも。……私の力になってくれる?」
「当然。だって私、縁寿さまの友達じゃないですか?」
「……………………。……えぇ、そうね。常に全員揃って、みんなで遊びましょう。今も、これからも、ずっと、ずっと。」
「縁寿さまが夢を叶えられる日まで。」

 八城の夢を叶える日までの約束。





 縁寿が七姉妹を殺したシーン。

“自らの口で、自らを辱める文章を読まされることが、こんなにも辛いことだなんて、知らなかった。”
“指が震える。指先も震える。……自らの筆跡で書かれた屈辱的な文章が、瞳の奥を熱い液体が焼く。”
“だから世界が潤んで歪んだ。”
“私を取り囲む彼女らがみんな歪んで見えた。”
“私が彼女たちに持っていた印象そのままの姿に歪んで見えた。”

 他人を自分の世界に招き、その者の真実を語らせる。
 ……それは自身の存在を否定する言葉。
 それを紙の上に文章として記す。
 どんな気持ちで書いたのか。
 その答えがこれ。
 それを無限に繰り返した。


「つーかさぁ、何でまだ生きてんの? 生きてられる普通? 私なら死んじゃうね!」
「生きてられないよねー?! だってさ、生きてるだけで迷惑掛けてるだけでしょ? 私だったら絶対に生きてられない!」
「うんうん、私だったら死ぬね。その方が世の中のためになるなら、すぐにでも死んじゃうよー! ねええー!!」

 これを無限に繰り返す拷問。
 こう思わせることはやはり罪だよ。


“役立たずが役立たずが……!! あんたなんて大嫌いッ!! 消えてしまえ…!! あんたなんて所詮、私の中の妄想じゃない…!!!”
“絶望と失望。諦めと夢の終わり。厳冬の湖で、氷結した湖面が立てるような亀裂音が一度だけ響く。”

“……虚しい。悲しい。そして情けない……。”
“そうさ、わかっていたさ。彼女らには、現実に指一本だって触れることなんか出来やしない……。”

「死になさいよ、使えない家具ッ! どうして生きてるの、あんたたち? 生きてる価値がないのに、何で生きてるわけ? 死ねがいいじゃん。死になさいよ。というかむしろ死ねッ!! 使い道のない家具を置いとく馬鹿がいると思うッ?!」

 家具は主の思いを受け止めるためにある。
 愛も喜びも、そして、怒りも悲しみも。

 押し付けずにはいられないのが、人の世の罪。
 18人の罪を、ひとりぼっちの19人目に。
 そして19人目の罪を、その家具に。
 全ての罪を押し付けられた家具は、その役割を果たし続ける限り、島には平和が保たれる。
 しかし、天使との約束が破られた時、魔女は目覚める。

 解離性同一性障害、所謂二重人格は、嫌な記憶を自分のことではないと切り離し、その切り離された記憶を押し付けられた人格が成長したもの。
 これは無意識でやるで、元の人格に自覚がないのが普通。

 うみねこにおける二重人格は、意図的に作って演じているもの。
 だが、それが習い性になれば、やがては独立した人格に成長するだろう。
 だって、自分と違うと区別し続けているのだから。
 そして自分がやられたことを、作った人格にぶつける。
 自分より下の存在を作り、自分より上の存在にやられたことをそのままぶつける。
 これは自分の境遇を自覚した上での行動。
 記憶は乖離していないが、負の感情を擦り付けている。

 だがその相手はもう一人の自分。
 負の感情を捨て去るゴミ箱は、自分の頭の中にあり、ただただ溜まっていくだけ。
 それを糧に人格は成長し、暴走し出すだろう。

 ただし、意図的に作られたものであることに違いはないので、意図的に殺すことも可能。
 正確には、殺したと決めることはできるが、綺麗さっぱり消えることは不可能だろう。
 ゴミ箱がなくなっても、ゴミは残るのだ。

 さらに言えば、殺す人格を逆に元の人格とすることも可能。
 どちらも自分だから。
 そうなれば制御していた人格が消え、負の感情に満たされた人格が解き放たれる。
 それは傍から見れば、悪霊に乗っ取られたかのようだろう。


「ふっ、………くっくっくっく、あっはっはっはっはっは…。あっはっはっはっはっはっはっは、語るな家具が。妄想がッ!!」

 EP2でベアトが紗音や嘉音に対して同じフレーズで罵っていた。
 要するに、あれらのシーンのベアトも紗音も嘉音も皆、ひとりの人間の脳内妄想ということ。
 それぞれの駒が、各々の立場から、主の心を代弁していただけ。
 異なる視点から、異なる解釈をさせ、主の意見の参考にするためのもの。
 だから時には、家具が勝手に語り出す。
 だがそれは、間違いなく主の心から生じたもの。
 自覚していなかった自身の心。
 想いを、願いを、罪を、顕かにする。


「もうわかってるわよ、皆まで言わせないでよ。…あんたたちには何も出来ない。あんたたちは所詮、私の妄想、幻想、白昼夢…!」
「私には初めから友達なんて一人もいないわ。孤独な私が心の中に生み出した、お友達ごっこの幻影でしょう? 知ってたのよ、最初ッから!!!」
「あっはははははははははははッ!! えぇ、そうですよゥ! 縁寿さまの頭の中の幻想ですけど何かァ? ハイ、そうですゥ!」
「私たちは友達のただ一人もいやしない、寂しい寂しい縁寿さまの心を慰めるためだけに生み出されたお友達ごっとの脳内妄想ですが何かァ?」
「見たければ現実を見るといい、私たちなんか見ないで、あそこで囲まれて罵声を浴びせられてるあなたに戻るといい!!」
「ほらほら戻りなさいよ、お帰りなさいな現実にッ!! 都合のいい時だけ私たちを呼び出してお友達ごっこで、自分の手を汚す覚悟もないくせにそれをけしかけ、駄目とわかったら否定して消し去る!」
「えぇ、どうぞお楽しみ下さいよ、縁寿さまが期待されるような苦悶の声と悲鳴をあげて退場しますとも!!」
「縁寿さまがたった今、浴びせられている罵声を、私たちにも同じように浴びせ掛けて胸の内をスゥっとさせるがいいです。」
「それもまた家具の役目!! ムカついて床に叩き付けられることもまた、椅子の大事なお役目ですからァ!!」
「その程度のことで主の不機嫌を一時でも受け止められたなら、家具としてこれほどの栄誉はありません。殺しなさいよッ、否定しなさいよ、あなたの最初で最後の友達をぉおおおッ…!!!」

 そして、ベアトを殺した。


「……だから大丈夫。とても傷ついただろうけど、無事だよ。みんな生きてるよ。きっといつか、また会えるよ。」

 残された微かな希望の光。


「さくたろは私の家具。縁寿には消せないよ。……なのに否定しようとするのは魔女にとって最大級の侮蔑も同じだよ。」

 それは愛を否定するも同じ。


「うーーッ!! やめてェ!! 反魔法の毒でさくたろを焼かないでッ!! 虐めないで!! 侮辱しないでッ! 否定しないでぇええ!!」

 19人目の叫び。


“………それで。”
“…私の穏やかだった日々は、白昼夢ということになって、終わった。”
“今となっては検証不能だ。”
“あれが本当に魔法で、そして私の友人たちだったのか、それとも白昼夢に過ぎなかったのかは、誰にも検証できない。”
“……唯一の観測者である私が彼女らを、白昼夢だと断じたから。”
“……それが真実となった。”
“私は後の未来に再びこれを観測し、その時はこれを夢ではなく、……七姉妹たちは本当に友人で、真里亞お姉ちゃんもさくたろも、孤独な私のために尽力してくれていたと、認めるのだろうか。”
“………………そんなあやふやなの。真実でも幻でも、何でもない。”
“今ここにある現実だけが、本当の私の世界なんじゃないか。”
“本当の私はどこにいるの?”
“私がいるのは、……あそこ。”
“人垣に囲まれ、罵声を浴びせられ続け、…目を真っ赤にしながら俯く、私………。”
“……あそこにいる私こそが、………本当の私じゃないか……。”
“もう、夢なんか、見ない。”
“逃げる場所なんか、どこにもないのだから。”
“私は、帰る。……肉で出来た檻に、自ら戻る……。”

 八城の現実。


「…………生きてても仕方ありません。」
“……私の、即興。そして、胸の内。”
「……そうです。私は生きてても仕方なかった。……1986年のあの日に、私も連れて行ってもらうはずだったんです。……なのに、私だけが連れて行ってもらいなかった。」
「……どうして、私はここにいるのでしょう。…ここは、私のいる世界じゃない。…………誰も助けてくれません。」
「…一時、……私の中に生まれた架空の友人たちだけが、私を助けてくれるような気がしていました。でも、友人たちは所詮は妄想で、……助けてなどくれなかった。だってここは妄想の世界じゃなくて、現実の世界だから。」
「………だからつまり、……私は今日までずっと、……白昼夢を見続けてきたわけです。…現実のクラスメートを嫌い、妄想の友人たちとの交流の中だけに生きた。………その友人たちとは、さっき決別しました。だから私がここにいます。」
「…………家族もいません。友人も捨てました。……もう私には、何も残っていません。」
「……どうして死なないの? さっきそう聞いた人がいます。…その通りだと思います。どうして私は、………生きているんでしょう。………………1986年に私は、…………死んでいるはずだったんです。…いえ、きっと死んだんです。」
「なのに、…………私の殺された魂は、未だにこの肉の檻に閉じ込められている。だから、誰かに求めよう。それに応えてくれないなら、……自分でしよう。」
「誰か私を、………………死なせて下さい。」

 心中して、ベアトに猫箱の中の世界に連れて行ってもらうはずだった。
 だが、ルーレットが選んだのは別の未来だった。
 これは、取り残された八城の、胸の内。


“…………殺せと命じて、白昼夢の友人たちには出来なかった。”
“ならばと。現実のニンゲンたちに殺せと頼んだが、……やはり彼女たちにも出来ない。”
“……ということはつまり、白昼夢も現実も、どちらも同じ。”
“この世界も含めて、全てが全てが。…………白昼夢だということじゃないのか。”
“なら、……それでいいじゃないか。”
“だって私は、……家族を全て失ったあの日に、もう死んでいるのだから。”
“その後に続く全ての日々が、……死に損なった私の、走馬灯のような妄想だったのだ。”
“それを理解したら、……………周りの全ての景色が、わずかに歪み始めた気がした。”
“……あぁ。やっと私は、………覚めるんだな。この白昼夢の世界から、解放されるんだな。”
“ふぅっと、気が遠のいていく気がする。”
“……それでいい。どこまでもどこまでも遠のいて、…………私を家族のところまで連れて行って……。”
“だから、歪んで色褪せた世界で何が起こっても、まったく気にならなかった。”

 これが、全てから解き放たれた造物主の境地、か。
 自分、というものを全て失ったがゆえの、完全なる俯瞰。
 これは、悲しいなぁ。


“教師は盛んに何かを怒鳴りながら、私を庇うような仕草をしていた。”
“……それを見て、私はたった1人とはいえ、味方が現れてくれたことを知り、少しだけ意識が戻るのを感じる。”
“………………。”
“……現実の世界で私を助けてくれるのは、…現実のニンゲンだけなんだ。”
“もう二度と。……白昼夢などに救いを、求めるものか。”
“……ここはニンゲンの世界。”
“ニンゲンを助けてくれるのは、ニンゲンだけなんだ……。”

 私は助けられるニンゲンになれただろうか。
 ……信じよう。


「……………………。……そうだね。縁寿がそう思ったのなら、それが縁寿の世界。」
『……縁寿は、……これで幸せになれる………?』
「………縁寿が、それでしか幸せになれないと信じたなら、もうそれしかない。…篭の中にいる青い鳥を、そうだと認められないなら、…どこまでも探しに行かざるを得ない。」
『うりゅ……。…真里亞と縁寿はもう、……絶交なの………?』
「……………………。……絶交なんかじゃないよ。縁寿がそれを求めたから、そうしただけ。……私たち魔女は、時に迫害を受けるけれども。でも、常にみんなの身近にある。……そしてきっとその助けを求められる。」
『……縁寿も、………またボクたちと遊んでくれる日が来る……?』
「来ないで、そのまま忘れてしまうこともあるかもしれない。…人の世ではそれを、成長や決別と呼ぶから。…………でも。」
“縁寿さえ思い出してくれれば、私たちはいつでも、側にいられるよ。”
“……それまで私たちは、……待ってるから。”

 ヤスたちの思い。





 真里亞の日記。

『ママと先生にさえ見つからなければ、ボクたちはいつまでだって一緒にいられるんだよ。そしていつまでも一緒にいよう、遊んでいよう。ボクたちは真里亞を、絶対にひとりぼっちになんか、させないから、うりゅ!』

 19人目とヤスの誓い。


“……そう。元々考えてみれば、真里亞の世界に縁寿はいなかったのだ。”
“縁寿がいなくても、みんなが一緒で楽しかった。”
“なのに、最後に入ってきた縁寿が抜けただけで、急に悲しくなるのはおかしい。”
“縁寿が入る直前の世界に戻っただけじゃないか。……なら、悲しいわけなんかないんだ。”

 んー、これも19人目とヤスに繋げてみるか?

 ヤスの世界は、虚偽の世界、鏡の向こうの世界。
 だからその世界には、19人目はいない。
 19人目が作り出した世界だろうとね。
 その“世界”からすると、19人目は最後に入ってきたと言えるのかもしれない?
 設定ではそうなる。
 だから19人目が入る直前の世界に戻っただけ。

 これは猫箱の中の世界に、19人目は存在しない状態だと言っているのかな。
 まあ、19人目は猫箱の外で八城やってるからな。

 正確には、猫箱の中では、真実は割れて分かれている状態。
 ヤスの世界と19人目の世界が別々に存在する。
 それが19人目を迎え入れて、1つの立体的な真実に合わさるということか。


「………ポケットに鍵がない。」
“自宅の扉の前で、真里亞はぱたぱたと全身を探る。……家の鍵がないのだ。”

 真里亞の鍵は、第2のゲーム、第一の晩のトリックの手掛かり。
 何でみんな、未だにこれに注目しないのか。


「さくたろ返してッ、さくたろ返してッ!! わあああああぁああああぁあぁぁあ!! さくたろは真里亞のお友達なの!! 親友なの!! さくたろさえいれば、他には何もいらないッ! だから返して!! 返してえええぇえぇぇ!!」

 ヤスが失われることを知った19人目の気持ちもこんな感じだったのだろう。


「さくたろうは、死んでしまいました。」

 生み出した母が存在を否定する。
 これが自身の罪である、と八城は考えているのだろうな。


「さくたろうは良き友人であった…。そなたがそれを忘れぬ限り、常にそなたと共にある…。だから泣くんでない…。」

 自身に言い聞かせている感じ。


「………んむ…。……実はな…。さくたろうの依り代は、楼座の手作りのぬいぐるみであったろう…? その楼座が、さくたろうを否定した。……母にその生を許されなかった命は、存在できぬのだ…。」

 自身が夏妃にされたことを、自身の娘のようなヤスにする。
 自身が崖から落とされたように、忘却の深淵に落とした。
 罪だと感じるのも無理はないな。
 生まれてきてくれてありがとう、か。


「そなたがさくたろうの存在を強く信じる限り、その魂が消え去ることはない……。だからマリア…、どうか悲しむな…。今もほら、…すぐそこでさくたろうが微笑んでいると信じるのだ……。」

 ホント自分に言い聞かせてるな。


「諦めよ…!! さくたろうを蘇らせる魔法はない…! そして、それでもなおさくたろうがそなたの親友であり続けることを強く信じよ…!! その力が魔法となる…!」

 その通り、これは魔法だよ。
 やり遂げたよなぁ。


「ママの手作りだから駄目なの? どうしてママはさくたろを作ったの? 真里亞にプレゼントするためじゃないの? 真里亞のお友達にするためじゃないの?」
「なのに何で、ママは自分で作って、自分で壊したの? どうしてママは、自分で生んで、自分で壊そうとするの? わかんないわかんない!!」

 自分でヤスを生んで、自分でヤスを壊す。
 ヤスが抱くだろう当然の疑問。


“真里亞の背後の暗闇より、巨大な漆黒の二本の腕がぬうっと現れ、怒りに泣きじゃくる真里亞に絡みつく。”
“そして巨大な爪を真里亞の胸と腹に突き立てる……。”
“それは真里亞には見えていない。……しかしベアトには見えていた。”
“ぶつけ方を知らぬ怒りと悲しみは、自らを引き裂く。”
“……ベアトはそれを知っていた。見えていた。”
“そう。……つまりはその巨大な腕は、真里亞自身のものなのだ。”
“その爪が、めりりと彼女の胸と腹に食い込んでいく……。”
“……その腕のあまりの大きさと強さは、真里亞を容易に引き千切り、ばらばらにしてしまうだろう……。”
“しかし、当の真里亞はそれに気付けない。”
“自らの涙の海に溺れ、……自らの腕が自らの胸を引き裂こうとしていることに、気付けない……。”

 自分と同様だから良く理解できるのだろう、その心の痛みが。
 それが見える程に。


「…………………。……良かろう。その力を、そなたに与えよう。……心美しきそなたが自らに引き裂かれるくらいならば。……そなたにその苦しみを与えた、心無き母こそがよほど引き裂かれるに値する。」
「……………教えようぞ、そなたに。……魔女の世界の、光差すことなき深淵の奥底を……。」

 こうして、無限の惨劇が綴られていく。





 新島に向かう船上。

「……………自己満足か。聞こえは悪いですが、そいつが実は、人生ってヤツではないかと思ってます。」

「俺が言いたいのは、自己も何も、自分を認められるのは世の中で自分だけしかいないってことです。」
「人は、誰かに認められたくて努力をするわ。……多くの場合、それは親ね。親に褒められたくて、子どもは努力を覚える。………だから私は、覚えなかったわけだけど。」
「……俺が言いたいのは、自己満足、大いに結構ってことなんです。誰に褒められたって、それを納得できなきゃ意味がない。……逆を返しゃ、誰に褒められなくったって、自分が納得できりゃそれでいいってことです。」
「誰かに認めて欲しくて、だけれど何を努力すればいいのかわからないのが、人の世の苦しみです。俺にもそういう頃があった。」
「誰かに認められたくて、でも何を認められればいいかわからなくて。そして、何をどこまで努力すれば、誰に認めてもらえるかわからなくて、ずいぶんと無茶苦茶をやってきたもんです。」
「それで天草が至った答えが、……自己満足だっていうの?」
「聞こえは悪いがそういうことです。吾唯足るを知る、っていうヤツですわ。」
「………俺がこれでいいと思った人生なら、それはとやかく言われてどうこうってもんじゃない。縁寿さんの人生も、この旅も同じです。縁寿さん以外の誰にも、とやかく言う権利なんてない。」
「旅の意味と成果は、縁寿さんだけが決める。縁寿さんにとって有意義な旅になったなら、それで充分なんですよ。」

 思考の旅。
 プレイヤーたちと縁寿と八城の最終目的こそ、自己満足。

 果て無き真実を求める旅のどこで満足するか。
 誰かに認められたら満足なのか?
 ならば、誰もが認める真実で満足すればいい。
 それで満足できないから他を探す?
 他人の真実で満足できるのか?
 できやしない。
 だったら、自分が満足できる真実を生み出せばいい。
 それで旅は終わり。

 でもそれが難しいんだよなぁ。


「……人は満たされるために生きてる。そして満たされたまま死にたいと願ってる。だから、その満たされ方がわからないのは、とても辛いことだわ。」
「どうやれば満たされるんです? ニンゲンの人生は。」
「………認めてもらうことよ。お前は幸せだ、ってね。」
「誰が認めてもいいものでしたら、私が認めてあげますよ。」
「そうよ、そこなのよ。………誰に認めてもらえばいいのか、わからないのよ、人は。」
「おかしな話ね。認めてもらおうと認めてもらわなかろうと、自分の境遇に変化はないはず。……にもかかわらず、認められれば満たされ、認められないから満たされない。」
「…まるで青い鳥だわ。……篭の中にもう青い鳥はいるのに、それに気付けないから、どこまでも探しに旅立たなければならない。」

 八城は、メッセージボトルを流して、その誰かを探した。
 でも探し出した誰かはただ指摘するだけ。
 青い鳥はあなたの傍にいる、と。
 結局、八城の青い鳥は、猫箱という篭の中にいた。
 カケラとして傍にあった。


「……つまるところ、誰かに認めてもらわなければ満ち足りないとは即ち、自らを認められないということ。……究極の自己実現は、まず、自分を自分で認めることだったのよ。」

 魂が一人分に満たないから、自分を認められない。
 だから、欠け落ちた魂の片割れであるヤスを取り戻す必要があった。


“もし、ニンゲンの人生のほとんどが、満ち足りた死を迎えるために、誰かに自分を認めて欲しいと願う旅ならば。”
“………それを認めるのは誰かではなく、自分自身なのだと気付く時点で、その無駄な旅を終えられる。”
“その旅を終えた人間は、残りの人生を胸を張って自由に生きていくだろう。”
“……それの何と気高く、誇り高いことか。”

 これがうみねこのハッピーエンド。
 うみねこは、一人の人間の旅を描いていたのである。


「………まったくよね。結局はそういうことなのよ。他人が観測した自分の評価なんかどうでもいいこと。」
「自分の存在を、自分自身がしっかり認められたなら、それで十分なのよ。……自分に自信を持って生きられるなら、どんな生活だって受け容れて納得できるに違いない。」

 こちらが魔法エンド。


「……自分で自分を認められない哀れなニンゲンは、生涯それを求めて彷徨い、何も受け容れられず、不平不満だけを口にし、満たされないまま死んでいく。」

 こっちが手品エンド。


「どうしてかわからないけど、そう思うの。……あの日、彼女を傷つけなければ。………12年前の事件は起こらなかったんじゃないか、って。……そう思うの。」
“根拠はない。お姉ちゃんが傷ついたら、それがどう、その数年後の怪事件に結びつくのか、見当もつかない。”
“でも、なぜか、私は無関係に思えなかった。”
“この事件は魔女が起こした。”
“そして犯人は、黄金の魔女、ベアトリーチェ。”
“そしてベアトリーチェは、マリアージュ・ソルシエール魔女同盟に所属していた。”
“その同盟の、もうひとりの魔女を、私はひどく傷つけた。”
“魔法なんて存在しないと傷つけた。”
“……だからその数年後、魔女による怪事件が起こり、魔法以外で説明の出来ない二日間が、メッセージボトルによって、私に突きつけられる。”

 あながち間違いではない。
 真里亞の心の傷は、19人目も共有している。
 己がことのように受け止めただろう。
 なにせ、他人事ではないのだから。

 魔法の否定は、存在の否定であり、世界の否定。
 マリアージュ・ソルシエールが育んだ世界は、真里亞の世界だけではなく、19人目の世界も育んでいたのだから。
 メッセージボトル内の物語ではベアトが戦人に挑戦したが、メッセージボトルは縁寿に挑戦する意味もあったのではないか。


「私が知らない世界の法則を、私に否定する資格なんてない。……だから私の世界に魔法が存在しないからといって、私の知らない世界に魔法が存在することまでを否定することは出来ない。」

 人はそれぞれ、自分だけの世界を持っている。
 私がうみねこの真実はこれだ! と言っても、それは私の世界の真実でしかない。
 そんな真実は、うみねこを推理した読者の数だけある。
 そんな真実や世界とは関係ないところで、ベアトの世界や真実は存在する。
 つまり、自分はこう考える、ではなく、対戦相手はどう考えているのか、が問題なのだ。

 これ、かなり疎かにされている気がするんだよな。
 逆に、対戦相手の真実と関係なく、自分の真実があるのだからと、好き勝手に真実を構築するのに使わっているような気がする。
 対戦相手の真実を知るには、その相手に寄り添う必要があるのに。
 私の気のせいだと良いのだが。


『それは、…真里亞があの時、ボクのぬいぐるみが破れたのを見て、ボクが死んでしまったと、決めてしまったから。』

 EP7でベアトを殺したと「決めた」のがそれ。
 だから蘇らせるのが難しい。


「でも、事件後は、憎い誰かを如何にして呪うかという物騒なものばかり。……お姉ちゃんの日記はあからさまに様変わりしていくの。」
“日記はそのまま、自らの心を映し出す鏡。”
“それは、真里亞という一人格が死に、邪悪なる魔女としてのマリアという人格に生まれ変わったことを示すだろう。”
“憎しみと悲しみで日記を埋める彼女の心は、……きっと、満たされていなかっただろう。”
“満たされていなかったから、憎しみと悲しみで埋めざるを得なかったのだ。”
“そして満たされないまま、彼女は死を迎えた。”
“……満たされない彼女の魂は、今も悲しみで胸に穴を空け、涙を零して、さくたろうの名を呼びながら彷徨い続けているのだろうか……。”

 真里亞にとっての日記が、19人目にとってのメッセージボトル。
 自らの心を映し出す鏡の向こう側の姿がヤス。
 メッセージボトルの物語において、19人目という一人格は死に、ヤスという名の魔女の人格に生まれ変わった。
 そして、物語の中に閉じ込められた亡霊は、誰の名を呼んでいるのか。


「……………あなたが、……お姉ちゃんには必要なのよ。」

 19人目には、ヤスが。
 ヤスには、19人目が。
 それぞれ必要。

 つまり、現実の八城にはヤスを蘇らせて再会させること、猫箱の中のヤスには19人目を寄り添わせること、それらを同時にやらなければならない。
 それをするには、黄金の真実を全員に認めさせて奇跡を起こし、さらに19人目の真実に誰かが至る奇跡を起こさなくてはならない。
 実に強欲だ。


「どうしたらあなたを、真里亞お姉ちゃんの世界で蘇らせられるの? その方法がわかれば、私はお姉ちゃんを救うことが出来る。……それが、私に課せられた贖罪の方法なのよ。どうすればさくたろうは蘇るの?」
『……真里亞にとって、ボクの依り代は特に重要な意味を持っていたから……。』

 猫箱の中のヤスの依り代と言ったら、19人目。
 つまり、19人目という駒を蘇らせたらいい。


「……でも、さくたろうはここにいるわ。依り代なんかなくてもここにいる。私がそれを認めているから、私の世界では確かに存在する。」
「………真里亞お姉ちゃんが認めなくても、それは否定できない。そうよね…?」
「理屈ではそうですが。……同じ理屈で、マリア卿にそれを認めさせることも、また困難かと思います。」

 現実の八城に認めさせると同時に、猫箱の中のヤスにも認めさせなければならない。


「きっと六軒島で。……真里亞お姉ちゃんに私は再会できると思うの。そして私は、……何が何でも、お姉ちゃんの中のあなたを蘇らせて、再会させるわ。」

 猫箱の中に19人目の駒を蘇らせるとは即ち、八城が猫箱の中のヤスに会いに行くということなのか。


「………でも、やるしかないわ。それが私に出来る、唯一の罪滅ぼしなのよ。」

 八城がしなければならない罪滅ぼし。


「全ての始まりであるあの島こそが、この旅の終着点なのよ。………私はあなたたちを連れて、魔女の家具であるあなたたちの主として、……魔女の島へ、六軒島へ帰らなければならない。」

 懐かしき故郷へ。
 主の帰還。







 身を切るような、罪の告白。
 ヤスに思いを馳せる。
 これまで19人目にばかり目をやっていたので、これを機会にヤスの気持ちを汲み取りたい。


  1. 2019/06/15(土) 21:49:47|
  2. うみねこ咲へ向けて
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続・EP3を再読

 ゲームを拒否する戦人。

「俺の番が終わらねぇと手前ェの番が来ねぇってんなら、永遠に待ってやがりゃあいいだろうがッ!!」

 事件まで6年。
 事件から12年。
 それが現実において待った時間。





 北風と太陽。

「そうです。乱暴かつ性急な方法が、常に最善の選択肢とは限らないということです。」
「あなたの勝利は、戦人くんを屈服させることではありませんよ。……戦人くんに、あなたという存在を認めてもらうことではありませんか。」

 つまり、「人間には不可能だから魔女の仕業だと認めろ」はベアトの最善手ではない。
 よって、隠された最善手である“太陽”が存在することが解る。





 黄金を見つて念願を叶えた絵羽。
 これは真犯人とヤスの念願が叶った場合として見れる。

“成ったッ!!! 叶ったッ!!”
“右代宮絵羽としてこの世に生まれ、願った夢は今この瞬間、全てが叶った…!!”
“私も夫も、永遠に幸せになれて。そして一人息子の譲治にも永遠の幸せを贈ることができる!!”

“兄が食い潰し傾かせた右代宮家は、私と譲治が復興させるのよ!”
“それこそが、右代宮家の当主を、本当の意味で私たちが継承したという意味なのよッ!!”
「成し遂げたわ…。やったわ、…あなた…、譲治…。……私は、……母さんは、……ついに成し遂げたわよ…。……もうこれで、誰にも脅かされない…。ううぅう、ううううううぅううううぅッ!!」
“そうよ、これでもう私たちは、二度と悲しい夜に咽ぶことはない。”

“おめでとう、私。おめでとう、右代宮絵羽。”
“私たちの悲しい半生は、今ここに全ての念願が叶って昇華されたわ。”
「あなたのお陰よ…。あなたの魔法があったから、このチャンスに恵まれた。このチャンスがあったから、私はここに辿り着くことができた…!」
“ありがとう。でも私の魔法は、私たちが互いに信じあわなくちゃ叶えることができなかった。”
“だから、私の魔法の力だけじゃない。私たちの勝利よ。”
“だからこそ、おめでとう。“私たち”。”
「ありがとう、私…。ありがとう、右代宮絵羽…。……今まで挫けなくて良かった。悲しみに溺れ、足掻くことを忘れなくて良かった…。」
「………いいえ、これは私の魔法、私たちの魔法! あなたの魔法は本当だったわ。森の魔女ベアトリーチェなんてすでに幻想。あなたこそが本当の魔法が使える本当の魔女。……そうよ。あなたこそが今や、黄金の魔女、ベアトリーチェなのよッ!!」

 念願が叶ったら19人目とヤスのするであろう会話のよう。


「見る? 私ももう一度見たくなったわ。この目で見たにもかかわらず、まだ現実感が湧かないの。…あなたと一緒に見て、確かに存在することをもう一度確かめないと、霧になって黄金が消えてしまいそうな気がするわ。」

 存在を確かめるために、もうひとりと一緒に見る必要がある。
 読者に求められているのはこれ。
 即ち、祝福。


「……というわけで妾は名無しだ! 戦人ぁ、何か妾に適当な相応しき名はないものか。そなたの推薦を受けるぞ! 何か上品で気品溢れて、できればちょっぴりキュートな名前はないものか…!」

 名前、……人間としての名前。
 やはり答えは用意されているんだよなあ、きっと。
 これは別の機会にやろうと思う。
 

“どんなものであれ、努力が達せられて報われた瞬間は美しい。”
“ずっとずっと当主後継ぎに憧れ、小さい頃から報われない努力を重ねてきた絵羽伯母さんは、……碑文の謎というチャンスを見事に掴み、…そしてその座をとうとう手に入れた。”
“少女時代からの夢をついに叶えた人間の笑顔の、何と神々しいことか。”

「……しかし、拍手って楽しいなァ。成し遂げたのは妾ではなく絵羽であるというのに、なぜかこっちまで嬉しくなってきおるわ。」
「祝福するってことは、その喜びを共感する、共有するって意味だからな。」
「なるほど。では、このわけもなく嬉しい気持ちは、そなたも共有できているというわけか。……互いを屈服させようとする敵同士でありながら、これは奇異な体験よ。」
“すると何かの儀式を終えたのか、そこで一同は大きな拍手で新生ベアトリーチェを大きく讃えた。”
“それはまるで戦人たちの拍手が、彼女の承認に必要な最後のものであったかのようだった……。”

 祝福された結婚。
 努力が報われる瞬間、喜びを共有してくれる人がいること。
 魔女のゲームの最後に必要な承認。




 第二の晩直前、客室で休む絵羽と秀吉の会話より。

「……私がね、絶対に叶えたい夢があって。それを強く願って努力すると、それは必ずかなったの。……私はその魔法で、いつも成績は一番だったし、生徒会長にだってなったし、入りたい大学にも実力で入れたし。……いつだってどんな願いだって叶えてきたわ。」
「そうやな。お前の魔法はいつだって大したもんや…。お前は確かに魔女や。…そして誰にも負けん努力家や。……わしはよーぅ知っとるで。」
「……………私ね。子どもの頃から、ずっとずっと心の中に、もうひとりの自分がいて、いつも私を励ましてくれたの。…そしてその自分は魔女だったわ。」
「………森の魔女ベアトリーチェなんて信じなかった。もし六軒島に魔女がいるとしたら、それは私の心の中の魔女のことだってずっと信じてきた。………その魔女の自分に、私はずごい感謝してる。…あなたに出会わせてくれて良かったなぁって、……いつも感謝してる…。」
「…………病気の時のお前はいつも気弱すぎや。…今は何も言わんでええ。……熱が下がるまで、ずーっとこうしてるからな。」
「……うん。……絶対に手を、……離さないでね。………何だか私、……自分が自分でなくなるような気がして、……さっきから怖いの。…私の中の魔女が、ベアトリーチェに触発されて、どんどん強くなるような気がして。…何だか私を飲み込んでしまいそうな気がするの。」
「大丈夫や。わしが一緒にいる限り、なぁんも恐れることなんてあらへん!」

 絵羽→19人目。内なる絵羽→ヤス。秀吉→至った読者。
 こう解釈するとわかりやすい。

 幼い日の19人目とヤスの関係。
 やがて、物語の中でヤス――ベアトが奮闘したことにより、真実に至った読者に出会うことができた。
 読者が真実を手放さない限り、八城は自分が自分であることができる。
 そして、内なるベアトは眠りに就くことができる。
 ……という、感じだと思うのだが。





 第二の晩。

“狭くて退屈な六軒島から、うみねこのように飛び立って空に逃れたいと、私たちは共に願ったんじゃなかったっけ…?”
“その夢を、今、私が叶えてあげるの。”
“だからこの喜びを、他の誰でもない、あなたと共有したい…!”

 これはそのまま、黄金の魔女であるヤスの思い。





 第二の晩の後、メタ世界で。

「ニンゲンの制約を超えた瞬間に知る、世界がどれほどに広かったのかという感動をそなたにも教えてやる!」

 ありがとう!
 もうひとつの世界を知ったことで、私の世界も広がった。


“ロノウェまでもが闇に姿を消し、後にはベアトがたったひとり。”
“雨天の薔薇庭園にたったひとり。”
“ひとりぼっちの魔女は、誰も遊んでくれない。”
“誰も遊んでくれないからこそ、ひとりぼっちの魔女。”
“…………………。……何だよぉ。…何で妾と誰も遊んでくれないんだよぉ…。………そんなに妾は変かよぉ、残酷かよぉ…。…………誰か返事しろよぉおおォ!!」

 孤独が伝わってくる。
 寄り添いたくなってこない?


“喧嘩ならばどちらも遠慮なくできる。”
“しかし、喧嘩の土俵にすら乗ってくれていない。そんな冷たさを感じていた。”

 同じ土俵に上がってもらわなくては、喧嘩もできない、会話もできない、ゲームもできない。


「……俺は、お前のその残酷さが許せない。そして理解できない! 許すこともできない! だが、魔女を認めるか否定するかというゲームは続ける。自ら降りて敗北を認めたりはしないさ。」
「だが、そのゲームにお前の無意味な残酷さは何の必要もない。だから俺は、お前を対戦相手として認めないことにする。ロノウェの方が百倍マシだ。お前のような残酷趣味はない。あったとしても、俺の前でそれをひけらかす悪趣味はない。」
「……そうさ、お前は悪趣味だ。残酷で心がなく、だから理解することができない。相手として不快だ。だから俺はお前の顔を、二度と見たくない。」
“しばらくの間、怒るような表情や悔しがる表情、不敵な表情をいくつも繰り返し、……自分がどのような態度を取るべきなのかさえ、わかりかねているようだった。”
“その末、何だか憑き物の落ちたような淡白な表情を作り、疲れたとでも言いたげに肩をすくめた。”
“「……………………。………なら、好きにすれば良い。妾は以後、ロノウェを通してゲームを続けることにする。……妾が姿を見せないのであれば、文句ないであろう?」

 なぜ残酷になれるのか?
 心があるからだろう?
 その心を推理して欲しいからに決まっている。
 故に、それを言うことができない。
 後、ミステリーとしての思惑もある。
 行動の誘導とか。


「……あの残酷ショーを、本気で俺と笑い合えると信じてやがったんだ。…俺とその感情を共有できると、本気で信じてやがった…。」

 まぁ、全部が劇だからな。
 笑い合えるとまでは考えてはいなかったと思うが、そこから推理できる心、感情は共有できると思ってはいたんだろうなぁ。
 あと、残酷ショーでは笑い合えないけど、推理劇としてなら笑い合えると思っているんじゃないかな。





 霧江の意見。

「こう考えると少しは辻褄が合うのかしら。……つまり、隠れ潜んでいる何者かは、本来は今、島にいるはずのない人物。にもかかわらず、楼座さんが油断するような顔見知りの人物である可能性よ。」

 19年前に出会った九羽鳥庵のベアトリーチェに見間違えた人物、19人目の犯行。
 楼座はそのベアトに一度しか会っていない。
 さらには忘れたい、夢だと思い込もうとしていたわけで、つまり詳細な容姿は覚えておらず、特徴のみ覚えていたと考えるのが自然。
 その上でベアトの肖像画を見せれば、それが19年前のベアトの姿だと思い込ませることができる。
 そして、その肖像画は19人目をモデルとしたもの。

 そう考えれば、楼座は目の前に現れた19人目を出会い頭に銃で撃つことはない。
 不注意で一度死なせたという罪悪感を刺激することで、打たせないようにする。
 素手であることをアピールして危険性がないと思わせることもする。
 さらには、手で触れて生きていることを確認すればいい、という口実で触れられる距離まで近づければ、あとは素手で殺害は可能。


 留弗夫の意見。

「現場にわざわざ楼座の十を残していくだおうか。犯人が何を武装しているかしらねぇが、こちらの銃は不安要素のはずだ。…その一丁を間引けるチャンスだったはずだぜ? なぜわざわざ現場に残したんだ。」

 銃を持ち帰れない人物。
 つまり、内部犯のしわざである、と。
 そう疑わせたい外部犯の仕業だから。


 この2つ、どこかで書いたかもしれないが、念のため一応書いておく。





 2人の絵羽の会話。

「………嫌ぁよ。魔法、面白いもの。………それに、あなたの2つの夢は、私の魔法のお陰で叶ったのよ。なのに私の夢は叶えてはいけないなんて不公平よ。」
「あなたの魔法には感謝してるし、あなたこそが本当の魔女だと私は認めてるわ。……だからもう、大人しく私の胸の中に帰って! そして二度と現れないでッ!!」
「嫌ぁ。……私たち、お互いに勘違いしてるわね。そうよ、私はもう、あんたじゃないの。あんたは右代宮絵羽。私は黄金の魔女ベアトリーチェ。」
「だから、あんたの胸の中に帰る義理はないの。……さながら、あなたという殻を脱皮して蝶になったような気分かしらぁ。」

 共に人間だと認められたいと願った。
 ならばそれは、公平で対等なものでなくてはならない。
 あなたの願いを叶えたのだから、あなたは私の願いを叶えてくれ、と。

 悪魔のルーレットによってベアトが死に、八城は一人の人間となれた。
 その対価として、ベアト即ちヤスを一人の人間とするための物語を綴る。
 もはや2人は別人。
 ……だとするならば、
 ヤスの帰るべき場所は、八城の胸の中ではなく、ヤスを認める読者の胸の中。
 独立した人格として、そう訴える。





 ホールの死闘。

「はい。危険に身を晒さず、家具に全てを任すのもまた、魔女の優雅なる嗜みでございます。ここは家具に任せ、ベアトリーチェさまは安全なところへお隠れを。」

 物語の中のゲームは家具のベアトに任せ、主たる執筆者は安全な場所にいる。


「キングは濫りに中央を動かないものよ。それが王者の、魔女の貫禄よ!」

 キングである朗読者は中央を動かない。


「………私は嫉妬のレヴィアタン…! 嫉妬こそが我が力。我が怒り、我が源泉!」

 存在することを認められ人間として生きられる者たちに嫉妬した。
 劣った真実からより優れた真実へ。
 そして、真実とされたものに勝る真実へ。
 嫉妬こそが19人目とヤスにとって、魔力の源泉であるのは事実だろう。


「いつも姉妹たちに虐められてきたわ。誰かひとりだけでも味方になってほしいとずっと思ってたわ。」

 存在を認め合う人間たちに、自身の存在を認められることはなかった。
 誰かひとりだけでも味方になって欲しい、そんなささやかな望みが本当に願った奇跡。


「悪く思うな。…お前が3歩歩く間にそれに気付けたら、俺は観念するつもりだったんだ。」
「…………あの3歩は、…私への、…手心だったか…。………考えようともしなかった。……私は、……怠惰だ、…った………。」

 これは黄金の真実に気付くかどうか、だろうか。
 第3のゲームの最後に、並び立つ2つの真実を提示し、3歩の間、第4、第五、第六のゲームまで気付かねば、ヤスで思考を停止させる。
 そういう宣言かな。
 有言実行。実際、見事に決まっちゃったよなぁ。


「……先代さまがどこかで戦っているとかいう、ゲームの相手、ですか? ロノウェに聞きました。」
「……あ、あのお喋りめ。………まぁ、正直に言うとそういうわけだ。ちょっと目に余るとその、…抗議を受けてな?」
「先代さまにわざわざ伝言などさせず、直接抗議にいらっしゃればいいのに。…臆病な方です。」
「………こことはその、異なる世界の住人だからの。妾を介さねばならぬのだ。まぁとにかくだな、」
「……ということは、その方は私に何か干渉したくても出来ない。そして私も干渉したくても出来ない。それくらいに遠い世界の、無縁な方との認識でよろしいですか?」
「う、うむ。……例えるならとても近い2本の平行線の世界とでも言おうか。とても身近な世界なのだが、平行線ゆえに2本の線が交わることは決してない。そんな世界と、とりあえずは認識してくれれば良い。」

 19人目のいる世界、ヤスのいる世界。
 真実の世界と虚偽の世界。
 表裏を合わせる身近ながらも、決して交わらない世界。


「……説明、いりません。だって、決して交わることのない世界の話じゃありませんか。それはつまり、無い世界も同じということです。」

 無いも同然、無くても構わない世界。
 ああ、ただ一人だけ、両方の世界を視てしまっている、というだけなのだ。
 守らないと消えてしまう儚い真実。

 真里亞の薔薇と同じだ。
 真里亞はあの薔薇に自分の姿を重ねた。
 自分が守ってやらなければと思った。

 誰かが守らないと消えてしまう儚い真実に、自分の姿を重ねた。
 自分が守ってやらなければ、誰が守るというのか。
 誰もいやしない。
 だから自分が守るのだと。





 ベアトに助言をするワルギリア。

「……しかし、ゲーム盤の外の世界で魔女だと認められるには、ゲームの対戦者である戦人くんに認めてもらわなくてはならない。……あなたはそれを理解してゲームを始めたはずです。」
「…………このゲームは、戦人くんを屈服させる拷問などではない。あなたが戦人くんに認めてもらうために努力する、試練なのです。」

 虚偽の世界の住人である黄金の魔女ヤスが、現実の世界の読者に認められるための試練。
 それがベアトのゲーム。


「今は10月。ハロウィンの季節ですね。………太陽が死に、再び蘇る再生の月です。蘇ったばかりの弱々しい太陽は冬の木枯らしに遠く及ばないでしょう。」
「しかし、じっくりと成長し、やがては春の訪れを告げることができる。…その時、旅人はマントを畳むこともあるかもしれない。」

 この点を、ベアト対ワルギリア戦と繋げると面白い解釈ができる。

 ベアトは月。
 だから太陽は別のベアト。
 蘇ったばかりで弱々しい。
 旅人のマントが、戦と死の神のマントと同様であるなら、それは月を食むもの。
 太陽によって、読者は月食のマントを畳む。

 そういう暗示だとすると、意味深だな。





 ベアトを対戦者としては認めない戦人。

「…………どうして俺が、譲治の兄貴が一番辛いって言ったか、わかるか…?」
「き、……聞いていたからわかる。……その後の人生を共にする時間の長さに悲しみは比例するとな…。」
「……もちろん、それだけじゃ量れねぇけどな。………俺たちニンゲンは、お前ら魔女とは違う。……生きてから死ぬまでという、有限の時間を、その力の限り生きている。」
「…………それを蔑ろにするヤツは許せない。……増してや、嘲笑い弄ぶようなヤツは、絶対に許せない。…お前のような、死の概念も滅茶苦茶なヤツには理解もできねぇだろうがよ。」
「………………………………。」
「……これから生きる時間の長さだけじゃない。……一生懸命に生きているヤツの人生を嘲笑うこと。これが一番、俺には許せねぇんだ。」
「譲治の兄貴は、がむしゃらに頑張って人生を生きてた。紗音ちゃんと結婚するために、悲壮な覚悟をしてこの日に臨んでいたはずなんだ。……俺みたいに、久しぶりにいとこと会えるなんて浮かれてたヤツとは訳が違う。」
「し、………しかしだな…、」
「ベアト。今は黙って聞きなさい。」
「…………う、…うむ。」

 これは後にブーメランとして返ってきたな。

 その後の人生を共にする時間の長さに悲しみは比例する。
 19人目はヤスと一生を共にするつもりだった。

 有限の時間をその力の限り生きる。
 たった二日間の生を、ヤスは懸命に生きた。

 それを蔑ろにするヤツは許せない。
 見事なブーメラン。

 結婚するために、悲壮な覚悟をしてこの日に臨んだ。
 真犯人もそう。


「……これは俺を屈服させるためのゲームじゃない。……お前が、本当の意味で、無限の魔女に認められるための試験ではないのか、ってな。」

 その通り。


「………しかし、絶対に俺からは降りない。お前を不戦勝にだけは、絶対にしない。……お前が再び、俺の好敵手としてそこに座るのを、俺はずっとここで待っているぞ。」

 これは嬉しいよな。





 死んだ紗音のことを思い出す譲治。
 これを死んだヤスのことを思い出す八城に変換。

“だからそれは、単なる写真ではなく、譲治にとって、温かな記憶を蘇らせるための入り口でもある…。”
“譲治は確かに今、この部屋で台風の音とテレビの音を耳にしているはずなのに、……彼女と過ごした沖縄の風景と彼女の笑い声を、目にし耳にしている…。”

 猫箱に閉ざされた2日間を思い出す八城。


“譲治は、紗音と出会ったことで、生まれ変わろうと決意した。”
“雰囲気に押し流されやすくて、頼まれると断れず、都合よく周りに使われてしまう気弱な自分と決別しようと誓った。”
“彼女の人生を、より幸福にするために、強い男になろうと決心したのだ。”

 立派な作家になってヤスの物語を綴り、一人の人間だと認めさせることができる人間になろうと決心したのだ。


“だから、…もしも紗音との出会いがなかったなら、……右代宮譲治という男は、もっと別の、異なった人生を送っていただろう。”
“そしてその人生における彼は、今の彼ほど立派な男ではなかったに違いない。”
“紗音のために、今の自分がいるのに。……なのに、その紗音がいなくなったなら、…自分はなぜいるのか。”
“何の意味もないのではないか。”
“自分自身が空虚になってしまうような、深い深い悲しみ。”

 皆が認めるほどの推理作家になった。
 ……人間だと認められるようになった。
 ヤスがいなれば、今の自分はいない。
 ヤスのために、今の自分がいるのに、ヤスがいないなら、自分はなぜいるのか。


“その気持ちは、ずっと彼を苛んでいたはずだ。……しかし、戦人にさっき言われるまで、自覚できずにいた。”
“……自分は、もっともっと泣いても良かったんだって、…やっと思い出せたのだ。”
“だから泣いた。彼がそうするように、自分も枯れるまで涙を流した。”
“……今はもう、目が真っ赤に腫れ上がり、それ以上の涙は零せない。だから譲治はがんばって思考を変えようと思った。”
“今の自分は無意味なのではなく、…紗音にこんな自分を与えてくれたことに感謝しようと思った。”
“死んだ命は蘇らない。最愛の人との別れを、彼は乗り越えなくてはならない。”
“自分が紗音の後を追って自殺するようなことがあったなら、彼女はきっと深く落胆するだろう。”
“逆だって同じだ。自分が死に、それを追って紗音が自ら命を捨てるようなことがあったなら、自分で自分が許せなくなってしまう。”
“……だから彼は、悲しんだり、怒ったりする感情をはるかに超越して、………感謝することにしたのだ。”
“紗音と出会え、豊かな日々を与えてくれて、…そして自分に、人のために努力することの意味を教えてくれた。”
“その結果、自分の憧れた姿の自分を与えてくれた。”
“…それに感謝しようと思った。”

 幼い残虐さで、心の中で無限に人を殺してきた。
 自分の苦しみを紛らわすために。
 でも、人を愛し、人に愛される人間になろうと、共に誓った。
 心を推理してもらうために、己の心を分析した。
 無限に繰り返される惨劇の中、己の苦しみを知ることで、他人の苦しみを理解できる人間になれた。
 人を愛することができる人間になれた。


“そうすることで、悲しみを和らげようとしたのだ。”
“でもその度に、彼女の笑顔が蘇ってしまう…。”
“………理屈ではわかってる。”
“これ以上、悲しむことは、むしろ天国の彼女を悲しませてしまうだけだと理解しているのに、……悲しみを止められないのだ…。”

「…本来なら、数年を掛けて薄めるべき悲しみが、一度に押し寄せる。………そりゃあ辛いわけさ。……時には、人の生涯に傷を残すほど、深い悲しみを与えることも、あるかもしれない…。」
「……生涯に傷を残すほど、…か。」
「……祖父さまのオカルト趣味もさ。そう囁かれてたんだよな。……例のベアトリーチェって愛人を大昔に亡くして、それが悲しくて悲しくて立ち直れなくて。」
「……それで死者を蘇らせるためのオカルトの研究に残りの人生を全て捧げるようになったのではないかって。……そう囁かれてた。」

 どうすればヤスを蘇らせることができるのか。
 それを研究した。


「…………それでも、お祖父さまは、会えたんだろうね。…人生の半分を賭して、もう一度会いたいと願った女性に、わずかなひと時とはいえ、再会できたんだろうね。」
「………たとえほんのひと時であったとしても。……愛した女性に再会できたお祖父さまは幸せだったはずさ。」
「………仮に、生命の摂理に逆らった罪を神に咎められて、その身を焼かれ、地獄に落とされたとしても。…その見返りの再会が、ほんのわずかな時間だったとしても、ね…。」
「……神の怒りに触れて、この身を焼かれようとも構わない。………わずかな時間でもいいから、……紗音を再び蘇らせてくれるなら。………………僕は残りの人生全てを、お祖父さまと同じ研究に捧げるよ。」
「……5分でいいから、……紗音ともう一度言葉を交わしたい…。……1分でもいいから……。……それと引き換えに、…全ての人生を捧げても、……僕は構わない……!」

“……せめて、それだけでも確かめたい。”
“紗音の最後の気持ちが、知りたい……。”

 これが八城の願い。





 殺される前の蔵臼と夏妃の話。

「………父のようになりたくて、私なりに必死だった。…だが、いつもそれには及ばず、そのはけ口を彼らに向けてしまった…。しかし、それは言い訳にならん。」
「…絵羽にも、未だ傷が癒えぬほどに、深い心の傷を負わせてしまっただろう。……悔いているが、今更それを詫びたところで、その傷が癒えるわけもない…。」
「………あなたがその気持ちを、今だけでなく、持ち続けることで。…その気持ちはきっと、他の兄弟たちにも伝わりますよ。」
「………絵羽は生涯、私を憎み続けるだろう。そしてその資格がある。…私は、それを甘んじて受け止めるつもりだ。」
「……絵羽、………すまん。……もちろん、許さなくていい…。」

 これはヤスに謝る八城の心情そのもの。
 「劇」だから己の心情を駒に台詞として語らせているのではあるが、同時に、蔵臼の心情を己がことのように理解していることを表すシーンでもある。
 他の多数の、己の心情を駒に仮託して喋らせているシーンも同様。
 姿を現わさずに、すっごい喋ってるよね。ホント。





 紗音を蘇らせるシーン。

“……その強い力を、ベアトは魔力に変換し、自らの魔法に加える。かつては誰の助けも借りずに、片手間でできた魔法だ。”
“…しかし今は、助けを借りなければ、成功はおろか、詠唱を終えるには至らない。”
「………数百年近くも忘れておったわ…。………魔法とは、……反魂とは、…こんなにも辛い魔法であったか……。」

 当時は、当然のようにヤスと会話できてたのだろうが、今は読者の力を借りなければならない。


“譲治の、想い人の死を悲しむ力は、……それまでの彼の一生懸命だった人生と、紗音との温かな時間、そして将来を誓い合った夢の大きさから生まれるのだ。”
“人は、たったひとつの命に、ここまでも真剣に生きるものなのか。”
“……当然だ。自分にとって命というものは、オセロの表と裏程度の意味しかない。”
“黒が死を示すなら、また裏返して白にすればいいだけのものとしか思わなかった。”
“しかし、あの割れた壷と同じ。”
“……二度と元の姿に戻せない、魔法のない世界の人間ならば、……そのたったひとつの命に、全身全霊を賭けるのは、とてもとても当り前なことなのだ。”

 ヤスのために真剣に生きてきたから、今の八城がいるのだろう。


「さぁさ、目を閉じて御覧なさい。そして思い出して御覧なさい。あなたがどんな姿をしていたのか。それはきっと、とてもとても美しい姿。どうか私に、あの姿をもう一度見せておくれ…。」

 本気の呪文。


“ベアトは理解する。”
“……その指輪が、……いや。”
“………指輪の形をした、二人の想いが、この奇跡を実現させたのだ。”
“譲治はあの瞬間、確かに魔法を使った。ベアトはその手助けをしたに過ぎない。その魔法には、命の大切さと一生懸命を知る者にしか宿しえない魔力があった。”

 うん、私は手伝いをしたにすぎない。
 素晴らしい魔法だったよ。


“あぁ、でも、褒めてくれるお師匠様は、自分で殺しちまったんだっけ。”
“甘えんなよ、ベアトリーチェ。”
“モノを殺すってのはつまり、そういうことじゃねぇかよォ…。”

 EP7。
 立派な人間になるために、ベアトを殺してしまった。


“チェスのプレイヤーが、神様気取りで降臨し、駒に討ち取られたなんて、笑い話にもならないのだから。”

 笑い話じゃないよな。
 ヤスを人間だと認めさせるために、討ち取られようとしているわけだし。

 逆に、最後まで考えなかったのに最後だけ参加しようとするプレイヤーを討ち取る例のアレのことなら、笑い話だけど。





 客間に辿り着いた4人。

“あぁ、…ゲストハウスから3人もの人間が蒸発し、全ての鍵が内側から閉ざしてあった意味が、今、ようやくわかった…。”
“これが狙いだったんだ。”
“……犯人は内部にいると思わせて、…こうして醜い憎みあいにさせることが、……犯人の、……魔女の目的だったに違いないんだ。”
“…………でも、だったなら、どうやって犯人は、外から施錠したってんだ…?”

 戦人の思考はホント頼りになる。
 壁にぶつかるまでガイドしてくれるので、後はその壁を超えるだけ。


「…私のせいじゃないわよ…、あの子が掴み掛って来たからこんなことに……。……私は殺してなんかないわよ…。」
「……それより、…譲治は誰が殺したの? そうよ、譲治は誰が殺したのよ!! 譲治、譲治ぃいいいぃッ!! 私は悪くない、私は悪くない…!!」

 同様して自分に言い聞かせている時の言葉には本音が出易い。
 朱志香から蔵臼たちを殺したと責められて、“私は殺してなんかないわよ”。
 殺してはいなけど、何か身に覚えがあるから出る言葉。
 やっぱ、殺人鬼のいる外へ蔵臼たちを追い出したのだろう。





 朱志香を助けに来た嘉音。

「……そして、……その男の子に再会できる奇跡を神様が下さって、…………その勇気を振り絞る機会を、もう一度与えてもらった女の子が、………勇気を振り絞る話を。」
「……うん…。嘉音くんと一緒なら、いつまでだって、どこまでだって歩くよ…。もう目なんていらない。嘉音くんが踏み出せというなら、崖の先へだって一歩を踏み出すよ。」

 ヤスを蘇らせて、何を話すのか、という話。


“小さな黄金蝶に導かれ、守られ、…生と死の壁を挟みあう二人が、ゆっくりと廊下の向こうへ歩み去っていく…。”

 生と死。真実と虚偽。
 世界を隔てられながら、共に歩む二人。
 ヤスと八城に重なる。





 朱志香と嘉音がいる客間を守るベアト。

「…なればつまり、無限の力とは神の力! 遊べば遊ぶほどにさらに楽しい遊び方を見つけられる素敵な力! その力を千年も思うがままに使い、暴れまわったあなたが! なぜ今頃になって心変わりをしたの? まさか、私に譲ったから惜しくなって、とかじゃないわよねぇ?」

 無限と黄金の魔法で、真実と虚偽の二つの世界を重ね合わせて遊んできた。
 やがてそうやって永遠に遊ぶことよりも優先する願いを抱いた。
 その果てに大切な者を失った。
 その者を蘇らせるための半生を賭け、再会できた僅かな時間。
 その邪魔はさせない。


「惜しいものか。そなたがそうだと信じている無限の魔法など魔法にあらず。…真の魔法の力とは、そなたなどでは到底至れぬ深淵にあるのだ。」

 千年の果てに至った結論。


“ベアトは千年もの間、忘れていた、死ぬという実感をようやく思い出す…。”
“しかし、………死ねない。死んではならない。死ねば、客間の二人を残酷なる魔女に差し出すことになる。”
“だから断じて死ねない。”
「鼓動を刻める数など、残すところもたかが知れている。」
「…だが、それをひとつ余計に刻むことで、この部屋の二人にわずかでも長い時間を与えられるなら、……その程度の抵抗を、永遠に続けようぞッ!!」

 客間の二人は、猫箱の中にある2つの真実。
 反魂の魔法が成就する奇跡を許されて、再会した二人の僅かな時間。
 それが果たされるまで猫箱を守る結界。
 セブンスランクルークによる境界線。
 その正体は、魔法説のベアト。
 1にして3人の魔女の最後の一人。





 VSエヴァ・ベアトリーチェ。

「…出来ないでしょう? 出来ないわよねぇ? くっひひひひひッ、それはなぜ? 私が魔女だからよ。…あんたは名前さえ持たない負け犬だからよ!! くっひっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃッ!!!」

 呼ばれる名前がない。
 だから存在しない?
 そんなはずはない、私は存在すると信じる。


「………何か、…………何かあるはずなのだ……。………挫けぬ…。……挫けぬぞ……。どれほど嘲笑われようとも……、妾の名誉のために戦う戦人の、……戦人の名誉のために、…挫けるものか………。」

 そうだな、互いの名誉のために戦おう。


「無駄よ、無駄無駄あぁ~。死者を弄べるのは魔女だけの特権よ。魔女でもなく、そしてニンゲンですらないあんたに、力を貸してくれる者なんて、どこにも存在しないッ!!!」
「あんたは永遠にひとりぼっち!! 魔女にもニンゲンにも味方はなく、誰もあんたを助けてなんてくれないの! 悔しければ泣いちゃえばぁ?! 役に立てなくてごめんなさいって、詫びちゃえばぁ?! あっはははははははははははッ!!」

 味方ならここにいる!
 ……と言ってみたいなぁ。





 黄金郷への招待状のサイン。

「それでは、古式に則り、最後に誓約した戦人くんに、黄金郷への招待状のサインを求めます。……これは、黄金の魔女、ベアトリーチェを黄金郷へ招くためのもの。黄金郷は、それを認めた人間たちの総意によって黄金の魔女を招き、そして完成するのです。」
「戦人、読み上げるぞ。しっかり聞け。………“我々18人は、黄金の魔女をベアトリーチェと認め、黄金郷へ招きます”。」

「何々? “あなたを魔女と認めます”。………あれ? ずいぶんシンプルだな。祖父さまめ、誇張して読みやがったな。」

 文言が異なっている。
 “あなたを魔女と認めます”は屈服の宣言。
 “黄金の魔女をベアトリーチェと認め”は、まるで「黄金の魔女」がまだベアトリーチェではないかのよう。
 ベアトではない「黄金の魔女」は、ベアトだと認められることで、黄金郷へ迎え入れられる。
 黄金郷に招待されたい「黄金の魔女」って誰だよ。
 という大ヒント。





 12年後の世界。

「あんたの味方は誰もいない! あんたの悩みなど誰も聞かない。あなたを罵ることは公然としたスポーツになる。そしてそれを誰も止めない!」
「あぁ、縁寿! うっふふふふふふふふ、あぁ、本当に楽しみよ。…あんたはどんな人生を送って、どう終えるのかしら…! 世界中の誰も信用できず、誰も愛せず、誰とも語り合えない人生をたっぷり満喫しなさい…!!」

 誰も味方がいない孤独。
 19人目と縁寿は、そういう意味では同じような境遇なんだよなぁ。


“環境が、人を作る。”
“今や彼女は、周囲が恐れる通りの荒んだ心を持っている。”

 これは19人目にも言えるだろう。
 彼女の悪戯は、最初は施錠された窓の鍵を開けるくらいだったはず。
 自分はここにいるというメッセージ。
 それは最初、物忘れのせいにされ、やがては怪談に成長した。
 怪談としてだとしても、認められた。
 最初はそれに喜び、その期待に応えるために、より怪談らしい悪戯をしたのではないかと思う。

 しかしそれは、認められたい自己と、認められる自己との乖離を引き起こす。
 決して満たされない鬱憤を貯めることになる。
 故に、より過激に。
 怪談を期待するなら、そうなってやると荒んでいく。

 つまり、ベアトの魔女的性格を育てたのは周囲の環境だと言っていいだろう。


“私のことを、とても可愛がってくれた戦人兄さんの、私を撫でてくれるその手に、”
“………あとちょっとで届きそうなのに、それさえも届かない。
“そんな夢を、なぜか繰り返し見るようになっていた。”
“……私は同じ夢を見る度に、さらに力強く手を伸ばそうと、夢の中で無駄な努力を繰り返すのだ。”
“せめて戦人兄さんだけでも、生きていてくれたなら。”
“……私はこの冷たく寂しい現実を、せめて二人で支えあいながら生きていけるのではないか。”
“でも、その手はいつも、届かない。”

 同じような境遇の二人は、願いも似通っている。


“私が本当に欲しいものは、山成す黄金であろうとも、手に入らない…。”
“その為に必要なのは、一歩前へ踏み出す、たったそれだけの勇気。”

 崖に踏み出す勇気。
 リスクなくして奇跡なし。
 最初の一歩を踏み出さなければ、何も変えられない。
 そして、最後まで歩き切らなくては。







 しかし、3つの物語が書かれているのは本当に凄い。
 一つ目は、魔法説解釈による物語。
 二つ目は、ヤスの恋物語。
 そして三つ目は、朗読者による独奏というか独演。

 手を換え、品を換え、キャラを換え。
 たった一人で舞台を回す。
 演目は冥界下り。
 愛する者を冥府より連れ戻すというストーリー。
 ただひとりのために行われる舞台。

 イナンナは冥界の七つの門を潜るために、ひとつずつ衣服を脱いでいった。
 また、オルフェウスは歌で冥府の者たちを魅了し、死んだ妻の許まで辿り着いたという。

 煉獄を潜り抜けるために七つの大罪を清め、死者のために詠う。
 こんなにも愛を切々と訴えられたら、冥府の住人も冥界の神も絆されるだろう。
 無論、人間も。
 心があるならば、無碍にできるわけがない。
 祝福の拍手を送ろう。
 私にはそれしかできないから。
 それしかできないからこそ。
 画面で隔てられていようとも、それを超えて拍手を響かせてみせよう。


  1. 2019/06/08(土) 21:14:21|
  2. うみねこ咲へ向けて
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EP3の序盤を再読

 ベアトの幼い頃の回想。

「……そうですね。魔法は、殺めたり、壊したりすることの方がとても簡単です。ゆえに、誘惑に負ける弱き魔女たちは、容易に身に付けられる力に酔い、本当の魔法の修行を怠ってしまいます。」
「……本当の魔法とは、直す力、蘇らせる力。散ってしまった幸せを呼び戻し、冷めてしまった愛をも呼び戻す。そして微笑を忘れてしまった姫様の顔に、笑顔を呼び戻せるのですよ。」

「壊れても壊れても、何度でも何度でも直せる…?」
「えぇ。その境地に達した時、無限の魔力が備わるでしょう。それこそが、魔女の達するべき無限の境地。私たちはその魔女を、最大の敬いをもってこう呼びます。」
「無限の魔女…。」

 1986年の惨劇は、殺めたり壊したりする簡単なもの。
 だから修行して、直す力、蘇らせる力を得ようとしたのが執筆者。
 八城が、失われた愛、ヤスを蘇らせるための物語。





 前回のゲームについて。

「さぁ、戦人くん。さっきの続きよ? マスターキーで朱志香ちゃんの部屋を施錠した後、どうやって室内の死体のポケットに鍵を戻したというの?」

 これはヒント。
 “使用人が犯人”以外だった場合、もっと言えば“19人目”が犯人だった場合、どうするのかという。






 絵羽の中のもう一人の絵羽についての記述から抜粋。

“囁き掛けてきたのは、………そう誓った日に私の心の中に生まれた、あの少女の日の私だった。”
“…そう。“彼女”は、私の唯一の味方だった。”
“私が辛い時、挫けそうな時、いつもそっと現れて私に味方してくれた。”
“難問に躓き、頭を抱えた時には必ず現れて応援してくれた。”
“私が成長し、少女時代を忘れるに従い、私は“彼女”との対話を次第に忘れていった…。”

 これは19人目の心の内にヤスが誕生した経緯のヒント。

“悲しみに沈み、何の為に生きるのかわからないくなったあの日、…あなたは私の内より現れて、私に力を貸してくれたわ。”
“…それは思い出すだけで苦々しい日々。”
“私の心に入った、傷の裂け目…。”
“その傷の縫い方を、“彼女”は教えてくれた…。”
“怒りを、努力に換えて自分を磨き、……兄よりも当主に相応しい人間になって、それをお父様に認めさせることで見返そうという、最高の形の復讐。”
「そうすれば私たちの心の傷は癒えるの。……その日までがんばろうって、誓い合ったわ。」

 19人目は“人間”だと認められない。
 その悲しみから生まれたのがヤス。
 そのヤスを、六軒島にいる“人間”よりも立派な“人間”にすることで、“みんな”よりも“人間”に相応しいと認めさせることで見返してやろうという、最高の形の復讐。
 そうすれば心の傷は癒えると信じ、その日まで頑張ろうと誓い合った。

 ……たぶん、正確には、
ヤス「私も人間になる努力をする。だからあなたも人間になる努力をしよう。そしていつかどちらもその願いが叶うと良いね」
 みたいな感じ。

「え、…えぇ。本気よ。……少女時代からの決意を捨てるのは、確かにとても悲しいこと。…私の少女時代そのものであるあなたを裏切るのは、私も心苦しいわ。……でも、それが一番現実的なのよ…!」
“その瞬快、自分の体があの頃の私ではなく、今の私…「妻」と「母」のそれへと変わる。”
“そう、……これは「夢」。それでも、あの頃と同じ野心と意欲を持ち続けている「彼女」は、その変化に対してあからさまに不機嫌な表情を浮かべて言い募った。”
「夢を捨てるの? ……そして、私も捨てるの?」

 あの頃の姿ではなく、今の姿である“八城”になった。
 そして「彼女」は言う。
「夢を捨てるの? ……そして、私も捨てるの?」
 …と。





 砂浜での戦人の台詞。

「みんな、案外、6年も前のことなんか覚えてるもんだな。俺なんか、かなり記憶があやふやだってのによ。」

 1998年の時点であの日から12年経っている。
 記憶もあやふやになっていることだろう。


「つがいってのは、互いが互いを認め合う以外に何の許可も要りやしない。」

 それだけで良かったのに、それ以上を願ってしまったのだ。





 砂浜でのいとこたちと紗音の会話。

「…そうだな。朱志香の言う通りだぜ。俺たちはいつまでも仲良しでいようぜ。」
「うー! 真里亞も一緒! みんな仲良し!!」
「そうだね。うん。僕たちはいつだってみんな一緒だよ。みんな仲良しだよ。」
「へへ。私たち、何、恥ずかしいこと言い合ってんだろうな。何だか照れちまうぜ。」
「でも、とても大切なことだと思いますよ。人は願わねば、いつまでも一緒にいることどころか、仲良くいることさえ難しい生き物なのですから。」
「そうだね。みんなが仲良くいられることを、決して当たり前のことだと思ってはいけないね。」
「うー。知り合いの魔女が言ってた。幸せは、みんなが信じなくちゃ叶わないんだって。」
「確かにね。信じる力には魔法が宿るかもしれない。それを全員が信じたなら、きっと幸せを運んできてくれるだろうね。」
「よし。なら恥ずかしいことついでだ。私たちはみんなで信じ合うと誓おうぜ? みんないつまでも仲良しで、いつまでも幸せでいようって。」
「おう! 俺たちはみんないつまでも仲良しで幸せだ。そしてみんなで信じようぜ。」
“俺たちはこんなにも青春し、旧交を温めあっているんだ。そして、みんながみんな、幸せになれると信じ合ってる。”
“だから…、何もおかしなことは起こらず、平和に幸せに、穏やかに、今日と明日が終わって欲しい…。”
“いや、…終わって欲しいじゃない。……終わってくれ……!”
「終わるかよぉぉおおおおぉおッ?」

 その「みんな」に含まれない者がいる。
 その遠くからの視線に「みんな」気付かない。
 幸せは「みんな」が信じなくちゃ叶わない。
 逆を言えば、「誰か」ひとりでも信じなければ叶わない。
 ならば惨劇は必然だっただろうさ。

 “全員が信じたら叶う”は「ひぐらし」だったか。
 なら「うみねこ」の構図は、“オヤシロ様を仲間外れにした「ひぐらし」”と言ったところか。
 目に“視えない”からと、そこに存在する者を敬わない。
 そこに確かに存在するのなら、これほど腹立たしいことはないだろう。
 いつ惨劇を起こされてもおかしくなかった。
 だからきっと、これまでに惨劇が起こらなかったことを感謝すべきだったのだ。

 目に見えない存在を敬い感謝する、とは確か「真相解明読本」のEP2にあった追加Tips「親愛なる魔女見習いへ。~魔法について~」にあったか。
 まあいい。

 「ひぐらし」の“全員が信じたら奇跡は起きる”に対して、「うみねこ」は“全員が信じたら奇跡は起きない”。
 “全員”というが、それが“全員”だと証明できるのか?
 それは悪魔の証明。
 “全員”だと決めつけて、結果ひとりぼっちになった者が出てきたらどうするのか?
 これは「ひぐらし」に対するアンチテーゼ。

 全員が信じることで、それは真実となる。
 なら、それとは異なる真実はどうなる?
 そんな儚い小さな真実を、守る者がいてもいい。
 それで全員を敵に回すことになろうとも。
 ……そんな者は現れるはずがない。
 “みんな”といると安心する、だから“みんな”から離れてわざわざ暗がりへとやってくるわけがない。
 世界を敵に回す愚か者などいはしない。
 ……だから、たった一人でもそんな者が現れたなら、それは奇跡。


 そんなわけで、ベアトの台詞は仲間外れにされた者として当然の権利だと思う。
 “終わらせる”ことがどういうことかを思えば、終わらせられるわけがない。
 それどころか、ベアトの代わりに何か言ってやる者が出てこなければいけないだろうに。


 しかし、ひぐらしの結論を出した直後に、その逆に振った作品に挑戦するとか、クリエーターって凄い生き物だなぁ。
 全員で手を繋ごうから、その繋いだ手を振り払って今すぐにでも駆け付けろ、だよ!
 ただこのテーマはひぐらし直後が最も効果的ではある。
 ひぐらしをやった読者は、振り回される運命が決定していたと言っても過言ではない。
 でさ、このテーマを、現実の読者との対決で示そうというところに狂気が見える。
 誰も至れなかったらどうするの? と。
 リスクが高すぎる。
 そのリスクを竜騎士さんは踏み越えてみせた。
 ただただ畏敬の念が湧く。





 薔薇庭園でロノウェ初登場。

「それよりも、お嬢様にこそ、私をお忘れになられたのではないかと、冷や冷やしておりました。何しろ、お嬢様は大層忘れっぽくていらっしゃいますので。」

 12年は長かった。


「しかし、会話は相手を認めるということだ。妾との雑談に応じるようになったということは、そなたが妾の存在を徐々に認め始めている証拠。」

 ゲームは対話。
 向かいの席が空に見えようとも、ゲームのやりとりをしている以上、確かにそこに“い”る。


「……この島にたったひとり閉じ込められ、己の力を取り戻せず、誰に話しかけることもできなかった日々の何と退屈だったことか。」

 虚偽の六軒島の世界に閉じ込められていたヤスの境遇。
 それに重なる19人目の心情。


「黄金郷の扉を開き、全ての家具たちを呼び戻し、妾は六軒島に新たなる城を建てるのだ。」

 黄金の幻想で浸食し、見事に城を建ててしまったな。


「そうだ。そなたが屈服に近付けば近付くほど、ゲームは妾に有利に傾いていく。チェスだってそうであろう?」
「互いのキングを詰め合う過程で、妾たちは様々な駒を取り合っている。確かに妾は未だそなたのキングを追い詰めておらぬ。」
「…しかしそなたは、キングを逃すのに精一杯で、いくつもの大駒を失い、莫大なアドバンテージを失っておるわ。後の展開が妾に有利に傾くのは当然のことよ。」
「そなたは恐らくこれからも、死に物ぐるいで妾のチェックメイトだけからは逃れるだろう。…だが、その間にも妾はそなたの大駒を次々に奪っていく。やがてはキング以外の全てを失い、どのような形でも逃れることの叶わぬ、本当のチェックメイトを受けることになろう。」

 考えないほどに不利な盤面になる。
 18人分のニンゲンの“真実”という駒を守れずに失い、代わりに“幻想”に浸食されたニンゲンの駒を置かれる。
 気付けばキングだけ。
 前に書いた、考えぬ者を殺すための罠のこと。

 盤面に置かれているニンゲンの駒は、本当に真実の姿?
 嘉音は消え、金蔵はすでに死亡、紗音は多重人格、使用人は共犯、親たちは買収され、南條も同様、譲治と朱志香は愛する人に殺され、戦人は記憶を失い縁寿の所に帰らなかった。
 これが真実を守った結果?
 真実を失ったの間違いでは?





 ゲストハウスの子どもたちの会話。

「いない19人目もサンタクロースも、俺たちが認めてやれば、それは少なくとも真里亞の中では“い”るということになるわけだ。…なるほど、子どもの夢を守るためのウソって大事だなぁ。」

 それを認めれば、それを信じる心を守れる。
 逆を言えば、認めないということは、心を傷付けるということ。
 それが人間の持つ“毒素”。
 それがどれだけ19人目の心を傷つけてきたか。
 自分が“い”てもいいと信じる心を、傷つけてきたか。
 自分がいない方がいい、生まれてこなければよかった、とまで思わせたのは罪に値するだろう。





 金蔵が隠し屋敷を作っていてもおかしくないという話。

「…まぁとにかく。西洋かぶれのお父様が、自分の夢を、まるでスケッチブックに描くみたいに実現したのがこの島なのよ。……全てがお父様の思い通りの島。愛人を住まわせる隠し屋敷があっても、何の不思議もない…。」

 金蔵の描いた夢。
 その続きを19人目が綴っているのか。





 碑文の謎と魔女の思惑の話。

「だって、私たちは魔女の碑文なんて言うなぞなぞの答えを教えられたくらいで、本気で右代宮家の家督を明け渡す気? なぞなぞの答えに感服して降参を?」
「そういうことよ。いくらベアトリーチェが一方的にこんなゲームを提案しても、そして見事その答えを示して見せたとしても。私たちは家督を素直に譲るわけもない。」
「……つまり、私たちがこのゲームに対等な条件で挑まなくてはならないという、強制力がない限り、このゲームは成立しないのよ。」
「そうだな。……負けた時、家督を譲ることに強制力を持たせなきゃ、このゲームは成立しない。」
「………なるほどね。わかったわ。……私たちが、喜んで家督を放棄したくなるようにすればいいわけね。なるほど。…ならば確かに、ベアトリーチェは10tの黄金を持っていなければならない…!」
「右代宮家の家督と隠し黄金をよ。…ベアトリーチェはきっと10tの黄金の所在を明かし、それで右代宮家の家督を買収するつもりなのよ。」
「…私たちは、ベアトリーチェなどという余所者を弾き出すために兄弟同盟を組もうとしていた。」
「……しかし、彼女の目論見がこうならば、……私たち兄弟の団結はバラバラにされるわ。…えぇ、今こそはっきり断言できる。……ベアトリーチェの手紙の目的は、私たちの結束を掻き乱すことなのよ。」
“…金蔵は碑文を掲示した。そして今日まで誰も解けなかった。”
“だからベアトリーチェが“解いた”。”
“ならばつまり、これはゲームというより、ベアトリーチェの勝利宣言のようなものなのか…。”
“しかし、霧江はまだ少し引っ掛かると考えていた。”
“もし勝利宣言ならば、勝者らしく、黄金を堂々と示し、家督を買い取ると宣言すればいいだけの話だ。”
“なのに、わざわざこの期に及んで、碑文を解いてみろ、解けたら家督と黄金を全て引き渡そうと、“新たなゲーム”を仕掛けてくる意味が、どこにあるというのか。”
“霧江は何度かチェス盤を引っ繰り返して考えた。”
“どういう最善手ならば、その思考に至るのかを探った。”
「……………驕り、…なのかしら。あるいは、……遊び……?」

 これを“碑文の事件の謎”を解くベアトのゲームのことだと解釈し直す。


 “碑文のなぞなぞ”とは“碑文の事件の謎”。
 その答えとは、つまり事件の真実。
 出題者がその答えを知っているのは当然。
 その答えを明かされて、読者は素直に負けを認めるのか?

 きっと認めない者が出る。
 フェアじゃないから無効とか、こんなのミステリーじゃないとか、言いそうな人たちは大勢いそう。

 その人たちと取引するために“黄金”が必要。
 “碑文の事件の謎”に隠された黄金とは、即ち“黄金の真実”。
 EP6において、それは与えられることになる。
 それを与えられたら、喜んで思考を放棄するだろう。
 それを拒んで自分の手で真実に至ろうとは思うまい。

 読者たちは連携して真実に至ろうとしていた。
 その結束を掻き乱す一手。
 そのものでなくても、見せ金だけでも効果は十分。
 人は誰だって簡単にお金が手に入るならそっちを選ぶ。
 それは真実についても同じ。
 難解な謎よりも、安易な答えを選ぶ。

 ならばこれはベアトの勝利宣言なのか。
 だとしたら、勝者らしく堂々と“黄金の真実”を“真実”であると示せばいいだけ。
 これは驕りか、遊びか。


 堂々と正攻法でこないのは、それに耐えられないから。
 即ち、それが“真実”ではないから。





 19人目がいれば18人を疑わずに済むと気づいたメタ戦人。

「左様でございますか。それではそのようにいたしますよ。冷めてからお召し上がりになって、焼きたてを召し上がらなかったことを存分に後悔なされると良いでしょう。」

 戦人にクッキーの差し入れを断られたロノウェの台詞。
 これはクッキーと推理を重ねた皮肉だろう。
 19人目の推理は熱い内に、EP2の内にやるべきだった。
 EP3になって、冷めてから推理して、熱い内に推理しなかったことを後悔すると良い、と。
 立ち塞がる謎を破るとき、準備万端の推理と、付焼き刃の推理では、出る結果が異なって当然。


「…魔女を否定するもっとも簡単な方法は、18人の誰かを疑うことだ。……18人全員のアリバイは、そう簡単に揃わない。常にひとりくらいはアリバイの脆い人間が生まれる。……俺はそいつを生贄にすることで、常に魔女を否定し続けることもできるだろう。」

 魔女を否定するために、ニンゲンの駒の真実を生贄に捧げる。
 それでは真実を何も守ることはできない。


「まぁ、19人目の人物を仮定したとしても、マスターキーの本数などのように、何人、人間を増やしてもクリアできないトリックも残ってる。…しかし、とりあえずの初手としては悪くないはずだ。」

 マスターキーの謎を解いてから、19人目の駒を使うべきだった。
 初手じゃ勝負にならん。


「妾が19人目の箱の中身が空っぽであることを先に証明すれば、そなたは自動的に、18人の箱の中にクッキーがあることを認めなければならないということになる。」

 箱で喩えられたが、こちらは天秤で喩えよう。
 “箱が空っぽである”という錘を置かれる前に、19人目の皿に根拠となる錘を載せておけばいい。
 そうすれば、即座に否定にはならない。
 こちらの皿に追加で錘を載せれば天秤はこちらに傾く。


“古いチャンバラ映画で誰かが言ってたぜ。「良い城には一箇所だけ、わざと弱い部分がある」ってな。”
“敵はそこに群がる。誘き出される。”
“そしてそこが決戦場となる。”
“俺が弱点を理解し、ヤツが俺のこの弱点を攻めたいと思う限り、……それはつまり、そう攻めるよう俺が誘導したのと同じことなんだ…。”

 これは相手にも言える。
 ベアトも弱点を晒し、そこを攻めよと誘っている。
 読者がそこを攻めたなら、それは誘導の結果ということ。





 九羽鳥庵のベアトについての記述。

「……妾は誰で、何で。…いつからここにいて、…そしていつまでここで日々を過ごせば良いのか。」

 19人目は、このベアトが死んだ後に九羽鳥庵にて隠されて育てられた、と考えている。
 九羽鳥庵のベアトとは違い、見付かってはならないという条件付きで出歩けていただろうが、境遇はほぼ同じ。
 同じようなことを思っていたはず。


「…妾は生まれた時からその屋敷におった。そして屋敷の中だけで生きた。もちろん、庭には出られたが、敷地はとても高い柵で囲まれており、それを出ることは出来ず、また出てはならないと厳しく言われておった。」
「……妾はな、屋敷と庭は自由に歩けたが、その外へは、自らの意思ではたった一歩、出ることさえ叶わなかったのだ。」
「……………そりゃどういう意味だよ。…物心ついた時から、ずっと篭の鳥だったって言いたいのか。」
「……そういうモノだと思っていた。何しろ、気付いた時からそういう生活だったからな。疑問にも思わなかった。」
「お前、…………一体、何者なんだ。」
「それよ。それこそ、妾もまた望んだものだった。」

 19人目は外を見ること、屋敷の人間を隠れて見ることを許されていたが、そちらに行くこと、つまり外に出ることを許されていなかった。
 見られたらどうにかなると教えられでもしたのか。
 例えば、人の持つ毒素がどうとか。

 外に出ようとも思わなかった。
 その生活を疑問にも思わなかった。
 誰がそれを疑問に思わせた?
 ……戦人でしょ!


“私は生まれて初めて、…物事には、立ち向かうことと屈することの他に、逃げ出すという選択肢があることを知ったの。”

 幼少の楼座の独白。
 これは、謎と対峙した時の選択肢のことについてのヒントかな。
 目の前に謎という壁が聳えていた時、どうするのか。

 1、立ち向かい乗り越える。
 2、屈する。
 3、そこから逃げ出し、別のところに向かう。


““篭の中しかしらない鳥は、外に憧れたりしない”って。”
“でも、彼女は鳥じゃない。”
“やっぱり、人間だった。”
“篭の中にしかいなくても、それが世界の全てじゃないって理解していた。”
“だから、………私は誘ったの。”
「柵の外へ、……出てみますか?」
「……………妾は、もうここは嫌だ。……外へ、出たい。そして妾が何者で、この世界はどうなっていて。…妾は何のために生まれてきたのかを、知りたい。」

 目に見えない心を推理する、とか言ったヤツがいるらしい。
 心だけは外に出れると、希望を持ってしまった。


“それは例えるなら、冬の日の暖かな暖炉が、少しずつ空気を澱ませて頭痛をかんじさせるようなもの…?」”
“このままここに居続けてはいけないと知りつつも、窓を開け寒風に身を苛むには、なお勇気が必要なのだ…。”
“彼女は、いつまでもここにいてはいけないと気付き始めていた。”
“いつかは外へ出なくてはならないと気付き始めていた。”
“でも、外の世界のことを知らない彼女にとって、外へ踏み出す第一歩は想像を絶する勇気が必要だったに違いない…。”

 心ない者は、簡単に外に出れば良いと言う。
 さっさと姿を現わせば解決だ、と。
 それが、その子にとってどれだけ勇気を振り絞ったものだったのか。
 その心に気付いたら、その心に寄り添いたいと思ってしまうのだ。

 そう、EP3当時、私は行間から滲み出る“孤独”を感じた。
 それを守りたいと思った。
 手放してはいけないと思った。
 EP4を戦えたのもきっとこのお陰だろう。
 今に至るまで、心を探る旅はかなり迷走したけれども、その“孤独”の部分は私の中で変わらずあったと思う。


「妾は、…もうベアトリーチェは嫌だ。妾が何者なのか、知りたい。ベアトリーチェではない、新しい人間を始めたい。」
「だから、ここから連れ出して欲しい。………もう、紅茶もいらぬ。ドレスもいらぬ。金蔵とも二度と会わぬ。……ここより妾を連れ出してくれ。楼座。」

 これが事件を起こした、物語を描いた動機。





 金蔵の魔法。

“つまり、自分の望む結果が完全に出るまで、延々とタロットを繰り返すその手間と信念、心の気持ちが祈祷に通じ、それが天に届いた時、結果となって昇華されるという、金蔵独自の魔法解釈だ。”

 延々と繰り返すものは、碑文の儀式による惨劇。
 その惨劇を選ぶのは悪魔のルーレット。
 望む結果は、悪魔のルーレットに勝つ目である、ルーレットのゼロによる親の総取り。

 さらに、物語の中に未来の縁寿が乱入できたことから、この物語はその未来で描かれている物語であることがわかる。
 つまり、メッセージボトルの執筆者が生きて島を出た可能性。
 これを加えて解釈。

 ルーレットにより生み出されるカケラたちを掻き集めて執筆者は島を出る。
 カケラたちの物語を紙面に描き、その続きを綴る。
 望む未来に辿り着くまで。

 EP3まででこの結論に辿り着けるんだよなぁ。
 失敗したわ。




 第一の晩。

「驕ったな……。……だから、お前は僕に勝てないんだ……。」
“嘉音は心臓を守る代わりに、自らの左手を捧げたのだ…。”

 攻撃される場所が相手に読まれることの危険性を読者に説いている。


「お見事ですよ、嘉音。……あなたの奮闘により、金蔵の研究の正しさがひとつ、実証されました。」
「……人の心はあらゆる可能性を秘める、か。」

 心の持ちようとその奮闘で、あらゆる成りたい自分になれる。
 ヤスにだって成れる。


「うぅん、いいの。…譲治さまに指輪をもらって、女として生きられた。あなたを庇って、姉として生きられた。私の生は、全てこれで未練なく全うした。」
「……んんんんぁあああぁあああぁあぁ、イライラするぜェ。その達観が本当にイラつくぜぇえぇ?! だから家具なんだよ、お前からは人間の臭いがしねぇえんだよぉおおお!!!」
「妾を見ろよ、妾こそ人間だろぉが?! 家具のくせに、妾よりも完成されたかのような、達観したかのようなことを言うんじゃねええええぇえええぇッ!!」
「…………醜い。その未練が、あなたの正体なの?」
「未練じゃねぇえええぇえ、それが生きるってもんだッ!! 指輪もらったから死んでもいいとかッ! あああぁ理解できねぇ、さっぱりがっかり愕然呆然ッ、全然駄目だぜええええぇえ!!」

 誰として生きるのか、何をして生きるのか。
 それが生の未練。
 誰にもなれず、何もできず。
 何のために生きているのか。





 先代ベアトリーチェ登場。

「ロノウェ。家具の子たちを下げなさい。家具は主に仕えるだけです。全ての罪は主が背負います。」

 罪は主にある。
 真犯人の代わりに殺人を行うのはベアト。
 ならベアトの主は誰なのか?


「何が魔法だ。何が無限の魔女だ。……こんなの、気付くだけの力じゃねぇえかよォ。」

 未来の分岐という考え方に気付く。
 異なる真実が作れることに気付く。
 人の抱いている幻想に気付く。
 人の思いに気付く。

 確かに、気付くだけ。
 でもそれの何と難しいことか。





 ベアトとワルギリアの戦いを頑張って解釈する。

「さぁさお出でなさい、墜落せし塔よ。一なる言語を爆ぜ、その罪を知らしめよ。」
“そう、天の神秘には何人たりとも近づけないのだ。”
“それこそが墜落せし塔の真実。”

 モデルはバベルの塔。
 かつて言語はひとつに統一されていて、全ての人々が意思疎通できていたという。
 人々は協力してあらゆることを成し遂げ、驕り高ぶり、ついには天に届く塔を作り上げようとした。
 神はそれを怒り、その塔を打ち壊し、言語をバラバラにし、人々が協力し合わないようにしたという話。

 一なる言語は、一なる真実に連なる言葉。
 一なる言語は爆ぜ、意思疎通できなくなった人々は異なる真実を打ち立て、一なる言語によって一なる塔を建てることをしなくなった。
 天の神秘は、並び立つ2つの真実を俯瞰する神、執筆者のこと。
 そこに至らせまいと、一なる塔を崩す。
 ならば、並び立つ2つの真実は、双肩の塔のことか。
 墜落する一なる塔より、魔女の心臓を貫く必勝の神の槍が現れる。
 並び立つ真実に挟まれ、魔女はそれを避けることができない。
 エポレットメイト。
 呼び出された7人の巨人兵は、現実に起こった第七のゲーム盤を抜かした第一から八のゲーム盤。
 それが持たされた神の盾は“黄金”。

「いいえ違います。神なる槍がよけたのです。絶対の槍と絶対の盾は争ってはいけないのが神々の掟。それはつまり、防いだのと同じことですがね。」

 黄金の真実を破ってはならないというのが、神々の掟。
 黄金の真実は槍となり、幾万の読者を貫く稲妻の槍となった。
 それを避け、神の槍から持ち替えた稲妻の槌――同じ稲妻なことから黄金の真実――でバックランクメイト。
 それを防ぐ身代わりの塔。
 決して崩れぬその塔は、ゲーム盤の真犯人の真実、即ち赤き真実。
 決して崩れないが、一度しか防げない。
 黄金の真実と赤き真実に塞がれた魔女を天より斜めから神の槍が貫く。
 スマザードメイト。

“すると月の中に、巨大な馬とそれにまたがる戦と死の神の姿が。”
“彼のマントは月を遮り不気味な影で月を食んでいた。”

 EP2で嘉音は、ベアトを月に喩えた。
 月は砕けないが、月を映した水面は掻き乱せると。
 天にある月とは、魔女の大本たる執筆者。
 それを食む戦と死の神は、同じ天の頂まで至った読者。

 こういう決着を回避するために、セブンスランクルークで境界線を引き、それ以上進ませない。


 こんなところか。
 ……これ、ゲーム盤の仕組みを全部理解してないと理解できないやつじゃないか。
 とりあえず、戦と死の神の称号を頂こう。
 これからは、オーディンと呼んでくれ。
 ってのは冗談だけど。


 んー、オーディンは魔術の知識を得るために片目を捧げた。
 ならば、残った片目で現実を、失った片目で魔術を見る、みたいな解釈はどうだろ。

 またオーディンは、ルーン文字の秘密を得るために、自身を生贄にして最高神(オーディン)に捧げたという。
 自分を生贄に、自分に願いを叶えさせた。
 なんだか、リスクを負って奇跡を叶える金蔵の魔法に通じるな。

 他にも、思考と記憶の名を持つ二羽のワタリガラスを飛ばして情報を集めている。
 戦死した勇者を集めて毎日演習を行わせ、敗れた者も日没とともに蘇り、翌日にはまた演習を行うという。
 これはベアトのゲーム盤を使って毎日推理していることのよう。

 なかなかうみねこ的には良い名前なのかも。


  1. 2019/06/01(土) 20:00:40|
  2. うみねこ咲へ向けて
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プロフィール

フラット・ホームズ

Author:フラット・ホームズ
「うみねこのなく頃に」の某公式サイトで推理を投稿していた。
その時使っていた名前は察してください。
スタイルは、アンチミステリーをチェス盤で引っ繰り返す、というもの。
キコニアでは、世界を箱庭に見立て、そこにどんな駒を置いたのか、それらを動かして最終的にどういう形に持って行くのか、的な感じのを主にやっている。

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